英雄伝説~紫炎の軌跡~   作:kelvin

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閃Ⅱの本編は、年齢が変わってないところを見るとⅠの直後位(1204年11月以降)だと思うのですが……となると、碧で不透明だった断章や終章の時間軸辺りも判明することになるかもしれませんね。それ以上に、オズボーンがどうやって貴族派を打ち負かしたのかが気になりますが。その辺も描かれることを期待しつつ……


第107話 底知れぬもの

~エルモ村 紅葉亭前~

 

何か色々とあったが……いや、ありすぎたが、何とか無事に……朝を迎えられなかった人間が何名かいたが。

 

「「はぁ………」」

揃ってため息を吐くシオンとリィン。それもそうだろう……アスベルが寝る前に確認した時は二人ずつだったはずなのに、朝起きたら四人と三人に増えていた。同室だったアスベルやある意味共犯者であるルドガーが驚くのも無理はない。というか、城にいるはずのクローゼが何故部屋にいたのか……その理由は、

 

『えと、私にも解らないんです。昨日は自室で寝たところまでは、はっきりと覚えているのですが……』

 

本人ですら理解できていない状況であった。ただ、女王宮に出入りできる人間はかなり限定される。そうなると考えられる線は……『アリシア女王がユリアに命令してエルモまでクローゼを運んだ』………疑いたくはないが、現実的な線で行くとこれしかないのだ。

ちなみに、着替えもちゃんと用意してあったところを見ると、ひょっとするとメイドのシアやヒルダ夫人も一枚噛んでいるかもしれない……あの人たちが頭を抱えつつも仕事する光景が目に浮かび、アスベルやエステルは冷や汗をかく。

 

「………何なの、この国。」

「それを言うな……」

この状況を見て、推測を聞けば、誰だって混乱する。俺だって混乱している。大丈夫なのか、この国(リベール)。

 

「ちくしょー!お前ら揃いも揃ってリア充しやがって!!特にロイド、リィン、シオン!!爆発しちまえ!!」

「ランディさん!?」

「はぁっ!?」

「って、何で俺まで……」

ランディの言葉にリィンとシオンは驚きの声をあげ、ロイドは心外とでも言いたげに疲れた表情をしていた。まぁ、ランディの嫉妬も解らなくはない。ただ、モテないのは本人のせいだということを付け加えておく。

一方……

 

「ヘンリー市長、為になる話を聞かせていただき、ありがとうございます。」

「フフ……君らのような人間が傭兵とは、世の中面白いこともあるものだな……傭兵を辞めて、政治家になってみないか?君らならば凄腕の政治家になりうるだけの素質を持っていそうだ。むしろ、私直々に教えてみたいものだよ。」

「あはは……“倒産”したら考えておきますよ。」

マリクは深々とお辞儀をし、ヘンリーはマリクやレヴァイスの中にある“資質”に光るものを感じ、勧誘をすると…レヴァイスは前向きな検討はしておくと言いたげにしつつも、半分断りを入れた。

 

さて、この後はどうしたものかと考えようとした矢先、博士がある提案をした。

 

「そうじゃ。お前さん達……わしの実験を手伝ってくれんかのう?」

「実験?(ま、またこないだの時のようなことをやらされるのかしら……)」

博士の言葉に首を傾げつつ、内心ではクーデター事件前の時のような『無茶ぶり』をやらされるのでは……そう思ったエステルであったが、博士はそれを否定するかのように言葉をつづけた。

 

「そうではない。お前さん達に頼むのは“性能実験”じゃな。遊撃士協会の方には依頼としてお願いしておる。」

「性能実験?」

「うむ。」

博士が言うには、今度の博覧会で展示する導力製品……導力武器の展示と商談も行うのだが、其処に展示する武器の運用データが足りないという事態になっていたのだ。そこで、遊撃士協会にも依頼として出していたが……ここに集った大勢の人物がいればそのデータもまとめて取れる……そこに博士は目をつけて、ここでその話を持ち出したのだ。

 

「あの、僕やアリサさんをはじめ、他国の人間がいるのですが……」

「その辺は問題ないわい。寧ろ、その実験を通しての“宣伝”だと思えば、外国に商談に行くよりも安く済むしの。」

「………流石、博士ですね。そういうところは変わってないようです。」

「あう……お祖父ちゃんってばぁ~………」

他国の人間……とりわけ、他国の軍事を担っている企業の関係者であるニコル、アリサ、ティオの三人への心象をよくすることにより、ZCFそのものの宣伝になりうる。それすらも見越した発言に一同は感心したり、呆れたりと様々な反応を見せていた。

 

「どうしよう?」

「別にいいんじゃねえのか?」

「ええ、アタシも同意見よ。」

「俺もそう思う。断る理由がなさそうだからな。」

「………解ったわ、博士。その依頼、引き受けるわね。」

エステルは先輩であるアガットやシェラザード、ジンらの言葉を聞き……はっきりとその依頼を受けることを伝えた。

 

「うむ。アルバートやヘンリーには御足労願うが、構わないかのう?」

「ええ、構いません。」

「私も構わない。」

「なら、決まりじゃな……迎えも丁度来たようだしの。」

博士はアルバート大公とヘンリー市長の快諾を得ると、笑みを浮かべて空を見上げた。すると、そこに浮かぶのは“純白”の翼―――アルセイユの姿だった。

 

一同はアルセイユに乗ると、アルセイユは北へと進路を取る形で飛び立った……そして、到着したのは……

 

 

~アルトハイム自治州 セントアーク郊外 王国軍大規模演習場~

 

アルトハイム自治州二番目の都市、静水の白都(はくと)セントアーク郊外にある王国軍の大規模演習場。ここは元々ハイアームズ家が管理していた領邦軍の演習場であり、『百日戦役』後は王国軍の演習場として活用されていた。その規模にエステルらは目を丸くしていたが……更に驚いたのは、一同の眼前に映る車両だった。

 

「へ~、ここが……って、あれって戦車!?」

「装甲車まであるわね……」

「ウチで開発中の装甲車や戦車とも違うわね……」

「ええ。ヴェルヌはおろか、ラインフォルトにも見られないデザインですね。」

戦車や装甲車の姿にエステルは驚きを隠せず、シェラザードも驚きの言葉を述べ、アリサやニコルはそのデザイン性や武装からして一線を画したものであるという推測を述べた。その言葉を聞いて、博士が説明した。

 

「それも当然じゃわい。あれらはZCFで設計・開発した導力戦車に装甲車じゃからのう。」

「そ、そーなの!?お祖父ちゃん、私そんな話は聞いてないけれど!?」

「ティータはおろか、マードックの奴にも言っておらん。何せ、今度の博覧会で初お目見えさせる最新鋭のものじゃからな。カシウスからの緘口令のせいじゃよ。」

元々、山岳地であるリベールには戦車や装甲車は過ぎた長物……だが、帝国から割譲された現自治州や共和国との交渉で得た土地は平地が多い……そう言った意味でも、陸の戦力強化は必要と考え、カシウスと博士、女王の三名に加えてアスベルらの数名で導力戦車と装甲車の開発に取り組んだのだ。その裏で、先日の襲撃事件で得た“戦車のサンプル”を解析し、それを基に再設計・開発した代物だということを付け加えておく。

 

「簡単に説明はしておこうかのう。戦車のほうはXW-52『フェンリル』、最高速度は1400セルジュ(140km/h)、主砲となる導力電磁砲(オーバル・レールカノン)の最長射程は500セルジュ(50km)、副砲の射程も最長900アージュ(900m)に達しておる。装甲車はXR-03『ヴァルガード』こちらは最高速度1800セルジュ(180km/h)程度、機関砲も射程300アージュ(300m)程度じゃが、その装甲は並の徹甲弾如きでは傷一つ付けられぬ特殊な装甲を採用しておる。」

「………あ、あの、そのスペックって本当なんですか?」

アリサは戸惑いがちに尋ねた。確かに、そのスペックは普通ならば『規格外』の代物なのだ。だが、博士はその質問にも肯定して説明を続けた。

 

「うむ。その辺の実証実験は一通り済んでおるからのう。アスベルらには本当に世話になったわい。」

「あの時ばかりは本気で冷や汗が流れましたけれどね……」

そう言い放ったアスベル……実は、『フェンリル』の主砲への実験の手伝いと称してその砲弾と相対したことがあった。あの時ばかりはここぞという時の全力で何とか砲弾を叩き斬ったが……もう二度とやりたくないのが本音であった。

 

スペックに関して、まず戦車の『フェンリル』だが……通常の戦車の大きさでありながらも現代の普通乗用車並みの速度で走り、主砲は列車砲並の最長射程……それだけ聞けば、その戦車の化物っぷりが窺えることだろう。おまけに、車両自体の重量はラインフォルト社製導力戦車の6割程度、更には特殊なキャタピラのため、街道を傷つけることなく高速で移動できるのである。

 

そして、装甲車の方だが……相転移式装甲……エネルギーを流すことで相転移を起こす特殊な金属でできた装甲のことである。そもそも、相転移というのは細かく説明するとやたら長くなるので簡潔に説明すると、『外部から何らかの影響を受けた物質の状態が変化する』というもので、氷←→水←→水蒸気といった状態変化も相転移の一種である。

特殊な金属というのは、この世界ではゼムリアストーンやその他の希少金属を混ぜた合金板であり、このレシピを知るのはアスベルただ一人。その合金板を装甲として採用し、導力を流すと物理攻撃を無効化するという反則級の代物である。

 

あと、双方共に導力通信技術と導力制御技術を採用しているが、操縦系統と通信系統は完全に独立しており……更には、万が一乗っ取られても遠隔操作での自爆装置も装備済である。これも前に述べた二つの系統とは完全に独立している。しかも、その自爆装置の起動には二つの鍵が同時に作動しないと起動できないようになっているのだ。万が一の場合は女王のみが持つことを許された“鍵”で爆破することも可能。更には、戦車の主砲も砲撃手の認証がないと動かせないように組み込まれている。要するに、『乗っ取ろうとしても無駄である』ということだ。

 

「正直、ヴェルヌの戦車でも勝てませんよ。飛行艇ですら的扱いですね、これの前では……」

「ウチの戦車でも無理ね(確か、『18(アハツェン)』が開発中とか聞いてたけれど……それですらいい的よね。)」

「流石、天下のZCFと言うべきかな。(……『鉄血宰相』は正気なのかね?これが猛威を振るえば、数など問題ではなくなってしまうだろうに。)」

空戦どころか、陸戦力に関しても最早従来の水準を大きく超えた代物……ZCFの特性とも言える『ワンオフ』の長所を十二分に生かした代物となっている。これには、関係者―――アリサやニコル……さらにはオリビエも内心冷や汗が止まらなかった。この砲撃能力を飛行艇に使われた日には……想像するだけでも恐ろしい代物になるのは違いないだろう。

 

(……よくバレなかったね。)

(まぁ、偵察してた野郎どもは全員『外法』扱いで『処分』してるけれどな。)

(おお、怖い怖い。)

帝国や共和国のスパイは結構やってきていたが、その悉くを手短に『処分』している。国家の存亡を揺るがすような輩には一切の妥協は許されない。ましてや、その背後にいるのがロックスミス大統領であり、オズボーン宰相なのであるのだから。

 

「話しが長くなってしまったの。お主らには、ここから東にある森の中で実証実験―――平たく言えば、魔獣との戦闘じゃの。無論、参加したいもので構わないが……で、武器がないものに関してはこちらで用意しておる。オーブメントも用意してあるぞ。あそこの小屋にあるから、必要なものを持っていくといい。まぁ、貸与ではなく贈呈じゃがの。」

博士がそう言って小屋らしき建物を指さす。

 

「………(パクパク)」

「ありがてぇんだが……爺さん、それでいいのか?」

「い、いろいろ驚きよね……」

「驚きと言うか、気前がいいというか……」

驚きを隠せない面々。武器はともかく、戦術オーブメントは十数万ミラもする高価なもの。それを『贈呈』というのは、ありがたさよりも後ろめたさの方が大きく感じてしまう。

 

ともかく、参加する面々……とはいっても、ラッセル博士やアルバート大公、ヘンリー市長やアリシアを除く全員……さらには、アルセイユに乗っていたユリアや、偶然乗り合わせていたミュラーまで参加することとなった。

とりあえず、一通りの準備が済んだ後……アスベルが思いついたように提案をした。

 

「そうだ。折角実証実験をするわけだし……鬼ごっこしてみないか?」

「鬼ごっこ?」

「ああ。ここらの魔獣は比較的危険が少ない……そこで、参加する面々には鬼から逃げつつ、魔獣と戦ってもらうってのはどうだ?博士にしても、対人のデータぐらいは欲しいと思うし。」

「それはありがたいのう。」

まぁ、この演習場だからこそできることではある。他のところなら提案しないようなものだが………困惑しつつも、その提案が受け入れられることとなった。

 

「ルールは簡単。逃げ回ればいい。で、魔獣との戦闘中に鬼が捕まえることはしない。安全面の事もあるしな。鬼に捕まった回数が多いチームには罰ゲームをしてもらうが。」

「罰ゲームって……」

「まぁ、変なものじゃないよ………一応。」

「え、何その言い方。怖いんですけれど!?」

一通りルール説明をした後、鬼と逃げる人に別れることとなった。鬼はアスベル、シルフィア、レイア、シオン、マリク、ルドガーの六人。そして逃げる方だが、こちらは魔獣との遭遇も配慮して3~4人で一組とし、くじ引きで決めることとした。その結果……

 

「あたしはシェラ姉と同じチームね。」

「ふふ、よろしく頼むわね。」

「お前さんらなら心強いな。リン、鍛え上げた成果、この目で見させてもらうぞ。」

「こちらこそ、その腕前をしかと拝見させていただきます。」

エステル、シェラザード、ジン、リンの『遊撃士(ブレイサー)チーム』

 

「おいおい、何でこうなるんだよ……」

「“闘神”の血筋を引くもの、その技を見せてもらうぞ。」

「ま、ガンバ」

「他人事みたいに言うんじゃねえよ、フィー!」

ランディ、レヴァイス、フィーの『猟兵団(イェーガー)チーム』

 

「えと、宜しくお願いします。」

「こちらこそ、宜しくお願い致しますわ。」

「やれやれ……エレボニアの皇族と言うのは、こういう方々が多いのですか?」

「何と言うか、済まない……あと、その件に関してはノーコメントとさせてもらいたい。」

クローゼ、アルフィン、ユリア、ミュラーの『姫と騎士(ロイヤルナイツ)チーム』

 

「宜しく頼むぞ、エリゼ。」

「ええ、こちらこそよろしくお願いしますね、ラウラさん。」

「……頼むから二人とも、俺の腕をがっちりホールドしつつ挨拶するのは止めようよ。」

「あはは………」

リィン、エリゼ、ラウラ、ニコルの『トライアングラー+1チーム』

 

「あの、宜しくお願いしますね、アガットさん。」

「お、おうよ。こないだの時みたく、無理すんじゃねえぞ。」

「………(じー)」

「うっ……わ、解ってるよ。」

「………成程。この感覚が恋愛というものなのですね。勉強になります。」

「フフ、このもどかしくも甘酸っぱい感じ……青春だねえ。」

アガット、ティータ、ティオ、オリビエの『青春謳歌(ユースフル)チーム』

 

「スコールにサラ。二人の腕前、しかと拝見させてもらう。」

「がっかりされぬよう、精進します。父さん。」

「武闘大会で見せた程とは言いませんが、頑張らせていただきます。」

「“光の剣匠”にその息子、遊撃士……僕が場違いに思えてくる面々だな。」

ヴィクター、スコール、サラ、マキアスの『家族会議(ファミリー)チーム(一人除く)』

 

「よろしくな、エリィ」

「え、ええ……こちらこそ。って、エオリアさん?」

「フフ、エリィちゃんも青春してるのね。好きなの?」

「え、い、今はそういうことは無いかと思います……多分」

「???」

「あはは……」

ロイド、エリィ、エオリア、アリサの『クロスベル+αチーム』という分け方になった。

 

「それじゃ、1分後にスタートな。その30秒後に鬼が追いかけるから。」

 

エステルらvsアスベルら……時代の英雄を担うものらと二つの世界を渡って生き続ける者たちの『鬼ごっこ』が始まるのであった。

 

 




次回、ある意味極限の惨劇(ただし、死人は出ない)が繰り広げられます。

あと、ZCFの戦車……少数でも十分戦略兵器並の代物です。これ使えば『アレ』壊せるんじゃないかと思われますが……『今回』は使いません。

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