英雄伝説~紫炎の軌跡~   作:kelvin

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第100話 リベールの翼

~遊撃士協会 グランセル支部~

 

警護というか護衛の役割分担は決めたものの、時間があったので各自自由時間にすることとした。エステルは買ってきたリベール通信の記事を読んでいた。それに気づいたリィンやシェラザードもエステルの読んでいた記事の内容に目を通す。

 

「ロレントの時計台……エステルにしてみれば、色々と思い出深いスポットだものね。」

「えへへ、まあね。本当だったら釣りポイントの記事も書きたかったけれど。」

あの場所は百日戦役の時にアスベルらに助けてもらい、遊撃士として旅立つ時にヨシュアと語らった場所……ロレントを象徴する場所であり、エステルにしてみれば“始まりの場所”とも言える感慨深い場所なのだ。

 

「エステルらしいことで……お、俺の書いたコメントが載ってるな。」

「へ~、リィンはマリノア村の風車の事を書いたんだ。」

「ああ。エステルらと会う前にちょっと行く機会があってさ。俺の故郷と似てるところが多いのはエルモの方になるけれど……あ、シェラさんのコメントですね。」

「エルモのことね……というか、コメントではそういった表現はないけれど、酒絡みなんじゃないの?」

「あはは………まぁ、いいじゃない」

ちなみに、他の方々が書いたコメントの場所を一部抜粋すると………

 

 

クローゼ:ラングランド大橋

 

『ルーアンを象徴する場所でもありますが、この橋にはおまじないみたいなものがありまして……満月の夜に橋の上で告白すると必ず結ばれるというジンクスがあるのです。(かくいう私も…いつかはそうしたいです……)』

 

シオン:アーネンヴェルク

 

『城壁の上から眺める夕焼けは絶景の一言に尽きる。あと、この場所は王国ができた時に建造されていて、昔の『誇り』を今に伝える場所だな。』

 

クルツ:ヴァレリア湖畔

 

『リベールを象徴しているとも言うべきヴァレリア湖。この穏やかさを感じつつ、釣りや読書、瞑想にふけるというのもこの国の気質がそうさせてくれる、という場所だな。(だが、私の中の何かが“舟聖”という単語を想起させるのだが……)』

 

 

「う~ん、何と言うか個人の性格がにじみ出てるわね……っと、そろそろ行かないと。」

「そうね、行きましょうか。」

「だな。」

時計を見て時間が近いと察したエステルは読みかけの通信をテーブルの上に置き、シェラザードとリィンもそれに気づいて1階に下り、他の面々と合流してギルドを後にした。

 

 

エステルらが空港に着くと、普段以上の人の多さで混雑する空港の風景を目の当たりにすることとなる。ごった返す人の群れ……それを王国軍の兵士らが空港を利用する客の妨げとならないよう通行整理を行いつつ、万が一国賓らに襲い掛かる人間が出てきてもすぐさま対応できるよう図らっていた。

 

~グランセル国際空港~

 

「な、何これ……」

「凄い人だかりね……各国の国賓が来るというのは確かに一大スクープとも言えるけれど、この前の時はこれほどじゃなかったわよ。」

エステルは今まで目にしたことがない光景に目をパチクリさせ、シェラザードもその光景に対して冷静を装いつつも普段はあまり見ることの無い光景に驚きを隠せずにいた。

 

「って、そういやシェラザードはオッサンの付き添いで何度か護衛に就いていたらしいな。」

「ええ。レミフェリアの国家元首、アルバート大公の護衛でね。あたしは内心ドキドキものだっていうのに、先生ったら大公様と仲良く話してるんだもの……」

「ハハ、流石カシウスの旦那だな。」

アガットは思い出したかのように尋ね、シェラザードはその時の事を思い出しつつ疲れた表情を浮かべ、ジンはそれを聞いて笑みを零した。

 

「あ、エステルちゃん!」

「お、エステル達じゃねえか!」

「ドロシーにナイアルじゃない。」

すると、その観衆らの中に居る二人―――ドロシーとナイアルがエステルらに気付いて声をかけてきた。

 

「アンタらが此処にいるってことは、大方取材か?」

「おうよ。何せ、国家元首クラスがこのリベールに来るってこと自体大スクープだからな。そういや、何でお前らがここにいるんだ?」

「まぁ、ちょっとね。」

流石に国賓の護衛の事は言えないため、それを伏せつつ会話をした後、ナイアルらと別れた。

 

「にしても、父さんってば……まったく、軍人になっても相変わらずの不良中年ね。」

「それをお前が言えた台詞じゃないんだが……」

「どーいう意味よ、それ。」

エステルの言葉にスコールがツッコミを入れる。今までエステルが取ってきた行動は、いろんな意味でスケールが大きすぎて、下手するとカシウスですら“小物”に見えそうなほどのものだとエステル以外の一同は納得していた。それを不満に思うエステルの前に一人の軍人―――エステルの父であるカシウスが姿を現す。

 

「……娘にそう言われるのは甚だ心外なんだが。」

「父さん!?」

「元気そうだな。それと、先日はご苦労だったな。」

「………うん。父さんの方も忙しそうね。」

カシウスの姿に驚くが、すぐに気持ちを切り替えてエステルは答えを述べた。未だにヨシュアとは会えていないが、『結社』と関わっていくことでいずれは……焦ってしまっては事を仕損じる。そのことは、自分自身が誰よりも一番わかっていることだから。

 

「ああ……王国内の警備に国賓らの警護……不戦条約に向けての話し合い……やることはかなりあってな。」

「大変ですね、カシウスさん。」

「気遣い感謝する。にしても、懐かしい顔ぶれだな。スコール、お前さんの『奥方』は相変わらずのグータラなのか?」

「まぁ、そうですね……でも、母のお蔭で少しは改善されました……ほんの少しですが。」

「む………」

カシウスの問いかけにスコールは苦笑しつつも答え、サラはその答えに納得がいかずジト目でスコールに無言の反論をした。

 

「……スコールって、結婚してたの!?」

「……俺とアネラスは聞かされたが……サラがスコールの妻らしい。」

「へ……へっ!?」

「あ、あんですってー!?」

「サ、サラ君がスコール君の……(と言うことは、僕にしてみれば義理の従妹と言うことになるではないか……ラウラ君もさぞかし苦労していそうだ。)」

「酒飲みにしか見えないサラが既婚者とは……」

「アンタ達、ちょっと裏で話し合いましょうか?」

アガットの口から出た事実にシェラザードは一瞬思考が停止し、エステルは声を上げて驚き、オリビエは内心冷や汗をかき、ジンはサラのイメージからしてとてもそう言う風には見えず……当の本人は口元に笑みを浮かべて反論した。

 

「ほえ~……サラさん、その、末永く幸せになってくださいね。」

「あ、ありがと……」

ティータは感心した後にサラに対して言葉をかけ、流石のサラもティータに対しては率直に感謝の言葉を返すことしかできなかった。

 

「というか、リィンは知ってたの?」

「スコールからな。ある意味“身内”になることが決まってる俺としては複雑な気持ちだが……」

確かにそうだろう。彼の妹を婚約者に持つリィンにしてみれば、そういった気持ちを抱くのは至極当然とも言えよう。その気持ちを思い出しつつ、どうしてこんなことになったのだろうかと思わざるを得ないとでも言いたげな表情を浮かべていた。

 

「そういえばカシウスさん、何であたしらに護衛の依頼を?」

「一部は何か誤解をしているようだが……先日の残党の件もそうだが、軍と言うのは柔軟に動けない部分が多い。それと、今回の来訪に合わせて各地を巡るようでな……そういった意味では、柔軟に対応できて尚且つ軍とも繋がりがある遊撃士協会に頼むのが一番だと判断した。」

国賓と言えども、最低限の護衛位は連れてきているだろうが、それをカバーリングするという意味では王国全土に繋がりや土地勘を持つ人間―――とりわけ荒事にもそれなりに精通している遊撃士ならば問題はないだろうとカシウスは判断し、エルナンに依頼したのだ。

 

「成程、不自由を減らすためですね。」

「ああ、その通りだリィン。うちの娘と比べると物わかりが良くて助かるぞ。」

「どういう意味よ、父さん!」

リィンの言葉を聞いたカシウスは笑みを浮かべて弟弟子である彼の物わかりの良さを自分の娘と比べ、それに納得いかないエステルは声を荒げた。すると、四人の男女―――アスベルらが現れた。

 

「……何やら、面白い話でもしてるのかな?」

「アスベル!シルフィ、レイアにシオンまで……」

「こうして顔を合わせるのは久しぶりだな。ま、今回はお互いに忙しい身だ。よろしく頼むぞ。」

アスベルが代表するような形でエステルに挨拶を交わし、同時に励ましの意味も込めつつ言葉をかけた。

 

「うん、まかせて!……そういえば、来賓の人達って……あれ?」

「この音……飛行船の音じゃないですね。」

エステルはふと疑問に思ったが……それよりも聞こえてきた音に首を傾げ、ティータはその音が飛行船の音ではないことに首を傾げた。

 

すると、観衆の一人が何かに気づき、周りもそれに気づいてどよめいた。

 

「え!?何!?」

「どうやら、到着したようだな……」

「みたいですね。」

エステル達はそのどよめきに驚いていたが、カシウスやアスベルらは冷静に呟いて、空を見上げた。そこには、上空に浮かぶ三つの艦影……定期飛行船のものではなく、それは、『白き翼』の系譜を持ち、『百日戦役』を戦い抜いた三隻の巡洋艦。

 

アルセイユ級巡洋艦―――白きフォルムが特徴的な一番艦『アルセイユ』、銀のカラーリングに身を包んだ二番艦『シャルトルイゼ』、そして蒼い塗装が施された三番艦『サンテミリオン』が空港の上空に姿を見せたのだ。

 

「成程、国賓らをリベールが誇る巡洋艦で送迎する……何とも粋な計らいじゃないか。エレボニアにはできない芸当を披露してくれるとは……流石、女王陛下と言うべきなのだろう。」

「カルバードにもこういったことは出来ないな。流石アリシア女王陛下だな。」

航空技術で一歩進んだリベールならではこその『計らい』……一般的に市民が交通の足として利用できるほどに発展しており、その最先端をひた走っている巡洋艦による送迎は相手方の国を驚かせるだけでなく、提唱国としての振る舞いとしても内外に少なからず影響を与える。それは同時に相手を『客』として招いているということを印象付けるのにも一役買った形となるのだ。

 

「こういった強かさを見せることで、『提唱国』であり『三大国』の器を見せる……流石、と言ったところね。」

「否応にもインパクトがあるからな。迎えに行った『あちら側』の連中もさぞかし驚いたことだろうな。」

スコールの言葉……それは、間違ってはいなかった。それは、半日前―――今日の早朝にまで遡る。

 

 

~エレボニア帝国帝都ヘイムダル ヘイムダル国際空港~

 

人口80万人を有する西ゼムリア最大の都市、緋(あか)の帝都ヘイムダル。その国際空港……飛行船発着場では、帝国政府、帝都庁など公人が集っており……その中に、『鉄血の子供達(アイアンブリード)』と呼ばれる人達―――“氷の乙女(アイスメイデン)”クレア・リーヴェルト、“かかし男(スケアクロウ)”レクター・アランドール、“白兎(ホワイトラビット)”ミリアム・オライオンの姿があった。

 

「ここまでは音沙汰もなく、か……まるで、襲撃事件の時のことが“なかったこと”のように思わされるな……」

「ええ。その兆候すら認められないでしょう……本当に、あの国はなにを考えていることやら。」

「確かに怖いよね。ボクもリベールの底知れなさには驚きだよ。」

ギルド襲撃事件においての帝国軍出動の件、そしてユミル包囲の件……いずれにしても、ここまで沈黙を保っていることが逆に彼らに対して“焦り”を覚えさせているのは言うまでもない。

 

「レクターは直接リベールに行っていますし、その辺りの連絡は貰っているでしょうから信憑性は高いのですが、ユミルの件に関してはともかく、その前絡みでここまで何もないというのは不自然という他ありません。」

「だよなァ。強いて言えば、装備品を根こそぎ持ってかれたぐらいだ。」

「へ~……ガーちゃんもその対象に入るのかな?」

「いや、たぶんそれはねぇと思う。」

「ミリアムちゃん以外に扱えないものを奪う道理なんてないと思いますが……」

「二人して酷いよ~!!」

ガーちゃん―――ミリアムが“相棒”として使っている『アガートラム』……不可思議な機械兵器の渾名である。それはともかく、リベールが一体何を考えているのか……卓越した頭脳と言えども全てを読み切れるわけではなく、その真意を計りかねていた。

 

「やれやれ……この音、飛行船…にしちゃあ、違う……」

すると、聞こえてくる音……最初は飛行船の物かと思ったが、その特徴的な音は飛行船ではないとレクターが気付く。その音の正体にレクターのみならず、周りの公人らも首を傾げた……だが、上空から次第に大きくなる影をミリアムが捉え、声を上げて叫んだ。

 

「あ、もしかしてあれじゃない?ほら、上から降りてくる青い影!!」

「は………はぁっ!?」

「あれは………青い『アルセイユ』!?」

高速巡洋艦アルセイユ級三番艦『サンテミリオン』……蒼き『アルセイユ』の登場に一同は愕然とするばかりだ。無理もない。リベール側からは出迎えのチャーター便を出すとの連絡は受けていたが、まさかアルセイユ級をチャーター便として出迎えをさせることに驚きを隠せずにいた。

 

「これはこれは……」

「………(パクパク)」

「これは驚いたわね……『眠れる白隼』の名に偽りなし、ということね。」

「いや、驚きどころじゃないでしょ!?リベールがいつの間に三番艦を復活させてたのよ!?」

これには政府代表のカールも目を丸くし、彼の息子であるマキアス・レーグニッツも口をパクパクさせ、イリーナは内心冷や汗をかきつつその姿にリベールの底力を感じ、二番艦と三番艦は解体されたと聞いていたアリサもこれには声を荒げるほどの勢いだった。

無論、驚いていたのは彼等だけではない。政府関係者も驚いており……

 

「………」

「や、やるじゃねえかリベール……」

「カッコいいね~、あの艦!」

クレアは目の前に映る光景に現実味を感じられず、レクターは引き攣った笑みを浮かべ、ミリアムは対照的に『サンテミリオン』の外装を褒めていた。

尤も、彼等だけではない……

 

 

~バルフレイム宮 ベランダ~

 

「カ、カッコいいです……あれが、『アルセイユ』なのですか!?」

「やはり、『かの艦』といい、『アルセイユ』は素晴らしいですわね。」

率直な感想を述べるセドリックとアルフィン、

 

「リベールの『翼』ですか…あの姿はまさにリベールの『誇り』ともいうべきシルエットですね。」

「フ……流石はアリシア女王陛下。我が父が『親愛なる友』と話していた御仁だ。」

彼等の母であるプリシラ皇妃は『サンテミリオン』の雄姿に率直な感想を述べ、エレボニア皇帝であるユーゲントはかの国を治める“彼女”が自分の父―――先代皇帝が友と話していた方の事を思い出し、口元に笑みを浮かべつつ、その『器』に感心していた。

 

更には……

 

 

~バルフレイム宮 宰相執務室~

 

「………」

驚きを隠せないオズボーン。彼が<鉄血宰相>と呼ばれた御仁と言えども、リベールのこの動きは知らされておらず、面を食らった形となった。自分が圧力をかけて解体させたはずの艦……だが、リベールはこの五年間、それをうまくかわし……こうして目の前に姿を見せた。となれば、あのアリシア女王に進言したであろう人物の名を呟く。

 

「フ、フフ……やってくれるではないか、カシウス・ブライト。」

カシウスがそれを考えたのは間違いではないが、二つの艦を隠ぺいしたのは主にアスベル。なのに、何故オズボーンが彼を知らないのか……

 

理由はいたって単純。アスベルは帝国内で遊撃士の活動はおろか、星杯騎士としての活動をある程度制限していたからに他ならない。派手に動き回れば動きが逆にとりずらくなる……なので、二つの仕事は帝国政府と極力避ける形で執り行っていたからだ。それに、帝国内にいる『結社』の存在もそういった自粛した行動に繋がっていることを知らない。故に、S級と言えども最低レベルだと錯覚させるためだ。そのために何人もの記憶を改竄したか……少なくとも、三桁は下らないだろうが。

 

「だが、既に遅い……種は蒔かれたのだからな。」

オズボーンはそう言い放って踵を返し、執務を行う机の上に視線をやる。目の前に映る立案書と設計書―――軍の緊急時派遣に関する法案と蒸気戦車の設計書を見て、口元に笑みを浮かべる。

 

 

「“遊戯盤”ができる前の前哨戦……せいぜい私を楽しませることだな。カシウス・ブライト……そして、リベール王国女王、アリシア・フォン・アウスレーゼ。貴殿らはこの危機にどう立ち向かうか……最前列で見させてもらうとしよう。」

 

 

その言葉の“真の意味”を知るギリアス・オズボーン……その意味は、彼にしか解らなかった。

 

 


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