英雄伝説~紫炎の軌跡~   作:kelvin

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第94話 エステルの怒り

グリューネ門に到着した頃には既に夕方になっていて、エステルは急いで待ち合わせの場所に向かった。

 

~グリューネ門 アーネンベルク~

 

「……あ………ヨ、ヨシュ―――ア……?」

「へっ……?」

アーネンベルクに一人の人影を見つけたエステルは嬉しそうな表情をした。エステルは人影をヨシュアと思い、駆け寄ったが……そこにいたのはヨシュアでなく、ロレントへの飛行船で出会ったネギ頭の神父の青年―――ケビンだった。

 

「エステルちゃんか……?」

「ケビンさん……ど、どうしてここに……?」

「いや~、ひさしぶりやなぁ。しかし、こんな所で再会するなんてオレら、やっぱり縁が―――」

「ケビンさん!ここで誰か他の人に会わなかった!?」

ヨシュアでなくケビンがここにいる……自分に話しかけて来たケビンにエステルは切羽つまった様子で尋ねた。

 

「へっ……誰かって。まさかエステルちゃんもここで待ち合わせしとんの?」

「う、うん………って、ケビンさんも?」

ケビンも誰かと待ち合わせるためにここにいる……ケビンのその答えを聞いたエステルは首を傾げて尋ねた。

 

「ああ……手紙に呼び出されてな。」

「あ、あたしもだ。えへへ、面白い偶然もあるもんね。」

「はは、そうやね―……って、そんな偶然あるかいっ!」

「や、やっぱり?それじゃあケビンさんもヨシュアに呼び出されて……」

ケビンの突っ込みに苦笑したエステルは尋ねたが、

 

「ヨシュア?それって……エステルちゃんが言うとった例のカレシやったっけ?」

「う、うん……」

「し、知らんかったわ……ヨシュア君って、実はいい年したオッサンやったんか。そりゃ、愛があれば年の差なんて問題あらへんけど……それやったら、オレかて十分チャンスは……」

「あのー。微妙に話が噛み合ってないんですけど。それで、ケビンさんは誰からの手紙で呼び出されたわけ?」

同じように呼び出されたにしては、微妙に話が噛み合っていない事に首を傾げ、エステルは尋ねた。

 

「ああ、グランセル大聖堂にオレ宛ての手紙が届けられてな。届けたのは、身なりの良さそうな中年男性だったらしけど……」

「ヨシュアはあたしと同い年よ!少年だし、オジサンなはずないでしょっ!」

「あ、やっぱり?や~。オレもなんかおかしいと思ったんよね。」

「よく言うわよ……。でも、それって一体どういうことなの?………も、もしかして………」

ケビンの答えに呆れたエステルは真剣な表情で考え込んだ。

 

「二人を始末するための罠?」

「なんやて……?」

エステルの答えを聞いたケビンは真剣な表情になった。そしてその時、エステル達の元に空を飛ぶ機械兵器が近付いて来た!

 

「なっ……」

「マジか……チッ、人違いですって雰囲気でもなさそうやな……」

「……………けんじゃ……わよ」

エステルの言葉を聞き取れなかったケビンは首を傾げた。だが、彼女から発せられる怒りの闘気にケビンは冷や汗をかきつつエステルを落ち着かせようとした。

 

「へ?エ、エステルちゃん、落ち着いた方がええで!?」

「落ち着いているわよ……うん、そして決めた。ケビンさん、アレを叩き壊しましょうか?」

「あ、ああ……(………こ、この感じ……あん時のレナさんと同じ雰囲気やないか!?あ、心なしか兵器らも怯えとるような気がする……スマンな、オレかて命は惜しいんや。)」

そう言われたエステルの表情は笑みを浮かべつつも目が笑っていない……確かに冷静ではあるのだが……彼女を纏うオーラが、彼女の母であるレナが怒った時のオーラに瓜二つであり、それを一度体感していたケビンは体を震わせていた。そして、機械兵器の方を見ると心なしか引いており……ケビンは同情するものの擁護は出来ないと内心で呟いた。

 

「本気で行くわよ……烈破洸龍撃!!」

「!!」

光の闘気を纏った棒による連続打撃……『地龍撃』の力の応用をかつてのSクラフト『烈破無双撃』に生かしたエステルのクラフト『烈破洸龍撃』でまずは一体。

 

「あたしの想いを踏みにじった報い……受けなさい!行くわよ、『聖天光剣』解放!!」

そして、エステルの叫びに呼応し、聖天光剣『レイジングアーク』は『ヘイスティングズ』を媒体とし、光の両刃剣を形成する!!

 

「へ……(あの神気……それに『聖天光剣』……なしてエステルちゃんが『聖天兵装(セイクリッド・アームズ)』の……しかも『起動者(ライザー)』に選ばれたんや!?1200年もの間歴史から姿を消してたとかいう『幻の存在』を目の当たりにしたのはオレかて驚きしかないで……)」

その言葉を聞いたケビンは冷や汗をかきつつ、エステルが持っている武器が古代遺物の中でも最上位クラス…1200年もの間歴史の表舞台から姿を消していた『聖天兵装』……しかも、その『起動者』に選ばれたことに内心驚いていた。

 

「唸れ、光の刃。その輝きを以て、我が敵を撃ち払わん……とうりゃあああああああっ!!!」

八葉一刀流一の型“烈火”……その奥義である終式『深焔の太刀』。それと組み合わせた光の剣撃。エステルは高らかにその名を叫ぶ!

 

「奥義!洸耀の太刀!!」

Sクラフト『洸耀の太刀』……それを受けた人形兵器はなす術もなく、縦に真っ二つに斬られ、爆発四散した。エステルはそれを見て解放状態を解除すると、武器をしまった。

 

「ふう……こいつら………魔獣っていうより……ケビンさん?」

「へ?あ、ああ……城の封印区画にいた人形兵器と同じみたいやね。もっともアレとは違って最近造られたものみたいやけど。」

一息ついて兵器の残骸を見たエステルはケビンに問いかけたが、呆けていた状態のケビンはエステルの問いかけに我を取り戻し、先程戦った兵器について説明した。

 

「それってどういうこと?」

「封印区画の人形兵器が古代遺物の一種とするなら……これはオーブメントで駆動する現代の人形兵器ってところや。しかも性能は全然負けてへんみたいやね。」

「へぇ……どうしてケビンさんが封印区画のことを知ってるわけ?」

「……ギク。」

エステルにジト目で睨まれ、指摘されたケビンが嘘がばれたかのような表情をしたその時、王国軍の兵士と隊長格の兵士がエステル達に近付いて来た。

 

「何やら騒がしいと思ったら……。お前たち、いったいここで何をしていたんだ!?」

「ちょ、ちょっと待って!あたしたち、ここで変な機械に襲われただけで……」

「変な機械だと……って、その残骸は!?」

エステルの話に隊長格の兵士は首を傾げたが、二人の後ろにある残骸を見て驚いた。

 

「ああ、お騒がせしてエライすんませんでした。実は彼女、ギルドに所属する遊撃士でしてなぁ。とある連中を追って捜査中の身ってわけですわ」

「へっ?」

「遊撃士……本当なのか?」

「ほら、エステルちゃん。ブレイサー手帳を見せてやり?」

「あ、うん……」

ケビンに促されたエステルは手帳を兵士達に見せた。

 

「……なるほど、本当らしいな。とある連中と言ったが、一体どういう奴等なんだ?」

「それが『結社』とかいう正体不明な連中でしてなぁ。各地で妙な実験を色々としとるらしいですわ。そいつらの手がかりを追ってここに来てみたらケッタイな機械に襲われたんです。幸いにも弱かったので何とか止められましたが。」

「…………」

ケビンの説明を聞いていたエステルは驚いた表情をしていた。とてもではないが、一介の神父が知っていていい情報ではない。しかも、『結社』に関して一般人に対してはある程度情報が秘匿されている。

 

「そういえば司令部から『結社』とかいう連中について注意のようなものが来ていたな……とすると周遊道に現れたのはその『結社』の者たちなのか……」

「え、ちょっと待って!周遊道に現れたって一体何が起こったの?」

隊長格の兵士の話を聞いたエステルは驚いて尋ねた。

 

「ああ、先ほどエルベ離宮の警備本部から連絡があってな。何でも武装した集団が離宮を襲撃してきたらしい。」

「あ、あんですって~!?」

「幸い、リアン中佐によって難なく退けられたらしいがな。現在、周遊道を封鎖してその集団を追っているところらしい。」

「は~。エライことが起こったなぁ。こりゃオレらもギルドに戻った方がええかもな。」

「え、あ……」

隊長格の兵士の話を聞いて頷きギルドに戻るよう、ケビンに促されたエステルは戸惑った。

 

「ああ、ひょっとしたら君たちが追っている連中と同じなのかもしれない……よし、付近の警備とその残骸の回収は我々が当たるとしよう。君たちは急いで王都のギルドに戻るといい。」

「おおきに!ほな戻るとしよか。」

「ちょ、ちょっと……」

そしてケビンは戸惑っているエステルを連れて、兵士達から離れた。

 

「ちょっと待って!一体どういうことなの!?」

「あ~……。やっぱり納得せぇへん?」

怒鳴られたケビンは気不味そうな表情でエステルに尋ねた。

 

「あ、あたり前でしょ!あなた……いったい何者なの!?あたしたちの動きとか『結社』のこととか知ってたり……。本当にただの神父さんなわけ!?」

「正真正銘、七耀教会の神父やで。まあ、確かに……ただの神父とはちゃうけどな。」

ケビンの言葉……その言葉に何かを思い出したエステルは珍しく真剣な表情でケビンに問いかけた。

 

「あ~……成程、そういうことだったのね。思い出したの。トワが言っていたこと……ケビンさん、『星杯騎士団』の人でしょ?」

「……なして、そう思ったんや?」

エステルの言葉にケビンも真剣な表情でエステルにその理由を尋ねた。

 

「トワがね、『ケビンとか言う、同僚曰くネギ頭の軽い口調の青年が来るかもしれないから、エステルも仲良くしてあげてね』とか言ってたから。あと、トワも『星杯騎士団』だって聞いたし。」

「あいつ、口の軽いことで……ま、間違ってないことだけは確かや。せやけど、オレは新米やからな。(ネギ頭の軽い口調の青年って……アスベルといい、ワジといい、俺の髪型で弄るのはやめてほしいわ!)」

エステルの言葉にケビンは真剣な表情からいつもの軽い感じに戻りつつ、内心で“同格”である二名の『騎士』に対して文句の言葉を言い放った。

 

「はぁ……ところで、エステルちゃん。君のその武器はどこで?」

「これ?クラトス・アーヴィングって人が作った武器よ。何でも、あたしが正遊撃士になったお祝いとして……ひょっとして、これも回収するつもりなの?言っとくけれど、レグナートから“アーティファクトじゃない”って言われてるし……あたし以外には使えないって聞いてるし……なんだったら、相手してもいいけれど?」

「いや、エステルちゃんに悪いし、さっきの戦いを見せられたらソレの回収どころかオレの命が女神様に回収されそうやしな。それはせえへん。なんやったら女神(エイドス)に誓ってもええ。(レグナートって、確か“至宝”の“眷属”やったな。なんちゅう存在と会ってるんや、エステルちゃん……『聖天兵装』のことは一応総長に報告せなあかんな……)」

ケビンは『聖天兵装』について尋ねると、エステルは事情をある程度説明した後、真剣な表情で自分の持つ『聖天兵装』も回収するのかという問いかけに、ケビンはエステルの言葉から出てきた事の大きさに内心冷や汗をダラダラ流しつつ、エステルの懸念を払拭するかのように答えた。

 

「はぁ……ヨシュアに会えると思ったら、もう色々と大変ね。弱音を吐くつもりはないけれど、こんな時にアスベルがいてくれたら……」

「……へ?エステルちゃん、今なんて言うた?」

「え?アスベルのこと?アスベル・フォストレイトといって、同じ遊撃士で、軍人もやってるみたい。父さん以上の実力者らしいの。ヴィクターともこの間の大会で互角に渡り合ったし。ケビンさん、知り合い?」

「いや、知り合いに似た名前の奴がおったから、反応しただけや。(なして第三位“京紫の瞬光”がリベールで遊撃士兼軍人なんかやっとるんや!?っつーことは、第三位に付き添っとる第七位“銀隼の射手”に第三位付の“朱の戦乙女”もおるんか!?……まさか、総長……そないなところにオレを送り込んだのは、ある意味『お仕置き』するためなんか……)」

次々と爆弾発言の如く飛び出すエステルの言葉にケビンは本気で頭を抱えたくなった。第三位“京紫の瞬光”と第七位“銀隼の射手”……守護騎士の中でもトップクラスの事件解決能力を誇るツートップがリベールにいる可能性……それが極めて高いということだ。その可能性にケビンは内心嫌な予感しかせず、体が震えそうな感じだったが何とかそれを抑えた。

 

「とりあえず行きましょ……言っとくけど、ケビンさんのことは全面的に信用してるわけじゃないからね。」

「その言い分は素直に受け入れとくわ。ほな、行こうか。」

エステルの言葉にケビンは尤もであると言いたげに頷き、二人は急いでギルドに戻ることにした。

 

 


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