英雄伝説~紫炎の軌跡~   作:kelvin

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最近出番のなかった主人公の回w


第93話 『表』と『裏』

~遊撃士協会 グランセル支部~

 

「ただいま~。」

「おっと、戻ってきやがったか……って、シオンの奴、やけに疲れてねえか?」

エステル達がギルドに戻ると既にアガットが戻っていた。アガットはシオンの様子に気づいて何があったのかを尋ねた。

 

「あ~、うん。ちょっとね……ところで、レン達は?」

「つい先ほど戻ってらっしゃいましたよ。二人は今2階で、お買い物の戦果を見せ合っているみたいですね。」

「そっか。楽しんできたみたいね。えっとそれじゃあ、あたしたちも報告しようかな。」

「ええ、よろしくお願いします。」

そしてエステル達は集めて来た情報をエルナンとアガットに説明した。それに加えて、今のリベールが置かれた状況の話も合わせて報告した。

 

「なるほどな……こっちのほうは、特にない。いや、『そういった形跡がない』……という感じだな。脅迫状にしても、あのガキの両親にしても」

「え……それ本当なの!?」

「ああ。飛行船公社のほうにも……両親の記録はなかったらしい。」

「ええ!?」

「………(やはり、レンさんは……)」

「フム………(ということは……どうやら、最悪の可能性も考えないといけないようだ。)」

アガットの報告を聞いたエステルは驚きを隠せず、クローゼとオリビエは考え込んでいた。すると、何かを思い出したかのようにオリビエが問いかけた。

 

「っと、エステル君。クローゼ君にレイア君、シオン君をお借りしてもいいかな?」

「いや、物じゃないんだから……って、どうしたの?」

「何、親友が呼び出したのさ。エルナンさんはその辺をご存じのはずだと思うけれど。」

「ええ。駐在武官のミュラーさんからお話は伺っております。一応依頼ということになりますが……」

突然言われたオリビエの言葉に首を傾げたが、ミュラーからの依頼であることを説明し、エルナンもそれを聞いていたようで補足の説明をした。

 

「それでしたら……エステルさん、すみません。」

「いいの、気にしないで。そうだ、ヒルダ夫人のお誘いなんだけれど……断ってもらえないかな?」

「ええ、解りました。私の方から伝えておきますね。」

「それじゃ、また後でね。」

「じゃあな。」

そう言って、オリビエ、クローゼ、レイア、シオンはギルドを出て、向かったのは帝国大使館ではなく……レミフェリア公国大使館であった。

 

 

~公国大使館~

 

メイドに客室の一室に案内された四人。そこには……

 

「来たか。」

「久しぶりだな。」

「やっほ。」

「アスベルさんにミュラーさん、それとシルフィさん!?」

先に来て寛いでいたアスベルとシルフィア、ミュラーの姿だった。これにはクローゼも驚きを隠せなかった。公国大使館という場所も異色だが、それ以上にこの場所を選んだ理由を計りかねていた。その問いかけに答えるようにアスベルが説明をした。

 

「さて、この場所で話をする理由だが……まず、帝国大使館と共和国大使館は明後日来られる予定のカール帝都知事とロックスミス大統領の出迎えで忙しいうえに、こちらの出方を知られるわけにはいかなかったからな。アルバート大公は先程来られて、彼の許可も頂いている……後は、城だとリシャールに近しい人間がいないとは限らないからな……その上での判断と思ってくれ。」

「そうだったんですか……でも、何故私まで……」

「……レン君のことだね。」

「えっ………あっ!」

アスベルの説明に納得はしたものの、自分まで呼ばれたことに首を傾げるクローゼ……だが、オリビエの言葉でその事情を察することとなった。

 

「ご明察。クローゼとオリビエはレイアから話は聞いていると思うけれど……彼女は五年前の制圧事件で助け出した人物の一人……そして、『三人目』の生存者なの。」

「え……レンさんが!?」

「ああ……そして、彼女は『身喰らう蛇』の『執行者』No.ⅩⅤ“殲滅天使”レン。」

大方の事情を知っているクローゼとオリビエ、そして彼の叔父が制圧作戦に参加していたミュラー……この三人に下手な隠し事は逆効果だとシルフィアは考え、敢えて情報を教えることにした。

 

「成程……ヨシュア君の事は聞いてはいたが、彼女も相当の実力者とみた。にしても、親友。『本気』のヨシュア君とやり合ったそうじゃないか?」

「フッ、流石に耳に入るのが早いな……俺ですら、あの時ばかりは命の危機を覚悟したが……妹ならばいい勝負ができたかもしれんな。」

「セリカ君の事だね。尤も、隙あらば飛行艇ごとヨシュア君を吹き飛ばしそうだが……」

「………我が妹ながら、こればかりはお前に同意せざるを得ないな。叔父上や俺も一度被害に遭っているしな。」

笑みを浮かべつつ、空賊のアジト跡での一件の事を尋ねると、軽く笑みを浮かべた後真剣な表情を浮かべてヨシュアとの戦闘の事を思い出し、オリビエは親友から出た言葉からミュラーの妹であるセリカの事を誇張表現するような言い方で呟き、ミュラーは冷や汗をかきつつ、こればかりはオリビエに同意するような評価を述べた。

 

「あはは………私も『あれはないわ~』って思ったし。」

「お前が言うなよ……で、アスベル。既に『お茶会』の『準備』は整っているが……どうするつもりだ?」

「ああ……この一件はエステル達に任せて、こっちは綿密な打ち合わせをしなきゃいけない。」

「打ち合わせ?」

「ああ。生誕祭や博覧会に不戦条約の調印式……忙しくなれば、下手に会うと勘付く奴らがいるからな……今をおいて他にないのさ。」

何せ、『お茶会』に関しては既に打てる手は打っている。いくら『殲滅天使』と言えども、『フェイク』と『聖天兵装』という予想外の要素が絡めば、この事態はあっさりと収束しうる事態だということに気が付いていないのだから。ゲームの攻略はできても、その中にある“隠れた要素”をどこまで見抜けるのか……これはいわば、アスベルのレンに対する“謎かけ”でもあった。ある意味見え透いた遊戯の結末なんて、考えるまでもない……今考えるべきはこの先、『導力停止現象』への『表』側の対策。その一点に尽きる。

 

「……『執行者』の動きはほぼこちらの手の内。イレギュラーとかあったけれど、大方計画通り。で、だ。『四輪の塔』絡みの件でいくと……十中八九、お前らの国―――<鉄血宰相>が動く。」

「成程、僕には『善意と称して攻め込まんとする悪役』を演じてもらうというわけか。やれやれ、もう少しモラトリアムを楽しみたかったのだがね。」

「ある意味年中モラトリアムのお前が言えた台詞ではないのだが……それで、アスベル殿。どうなさるおつもりか?」

「……オリビエ、いや、オリヴァルト皇子には悪いが、最悪の場合は『不戦条約に反する行為』―――国際条約遵守違反としてエレボニア帝国……正確には帝国政府を『外法』と認定するつもりだ。ちなみに、アルテリア法王猊下からの許可は既に得ているし、遊撃士協会からも先日の件からして黙認すると『お墨付き』を貰ったからな。」

<輝く環>が及ぼす導力停止現象の効果範囲……半径1000セルジュと言われているが、距離など関係なく“全て王国領土内に収まる”範囲になる。それに、通信手段に関しても既に手は打っている状態。一応今回の事件の際に“テスト”することも視野に入れており……残るは『例の人物』との接触ぐらいだ。

 

「「………」」

「……フフフ、流石は“紫炎の剣聖”。いや、この場合は“京紫の瞬光”とでも言うべきかな。この御仁を相手にする<鉄血宰相>は気が付いていないのだろうね。自らが描く遊戯盤に“白にも黒にもなりうる万能の駒たち”を放りこんでしまったことに。」

「アスベルは、本気で怒ったら怖いからね……」

「全くだ……ちなみに、そうならなかった時はどうするんだ?」

唖然とするクローゼとミュラーにオリビエは引き攣った表情をしつつも不敵な笑みを浮かべ、その言葉に同意したシルフィアとシオン。

 

「まぁ、次点ではサンプル扱いとして戦車や装備品諸共全部接収するつもりだけれど?」

「お、鬼がいる……。“外法狩り”よりもエグイ事するね。」

「失敬な。食糧や衣服は残すし、全員生かして強制送還するだけまともなつもりだが?……まぁ、仮にゼクスさんが出てきたら、フォロー位はちゃんとしておくよ。」

ゼクスとは制圧作戦後から一年後に再会し、その際ヴァンダール流の手ほどきを受けた。ゼクスからは執拗に勧誘されたが、これを丁重に断っている。そういった恩義がある以上、それを反故にするのは気が引けるため、ちゃんと救済するつもりだが……

 

「それはしっかり頼む……というか、大丈夫かクローディア殿下?」

「あ……え、ええ……これが、政治なんですね。」

「クローゼ、これは政治というよりも策略だから……まぁ、外交という意味じゃ政治なのだろうが……」

繰り広げられている会話に最早ついて行けずにいるクローゼ。まぁ、相手が相手だけ、というのもあるが……それ以上に、この異変ですら『序曲』でしかないのだが。

 

「……まぁ、それは向こうが色々突っぱねた場合だけれど……クローゼ、学園祭で会った人物の事を覚えているか?」

「オリビエの場合は、ボースで会った人物になるかな。」

「学園祭……市長らに侯爵閣下に皇女殿下に、アルバ教授ですね。」

「アルバ教授……もしかして、彼が?」

「鋭いな、オリビエ。察しの通り、そいつが今回の首謀者……“教授”ゲオルグ・ワイスマン。『身喰らう蛇』の『使徒』第三柱にして七耀教会の破戒僧、とでもいうべき人物。」

幸いにして、彼らと面識のあった二人はその記憶を操作されていなかった。恐らくは下手に操作すれば自分への疑いをかけられることを危惧してのものだったようだが……それが逆に仇となるとは思ってもいないだろう。尤も、二人には内緒で記憶消去および改竄無効化の法術をかけている。ワイスマンですら消せない・認知できない術式を使っている以上、手を打とうとしても無駄なのだ。

 

「その教授や僕の好敵手といい、あの戦闘狂といい、さらには“剣帝”に“殲滅天使”……どれも一筋縄じゃ行かない相手ということか……で、僕らにそれを話すということは、『見返り』が欲しいと見た。」

「察しが良くて助かる。オリビエに頼むのは二つ……一つは、帝国から王国に入ってくる『公人』の情報提供。これは、お前でないと出来ない仕事だな。もう一つは、『演奏家』としての仕事になるが……これに関しては、正式に決まり次第依頼するよ。」

「フッ………天才の演奏家である僕の腕を見込まれたからには、下手な演奏は出来ないね。前者の仕事に関しても無論かな。」

「アスベル殿……」

……情報局の連中はそう簡単にいかないだろうが、アーティファクトを持ちうるオリビエならではこその『情報戦』……『演奏家』としての仕事は完全に私情によるものではあるのだが……引き受けてくれたことは僥倖だろう。

 

「息抜き位は必要ですよ。これから相手にする輩は“炎の塊”みたいなものですし。で、クローゼには王国内での“許可”……“非常時における殲滅許可”を女王陛下に伝えてくれ。」

「えっ………」

「い、今……物騒な言葉が聞こえたんだけれど……」

「……どうやら、『黒月』と『赤い星座』の一部、『北の猟兵団』がリベールに向かっているらしい。最短でも二週間後……こちらの進行がうまく進めば、帝国が動き出すと同時になる。」

それを聞いたのは先日。ルドガーから連絡が入り、“教授”が“道化師”に指示を出して動かしたらしい。不戦条約の調印式は一週間後……となると、残された猶予は一週間程度しかない。まぁ、それだけあれば十分すぎるのだが……

 

「流石に王国軍が屈強と言っても分が悪いからな……レイア、『赤い星座』に関してはお前に一任する。身内とはいえ容赦はしてこないと思うが……」

「解ってる。それに、ちょうど良く兄もいるからね。戦場に出すかは決めかねているけれど。」

「兄というと……“赤き死神”ランドルフ・オルランドか。強大な猟兵団相手とはいえ、お前とランドルフだけでも血の雨が降りそうだぞ……」

「何言ってるの?予定ではシオンには幹部クラス相手に戦ってもらうんだから。」

「………不幸だ。」

レイアの言葉に頭を抱えるシオン。その様子を見たアスベルは少しばかりシオンに同情したくなった。

 

「『北の猟兵団』に関しては状況次第だが、とりあえずは俺が担当するとして……シルフィで『黒月』を抑える……いや、殲滅すると言った方がいいな。」

「そんな……アスベルさん達は、どうしてそんな簡単に……」

「……クローディア王太女殿下。俺とシルフィア、シオンは百日戦役を戦った人間です。人間というのはある意味エゴで生きているもの……かく言う俺もその一人ですが、謂れなき暴力に言葉を投げかけても通用しない時がある。かつての帝国軍……いや、主戦派の人間。そして、『結社』という存在。人々を混乱に貶め、自らの欲を満たすことでしか愉悦を感じない連中に、言葉など通用しない。結局のところ、戦うしかなくなる……だが、今戦わなければリベールという国がなくなってしまう。それは、この国に住む人が望むことじゃないはずです。」

「………」

簡単なことではない。彼女自身にだって解っていることだろう。だが、『力なき理想は空想』『理想なき力は暴力』……『国家』を動かすということは、『理想』と『力』の両立……その狭間で揺れ動き続けるものなのだ。安易に戦いを望んでいるわけではない。『結社』やマフィア、猟兵団という『謂れなき暴力』を退けるためには、こちらが『信念を持った力』で毅然と立ち向かうことが必要なのだ。

 

「十年前というと、アスベル君やシルフィア君は8歳……シオン君は7歳……カシウスさんから話は聞いていたが、末恐ろしいね君らは。」

「その時から戦って生き残った人間とは……本当に末恐ろしいな。」

「恐縮です……少なくとも、クローゼよりは『倍以上』の経験を積んでいるからこそ言えることですが。」

彼女は今回の事で色々と学んだだろう。だが、これ自体も女王の政治の“一角”なのであると。国の安全を担うということは、何も綺麗ごとだけでは成立しないのだと……

 

「………解り、ました。お祖母様にそう伝えておきます。」

「クローゼ……」

辛そうな表情を浮かべて頷くクローゼに、シオンは彼女の頭を撫でた。

 

「ふふ……ありがとう、シオン。私は、まだまだ弱いですね……」

「最初は誰だって弱いもんだよ。俺やアスベル、シルフィみたいに最初から“覚悟”や“信念”があるわけじゃないからな……」

(……さて、シオンは誰を正室にするのかな?)

(私としては、クローゼかアルフィンあたりが本命だと思うけれど……)

(私もアスベルの一番の……)

(何か言ったか?)

(な、何でもない!)

(アルフィン……これは、強敵かもしれないよ。)

(やれやれ……シュトレオン殿下の苦労が目に見えそうだな。)

シオンとクローゼのある意味微笑ましい光景……その光景に各々の言葉を紡ぐ五人であった。

 

 

~遊撃士協会 グランセル支部~

 

その頃、ギルドに一報が入る。連絡先はボース支部……その内容は……クーデター事件で対峙した特務兵と遭遇したという一報だった。

 

「あの特務兵か……発見したのはギルドの人間らしいな?」

「ええ……クルツさんたちです。」

「クルツさんたちが!?」

特務兵達を見つけたのがクルツ達とわかったエステルは驚いた。クルツらはルーアン支部でボース支部からの応援要請を受け取り、予定を変更してボース支部に向かったらしい。エルナンは更に話をつづけた。

 

「ラヴェンヌ廃坑の内部でアジトを発見したそうです。あいにく、すでに引き払った後だったみたいですが……」

「てことは、空賊たちと戦った場所ってことね。」

「……引き払ったってことは、すでに別の地方に行ったのかしら?」

エルナンの話にエステルは昔を思い出し、サラは続きを促した。

 

「それが、ボース地方の各地で特務兵の姿が目撃されたらしく……現在、国境師団が総力を挙げて調査をしているみたいです。ただ、陽動の可能性もあります。現地の状況が分かるまで迂闊に動かない方がいいでしょう。それにどうやら……『結社』も動いているようです。」

「え……!」

「なんだと……!」

(……成程、『道化師』が動いたってことね。まったく、レン一人でも大丈夫だって言うのに……カンパネルラのお節介には呆れちゃうわね。)

不戦条約の調印式が控えているというこの時期に特務兵のみならず『結社』まで……そう驚くエステル達……只一人、レンを除いて。

 

レンの浮かべた表情はその時誰も気付いていなかった。

 

「クルツさんたちが廃坑のアジトで遭遇したそうです。『道化師カンパネルラ』―――『執行者』の一人みたいですね。」

「また新顔か……」

「更にアジトで奇妙なものが発見されたそうです。まずは『オルグイユ』という導力駆動の乗物の設計図……そして『お茶会』という符牒で語られた謎の計画メモです。」

「『オルグイユ』『お茶会』……うーん、訳が判らないわね。」

「お茶会というのも何だか気になりますね。」

(うふふ……そろそろレンも動こうっと♪)

エステル達が考え込んでいる中、レンは気配を消してギルドから出て行った。

 

「チッ、さすがに落ち着いていられねえな。」

「まあ、焦るなって。現地で軍とギルドが頑張っているみたいだからな。じきに状況も分かるだろうさ。」

焦っている様子のアガットにジンはいつもの表情で言った。

 

「ええ、気は逸るでしょうが王都に留まっていてください。今のところは各自、自由になさって結構ですよ。」

「うーん、そう言われても……あれ、そういえばスコールはどうしたの?」

エルナンの言葉に悩んでいたエステルだったが、あたりを見渡してスコールが居ない事に気付いて、エルナンに尋ねた。

 

「それが、先ほど連絡がありまして……野暮用ができたと仰ってお出かけになりました。すぐにギルドにお戻りになるそうですが。」

「ふーん、どうしたのかしら?……あれ?レンはどうしたの?」

「ふえっ……?あ、あれれ……さっきまではちゃんといたんだけど。」

エルナンの話が一通り終わった時、エステルは先程までいたはずのレンが居ない事に気付き、ティータもレンがいないことに驚いた。

 

「もしかして……話が退屈だったから遊びに行っちゃったとか?」

「そいつはありそうだな。」

「まぁ、子どもには難しい話だものね……」

エステルの推測にアガットとシェラザードは頷いた。

 

「そいつはありそうだな。」

「も~、しょうがないわねぇ。でも、もし王都を離れるとしたらレンのことも何とかしないと………あたし、ちょっとあの子を捜してくるわ。」

「あ、わたしも!レンちゃんが行きそうなところ分かるかもしれないし……」

レンを探す事に決めたエステルにティータが真っ先に申し出た。

 

「そっか、助かるわ。エルナンさん。そういうことなんだけど……」

「ええ、お願いします。私の方は、各地の支部と残党の行方について情報交換をしていましょう。」

そしてエステル、ティータ、そしてリィンは王都中を歩いて、レンを探した。レンの姿は時折見かけたが、すぐに姿を消し、さらに謎かけも残して行った。謎かけを解いてレンを探していたエステル達は空港に到着した。

 

~グランセル国際空港~

 

一方、スコールは飛行船に乗ったルドガーを見送っていた。

 

「じゃあな、スコール。お前の奥さんによろしく言っておいてくれ。」

「了解した。お前の方も“深淵”や“聖女”の相手は大変だと思うが、頑張れよ。」

「………まぁ、善処はする。いざという時は、あのお転婆娘のフォローを頼む。」

「元とはいえ、俺に頼むってことはそこまでってことか……解った。それとなくしておくさ。」

そしてルドガーを乗せた飛行船は飛び立った。

 

「おーい、スコール!」

「エステルたちじゃないか。こんなところにまで来るということは俺に用件でも?」

飛行船が飛び立った後、エステルがスコールに話しかけ、話しかけられたスコールは尋ねた。

 

「そういうことじゃないんだけれど……さっきのってルドガーよね?知り合いだったの?」

「まあ、腐れ縁って奴だな……何でも、知り合いから呼び出しがかかったらしくてな……そういうわけで俺は見送りに来たんだが。お前たちはどうして空港に?」

「あ、実はレンを捜しに来たんだけど……スコール、見かけなかった?」

「レン?って、そこにいるのはレンじゃないのか?」

「へ……」

スコールの指摘に首を傾げたエステル達は振り返った。するとそこにはレンがいた。

 

「うふふ♪」

「レ、レンちゃん!?」

「き、気が付かなかった……」

「い、いつのまに……こら、レン!まったく、いきなり居なくなったらダメじゃない!しかも色んな人を巻き込んであたしたちから逃げたりして~!」

レンの姿を見たティータ、リィン、エステルは驚き……笑顔を浮かべているレンに近付いたエステルは怒った。

 

「ごめんなさい……だって退屈だったんだもの。あのね、百貨店で紅茶とクッキーを買ったのよ?みんなの分もあるからおねがい、機嫌をなおして?」

「う……」

「まぁ、俺たちも結構楽しませてもらったし……おあいこでいいんじゃないか?」

素直に謝り、自分の機嫌をなおそうとしているレンを見て、エステルは言葉を詰まらせ、リィンは微笑んでエステルに言った。

 

「はあ、しょうがないなぁ。お小言はこれくらいで勘弁してあげる。」

「ホント!?」

「ふふ、よかったね。」

溜息を吐いて自分を許すエステルとは対照的にレンは嬉しそうな表情をし、その様子を見たティータはそれぞれ喜んだ。

 

「さてと、それじゃいったんギルドに戻りましょうか。何か情報が入ってるかもしれないし。」

「何かあったのか?」

「ちょっとボース地方で事件が起こったらしくてね。ギルドに戻ったら一通り説明するから。」

「了解した……っと、公社の前で待っててくれるか?ちょっとレンにお説教しなきゃいけないから。」

「……うん、解ったわ。」

「エステル!?」

「あはは……ごめんね、レンちゃん。」

「その……ごめんな。」

「ティータにお兄さんまで!?」

エステルの会話に首を傾げたスコールだったが、彼女の説明に納得しつつレンに用があるということでエステルに伝え、エステルとティータ、リィンはレンに謝りつつも先に行った。

 

「さて……説教というよりも“調停”からの伝言だ。『あまりやりすぎれば、“紫炎の剣聖”から痛い説教を食らう』とな……あと、お前はエステルのことを過小評価してるようだが……余り彼女を舐めてると、本気で痛い目を見るぞ?」

「………うふふ、まさか“影の霹靂”ともあろう実力者からそんな言葉が聞けるなんて……怖気付いているのかしら?」

「怖気付く、か……そうであるならば、どれほど楽な事か……ま、今回ばかりはお前の『企み』に一枚乗せられてやるよ。」

「それなら、レンの『お茶会』に喜んで招待してあげるわね。『執行者』No.ⅩⅥ“影の霹靂”さん。」

「元、だからな……」

“殲滅天使”と“影の霹靂”……その二人にしかわからない会話……それを終えるとエステル達と合流し、ギルドに戻って行った。

 

その後、リィンやティータ達が先にギルドに入って行き、その後を続くようにエステルがドアに手をかけた瞬間、レンが唐突に話しかけてきた。レンはエステルに手紙を渡し……その筆跡と文章からヨシュアなのではないかと思い、レンに尋ねると……レンはヨシュアの特徴を言い、それがヨシュアであると確信しつつあったエステルは手紙に書かれた時間が迫っていることに気付いた。

 

「夕方、グリューネ門側のアーネンベルクの上。夕方って……もうそろそろじゃない……」

「エステル?エルナンが各地の情報を説明するみたいだけれど?」

エステルはその時間が迫っていることに困惑していた時、ギルドに入って来ないエステル達に気付いたシェラザードはギルドから出て来て尋ねた。

 

「シェラ姉……どうしよう……あたし……」

「エステル?どうかしたの………これは……ヨシュアかしら?」

「うん……そうみたい。レンが、それらしい人から受け取ったんだって……」

エステルが無言で見せた手紙……その内容に驚いている様子のシェラザードにエステルは答えた。

 

「成程ね……行ってきなさい。」

「え……?」

事情を察したシェラザードの言葉にエステルは驚いた。

 

「せっかくのチャンスよ、早く行きなさい。他の人にはアタシの方から適当に言っておくから。」

「あ……ありがと、シェラ姉!それにレンも……教えてくれてありがとね!」

背中を押すかのようなシェラザードの言葉を聞き、エステルは一目散に待ち合わせ場所であるグリューネ門に向かった。

 

「あ……行っちゃった。そんなにその人と会いたかったのかしら?」

「ええ。ヨシュアは、あの子が旅をしている目的だもの。」

首を傾げているレンにシェラザードはエステルの後姿を見ながら、感慨深そうな表情を浮かべて呟いた。

 

 

「はあはあはあ……。グリューネ門のアーネンベルクの上……。早く行かなくちゃ……!」

そして王都を出たエステルは急いで、目的地に向かった。

 

 


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