英雄伝説~紫炎の軌跡~   作:kelvin

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上手く書けているか、今回ばかりは不安ですww



第10話 幕開け

エレボニア南部の紡績都市パルムの更に南……リベール王国との国境に近いハーメル村。

そこに忍び寄る一つの部隊。帝国のカラーである赤ではなく漆黒の装備に身を包み、バイザーで素顔を隠し、彼らの手に持つ銃はリベール王国の紋章が入っている。

 

「いいか、我々の任務はハーメルの『消滅』。住民は片端から殺せ。女に関しては各自の判断に任せる。」

指揮官と思われる男の声に部隊員たちは期待を表すかのように笑みを浮かべていた。自分たちの望む戦いができる…侵略戦争ができる…それも、平和ボケしている南の王国を。

 

「この作戦によって、『我々』はリベール王国へと侵攻する。各員、努々怠るなよ。」

「「「了解」」」

指揮官の指示で、兵士たちは持ち場に着く。

その司令官は不敵な笑みを浮かべて、誰にも聞こえない声で呟いた。

 

 

 

――さて、戦いを始めようか………いや、違うな。リベールの未来を変えるための……そして、俺の踏み台としての『幕開け』だ。

 

 

 

ハーメルはたちまち炎に包まれた。

逃げ惑う人々に向けて兵士は容赦なく銃を向け、撃つ。元々エレボニア帝国……帝国軍という強大な力を持つが故に、主立った防衛能力は持っていなかった……それが仇となった形で、惨劇が広がっていた。

撃ち殺された人たちは無残にも踏みつけられ、人を人とも思えぬような光景を生み出していた。この世に地獄というものがあるならば、まさしく目の前に映る光景は地獄そのものだと。

 

 

まだ一息で殺されたのならば、救いなのかもしれない……男は容赦なく殺され、女は犯された……

 

 

「ヨシュア、カリン!!」

「……」

銀髪の青年が見たもの……それは、家族同然である存在の二人。傍には喉を撃ち抜かれて死んだ猟兵の死体、銃を握りしめたまま茫然自失としている黒髪の少年、そして彼を抱きしめ、背中に傷を負った黒髪の女性の姿があった。女性が少年を抱きしめ、かばったのだろう。その傷は深く、致命的だと一瞬で悟ってしまった。

 

「レオン……ヨシュアをお願い。」

「バカなことを言うな!カリン、お前も……」

「………ごめんなさい………」

「………くそっ……」

レオンと呼ばれた青年がカリンと呼んだ女性の状態を解らないはずもない。三人で逃げ延びたとしても、今ここで処置をしなければ彼女は間違いなく死ぬ。だが、向こうから猟兵たちが迫ってくる。今ここで彼女の願いを無下にする気なのか……レオンは苦い表情で、ヨシュアを抱えた。

 

 

「すまない、カリン…お前の死は、無駄にはしない…!」

レオンは走った。茫然としたままのヨシュアを抱え、危険が及ばないどこかへと。

 

 

「レオン…ヨシュア…必ず生き延び……て……」

カリンは力絶え、地面に倒れこんだ。遠ざかっていく二人の姿を見て、安心したかのように瞳を閉じた。

 

 

(………ふふっ、レオンとヨシュアを守って死ねたのなら、これほど幸福なことはないわね。)

 

先程まであった痛みが引いていく。ああ、この感覚が『死』ということなのだろう。そのまま深い眠りに落ちていく……

 

 

 

(………あれ?)

 

ことはなかった。むしろ、はっきりと感覚を取り戻していくように感じ取れた。五感ははっきりとしているようだ。カリンは改めて目を開ける。目に映った光景は慣れ親しんだ村への道。頬を伝わる風は、間違いなく本物……

 

 

「あ、気が付いたようですね。」

そこにいたのは傭兵ではなく、燃えたぎるような炎を思い起こさせる容姿――ワインレッドの髪に灼眼……シルフィア・セルナートの姿だった。

 

「えと、貴女は?」

「七耀教会のお手伝いをしているものです。ここら辺を偶然通りかかったら瀕死の貴方を見つけて、処置を施しました。」

茫然とするカリンに笑みを浮かべて説明するシルフィア。彼女の法術の中には瀕死の人を助けるものを会得している。本来であれば一歩間違えれば『外法』ものだが、彼女はそれすらも捻じ曲げるだけの『力』を持っている。『守護騎士』という名の『力』を。

 

「見たところ、貴方が殺したものではなさそうですね……」

「そうだ、レオンとヨシュアを見ませんでしたか!?」

「えと、すみません……お二人に関しては、私も解りません。」

「そうですか……」

カリンの問いかけに、シルフィアは申し訳なさそうに答えた。

 

「カリンさん、ここら辺は危険です。他の方々……貴女の仰ったお二人に関しては、無事にここから逃げ延びてくれることを祈りましょう。」

「は、はい。」

ここにいてはまた襲撃されるとも限らない……シルフィアの言うことも尤もであり、カリンはシルフィアの誘導で安全な場所へと避難した。

 

 

―ハーメル村―

 

惨劇の後のハーメルには何も残っていなかった。家屋は無残にも破壊され、家の柱は炭の如く焼け焦げており、そこで生活していた人々の痕跡を根こそぎ奪っていた。あちらこちらには血の跡が残り、一通り片付けが終わってもその無残さは推して知るべきだろう。それを静かに見つめる指揮官の元に、一人の隊員が報告に来た。

 

「報告します。村にいたと思われる住民は全員殺しました。」

「間違いないだろうな?」

「はい。ただ、こちらの被害も深刻で……」

「何、心配はいらん。」

「それは、どういう……」

隊員がその質問を知る前に隊員の首が宙に飛んでいた。指揮官の剣が的確に隊員の首を跳ね飛ばし、首のなくなった体は仰向けに倒れていた。血を掃って剣を収めて指揮官が一息つくと、呟いた。

 

「帝国軍からの通達だ。貴様らはここで全員自決しろ、とのお達しだ………と、死んだ奴に言っても無駄だな。」

「まったくだ。」

そう言って、陰から出てきたのはアスベルだった。

 

「しっかし、襲撃部隊の指揮官にすり替わっていたとは……こいつらは、自分たちの存在意義をあの世で後悔してそうだな。」

「顔を隠した集団……すり替わるのは容易だったのさ。」

「それに、あの村自体が完全に『空蝉』だと知ったら、帝国の連中は慌てふためくだろうな。」

アスベルと気さくそうに話している指揮官がバイザーを取る……その顔つきは先程出会ったマリクその人だった。これは、かなり大がかりの計略だった。協力メンバーにシルフィアがいたことは大きなプラスだった。

マリクの工作により、メンバーの大半が彼の連れてきた猟兵にすり替わっていたのだ。襲撃部隊には『リベールの妨害があった、なので追加で応援を呼んだ』といい、裏ではすり替えた連中を問答無用で銃殺していた。

 

「襲撃部隊自体も完全にすり替わり、女を犯そうとした向こうの奴らは即刻銃殺刑。シルフィアが三人に掛けた法術で効果的な演出もできた。あの子、本当に8歳か?」

「言うな……大方、あの総長のせいで図太くなったんじゃないか?」

「ありえそうなことだな……」

シルフィアの不敵な性格は総長の仕業だと十中八九思った。特に転生前の彼女をよく知るアスベルは殊更そう思った。

すると、そこに黒装束を纏った彼の部下が報告に来る。

 

「『団長』、エレボニアからの暗号通信。『大義であった。これにより、我々は隼を討ち取らん』とのことです。正直反吐が出ます。」

「お前もか、ウェッジ。口先だけで裏では粛々と潰していく……くだらん奴らだ。」

マリクを『団長』と呼んだ隊員――ウェッジの報告と感想に、マリクも同意する。

 

「他の奴らにも連絡しろ。『絶槍』はどうしてる?」

「珍しくホームにいるようです。ただ、いつものパターンだと……」

「爆発しかねんな……こっちに呼んでおけ。アイツの破壊力はエレボニア相手に役立ってくれるだろうし、アイツ自身も戦いとなれば勇んでこっちに来るだろう。」

「ハッ!」

マリクとウェッジはホームにいる『絶槍』と呼ぶ人物のことを話し合い、必要なことを伝えるとウェッジは連絡のためにその場を離れた。

 

「何か、物騒なことが聞こえたんだが……そんなに強いのか?その『絶槍』は。」

「ソイツは俺が拾ったんだが、一昔前に東ゼムリアで猛威を振るっていたマフィアの一個師団をたった一人で、一晩で壊滅させている。アイツの通る場所に『無事』という言葉はなく、跡形もなく壊滅だ。しまいには、本拠地の建物すらきっちりと破壊したこともある。」

その言葉からして、物騒という言葉が過剰表現ではないということを瞬時に察知した。単独でありながらもその破壊力は『一騎当千』……どこぞの武将達とも肩を並べるほどの強さということだ。そんな人物がエレボニアと対峙するということは……

 

「エレボニア、軍隊の壊滅どころか、下手すると国が解体するんじゃないのか?」

「………オーバーな表現に聞こえんのが辛いところだな。」

よく手綱を握ってコントロールしているマリクに内心称賛の拍手を送りたいと思ったアスベルだった。

 

 

「え……」

その頃、シルフィアに案内されたカリンが見たものは、襲われていたはずの村人たちが元気な姿でその場にいたことだった。

 

「カリンお姉ちゃん!」

「カリン、よく無事で……!」

「え、えと、一体何がどうなって……」

何が現実で何が夢なのかわからず困惑しているカリン。そこに、アスベルと動きやすい服に着替えたマリクが現れた。

 

「マリクさん、この度は本当に……」

「いえ、オレは出来ることをしただけですから……」

村長がマリクに頭を下げ、マリクは謙虚に説明をした。

 

「はじめまして。マリク・スヴェンドといいます。」

「カリン・アストレイです。あの、これはどういうことなのでしょうか……」

「詳しくは申し上げられません……ですが、貴方方は下手すれば帝国に『殺されて』いました。」

マリクの言葉に村人たちが動揺する。今まで信じてきた帝国が自分たちを殺す……そのようなことなどありえないと思ったのだ。だが、動揺する村人たちにマリクは言葉を続ける。

 

「信じられないのも無理はありません。彼らはリベール王国の紋章の銃を持ち出してきていた。そこにいる彼らは『リベールでの裏付け』を持ってきてくれました。今回の出来事に関しては『リベールの関与』はありません。」

そもそも、国力だけで言えば圧倒的軍事力を持つエレボニア相手に喧嘩を売るとなれば、エレボニアですら攻略不可の切り札を作るか、カルバードの力を借りる二択しかない。そもそも、それ以前の問題としてリベールのアリシア女王は積極的侵略を否としている。物理的にも精神的にもリベールが喧嘩を売る理由など存在しない。

 

「そこで、私は一計を案じました。皆さんの身を守るとともに、このような非道を起こしたエレボニアに対しての『倍返し』を。皆さんには、リベールに移り住んでいただき、以後の協議については私が責任を負います。ただ、この地には戻ってこれなくなります。誰かが生きているとなれば、躍起になって殺しに来るでしょう………それで、よろしいでしょうか?」

命には代えられないこと……それは、誰しもがわかっていることだ。だが、故郷を捨てる……そのことは辛いものがあるのは事実だ。

その時、カリンが声を上げた。

 

 

 

「お願いします、マリクさん……私は、生きなければいけない。生きて、レーヴェとヨシュアの二人に会うまでは……会って、共に生きていくために」

その強い言葉を呟いたとき、カリンの背中に琥珀色の紋章が浮かび上がる。

 

 

 

「えっ、カリンさんに!?」

シルフィアは驚きを隠せず、唖然とした表情で呟き、

 

 

 

「おいおい……こりゃ大変……って、アスベル!?」

マリクも疲れた表情で呟き、アスベルに同意を求めようとした時、アスベルの異変に驚く。

 

 

 

「?どうかしたのか?シルフィ、何かついてるのか?」

アスベルは狐につままれたような表情でシルフィアに問いかけると、

 

 

 

「………アスベル!?貴方もなの!?」

シルフィアはアスベルの背中に浮かび上がった青紫の紋章にまたもや驚きを隠せなかったのであった。

 

 




はい、ということで“守護騎士”が増えましたw

生存フラグ立てる何人かはそうなってもらいます。

いやあ、細かい設定がないって便利だなあww

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