英雄伝説~紫炎の軌跡~   作:kelvin

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第81話 グランセルの事情

~遊撃士協会 グランセル支部~

 

「おや、皆さん。思っていたより随分とお早い到着ですね。」

「久しぶり、エルナンさん……と言っても、数日振りなんだけれどね。」

「久しぶりね、エルナン。」

中に入ってきたエステル達の姿を見て、自分が思っていたよりも大分早かったようで……エルナンは珍しく驚きの表情を浮かべ、エステルとシェラザードは挨拶を交わした。

 

「ええ、大半の方々もお久しぶりです……そこのお二人とは初対面ですね。初めまして、グランセル支部のエルナンと申します。」

「ご丁寧にどうも……スコール・S・アルゼイドです。」

「リィン・シュバルツァーです。よろしくお願いします。」

他の面識ある人たちに言葉をかけると、初対面であるリィンとスコールに自己紹介をし、二人も簡単に自己紹介をした。

 

「ええ、こちらこそ。にしても、協力員に帝国の方々……シュバルツァー“侯爵”縁の方がいるとは思いもしませんでしたが……」

「えと、リィン?確か、シュバルツァー家ってこの前の襲撃事件まで“男爵”位だったよな?」

「いや、俺も初耳なんだが……多分、俺がこっちに来てから……だと思う。」

「帝国方面の筋から連絡を頂きまして、どうやらユミルで一騒動あったらしく……皇族護衛の功績として“侯爵”位を賜り……帝都の北側、つまりは黒竜門を含むラマール州・ノルティア州・クロイツェン州の一部の割譲、更にはトリスタ、トラヴィス湖を含む直轄領の一部を治めることになったそうです。」

「………」

エルナンから聞かされた内容に唖然となったリィン。それもそうだろう……爵位だけでも驚きだというのに、自分の父親が治める領土まで拡大するとは思いもしなかったためだ。

 

「フム……貴族たちは反対しなかったのかな?誇り高き帝国貴族ならば皇族といえども異論が出ないわけはないだろうしね。」

「だな。<四大名門>の領地まで入っている以上、何らかの声明位は出していると思うが……」

「それもそうね。」

帝国出身であり、内情を『一番』よく知るオリビエ……元帝国出身ではあるが、国境を接している地方出身でその実情を目の当たりにしてきたスコール……帝国でもトップクラスの遊撃士として活動していたサラ……三人の反応はそう言った内情を知る者にしてみれば『当たり前』の反応だった。

 

「詳しい事情は分かりませんが……どうやら、貴族たちですら反論できない『何か』でその話に繋がったようです。」

「………」

事の発端は、ギルドのユミル支部廃止……それを帝国政府と<四大名門>が迫り……正規軍と領邦軍が男爵領を包囲するという一触即発の状態にまで発展した。だが、それはアスベル達が残した『置き土産』によって排除されることとなった。

 

『てめえら、俺のダチに手え出そうとはな………今度は遠慮なく潰させてもらうぞ。』

『今回ばかりは命の保障なんて出来ませんので………恨まないでくださいね。』

『ハハハハハハッ!!流石はバルデル。これだけの奴らと戦える機会が巡ってくるとは……やはりバルデルは“闘神”そのものだな。』

『ホント、凄い運の良さだね。』

『……やっぱこいつら、戦闘狂だわ。』

『だろ?』

“闘神”バルデル、“赤朱の聖女”シルフェリティア、“赤い死神”ランディ……『赤い星座』と、“驚天の旅人”マリク、“絶槍”クルル……『翡翠の刃』と、助っ人としてユミルに来ていた“調停”ルドガー……ある意味一線級の連中がユミルに集結していた。更には、

 

『わしの憩いの場を壊そうとするとは……おしおきせねばなるまいの。』

『私も戦います……父様と母様の……兄様と私の故郷を守るために。』

“剣仙”ユン・カーファイ……そして、後に“氷剣”と称されることとなるエリゼ・シュバルツァーの姿だった。その結果……包囲していたはずの軍はその全ての“装備品”をまたもや奪われたのだ。

 

相次ぐ軍の失態……交渉の全権を担っていたマリクはユミル支部廃止を飲む代わりに、ユミルへの賠償をはじめとした『シュバルツァー男爵側が提示する要求…その全ての責任の執行』を要求……結果として、先日護衛の任を遂行したエリゼの功績としての爵位……それに付随する形での領地割譲と相成ったのだ。無論、<四大名門>は反発したものの……『平和的なお話』によって<四大名門>は沈黙せざるを得ず、ドライケルス大帝の血縁を引く名門である事実を持つシュバルツァー家は実質的に『エレボニア皇家』のお墨付きを得て……後に<五大名門>の一角を担う『獅子の護り手』として、その影響力を強めることとなった。

 

「………ユミルでの騒動があったってことに驚きだけれど、それ以上の驚きしか出てこないんだが………というか、言葉が思いつかない。」

「俺にもその気持ちはわかる。十年前の時も、いきなりリベール領になって、しかも侯爵位だからな……」

「……(いやはや、鉄血宰相も四大名門も哀れとしか言いようがないね。どうやら、彼らの辞書には『人外』という単語が無いみたいだね……)」

ある意味自分で自分の首を絞めている状態の革新派と貴族派………前回の襲撃事件で懲りているはずなのに、同じ愚行を繰り返す様は最早『阿呆』と評する他ない状態だ。まぁ、『人間』という尺度でしか測れない人達にそれすら飛び越えた存在など推し量れないのは無理もない話ではあるが……

 

「こないだ聞いた婚約の事といい、何かとんでもないスケールの話になってるわね……あたしは絶対に体感したくないけれど。」

「俺らには縁がなさそうな話だがな……エステルの言い分には同感だ。」

「あはは……その、心中お察しします。」

「その……まぁ、頑張れリィン。」

小貴族が気が付いたら大貴族に……夢でも見ているかのような事実にエステルとアガットは揃ってため息をつき、ある意味近しい身分のクローゼとシオンはリィンに励ましの言葉をかけた。

 

(俺、女神(エイドス)様に粗相でもやらかしたのかな………)

「フフフ、お困りのようだね……ここは雰囲気を変えるために一曲」

「演奏せんでいいわよ!!」

目に見えそうな位負のオーラを纏わせつつ、落ち込んでいたリィンにオリビエはリュートを取り出そうとしたが、エステルは怒ってオリビエの行動を諌めた。

 

「やれやれ……エステルの周りはどうしてこうも『非常識』なのかしらね。」

「(それを言ったらお前さんも含まれるんだが……)ところで、応援要請とは何です?」

ある意味自戒に聞こえるシェラザードの言葉にツッコミを入れたくなったが、それは自分の性分ではなく……あとは、このまま続けていると話が一向に進まないために、ジンはエルナンに本来の用件を尋ねた。

 

「おっと、すみません。実は、生誕祭から不戦条約の締結式まで、王国軍の依頼を受けることになったのです。」

「軍の依頼、ですか?」

「ええ、簡単に言えば祭での催し物の協力、博覧会や締結式関連の警護ですね。」

「成程、生誕祭と不戦条約が重なったために、軍の手が回らないということですね。」

本来であれば生誕祭と不戦条約は別個で執り行う予定であったが、リベール国内の早急な安定化とクーデター事件で混乱した国民に明るい話題を提供する……アリシア女王の計らいによって、生誕祭の準備は今まで以上に活気あふれたものとなっていた。その為か、慢性的な人手不足となっていて……軍だけでなく遊撃士も忙しくなっている状態だった。

 

「後は今回の条約に際して招かれる国賓の方々……必要ならば、そちらの方々のフォローも我々の方で行う手筈になっております。これも、軍の司令官……カシウスさんの意向ですね。」

「やっぱり父さんなのね……というか、どうせ『面倒なことは遊撃士(エステル達)に押し付けておけばどうにかなる』とか思ってんじゃないの?あの不良親父は……」

「あのオッサンならやりかねねえな……」

「それはアタシも同意見ね……」

「……すまん、カシウスさん。俺も彼等と同意見だ。」

「否定できないな。むしろ肯定だな。」

エルナンから伝えられたカシウスの意向に、彼のことをよく知る面々―――エステル、アガット、シェラザード、ジン、そしてシオンは思い思いの言葉を呟いた。

 

「恐らくそれに付随する形となりますが……軍から相談がありまして。あとは先程連絡を貰ったのですが、迷子の依頼ですね。」

「つまり、急ぎはその二件ってことね。軍の相談っていうことは、『結社』がらみなの?」

「それなんですが……どうも通信では相談しにくい内容らしいんです。ですから直接、軍の担当者が来て事情を説明してくれるそうです。」

エステルの疑問にエルナンは真剣な表情で答えた。

 

「ふむ……通信では相談しにくい内容か。ひょっとしたら盗聴を警戒してるのかもしれないね。」

「盗聴!?」

「その可能性が高いわね……」

「ええ。導力通信は便利ですが傍受される危険もあります。ギルド間の通信であれば盗聴防止用の周波変更機能(スクランブル)が使えるんですけどね……」

オリビエの推測にエステルは驚き、サラはその可能性を示唆していたようで驚く様子もなく考え込み、エルナンも特に驚いた様子はなく頷いた。

 

「その盗聴防止の機能は軍との通信には使えないんだ?」

「軍は軍で、独自の通信規格を採用しているので無理なんです。通常交信しかできません。」

「そうなんだ……うーん、どうせだったら同じ規格にしちゃえばいいのに。」

「まあ、協力しているといっても一国の軍隊と国際的な民間組織だ。情報保全の独自性は避けられんさ。」

エステルの提案にジンは苦笑しながら答えた。

 

「……エルナン。どうやらあんたは、軍の相談が何なのか見当がついてるみてぇだな。でなけりゃ、わざわざ俺たちをボースから呼んだりしねえだろ。」

「おや、見抜かれましたか。これは私の読みですが……どうやら『不戦条約』に関する話である可能性が高そうですね。」

アガットの指摘を受けたエルナンは口元に笑みを浮かべた後説明した。

 

「『不戦条約』……それって最近、色々な所で耳にしてるけど。具体的にはどんな内容の条約なの?」

「女王陛下が提唱されたリベール、エレボニア、カルバード、レミフェリア―――西ゼムリア地域の四ヶ国間で締結される条約なんです。国家間の対立を武力で解決せず、話し合いで解決すると謳っています。」

「え……!それじゃあ戦争がなくなるってことなの!?」

エルナンの説明を聞いたエステルは首を傾げて尋ね、クロ―ゼが説明をした。それを聞いたエステルは驚いた表情でクローディアに再び尋ねた。

 

「決定的とも言える強制力はありませんが………それでも抑止力にはなりますし、国民同士の友好的なムードにつながるとお祖母様は考えていらっしゃるそうです。」

「そっか……」

「さすがはアリシア陛下だ。いい目の付け所をしてらっしゃる。」

「4つの国が仲良くできるきっかけになるといーですね。」

クロ―ゼの説明を聞いたエステルはどことなく嬉しそうな表情をし、スコールは感心し、ティータは嬉しそうな表情で頷いた。

 

「その不戦条約が、来週末に『エルベ離宮』で締結されます。外国の要人も集まりますしメディアにも注目されるでしょう。そんな状況で、もしも『結社』が何かを企んでいるとしたら……」

「確かに……シャレにならないわね。ちなみに、締結式には大使さんが?」

クロ―ゼの心配にエステルは真剣な表情で頷いた後、その要人が気になって尋ねた。

 

「それなのですが……締結式前に開催されるZCFの総合博覧会の関係で、かなりの数の要人が訪れることとなっています。エレボニアからは宰相名代のレーグニッツ帝都知事とラインフォルト社代表のアリサ・ラインフォルトさん、カルバードからは国家元首サミュエル・ロックスミス大統領とヴェルヌ社代表のニコル・ヴェルヌさん、レミフェリアからは国家元首アルバート・フォン・バルトロメウス大公とフュリッセラ技術工房代表のティオ・プラトー総合技術局長、更には招待客としてクロスベル自治州共同代表、ヘンリー・マクダエル市長がリベール入りすることになっています。」

錚々たる面々……その中の知っている名前にティータが反応した。

 

「ふえっ、ティオちゃんがこっちに来るの!?」

「ティータ、知り合い?」

「うん。クラトスさんの紹介で、一年ぐらいおじいちゃんのもとで修行してたんだ。私と同い年なのに工房の所長だなんて、やっぱりティオちゃんはすごいなぁ~。」

「はぁ!?同い年っつーことは……12歳で所長だと!?」

「えと、労働法とかに抵触しないのでしょうか?」

「クローゼ……言いたいことは解るが、それを言ったら俺はどうなる……」

「最近の子どもは末恐ろしいな……」

「すごいな~。きっと可愛いから凄いんだよ!」

「何よ、その理論は……」

ティータの言葉にアガットは驚きを隠せず、クローゼは冷や汗をかきながら疑問を述べ、シオンはジト目でクローゼの方を見つつ反論し、ジンは自分よりも年下の子どもの末恐ろしさに引き攣った表情を浮かべ、アネラスは力強い口調で持論を展開し、それを聞いたシェラザードは思わず頭を抱えたくなった。

 

「というか、ラインフォルト社とヴェルヌ社は双方共に現取締役の実子とは……」

「スコール、知り合いなの?」

「一方的な顔見知りだな。興味があって調べた時に偶然知ったってだけさ。」

スコール曰く、ちょっとした興味本位で今の経営者の事を調べた際に知ったことだそうだ。

 

「ふ~ん………あれ?マクダエルって確か………」

「ヘンリー市長はエリィの祖父よ、エステル。」

「あー、成程ね。エリィも一緒に来てるのかしら?」

「フフ……あの可憐な令嬢と見えれば尚いいがね。」

聞き覚えのある名字に首を傾げるエステル……それに説明をするシェラザードの言葉を聞いてエリィのことを思い出し、彼女の事を耳にしたオリビエはいつものように軽い口調で述べた。

 

「というかオリビエ、余計な醜態晒して恥をかくような真似は止めなさいよね。」

「解ってはいるさ。」

念のために釘を刺すような言い方でオリビエに忠告したが、彼はいつもの調子を崩すことなく返事を返した。それにジト目で彼の行動や言動を怪しんだが……とりあえず、もう一つの依頼の事を尋ねた。

 

「どーだか……あと、迷子の依頼は?」

「エルベ離宮からです。何でも……」

観光客の子供らしき迷子を保護したが……保護者が見つからずに困っている、とのことらしい。要するに、その子の保護者を見つけてほしいとの要請ということだ。

 

「そりゃあモチロン、引き受けさせてもらうわ。シェラ姉もいいよね?」

「ええ、問題ないわ。ただ、こちらも要請のことがあるから、少し急ぎましょうか。」

「助かります。エルベ離宮に勤めているレイモンドさんという執事がその迷子を預かっているそうです。離宮に着いたら訪ねてみてください。」

「わかったわ。」

そして、エステル、シェラザード、ティータ、リィン、クローゼがその迷子を捜すためにエルベ離宮へと向かうことになった。

 

 

 




ユミルというかシュバルツァー家ですが……色々パワーアップしました。

解りやすく言うと、ラマール州とノルティア州の接している境界線がシュバルツァー領によって完全分断、ヘイムダル(直轄領)と接していたノルティア州(アンゼリカの実家が治めている地域)、クロイツェン州(ユーシスの実家が治めている場所)の間にシュバルツァー領が割り込む形となります。

その要因はエリゼの護衛とギルド襲撃事件の際の『非道』……さらには今回の件での『非道』です。尤も、オズボーンはそれすらも利用して己の力を高めるための手段にするでしょう……それを織り込んだような形での事の次第です。

この章は少し長めです。今まで駆け足的にやってきたので、ここらでまったり書いていく予定です。『お茶会』もありますからねw

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