英雄伝説~紫炎の軌跡~   作:kelvin

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ろ、6000字も書いてしまうなんて……

ポンポン思いつくんだからしょうがないでしょ!!(自戒)


第9話 動き出した者たち

―ロレント郊外 アスベルの家―

 

「ブライト家に?」

何時ものように朝食を食べ終えた後、アスベルの提案にシルフィアは首を傾げる。

「ああ。色々世話になっているからお礼のあいさつも込めて行こうと思って。」

「確かにね。私も行こうかな。エステルには会ってみたいし。」

ただ、後のことに影響を及ぼさないよう必要最低限にとどめることを確認して、菓子折りと包みを持って出かけることにした。

 

 

―ブライト家―

 

「おや、珍しいお客さんだ。」

 

ベランダで本を読んでいたカシウスは近づいてくる気配を感じ、視線をその方へ向けると二人の姿を見つけて声をかけた。

 

「お久しぶりです、カシウスさん。」

「ああ。師匠はもう発ったのか?」

「ええ。カシウスさんによろしくと言っていました。」

「はぁ…相変わらずのお人だ。」

 

どうやら、ユン師匠の放浪癖と気まぐれはいつものことらしく、カシウスはアスベルの言葉を聞いてため息をつく。そんな人に師事し、“剣聖”と呼ばれるほどの腕前を身に着けただけでもこの人の凄さが解る。同じように師事したアスベルだからこそわかる話なのだが。

 

「今日は非番ですか?」

「まぁな。ま、大したものはないがゆっくり寛いでいくといい。」

シルフィアの問いに答え、カシウスは笑みを浮かべて歓迎の言葉を言った。

 

「あら、あなた。そちらの可愛らしいお客様は?」

 

すると、玄関の扉の方から声が聞こえ、そちらには長髪の女性が立っていた。彼女こそがカシウスの妻であり、エステルの母親であるレナ・ブライトである。

 

「はじめまして、シルフィア・セルナートといいます。」

「どうも、アスベル・フォストレイトといいます。で、つまらないものですが……」

 

シルフィアとアスベルは自己紹介をし、アスベルは持っていた菓子折りをレナに渡す。

 

「あらあら、わざわざありがとう。私はレナ・ブライト。夫が色々お世話になったみたいで。」

「いえいえ、むしろこちらが世話になっているぐらいです。」

 

レナの言葉にアスベルはお礼の言葉を返す。事実、初めて会ったこの世界の人間がカシウスだったということは、本当に『奇跡』であり『幸運』であった。それ以外の人間だとここまですんなり話が進まなかった可能性すらあるのだ。

 

「あれ、そのひとたちはだれ?」

レナの後ろからひょっこり顔を出してこちらを見た少女。その容姿はレナと瓜二つ……彼女はエステル・ブライト。カシウスとレナの子どもである。

「俺はアスベル・フォストレイト。アスベルでいいよ。」

「私はシルフィア・セルナート。シルフィと呼んで。」

「あたしはエステル・ブライト。エステルでいいよ!」

この後、昼食ということでブライト家に招かれることになった。

 

 

―ブライト家 居間―

 

「美味しかったよ。」

「でしょ?おかあさんの作るオムレツはとっても美味しいんだから。」

「言いすぎ、とは言えないね。本当に美味しかったし。」

三人は先程の昼食、レナの作るオムレツについて思い思い感想を述べていた。

 

「ふふっ、そこまで言ってくれると作った甲斐がありますね。」

「俺に言わせればレナの料理こそが世界一だと思っているからな。本当に自慢の妻だよ。」

「もうっ、あなたったら」

そして、さらりと惚気ているカシウスとレナだった。あの剣聖がこの中ではただの『カシウス・ブライト』だということを感心しつつ、二人の周りの空気に内心呆れていた。

 

「えーとエステル、いつもこうなの?」

「おとうさんが家にいるときはそうかな。すっごく仲がいいんだよ♪」

「あはは……(剣聖も胃袋を握られれば頭が上がらないってことかな…俺の人生って、こういう人間に会うのは宿命なのか…?)」

呆気にとられつつもシルフィアはエステルに尋ね、エステルは笑顔で答え、それを聞いたアスベルは目の前に映る光景を見て、転生する前に見ていた光景と被って見えることに苦笑を浮かべた。

 

「さて、ただ挨拶に来ただけではなさそうだな?」

「まぁそうですね。」

「ふむ……場所を移そう。」

 

カシウスはアスベルに来訪の意図を考え、彼に尋ねる。ユン師匠の伝言と二人への処遇の礼のことは嘘ではないものの、その裏にある『本当の用事』を済ませるために訪れたのでは、と……その考えが当たっていたようで、カシウスは自分の書斎に二人を招き入れる。

 

 

―ブライト家 書斎―

 

「武器管理の徹底……だと?」

「ええ。特に王国軍のものに関してです。」

「……何故、そのことの提案を?」

 

真剣な表情で会話を交わすアスベルとカシウス。一方、何が何だかわからずに首を傾げるシルフィア。

 

「ユン師匠から『軍馬に気をつけろ』と言われたのです。で、該当する国となれば……」

「『黄金の軍馬』……つまり、エレボニア帝国か。」

 

リベールの北側と国境を接するエレボニア帝国――西ゼムリア地方の覇権をカルバード共和国と争う二大国のひとつ。その軍事力は推して知るべし、ともいえる。かの国がその気になれば今のリベールなど瞬く間に制圧されるのは明らかに解ることだ。

 

「だが、エレボニアにはリベールに攻め込む大義名分など……待てよ、まさか……」

「心当たりが?」

「先日、ハーケン門から現在は使用されていない旧型の導力銃が百丁ほど消えていたらしい。壁には爆破された跡があった。ただ、運用停止から三年も経っているから、まともに運用するのは難しいとして奥に保管していたそうだ。」

 

旧型の導力銃。それも三桁の数。停止から三年となれば、最低でも半数は使えるという推定……小規模の部隊であれば充分過ぎるほどの数だ。

 

「!?その銃に、リベールの紋章は?」

「入っている。………アスベル、お前が言いたいのは、まさか……」

「ええ。エレボニア側の人間が盗んだ可能性が高いでしょう。それも、国境に接して警備していた人間ならばリベールの装備の変化などは逐一把握しているでしょう。……『その銃』で『大義名分』を作り、リベールに堂々と侵攻するための『口実』として。」

 

戦争というものはある意味人間のエゴだ。史実の戦争は大きく分けて『欲望によるもの』と『命の危機が迫っていたため』の2つだ。細かく考えれば色々あるのかもしれないが……

 

「リベール国内の可能性も考えたのですが、レイストン要塞の次に警備体制の厳しいハーケン門で、わざわざ壁の発破までやった事実……大きな音が出れば、兵士たちが押し寄せてきますから、外へ持ち出したのでしょうが……国内の人間なら、最新式の銃を奪う方が効率良いですし。」

 

今回の想定ではエレボニアが将来のカルバードとの全面戦争における制海権・制空権の確保という目論みで、『自国民』を殺害して『敵国』に仕立て上げる……盗まれた銃で村一つを消滅させ、徹底的な情報操作と隠蔽でリベール侵攻の言い訳とするために。

 

「盗まれた物を追跡するのは難しいでしょう……仮にその行先が国外ならば尚更です。」

「ああ……解った、軍の増強を急ぐよう俺から将軍に進言しよう。君たちはどうする?」

「それなんですけれど、私たちに帝国への通行許可証とボース行きの手配を出してほしいと思いまして。」

「この時期に…この時期だからこそ、か。娘と近い歳の君らに頼む他ないのも忍びないが、頼む」

 

アスベルの進言とシルフィアの頼みに、カシウスは内心自分の娘を戦場に行かせるような印象を浮かべて、苦い表情でその頼みを了承し、託した。

 

「解りました。できる限りの事は致します。」

「承りました。」

二人は深々と頭を下げ、部屋を出た。

 

(やれやれ……どうやら、彼らは『戦争』を予測して俺を訪ねて来たか……)

カシウスはあの二人の思考に脱帽していた。ユン師匠の言葉からそこまでの結論に至る『先見の明』に。所々飛躍した論理はあったものの、現在の情勢から鑑みればそうなっても何ら不思議ではない状況に。

 

(ん?)

ふと、カシウスは置かれていた包みを見つけ、開ける。

そこには棒が二本、そして剣と紙切れが入っていた。

 

『先日のお礼です。』

(礼にしては大きすぎるだろう……)

包みに入っていた武器を見て、カシウスは苦笑を浮かべた。

 

 

―エリーズ街道―

 

レナやエステルに挨拶をしてアスベルとシルフィアはロレントに向かっていた。

 

「まさか、アスベルがあそこで提案するなんて……」

「あくまでも忠告の範疇だよ。『備えあれば憂いなし』……念のため、ZCFにもユン師匠経由で連絡してもらったから。」

「ユンさんが?」

「あそこのラッセル博士とは酒飲み友達らしい。ついでに、導力が万が一停止した時の対策もしておくよう進言してもらった。」

そして、ユンにお願いしてZCF(Zeiss Central Factory:ツァイス中央工房)にいる天才博士、アルバート・ラッセル博士にあらゆる対策をお願いした。これから攻めてくるであろうエレボニア、もしくはカルバードへの対抗策。さらに、その先をも見据えた対策も……

 

「ちゃっかりしてるね。で、私たちはボースからハーケン門、目指すは『ハーメル』ってことね。」

「ああ。でも、流石に全員は助けられないぞ?」

「……まぁ、そうだね。流石に二人だけだとね。」

いくら優れた質でも、圧倒的な量で駆逐されるのは世の常。そのことを重々承知で二人はロレントから飛行船でボースに向かい、

ボースから徒歩でハーケン門に向かった。

 

 

―ハーメル村近郊―

 

地図を頼りに二人がハーメルを目指していると、見慣れない男性が道の先に立っていた。

金髪金眼の男性で、派手さよりも機能性に優れた服を身に纏い、鍛え上げられた肉体が彼の戦ってきた戦歴を物語っているようだった。

 

「………誰?」

「少なくとも、俺の知っている人間じゃないな……」

二人もその人間を知らず、首を傾げているところにその男性が声をかけてきた。

 

「ふむ……そこの二人、名前は?」

「アスベル・フォストレイトだ。」

「シルフィア・セルナート。」

「ああ、違う違う。俺が聞きたいのは、お前らの『転生前』の名前だ。」

男性に促されて名前を名乗るが、『聞きたいのはそれじゃない』とでも言いたげな表情を浮かべて呟く。

 

「そう言うってことは………そういや、貴方みたいなのは出てきていませんからね。」

「おうよ。転生前の名は獅童智和(しどうともかず)ま、うだつの上がらないヒラのリーマンだった人間だ。今のオレの名はマリク・スヴェンド。夢と真実を追いかける傭兵さ。」

金で雇われる傭兵にしては、とてもではないがかけ離れすぎている人間だ。

ただ、その実力は油断ならない。

 

「転生前は四条輝、今の名前はアスベル・フォストレイト。保証人はあのカシウス・ブライトだ。」

「マジかよ!?ちゃっかり勝ち組じゃねえか。」

「いや、勝ち組とかって……シルフィア、自己紹介を……って、シルフィア?」

アスベルの自己紹介を聞いて驚くマリクに溜息を吐くアスベル、そしてアスベルの自己紹介を聞いて驚きの目でアスベルの方を見ていた。

 

「え、あ、アスベル、今のって……」

「ああ、本当だけれど?」

戸惑っていたシルフィアにアスベルは今言った事が真実であると述べると、

 

 

「………あっきー!!」

シルフィアは涙を堪えられずにアスベルに抱き着いて泣き出した。

 

 

「って、ええ!?」

「ひゅー、やるねー」

戸惑うアスベルに、からかいの表情で二人を生暖かく見ているマリクだった。

 

 

しばらくすると、シルフィアは落ち着き、二人に事情を説明し始めた。

 

「私の転生前は“朱鷺坂詩穂(ときさかしほ)”、転生前のアスベルとは幼馴染だったの。」

「いや……ちょっと待て。事故にあったのは俺だけのはずだぞ?」

それに関しては間違いない。友人たちは奇跡的にも軽傷で済んでいたはずだ。流石に記憶が断面的である以上確証とは言えないが。

 

「それは事実なんだけれど……そっか、輝は知らないんだよね……」

「?何がだ?」

「その、輝の事故で早めに切り上げることになって……帰りの飛行機の中でハイジャックが起きたの」

次々と出てくる衝撃的な事実に言葉が出ない。こっちは事故、シルフィアはハイジャック?もはやなんかの陰謀なのでは、とも思ってしまう。

 

「もしかして、SPRLD42便のことか?」

「え、そうですけれど……貴方も!?」

「ああ。俺は実家からの帰りだったんだが……その時の事はよく覚えてる。」

マリクから出た言葉にシルフィアは驚き、マリクも内心驚きを隠せなかった。そして、マリクは話を続けた。

 

「ハイジャックされた飛行機は行き先の空港で胴体着陸、その火花で出火して炎上。俺は運良く生き残ったが、妻と娘は……」

「心中お察しします。」

「ありがとうな。で、死者も何人か出ているって聞いた。だが……」

マリクは苦虫を噛んだような表情で言葉を紡ぐ。

 

「葬式の後、警察のお偉い方がやってきて『ハイジャックの事は誰にも言うな、言えばお前の人生は終わりだ』と言って、大量の金を置いて出て行った。俺は気付いていたんだ、奴らが裏で政府と繋がりのある連中だったことに。ダチが何人かいたし、その事件を起こした奴らの中にもいた。案の定金の力で口封じさ。」

「まさか……」

「金は俺の知り合いに渡した。そして、俺は身を投げた…気が付けば、神様が拾ってくれて、傭兵をやってる。不思議な人生だろ?」

………愕然、の一言に尽きるだろう。壮絶な事柄、抗うことのできない絶対的権力……その不条理に、彼は殺されたのだ。

 

「ま、昔は昔だ。神様から『妻と娘も別の世界で転生している』って聞いたときは涙が出たぐらいだぜ。今のオレは傭兵、それも金というみみっちいもんじゃなく、義で動くことを信条にしている。」

その様子から、転生前とは完全に決別している様子であると断定できる。

 

「義の傭兵って……その傭兵さんがここで何しているんですか?」

「ああ。俺は自他ともに認める筋金入りの軌跡シリーズマニアでな。『世界の不条理から救う』という目標で猟兵団『翡翠の刃』をやってる。これでも団長で、『赤い星座』や『西風の旅団』の団長とも互角に渡り合えるぜ。」

 

猟兵団…猟兵≪イェーガー≫…傭兵の集団で、金さえあれば何でもやってのける集団……いや、私設の部隊と言っても差し支えない。そして、『赤い星座』や『西風の旅団』という強大な猟兵団が存在しているが、彼が団長を務めるという『翡翠の刃』それらと互角に渡り合えるだけの実力を持つとマリクは自負している。

 

「あの赤い星座の団長『闘神』や西風の旅団の団長『猟兵王』と互角って……嘘は言っていないみたいだけれど。」

「しかも、不条理を変えるということは……一介の猟兵団の頭で終わる気はないということか。」

「おうよ。俺らの猟兵団は『導力』ではなく『魔導』の武器を使っている。」

「はぁ!?『魔導』って……」

「ああ。転生前のゲームで似たようなものがあったから、それを装備に生かせないかと試行錯誤したら、できたのさ。」

「め、滅茶苦茶ね。」

どうやら、不条理を片付けるためならば本気で手段など選ばない人間だということは、その言葉で理解したアスベルとシルフィアの二人だった。

 

「で、なんでお二人さんがここにいる?」

「ハーメルの悲劇から何人か救い出そう、と思ったが……一人だけじゃなさそうですね?」

「ご明察。ここに来たということは、協力してもらえるってことでいいんだな?」

「ああ。」

「ええ。」

「了解だ。」

 

マリクは事情を話し始めた。数週間前、エレボニアの遊撃士協会にエレボニア軍の不審な動きの一報が入った。だが、遊撃士は民間人への被害が出ていない現状では動くことができない……そこで、内密にマリク率いる『翡翠の刃』にその陰謀の調査と驚異の排除を依頼した。

 

マリクは腕の立つ少数精鋭のメンバーで調査に当たり、その結果武装した集団が南部に潜伏しているという情報を突き止めた。だが、敢えて排除は行わず、泳がせて動向を探り……結果、ハーメルへ襲撃することが判明したのだ。

 

「こちらのプランなんですが……まず、襲撃は予定通り行わせます。『武装した集団が王国の紋章の入った銃で住民を殺した』……この事実を帝国に伝える役を襲撃した人間の誰かに担ってもらい、『例のアレ』も予定通りに……ですが、ちょっとここで細工をします。」

「細工?」

アスベルの意味深な発言にマリクが尋ねる。

 

「ええ。そちらの面々で密かに襲撃した兵を追い詰め、殺害してください。念のため、王国の紋章の入った銃は回収してください。そして、彼女に関してはリベールで引き取る予定でしたが……それに関してはそちらにおまかせします。」

「成程……上手くいけば『彼』を引き抜ける材料になるわけだな。シルフィアはいいのか?アンタは……」

「まぁ、必要な犠牲はあります……後で、エレボニアに『倍返し』しますよ。」

マリクの懸念をよそに、不敵な笑みを浮かべてシルフィアが答えた。

 

「そして、『リベール王国軍がハーメルを壊滅させた』という既成事実でエレボニアが宣戦布告する……目標は誰ひとり死なせることなく、近い将来この悲劇を無かったことにすること。あの二人には過酷な道を歩んでもらうのは確定的だけれど……」

「それを言ったら、エステルもなんだけれどね……」

「何にせよ、俺たちが未来を築く一歩になるわけだ。よろしく頼むぞ、アスベルとシルフィア」

「了解した。」

「はい。」

 

選ばれなかった未来……悲劇を、未来の笑顔へと変えるため、転生した者が集い、運命の歯車は回り始めた。

 

 




またまたオリキャラ一人登場ですwイメージ的にはTOGのマリクです。

そして、薄々勘付いているとは思いますが、エレボニアはこの後悲惨な目に遭いますw

帝国は嫌いじゃないよ?

ただしオズボーン、テメーはだめだ。

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