英雄伝説~紫炎の軌跡~   作:kelvin

101 / 200
第72話 貫き通すために

~ロレント郊外・ブライト家~

 

「へ~。ここがエステルちゃんの家か。なんちゅうか、あったかそうな雰囲気の家やね。」

「えへへ、そうでしょ?あたしと、父さんと、お母さん……それにヨシュアとの思い出がいっぱいに詰まった場所なんだから。」

「なるほどな~。」

エステルの説明を聞いていたケビンは笑みを浮かべて頷いた。

 

「それより、そのヨシュア君ってのが一足先に帰ってきているわけか?」

「うん、間違いないわ。ついて来て、紹介するから。」

「……どんな野郎か知らんが、罪作りなやっちゃ。ふう……しゃあないな。」

ケビンは真剣な表情で呟いた後、家の中に入った。

 

「ただいま~、ヨシュア!ねえ、帰って来てるんでしょ!?」

「あら、エステル。お帰りなさい。フフ、前より女らしくなったわね。」

そこに別の部屋からレナが出て来て、微笑ましそうな表情でエステルを見た。

 

「あ、お母さん!ただいま~!ねえ、ヨシュアはどこ?」

「ヨシュア?一緒に帰って来たんじゃないの?」

エステルに尋ねられたレナは不思議そうな表情で尋ね返した。

 

「………あはは、帰って来てるに違いないじゃない!お母さんに帰って来た連絡もしないなんて、薄情な奴ね~。全く、ここはお姉さんとして叱ってあげなくちゃね!」

レナの答えを聞いたエステルは笑顔が固まった後、気を取り直して二階に上がって行った。

 

「エステル……?」

エステルから感じる違和感にレナは首を傾げた。そしてエステルが二階に上がった頃にケビンが家の中に入って来た。

 

二階に上がって、エステルはヨシュアの部屋のドアの前に立った。

 

「ヨシュア……入るね?………………あ。」

ノックをして入ると……誰もいないヨシュアの部屋を見て、エステルはようやくヨシュアがいなくなったという現実に戻った。

 

「あは……そっか…………あたし……バカだ……」

現実に戻ったエステルはその場で崩れ落ちた。

 

「カレシ……おらんみたいやな」

「エステル……」

そこに真剣な表情のケビンと悲しそうな表情をしているレナが入って来た。

 

「それともアレか。いったん帰って来てからまた街にでも出かけたとかか?」

「……ううん…………」

「ふう……やっと目ぇ、醒めたみたいやね。」

エステルの答えを聞いたケビンは安堵の溜息を吐いた。

 

「………そうよ、ホントはね、ちゃんと分かってたんだ……ヨシュアは行っちゃったって……。家に戻ってるはずないってちゃんと分かっていたんだよ……」

「そっか……」

「でもね……この部屋が最後だったから……。他に、ヨシュアの居場所なんてあたしには思いつかなかったから……。だから……ここでおしまい。あたしはもう……二度とヨシュアに会えないんだ……」

「エステル………!」

絶望に陥っているエステルを見てレナは思わずエステルを抱きしめた。

 

「お母さん……!ヨシュアと会えなくなっちゃったよ……!う、ううっ………」

「………そう………………」

泣き始めているエステルを慰めるように、レナはエステルを強く抱きしめ、エステルの背中を優しく撫でた。

 

「…………………諦めるの、早ないか?」

「…………?」

ケビンの言葉の意味がわからなかったエステルはレナから離れて、立ち上がってケビンを見た。

 

「所詮、運命なんちゅうもんは女神にしか見えへんシロモンや。そんなもんに縛られた気になって諦めるのは早すぎるで。大事なんは、エステルちゃんが何をどうしたいって事とちゃうか?」

「で、でも……。ヨシュアを捜そうにも何の手がかりもないし……」

ケビンに尋ねられたエステルは戸惑いながら答えた。

 

「いや、そうでもないやろ。そのカレシがどんなヤツかオレは知らへんけど……何のきっかけもなしに姿を消すヤツなんておらんで。」

「……え…………」

「最近、カレシの言動や態度で何かおかしなことはなかったか?もしくは、カレシに関係ありそうな奇妙な出来事が起こったりとかな。ずっと一緒にいたキミにしかわからんことやで。」

「……あ……!」

ケビンに言われたエステルは頭の中に思い当たる節を思い出し、声を上げた。

 

「ああっ……!ヨシュアがおかしくなったのはあの休憩所に戻ってから………うそ……どうして?なんであたし……あの時あった人が思い出せないの?」

「だ、大丈夫か?めっちゃ顔色悪いで。」

「エステル?どこか具合が悪いの?」

「う、ううん……大丈夫……」

一部の記憶……厳密に言えば、休憩所で会ったはずの人物――アルバ教授が思い出せない事にエステルは青褪めた。一方ケビンやレナは青褪めているエステルに声をかけた。

 

「そっか……ヨシュアの目的は悪い魔法使いを止めること。あの時、あたしが会った人がその魔法使いだとするなら……。それがクーデターを影から操っていたのと同じ人物なら……悪い魔法使いは、まだリベールで何かをしようと企んでいるはず……じゃあ、あたしが遊撃士として魔法使いの企みを阻止できたら………ひょっとしたら……」

「……よく気付いたな。」

エステルが呟いたその時、カシウスとシェラザードが入って来た。

 

「父さん、シェラ姉!?ど、どうしてここに……?」

カシウス達の登場に驚いたエステルは声を上げた。

 

「……悪い、エステルちゃん。定期船を降りる時、ギルドの王都支部に連絡させてもらったわ。」

「え……」

ケビンから来た意外な答えにエステルは驚いて、ケビンを見た。

 

「まったく驚いちゃったわよ。あんたを捜してギルドに行ったらちょうど連絡が入ってくるんだもの。で、慌てて先生と一緒に出発直前の貨物飛行船に乗ったわけ。」

「…………ケビン神父といったか?連絡してくれて本当に助かった。礼を言わせてくれ。」

「……ありがとうございます。」

エステルの様子を見たカシウスは安堵の溜息を吐いた後、ケビンにお礼を言った。また、レナもカシウスに続くようにお礼を言った。

 

「いや~、とんでもない。部外者が出しゃばったりしてホンマ、すんませんでしたわ。」

お礼を言われたケビンは謙遜しながら答えた。そして、エステルはカシウスを見て言った。

 

「あ、あの……父さん、あたしね……」

「判っている……深入りするなと言ったのはただの俺のエゴだ。男としての、父親としての論理をお前に押し付けただけにすぎん。そう、シェラザードに叱られてな。」

「シェラ姉……」

「ふふ、あたしも今回は全面的にあんたの味方よ。」

エステルに見られたシェラザードはウインクをした。

 

「フフ、私もシェラちゃんと一緒でもちろん貴女の味方よ?エステル。」

「お母さん…………」

「……それとあなた?」

「な、なんだ?レナ。」

レナに呼ばれたカシウスは表面上は穏やかなレナの声に突如恐怖感が襲って来て、微妙に手を震わせた。

 

「………後で私からも言いたい事や聞きたい事がい・ろ・い・ろと!あるので、忘れないで下さいね?ア・ナ・タ?」

「…………ハイ、わかりました…………」

そしてレナは凄味のある笑顔をカシウスに見せ、レナの凄味のある笑顔を見たカシウスは身体中を震わせて全身に冷や汗をかき、縮こまりながら答えた。

 

(………な、何やろ?オレが怒られた訳やないのに、こっちにまで震えが来てしまう……!ってこの感覚はルフィナ姉さんが怒った時と同じ感覚やんけ!…………というか下手したらルフィナ姉さんの上を行く怖さや………!とんでもない人や……!)

(さ、さすがレナさんね…………先生、ご愁傷様です………)

一方ケビンやシェラザードはカシウスに向けているレナの怒りの余波を受け、それぞれ体を震わせた。

 

「覚悟はしていたが……あいつが居なくなったことが思っていたよりも堪えたらしい。だから、せめてお前だけは危険な道を歩かせたくなかった。命と引き替えにお前を救おうとしたレナのようになって欲しくなかった。……だが、そういう風に考えるのはお前にも、レナにも失礼だったな。今更ながらに思い知らされたよ。」

気を取り直したカシウスはエステルとレナを見た。

「父さん……」

「フフ……そうね。……でもあなた?私は今でもこうして生きているのだから、命と引き換えにこの娘を救ったなんて事を言わないで頂戴。」

「………そうだな。アスベル達には本当に感謝しているよ………」

レナに優しい微笑みを向けられたカシウスは口元に笑みを浮かべた後、レナの命を救ったアスベル達に改めて心の中で感謝した。そしてカシウスは表情を真剣にして、話を続けた。

 

「……軍を立て直すため俺はしばらく身動きが取れん。おそらく奴等の狙いはそこにもあったのだろうが……今度こそ、俺はお前のことをロクに手助けもできんだろう。それでも、決意は変わらないか?」

「……うん。あたし、まだまだ未熟だけど、それしか方法はなさそうだから……。だからあたし、やってみる。『身喰らう蛇』の陰謀を阻止してきっとヨシュアを連れ戻してみせる!」

カシウスに尋ねられたエステルは胸を張って答えた。

 

「そうか……。ならば何も言うことはない。遊撃士として……それから1人の女として。お前は、お前の道を行くといい。」

「……父さん……」

そしてエステルはカシウスに抱きついた。

 

「あたし……あたし……」

「そうだ……。大事なことを言い忘れていた。」

「え……?」

カシウスの言葉を聞いたエステルは首を傾げた。

 

「エステル、どうか頼んだぞ。ヨシュアを―――あの馬鹿息子を連れ戻してくれ。」

「……あ……うん……わかった。またこの家で……みんなで一緒に暮らすためにも、絶対にヨシュアを連れ戻すから……!」

こうしてエステルはヨシュアを連れ戻す決意をした………ケビンが去った後、エステル達は居間でこれからの方針を決めようとしていた。

 

「―――さっきも言ったように、もう俺はお前を止めるつもりはない。だが正直、今のお前の実力では結社の相手はあまりにも危険すぎる。そこで……そこら辺に関して、アスベルに頼んだ。」

「へ?アスベルに?」

カシウスの口から出た、一人の人物――アスベルの名にエステルは首を傾げる。すると、タイミングよく開いた扉……そこには、アスベルの姿があった。

 

「やあ、エステル。」

「アスベル……あ、そっか。」

「察しが良くて助かるよ。」

アスベルの姿を見て、エステルはアスベルの素性を思い出し、すんなり話が進められることにアスベルは感謝した。

 

「ねぇ、アスベル。父さんから聞いたんだけれど、あたしを運んだって……ヨシュアとも会ったの?」

「……ああ、会った。で、アイツの兄として説教したが、効果なしだった。恐らく、あの場で気絶させても問題を先送りにするだけだった。それは、ヨシュア観察の第一人者――エステルなら解るだろう?」

「う、うん……」

「エステル。ヨシュアの心を開いてやれるのはお前だけだ。だから、頑張れよ。」

「……うん!」

アスベルとヨシュアが会った事実……隠しても意味はないと感じ、アスベルの話を聞いて彼の性格を一番知っているエステルも頷いた。そしてアスベルの励ましの言葉にエステルは力強く口調で答えた。

 

「さて、エステルに行ってもらう場所なんだが……エイフェリア島って知ってるか?」

「エイフェリア島?」

「リベール南西端の島だな……アスベル、まさか。」

アスベルの言った場所にエステルは首を傾げ、カシウスはその島の概要を簡単に説明した後、『其処にあるもの』の存在に気づき、アスベルに問いかけた。

 

「ええ。エステルというよりは、他の遊撃士の方も何人か参加しますが……『天上の隼』の訓練施設、アレクサンドリア訓練場。通称『修羅の牢獄』。エステルにはそこに行ってもらう。」

「……すごく物騒な名前が聞こえたんですけれど……」

アスベルの説明にエステルはジト目で冷や汗をかきつつ、アスベルに尋ねなおした。

 

「物騒というのは間違ってはないな……正気を保てない奴は皆リベール王家に絶対の忠誠を誓うことになるしな。」

「アスベルに先生……何ですか、その洗脳施設まがいの訓練場は?」

「まぁ、否定は出来んな……」

王国軍でも精鋭中の精鋭……『天上の隼』の訓練施設:『修羅の牢獄』アレクサンドリア訓練場があるエイフェリア島。ツァイスから西南西1000セルジュ離れた場所に浮かぶ島。その東北東にあり、王国軍の訓練施設『天の牢獄』があるアルミラルダ島と合わせて“二重の牢獄”と呼ばれる場所だ。

 

ちなみに、カシウスが軍に戻ってからはそれらの訓練施設への行き来をする兵の数が多くなったとか…そして、王家への篤い忠誠心を持つ兵士が多くなったとか………

 

「…エステルに受けてもらうのは、俺らがやっているものを幾分かマイルドにした感じだけれど……遺跡探索技術、レンジャー技術、サバイバル技術、対テロ技術……遊撃士としてのみならず、結社と戦う上での実戦レベルの訓練を行う。期間は三週間。食事と睡眠以外の時間はみっちり訓練をやるつもりだ。」

……まぁ、あれを『マイルド』と言っていいのかどうかは疑問に残るところではある。というのも、あれを発案した奴(ルドガー)曰く

 

 

『あれか?俺がやりたい奴をそのまま持ってきただけだが?』

 

 

馬鹿としか言いようがない。というか、『本職』の人間が訓練メニュー考えていいのか……という疑問には、『あのメガネ野郎(ワイスマン)、俺自身気に食わねえから』という答えが返ってきた。それでいいのか、ルドガー……

 

ちなみに、原案がどのような感じかというと……

 

・遺跡探索技術(プロフェッショナルレベル)

・レンジャー技術(トップクラスの猟兵団程度)

・サバイバル技術(同上)

・対テロ技術(『執行者』最上級クラス)

 

ハッキリ言おう、『この馬鹿が』と。こんなの遊撃士どころか軍隊すら通り越した代物……お前(ルドガー)はエステル達をどこに連れていくつもりだよ…これをやり遂げてしまった俺が言うのもなんだろうけれど……一応、それよりも若干マイルドには仕上げたが、耐えきるか逃げ出すかの実質的二択状態だ。

 

「ハッキリ言えば、結社と戦うためにはそれぐらいやらないと間に合わないってことだが……どうする?」

「言うまでもないけど……あたし、その訓練を受ける。」

「ふむ、思い切りがいい。どうやら自分でも思うところがあるらしいな?」

アスベルの問いかけにはっきりと参加の意思を示したエステルの答えを聞き、カシウスは尋ねた。

 

「うん……まあね。考えてみれば、あたしってヨシュアに頼りきりだった。何か事件が起こったときはいつもヨシュアが導いてくれた。それに、レイアやシオンに頼ってたし。でも、これからは自分の判断が頼りなんだよね。だからあたし……その訓練場で自分を鍛えてみる。」

「そうか……なら、俺から話をつけておこう。軍の飛行艇を使うことになるが……グランセルからなら数時間で行ける距離だからな。」

「うん、わかった。」

カシウスの言葉にエステルは頷いた。

 

「話はまとまったみたいね。なら、エステルの正遊撃士になったお祝いをしなくちゃね。」

「あ!あたし、久しぶりにお母さんのオムレツ、食べたいな!」

レナの提案にエステルは真っ先に反応し、目を輝かせた。

 

「解ったわ………うん、こんなものかしら。じゃあ、悪いけど今から買物に行ってくれるかしら?私は今から下ごしらえを始めるから。」

メモに買って来る物を書いたレナはエステルに渡して頼んだ。

 

「うん!」

「それじゃ、俺も付き合うとしますかね。」

そしてエステルとアスベルは買物をするためにブライト家を出た。

 

「それじゃあ、あたしもエステルの事、ギルドに報告して来ますね。ご馳走、楽しみにしていますよ、レナさん。」

「ええ、腕によりをかけて作るから期待していていいわよ、シェラちゃん。ただし、お酒はほどほどにね?」

「タハハ……了解しました。」

レナの言葉に苦笑したシェラザードはエステル達と同じようにブライト家を出て行った。

 

「フフ……それにしても……アスベル君を見ていると、新しい子供が欲しくなって来るわ。」

カシウスと2人だけになったレナは微笑みながら、とんでもない事を言った。

 

「そ、そうか?よーし、それじゃあ早速今から部屋で頑張ろうじゃ……」

レナの言葉に反応したカシウスは口元に笑みを浮かべて言いかけた所を

 

「別にいいけど、もちろん常識の範囲内で。私はこれからあの子達の祝いのためのご馳走の支度があります。そ・れ・に!今夜は寝かせないつもりだから安心していいわよ、ア・ナ・タ?」

「…………ハイ………………」

レナの凄味のある笑顔を見たカシウスはさっきレナに言われた事を思い出し、顔を青褪めさせて縮こまりながら答えた。

 

 

そしてエステル達はレナのご馳走を食べ、ブライト家に泊まった後、しばらくの間ブライト家から通いながらロレントで仕事をした。

その後、エステルはグランセルに行き、そこからエイフェリア島に向かい、訓練を始めた。

 

 




気が付いたら100個目でしたw

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。