起きたらマ(略)外伝?   作:Reppu

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今月分です。


SSS34:ムーン・アタックⅣ

煙る硝煙の先、襲撃者達のMSを見てフランクリン・ビダンはまなじりを吊上げた。襲撃者が誰なのか、彼には一目で理解出来たからだ。

 

「宇宙人共がっ!何処までも邪魔をして!!」

 

目の前で稼動している機体はどれも大戦中にジオン軍が運用していた機体だ。ゲルググはともかく、ザクの方は大戦初期から後期まで運用していたため、相応の数が撃墜の後放棄されていたので、エゥーゴに限らず多くの武装勢力が回収後補修して戦力として組み込んでいる。公にはされていないが、エゥーゴのMSの保守整備も請け負っているこのリバモア工場でも比較的見慣れた機体だ。だがそれだけに、技術者であるフランクリンの目は誤魔化せなかった。

 

(あれほど完璧な整備が出来る連中など一つしか無い!)

 

外観や運用が同じであるため一括りにされているが、戦中のジオン軍機と戦後のMSでは明確な違いがある。それが駆動方式の違いだ。件のザクやゲルググは流体パルスと呼ばれる当時のジオン軍機のみが採用している独特の方式だ。当然ながらアナハイムには製造や整備のノウハウがあるはずもなく、実機をテストベッドに手探りでマニュアルを作り上げていた。故にその仕上がりは完璧とは言い難く、映像資料の機体と動作を比較すればその差は歴然だ。そして目の前の機体は明らかに資料の、否、それ以上の動きをしている。ならばあの機体の出所は一つしかあり得ない。

 

「全システム正常作動。ビダンさん、指示を」

 

「あ、ああ。すまない。ガトリングで牽制しつつリフレクターの展開を、次はビームが来るはずだ」

 

落ち着いた声音が届き、激発しかけたフランクリンは冷静さを取り戻す。そして声を掛けてくれた人物へ向けて彼は礼を口にした。

 

「ありがとうクロキ。君が居てくれて助かった」

 

フランクリンの言葉にクロキと呼ばれた青年はシニカルに笑って見せる。

 

「コイツは私の担当ですからね。それから礼は終わった後にして下さい」

 

クロキの言葉にフランクリンも笑顔を返した後、目の前のモニターを睨み付けた。

 

「ああ、そうだな。取敢えずこの無礼者共を片づけるとしよう」

 

彼らの言葉に応えるように、それはゆっくりと動き出した。

 

 

 

 

『なんっ、だ!?ありゃあ!?』

 

『MA?でかいぞ!』

 

「馬鹿野郎動け!」

 

浮き足立つ友軍機を思わずトッシュ・オールドリバー大尉は怒鳴りつけた。目の前に現れた想定外の敵、たったそれだけの事で動きを止めてしまう素人丸出しの新人達に、トッシュの焦りは助長される。何しろ既に一人、味方が死んでいるのだ。今は敵の偉容に意識が向いているが、それが見かけ倒しでなく実際に自らの命を刈り取れるだけの脅威であると認識した瞬間、彼らが恐慌状態に陥らないと思えるほどトッシュは楽観論者ではなかった。

 

『撃て!撃ちまくれ!!』

 

『効いていないぞ!?』

 

友軍の通信を聞きながら、トッシュは思わず舌打ちをした。襲撃実行まで時間はあまりなかったが、それでも事前の情報は出来得る限り収集していた。その中には連邦軍からのリーク情報も含まれていたことから、彼らの装備は設備破壊と対MS戦を想定した構成になっていたのだ。

 

(こんな化け物がいるなんて聞いてないぞ!?)

 

放たれ続ける90ミリはおろか、120ミリすら歯牙にもかけずに前進してくる敵をトッシュは睨み付けた。まず目を引くのがサイズだ。ダブデとまでは言わないがそれでもギャロップを優に超えるその巨体は、速度こそ無いものの見た目通り分厚い装甲に覆われているらしい。一見すると古いアイロンのようなそれは、凹凸の少ない見た目に反して様々な武器を内蔵しているようで、火線も途切れることがない。一発目が当たった新人が運が悪かったのだとしたら、残りの新人が生きているのも単純に運が良かっただけだと思える投射量だ。手強い相手、そう考えつつもトッシュはこのMAを撃破可能だと考えていた。自分も含めて新人組は実弾装備だが、カーウッド少佐の小隊はビーム兵器を携行していたからだ。特にルイス少尉の機体にはビームキャノンが装備されているため、戦艦並みの装甲であっても損傷を与えられる。それが無意識のうちに生まれた慢心であることに彼が気付いたのは、ほんの数秒後の事だった。

 

『コイツで!』

 

『えっ!?』

 

その攻撃を彼女が避けることが出来たのは、偶然などではなく日頃の訓練と彼女自身の才覚によるものだ。ルイス少尉の機体から放たれたビームが敵MAに当たると思われた時。MAが変形し機体の前面が左右に開き、次の瞬間直撃するはずだったビームがあり得ない方向へとねじ曲げられ、その先にいたクララ・ロッジ少尉の機体を襲ったのだ。

 

『あぅっ!?』

 

強引に捻られた機体はギリギリの所で直撃を避ける事に成功するが、彼女の実力を以てしてもそこが限界だった。襲いかかるビームはマシンガンを構えていた右腕を肩口から吹き飛ばし、ついでとばかりにバックパックの推進剤を誘爆させる。幸いにしてパイロットは無事なようだが、彼女の機体が戦闘不能である事は誰の目にも明らかだ。

 

「ビームを、ねじ曲げ、やがった…」

 

思わず漏れてしまった言葉に、トッシュは急速に事態が悪化している事を否応なしに認識させられる。ビームが通用しない以上、こちらの火力で頼れるのはバズーカのみだ。しかしMSとの交戦を想定して施設破壊に優先して使用したために、どれも1~2発しか残されていない。先ほどまでの防弾性能から推察するに、残りの弾で容易に撃破できるとはトッシュには思えなかった。

 

『コイツは拙いな、隊長』

 

「欲張ると碌な事が無いっすね。それにそろそろ時間もやばい」

 

破壊した機材の後ろに隠れながらトッシュはそう返した。リバモア工場はフォン・ブラウン市からそれなりに距離のある位置に建てられているとはいえ、これだけ派手に暴れて気付かないという事はまずあり得ない。当初の想定通りならば、都市守備隊との交戦も視野に入れなければならない時間だ。早急な撤退が最善、しかしそれにはあのMAがあまりにも邪魔だ。決断を下せないトッシュの耳に、通信越しの溜息が聞こえたのはその時だった。

 

『ウィルバー、ルイス、手伝え。ヤツを足止めして時間を稼ぐ。隊長はその間に負傷者を連れて撤退を』

 

「少佐!?」

 

『急いでくれよ隊長。早ければ早いだけ俺達の仕事が楽になる。ああ、それと』

 

通信越しに聞こえるカーウッド少佐の言葉の続きをトッシュは黙って待つ。

 

『次からは自分で命令できるようにしろ』

 

「了解、しましたっ!」

 

苦笑交じりに告げられた言葉になんとかそう返すと、トッシュは無線のチャンネルを開き叫んだ。

 

「1・2小隊各機、後退する!3小隊は後退の時間を稼げ!5、いや3分でいい!」

 

『『了解!』』

 

返事と共に残っていたスモークと一部の機体が装備していたダミーバルーンが膨らみ一時的に敵を攪乱、その間に素早く擱座していたクララ少尉の機体を回収しつつ、4機のザクが次々と破孔から飛び出していった。

 

『行ったか?』

 

『ババを引くのも久しぶりですな』

 

「すまんな、お前達」

 

軽口を叩く部下2人に、カーウッド少佐はそう謝罪した。

 

『先輩風を吹かせてるんです。こうでもしなきゃ恰好つかんでしょう』

 

『違いない。それで隊長、どうやります?』

 

笑いながらそう返す2人に、カーウッド少佐は指示を出す。

 

「シュツルムファウストの手持ちはあるか?」

 

『こっちは二つ』

 

『自分はありません』

 

「よし、ウィルバー、一つルイスに回せ。一気に決める」

 

『いけますか?』

 

シュツルムファウストを手渡しながらそう問うてくるウィルバー少尉にカーウッド少佐は自分の推察を披露する。

 

「ヤツはビームをねじ曲げるのに前面の装甲を展開した。恐らくあの鏡面部分がキモなんだろう。そして展開している分正面への火力投射が弱まっている。つまり正面から突っ込んであのミラーを吹き飛ばせばビームが効くはずだ」

 

『成程、それじゃ作戦は?』

 

面白そうに問い返すルイス少尉にカーウッド少佐はしっかりとした声で答えた。

 

「ヤツにジェットストリームアタックをかけるぞ」




前後編で終わる予定だったのに…。

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