起きたらマ(略)外伝?   作:Reppu

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SSS33:ムーン・アタックⅢ

時計の針は少しだけ巻き戻る。

 

「これは一体どう言うことだっ!」

 

財務部の部屋に入るなりジョン・コーウェン中将は怒鳴りつけた。彼が手にした端末には通達として次期主力MSの選定結果並びに配備に関する計画が纏められた資料が映し出されている。自身のデスクで業務を処理していたジャミトフ・ハイマン少将が仏頂面で応じた。

 

「何の事ですかな。コーウェン中将」

 

「惚けるな!何だこのRGM-80というMSは!こんなもの私は知らんぞ!?」

 

憤怒の形相でそう唾を飛ばすジョン中将にジャミトフ少将の後ろに控えていたジャマイカン少佐が眉を顰めるが、少将は気にした様子もなく問答を続ける。

 

「ああ、ハービック社が提案してきた新型ですな。それが何か?」

 

「RGM-80は現在開発中の」

 

「アナハイムが勝手に作っているMSの事ですかな?そのように呼称しているとは聞き及んでいますが、ハービックの型番は軍が正式に認めたものです。名前が同じだなどと難癖を付けられても困ります」

 

「ヌケヌケと言ってくれる!何がハービック社の新型だ!これはジオンの機体だろう!?」

 

突き出された資料には、明確にジオニック社製MSのライセンス生産品である事が明記されていた。

 

「ハービックは国内の企業ではありますが、国営でも何でもありませんからな。経営判断に軍が介入出来るものではない。そこは政治の領分です」

 

勿論軍事産業の技術は国防と直結する分非常にデリケートな内容だ。安易な提携は技術流出やスパイ活動の温床になるからだ。だが今回に限れば、技術に関しては完全にジオン側が持ち出す形であるし、ハービックから出て行くものはライセンス料だけである。生産ライン立ち上げにこそ技術者が派遣されるが、その行動範囲もしっかりと定められている。むしろハービック側が気を遣いすぎではないかと感じるほどだった。少なくとも中立地帯で条約の抜け道を使って兵器を開発しようと考える連中よりは余程問題を起こさないよう配慮していると言える。

 

「言ってくれる。だがその機体を使って戦う兵達はどうなる?必ず渡される機体はモンキーモデルになるのだ。それで戦えと貴様らは兵に向かって言えるのか!?」

 

「テロリスト共と戦うのであれば十分でしょう?中将は一体誰と戦うおつもりなのです?第一」

 

そう溜息を吐きながらジャミトフ少将は端末を操作する。そこにはアナハイムから提出されているカタログデータとハービックの機体の実働データが比較されていた。

 

「比較しましたがアナハイムの機体に比べハービックが提示している機体は10%近く価格が安くスペックは上です。主力機として更新する以上この差はとても無視出来る数字ではありません。技術に関してもライセンス生産ですから国内企業にノウハウを積ませることが出来る。中立地帯などといういつどうなるか判らない企業より有事の際は遥かに信頼できる相手だ。これ以上のメリットがアナハイムの機体の何処にあるのか聞かせて頂きたいですな?」

 

「だとしてもだ、我が国のMSの性能が敵に筒抜けではないか!」

 

苦し紛れにそうジョン中将は口にしてしまう。それは連邦軍人の多くが潜在的に持っている考えではあったが、公言して良い言葉ではなかった。

 

「中将、ジオン共和国は我が国の同盟国です。今の発言は聞かなかったことにしておきます」

 

そう言ってジャミトフ少将は視線をデスクのモニターへ戻す。その段になってジョン中将は周囲から冷たい視線を向けられていることに漸く気がついた。

 

「…っ、失礼する!」

 

肩を怒らせたままそう吐き捨て部屋を出て行くジョン中将を見送りながら、コーヒーのカップを机に置いたジャマイカン少佐が鼻を鳴らした。

 

「まるで猪ですな」

 

その言葉にジャミトフ少将は溜息と共に答える。

 

「裏表のない好漢ではあるのだろうな。だが派閥の長をやるには少しばかり考えが足りん。搦手の一つも使えんでは、部下は苦労するだろうな」

 

だから、この致命な事態にまで発展したのだ。ジャミトフ少将は机に置かれたカップを手に取ることでその言葉をコーヒーと共に飲み込んだ。それを見ていたジャマイカン少佐は片眉を上げた後、口を開いた。

 

「三日後は部屋の鍵を掛けておきましょう。暴れられてはたまりません」

 

近々実施されるエゥーゴに対する掃討作戦が僅か三日後である事を知っているのは立案者達と作戦に参加するごく一部の将兵だけであった。

 

 

 

 

そして舞台は月へと戻る。

 

『クリア!』

 

『クリア!』

 

次々と上がってくる部下達の制圧報告にトッシュ・オールドリバー大尉は静かに息を吐き出した。突入したMS3個小隊の内、第3と第4小隊の兵士が実戦を知らない新人だ。それぞれの隊長である自分とクララ・ロッジ少尉も新人とまでは言わないが実戦経験は浅い。幸いにして部隊の先任達は文字通り歴戦の兵であるため訓練相手に事欠くことはなかったし、得がたい教訓も数多く教授してもらった。それでも実戦と訓練には超えられない壁がある。だからこそここまで順調に作戦が推移し、部下達が訓練通りに動けていることにトッシュは密かに安堵した。

 

『まだ作戦中だぞ』

 

トッシュの操るザクの肩に乗せられたゲルググの手から頼りになる先任の声が伝わる。パイロットスーツに取り付けられたマイクの音声を拾い、MSの手のひらにある通信用素子を振動させることで音を伝えるというハイなのかローなのか判別しにくいこの通信方法は、ミノフスキー粒子下で確実に行える連絡手段であると同時に防諜対策としても優れている。周囲に振動を伝える物がない宇宙では特に顕著だ。

 

「すみません、少佐」

 

素直にトッシュが謝ると、通信を送ってきたカーウッド・リプトン少佐は普段通りの落ち着いた声音で答えた。

 

『解っていれば問題無い。まあ、今回はピクニックみたいなものだからな。気が緩む気持ちも良く解る』

 

「は、いえ。俺の未熟です」

 

一瞬肯定しかけたトッシュの声にくぐもった笑い声が返ってきた。トッシュとしてもカーウッド少佐の言葉は良く解るものだった。新米の隊長に新兵の隊員、そんな連中に引率を付けて戦場とはこんな所だとレクチャーする。今回の編成はそう言うことだ、階級が上のカーウッド少佐が居るのにトッシュが突入部隊の指揮を執っているのもそのせいだ。面倒を見ている先任達にすれば正にピクニックのようなものだろう。

 

『一丁前の台詞が言えるようになったな。さて、隊長。この後はどうする?』

 

カーウッド少佐の言葉にトッシュは暫し考える。作戦は順調そのもので、むしろ想定よりも早く目標であった生産施設の破壊を達成している。部隊の隊長であるシーマ大佐の言葉を借りるなら、既に給料分の仕事はした状態だ。プロならばここでさっさと切り上げて余裕を持って離脱すべきだろう。だが、今の彼らは食い詰めのテロリストだ。

 

「搬出口に置かれていたあれ、多分エゥーゴへ渡す筈だったMSですよね?」

 

突入して早々に彼らの餌食になったコンテナの中身はトッシュの推察通り、今日運び出されるはずだった新型機であった。

 

『ああ、多分な』

 

「エゥーゴはこんな旧式を戦力として当てにしなきゃならん台所事情です。だとしたらこんなチャンスに壊すだけで引き上げますかね?」

 

エゥーゴの構成員は多くが元連邦軍人だ。だが一方で終戦に納得できず軍から離反した者や、戦後の社会復帰に失敗し犯罪組織の用心棒のような立場に収まった連中なども多く糾合している。そうした人間が美味そうな餌を目の前にぶら下げられた状態で大人しく作戦通りだけの行動で済ませられるとはトッシュには思えなかった。

 

『道理だな、だとしたらどうする?』

 

「荷物がこんな所まで置かれているって事は、倉庫にゃまだまだお宝がある。なんて考えるんじゃないかと。下手したら旧式を乗り捨てて機体を奪うくらいするかもしれません」

 

『先を考えてない連中らしい行動だな。ウィルバーとルイスの機体なら捨てても構わないだろう』

 

カーウッド少佐の僚機を務めているウィルバー・コンリー少尉とルイス・ブラー少尉の搭乗しているザクは宇宙軍がMSの密輸を摘発した際に接収した機体だ。この連中は軍の下請けでMSの解体を請け負っていた業者と繋がって、廃棄品をレストアし犯罪組織に横流ししていたらしい。つまり軍にしてみれば既に存在しないものであり、経歴的にもこの場に残しても言い訳の利く非常に都合の良い機体である。

 

「決まりですね。なら倉庫の方を――」

 

そうトッシュが言いかけたところで、トッシュとカーウッド少佐の機体が素早く武器を構え銃口を同じ場所へ向けた。7と数字の入れられたシャッターがゆっくりと動き始めたからだ。他の機体も一拍遅れたもののそれに気づきそれぞれの武器を構えると、誰もが躊躇無くトリガーを引いた。彼らの思考はシンプルだ、それが脅威であるかどうかを目視するより手持ちの火器で判別するのだ。結果手に入るサンプルが想定より多く欠けている事が頻発し解析を行う技術屋から苦情が来るが、現在に至っても教育方針に変更はない。部隊長曰く、火力を集中した程度で排除できる脅威ならば、どのみち大した相手ではないからだそうだ。無論トッシュも同意見だ。次々と撃ち込まれる砲弾が開きかけのシャッターを瞬く間に穴だらけにし、数秒で耐えきれなくなったシャッターは硝煙とともに崩れ落ちた。

 

『ヘッ!蜂の…だ…!』

 

思わず漏れた言葉だろう、部下の一人が通信越しにそう叫ぶ。トッシュはその内容を窘めるより先に思わず叫んでいた。

 

「避けろ!」

 

叫んだ部下が操るザクの上半身が吹き飛んだのはその直後だった。




後半に続くと言ったな?
アレは嘘だ。

ごめんなさい話が纏まりませんでした!

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