起きたらマ(略)外伝?   作:Reppu

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平素より起きたらマ(略)を応援頂きまして有り難うございます。
お陰様で本編は無事完結致しました。
と、思ったらあんな投げっぱなし許さんぞ!という声を多数頂く運びとなりまして、こんなところで醜態をさらすことと相成りました。
ですがちょっと待って欲しい。こちとら恋愛経験なんざ皆無のおっさんですよ?
ヒロインとのアフター書けとか、無理無茶無謀を仰って下さる。
ええ、書きました、書きましたが。

期待通りでなくとも作者は一切責任取らんから文句は聞かんぞ!
では、ご覧下さい。


SSS3:ヒロインエンド1 女中佐の乙女な日

『振り切れない!』

 

通信越しに悲鳴を響かせながら、若い連邦士官を乗せたジムが火球へと変わる。次の瞬間、状況終了を告げる文字が画面を覆い、アナベル・ガトーは息を吐いた。

 

「連邦の奴らは弱いなぁ、マイク?」

 

「中佐が強すぎるとは言え、1対5でこれじゃあな。そら戦争にも負けるってもんさ」

 

地球圏合同演習、終戦の翌年より連邦軍と行うようになったこの演習に、ジオン側の代表としてガトーが参加するのはこれで3度目だ。専用機こそ持ち込んでいないものの、軍事技術面で制約を受けていないジオン側のMSと、終戦時の協定のために一年戦争時の機体をアップデートしながら使い続けている連邦とでは機体性能に大きな開きがある。おまけにMS自体の保有も軍縮により少なくなっているから、1小隊5機編成とは言えその内3機はボールと呼ばれる戦闘用ポッドだ。このため合同演習の最終日に行われる模擬戦は、ジオン側が圧倒するのが常であり、それを見続けている戦後世代の若い士官の中には先ほどのような発言を平然とする者まで居る始末だ。同じ部屋の中に連邦の士官が居ると言うのに。

 

「相変わらず良い腕ですな、ガトー中佐。新兵達の良い刺激になります」

 

「お気遣い感謝します、バニング少佐。そして部下が申し訳ない、後で正式に謝罪させますので」

 

「構いませんよ、戦闘後の高揚で口が軽くなるのは良くあることだ。彼も本意ではないのでしょう?」

 

「…誠に申し訳ない」

 

二人の会話は、両国の関係を露骨に示していた。戦後、復興に重点を置いた連邦は軍事力の面でジオンに大きく水をあけられているのみならず、経済的にも多くの支援を受けていた。結果、表面上は対等の同盟相手であっても、内部ではこのように連邦側へ忍従を強いる事態が多々見られた。

 

「ほら、見ろよキース!流石ソロモンのヴァルキュリアだ!」

 

「撃墜された相手を褒めるとか、お前って本当にさぁ…」

 

そんななんとも言えない空気を弛緩させたのは、シミュレーターが終了するなり、コンソールへとかじりついていた連邦の若い士官の喜色に満ちた声だった。

 

「あのゲルググ、戦後の新モデルだけど動きが悪いと思ってたんだ」

 

「ほう、よく見ているな」

 

「うぇっ!?あ、ちゅ、中佐殿!?申し訳ありません!」

 

興味を引かれてつい口を開いたアナベルに対し、キースと呼ばれた青年が冷や汗を滲ませながら敬礼とともに謝罪してくる。苦笑しながら返礼しつつ、アナベルは更に口を開いた。

 

「いや、謝られるような事はないよ少尉。それよりそちらの君、動きが悪いというのは?」

 

「え?あ、はい。今回そちらが持ち込んだゲルググは昨年まで使われていたFⅡ型に比べ、およそ30%程推力が向上していると試算していたのですが、殆どの演習においてFⅡ型と同程度の数値しか出ていませんでした。ですから変だと思っていたのですが」

 

物怖じせずそう告げる黒髪の少尉に、横に並んだキース少尉は顔を青くしていたが、当のアナベルは満足そうに頷いていた。

 

「大変素晴らしい。正確にはあのFZ型はFⅡの35%増しの推力を与えられている。どうやって試算を?」

 

「はい、事前に頂いた資料にあった3Dモデルのスラスターサイズと配置からです。ですが、称賛されるべきは中佐だと小官は考えます。中佐の機動はFⅡ型に比べ40%近い数値の上昇が見られます。つまりパイロット側の技量で機体性能を1.5倍近くまで引き上げていらっしゃるのですから!」

 

「それは買いかぶりだ少尉。機体の持つ本来の性能を十全に発揮させることはパイロットにとって当然の義務だ。むしろ5%分過剰な数字が出ていると言うことは、私が機体へ無理をさせているという事に他ならない。まだまだ精進が足りないよ。…尤も、一番恥ずべきはその機体性能差にあぐらをかいて、性能を満足に引き出せてもいないのに一人前面をしている連中だがね」

 

そう言って冷ややかな視線を送れば、ジオンの士官達が気まずそうに視線を逸らした。その事に小さく溜息を吐きながら、アナベルは気を取り直し、連邦の少尉に笑顔を向ける。

 

「君たちの技量も大したものだ、轡を並べる戦友として心強い。君、名前は?」

 

「は、はいっ!コウ・ウラキ少尉であります!」

 

ウラキ、と口の中で転がした後、頷きアナベルは口を開く。

 

「覚えておこう、ウラキ少尉。次にまた戦うとき、君が更に手強くなっている事を期待するよ」

 

そう言いアナベルはウラキ少尉の肩を叩いた。

 

 

 

 

「今年はご機嫌ですね」

 

共和国への帰りのシャトルの中、隣に座ったカリウス・オットー少尉がそう柔らかい笑顔で告げてきた。彼もまたアナベルに付き従い毎年合同演習に参加している。その為、年々態度の悪い者が増え続ける状況に比例して、帰りに機嫌を悪くするアナベルの様子を見続けていたのだ。それ故の発言だった。

 

「若い阿呆共に釘を刺せたし、連邦にも優秀な次代が育っている。しかも素直に我々を同盟相手として見ているのだ、実に喜ばしいじゃないか。彼の爪の垢をキロ単位で輸入して、我が軍の新兵達に飲ませたいくらいだ」

 

戦勝国の傲り、敗戦国の厭忌、同盟者と呼ぶようになった今でも、両国の関係は決して順風ではない。現状を不満として非難声明を出す団体は後を絶たないし、中にはテロまがいの事まで実行する連中までいる始末だ。そうした中で戦争を経験し、今なお軍に身を置くアナベルだからこそ、友軍の傲慢は目に余ったのだ。

 

「それに技量だって大したものだ。未だに個人の技量を尊ぶきらいのあるこちらに比べ、向こうはミノフスキー粒子下での集団戦闘を良く研究している。後1~2年はこちらが有利だが、5年後は解らないな」

 

力が拮抗したとき、軍人の気持ちはどうなっているのだろう。アナベルは考える。もし今のまま5年が過ぎれば、その先に待つのは再びの戦火だろう。そんなことはあってはならないとアナベルは強く思う。

 

「帰ったら、ドズル大臣に直接ご報告しよう。軍の傲慢が戦争の引き金を引くなど、恥以外の何物でもないからな。それから新人への訓練の見直しだな、MSの性能を引き出せん連中が増えすぎだ。まったく嘆かわしい、あの方の下で鍛え直したい位だ」

 

思わず漏れ出た言葉に、黙って聞いていたカリウス少尉が笑みを浮かべる。

 

「成程、そちらも原因のようですね」

 

「な、なんの事だカリウス!?」

 

「あの時の中佐は見ていられませんでしたからな、覚えているでしょう?置いて行かれたと一月は塞ぎ込んでいて…」

 

「すまん、悪かった、それはもう言わないでくれカリウス!」

 

ほじくり返された忘れたい記憶にもだえるアナベルを乗せ、シャトルは共和国を目指す。そして、祖国への距離が近づく度に、アナベルの気持ちは逸り、胸の鼓動は高ぶった。そしてムンゾへの入港間際、その艦影を窓越しに捉えた瞬間、最高潮へと達する。

 

「ああ、お帰りなさい。大佐」

 

ジュピトリス級輸送艦。地球連邦の公社であった木星公社から戦後賠償の一環としてジオン共和国へ艦籍を移したこの艦は、ホープと言う名を与えられ、アナベルの慕う大佐と共に木星へと旅立った艦だ。それが3年前であり、その長い航海を終え、今アナベルの前にその巨体を晒している。食い入るように船体を見ていると、アナベルは何か温かいものに包まれたような感覚を覚える。それがなんであるかをハマーン達との交流で知っていた彼女は、益々笑みを深める。そしてシャトルがベイに到着するやいなや、待ちきれないとばかりに隣の桟橋へと飛び出す。そこには、待ち焦がれた相手が、相変わらずの笑顔でシャトルから降りてきていた。弾む鼓動を懸命に抑え、頬が紅潮するのを自覚しながらも、アナベルは姿勢を正して彼と向きあう。

 

「3年と22日ぶりですね、大佐」

 

言いたいことは色々あった。彼の居ない三年間は決して短い時間ではなかったからだ。伝えるべき事、伝えたい事、話さねばならない事、話したい事。本当は軍人として格好良く話して成長を見せつけてやるつもりだった。だが格好を付けるには、3年という時間は、アナベルにとって些か長い時間であったらしい。何とか口に出来たのはそこまでで、衝動を抑えきれずにアナベルは自らの欲求を実行へ移すことにした。

 

即ち。

 

愛しい男の胸に思い切り飛び込んだのだ。




取敢えず一人目は後半追い上げを見せた、まさしく魔改造を受けたアナベル・ガトーです。
脳内ボイスが大塚明夫さんの人は存分にホモォな世界を楽しむと良いと思います。

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