起きたらマ(略)外伝?   作:Reppu

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SSS28:火種

「想定の範囲内などと大言は吐けんな」

 

端末に表示された報告書を読みながらジャミトフ・ハイマン少将は眉間に皺を寄せた。終戦後再開された宇宙移民は連邦政府に少なくない混乱を齎していた。直後の移民はまだ良かった。大半が連邦領の難民であったり、ジオン領となった地域の住人の中でジオンへの帰属を拒否した者達が選ばれたからだ。選出された側も現状より待遇が改善されるし、連邦としても養わねばならない扶養者が少なくとも税金を納めてくれる国民へ戻ることは歓迎する事だった。だが戦争が遠ざかり人々に余裕が戻るほど移民の速度は鈍化、それに伴い連邦内のコロニー居住者の経済が冷え込むと国内の所得格差として新たな問題が浮き出てきた。無論連邦としても無策に宇宙移民を再開したわけではない。だがそれはあくまで連邦が想定したとおりに移民が順調に進む事が前提であり、現在のような経済力を背景とした移民拒絶を黙認することは計算に入れられていない。否、多少そうしたことは起こりうるという認識ではあったが、これ程多くは見積もられていなかったのだ。無論これだけならば問題の解決は容易だ。何しろ相手は無力な国民なのだから、国家権力が法という名の下に強制的に移民を執行すれば良いだけである。事実ここ1~2年の移民についてはそうした者も多く含まれている。だが、そうした強引な手法は同時に資金と時間に余裕のある宇宙移民者を生み出す温床となってしまった。そしてそう言った人間は得てして容易に犯罪へと加担するのだ。

 

「戦後の大規模な軍縮も痛手だな」

 

ページを変えながらジャミトフは溜息を吐く。宇宙に仮想敵国であるジオンがある以上、それに対抗することを最優先に再建された連邦軍は以前に比べ治安維持能力と言う面において明らかに劣っていた。更に拍車を掛けたのが軍縮による軍事物資の廃棄だった。終戦により極度に肥大化したその体躯を切り取ることが求められた連邦は、装備だけでなく多くの人員も放出する事となる。無論幾ばくかの手当は出したが、それだけで食えるほどでは当然無く、除隊後の職についても十分にケア出来たとは言い難い。何しろ先の大戦で故郷がまるごと無くなった人間だって数多く存在していたからだ。そしてそのような者達が高潔で居られる事は少ない。彼らに横流しされた装備によって戦後多くの犯罪組織が重武装化したことは連邦軍にとって頭痛の種として残り続ける。そこに先ほどの暇を持て余した金持ちが加われば、立派な武装勢力の完成だ。

 

「状況を歓迎している連中もいるようですが」

 

忌々しそうに鼻を鳴らしたのはジャマイカン・ダニンガン少佐だった。その言葉にジャミトフは黙って頷く。元々一枚岩とは言い難い地球連邦軍であったが、今日の状況は最悪と言っても過言では無い。

 

「バスク・オム大佐からまた装備の陳情が来ています」

 

「1週間程前に戦闘機隊を補充したばかりだろう?」

 

ジャマイカン少佐の言葉にジャミトフが問い返す。バスク・オム大佐は所謂保守派と呼ばれる派閥に属する軍人だ。移民政策そのものにはあまり関心を持っていないが大戦中の出来事が原因でジオンを憎んでいるため、感情的に移民推進派をジオンの走狗と嫌悪しているなど些か問題も目立つ人物であるが、実務能力は高くコロニーの治安維持については確かな実績を出している。それだけに補充している装備についても現在軍で使用している最新の物だ。

 

「エゥーゴの連中が新しいMSを配備し始めたようです。それも旧式のレストア品などではないようで」

 

そんな言葉と共に何枚かの写真をジャマイカン少佐が差し出してくる。そこには確かに見たことが無い機体が映り込んでいた。

 

「馬鹿者共が。ルナリアンに良いように使われおって」

 

エゥーゴ、反地球連邦組織を名乗る武装勢力は、信じがたいことに地球連邦軍の軍人が中心となって構成された組織だ。題目としては地球連邦政府の宇宙移民への不当な扱いに対する抗議と自治権拡大などと言っているが、言葉で訴えるより先に武装している時点で話し合いのつもりは無いと宣言しているようなものである。因みに武装についてはコロニー駐留軍による不当な威圧行為に対抗するためだそうである。

 

「やはり出所は月でありましょうか?」

 

ジャマイカン少佐の言葉にジャミトフは無言で頷いて見せる。戦後の領土分割において、月のフォン・ブラウン市は中立地帯とされた。これは連邦とジオン両国の思惑が絡み合った結果である。国内におけるMSの開発に大幅な制限を設けられた連邦はアナハイムという開発拠点を外に置くことでMS開発の継続という目論見を持っていた。対してジオンは月面という目と鼻の先に連邦の拠点を置きたくないという国防上の都合から中立化を望んだ。だがここで幾つかの誤算が発生する。連邦軍内のMS推進派が失脚したのだ。元々彼らは地盤の弱い者が多く、更に最大の旗頭であったヨハン・イブラヒム・レビル大将を戦中に失っていた。加えてMS開発の中心人物であったテム・レイ大尉がジオンへ亡命するなどしたために責任問題へと発展、ほとんどの将官クラスの人間が閑職か予備役送りとなる。その中で派閥の長となったのがジョン・コーウェン中将だった。既に軍の中核が艦隊派に押さえられている中で彼は発言力を強めるべく、以前から深い繋がりのあったアナハイムにより接近する。戦中の設備投資に失敗していたアナハイムにとっても歓迎すべき内容であったため、両者は急速に距離を詰めていく。しかし順調であったのはそこまでだった。主流から逸れていたジョン・コーウェン中将に連邦内でMSの保有数を増加させるだけの発言力は無く、アナハイム側の要求するような需要を確保出来なかったのである。次第に協力者という関係は崩れ始め、企業とその走狗という構図へと変っていく。その中で彼らが選んだのはおよそ最悪と言って良い選択であった。

 

争いが無いならば、争いを生み出せば良い。

 

終戦交渉により強制的に宇宙へと移民させられた地球連邦市民の生活と権利を憂いている自称良識派の軍人達を彼らは抱き込むと、それまで烏合の衆であった大小存在した武装組織を糾合。地球を食い物にし続ける特権階級へ弾劾と不当な武力行使からのコロニー市民守護を掲げ、コロニー駐留軍や補給部隊への襲撃を始める。当然連邦軍側も治安維持を名目に部隊を投入するだけでなく協力者の摘発なども行うのだが、それが余計にコロニー市民を刺激し悪循環を起こしていた。

 

「アナハイムめ、裏でそのようなことをしながら平然とMS更新について打診してきおった。こちらの目を余程節穴だと考えているらしい」

 

実際にエゥーゴの運用しているMSの多くは過去にジオン軍が運用していた機体であったり、今回の新型についても外観はそちらに近い。だが旧式機に関しては先の大戦において宇宙で廃棄されたMSの大半がジオン軍のものであるし、少数であるが連邦の機体も交じっている。そして新技術を用いた次世代のMSでは外観などどうとでもなる事をジャミトフは知っていた。

 

「ジオンはなんと?」

 

「むしろ笑われたわ。我が国の機体ならば旧式でももう少しマシでしょうとな」

 

終戦交渉後、頻繁にやりとりのある青年の苦笑を思い出しジャミトフは顔を顰めた。自国の窮状について、良識派を名乗る自国軍人よりも仮想敵国の人間の方が理解があるなど皮肉が利きすぎているではないか。

 

「厄介ですな。中立地帯の都市である以上、大手を振って立ち入り調査というわけにはいきません。かといってこのまま放置はあまりにも危険です」

 

ジャマイカン少佐がそう懸念を口にした。急速な拡大によりエゥーゴの統制は危うくなっているようで、軍だけでなく民間の輸送船にも襲撃が行われているからだ。先日など遂にジオン籍の船舶まで襲われ、政府に対しジオン共和国から正式に抗議文書が届けられた。

 

「判っている。だから議会を通してジオン側へ装備制限の緩和について打診している。それに腹案もあるしな」

 

そう言って愉快そうにジャミトフは頬を歪める。

 

「何でも思い通りに事が進むなどと思うなよ、テロリスト共め」

 

 

 

 

「お疲れ様です、兄上」

 

画面越しに朗らかに告げてくる末弟の笑顔を見ながら、ギレン・ザビは深く溜息を吐いた。ジオン共和国の首相に就任して早7年。総帥であった頃に比べ幾分負担は減ったとは言え、まだまだ多忙である彼はつい不満を漏らした。

 

「ガルマ、段々とアレに似てきたな」

 

「そうですか?あまり自覚はないのですが」

 

何処か嬉しそうに返事をするガルマを恨めしげに睨みながらギレンは言葉を続ける。

 

「ああ、特に自分から連絡を寄越す時は決まって厄介ごとを持ってくる所などそっくりだ。何があった?」

 

ギレンの言葉にガルマは気まずげに頭をかきながら口を開く。

 

「連邦のジャミトフ・ハイマンから内々に連絡が。どうやら連邦内は内部分裂一歩手前のようで」

 

「金のある国は流石だな。それで?」

 

「例の武装勢力にアナハイムが付いたようです。装備面で不安があるので装備の開発制限について緩和して欲しいと」

 

「ふむ」

 

ギレンは顎に手を当てて暫し考えた。何処かのアホが煽ってくれたおかげで国内の技術開発は大戦当時と比べ飛躍的に進んでいる。また宇宙における戦力もほぼ同数と言うところまで来ているが、これはアステロイドベルトや火星に展開している戦力も含めた話なので一概に互角とは言い難い。そして何より地球上の戦力は圧倒的に連邦軍の方が上であるから、窮状を訴えられたからと言って安易に了承出来るものでも無い。第一連邦国内で戦力を磨り潰し合ってくれるならばジオンは懐を痛める事無く相手の戦力を漸減出来る。

 

「お前はどう考える。ガルマ?」

 

連絡をしてきた時点で見当はついているものの、ギレンはそう改めて問うた。

 

「認めるべきでしょう。少なくとも連絡をしてきた主流派はこちらと話す意思も条約を守ろうという気持ちもあります。一方でエゥーゴとやらは自国の相手にすら武器を向けています。喩えいずれ敵になるとしても、相手は頭が良い方がいい」

 

「加えてここでこちらが譲歩してみせれば多少の恩は売れるか。良いだろう。向こうから具体的な要求はあるのか?」

 

そうギレンが聞くとガルマは愉快そうに答えた。

 

「中々面白い事を言ってきましたよ。新型MSに対応出来る機体開発のためにAMBAC技術に関する規制を緩和してほしいそうです」

 

「だろうな。それで愉快な部分は何だ?」

 

その問いにガルマは益々笑みを深めて続きを口にする。

 

「ついては我が国のMSを国内メーカーにライセンス生産させて欲しいと。機体の選定についてはお任せしたいとのことでした」

 

その言葉に現状をある程度把握できていたギレンも思わず笑ってしまう。そもそもエゥーゴを動かしているのはアナハイムだ。彼らが欲しているのは連邦政府の軍事力に影響を持つことで、その為にMSを売り込むために今のような騒動を起こしている。つまり連邦軍はその事を理解していて、売られた喧嘩として買う姿勢を見せたと言う事だ。

 

「くっくっく。欲を掻きすぎたな、商人共め。良いだろう、商売敵が困る上に我が国の懐が潤うと言うなら是非もない」

 

「では」

 

「ああ、了解したと伝えろ。それから機体の選定についてはアレにやらせろ。馬鹿のように何機も開発しているからな、一機くらいは丁度良いのがあるだろう」

 

一ヶ月後、ジオニック社製のとあるMSがハービック社にてライセンス生産されることが発表され、アナハイムを驚愕させることになる。ライセンス生産されたジムⅡと呼ばれる機体は先の大戦において生み出されたとある機体によく似ており、パイロットからの評判も良く長く連邦軍の主力MSとして運用されることとなる。それを聞いたオデッサの某大尉が複雑な顔をしたらしいが、それは全く関係の無い事である。




作者の脳内設定

RGM-80(MS-23) ジムⅡ(ゲムツヴァイ)
戦後連邦製MSを研究したジオニック社が技術検証機として開発した物を輸出向けに調整した機体。とライセンス先のハービック社には説明しているが実際にはテム・レイ大尉が木星船団での航海中に設計したゲードライをハービック社でも量産可能なように簡略化した機体である。ムーバブルフレームを採用しているが、コスト削減のためゲードライではルナチタニウム製であったものをチタン合金に変更しているため全体的にマッシブなシルエットとなっている。加えて輸出が前提であるためフレキシブルバインダーは不採用となっていて運動性も低い。当初はこのレベルでもハービック社では難易度が高く、初期納入の30機に関してはノックダウンにて製造された。それでもエゥーゴの運用している新型よりも高性能であったことから連邦軍内における評価は高く、長く一線で運用され続ける事となる。

外伝は本気で思いつきで書いているので話に整合性が無くても諦めて下さい。
後、正直ヒロインエンドとか全然思いつきません!

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