ファイアーエムブレム~凍土の剣~   作:whiterain

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2章 精霊が宿る剣

2章

 

セインとケントという新たなメンバーが加わり、目的地がキアランと定まった

ユーリ達一行。

 

「ユーリ、ちょっとだけ寄り道させてね」

 

キアランへ向けて、移動を開始しようとしたときにリンディスが言った。

 

『別にリンが良いなら良いけど、なんかあるのか?』

 

「ここから東にある祭壇に宝剣が祀られているのよ。サカの民は長い旅に出るときは、ここで無事を祈っていくのよ」

 

「ほほぅ、それは興味深い」

 

『俺が祈りに行ったら、逆に悪運が働いて、大変なことになる気がするけど・・・』

 

小さくぼやいたユーリ。

神様に見放されてるのではないのかという運の無さだ。

そんなユーリが無事を祈ったら逆に危険が多くなると直感が感じていた。

 

「エレブ大陸で信徒が1番多いのはエリミーヌ教ですが、この地では太古の慣わしが残されているのですね」

 

「良いことじゃない、新しい物も大事だけど、伝統をなくさないことも大事だよ」

 

これから行く宝剣の祀られた祭壇や伝統についてなど、たわいの無い話をしながら向かう。

しかし、その頃祭壇ではユーリの悪運が招いたのか、異変が起こっていた。

 

 

 

 

 

ブルガルの街の外れ、東の小さな祭壇

精霊が宿ると言われる、古来よりサカの民の聖地と呼ばれる場所で、

それは起きた。

 

「さぁ、ジジイ!おとなしくそこをどきな!」

 

ならず者に襲撃された祭壇。

ここには祭司のおじいさんしかおらず、戦えるようなものなどいなかった。

 

「どんなに、脅されようとも・・・この'マーニ・カティ'は絶対に渡さん。'マーニ・カティ'は精霊の加護を受けた尊い剣

 ここより動かすことなど出来ぬ」

 

祭司のおじいさんしか、ならず者の親玉に言い放つが、彼にはそんなことは関係ない。

自分が良ければ人なんて関係ない。

これは自分にこそ相応しい剣だと考えているのだから。

 

「頭の悪いジジィが、剣てのは、使ってこそじゃねぇか?」

 

「使う!?なんという罰当たりな!!」

 

「この辺りで1番の剣士であるこのグラス様がもらってやるって言ってんだ・・・

 さっさとどきな!」

 

「うぅ・・・」

 

おじいさんは思いきり突き飛ばされ、壁にぶつかる。

そして、グラスという名のならずものはその隙に祭壇に祀られた'マーニ・カティ'に手を伸ばす

 

「予想通り、いい剣じゃねぇか!これこそ俺様が使うに相応しいってものよ」

 

'マーニ・カティ'の素晴らしさに上機嫌となったグラスは、そのまま鞘から剣を引き抜いて素晴らしい剣を己がものにするはずだった。

 

だが、

 

「・・・?鞘から・・・抜けないだと!」

 

「・・・'マーニ・カティ’は、お前などには・・・精霊が・・・お前を拒否しとるんじゃ!」

 

痛みにこらえながら祭司はグラスに言った。

そして、自信過剰にして、傲慢なグラスがそんなことを認めるはずが無かった。

むしろ、激情して祭司に掴みかかる・

 

「なんだと!この老いぼれ!! 死にたくなかったら奥にでもすっこんでろ!!」

 

グラスは祭司を無理矢理奧の部屋に押し込むと、外に出で来られぬようにした。

 

「畜生!何が精霊だ!ふざけた真似しやがって・・・てめぇら!この祭壇ごとぶっ壊してやれ」

 

思い通りにならないなら、祭壇ごと壊す。

それが彼のやり方だった。

 

 

 

 

『なんか騒がしくないか?』

 

祭壇に来てみると、祭壇に相応しくない状況となっていた。

近くで話を聞こうと祭壇に近づいていくと、近くの民家に住む

おばさんに話しかけられた。

 

「ちょ、ちょっと。お前さん達!

 もしかして東の祭壇に行く気かい?」

 

そのおばさんの反応は良くないことが祭壇で起きてることを表していた。

 

「ええ、そのつもりだけど・・・なにかあったんですか?」

 

「祭壇が、この辺りで有名なならず者共が、祭壇に剣を奪いに向かって行ったんだ」

 

「剣を・・奪うですって!? そんなこと許せるわけ無いわ!」

 

『はぁ・・・』

 

リンが怒りを募らせるなか、リンに気づかれないようにため息をはいたユーリ。

また、呼び寄せてしまったのか?

そう考えて止まないユーリ。

 

「あんた達なら、強そうだ、頼んだよ」

 

そう言い残し、走り去ったおばさん。

 

「リンディス様、どうします?」

 

助けるにしても、まだ内部の状況等が掴めない状況では迂闊な行動はかえって危険だ。

 

『こんな時こそ、マークの出番じゃないか?』

 

軍師は勝つための作戦を立案して、戦う者。

知略を武器に、どうすれば勝てるかを考える仕事だ。

 

「そうだね・・・まず祭壇の構造について教えてくれない?」

 

「祭壇は向こう側に入り口が一つあるだけよ。でも、その為にはあの丘を越えていかなければならないわ」

 

マークの質問に即座に

答えるリン。

 

「それじゃあ、遅すぎる・・・」

 

『なら、壁を壊すしかないだろう・・見た感じ古い建物だ。壁にヒビが見えるからな』

 

「ここから見えるの?」

 

近くまで来たとはいえ、まだ祭壇には距離がある。

そこから、壁のヒビまで確認できるとなれば、かなりの目の良さだ。

 

「良し、壊して進入しよう。人の命や、大切な宝剣には変えられないよ。とりあえず近くまで行って、中の様子をうかがおう」

 

祭壇の壁を壊すなんて、罰が当たりそうなことに、若干躊躇いの色を表すが、

人命には変えられないと割り切り、ヒビの入った壁へと近づく。

 

「思ったより、祭壇に数が残ってるみたいだ」

 

マークがヒビの入った壁に音を立てぬように小さな穴を空けて中を覗いた。

 

「どうするんだ?」

 

「・・誰かが囮になって、入り口の方で敵を引きつけて、その間に倒すっていう作戦でいこう」

 

「でも、囮になった1人はすごく危険よ!?」

 

「それに誰が囮をやるんですか?」

 

この作戦にリンとケントは難色を示す。

しかし数に劣り、場所も広くないとなると、この作戦が最も確実に祭壇を奪還できる。

 

「囮は、ユーリにお願いしたい」

 

マークは戸惑うことなく、ユーリの方を見て言った。

その目はユーリの瞳を真っ直ぐ見つめて逸らすことはなかった。

 

『ふむ・・・参考までになぜ俺なんだ』

 

別に引き受けることはやぶさかではない。

だが、なぜ選んだか位は聞いても罰は当たらないだろう

 

「あの、丘は馬に乗ってるケントとセインじゃ越えられない。すると、ユーリかリンの二択だ。そしてリンを危険な目に遭わせるわけには

いかないとなるとユーリしか居ない」

 

「私にだって、出来るわ!」

 

リンは自分がキアラン侯爵の孫娘、貴族の1人だとわかっていても

そういう扱いを受けるのは好きでは無かった。

しかし、マークからすれば、この旅の目的はリンの為であり、リンが居なければ何の意味もない。

危険な可能性は少しでも下げるべきだと思っている。

 

『わかった、俺が行く。絶対祭壇奪い返して、祭司を助け出せよ』

 

「ユーリ・・・」

 

「頼んだよ、ユーリ」

 

歩き出していたユーリは、任せとけと言わんばかりに後ろを振り返らずに

右手を上に向けて親指を立てて見せた。

 

 

 

 

祭壇入り口

 

『ほらほら、そんなんじゃ俺は倒せないぜ!!』

 

入り口でわざと声を大きくして戦うユーリ。

今回はあくまでも囮であり、中の敵をこちらに引き寄せることがメインだ。

 

「死ねぇ!!」

 

『危ないなぁ、剣が折れたらどうしてくれるんだよ』

 

ヒョイとならず者の斧を躱す。

特に修練もせず、ただ力任せに振るうものが当たるわけがない。

 

(この調子じゃ、敵を引き付けるだけの予定だったけど、倒しちまえそうだな)そう考えたユーリは

入り口から徐々に離れるようにして戦っていたのをやめ、少しずつ祭壇内部の方に進むことにした

 

『そらよ!』

 

下がって切り倒さず、踏み込んで斬ったユーリ。

剣を降り、血を払うようにしながら、奧へと進んでいった。

 

『ん?』

 

目に入ったのはやけに大きな穴だった。

 

『やり過ぎだろ・・・』

 

それをリン達が空けた穴だと気づくのに時間はかからなかった。

馬が通れるほどの穴だ。

それを創造すれば自ずと大きさはわかるだろう。

 

『ここ祭壇なんだろ?言い出しといてこんなに大きな穴空けて大丈夫なのか?』

 

罰当たりな気がしないでもなかった。

 

ここら辺まで来るとユーリが倒した訳でないならず者がその辺に転がっている。

それはリン達が倒した者達だろう。

数が少ないところをみると、ユーリの囮も役に立っていたのだろう。

 

「・・・・こ、こいつら・・・つえぇ・・」

 

ユーリが'マーニ・カティ'の納められている場所に着いて見たのは、

 

セインの槍に貫かれた、ならず者の親玉らしき者の姿だった。

 

『お疲れ様』

 

「ユーリ!!無事だったのね」

 

こちらの存在に気づき、喜びの声を出したのはリンだった。

他の3人もほっとした顔をしている。

 

『おぅ、あんなのに手こずるようなことはないさ。それより、祭司が奧にいるんだろう?早く助けてやろうぜ』

 

「もう、助けてきたよ」

 

リンにそう促すと、マークが1人の老人を連れてやってきた。

身なりからしても確かに祭司だろう。

 

「祭司様!!」

 

「おお、そなたは確かロルカ族の・・・」

 

「族長の娘のリンです。祭司様御怪我は?」

 

「ユーリは怪我してないか?」

 

リンが祭司と話しているのを見ていると、マークが近づいて聞いてきた。

 

『してないが?』

 

「それは何よりだよ。さすがに自分がユーリを怪我させたって状況は作りたくなかったからね」

 

こちらを心配してるのか、自分のことを心配してるのかわからない対応だった。

いや、内心は不安だったのだろう。

戦いに絶対は無い。ユーリがならず者どもに負けないだろうと信じていても

もしかしたらということも有り得たのだから。

 

『そりゃ、良かったな』

 

2人はお互いを見て笑った。

 

「ユーリ! 祭司様が説く特別に剣に触れて、旅の無事を祈っていいですって!!」

 

気分が高揚しているリンが、ユーリを再び、そちら側へ顔を向けさせる。

 

 

『やったな!!したら・・・つぅ!』

 

剣の方へ歩いて行こうとすると、突然に背中の剣が冷気を発した。

意訳すれば他の精霊が宿る剣に浮気すんなと言いたいのだろう

 

(抜けてくれないのに、わがままな剣だ・・・)

 

ユーリはやれやれとため息を吐くと、

 

『リン! 俺はいいわ・・・悪運を剣に憑くけたくないからな』

 

「そう・・・?」

 

怪訝な顔をされたが、特に追求はしてこないようだ。

されてたら、どうしようかと困ったところだ。

 

そして、最初にリンが'マーニ・カティ'に触れると

剣が呼応するかのように光った。

 

「・・剣が・・・・光ってる」

 

『!!!』

 

同じだった。

自分がこの剣を抜いたときと。

それはつまり精霊に・・・

 

「おお・・・おお・・・・これこそ、精霊の御心。リンよ・・・そなたは精霊に認められたようじゃ」

 

「どういう意味ですか?」

 

『マーニ・カティがお前を選んだってことさ・・多分、リンなら鞘から抜けるぞ』

 

「そのものの言う通りじゃ・・・マーニ・カティがそなたを持ち主になることを望んでおる。抜いてみるが良い」

 

リンが再び柄に手をやり、抜こうとすると

 

「あ・・・・抜けた・・・」

 

「生きている間に、マーニ・カティの持ち主に巡り会えるとは・・・わしは

 果報者じゃな」

 

「私の剣・・・」

 

『リンなら俺と違って・・・そっぽ向かれることはないだろうな・・・』

 

「ユーリなんか言った?」

 

ユーリの小さく呟いたのを、聞こえたのは居なかった。

 

「さ、旅立つのだリンよ。この先、どんな試練があろうとも、その剣を握り、

 運命に立ち向かっていけ!」

 

「は、はい!」

 

リンは、マーニ・カティを手に持つと祭壇を後にした。

 

『俺もどうにかしないとな・・・』

 

ユーリは自分の背にある、冷気が収まったマーニ・カティと同じ精霊の宿りし剣を

抜くにはどうすればいいか・・・精霊の機嫌を直すにはどうすれば良いかを考えていた。

 

一方、マークは

 

「この祭壇・・・マーニ・カティ無くなったら、来る人もいなくなるし、

 なにも奉られてない祭壇なんかに意味あるのかな?」

 

現実的なことを考えていた。

 

2人は全く別なことを考えながら、リン達が出て行った後を追った。

 

 

「これがマーニ・カティですか・・・なるほど、珍しい剣ですね」

 

「サカでも、相当な名剣らしいからね・・・」

 

こんな風に精霊に選ばれる人はほとんどいない。

ユーリも自分以外にはリンが初めてだった。

 

「信じられないわね・・・そんな剣が私の手にあるなんて・・」

 

「このマーニ・カティはリンディス様の気にとても合うってことなんじゃないですかね?

 その剣、リンディス様以外には使えないようですし」

 

「私に合う、私にしか使えない剣・・・」

 

『剣に愛想尽かされないようにな』

 

自分への自虐も込めてリンに言った。

このことを言ったことと、たまたまリン達に背を向けたことが合わさり、

 

「そういえば、ユーリの背にある剣は何か特殊な剣なの?立派な作りをしてるけど?」

 

しまった・・・・

ユーリは自分の発言に後悔した。

いまここでユーリが声を出さなければ聞かれることは無かっただろう。

 

『さて・・・どうだろうね・・』

 

「あれ、よく見るとユーリの剣って・・・イ」

 

マークは旅をしている為か、ユーリの剣にも心辺りがあった。

それはある国で噂に聞いた剣に酷似していた。

ユーリはマークの口を塞ぐと、

 

『何?・・・ちょっと話がある?・・・仕方ないなぁ!』

 

無理矢理マークを連れて、その場から逃げたのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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