ファイアーエムブレム~凍土の剣~   作:whiterain

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20章 目的

「良く粘りますねぇ・・・良いですよ!実に良い、実に斬りがいがあるではありませんか!!」

 

剣魔は仲間が倒されているのにも関わらず、ファリナの奮闘を喜ばしげに見ていた。

この男に仲間意識なんてものは存在していない。

ただただ、自分が強者を斬れれば何でも良い。

それ以外には、何の興味も無い。

 

「ハァハァ・・・あんた一体何なのよ?」

 

「私は、ただ血を見たいだけですよ!!強者との戦いで得られるあの緊張感! その相手を斬るときに感じる感触

 私には最高の幸せです!!」

 

血に囚われた哀れな男・・ファリナは剣魔の今の顔はそうとしか見えなかった。

話せば話すほど、狂気が溢れ出てきている。

 

「あんた! イカれてるんじゃないの!?そんなに人を斬って、そんなに人を殺して何が楽しいのよ!?」

 

一般人には理解できない感性。

殺しを続ければ、いつかはこんな考えに囚われるものなのか?

 

「おや?理解いただけませんか・・・名高いイリアの傭兵殿なら分かっていただけるのかと思ったのですがねぇ!

 人を殺すときに充実感を感じませんか? あの手に残る感触が癖になりませんか?」

 

「あんたと一緒にするんじゃないわよ!

 だいたい、人を殺したいだけなら、何で金品や物を要求したのよ!」

 

「簡単な理由ですよ、私とて、飲まず食わずでは生きていけませんからね

 それに、こうすることで強者と巡り会うじゃないですか!!私を殺しに来る強者との殺し合い

 実際にあなたのような人が来ている・・・それが理由ですよ」

 

ファリナがここに来たことは剣魔にとっては望んでいた喜ばしい事態だ。

 

「この外道が・・・・」

 

これだけ会話をしていても、残った奴らは何故攻撃をしてこないのか。

奇しくも剣魔のこの性根がファリナを助けていた。

 

この集団は、剣魔を中心とした存在に間違いは無い。

それはカリスマではなく、恐怖、武力による支配。

 

ここで邪魔をすれば、自分が殺されるのではないか?その疑念がファリナへの攻撃を停止させていた。

 

「残念ですねぇ・・まぁ、あなたの腕前のほど確かに見せてもらいました

 実に良い!実に斬り甲斐を感じますよ!!」

 

剣魔がそう言えば、数を減らしたとはいえ、まだ多くいる周りを囲う敵が距離を取った。

 

「私と1対1で殺し合いましょう! やはり、強者を斬るなら、集団は駄目です

 命の危機に瀕してこそ、最高の刺激となるのですから!!」

 

剣魔との一騎打ちファリナも望むところであっただろう。

今の状態が万全であれば・・・という条件付きとなるが。

ファリナの今の状態は天馬のいない天馬騎士として不利な状態で戦ったことから既に満身創痍と言えた。

今も、気合いで保っているが、少しでも気を抜けば意識すら持って行かれそうな状態だ。

 

そんな状態で、無傷なあいつと戦えるのか?

 

答えは否だろう。

仮に勝てたとしても、この包囲を突破するだけの余力は絶対に残らない。

万事休す、いや詰んだと言っても過言じゃないのかも知れない

 

『・・・・・ファリナ!!』

 

「?」

 

誰かに呼ばれた気がした。

聞き覚えのある声が聞こえた気がした。

 

だから、安心してしまったのかも知れない。

 

ファリナはそれを最後に張り詰めて保っていた意識を手放してしまった。

 

 

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『ファリナ・・・・よく頑張ったな

 1人で無茶するのは褒められたことじゃないけど・・・な』

 

ユーリは意識を失ったファリナを支えた。

 

「援軍に貴方達のような強そうな方が来ていただけるとは・・」

 

剣魔はユーリとカアラを強者と称した。

剣を使う物同士、お互いの実力は何となくわかるのだろう。

 

『・・・・カアラどうなんだ?』

 

 

ユーリは剣魔に構うことなく、カアラに問いかける。

この剣魔がカアラの兄なのかと。

 

ユーリがぱっと見た感じではカアラに似ている感じはしない。

感じるのは、とてつもない狂気だけ。

とても常人ではここまでの狂気を纏える物ではない。

 

これがカアラの兄だったとしても、斬らざる追えないだろう。

まともにファリナを連れて帰れるとは思えないし、ファリナの依頼失敗にも繋がってしまう。

 

「いや・・・残念なのかは分からないが・・私の兄ではないようだ」

 

カアラの顔もホッとしたような顔をしていた。

今回の剣魔と呼ばれた男が兄だったら?

兄が賊の真似事をしていたら、私は斬らねばならないのか?

カアラも違うと信じつつ、内心ではもしそうだったらという不安は拭えなかった。

 

『なら、遠慮無く斬らせてもらう』

 

ユーリは戸惑うことなく、剣を向けた。

 

「良い啖呵です! 実に愉しそうですね」

 

『カアラ、ファリナを頼んで良いか?』

 

「私も戦いたいところだが・・・」

 

カアラが、仕方無しとファリナを連れて下がろうとしたが、そこにファリナのペガサスが近づいてきた。

 

「ん?」

 

ファリナのペガサスはカアラに近づき背中を下げた。

 

「これは・・・」

 

『預けろってことだろ?』

 

「そうか・・・」

 

カアラはペガサスの背中にファリナを座らせると、ペガサスはファリナを落とさぬようにゆっくりとその場を離れた。

 

『さて、何でお前は・・・お前達は待ってくれたんだ?』

 

いくらユーリがカアラ達を守ろうとしていたとはいえ、この状況で集団で来られればユーリも気を失ったファリナを守りきるのは

難しかったかも知れない。

 

「おや、奇怪なことを・・・私が望むのは強者との戦い。

 そのためには、万全の状態を整えていただくのは当然でしょう?

 勿論、周りにだって手は出させませんよ」

 

『一体、お前は何者だ?

 剣魔と名乗っているらしいが、お前は剣魔では無いだろう?』

 

「ふふ。確かに私は世間一般に知られる剣魔ではありませんね」

 

「否定しないんだな」

 

剣魔であることに拘っているのでは?と思っていたユーリ達にあっさりと認めた剣魔は拍子抜けだった。

 

「ええ、事実ですからね

 ですが、私が剣魔を名乗っているのにも理由があるのですよ・・・」

 

『理由だと?』

 

「何度も言ったでしょう?私が求めるのは強者との戦い・・・私が剣魔を名乗れば、本物も現れるかもしれませんからね・・

 剣の魔物、どれほどの強者か考えるだけで心が高まりませんか?」

 

戦闘狂の考えることは理解できない。

時には命を捨てる覚悟で戦わねばならないときは確かにある。

 

ただ、こいつの場合は命の価値が米粒みたいなものになっている。

恐らくだが、自分が斬られても嗤いながら死んでいくのはないだろうか?とユーリに思わせた。

 

「ユーリ・・・こいつは私に斬らせてくれ」

 

カアラが珍しく嫌悪感をあらわにユーリの前に出る。

 

『カアラ・・・・だが』

 

「頼む・・・こんな輩が、私の兄を語っていたかと思うと許せない」

 

感情を表に出すカアラに、思わずユーリも頷いてしまった。

いや、家族のことを出されるとユーリは弱い。

 

どうしても、そのことがユーリにとっても負い目になっているのだろう。

 

『わかった・・・・周りは俺に任せて』

 

「すまない」

 

「あはは!私の相手はそちらのお嬢さんということでしょうか?」

 

「あぁ、お前は私が斬らせてもらう」

 

カアラは剣を構え、剣魔を語る偽物に、兄を語った偽物に斬りかかった。

 

『さて、俺もカアラの邪魔をさせるわけにはいかない』

 

ユーリも、剣を構え、周りを見渡す。

最初に狙うはファリナを落としただろう、少し離れたところに構えるアーチャー。

 

普段なら、無理矢理突破して近づくところだが・・・

 

『今の俺なら届かせることが出来る!』

 

ユーリは剣を空に掲げると、剣が冷気を強く纏い、目標の位置にフィンブルの魔法を打ち込む。

 

『ファリナも早く連れて帰らなきゃ行けないんだ!

 さっさと退け!』

 

ユーリは1人のアーチャーを撃破したことを確認し、また別の相手に剣を向けた。

 

戦いはまだ、始まったばかり・・・


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