ファイアーエムブレム~凍土の剣~   作:whiterain

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前回とほとんど変わってないよ(^^;)


間章1 旅立ちの夜

「やめろ!! これ以上俺の仲間を傷つけるな______ 」

 

血に塗れる部隊の仲間達。

今とは違い、少し幼いユーリ。

 

周りには仲間だった人たちの冷たくなってきた身体。

 

そしてまた1人仲間がやられ、ユーリの叫びがどこか遠くに聞こえた

 

 

 

 

 

『夢か・・・・』

 

あの日から、何度も見た夢。

忘れられない過去の記録。

 

 

思い切って、目を開けると、知らない天井だった。

 

「気がついた?・・・良かったわ」

 

声が聞こえた方に顔を向けると、先ほど助けた少女がこちらをのぞき込んでいた。

後ろにはもう1人男性がいる。

徐々に意識が覚醒し、先ほどの出来事も思い出してきた。

 

「私はロルカ族のリン、こっちはマーク・・・旅の軍師よ。さっきは助けてくれてありがとう。あなたの名前も教えて?」

 

「正確には軍師見習いだけどね」

 

リンという名の少女に紹介されたマークは手を前で立てて横に振りながら言った。

 

『俺はユーリ、ただの旅の剣士だよ。こっちこそ倒れたところを助けてもらってありがとう』

 

「ユーリって言うの・・・良い名前ね。そういえばお腹減ってるんでしょ?食事用意したわよ」

 

その時、ユーリの目は最高の幸せを表していた。

 

 

 

 

 

 

食事後

 

「ユーリはこのサカ草原には何しに?良かったら教えてくれないかしら?」

 

ユーリの旅の目的・・・それは強くなること、そして人探し。

ユーリの大切な仲間を殺した奴に復讐すること。

しかし、それは他人に言えたものではない。

 

『強くなりたいから・・・・だからエレブ大陸中を巡っていてサカに来たってわけ』

 

このときユーリの瞳には微かな憎悪と悲しみが残っていた。

 

「そう・・・マークちょうど良いと思わない?」

 

「本人に許可を取らないと駄目じゃないかな?」

 

ユーリにはわからない話がリンとマークの間で交わされる。

何のことだ?とユーリが首をかしげていると、

 

「ユーリ、その旅私たちも一緒に行っちゃだめかな?」

 

リンの申し出にユーリは戸惑った。

ユーリの最終的な目的は復讐。人にほめられた子とではないし、

ユーリには持ち前の悪運が付いている。

 

どうしたものかと悩むユーリは1つ可能性を尋ねた。

 

『マークは旅の軍師だから別だが、リンは家族は良いのか?』

 

 

それは聞いてはいけなかったのかもしれない。

リンの瞳が先ほどのユーリと似たものになった。

憎悪と悲しみの混ざったような瞳だった。

 

「父も母も・・・半年前に死んだわ。私の部族・・ロルカ族はもう存在しない。山賊団に襲われて、

 部族のほとんどが死んで・・・部族はバラバラになっちゃった。

 私は父さんが族長をしていたこの部族を守りたかったけど・・・こんな子供・・しかも女に着いてきてくれなかった」

 

彼女はユーリと同じような境遇を経験している。

ユーリには痛いほど気持ちがよくわかった。

 

「えへへ・・・ゴメン、ずっと1人だったから・・・ダメだ、もう泣かないって決めたのに・・」

 

「・・・・・・・」

 

『・・・・・・・』

 

ユーリとマーク2人そろって何も言わなかった。

いや、ユーリには言えなかった。

 

「ユーリ、私父さん達の仇を討つためにも強くなりたいの!昨日ユーリに助けられてわかった。

 ここにいても強くなんてなれない・・・だから私たちといっしょに修行しない? 

 ユーリと私は一人前の剣士! マークは一人前の軍師!!」

 

リンの瞳はユーリを真っ直ぐ見つめていた。

力強い意志に満ち、憎悪と愛が入り交じる瞳。

 

正直に綺麗だと思った。

 

『わかった・・よろしくな2人とも』

 

自分でもあまり信じられない答えだった。

不思議と断ろうとは思わなかった。

 

「うん、よろしくね」

「よろしく、ユーリ」

 

2人と握手しながら、ユーリは思っていた。

 

リン・・・わかってる?

リンの求める強さは本当の強さじゃない。

まともな道を歩めなくなる茨の道を行かなければならなくなることを・・・

 

 

 

 

リン達との旅立ちを決めた夜。

ユーリは日課の鍛錬を行っていた。

それは今日のように山賊達と戦おうが何があろうが欠かしたことはない。

 

 

強くならなくてはならない・・

その一心だった。

 

 

ユーリは力押しではなく、速さを武器とする剣術だ。

そのため、倭刀なんていう打ち合いには向かない剣を使用している。

しかし、ユーリの背中には倭刀とは違う剣が背負われている。

 

それを背から外して、正面で手に持つ。

 

 

『今日も抜けないか・・・』

 

 

あの時を境に抜けなくなったこの剣。

故郷の大地で見つけた冷気を纏う剣。

ちゃんとした名前もあるのだろうが、それは知らない。

発見した場所が、永久凍土にあったからそのまま'凍土の剣'と呼んでいる。

 

 

『はは・・・精霊に嫌われたかな』

 

 

この剣は精霊の宿る剣らしい。

らしいと言うのはこの剣、他の人には抜くことは出来ない。

そしてユーリの許可無く触ると手が凍り付きそうな冷気を発する。

ユーリが抜けないにも関わらず触れるのは完全に愛想を尽かされた訳では無いからだろう。

 

ユーリは剣を背中に戻すと、

 

 

「ユーリ・・起きてたんだ」

 

 

リンに話しかけられた。

戦いに疲れて寝ていたと思ったのだが・・

 

 

『悪い・・・起こしちまったか?』

 

 

「大丈夫よ、それより私と手合わせしてくれないかしら?」

 

 

突然の申し出に、一瞬躊躇ったが、同じ剣士同士戦ってみたいと思ったこともあり

申し出を受けることにした。

 

 

『良いが、夜も遅い。1本だけだぞ』

 

 

今日は月が明るく、武器が見えないということは無い

 

 

「充分よ! そのかわり本気でやってよ。女だからって手加減したら許さないわよ!」

 

『そんな失礼な真似はしませんよ』

 

 

リンとの間に軽く距離を空けて、正面に見据える。

手を腰の倭刀にあてて準備完了だ。

 

 

「じゃあ、行くわよ!!」

 

 

その声を合図に手合わせは始まった。

 

先手はリンだった。

素早い動きで、剣を抜きユーリに斬りかかる。

ユーリはその剣を避け、難しいものは倭刀で受け流す。

決して、受け止めるような真似はしない。

 

 

『やるね・・・リン!!ちょっと燃えてきたよ!!』

 

「ユーリも流石ね、全然当たらない!」

 

 

真剣を使っての手合わせは危険じゃないか?と思わないこともないが、

木刀等では剣の重さも変わったりしてあまり鍛錬にならない気がすると考えるのがユーリだった。

 

 

「はぁっ!!」

 

『甘い!!』

 

 

リンの突きをユーリが、その剣を持つその手を掴んで止める。

後はリンの懐に入り込んで剣を向ければチェックメイトだ。

 

 

『決まりだね♪』

 

 

リンの首筋に当てた剣を仕舞いつつユーリが言った。

勝利を掴んだのはユーリだった。

 

 

「やっぱり強いわね」

 

 

同じように手に持つ剣を鞘に収めたリン。

お互いに楽しそうな笑顔を浮かべていた。

 

 

「ユーリは毎日、鍛錬してるの?」

 

『勿論さ、強くなるのに鍛錬は欠かさないさ』

 

「なら、これからは私と鍛錬しましょ!2人の方が良い鍛錬になるだろうし」

 

 

2人で鍛錬・・・。

確かに、1人では限界がある。

2人じゃなければ、先ほどのような手合わせは出来ない。

リンほどの腕前ならこちらにとってもありがたい。

 

 

『したら、明日からよろしく頼む!』

 

「ええ! よろしく頼むわ」

 

 

 

 

 

そのころのマーク

 

「眠れん・・・」

 

 

ユーリとリンは想像以上に手合わせに集中していたこともあり、忘れていたが

鍛錬場所はリンのゲルの近く。

そして、その付近にいたのが、リンとユーリだけではない。

 

剣のぶつかる音でマークも寝られない夜を過ごしていた。

 

 

 

 

 

 

これからは共に鍛錬していく、そう決めた2人は近くに座り、先ほど手合わせで火照った身体を冷ましていた。

その時にリンが唐突に聞いてきた。

 

 

「ユーリはさ・・・旅してるけど、家族はどうしたの?」

 

聞いて良いのか?と躊躇いを含んだ感じにも聞こえた。

 

家族

 

勿論、ユーリにだって存在する。

正直に言えば、あまり話したい内容ではない。

それでも、簡単になら話しても良いかなと思えるのはリンの魅力なのかもしれないなと考えた。

 

 

『父さんと母さんは死んでるよ・・・でも姉と妹が2人いるよ』

 

 

今はどうしているのだろうか・・・

久しく故郷に帰っていないユーリにはわからないことだった。

 

 

「お姉さんと妹さんはどんな人なの?」

 

 

もしかしたら気を使わせたのかもしれない。

リンはユーリに父親と母親の話は聞いてこなかった。

自分も同じような境遇だからこそ触れなかったのかもしれない。

 

 

『姉さんは自分のことを省みずに、俺たちを助けてくれる人だったよ。俺も姉さんには迷惑かけまいと、いろいろと頑張ったものだよ。生真面目なところというか、融通が利かない面もあって少し大変だったけどね、上の妹はなんていうか、素直になれないやつでさ。憎まれ口を良くんたたいていたよ。でも、本心は1番家族思いの優しい娘だよ。下の妹は気が弱いとこがあったりして、自分の意見をはっきりとはあまり言えなかったけれど、芯はとても強い良い娘だったよ・・・』

 

 

「良い家族ね・・・」

 

 

その言葉にどんな想いが込められていたのだろう・・。

父親と母親を失い、部族の仲間も殺され1人になったリン。

父親と母親を失っても、姉妹がいたユーリ。

 

 

「お姉さんと、妹さん、今も元気にしてるの?」

 

『・・・・・さぁ、しばらく連絡とってないし、会ってもいないからね』

 

「どうして!?」

 

『もう遅いし、明日も早い・・・寝よう』

 

 

ユーリは急に立ち上がり、ゲルに足を向けた。

そのことを聞くなという'拒絶'だった。

どうして、姉さん達のことまで話した?

 

話せばこうなることはわかっていたはずだろう。

誰かに聞いて欲しかったとでも言うのか?

 

ユーリの心中は穏やかでなく、自問自答を繰り返していた。

 

 

「ユーリ・・・何かあったの?」

 

 

リンの呟きがサカの草原を吹く風に流れて消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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