ゼロの使い魔―荒野の刃獣譚―   作:神仁

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色々ありまして、ゼロ魔と新しい話の投稿のみです……詳しくは後書きで(´・ω・`)


第四節――魔剣と獣は合間見え――

 

「買い物に行くわよアッシュ!」

 

「……お前は急に何を言っているんだルイズ?」

 

ギーシュとの決闘騒ぎから暫く――特に問題らしい問題も起こらず、ルイズの魔法に関しての進展も無く……平穏で暇な時を過ごしていたワケだが。

 

今日は学院は休暇らしい――休暇、という感覚がいまいち分からねぇが……要するに授業が無い日だそうな。

 

「何よ、寛大なご主人様が使い魔の為に武器の一つでも買ってあげようと思ったのに!」

 

「武器か……」

 

この大陸の武器とやらがどんな物か知らないが――ギーシュのゴーレムが持っていた武器を鑑みても、この大陸の文明が大破壊前よりも更に前の文明レベルであることは窺える。

 

――弾薬の類があれば良いのだが、それは望めないかも知れねぇなぁ……。

 

「アンタの話だと、アンタは武器も色々使えるんでしょ?」

 

「――そりゃあ、ハンターだからな……一通りの心得くらいあるが」

 

サラたちソルジャー程じゃねーが色々な武器を使って来たし、使いこなせる自信もある。

 

「アンタが強いっていうのはよく分かったわ――けど、アンタが決闘したギーシュはあくまでもドットメイジなんだから、もっと強いメイジや幻獣は一杯いるんだからね?素手じゃ格好も付かないし……って、アンタなにやってるの?」

 

「何って……武器の手入れだな」

 

「武器?それが?」

 

俺がメンテしているのは、手甲の様な物と短い棒の様な物――ぶっちゃけ、ロケットパンチとライトセーバーだな。

 

道具入れに入れてある装備は、道具入れの性質上劣化することは無いが……この二つは俺がグラトノスをぶっ潰した時に着けていた装備だ。

レーザーバズーカもあったが、アッチはグラトノスの野郎に完璧にオシャカにされちまった。

 

防水加工はされちゃいるが……あんな汚れきった海水で揉みくちゃにされたんだ――当たり前の様に使用不可能だった……ちなみにサラから預かったマグナムガデスは何とも無かったが――生体パーツみたいなモノだからか。

 

俺はカチリと、ライトセーバーを起動させる。

 

「ひゃっ!?」

 

「よし、作動したな」

 

「コレ、魔法……じゃなくてカガク……だっけ?」

 

実体剣で言う、柄の部分から光の刃がヴンッ――とかいう音を伴って顕れる。

 

「……一応言っておくが、光の部分に触るなよ――怪我じゃ済まないぜ?」

 

「わわ、分かってるわよ!?」

 

ルイズが物珍しそうにライトセイバーの刃を触ろうとしていたので、一応忠告しておいた。

 

「こっちはどうかな――っと」

 

俺はライトセイバーを解除してから手甲を片方だけ填め、開かれた窓に拳を向けて――放った。

 

軽いロケット噴射――噴射自体は軽いが、その反動は普通の奴なら吹っ飛んで2転3転はするレベル――を得て勢いよく飛んだ鉄拳。

 

「おぉ、飛んだ飛んだ――あ」

 

「あ」

 

なんか青い空飛ぶトカゲみたいな奴が横切り、危うく直撃しそうになったが――。

 

「……間一髪、鼻先を掠めただけで済んだみたいだな」

 

再び手元に戻ってきたロケットパンチを、腕に填める形でキャッチした俺は、少々ホッとした様子で息を吐いた。

 

「……なんか慌ててるみたいに見えたけど」

 

「混乱の坩堝って奴だな」

 

何事かと辺りを見回す青いの――あっ、目が合った……と思ったら慌てて何処かに飛んでいった――。

 

「もう、気を付けなさいよ!私の使い魔が人様の使い魔を傷付けました――なんて、笑い話にもならないんだからねっ!!向こうはドラゴンみたいだから、当たっても大したことないんでしょうけどね」

 

「すまん、次から気を付けるわ」

 

……あのトカゲ――ルイズ曰くドラゴン――がどれだけ頑丈か知らねぇが、ロケットパンチは貫通力から来る威力だけを見るなら通常のバズーカ砲を軽く超える。

 

……誰かの使い魔らしいし、直撃しなくて良かったぜ――面倒は御免だからな。

 

「ともあれ、ロケットパンチも何とか使用可能と――」

 

コレで直らなきゃ、本職のメカニックじゃねぇ俺にはお手上げだったぜ……何故かスイスイ直せたが。

 

「……それにしても、凄い武器を持ってるのね――じゃあアンタの買い物は必要ないかしら……」

 

「――いや、そんなことねぇぜ?」

 

「え?」

 

「どういう武器があるか興味はあるし、もしかしたら魔法の武器とかあるかも知れねぇんだろう?」

 

道具入れには、多分ルイズが思う以上に凄い武器が大量に入っているのは間違いねぇが――。

 

「そりゃあ中には魔法の武器もあるかも知れないけど……」

 

「まぁ、無いなら無いで構わねぇよ」

 

実際、魔法の武器ってのに興味があるのは確かだが――何よりも俺には欲しいモノがある。

 

「ただ、一張羅のコートは新しいのが欲しいけどな……」

 

「コート?」

 

「……お前が錬金の授業で、爆発魔法ぶちかました時に吹っ飛んだ俺の上着だよ」

 

「うっ……で、でもアレ元々ボロボロだったじゃない!!」

 

「それでも十分機能してたんだよ――ボロボロだったのは否定しねーが……」

 

あの耐火耐弾コートは、俺が駆け出しハンターの頃から愛用していた物で――本能的に気に入っていたのか、グラトノスに改造された後も使い続けていたらしい。

 

徐々にボロボロにはなっていったが、全てにケリが着くまで使い続けても支障が無い程に頑丈だった――不発弾の爆発にも耐えた逸品なんだが、ルイズの爆発魔法で再起不能だ……恐るべしルイズの爆発魔法……。

 

「つーか、ずっと使ってたからな――無いと落ち着かなくてよ……」

 

「んー……ああいうデザインの服は見たこと無いけど……服飾屋に頼めば作ってくれるかも――」

 

オーダーメイドか――それならなるべく丈夫な奴にして貰いたいが……。

 

「なら決まりだな――で、何処に行くんだ?近場に買い物出来る場所は無かった筈だが――」

 

暇な時に見渡せる範囲で周囲を調べてみたが、武器や衣服を売り買い出来る施設は無さそうに見えた。

 

「トリステインの王都、トリスタニアよ。此処から馬を使って大体2時間くらいかしら」

 

「ウマ――あぁ、馬か……話にしか聞いたことねぇ――いや、そう言えばこの学院にも居るんだったか」

 

馬ってのは今は滅んだ動物の名前……だった筈だ。

草食性の動物で、その足は駿足である――と。

クルマ等のエンジンに用いられる『馬力』という言葉はこの馬が語源らしい――1馬力=馬一頭……ん?そうなると大したこと無いのか?

 

この学院に馬が居る馬屋があるのは知っていたが……何故か俺が近付くと馬が怯えるんだよな……最近は多少慣れたみたいだが。

 

「馬も知らないの?……アンタの住んでたところって――」

 

「前にも言ったと思うが……俺の住んでた場所は大破壊の影響でまともな動物は居なくなった」

 

「あー……アンタの話だとノアとかって――えーと、こんぴゅうたぁ……だっけ?ソイツが自然を守る為に人を襲ったって――アレ?でもそれじゃ何で動物がいなくなるの?自然を守るなら、動物も守るべきじゃない?」

 

「さて、な。俺はノアを直接見たワケじゃねーから何とも言えねぇが……多分、狂ったんじゃねぇのか?」

 

伝え聞いた話だと、ノアの軍勢は人間だけでなく動物すらも排除していったらしい。

 

奴の目的が『地球の再生と保存』であったからこそ、それを脅かす人類を抹殺しようとした――機械を暴走させ、人類抹殺の為の生物兵器ですら産み出した――。

 

結果、人類抹殺を遂行するノアの軍勢とそれに抗う人類の間で激しく争うことになった――生憎と人類は数ヶ月で敗北を喫するわけだが。

 

そのせいで自然は荒廃し、まともな動植物も追いやられていったんだな。

 

勿論、自然の全てが無くなったワケではないから動物もまた居なくなるわけがない……筈だったのだが。

 

「人間ってのは浅ましいモンだ……肉も野菜も食う。只でさえ少なかった動植物は追いやられた――ノアはノアで、人類抹殺を至上にでもしちまったんだろうよ。人間を根絶やしにする為に、人間の食糧になりそうなモノは片っ端から狩っていった――そんなことすりゃあ、軽く絶滅くらいするわな」

 

「――無茶苦茶じゃない、ソレ」

 

「俺もそう思う」

 

憶測も含めちゃいるが――概ね間違ってはいねぇだろう。

 

「東の方がそんなことになってるなんて……改めて聞いても信じられないわ……まぁ、アンタを見たら信じるしかないんだけど……」

 

「……まあな」

 

本当に東方――ロバ・アルカリ・イエとやらが俺の住んでいた大陸なのか?

或いは全くの異世界なんて、突拍子もない仮説が正しいのか――その辺の真実も、未だに謎だったりする。

 

「で、そのトリスタニアに行くのか?」

 

「――行ってみたいの?」

 

「まぁ、な」

 

「し、仕方ないわね!!そこまで言うなら連れていってあげるわっ!!使い魔の願いを聞いてくれる御主人様で良かったわね!!」

 

――相変わらずルイズは、チョイチョイ自分の方が立場が上なんだと主張してくる……けどまぁ、可愛いモンだよな――子供が背伸びするみたいで。

 

「――今、よからぬことを考えたわね?」

 

「考えてねーよ」

 

――時々、ルイズのこの勘の良さには舌を巻きそうになる。

……つーか、幾らまだ予備があるとは言え……貴重なサラトガ装備を、そう何度もボロボロにされてたまるかっ。

 

「ホレ、時間も惜しいしさっさと行こうぜ」

 

「あっ!?ちょっと!!待ちなさいってば!!」

 

俺はルイズの追及をうやむやにする為に、率先して馬屋へと向かうことにした。

 

未だ見ぬ場所――街に僅かな期待感を抱きながら……。

 

***********

 

――魔法学院寮の一室。

小柄な少女が自室にて読書に勤しんでいた。

 

彼女の名はタバサ。

 

短く揃えた淡い青髪と眼鏡がトレードマークな、物静かな少女だ。

 

貴重な休日――何事も無ければ彼女は趣味である読書に費やす。

 

煩わしい喧騒も、視線も、懸念も――全てを忘れて没頭出来る貴重な時間だ。

 

それは彼女が背負うモノを、一旦とは言え降ろせる――救われた時間だった。

 

独りで――静かに――豊かに物語へ没頭する……それは彼女からすれば我儘な自由――僅かに許された、癒しでもあるのだ。

 

静寂が辺りを包む中、突如身体を揺さぶられる感覚を覚えた。

顔を上げると、そこには彼女の数少ない友人と言って良い人物――キュルケが居た。

 

キュルケは何かを言っている様だが、タバサには聞こえない。

何故なら、タバサは自分の周囲の音を消す魔法を使っているからだ。

 

極僅か――彼女を良く知る人物ですら分からない程度に顔を顰めながら、タバサは近くに置いてあった身の丈以上の杖を掴み、軽く振った。

 

すると、閉ざしていた喧騒が舞い戻ってくる。

 

それを見て、キュルケは一瞬顔を輝かせた後。

 

「タバサ!出かけるわよ、すぐに支度してっ!!」

 

――と、鬼気迫る表情で言ってのけた。

 

「――虚無の曜日」

 

それに対して、タバサは一言だけ返した後に再び本へと視線を戻した。

 

虚無の曜日とは、現代日本で言う日曜日に相当する日である。

つまりタバサは暗に、せっかくの休日を邪魔するなと言っているのだ。

 

「わかってる!貴女にとって虚無の曜日にどういう意味があるのか!痛いほどよく知ってる!!けどね?恋を……恋をしてしまったのよ私!!こんなに恋したの、多分生まれて初めてよ?それなのに!!それなのに、愛しのあの人をヴァリエールの奴が連れ去ってしまったの!!――分かるでしょう?」

 

タバサは首を横に振る。

キュルケが恋をするのはいつものことで――いつもより熱が入っている気もするが――それと自分の休日を浪費されることにイコールを見出だせない……というか、見出だしたくないのであろう。

 

「ああ、そうよね……貴女は説明しないと動かないのよね……出掛けちゃったのよ馬に乗って!!貴女の使い魔じゃないと追い付かないのよ……お願い、助けてっ!!」

 

遂にはキュルケに泣き付かれたタバサは、ゆっくりと頷いてみせた。

何時にも増して必死そうな友人に、少し興味が湧いたのもあるのだろう。

 

「ありがとう!!追い掛けてくれるのね!!」

 

タバサは窓に歩み寄って開け放ち、口笛を鳴らした。

 

すると何処からとも無く、青い竜が飛んでくる――タバサの使い魔である風竜のシルフィードである。

 

――が、何やら様子がおかしい。

 

心無しか涙目で、必死にキュイキュイ鳴いてタバサに何かを訴えている様にも―――【ゴッ!!】……見えたが、タバサの杖の鈍い音が響き――大きなタンコブと共に更に涙目になって押し黙るシルフィードを見て、流石のキュルケも冷や汗を流す。

 

「えっとぉ……シルフィード、大丈夫?」

 

「大丈夫、問題ない」

 

「そ、そう?」

 

シルフィードの主であるタバサにそう言われてしまえば、キュルケも押し黙るしか無い――例えシルフィードが、目の幅涙で悲しそうに見える表情をしていても――だ。

 

何だか微妙な空気になりながらも、タバサとキュルケはシルフィードの背中に乗り込む。

 

未だ成竜に満たない部類に入るシルフィードではあるが、人二人ぐらいなら余裕で乗せることが出来る。

 

「何処に向かうの……?」

 

「え、あぁ、確か聞こえた内容からすると――トリスタニアに買い物に行くって言ってたわね!」

 

「聞こえた……?」

 

「そうよ。私が愛しのあの人の為に虚無の曜日を過ごそうと思って、準備を整えてからお誘いしようと向かったら――ヴァリエールの部屋から声が聞こえてきてね?耳を側立てたら買い物に行くって聞こえて来たのよ!!」

 

「……」

 

それは盗み聞きと言わないだろうか……と、タバサが思ったか定かでは無いが――その辺りを深くは追求せずに、シルフィードに行き先を指示する。

 

仮に追い付いても、馬は食べないように言い含めて――。

 

道中、キュルケは愛しのあの人こと、ルイズの使い魔であるアッシュについてタバサへ熱を込めて語って聞かせる――野性味溢れる魅力や、メイジを物ともしない強さ等(タバサはギーシュとアッシュの決闘の際、興味が湧かずに早々に立ち去ったのでその辺が分からない)タバサも普段ならスルーするのだが、友人の熱の入り様――執着と言っても良い――が、今までに無い勢いに感じたので、何となく聞いてみた。

 

「――珍しい」

 

と――。

 

普通なら、主語が足りないであろうこの言葉に首を傾げる所だが――それなりに付き合いの長いキュルケには、何のことを指しているのか理解出来た。

 

故に、バツの悪そうな……照れ臭そうな表情をしながらタバサの問いに答えた。

 

「……初めてだったのよ。私の熱を否定されたのは――見透かされたのもね。それで色々言われて……悔しかったというか、嬉しかったというか……なんか納得しちゃったのよね。それで、彼の言うように灼熱の様な気持ちを見せ付ければ、彼も私を認めて――って何言わせてんのよぉ、もう!!」

 

「………」

 

言い出したのはそっちだろう――。

 

バシバシと肩を叩かれながら、そんなことを思ったかは定かでは無いが――微かにイラァ……感を募らせるタバサであった。

 

***********

 

「此処がトリスタニアか……思ったよりは早く着けたな」

 

案の定、馬が俺を見て怯えた時にはどうなるかと思ったが――。

 

「アンタが馬に乗ったことが無いって言った時にはどうなるかと思ったけど……思ったより直ぐに順応したわね」

 

「これでも『鉄の馬』には乗り慣れているからな――今更、生物の馬に乗るくらいワケねぇさ」

 

大人しくしねぇと本気で喰うぞ……と、言い聞かせたら大人しくなった。

……言葉が通じたワケじゃねぇとは思うが、雰囲気は伝わったんだろう――多分。

少し喰ってみたいと思ったのは……言わねぇでおこう。

 

「乗れなかったら乗れなかったで、自分の足で走れば良いだけだし……多分、俺はその方が速いだろうしな」

 

「……アンタの場合、あながち嘘とは言えないのよね――本当に出来そうで」

 

そりゃあ、クルマで入れない様な場所には足で入ったし――クルマ程じゃねぇにしろ、馬より早く走れなきゃ捕食者であるモンスターから逃げることも出来やしねぇ。

 

基本は逃げたりしねぇし、する必要もねぇが――今なら生身で倒せる様な奴でも、当時は生身じゃどうしても及ばねぇモンスターに襲われることもしばしばだったからな……。

 

「んで?先ずは何処に向かうんだ?」

 

「そうね……先ずは洋服店かしら?アンタのコートを新調したいんでしょう?」

 

「あぁ、そうしてくれると助かる」

 

俺の一番の目的がソレだからな。

――性能的には及ばねぇだろうが、何か羽織ってねぇと落ち着かねぇんだよな……。

 

「にしても……随分と狭い通りだな」

 

「狭いって――このブルドンネ街はトリスタニアで一番の大通りなのよ?」

 

「……コレでか?」

 

どう大きく見積もっても5メートル程度の道幅しか無いんだが……と、確か此処では『メートル』じゃなくて『メイル』って表記するんだったな。

 

まぁ、道が狭いというか……建物が犇めき合っているってのが正しい感じだな。

活気に満ちていて、貴族と思われる着飾った連中や、平民と呼ばれる街人まで様々だ。

 

「けど、あんまりゴミゴミはしてねぇな――ビシッとした街並みっつーか……こういうのを理路整然っつーのか?」

 

「何しろトリステインの王都ですからね!気品が違うわよ!」

 

褒められたと思ったのか、胸を張って誇らしげに語るルイズ――が。

 

「……でも、ソレも城に続く表通りや貴族の住宅街……あとは平民の住宅街の一部くらいね。後で武器屋に寄るから分かると思うけど、裏通りはあまり褒められた空気じゃないわよ」

 

「まぁ、そうなるだろうな」

 

貧富の差があれば、治安や環境が悪くなるのは当然――ましてや、貴族だの平民だのという格差を作る連中だからな……推して知るべし、だ。

 

――それでも、この街の雰囲気から考えてシエルタ並に酷いとは思わねぇがな。

 

「――あ、一応言っておくけどスリには気を付けなさいよ?」

 

「大丈夫だ、問題ねぇ」

 

スリなんざ、俺の居た場所じゃ珍しくもねぇからな。

今更、何かをスラれる様なドジは踏まねぇよ。

 

「魔法を使われたら一発よ?」

 

「魔法って……メイジってのは貴族なんじゃねぇのか?」

 

「確かに貴族のほとんどがメイジよ。けど、メイジの全てが貴族ってわけじゃないの――家が没落したりして家名を亡くしたメイジは、傭兵になったり……酷いと盗賊に身をやつしたりするらしいわ」

 

「成程な――中にはスリで生計を経てる元貴族も居るってワケだ」

 

しかし元貴族が平民以下の立場に落ちぶれて、コソ泥に成り下がるってのは――何とも皮肉じゃねぇか。

 

「忠告ありがとうよ――そんな親切な御主人サマには、コレをプレゼントしてやろう」

 

「なにコレ――って、私のお金じゃないっ!!?」

 

「さっき話してくれている時にな――掠め盗っていた奴からスリ返しておいた」

 

「いつの間に……」

 

「調子に乗って俺からもスろうとしやがったから、代わりに手土産をくれてやったがな」

 

「手土産って――「なんじゃこりゃあぁぁ!?」っ!?」

 

スリの野郎には、代わりに特別なプレゼントを持たせてやった――少し勿体ねぇがな。

 

「アンタ……なにをやったの?」

 

「なに、食ったことがねぇ様な珍味を持たせてやっただけさ」

 

殺人アメーバなんかの身体の一部――『ぬめぬめ細胞』をな。

コイツは上手く焼くと癖になる酒の肴だが――生のままでは、文字通りぬめぬめしていて強烈な臭気を放つ。

俺は食ったこと無いが、酢漬けにしても美味いらしい。

 

「まぁ、良い薬だろうぜ。次に出会したらあんなモンじゃ済まさねぇケドな」

 

「……なんだか分かんないけど、アンタが居てくれて助かったわ……その、ありがとね?」

 

「ああ」

 

俺はニッと笑って、礼の答えにした。

それを見てか、ルイズも微かな笑みを見せた……良い顔するじゃねぇか。

 

俺たちはそのままその場を後にした。

 

***********

 

それで俺たちは服屋に到着したわけだが……。

 

「此処がそうか?」

 

「そうよ。此処は貴族の衣服から平民のちょっと上等な服まで、色々と扱っているのよ」

 

と、ルイズに説明される。

 

なんでも平民とカテゴライズされる階級でも、十把一絡げでは無く――勤勉に勤める奴にはそれ相応の給金を貰えるので、こういう店でそれなりに身綺麗な格好をすることも出来るそうだ。

 

もっとも、それでも貴族と平民の財力には天と地程の差があるので、身綺麗とは言っても質素な物しか買えないらしいが。

 

「いらっしゃいませ、どのようなご用件でしょうか?」

 

「そうね……コイツに服を幾つか見繕って欲しいの――後は特別に服を仕立てて欲しいらしいわ」

 

「畏まりました」

 

と……トントン拍子で話が進んでいくが――。

 

「おいルイズ、俺はコートのオーダーメイドはともかく、服は頼んじゃいねぇが?」

 

「アンタだって、普段着の1つや2つ必要でしょ?お金のことなら心配いらないわよ。貯えはあるし、アンタから貰った金とかもお金に替えておいたから」

 

幾ら俺でも、装備以外の着替えくらい持ってるし……替えの洗濯だってやってるぜ?流石に。

 

けどまぁ――。

 

「そこまで言うなら、御言葉に甘えるとするか」

 

単にお節介焼いてくれてるだけってんなら――断るのは無粋って奴だな。

 

「良いわよ。優しいご主人様に感謝しなさいよね?」

 

「あぁ、感謝するぜルイズ――例え持ち金の幾らかが、元は俺の金塊だったとしてもな?」

 

とは言っても、アレはルイズに治療やらで金を払って貰った礼のつもりで渡した物だから、借りを返したというか――俺的にはプラマイゼロなつもりでしかねぇからな。

 

「――っ、アンタってどうしていつもそう一言……ッ!!」

 

「さーて、服を見繕って貰ってくるかぁ」

 

それは一々ルイズの反応が面白ぇからだが……言わぬが何とやらだ。

 

「あ、ちょ、アッシュ!!待ちなさい!!」

 

「……一応言っておくが、此処で魔法ブッ放したりしたらどうなるか――聡明なルイズお嬢様なら想像出来るんじゃねぇか?」

 

「ぐぬぬぬ……お、覚えてらっしゃいよアッシュ……っ!!」

 

後が怖いので早々に忘れるに限る。

――人間、忘れた方が良いことってのもあるのだ。

 

――まぁ、そんなことがありながらも何事も無く買い物は終了した。

 

ルイズは幾つかの服や小物を、俺は幾つかの服(一部礼服というモノを買わされた)を購入し、コートに関しては形状が分からねぇと言われたから、紙に簡単な説明図を描いた。

 

……まぁ、上手くも下手でもねぇ程度のイラストだったが――向こうは服飾のプロだけあって直ぐに内容を理解した様だ。

 

出来るだけ丈夫にと注文を付けたからか、出来上がるまでには幾らかの日数を要するらしい。

 

で――その間の間に合わせとして、外套――ロングマントみたいな物を購入。

ルイズの選んだベージュ地のソレは、実に触り心地の良い材質で――巨鳥の皮を鞣して作った物らしい。

 

「成程、いいセンスだ」

 

「ふふん。もっと褒め称えてもいいのよ?」

 

それなりに頑丈に出来ているらしいソレを気に入った俺は、素直にルイズに礼を述べた。

 

コートの方は出来上がり次第、魔法学院の方に送り届けてくれるそうだ。

 

とりあえずマントは装備して、残りは道具入れにぶちこんでから店を出た。

 

「アッシュの道具入れのお陰で、手元が嵩張らなくて良いわね」

 

「そりゃあ何より――んで、次は何処に行くんだ?」

 

「それじゃあ、武器屋にでも行きましょうか」

 

その足で武器屋に向かうことにした俺たちだが――。

 

「えーと、ピエモンの秘薬屋の近くだから……コッチね」

 

そう言って裏路地を進んで行くルイズに着いていく――成程と、ルイズが言っていたことを理解する。

 

表通りより遥かに狭い道――ゴミゴミしていると言ってもいい。

 

雰囲気が確かに違う……が、陰湿な感じじゃねぇ――向こうと似たアウトローな空気……なんつーか、懐かしい感じだな。

 

表通りと比べて清潔とは言えないが……それでもやはり、シエルタの外周に比べたら遥かにマシに思えるな。

……あそこは死体の山とか平気であったからな。

 

しばらく進むと、それらしい場所にたどり着く。

剣の形をした看板が下がっているので間違いないんだろう。

 

「此処がそうなのかルイズ?」

 

「ええ、そうよ」

 

俺たちは店内へと足を進める――中には剣やら槍やら斧やら鎧やら……所狭しと並んだり飾られたりしている――銃の類は無いみたいだな……予想はしていたが。

 

「旦那。貴族の旦那。ウチは真っ当な商売をしてまさぁ。お上に目をつけられるようなことなんか、これっぽっちもありませんや」

 

此方を目敏く見付けた武器屋の主らしきオッサンが、そう語る。

 

ちなみに貴族は、身体の何処かに貴族の証である五芒星のマークをあしらった物を身に付けているらしい。

 

ルイズの場合は紐タイ留めに五芒星のマークがある為、それを見て判断したんだろうな。

 

「客よ」

 

「こりゃあ、おったまげた!貴族が剣を!」

 

ルイズの腕を組みながらの客宣言に、大袈裟に驚いてみせる武器屋のオッサン。

 

まぁ、ルイズから聞いた話だと武器ってのは基本的に魔法が使えない平民が使うモノで、多くの貴族が武器を使う者を野蛮だとか見下すらしいからな……驚くのも仕方ないのかも知れねぇが。

 

「私が使うワケじゃないわ。とりあえず商品を見せて貰うわよ」

 

そうルイズが告げると、オッサンは了承の意を示した後に俺を一瞥――その足で店の奥に入って行った……一瞬、ニヤリと笑い顔を浮かべた。

 

「まぁ、良いさ」

 

値踏みされようがどうしようが、良い装備を扱っているなら――な。

 

「どう?良さそうなのあった?」

 

「――イマイチだな」

 

「そうなの?」

 

槍だと思われる装備を手にとって眺めるが――正直、期待外れと言わざるを得ない。

 

そこに武器屋のオッサンが細い針の様な剣を持ってくる。

 

「最近は宮廷の貴族の方々の間で下僕に剣を持たせるのが流行っておりましてね。その際にお選びになるのがこのようなレイピアでさあ」

 

「貴族の間で下僕に剣を持たせるのが流行ってるですって?」

 

オッサンの話じゃ最近『土くれのフーケ』というメイジの盗賊が現れ、貴族の宝を盗みまわっているらしい。

それを恐れた貴族連中が、護衛の下僕に剣を持たせているとか――。

 

貴族ってのはメイジで、平民では逆立ちしても勝てないって風潮らしいが……そんな貴族が恐れるくらいだから、そのフーケってのは相当腕の立つメイジってことか……。

 

そんな話を聞きながら、オッサンの持ってきたレイピアを手にとってみる。

刃渡りは1メイル、装飾は細かく華やかな剣だ――が。

 

「中々綺麗な剣ね。コレにする?」

 

「いや、コレは駄目だな」

 

俺は溜め息混じりに答えつつ、レイピアをカウンターの上に戻した。

 

オッサンが少しムッとした表情を浮かべたが。

 

「確かに装飾は綺麗だがな……レイピアってのは刺突に向いた――ハッキリ言っちまえば突き専用の剣さ。対人戦なら使えないこともねぇが……頑丈な鎧を来た奴や皮膚の硬いモンスターには通用しねぇだろうな……しかも見たところ装飾は立派だが、使ってる金属は大した物じゃねぇ……コレならギーシュのワルキューレが持ってた青銅の剣の方がマシだな」

 

技量があれば、鎧の隙間や皮膚の柔らかい部分を狙って突くことも出来るらしいが……何れにせよ、仲間から聞き齧った知識から照らし合わせても骨董品でしかねぇと判断出来る品ってわけだ。

 

「ふーん、そうなんだ……ねぇ、もっと良い武器はないわけ?」

 

「へっへっへっ、それならば若奥様。とっておきのモノがありまさぁ」

 

ルイズの問いに、待ってましたと言わんばかりに笑みを浮かべながらレイピアを片付けたオッサン……次いで出して来たのは――大剣だった。

 

「ゲルマニアの錬金術師、シュペー卿が鍛えし業物。固定化を掛けてあるんで、どんな鉄でも一刀両断でさぁ」

 

「凄そうな剣ね……幾らなの?」

 

「そうですなぁ、コレほどの業物となれば2000エキュー、新金貨なら3000は戴きたいですなぁ」

 

「立派な家と森付きの庭が買えるじゃない!」

 

「へぇ、貴族様の下僕となればコレほどの名剣でもなければ、と」

 

「ん〜……でも剣に2000エキューも使うのは……」

 

「差し出がましいですが若奥様、マトモな剣ならどう安く見積もっても200エキューは掛かります……ましてや、コレだけの業物となれば――」

 

「………」

 

二人が何やら話してる間に、その剣を見てみる。

 

その剣は刃渡り1.5メイル程の長さがあり、厚みのある大剣だ。

先程のレイピアに負けず劣らず装飾が細やかで、更には所々に宝石をあしらってある。

 

『念のため』に、手に取ってみるが――。

 

「論外だな……」

 

俺は溜め息1つ、ガッカリしたという雰囲気を隠さずに呟いた。

剣をカウンターに戻し、一言。

 

「オッサン、コレがこの店のとっておきだって本気で言ってるなら――悪いことは言わねぇから、店を畳むことを進めるぜ」

 

「んなっ……!?」

 

辛辣とも言える台詞を吐く俺に、オッサンは驚愕した様な表情を浮かべる。

 

「どういうことよアッシュ?」

 

「簡単に言っちまえばナマクラ……ってこった。使ってる金属が安物なんだろうな――パッと見は綺麗に整っちゃいるが、中身はスッカスカだぞコレ……つーか、そもそも実戦用の剣にこんなゴテゴテと宝石を散りばめる意味が分からねぇよ」

 

ハンター稼業なんてやってると、大破壊前の軍事施設に入ったりもするが……そういう場所には武器や防具の類が置いてあったりする。

使える物はありがたく頂戴するが――中には劣化が酷く使えない物もあったりする。

だから自然と目端は鍛えられたし、それらの装備を手に取ってみれば大体の状態は読み取れる様になった。

……正直、これならさっきのレイピアの方がマシ……というか、『緋牡丹のドス』の方が数倍マシだ。

 

「……じゃあ、この剣に2000エキューの価値はないの?」

 

「――まぁ、アンティークとしての価値はあるんじゃないか?……それでも、庭付きの家と同価値とは思えねぇな」

 

それだけ語ると、ルイズがジト目でオッサンを睨む――オッサンの顔が強張った。

……何となく予想はしていたが。

 

「アンタ、最初からボッたくるつもりだったな?その剣も、元々は1000エキューもしねぇんだろ?」

 

「いやぁ、それは、その……」

 

「へぇ……貴族をペテンに掛けようなんて――良い度胸してるじゃない……?」

 

「いえ、そのあの……」

 

ルイズが一触即発――剣呑な空気を発して、オッサンが真っ青になっている――ルイズの眉根がピクピクしていることから、沸点を超え掛けているんだろう……そんな最中。

 

「だぁーはっはっはっ!!おでれぇたぁ!!コイツぁ愉快だ!!」

 

その雰囲気を切り裂く様な声が響き渡る。

 

それはオッサンの声でも、ルイズの声でも――ましてや俺の声でもない。

 

声の出所を探る――聞こえてきたのは武器屋の一画。

何本もの剣が十把一絡げに纏めて置かれている区画――そこから聞こえてきた。

 

「おめぇ、中々の目利きじゃねぇか!!おめぇの言う通り、この店にマトモな武器はほとんどねぇよ!何しろ、安く買い叩いて法外の値段を吹っ掛けるってのが、ソイツの基本方針って奴だからな。まぁ、色々とお察しだぁね」

 

「デ、デル公!おめぇは黙ってろぃ!!」

 

「デル公?」

 

俺は声の聞こえる区画の中から、剣を一本引き抜く。

それは先程の大剣と同じ程度の刃渡りを持つ、片刃の剣だ。

――が、その刀身、柄――金属部のありとあらゆる部分が錆びていた。

 

……それでも、さっきの大剣よりも切れ味は上に思える。

 

「……こりゃあ、おでれぇた。おめぇ『使い手』か」

 

「………」

 

その剣の刀身と柄の接合部――鍔元って言うんだったか?――が、カチャカチャ動いて声を発した……まるで喋っているように。

 

「コレって……インテリジェンスソード?」

 

「へ、へぇ、知性のある剣――インテリジェンスソードでさあ。貴重な品だってんで仕入れたは良いものの、御覧の通り錆びていてオマケに口が悪いのなんのって……喋る剣なんて誰が考えついたんだか――」

 

インテリジェンスソード――このオッサン曰く『知性のある剣』――ずばり魔法の武器だそうだ。

 

俺も色々なモンスターを見てきたが、喋る剣なんてのは初めて見たぜ……まぁ、武器にAIを搭載すれば可能なのかも知れねぇが……あのご時世、思考や意志疎通が可能な程のAIは、ノアにハッキングされて狂っちまうってのが相場だろうから――見なくても仕方ねぇな。

 

――中には、ノアの影響を受けない人工知能を搭載したアンドロイド……なんていうのも存在したらしいが――実物は見たことねぇな。

 

「お前がデル公って奴か?」

 

「おう、オレっちがデルフリンガー様よ!!しっかしおめぇ、変わってんなぁ――なんか普通の人間とはちげぇ感じだ」

 

「――分かるのか?」

 

「おうよ!しかも腕が立つ上に使い手と来たもんだ!!運命って奴を感じたねオレぁ――というワケで、おめぇオレを買え」

 

「……何がというワケだか分からねぇが……」

 

コイツはどうやら、俺の中身やら実力やらを見抜けるらしい。

 

「というか、使い手って何だ?」

 

「なんだおめぇ、自分のことも分かんねぇのか?いいか?使い手ってのはなぁ―――………アレ?何だっけ?」

 

「おい」

 

「いやぁ、悪ぃ悪ぃ。なんか頭ん中にモヤが掛かってるってーか……おめぇが使い手だってのは分かるんだが、使い手が何だか思い出せねぇ!まぁ、その内に思い出すだろ。つーワケで、オレを買ってくれ」

 

本当に何がつーワケなのか分からねぇが……剣の癖に喋るってのは面白ぇな。

武器としてはもっと強い剣は幾らでもあるが……記憶喪失、か。

 

「ルイズ、コイツを買って欲しいんだが……良いか?」

 

「えー……こんなボロ剣を?」

 

「オイオイ物を知らねぇ貴族の嬢ちゃん。この店にある数少ない『本物』なデルフリンガー様を馬鹿にしちゃいけねぇぜ?オレっちが只の喋る剣だと思ったら大間違い!!他の剣には無い特別な力があるんだぜぇ?……よく覚えてねぇけど」

 

「……ねぇ、本っっ当にこんな馬鹿剣が欲しいの……?」

 

「あぁ、頼む」

 

ルイズがジト目で睨みながら問い掛けてきたが……本人――本剣?が言うように、パッと見た感じコイツが一番武器としてマトモな剣みたいだからな。

 

「錆は磨けば取れるだろうし、造りに遊びがほとんど無い――良い剣だと思うぜ?」

 

何より記憶喪失ってのに、シンパシーを感じちまったからな――面白そうだと思ったのも本音だが。

 

「ハァ……しょうがないわね――アレ、幾ら?」

 

「へ、へぇ……アレなら50エキューで構いやせんが――」

 

「あら、随分と安いじゃない」

 

「御覧の通り、錆びてるわ口が悪いわで……買い手が付きそうになっても難癖付けて買わせない、突然喋り出しては商売の邪魔をするだの、散々でして……正直、厄介払い出来るならと」

 

ちなみに、平民の平均的な年給は120エキューだそうだ……そう考えると剣が50エキューというのは、剣が高いのか平民の給金が安いのか――このオッサンはマトモな剣なら200エキューは掛かると言っていたが、その発言自体がブラフかも知れねぇ。

 

――まぁ、実際に剣の価格は適正で200エキュー、厄介払いしたいからってのと、俺たちをペテンに掛けようとした件に対してのお目こぼしを願っての50エキューってのが事実かも知れねぇが。

 

「この鞘をお使い下さい。しっかり根元まで鞘に収めれば、勝手に喋りだすことも無い筈なんで」

 

「分かった――俺はアッシュ。改めて宜しく頼むぜ、デル公」

 

「その呼び方は好きじゃねーんだ。デルフって呼んでくんな、相棒」

 

「相棒……それも使い手ってのと関係あるのか?」

 

「おうよ!おめぇが使い手なら、間違いなくオレっちの相棒よ!……なんでそうなのか分からねぇんだけど」

 

「まぁ、良いさ……その内思い出すんだろ?」

 

コレが、喋る魔法の剣――デルフリンガーとの出会いとなった。

コイツの言う『使い手』とか『相棒』とか言う言葉の意味を知るのは、まだ先の話になるんだろう。

 

俺たちはデルフを受け取り、払いを済ませて武器屋を後にした。

 

「よし、コレだけ色々買って貰ったんだ。礼に何か奢ってやるよ」

 

「い、いいわよ別に。主人として使い魔の身形を気にするのは当然だし……ワザワザ使い魔の施しを受けるなんて――」

 

「心配しなくても、持ってた金ののべ棒なんかの殆どは、金貨とか銀貨とかに替えてあるから心配いらねぇぞ?」

 

学院で此処の通貨について知った時にコルベールに頼んで、そういうツテから両替して貰った。

――のべ棒の量を見て、コルベールは腰を抜かしていたが――。

 

「そういう問題じゃなくて!貴族が平民に施しを受けるっていうのが――」

 

 

「――普段世話になっている感謝を使い魔がしたいって言うなら、ソレを受け止めるのも主人の器量だと思うぜ?」

 

「むっ……」

 

「まぁ、無理にとは言わねーけどな」

 

「――し、仕方ないわね……特別に感謝されてあげるわ。感謝することね!」

 

……感謝されてやるから感謝しろとか、教養なんかと無縁な俺ですら言葉としてどうなんだと思わなくはねぇが――。

 

「あぁ、ありがとよ」

 

「あ、う、と、当然じゃない!さ、さぁ、そうと決まったら行くわよ!」

 

――本当に、素直な奴だな。

分かりやすいとも言うが――裏表が無いってのは、ありがたいし嫌いじゃねぇ。

 

「――ちなみに、ご予定はお決まりでしょうかお嬢様?」

 

「アンタねぇ……自分から誘ったんだからエスコートくらいしなさいよ」

 

「それは今日初めてこの街に来た奴にするには、随分とハードルが高い要求だと思うんだがな」

 

「ハァー……分かったわ。適当に案内してあげるわよ……まったく」

 

やれやれ、と言う様に溜め息を吐くルイズ。

 

――本当に頭が上がらねぇなこりゃあ。

 

「尻に敷かれてるねぇ相棒」

 

「まぁ、使い魔だからな――精々働きで返すさ」

 

それが俺とルイズの『契約』って奴だからな――個人的に借りを返してぇって気持ちの方が強いが。

 

「何をぶつくさ言ってるの?はやく行くわよっ!」

 

「あいよ」

 

俺は意志を持つ剣を背負い、雇い主の少女の案内で街を廻る。

俺が働きで返す様な事態にならなければベストなんだが……此処も俺が居た大陸程では無いにしろ、中々物騒な様だ――土くれのフーケか。

 

――久し振りに戦意が昂る様な獲物だと良いんだがな。

 

ルイズに案内されながら、俺は噂に聞いた賞金首を思い浮かべて獰猛な思考を張り巡らせる――これがハンターの性なのか獣の因子の本能なのか――。

 

とらぬ狸の皮算用……だったか?

 

そんな諺もあった筈なので、今はこのご主人サマとの会話を楽しむとしますか。

 

「――そう言えばルイズ」

 

「どうしたのよ?」

 

「さっきまでキュルケがこっちを窺ってたぜ?」

 

「ハァ!?それ本当!?」

 

「あぁ。どうやらこの街に来る途中からこっちを窺っていたみたいだな――チラッと見たが、今朝ロケットパンチを叩き込みそうになった……ドラゴン、だったか?アレに乗ってたな――もう一人小柄な奴も一緒だ」

 

「……アイツが一緒に行動する、ドラゴン……風竜が使い魔となると……多分、タバサかしらね」

 

ルイズ曰く、そのタバサはキュルケの数少ない女友達で、風竜を使い魔にしたメイジで……メイジとしてのレベルはキュルケ共々『トライアングル』らしい。

 

「まぁ、直接の面識があるわけじゃないから、それ以上は分からないけどね」

 

「敵意があったわけでもねぇから、放置していたんだがな――武器屋を離れてからは視線も気配も感じねぇから、多分武器屋に入ったんだろうよ」

 

「……怪しい。アイツが武器屋なんかに寄るなんて――なにか、なにかがあるわ!!――――!!アッシュ、もしキュルケに何か渡されても、ちゃんと突き返すのよ!!いいわねっ!?」

 

「よく分からねぇが……貰えるモノは貰「い・い・わ・ね・!?」――了解」

 

何かルイズの勘に引っ掛かったんだろう――こういうのを鬼の形相っつーんだろーな。

 

この状態のルイズに逆らっても、あまり良いことは無さそうなので素直に肯定しておく――直感に従うのも、生き残る秘訣って奴だ。

 

……また装備をボロボロにされたくねぇしな。

 

***********

 

その日の夜――。

 

「ねぇ、ダーリン?実はね、ダーリンにプレゼントがあるの♪」

 

「……俺はダーリンじゃねぇし、ルイズの視線が穏やかじゃねぇから離れた方が懸命だと思うぞ?」

 

寮に帰ってきた後、今日も今日とて調べ物が空振りに終わり、夕食も食べ終わってから部屋に戻ろうとした所を襲撃されたアッシュとルイズ。

 

襲撃者……キュルケはアッシュに抱きつき絡み付く。

それは柔らかく温かく甘い香りがしたが……沸点を超えたルイズの視線に気付いているため、アッシュも気が気ではない様だ。

 

「そ・れ・で!?、私の使い魔に!!何の様かしら、ツェルプストー……?」

 

今にも爆発しかねない時限爆弾という感じのルイズ。

いっそのこと、このまま爆発魔法で纏めて爆発させてやろうかと不穏な思考を廻らせていたが――。

 

「あら、居たのルイズ?って、忘れるところだったわ――ハイ、ダーリンにプレゼント♪」

 

そう言って背中に隠していたモノをアッシュに差し出す。

 

「え……」

 

「それは……」

 

キュルケが差し出した物は剣だった――。

刃渡り1.5メイル、豪華な装飾や宝石で飾られた剣――ぶっちゃけシュペー卿の鍛えしナマクラである。

 

「やっぱり剣でも何でも一番はゲルマニア製よねぇ〜。この輝き、この力強さ――どれを取っても一級品ね!!やっぱり、ダーリンくらいの強い人にはそんなボロボロの剣じゃなくて、こういう気品のある剣じゃなくっちゃ――」

 

自慢気にその剣の素晴らしさを語るキュルケ――そんなキュルケに対してルイズは――。

 

「――ぷっ」

 

――吹き出した。

 

「アッハハハハハ!!おっかしい!!おっかしいわアンタ!!」

 

「な、何よルイズ?正論を言われて、頭が可笑しくなったのかしら?」

 

「だってソレ、とんでもないナマクラなのよ?笑わずにいられるわけないじゃない!!」

 

「な、なんですって?何の根拠があって――」

 

プムークスクスと、ここぞとばかりにキュルケを笑い飛ばすルイズ――負けじとキュルケも鼻で笑おうとするが――。

 

「アンタ馬鹿?実戦で使う剣が、そんなにゴテゴテと飾り付けてあるわけないでしょ?」

 

「あ……」

 

「大体、金属だって安っぽいのを使ってるし中身もスッカスカなんだから――そんなことも分からないのねぇ」

 

「ぐぬぬ……」

 

鬼の首を獲ったかの様に、得意気なルイズにキュルケは悔しそうに表情を歪める。

 

「まさかアンタ、素直にその剣を買ったんじゃないでしょうねぇ?確か……2000エキューだったかしら?」

 

「ふ、ふん!!私のこの美貌を使えば、そんな大金を積まなくても――」

 

「で、幾ら払ったのよ?」

 

「聞いて驚くが良いわ!なんと500エキューまで安く――」

 

「まともな剣が安くても300エキューな世界で、インテリアにしかならない剣に500エキューも出したの?ご苦労様ね〜!」

 

「うぐぐぐぐ……!」

 

プギャー!!と言った感じで、日頃の鬱憤を晴らすルイズ――さしものキュルケも涙目である。

 

「――今の殆ど相棒が指摘してたことじゃね――」

 

「言わぬが華って奴だぜデルフ」

 

一言物申そうとしたデルフを、鞘に押し戻して黙らせたアッシュ。

余計なことを言って、此方に飛び火したら面倒だと思ったのだろう。

 

また、僅かな期間とは言え生活を共にしているアッシュは、ルイズが普段キュルケにやり込められているのを知っているので、敢えて傍観していたワケだ。

 

もっとも、あまりやり過ぎる様なら止めるつもりである。

 

「………」

 

「――何か用か?」

 

「………」

 

「な、何なんだ一体……」

 

キュルケの連れである少女、タバサがアッシュを黙って見つめてくる。

観察――といった風だが、好意でも敵意でもない――しかし悪意でもないその視線に、アッシュは困惑を隠せなかった。

 

と――そうこうしていると……。

 

「そんなこと言って、アンタじゃあんな錆びた剣しか買えなかっただけでしょ、へちゃむくれルイズ!!」

 

「あ、あああれがあの店では一番マトモな剣だったんだから、仕方ないでしょう!?ただの飾りにしかならないゲルマニア製のナマクラ剣を、そんな値段で買ってくるアンタより何倍もマシよ!!」

 

「「ぐぬぬぬぬぬ……!!!」」

 

(こりゃあ、流石に止めとくべきか……?)

 

一触即発の雰囲気を醸し出し始めた二人に、そろそろ止めに入るべきと判断したアッシュが二人に近付く。

 

罷り間違って、決闘だの何だのと言い出しかねないと思ったからだ。

アッシュは貴族同士の決闘は御法度だと聞いていたが、ルイズとキュルケは互いに先祖の代から続く因縁を持っていると聞いた――だからヒートアップしてその御法度を破るのではないか……と、危惧したのだ―――が。

 

「おい、お前らいい加減に――」

 

「「だったらっ!!決着をつけようじゃないのっ!!」」

 

「しろ……って、タイミングミスったかこりゃあ……」

 

止めに入ったアッシュを、絶妙のタイミングで睨み付けて勝負を宣言した二人――。

 

十中八九、自身が厄介ごとに巻き込まれるであろうことを野性的直感で予感し、冷や汗を流さずにはいられないアッシュであった――。

 

**********

 

「……で、どうしてこうなった?」

 

2つの月が闇夜を照らす中……現在、俺は身体を縛られて魔法学院にある塔の上から垂らされている――いや、釣り上げられている……が正しいか?

 

眼下――地上ではルイズとキュルケが何やら言い争いをしている。

 

……結局あの後、二人は勝負して――勝った方の言い分を聞き入れるという形になった。

ルイズが勝ったらキュルケのプレゼントを受け取らない、キュルケが勝ったら受け取る―――当初は勝負に勝った方の買った剣を俺が使う……という内容だったが、俺はナマクラ剣を使うつもりは無いと主張……悔しそうというか――ガチ泣きしそうな顔をキュルケがしたので……まぁ、今の内容に落ち着いたワケだ。

――キュルケをフォローしたらルイズに睨まれちまったが……。

 

――二人はヒートアップはしていたが、貴族同士の決闘が御法度だという事実を認識する程度の冷静さは残していた様で、簡単な勝負で決着を着けることにした様だ。

 

――それは良い。

 

だがその勝負方法ってのが……塔からぶら下がった俺のロープを、どちらの魔法で先に切れるか――というモノ。

 

要するに、先に俺を地面に落とした方の勝ち……と。

 

勿論、俺に魔法を直撃させたらアウト――あくまで狙いはロープらしいが……。

 

「本当に、どうしてこうなった……」

 

というか、こうやって吊るされていると……ムガデスの奴に拷問されていたことを思い出して、何とも苦い思い出が込み上げてきやがるんだが……。

 

「ったく、この高さだったら下手な奴は死ぬぞ……」

 

その辺は全く考慮してやがらねぇのかと言うと――。

 

「………」

 

「……で、キミ――確か、タバサだっけか?俺に何か聞きたいことでもあるのか?」

 

すぐ近くに、デカイ杖を持ったキュルケの連れ――タバサが吊るされた俺をジッと見ていた。

 

――このタバサが、所謂リカバリー……つまり、俺が落ちた時に助けてくれるらしい。

 

「――落ちても、大丈夫なの?」

 

「ん?あぁ、俺が此処から落ちても大丈夫なのかってことか……まぁ、この高さからなら問題ないな」

 

タバサがようやく喋ったかと思えば、そんなことを聞いてきた。

 

なので、俺は素直に答えた――打ち所に寄ってはダメージを受けることもあるかも知れないが、それでも行動するのに支障は無いだろうと。

 

当たり前だが、普通のハンターでも何でもない奴が落ちたら死ぬか――良くて複雑骨折でもして重傷だろうよ。

 

――俺は改造されちまってるし、特別頑丈……とか思っていた時期もあったがなぁ……。

俺の仲間も同じ様な高所から飛び降りても、平気なツラしてたからなぁ……。

多分、ハンター家業やっていて怪我する奴は鍛え方が足りねぇんだろ……って結論に至ったワケだ。

 

まぁ、着地をミスらなきゃどのみち問題はねぇな。

 

「だから無理に助けに入らなくても大丈夫だぜ?」

 

「……分かった」

 

タバサはコクリと頷いたかと思うと、魔法なのか――手元に明かりを灯して本を読み始めた。

 

「よし!!最初は私よっ!!」

 

と……どうやら言い争い――という名の順番決めが終わったようだ。

 

どうやら先手はルイズ、後手がキュルケになったらしい。

 

「いくわよアッシュ――覚悟しなさいっ!!!」

 

「――御手柔らかに頼む」

 

ルイズが小さな杖を構えて睨み付けてきた――アイツ、俺に直撃させたりしないだろうな……?

 

いや、ルイズの魔法の精度を疑ってるワケじゃねぇ。

ルイズは自分の魔法が失敗ではなく、爆発の魔法なんだと理解してからは練習や勉強を行い、その結果狙った場所を爆発させることが出来る様になった――が、まだ爆発の規模までは操れないらしく……爆発がデカかったり小さかったりする。

 

つまり……そういうことだ。

 

「―――いっけぇっ!!!」

 

何やら適当な呪文を唱えた後に、気合い一発――杖を一閃し――。

 

ゾワッ――!

 

咄嗟に感じたヤバい気配――その直感に従って、俺は勢いよく背後の壁を蹴りつける。

 

反動で振り子の様に上空へ舞い上がる俺――瞬間、聞こえる爆発音。

 

ロープがピンと張りつめ――再び振り子の要領で元の位置に戻っていく――で、『壁に着地』する感覚で背後からの衝撃を吸収――チラリと後ろを見た。

 

背後の壁――厳密に言えば、俺の上半身に位置する部分にポッカリと小さな穴が出来ている。

 

「ちょっと!!なんで避けるのよアッシュ!?大人しくしてなさいよっ!!」

 

「……無茶言うな。というか、避けなくてもこの位置でこの規模の爆発だったらロープなんて切れなかっただろうよ」

 

俺の数少ないサラトガスーツが、また使い物にならなくなるだけだ。

……勘弁してくれ。

 

「何やってるのよルイズ〜?仕方ないわねぇ……私が見本ってモノを見せてあげるわ。ダーリーン、いま降ろしてあげるからねぇ♪」

 

先程の仕返しとばかりに、得意気にルイズを煽るキュルケ――俺にウインクを送り、ルイズと同系統の杖を構えた。

 

「アッシュ……分かってるでしょうねぇ……?」

 

と、俺の耳はルイズの呪詛の様な呟きを聞き取ってしまう……。

 

ソレでなくとも、その形相から大体の感情は読み取れる――恐らく……。

 

『私の魔法を避けて、キュルケの魔法を避けなかった日には……あとが恐いわよ?』

 

――的なことを考えてるんだろうぜ、きっと。

 

「あの嬢ちゃん、完全に頭にキテるぜ相棒……こりゃあ後が恐いと思うねオレ」

 

「――やるしかねぇか」

 

個人的には、どう転ぼうがさっさと決着を着けて貰いたかったので、キュルケが勝っても問題ねぇんだが……ルイズに癇癪起こされて、またぞろ装備を爆発させられたりしたら堪ったもんじゃねぇからな……。

デルフに言われる迄もなく、避けちまうのが懸命だろう。

 

「それっ!!」

 

キュルケが杖を一振り――炎の球が飛んでくる。

 

キュルケの魔法の精度は間違いない。

 

部屋に顔を出した時も、やってくる男連中を寸分違わずに撃ち落としている。

 

その炎の球の軌道から予測しても、このまま何もしなければ俺のロープを上手く焼き切ってくれるだろう――『このまま何もしなければ』――だが。

 

「フッ――!!」

 

俺は先程より強く背後の壁を蹴る。

 

ドゴンッ!!という音と共に、壁を蹴り砕いた感触がしたが……気にしないことにするぜ。

 

先程以上の速度で宙を舞う――処か、弧を描く様に頂点を超え――屋上を越える。

眼下を見下ろすと、俺が吊るされていた場所……正確には、俺を吊るしていたロープがあった場所に炎の球が着弾するのが見えた。

 

俺はそのまま慣性に従っ……たら、ロープの長さ的に反対の壁とコンニチハするだけなので――空中で姿勢をクルリと天地逆転。

 

空気抵抗を受けてブレーキを掛ける形になり――塔の天辺、ギリギリに着地することに成功する。

 

「ダーリン!何で避けちゃうのぉ!?今のは避けなくてもロープだけを焼き切って――」

 

「フフン、アンタも人のことは言えないわねぇ……まんまと外してるじゃない!」

 

「……!さてはルイズ!!ダーリンに避けさせたわね!?自分がダメだったからって……卑怯じゃないの!!」

 

「言い掛かりは止めてくれないかしら!?それと、アッシュはアンタのダーリンなんかじゃなくて、私の使い魔なんだからねっ!!」

 

「あーら、使い魔って言っても人間ですもの。恋する自由ぐらいあっても良い筈だわ!!」

 

「アンタはそれしか考えられないわけ!?流石は色ボケふしだらは、ツェルプストー家のお家芸ねっ!!」

 

「そうよねぇ……アナタは恋したくても相手にされないですもんねぇ――ペチャパイルイズ!!」

 

「ぺぺぺペチャパ……!?ムム、胸があれば良いってワケじゃないでしょうがっ!?」

 

「だったらお子様ルイズって言い返してあげるわよっ!!」

 

「わ、私がお子様なら、アンタは色情狂のアバズレでしょうがっ!!!」

 

「「ぐぬぬぬぬぬぬぬ………っ!!!」

 

……何やら眼下では、リアルファイトに発展しかねない感じになってやがるが。

 

「あーあ、コレはあの姉ちゃんの魔法は避けない方が良かったんじゃないかねぇ」

 

「……お前、避けた方が良いとか言ってなかったか?」

 

「オレは後が恐いって言っただけだぜ、相棒」

 

……まぁ、言われなくても避けてはいたから、デルフのせいにするつもりはねぇがな。

 

「……しかし、放ってもおけねぇわな――」

 

俺はあの二人を止めようと、ロープを引きちぎって塔の上から飛び降りようとした……次の瞬間。

 

「――ッ」

 

ゾワリッ……!!

 

嫌な感覚が背筋を這う様に襲い掛かる――コレは……敵意。

 

「……何か、来る」

 

「気付いたか?――大したモンだな」

 

どうやら、タバサは俺と同じ敵意を感じたらしい……俺と同じ方角へ視線を向けていた。

 

――下の二人は気付いてないことを鑑みるに、タバサには実戦経験があるのかも知れないな。

 

しばらくして、轟音と共に大地が隆起し――巨大な土の巨人が現れる。

 

それは30メイルはあるだろうか――。

 

「――ゴーレム……」

 

「ゴーレム……ってことは、何処かに土のメイジ仕業ってことか?」

 

タバサは頷く――土のゴーレム……頑丈さはともかく、あの質量なら破壊力はかなりありそうだ――。

 

「……少しは楽しませてくれそうだな」

 

久しく燻っていた、闘争本能に火が着くのを感じた――。

 

――と、下の二人も漸く気付いたか?

 

「タバサ――あの二人のこと頼んで良いか?」

 

「――あなたはどうするの……?」

 

「俺か?俺は――」

 

俺は身体に力を込め――縛られていたロープを引きちぎる。

 

「俺は、あのデカブツを片付ける」

 

恐らく、俺は愉しそうな笑みを浮かべていたのだろうと思う。

 

言うが早いか、俺は塔の天辺から飛び出していた……獲物に襲い掛かる獣の様に――。

 

 




えー、最新話更新ですが……本来コレにとある、ダイ大も同時投稿だったのですが……手違いで消去してしまいますた(´;ω;`)ウッ

ダイ大は一部バックアップが残っていたので、まだ修正出来ますが……とあるは全消し……しばらく立ち直れないかも知れませぬ( TДT)

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