ゼロの使い魔―荒野の刃獣譚―   作:神仁

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第一節――狩人はかくも語りき――

 

ルイズに案内されて、契約を結んだことを責任者へ報告しに向かう。

その責任者――コルベールと言うらしい――は、ルイズを含む魔法学院生たちに教えを説く『教師』の内の一人であり、召喚の儀式における監督役なのだと言う。

 

――道すがら、ルイズに聞いた。

 

「――しかし、凄いな此処は」

 

俺は周囲を見回しながら呟く。

俺が寝かされていた部屋――ルイズの寝室らしい――が、あったのは魔法学院生の寮……つまり、生活区域らしいのだが。

 

そこから、そのコルベールがいるであろう研究室に向かっている最中に、魔法学院の校舎なる建物も目の当たりにした――。

 

「そうでしょう?此処はトリステインの粋が詰まった魔法学院だもの――建物一つ取っても、気品があるでしょう?」

 

と、何故か自分が自慢気なルイズだが――確かに、言うだけはあると思う。

 

俺が居た大陸の『旧時代の遺産』――それらの建築様式に比べても、此処の『ソレ』は古い――言ってしまえばクラシック――骨董って奴だ。

建物そのものがインテリアと言っても過言じゃないな。

 

にも関わらず、決してボロくは無く……一つの芸術品と言っても良い位に均整が取れている――聞き齧った程度だが、『大破壊』以前ですらこういった建築様式の建物は少く、物によっては天然記念物……?いや、世界遺産だったか……?

とにかく、そういう貴重な歴史的遺産に認定されていたそうな――。

 

――よく『大破壊』で失われなかったものだ。

 

もしかすると、魔法という独自の技術体系が機械の反乱という大災害を引き起こす要因を無くしたのかも知れないな。

 

――此処まで歩いて来て、モンスターには出会したが――そこに機械系のソレは含まれていなかったからな。

そのモンスターにしても、使い魔召喚の儀式で呼び出された使い魔だそうで、敵意の様なモノは向けられなかった。

 

ハンターの性なんだろうな――ルイズの説明が無ければ、俺の方から敵意を飛ばし兼ねなかったが……俺は何故か、使い魔であるモンスターたちに怯えられているので、その心配は無いか。

……冷血党時代じゃあるまいし、怯える奴に襲い掛かる趣味は無いんでね。

 

奴らが怯えているのは、野生の本能か何かが俺の中の『獣』を感じ取っているからだろう……多分。

 

「ミスタ・コルベール、ご報告にあがりました――」

 

どうやら着いたらしい――ルイズがドアをノックする。

 

「おお、ミス・ヴァリエールか。入りなさい」

 

すると、中から男の声が聞こえた――この声の主がコルベールなのだろう。

 

「失礼します」

 

ルイズが扉を開けて入って行ったので、俺もそれに続く――。

 

室内は如何にも研究室――と、言わんばかりの様相だった。

 

木製の長机には試験管やフラスコが立ち並び、よく分からない本や、何やら分からない文字が記された紙等が乱雑していた――それでも、ゴミ屋敷という程に汚いワケじゃなく、適度に整えられてはいるので足の踏み場には困らないな。

 

「ミスタ・コルベール、使い魔の契約を無事に完了しました」

 

「ふむ、どうやらその様だね――そちらの君には、辛い選択を強いてしまうことになるが……」

 

「大体の話はルイズから聞いた。聞いた上で、納得した上で使い魔の契約を受けたんだ……アンタが気にすることは無いさ」

 

……研究者というから、少し構えちまったが……考えてみたら、研究者の全員があのクソ野郎と似たり寄ったり――な、ワケが無いか。

 

ミンチの爺さんみたいな、変わり者でも決して悪人じゃない研究者だって、それなりに居たんだしな――。

 

このコルベールという男、雰囲気は『ドリトル』によく似てるな――ハゲてるし。

 

ちなみに、ドリトルというのは俺の仲間である男ナースのことだ――本人はドクターと呼べと言っていたけどな。

 

……隠してるつもりなんだろうが、戦う者の空気を滲ませている……警戒、しているんだろうな――そういう所もそっくりだな。

 

「……そう警戒しないでくれ――最低限『人間』として扱ってくれるなら、俺は契約を破るつもりは無いし、牙を向けるつもりなんて毛頭無いんだ」

 

「っ!……いやはや、そんなつもりは、ありませんのでしたが――」

 

彼が、俺の言葉をどう捉えたか知らないが――こっちに敵意が無いことを態度で示したら、バツが悪そうな表情を浮かべながら警戒を解いてくれた――。

無理もないな……彼くらいの『戦う者』ならば、俺の持つ気配はいっそ異常とも言えるだろうし、こびりついた血臭など明確に嗅ぎ分けられるだろう――けどまぁ、それはコッチも同じなんだけど、な。

もっとも、触れられて気分の良いものじゃないだろうから、その辺は流すが。

 

「ジャン・コルベールです――この魔法学院で教鞭を取らせて頂いております」

 

「アッシュだ――今日からルイズの使い魔をやることになった、宜しく頼む」

 

それは向こうも同じなのだろう――努めて柔和な笑顔を浮かべ、手を差し伸べて来た。

俺はそれに応え、握手とすることで返した。

 

「ちょっとアンタ、もう少し態度を改めなさいよ!倒れてたアンタを迅速に介抱してたの、ミスタ・コルベールなんですからね!!」

 

「そうなのか?そいつはすまなかったな――ありがとう、おかげで命拾いをした」

 

「いやいや、無事で何よりですぞ。治療を担当したメイジが言うには、汚水を大量に体内に取り込んだ状態――すなわち、溺れた状態だっただけであり、傷が浅かったので治療自体は難しく無かったと言っておりましたが――」

 

……アレだけの水害の直撃を受けて、溺れるだけで済んだこの身体の頑丈さは、特筆すべきものがある――その点だけは、あのクソ野郎に感謝しても良い。

 

――まぁ、それでも死に掛けていたのは事実なんだが。

 

「それはそうと、使い魔の証を見せてもらっても宜しいですかな?契約をしたならば、身体の何処かにルーンの刻印が現れている筈ですが――」

 

「コレのことか?」

 

俺は左手の甲を掲げて見せた。

ルイズと契約――まあ、キスをした時に出てきた不可思議な紋様だ。

 

「ふむ……コレは珍しいルーンですな――宜しければ、スケッチしても――?」

 

「あぁ、構わない」

 

俺の使い魔の証(ルーンと言うらしい)は珍しい物らしく、コルベールはスケッチを申し出てきた。

俺としても、断る理由が無いのでその提案を受け入れた。

 

「しかし、その――ルーン、だったか。コレはそんなに珍しいのか?」

 

「ええ、私も今までに何度か使い魔召喚の儀に立ち会ってきましたが、こんなルーンは初めてですな――まぁ、それを言ってしまったら人間が召喚されるのも初めてですが――」

 

「そうなのか?」

 

「えぇ、なにぶん前例が無いので何とも言えないのですが――と、結構です。ありがとうございました」

 

スケッチが書き終わったらしいので、掲げていた手を降ろす。

しかし、前例が無い――か。

ルイズは使い魔の格が、そのままメイジの実力と言っていたな――。

 

格云々はともかく、単純な力ならその辺のモンスターを一蹴出来る位の力が俺にはある――植え付けられた獣の力も。

 

そんな俺を呼べたルイズは、相応以上の力量を秘めているということになる……。

人は見掛けによらないものだな――。

 

「それではミス・ヴァリエール、報告ご苦労様です。今日は戻って休むと宜しい」

 

「え、でもまだ授業が――」

 

「他の教師や生徒たちには、私から伝えてある。彼にある程度のことは説明したのでしょうが、お互いに話していないこともあるだろう……今日はしっかり話し合って――明日になったら授業に出てきなさい」

 

「……はい、わかりました」

 

コルベールは俺たちに気を使ってくれた様だが、ルイズは不承不承といった風だ――何故だかわからないが……。

 

***********

 

その後、再び部屋に戻ってきた俺とルイズ。

確かにある程度――使い魔に関するアレやコレやは説明されたが、お互いのことは説明していなかったな――。

 

「さて、とりあえず何から話したもんかな――」

 

「――そうね、まずはアンタのことから話してくれない?何でアンタが溺れ掛けてたのか、とか――アンタが何処から来たのか、とか」

 

「――そうだな、少し長くなるが……構わないか?」

 

俺の問いにルイズが頷いた――。

そして語る――俺の事情を、思い出したことを含めて……。

溺れていた事情を話すと、奴を倒したことを話すことになり、何故倒さなければならなかったのかも話すことになり――と、何故?何?の繰り返しだったので結局生い立ちから話すことになったので――物凄く時間が掛かった。

 

簡単に言うと、太陽が完全に沈み、夜の帳が降りるくらいには――。

 

俺の『正体』や、しでかしてきた『悪行』については話すかどうか、かなり迷ったが――結局全てを話すことにした。

 

聞いていて気分の良いものでは無いだろうが、隠していても何れは話さなければならなくなるだろうと、何となく感じたのも要因の一つだ。

 

最悪、怖がらせることになるな……と、化物呼ばわりされることも覚悟して、全ての事情を聞いたルイズの反応は――。

 

「スゴいわ――良くできた作り話ね」

 

――で、あった。

 

いや……まぁ、荒唐無稽に過ぎる話ではあると自覚してはいるんだが――。

 

「……一応、全部本当の話なんだが……」

 

「いいわよ、もう。凄く作り込まれてて、話にのめり込んじゃったのは確かだし……けど、大破壊とか――キカイ?の暴走とか、そんな話聞いたこともないもの」

 

「俺も魔法とか、初めて聞いたんだがな――恐らく、互いに大陸の外の話だから伝わってないんじゃないかと思うんだが――それにしても、大破壊を知らないというのは信じがたいけどな……」

 

「始祖ブリミルも知らなかったもんね、アンタ――それじゃあ、何?アンタはロバ・アル・カリイエに居たとでも言うワケ?」

 

「ろば、アルカリ――家?なんだ、それ?」

 

「ロバ・アル・カリイエ――『聖地』の先にある『東の世界』のことよ。かつて、始祖ブリミルが降り立ったと言われる地が聖地なんだけど――って、アンタが知ってるワケないわね」

 

呆れ顔のルイズが改めて説明してくれた――。

 

始祖ブリミル――メイジの祖とも言われ、神にも等しい扱いを受ける人物。

そんな人物が最初に現れたのが聖地であり、ブリミルの血を受け継ぐ貴族たちにとって、そこは神聖な場所として語り継がれている。

 

しかし数千年前、その地を先住民族である『エルフ』が封鎖――聖地は勿論、その先に存在する東の世界にも行くことが出来なくなってしまった。

 

そんなエルフの行いに、納得などする筈もなく――貴族たちは聖地を奪還する為に幾度も戦いを仕掛けていたが、エルフは『先住魔法』という通常の魔法とは異なる強力な魔法を使い、貴族たちを退けて来たという――いつしか、聖地は伝承となり――おとぎ話となった――と。

 

「成る程――俺がその東の世界から来たなら、辻褄が合う――か」

 

「あくまでも自分の話が本当だって言い切るんだ……なら、さっき言った『変身』ってのをしてみなさいよ。そうしたら信じてあげるわよ」

 

等と、無茶振りをしてくるルイズ――確かに、変身は出来るが――。

 

「止めておいた方が良い。色々と危ないぞ」

 

俺の――ブレードトゥースへの変身能力。

この能力は完全な物ではない。

確かに戦闘力は爆発的に跳ね上がるが――代わりに自身を制御しきれないのだ。

 

敵味方の判別くらいは出来るつもりだが、正直不安は拭えない――。

それに、変身後は著しく体力を消耗してしまい、瀕死に近い状態になってしまう。

コレは、俺の中の細胞因子――メタモーフ細胞をグラトノスの奴に抜き取られた故に起きる、副作用みたいなものだと思う。

 

寧ろ、メタモーフ細胞が抜き取られているのに変身出来る俺が異常、なのだろう。

グラトノスが言うには、俺の細胞そのものがメタモーフ細胞に変異してるのでは無いか……ということらしいが。

 

ついでに、変身すると筋肉が膨張した上に毛皮がボッサボサ増えるので、着ている衣服が弾け飛ぶ――今着ている装備は、丈夫な上に弾力性がある物なので――まぁ、全裸になることは無いとは思うが。

 

それでも変身が解けた後に半裸状態にはなるので、まぁ、なんだ――色々と危ないワケだ。

ルイズみたいな女の子がいるのに変身など、それこそ非常事態でもない限りやりたくないのは、その辺の理由が大きい。

 

そう説明したんだが――。

 

「なによ、それじゃあ結局アンタの言い分の証明にはならないじゃない――」

 

鼻で笑われた――まぁ、信じる信じないは当人の自由なのだが……一応、彼女を気遣っての言葉だったんだがな……。

 

仕方無い。

 

「変身するワケにはいかないが、他の物で身の証明としようか」

 

「何よ?一体なにをす――……」

 

ゴトリと――そんな音が聞こえてきそうな重さを伴った物を……ルイズが座る椅子の先――机に置いた。

 

俺はソレを幾度も取り出し、机に置いていく。

 

ゴトリ、ゴトリと重厚感の伴う音が室内に続いて響く。

 

「な、なな、なによこれ……?」

 

「?何って、金ののべ棒だが――」

 

俗に金塊と呼ばれる代物だ。

 

「俺の治療に金が掛かったと言っていただろう?少ないかも知れないがその代金だ――とりあえず、金ののべ棒を……10本くらいで良いか?」

 

治療費に金塊10本は多すぎる気もするが、コレから世話になるんだから生活に必要な分も込みで払うことにした。

現金で払っても良いんだが、この大陸の通貨を持っていないからコッチの方が手っ取り早いだろう。

 

――現在の通貨は大陸間を越えて共通の電子マネーというのは、最早一般常識なんだが――大破壊前は国ごとに通貨が違ったのだそうだ。

 

つまり、大破壊を経験していないこの大陸では通貨が電子マネーではない可能性が大いに有り得るわけだ。

 

「ちょちょ、ちょっと待って!!!」

 

「なんだよ、コレだけじゃ足らないのか?」

 

金ののべ棒はまだあるし、銀や銅――挙げ句の果てにはプラチナののべ棒もある。

仮にも、俺は賞金王とか、浪費平気彼氏とか呼ばれた男だぞ?

このくらいは余裕だ。

 

……別に誰とも付き合ってないし、貢ぐ君だったつもりもないぞ?

……ただ、あの二人の喜ぶ顔が見たくてさ……しかも、変に裏とか無しに純粋に喜んでくれて――シセに至っては無理してないか心配までしてくれて…………俺は誰に言い訳をしているんだ?言い訳じゃないけど。

 

「そうじゃなくて!!――アンタ、これだけの量の金塊を何処から……?もしかして……土のスクウェアメイジ……?」

 

そんなことを言いながら、俺のコートの裾を捲って中を確認するルイズ……。

こういうのを、シュールって言うんだな。

 

「俺は魔法使いじゃないぞ?――まぁ、良いか。種明かしをしてやるよ」

 

俺は腰に備え付けてある道具入れから、銀ののべ棒を取り出した。

 

「とまぁ、実際の手品のタネはこんな感じで取り出してるだけだったんだよ」

 

「!!??えっ、待って、だって、こんなの……入るわけないじゃない!?でも、実際――」

 

その銀ののべ棒をルイズにプレゼントしてやって、それを受け取ったルイズは混乱の極みにある様だった。

 

それも仕方無い。

 

何せ、道具入れ自体のサイズは、精々手を突っ込める程度の大きさでしかない。

 

なので、俺は分かる範囲で説明することにした。

 

「この道具入れは、一見何の変哲もないが――その実、物質を量子変換して保存しているのさ」

 

「リョウシヘンカン……?」

 

「まぁ、簡単に言うと――物を量子データ……情報に変えてこの中に保存してるんだよ」

 

正確には、量子変換物質補完装置――とか言うやたら長ったらしい名称なんだが――面倒なので道具入れと、俺は呼んでいる――。

一般的にも道具袋で通っているしな。

 

生命体を量子跳躍させる技術があるんだ……物質を量子データ化して保存するくらい、訳ないってことだ。

 

「全然、簡単じゃないんだけど……」

 

「……ざっくばらんに言っちまえば、生き物以外は何でも保存出来る、素敵な道具入れってことだ」

 

逆に言ってしまえば、生命体は保存出来ないわけだが……それは当然だろう。

 

道具を取り出すために手を突っ込んで、その手まで量子変換なんてしちまった日には、それこそ笑い話にもならない。

 

「ちなみに、これは魔法の道具じゃなくて、そういう技術で作られた道具だからな?」

 

一応、釘は指しておく。

魔法で同じことが出来るのか分からないが……。

 

「ま、まぁ、一応信じてあげてもいいわよ?一応ね?」

 

「じゃあ、俺の話が真実だって認めるな?」

 

「……仕方ないわね。実際、ロバ・アルカリ・イエから来たって言われても、確め様がないし――証拠不十分だけど……認めてあげるわ」

 

――なんか酷い言われ方の様な気もするが、何はともあれ信じてくれたならそれで良い。

態々慣れない自分語りをさせられた上に、嘘つき扱いされた日には恥の上塗りだからな。

 

「認めてあげるから、その道具入れ、私に貸しなさいよ」

 

「――金ののべ棒と銀ののべ棒じゃ、足らないと言うのか……」

 

「そういうことじゃなくて!それだけ珍しい物なら、無くしたら大変だからご主人様として私が預かっててあげるって言ってるの!!」

 

「……とか言って、単に興味津々なだけだろ?」

 

あの目を見れば分かる……好奇心に満ち溢れた子供の様な眼差しをしているからな。

 

「いいじゃない、減るものじゃないんだし――」

 

中身の物を取り出されたら、思い切り減るけどな――。

まぁ、それはともかく。

 

「悪いが許可は出来ない」

 

「な、なんでよっ!?」

 

「危険だからだ」

 

道具入れの中には銃火器や危険物も混じっている――データ化しているので直接的な危険性が無いとは言え、まかり間違ってそう言った物を取り出されて、暴発なりされてしまったら――。

 

「何が危険なのよ?」

 

「武器とかも入っているからな――そういう心得があるなら話は別だが……」

 

「そんなの、あるワケないじゃない!!」

 

「じゃあ駄目だ。……使い魔の契約をしたその日に、主が武器の暴発で死にました……じゃ、あんまりだろう?」

 

仮にそうなったら、お尋ね者扱いは免れられないだろうし、な。

 

「暴発って――そんな危険な物も入ってるの……?」

 

「中にはな。取り出さなければ問題無いし、取り出しても扱いを間違えなければ大丈夫だ――そんな不満そうな顔するなよ……ほら、コレをやるから機嫌を直せ」

 

俺は道具入れから、小さなゲーム機を取り出してルイズに渡した。

 

「……なに、コレ?」

 

「コレはジャックボーイって言う携帯ゲーム機だ。俺たちの大陸には娯楽が少なくてな。ゲーム機はあっても持ち運べない筐体が多い。だからこういった、携帯ゲーム機は凄く貴重なんだぞ?」

 

「貴重って……どれくらい?」

 

「立派な家が建つくらい」

 

「は?え、冗談でしょ?」

 

「――これが冗談じゃないんだ。元々、大破壊前の技術は貴重だが、こういった娯楽の類いの大半は失われている。残っていても、ルイズに言ったように大型の筐体しかない。しかもこのジャックボーイは、唯でさえ貴重な携帯ゲーム機の中でも、バッテリー切れを起こさない特殊なバッテリーを使用している。高額なのもやむを得ないさ」

 

――ほとんど、あてなたちメカニックから聞き齧った知識だがな。

 

「キョウタイとか、ワケがわからないケド……これで、ゲームが出来るの?」

 

「ああ、こいつにはブラックジャックってゲームが入っていてな――やり方を教えてやるよ、操作方法は……」

 

***********

 

――数時間後。

 

「……なぁ、そろそろ止めにしないか?明日もあるんだろう?」

 

「うるさいっ!!もうちょっとだけっ!!」

 

……娯楽に餓えていたのは、此処の貴族様も同じだった様だな――。

操作方法を教えて、たどたどしい手付きながら、目を輝かせてプレイしていたルイズだったが……きっと負けが続いたのだろう……次第にムキになってプレイして――、気付いたら夜中になっていました……と。

 

体感時間的に、日にちが変わっているだろうことは間違いない。

 

仕方ない――。

 

「よっ」

 

「あっ!何すんのよっ!?」

 

「何もカカシも無い。明日も授業があるんだろう?もう時間も時間なんだ、いい加減に寝ろ。時間に遅れても知らんぞ?」

 

「むー……っ」

 

俺はジャックボーイをルイズから取り上げた。

不平不満に満ちた眼をルイズは向けてくるが、知ったことではない。

 

「コレはお前にやったんだ。なら、コレはお前の物なんだから何時でも遊べるだろうが……」

 

「……分かった。今日は止めとくわよ……」

 

「素直で宜しい」

 

ジャックボーイをルイズに返す。

電源は切ってあるがな?

 

「じゃあ、寝るわ……とりあえず朝になったら起こして」

 

「了解、ゆっくり休めよ」

 

さて、とりあえず目覚まし役を仰せつかったワケだが――って。

 

「……何をしてるんだ?」

 

「何って着替えてんのよ……このまま寝たら制服が皺になっちゃうじゃない」

 

それは制服だったのか……とか、寝る時に態々着替えるのか?……とか、色々聞きたいことはあるが……一番の疑問は、ルイズが下着にまで手を掛けていた点だ。

 

「それ洗っといて」

 

そう言って、下着を脱いで制服込みで俺に投げて寄越して来た……まぁ、目のやり場に困る姿になってるワケだが。

 

「ルイズ、仮にも男が居るんだ――弁えた方が良いぜ」

 

「……使い魔に見られたって、恥ずかしくも何ともないわよ」

 

「――照れながら言っても説得力が無いな」

 

「うう、うるさい!!」

 

大方、ゲームを止めさせられた腹いせに主人と使い魔という立場を分からせようとか、考えたのだろうが……羞恥心が勝ったらしい。

 

俺が動揺を見せなかったこともあるんだろうが……仮にも経験が無いワケでは無いし、女と旅をしたりもしていたんだ――そういうハプニングだって経験済みだ。

 

手早く着替えたルイズは、さっさとベットに潜り込んでしまった。

 

「――やれやれだ」

 

俺は受け取った衣服をテーブルの上に置いて、壁に背を預けて腰を降ろした――。

 

――またぞろ妙なことになったとは思う。

色々、分からないことも多いが――。

 

そう言えば、俺の事情ばかりを話してルイズの事を聞いていなかったな――まぁ、明日にでも聞く機会はあるだろう。

 

何気無く窓の外を眺めながら、何となくそんなことを考えていた。

 

助かった――助けられた命だ。

せめて借りを返すまでは、ルイズの使い魔という仕事を全うしようと、改めて誓う――。

 

新天地での門出を祝う様に、月も祝福してくれている様に思えた。

二つの月が輝い、て……………………。

 

「は?」

 

月が、二つ?――いやいや、月は一つだろう?

そんなのは常識以前の、子供だって知ってる様な知識だ。

 

――治療されたとは言え、死にかけたんだ……疲れが抜けてないのかも知れん。

……それとも、さっきのルイズの扇情的な姿に目が眩んだか?

 

……冷静を装ってはいたが、正直かなりクラッと来た。

ルイズのスタイルはお世辞にもグラマーとは言えないが、幼さが残るスラッとした体型はいっそ犯罪的な背徳感を感じさせた――着替えた姿は、ネグリジェって奴か?

 

その薄く透けた衣服は、背徳感をより大きく――。

 

……もしかしなくても、色々溜まってるのか、俺は?

 

まぁ、幻覚を見るくらいだからな……どうにかして発散しないと、俺の中の獣(ケダモノ)が暴走しかねないかも知れん……。

 

「――まぁ、アレだ」

 

とりあえず冷静さを保つが――再び窓の外を見ても月が二つあるのは変わらなかった。

 

幻覚だとばかり思ったんだが――嫌な予感がする。

 

俺は首から下げているiゴーグルを装着、端末を起動させて周辺の地形データを読み込む――読み込む――読み……。

 

「……エラー……だと……?」

 

地形データを形成出来ない……?

そんな筈はない――iゴーグルは人工衛星の恩恵を受けている――つまり、宇宙に人工衛星がある限りどこの大陸に居ようとも、地形データは形成される。

 

それなのにエラー表記がされるということは――人工衛星が、無い?

 

――これは一体、どういうことなんだ……?

 

「むぅ……」

 

「?ルイズ……?」

 

考え込んでいたら、ルイズが急に起き上がった……。

そしてポツリと――。

 

「――……おなかすいた」

 

そう、呟いたのだった……。

 

「……そう言えば、飯を食ってなかったな」

 

話すのに集中していて、すっかり忘れていたな……。

 

「何処か食事をする場所とか無いのか?」

 

「食堂はあるけど……こんな時間だもの、誰もいないわよ」

 

「そりゃそうだ……」

 

さて、どうしたもんか……と、そう言えば――。

 

俺は道具入れから、紙に包まれたサンドイッチを取り出す。

 

「こんなもんしか無いけど、良かったら食うか?」

 

――本当は、ぬめぬめ焼きとかもあるが――アレはクセになると病みつきになる美味さだが、素人にはお奨め出来ないしなぁ……。

 

「――その道具入れ、本当に魔法の道具入れなんじゃないの?」

 

「魔法じゃなくて、科学の道具入れだな」

 

改めて、疑いの眼差しを向けてくるルイズにさらりと受け答えする。

 

正確には科学の粋によって開発された道具入れ、だが。

 

「カガク……?やっぱり聞いたこともない言葉だけど……」

 

「で、どうする?食うか?」

 

「ん……じゃあ、食べる」

 

俺はルイズにサンドイッチを差し出す。

そして、俺も新たにサンドイッチを取り出す――。

 

「――なんか……変な食感……これ、本当にパン?」

 

「そうだが――パンの食感なんてこんなもんじゃないか?それに、味は悪くないだろう?」

 

「味は、まぁ……美味しいけど……サックリと言うか、モッサリと言うか……本当に変な食感」

 

釈然としないって表情のルイズ。

だが、不味いと言われなかったから良かったな。

 

俺もサンドイッチを一口かじる。

 

――相変わらず、良い味だ。

 

「――アンタって、そういう顔も出来るんだ……」

 

「ん?何か変な顔をしていたか?」

 

「別にそういうワケじゃないわよ………お腹も脹れたし、今度こそ寝るわ」

 

そう言って、再び横になろうとするルイズ。

 

「あぁ、ゆっくり休めよ――……っと、そうだルイズ」

 

「何よ?」

 

「もしも、だ。俺が別の大陸から召喚されたんじゃ無く、別の世界から召喚されたって言ったら……信じるか?」

 

「……はぁ?」

 

「――いや、何でもない。忘れてくれ」

 

俺自身、あまりにも突拍子が無い考えに苦笑いせざるを得ない。

 

しかし、そうとでも考えなければ辻褄が合わない……二つの月、人工衛星が存在しない空、大破壊を知らない大地、魔法、メイジ……。

 

あの世界に生きる者なら、知っていて当然のことをルイズは知らないと言い、ルイズは魔法すら知らない俺を普通ではないと言う……。

 

――大陸どころか世界を、越えた……。

 

「わけ分かんないこと言ってないで、アンタも明日に備えなさいよ?起こし忘れたらただじゃおかないからね?」

 

「――了解だ」

 

いや、そう考えるのはまだ早計だ。

もしかしたら本当に大陸を越えただけで、二つの月はこの大陸特有の現象なのかも知れない――。

 

……あぁ、分かっているさ。そんな可能性なんか限りなく低いってことぐらい――だが、俺は認めたくなかったんだろう。

 

もしも、それを認めてしまったら……俺はアイツらに、二度と会えないことになるんだからな……。

 

「……ハッ、何を考えてるんだか」

 

どちらにせよ、結局俺はアイツらの前から消えるつもりだったんだ――そこに変わりなんか無いじゃないか……。

 

けど、な……。

 

「泣かせちまった、かな……」

 

あの二人は――シセとコーラは、俺なんかの為に泣いちまってるんだろうか……シセには親父さんが、コーラにはカスミさんやオズマの爺さんが遺した犬たちがいるから――大丈夫だと思いたいが。

 

仲間たちはまだ良い――アイツらはプロだ……仲間の生き死になんて、何度となく経験しているだろう――今更、俺が消えたくらいで泣いたりは………あっ、サラが泣いていたな。

 

……やれやれ、だ。参ったなどうも――。

 

ますます、認めたくなくなっちまうぜ……。

 

異世界……言葉にすると冗談極まりないが……確かな確証が欲しいな。

 

そして、出来るなら戻る方法――最悪、向こうに無事なことを知らせられる通信装置を探せれば――。

 

まぁ、何はともあれ……全部明日からだな――今日はもう、休むか――。

 

俺は、既に静かな寝息を立てている寝付きの良い主殿を見やり――再び壁に背を預けて、寝ることにした。

 

***********

 

『ヒーッヒッヒッ!これは活きの良い死体じゃ!!これならきっと成功するぞ!』

 

……は?

 

ミンチの爺さん……?

 

『さぁ!!甦るのじゃ!!この、電撃でえぇぇぇぇぇっ!!!』

 

ま、待て!俺はまだ死んでなあばばばばばばばばばっ!!!??

 

**********

 

「ぬぉぁっ!!?」

 

急激に意識が浮上する――要するに飛び起きたんだが。

 

「……俺、死んでないよな……?」

 

分かっているんだ……ただの夢だったんだってことぐらいは――ただ、夢の内容が内容だけに不安を拭えなかっただけだ。

 

……どこぞで野垂れ死ぬつもりだったが、あの爺さんがいる限りそれは叶わないのかも知れないな……なんだか、気付いたら甦らされていそうだ……。

 

「……と、そうだった」

 

俺は飛び起きたついでに窓から外の様子を伺う――まだ、太陽は昇り切ってはいないが、空が白み始めている……時間は早朝って言うところか。

 

「……洗濯を頼まれていたな」

 

色々と思うところはあるが……とりあえずは使い魔って奴の仕事の第一歩を踏み出すとしよう。

 

まだ夢の中にいるであろう主殿の姿を見て、なんとなくそう思った――。

 

預かっていた洗濯物を纏め、部屋の扉から外に出る――。

 

この建物の構造は、大体把握している。

というのも、コルベールの研究所に向かった時にそれとなく確認していた為だ。

 

なので、出口の位置も分かる――。

 

***********

 

で、建物から出てきたわけだが……此処で一つ懸念が浮かぶ。

 

それは何処で洗濯をすれば良いのか、だ。

 

流石に外の水場までは把握していなかった……調べる暇が無かったってのが正しいが。

噴水らしき物は確認していたが、そこで洗うのもな……。

 

「参ったな……」

 

「あの……どうかなさいましたか?」

 

「ん?」

 

俺が宿舎の入口で、噴水で洗濯をするか本気で考え始めた頃――そんな俺に声を掛けてきた奴がいた――。

 

振り返ると、女の子が荷物を抱えて立っていた。

服装は――メイド服って奴か?

髪は黒のセミロング……ボブカット、だったか。

 

素朴ながら、可愛らしい顔立ちをしている――ついでに、結構スタイルが良い。

 

「あぁ、ご主人様に洗濯を頼まれたんだが……水場の場所が分からなくてな」

 

「もしかして、召喚された平民って貴方のことですか……?」

 

「多分、それが俺のことだな。なんだ、もう噂になっているのか?」

 

昨日の今日で、随分と――そう言えばコルベールが言っていたな……人間が召喚されたことは無い、と。

 

昨夜のルイズを見る限り、この魔法学院とやらも娯楽は少なそうだからな……噂話が広まるのが早いのは道理、か。

 

「はい。あっ、私シエスタと申します。この魔法学院でご奉公させて戴いているんです」

 

「俺はアッシュ。昨日からルイズの使い魔をやることになった。よろしくな」

 

「はい、よろしくお願いしますね。それと、水場の場所でしたね。私もお洗濯に行くところだったので、よろしければご案内しましょうか?」

 

互いに挨拶を交わした。

すると彼女――シエスタは、水場へ案内してくれると言う。

こういうのを渡りに船って言うんだな。

 

――成る程、シエスタの荷物をよく見ると、洗濯物の入った籠を両手で抱えている様だ。

随分と、量が多いみたいだが――。

学院に奉公しに来ていると言っていたから、ルイズみたいな学生から、コルベールの様な教師の世話までしているんだろう……洗い物が多くなる筈だ。

 

「それじゃ、案内を頼む」

 

「は、い……あっ!?」

 

俺はシエスタの抱えている籠を掠め取った。

 

「あ、あの……」

 

「案内を頼むんだ、これくらいはさせて貰わなきゃな……迷惑だったか?」

 

シエスタは見たところ、大した苦もなく籠を抱えていたみたいなので、手慣れた仕事なのだろうとは理解出来た。

 

だがまぁ、気分的にな。

 

「迷惑だなんて!あの、ありがとうございます……」

 

「どういたしまして、だ」

 

それから、幾つか会話を交わしながら水場に向かった。

シエスタは何処かあの子を――シセを彷彿とさせる。

顔も、髪の色も似ていないのだが――雰囲気、というのか……纏っている空気が暖かい日向の様な匂いがする。

 

話していると、何だか暖かい気持ちになってくる――。

 

「そうこうしている内に、着いたな――ありがとう、シエスタ」

 

「どういたしまして。あっ、よろしければ私が洗っておきましょうか?」

 

「良いのか?」

 

「はい、洗濯物が一つくらい増えたって、大した苦にはなりませんし」

 

正直、シエスタの提案はありがたい。

俺も洗濯くらいは出来る――コーラに色々鍛えられたし、旅の時でも洗濯が出来る時はしていたからな。

 

だが、ルイズから預かった衣服はコーラが所持していたソレよりも、幾分か上物に見える。

 

……下手に加減を間違えてボロボロにでもしたら、目も当てられん。

それに幾らか慣れはあっても、やはり女物の下着を洗うのは抵抗がある……。

 

「すまない、それじゃ頼めるか?」

 

「はい。後でお届けにいきますね――ミス・ヴァリエールのお部屋でよろしいですか?」

 

「あぁ、それで構わない。よろしく頼む」

 

とは言え、借りを作ったままというのは、な。

 

「もし、何か男手が必要な時があったら遠慮なく言ってくれ。俺で良ければ、力になるぜ」

 

「はい、その時はよろしくお願いしますね?」

 

本当なら洗濯を手伝うべきなのかも知れないが、それでは本末転倒だし……何より、ルイズも起こさなければならない。

 

朝に起こす様には言われたが、何時に起こせば良いのかは聞いていなかった。

 

――太陽の位置からして、まだ早いかも知れないが……準備に時間が掛かるかも知れん。

女の準備には時間が掛かる――仲間の女アーチストの『コロン』がよく言っていた台詞だ。

 

確かに、フロレンスや……コーラも色々時間が掛かっていたしな。

サラや、あてなたちはその限りじゃ無かったが。

 

なので、洗濯をシエスタに任せて、俺は再びルイズの部屋に舞い戻ることにした。

 

「あっ、待ってください!」

 

呼び止められた俺は、シエスタから水の入った小さな桶とタオルを受け取った。

――なんでも、顔を洗う為の物らしい。

 

重々、頭が下がる想いだ――実際、頭を下げたが。

後々、この借りを返す機会を得られたらと思う。

 

***********

 

ルイズの部屋に戻った俺は、まだ主殿が眠っているのを確認した。

とりあえず、ルイズを起こすことにする。

 

「おい、ルイズ」

 

……声を掛けてみるが、返事は無い。

熟睡しているな――。

 

「ルイズ、朝だぞ起きろ」

 

「んぅ……んんっ……」

 

今度は身体を揺すってみる――。

少し身動ぎはしたが、やはり起きる気配は無い。

 

――さて、どうするか。

 

1、続けて揺すってみる。

 

2、布団をひっぺがす。

 

3、諦めろ。現実は非情である。

 

……3は無いだろう。

となると、此処はやむを得ないか――。

 

ため息を吐きつつ、布団を掴む――どうでも良いが、これまた上物の掛け布団だな。

 

「はっ!!」

 

「いひゃ!?ななな、なにっ!!?」

 

そして、思いっきり布団をひっぺがした――効果は抜群だった様だ。

唯でさえ薄着のルイズは、外気に曝されたことで急激な温度変化を体感……飛び起きたってわけだ。

 

「目は醒めたか?」

 

「!?ああ、アンタ誰っ!?何で私の部屋にっ!?」

 

「……お前、それ本気で言っているのか?」

 

混乱を極めている様だが、自分が呼び出した奴を忘れているとか……いや、寝起きは大体こんなものか?

俺は先程の自分を鑑みて、考えを改めた。

寝惚けるということは、誰にでもあることだ……うん。

 

「…………あぁ、そうか……夢じゃなかったんだ」

 

「残念ながら、な。ほら、水を汲んで来たからこれで顔を洗え」

 

落胆した様に言葉を発したので、俺は軽い皮肉と共に手近なテーブルに置いた、桶に汲んだ水を示した。

 

「……ありがと」

 

「どういたしまして、だ。ほら、タオル」

 

「ん」

 

寝惚けているのか、落胆したままなのか、皮肉を聞いて多少なりともバツが悪く思ったのか――ルイズは素直に礼を言ってから顔を洗い出した。

 

それを微笑ましく思いながら、顔を洗い終わったタイミングでタオルを差し出してやる。

 

ゴシゴシと顔の水分を拭き取り、幾分か意識がハッキリしてきたのが窺えた。

 

「着替えるから、着替え取って」

 

「……それも使い魔の仕事か?」

 

一瞬――まだ寝惚けてんのか?と、本気で思ったが。

どうにも正気らしいので、一応聞いておく。

 

「……そうよ、わかってるなら早くしてちょうだい」

 

ぷいっ!と、視線を逸らした……使い魔の仕事ってのは、まぁ嘘だな。

そもそも、本来は洗濯自体も使い魔の仕事では無いんだろう。

 

『人間が使い魔として召喚されたことは無い』……昨日コルベールや、他ならぬルイズ自身が言っていたことだ。

 

召喚されたモンスターを少し見掛けたが、洗濯や衣服の出し入れ等が出来る様な連中にはとても見えなかった。

 

ならば、この召し使いの如き扱いはルイズの独断ということになる。

 

……ちょいちょい、立場の差を分からせようとしてくるが――これが貴族様の性分なのか、ルイズ自身の性分なのか……。

あまり気分の良い話ではないが、ルイズ自身は案外素直な奴みたいだから苛立ちよりも、微笑ましいという感情の方が強い。

 

実害があるわけでも無し、まだ人間扱いされている分、実験動物扱いされるより遥かにマシだ。

 

……正直、コーラにバイクを乗り逃げされた時の方が、余程ムカついたしな。

 

「一応、確認しておくぞ?本当に俺が衣服を取り出して良いんだな?」

 

他人の物を漁るのには大した抵抗は無い。

アッチでも散々漁っていたからな――。

宿屋に止まった時とか、タンスや冷蔵庫を調べるのはハンターの常識だからな。

 

「だ、駄目ならこんなこと言わないわよ!良いから早くしなさい!!」

 

「――分かった」

 

俺は覚悟を決めた――というのは大袈裟だが。

とりあえず、着替え――制服を取り出す。

 

経験則から、そういった衣服は洋服箪笥にしまわれているのが通例だ。

なので、洋服箪笥を調べて昨日と同じ制服を見つけられたのも、必然って奴だ。

 

引き箪笥を調べたら、下着が入っていた――が、下着は昨日取り替えていたのでスルーする。

――まさか、朝昼晩と下着を替えているわけじゃねぇだろうからな……多分。

 

代わりに引き箪笥からはニーソックスを取り出す。

昨日は着けていたから、恐らく常備しているのだろうと当たりを着けたら……ビンゴだった。

 

制服を手にルイズの方を見やると、ルイズはネグリジェを脱いで下着だけの姿になっていた……平常心、平常心っと。

 

「ほら、着替えだ」

 

「着替えさせて」

 

……予想の斜め上の答えに、一瞬固まってしまった。

 

「……お前、その歳で自分で服も着られないのか……」

 

俺が知っている上流階級族……シエルタのギンスキーや、ワラのスクータロだって………いや、コーラの親父、それにホアキンやスクータロの奥方辺りなら、使用人やメイド辺りに着替えさせているかも知れないな………普通に想像出来るのが恐ろしい。

 

「そそ、そんなわけないでしょ!?アンタが来る前は、一人で着替えくらいしてたわよっ!!」

 

「ほう?じゃあルイズお嬢様は、この使い魔めに着替えを手伝わせることなく、自分だけで身嗜みを整えられると?」

 

「と、当然じゃないっ!」

 

「そうか……流石はご主人様だな。他の奴等に出来ないことを平然とやってのける――そこに痺れるし、憧れるぜ。それじゃ、俺は部屋の外に出てルイズの着替えを待つとしよう……任せて大丈夫だな?」

 

「えぇ、任せなさい!!」

 

ルイズの自信満々な台詞を聞き、全てを託して俺は部屋の外に出た。

 

去り際に「……あれ?」という疑問に満ちた声が聞こえて来たが、キッチリ聞かなかったことにした。

 

***********

 

で、十数分後――。

 

「…………」

 

「よう、着替え終わったな」

 

そこには、不機嫌を顔に張り付けながらも、しっかり制服に着替え終えたルイズの姿があった。

 

「アンタ……よくもご主人様をバカにしてくれたわねぇ……」

 

「さて、そんなつもりは微塵も無いんだがな……」

 

これに関しては嘘では無い。

上手いことあしらって、その反応を見て楽しんでいたのも本当だが――実際には、俺自身の獣的な雄としての本能を抑える為のポーズみたいな物だ。

 

「うるさいうるさい!!やっぱりアンタには、しっかりと立場を分からせなきゃ「朝っぱらから騒々しいわねぇ〜」……っ!」

 

どうにも堪忍袋の尾が切れたらしいルイズ。

さて、どうやって宥めたものかと思案していたら――隣の部屋の扉が開き、中から声が聞こえて来た。

 

「朝から仲が良いわね、ヴァリエール?ていうか、アナタが男を連れ込むなんて珍しいこともあるものね〜」

 

「ツェルプストー……!!ア、アンタと一緒にしないでくれるかしら……っ?」

 

中から現れたのは、女だった。

なんというか、随分と色気の漂う女だ。

 

俺と似た色素の赤い髪は、炎を連想させる。

髪型はロング――片目が隠れる様な前髪で、褐色の肌は真っ赤な髪を映えさせる。

 

スタイルも、出る所は出て――全体的に引き締まった印象を与える。

 

グラマーというのは、こういう女のことを言うのだろうな。

……フロレンスと良い勝負かも知れん。

 

「知り合いか、ルイズ?」

 

「………」

 

ルイズは返事を返さない。

まだ、さっきのことを怒っているのか、それとも――目の前の女が気に入らないのか。

 

「あら?確かアナタ、ヴァリエールが召喚した平民、よね?死体だったとか何だとか、色々噂されていたけど――」

 

「アッシュだ。魔法が使えない奴を平民と言うなら、俺は間違いなく平民なんだろうな。危うく死体に化けちまうところをルイズに助けられた――今はルイズの使い魔だ。よろしく頼む」

 

「――クッ」

 

何も言葉を口にしないルイズの代わりに、女が俺に疑問を尋ねて来たので、端的に答えを示した。

すると――。

 

「アッハッハッハッ!!ル、ルイズ、アナタ人間を使い魔にしたんだ?随分、面白いことになってるのねぇ!」

 

「ああ、あ〜ら、そんなに面白いことかしら?たた、大層品の無い笑い方をなされているみたいだけど?そういうアンタは、さぞかし立派な使い魔を呼び出したんでしょうねぇ……?」

 

何が可笑しいのか、女は腹を抱えて笑いだした。

……人間で平民の使い魔なんて、笑い話にしかならない――か。

ルイズの奴、皮肉を返しているつもりなんだろうが……言葉遣いが怪しくなるくらいには、余裕が無いな。

 

「勿論よ〜、おいでフレイム」

 

女……ツェルプストーだったか?彼女の後ろから姿を現したのは、二足歩行する赤い蜥蜴?だった。

 

――但し、その大きさは下手な動物より一回り二回りはデカかったが。

 

 

「ぐっ……サラマンダー……」

 

「そうよぉ、しかも火竜山脈のブランド物なんだからぁ!やっぱり使い魔にするなら、こういうのじゃなくっちゃね?」

 

「ぐぬぬ……っ!!」

 

ルイズは露骨に悔しがっているが……コイツ、そんなに大した奴なのか?

自慢するくらいなんだから、珍しいモンスターなのかも知れないが……。

 

「なぁ、アンタ――ツェルプストーで良いのか?」

 

「キュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストーよ、平民の使い魔君♪それで?どうしたのかしら?」

 

これはまた――長ったらしい名前だな……貴族という奴のフルネームは、みんなこんなに長いのか?

……いや、コルベールのフルネームは短かったな。

 

もしかしたら、貴族の女の名前だけが長いのかもな。

 

「その使い魔、サラマンダーだったか――そいつはそんなに凄い奴なのか?」

 

「それはそうよ!良い?フレイムはね……」

 

此処でキュルケの使い魔自慢、という名の解説が始まる。

曰く、サラマンダーという種族自体がそもそもレアらしく、戦闘力の高い種族らしい。

しかも、このサラマンダーのフレイムは火竜山脈という場所から召喚されていて、そこのサラマンダーは特に質が良いそうだ。

 

「ほら見て、特にこの尻尾!他のサラマンダーの炎とは輝きが違うでしょう?」

 

「他のサラマンダーを見たことが無いから、何とも言えんがな……どれ」

 

俺はフレイムの視線に合わせ、顔を覗きこむ。

 

「キュルルル……」

 

「「えっ……」」

 

目と目が合い、僅か数秒――フレイムは自慢の尻尾を股の間に挟み、頭を垂れてきた。

これにはキュルケも、ルイズでさえも疑問符を浮かべていた。

 

「――そうか、お前は賢いんだな」

 

彼我の力量の差を察した上で怯え取り乱すことも無く、主人の手前故に服従の姿勢を見せることもなく――最低限の礼儀として、自分に出来うる限りの礼を尽くした。

「心配するな、俺たちは立場の同じ……使い魔仲間って奴だ。俺はお前の主人をどうこうするつもりは無いし、お前がルイズを傷付けようとしない限り、俺も牙を向けたりはしない」

 

言葉が通じるか不安だったが……頭を上げ、挟んで丸めていた尻尾を開放した所を見る限り、言葉は通じたらしいな。

 

……心無しか、ホッとしているように見える。

 

「……良い使い魔じゃないか。恵まれてるよ、お前」

 

「え、えぇ、そうでしょう?」

 

キュルケはフレイムの態度が釈然としないのか、頻りに首を傾げていた。

 

「さてルイズ、今日の予定はどうするんだ?」

 

「うぇ!?あ、授業があるけど、その前に朝食を食べて……」

 

「そう言えば、食堂があるって言っていたな。じゃあ、早速向かうとしようぜ」

 

俺はルイズを促して食堂に向かうことにした。

朝食を食う位の時間的な余裕はあるんだろうが、どの程度の余裕があるのかは分からない。

 

何より、この宿舎に関してはある程度把握したが、この魔法学院全体を把握したかと聞かれれば、していないと答えるしかないワケだからな……これから長い間世話になるんだ、なるべく早く地理を把握しておきたい。

 

「っと、キュルケで良いよな?それとも、ミス・ツェルプストーとでもお呼びしようか?」

 

「――キュルケで良いわよ。で、何かしら?」

 

俺は去り際、キュルケに言っておくことにした。

 

「こうして知り合ったんだ、何かと縁があるかも知れん。その時はよろしく頼む……それと、ウチのご主人様はからかうと面白いかも知れないが、根は素直な奴みたいなんでね……程々にしてもらえると助かる」

 

「――アナタ、変わってるわねぇ」

 

「よく言われる」

 

「フフッ――アナタも、良い使い魔じゃないの。これからヨロシクね、アッシュ♪」

 

妖艶……というより、優しげな笑みを浮かべているキュルケ――その表情はフロレンスの奴と被って見えた。

 

……何故か、獲物を狙うハンターの様な雰囲気も感じたが。

 

「ちょっと!!食堂に行くんだから早くしなさいよっ!!」

 

「了解だ。そう言うワケだから、またな」

 

「えぇ、それじゃあね〜」

 

こうして、俺たちはキュルケとフレイムのコンビと別れた。

 

必ずしも、全員が食堂に向かうワケでは無いってワケだ。

 

***********

 

「ア、アンタねぇ……よりにもよってキュルケ相手に鼻の下を伸ばすなんて……つつ使い魔としての自覚が足りないんじゃないかしら……!?」

 

「落ち着け。とりあえず、深呼吸しろ」

 

「すぅ〜……はぁ〜……」

 

道すがら、ルイズが終始お冠だったので落ち着く様に促してみたが――。

 

「って、落ち着けるわけないでしょうが!?」

 

効果は薄い様だ――まぁ、全く効果が無かったわけでも無いみたいだが。

 

「それでも落ち着け。……周りの視線が凄いことになってるから」

 

周囲には、ルイズと同じ生徒なのだろう――制服を着た人間がチラホラ居る。

 

そいつらは奇異の視線を……または蔑みの視線を向けてきている。

 

要因は幾つかあるが、一つはルイズが怒り心頭なこと、もう一つは俺がルイズの側にいることだ。

 

シエスタやキュルケの話から、ルイズが俺を召喚したことが知れ渡っているのは理解出来た。

 

俺が死体だったとか、ルイズが殺しただとか、色々言われていたらしいが……そんな俺がこうして無事に、ルイズの横を歩いているのだから――大体の事情を把握するのは難しくないのだろう。

 

つまり、俺とルイズが使い魔の契約をしたのだ、と。

 

……しかし、鬱陶しいな。

 

奇異の視線はまだ良い、問題は侮蔑の視線だ……中には悪意に満ちた視線を向けてくる奴もいる。

 

「そんなことはどうでもいいのよっ!!!良い?キュルケのツェルプストー家はね、ヴァリエール家の不倶戴天の敵なのよっ!!」

 

しかしルイズは、そんなことは何処吹く風……というより、優先順位が違うのだろう――それだけキュルケが嫌いなのかも知れない。

 

キュルケ本人は、ルイズを嫌っている感じはしなかったのだが……。

 

で、ルイズから聞いた話だと――。

 

ルイズの家――ヴァリエール家は、この国……トリステインの有力貴族で、幾度も隣国であるゲルマニアの侵攻を防いできた。

 

キュルケはそんなゲルマニアの貴族で、しかもルイズの家とは国境を挟んで隣り合った土地を持つ貴族の家柄で――先祖代々に渡って争い合ってきた犬猿の仲なんだそうだ。

 

トリステインとゲルマニアが戦争を止めた後も、殺し殺されの怨恨は消えなかったらしく、ことあるごとに争いを繰り返しているらしい。

 

……ヴァリエール家の一族は、好きな異性をツェルプストー家の一族に寝取られている!!とか、言い出した時は、正直、微妙な心境だったが。

 

……ワラのスクータロとシエルタのギンスキーを彷彿とさせる関係だな。

 

「私のひいお爺ちゃんも!!ひいひいお爺ちゃんも!!!みぃ〜んなツェルプストー家に恋人を奪われてるんだからっ!!」

 

「……だが、それは昔の話だろう?過去の確執はともかく、ルイズ自身は恋人を奪われたりとか、してないんだろう?」

 

「それはっ!!……そう、だけど……」

 

それを聞いて、俺は安心した。

仮にキュルケがルイズに害を為していたのなら、弁解の余地も無かったのだろうが……。

 

今の話からすると、どうにもルイズが一方的に嫌っているだけの様だ。

そのルイズにしても、キュルケ自身が……というよりツェルプストーの一族が嫌い……という感じだ。

 

「けどね!!キュルケの奴だって、学院内に何人もボーイフレンドが居るのよ!?自分は恋に生きる一族なんだとか言って、恋人を取られて泣いてる子は数え切れないんだからねっ!!」

 

「――つまり、ルイズは俺がキュルケに靡かないか心配なワケだ」

 

「と、当然じゃない!!人間が使い魔ってだけでも笑い者なのに、その上その使い魔をツェルプストーの一族にとられたりしたら、恥の上塗りなんてものじゃないわよ!!」

 

まぁ、単純にプライドの問題なんだろうが――。

それでも心配されて悪い気はしないな。

 

「心配しなくても、俺がキュルケとどうこうなるなんてことは、無いさ」

 

「……それを信じろって言うの?」

 

確かに、キュルケは良い女だとは思う。

見た目は勿論だが、内面でも――だ。

さっき浮かべた優しげな笑み……多分、あれがアイツの本質なんだろうからな。

 

問題は俺自身だ。正確には俺自身の身体――だが。

 

仮にお互いが本気になったとしても、俺の中の獣をずっと隠し続けるのは不可能だろう。

その時、化け物の謗りを受けるのは明白だろうし……何より散々、血を流してきたんだ……。

 

その罪を忘れて、幸せに溺れるなんざ――俺には許されちゃいないんだ。

 

「信じろよ。約束しただろう?ルイズが納得いくまで側に居てやるってな。その契約をうやむやにしてまで色恋に走る程、餓えちゃいねぇよ」

 

「……まぁ、良いわ。信じてあげるわよ――使い魔を疑う狭量な主人と思われたくないからね。感謝しなさいよ?」

 

「あぁ、ありがとよ」

 

……まぁ、キュルケ程の女であれば一夜限りの身体の付き合いとかなら、喜んで飛び付く位には餓えているんだが――言わないけどな。

 

言ったら確実に面倒なことになると、俺の野生の勘が告げていやがる。

 

仮に、そういう関係になったら……俺の場合、情が移って割り切れないだろうしな……プロのお姉さん相手なら話は別だが。

 

「……それはそうと、アンタさっき何したの?」

 

「さっき?」

 

「キュルケのサラマンダーが、頭を下げていたじゃない。尻尾も丸めて、まるで……」

 

「怯えていたみたい――か?」

 

大体のモンスターは敵を見つけたら襲い掛かって来る。

相手が格上だろうと、本能の赴くままに――或いは、どうせ死ぬなら……というバンザイアタックを敢行しているのかも知れないが。

 

だが、本当に賢いモンスターっていうのは無駄な争いはしない物だ。

 

俺の居た場所では、スローウォーカーやゴールドアント等が最たる例だ。

 

カミカゼ系統は……また別物だから省いておく。

 

「まぁ、アイツは賢いんだろうな。怯えるだけなら他のモンスターにも出来たんだろうが……っと、此処が食堂か?」

 

「え?えぇ、そうよ――此処が魔法学院の『アルヴィーズの食堂』よ」

 

そんなつもりは無かったが、話がうやむやになったな――まぁ、良い。

 

とりあえず、食堂に着いたが………まぁ、何と言うか。

 

「此処までも凝った内装だと思っていたが、これはまた凄いな……」

 

魔法学院校舎も、俺の知ってる金持ち連中が驚くんじゃないかってくらいに凄かったが――食堂内は、これまた天然記念物……じゃなくて、文化遺産か?

 

そう言った風体の芸術性を含んだ様相を呈していた……パブロやコロンが居たら、テンションが上がりまくるであろうことは容易に想像出来る……この食堂だけで、一体何万Gの大金が掛かっているのやら……。

 

「あの小さな人形なんか、今にも動きそうな迫力があるな」

 

「動くわよ、アレ」

 

「――そうなのか?」

 

少し驚いたが、許容範囲内だ。

機械仕掛けの装置で、そう言った物が無かったわけでもないし――いや、此処では科学が存在せず、魔法なんてファンタジーが幅を利かせているんだったな……。

 

ルイズが得意気に説明してくれた内容に拠ると、この石で出来た人形は夜中のとある時間帯になると動き出すのだと言う。

アルヴィーズとは、この人形のことを意味しているらしい。

 

……ちなみに、一応聞いてみたが……やはり魔法の力で動いているらしい。

 

「改めて思ったが……すげーな魔法……」

 

此処まで行くと、大破壊の遺産と大差無いんじゃねぇか?

科学の産物にはアンドロイドやらも存在するし……侮れんな、魔法。

 

「そうでしょ?高名なメイジってのは凄いのよ!」

 

またしてもルイズが自慢気だが……まぁ、微笑ましいだけだから良しとしようか。

 

しかし――。

 

「なんか、美味そうな匂いがするな」

 

これは、朝飯にも期待出来そうだ。

 

「――あっ、そう言えば、アンタの食事を作ってもらう様に頼むの忘れてたわ」

 

「――マジか?」

 

……こんだけ美味そうな匂いを嗅がされてお預けとか……いや、食糧は道具入れに蓄えてあるから問題は無いが……。

 

「仕方ないじゃない。昨日は色々あってそれどころじゃなかったんだから――心配しなくても、何か用意出来ないか聞いてあげるわよ」

 

「そうか――すまん」

 

「本当なら使い魔は食堂に入ることすら許されていないんだから――ホント、感謝しなさいよね!」

 

俺には分からない感覚だが、飲み食いする場に使い魔を連れて入るのは貴族的にも平民的にも有り得ないらしい――普通にポチとかと一緒に飯食ってたけどな、俺らは。

 

にしても、ちゃんと人間扱いしてくれているんだな――悪くない感覚だ。

 

 





ドラムカンの中の人は、キュルケの取り巻きの一人と同じ。
――書いてる途中で知りました。

不定期更新だから、早い時もあれば遅い時もある……大抵遅いですが。

次回辺りからもうちょい話が動く――と良いなぁ……。

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