うちはイタチと賢者の石   作:おちあい

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1985年7月8月

(どういうことだ…)

アジトの前で再び相まみえることとなったイタチとファロット達。しかし両方とも相手を警戒をしているのか動きは止まっている。

(先ほどの戦闘だと賊は3人いたはずだが、2人しかいないな…。俺の感知できない遠方からライフルで狙ってくるつもりか、腕の傷のために戦線を離脱したか…)

リンダがいないことにイタチは疑問を抱くが表情に変化は一切出ていない。

対するパトリックとキースは先ほど以上に警戒してイタチを睨みつけていた。

(リンダがいないことに動揺した様子は見られない。そして足の傷が無くなっている…。このガキが魔力を纏っていることから考えれば、そう深くない傷だ。魔法を使えば回復することもできるかもしれないが…ズボンの傷も無くなっているというのはどういうカラクリだ?しかもこいつの魔力…さっきより格段に多い…)

「ふっ、作戦の変更は正しかったな…」

誰にも聞こえない声で呟き、パトリックは短刀を抜刀し魔力を込める。

キースに一瞬目を合わせたパトリックはそのままイタチに恐ろしい速度で迫り短刀を横一閃に振り抜く。バックステップで後ろに避けたイタチだったが、短刀の軌道上にあった胸のあたりの服が引き裂かれていた。

(鬼鮫が切られたアスマさんのチャクラ刀と同じだな…。)

大蛇丸が行った木の葉崩しの後、ダンゾウと相談役への警告のため木の葉隠れの里に行った時のことを思い出す。

(先の戦闘でもこいつらは忍術を使ってこなかったが、この世界にも術を使える人間がいるのか…?)

パトリックの猛攻を躱しながら少し試してみようとイタチは印を組み、パトリックがキースの前方に立った瞬間に術を放つ。

 

火遁-豪火球の術-

 

イタチの口から特大の炎の球が吹き出されファロットを襲う。

パトリックの口笛と共にファロット達は横に飛びのいて豪火球の術を避けるが、2人の額には汗が滲んでいた。

(ありえねぇだろ!!何だ今の魔法は…!杖も使わず口から火を噴きやがった!)

すぐに体勢を立て直しイタチのいたあたりを睨みつけるパトリックだが、煙が晴れた時その場所にイタチの姿はなかった。

「しまっ…」

後ろを振り返ったパトリックが見たものは、背中にナイフを突き刺され地面に崩れ落ちるキースの姿だった。

キースの背中のナイフを抜き取り、イタチはパトリックを睨む。

舌打ちをして睨み返すパトリックだが、その顔に余裕は無くなっていた。

(実際問題、こりゃやべえな)

パトリックは大きく後ろに飛びのき夜の闇に消える。イタチはパトリックを追おうと一歩足を踏み出すが、その足を倒れたキースが掴む。

(…!こいつまだ…)

「ファロットの…誇り…を、もって…、ぐっ、愚かなる敵にっ…突然の、死を…!」

瞬間、キースはもう片方の手で腰のひもを引っ張り、自分を巻き添えにして爆発した。

 

「全く…まじでやばかった。あのガキと一緒に爆発に巻き込まれちまうところだったぜ…」

不可避の距離で爆発をくらったイタチを確認したパトリックはほくそ笑んだ。

 

--

 

はるか後方からの爆発音を耳にとらえ、リンダは歯を軋ませた。

(この爆発…。パトリックかキースが自爆したな…)

リンダは最初のイタチとの戦いの後パトリックに言われたことを思い出す。

 

「リンダ、その腕であのガキとの戦闘は無理だ」

イタチが文字通り消えた後、アジトに向かおうとする2人にパトリックが待ったをかけた。

「パトリック…それはあたしを侮辱しているのか?あたしたちは刺し違えてもあのガキを殺さなきゃいけないんだ」

「いかなる 傷を負っても 任務は 継続される」

睨みつける2人に、パトリックは両腕をあげ首を振る。

「お前らよぉ…イタチと戦って興奮してるのは分かるが、目的を見失いかけてるぜ。」

パトリックの言葉に2人は怒りを収め怪訝な表情をした。

「どういう 意味だ?」

パトリックは指を一本立て、

「いいか?お前ら。俺たちの任務はイタチを殺すことだけじゃねぇ。確かにさっきの戦闘の感じだと、恐らく俺たちでイタチを殺すことはできる。これを使えば尚更な…。だがそれには俺たちの死が高いリスクで付きまとう」

ぽんぽんと自分の腹を叩くパトリックにリンダとキースは頷く。

「俺たちの任務は影の皆殺しだ…。やっかいなガキを1人なんとか殺せましたが全員再起不能になりましたじゃ話にならねーんだよ。そこの所をはき違えるな。これから俺とキースでイタチを全力で殺す。リンダは今からさっきの野営ポイントに戻って待機だ。1時間たって爆発音が聞こえなければ当初の作戦を続行。だがもし仮に俺かキースのどちらかが自爆したらファロットの屋敷に戻り報告と作戦の立て直しをしろ。質問は?」

リンダは下を向いたまま静かに回答した。

「いや、無い…」

歯を食いしばるリンダの肩に手を置き、パトリックは優しく語りかける。

「まっ、それは最悪の場合だよ。俺たちはそんなにヤワじゃない」

パトリックは気障なウインクをして、キースと共に影のアジトへと駆けて行った。

 

それにしても…とリンダは走りながら考える。ファロット3人と涼しい顔をして渡り合うあの子供は何者なのだろうか。

(これは下手すると、レティシアを使うことも視野に入れないとね…)

 

 

--

 

(しかし本当に作戦を変更して良かったな…)

中腰の状態から立ち上がり、パトリックは服についた汚れをぱんぱんと掃う。

(この爆発で恐らくリンダは屋敷に帰っちまったが、イタチさえいなければ全ての任務は俺一人でもこなせる。キースに掴まれた状態でファロットの自爆をくらったんだ。これで)

「イタチは…確実に…」

 

 

「死んだかな?」

 

 

「!!?」

背後からイタチの声が聞こえると同時に自分の腹が短刀に突き抜かれていることに気付く。

「なぜだ…確実に死んだはず…」

血を吐きながら問うパトリックにイタチは顔色を変えずに、

「変わり身だ…」

下忍でも使える基礎忍術だとイタチはつまらなそうに応える。

振り返るパトリックの目に映ったのはイタチの冷たい瞳と、胸のあたりが少し切られたイタチの服だった。

「服の傷…無くなってねぇじゃねえか…」

「当然だ。俺は本体だからな」

薄れゆくパトリックの目が最後に映したものは、キースの短刀を振りかぶるイタチの姿だった。

(意味わからねえよ…糞野郎…)

 

横たわったパトリックの横でイタチも膝をつく。イタチの息遣いは少し荒い。

(やはり5歳の体に複数の忍術は負担が大きいか…。写輪眼が開眼していればこいつらの目的や背景も知ることが出来たのだが…)

イタチはキースが死ぬ前に呟いていた言葉を思い返す。

「ファロット…か」

恐らくこいつらが先週影のメンバーの話していたファロットの一族なのだろう。下忍以下の体術しか使えないカールが格闘技のチャンピオンだったことを考えると、体術だけ見れば中忍に近いこいつらはこの世界では相当強いのかもしれない。写輪眼も無く、体も出来上がっていない今の状態で仮に上忍レベルのファロットが現れたら…。

(少しまずいかもしれないな…)

イタチは立ち上がりアジトに向かうが、キースの自爆によってアジトの壁の一部はボロボロに崩れている。ファロットもそうだが、イタチの目下の面倒は“眠ってもらった”影のメンバーにアジトの崩壊をどう説明するかなのかもしれない。

 

--

 

1985年8月

 

「ファロットが作戦の期限を延ばすように依頼してきただと?」

アメリカ海軍のジェネラルであるレックス・ソウルは少し目を見開いて部下の報告を聴いていた。

「オイオイ、2年も延長って、影の皆殺しになんでそんなに時間がかかるんだ」

「しかし、先方は延長するかキャンセルするかの二択だと言っていて…」

全身に冷や汗をかきながら部下は報告する。このレックスという男は、人間とは思えないほどの膂力を持っていてアイアンクローで人の顔を潰せると恐れられている海軍きっての化け物である。

「ふむ…ファロット側には延長で構わないと伝えておけ」

怪物レックスは少し考えたのち部下に延長の指示を出す。

「よ、よろしいので?」

「二度は言わん。さっさと連絡しろ」

「はっ!」

レックスに睨まれた部下は姿勢を正して返事をし、すぐに部屋から逃げ出した。

「ファロットが延長を頼んでくるとは…何かあるな…。ふむ、少し調べてみるか」

影の皆殺しを依頼した張本人。レックス・ソウルは腕を組んで計画を練り直さざるを得なかった。

ファロットからの作戦延長願い。これで米国による表立ってのイランイラク戦争への介入は遅れることとなった。

 

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1985年8月

 

「これだけの不測の事態が起きながらイタチ、よくぞアジトと仲間を守ってくれた。感謝する」

「かまわん。やるべきことをやっただけだ」

頭を下げるカールに対してイタチは相変わらずのポーカーフェイスだ。

「しかしまさかパトリックがファロットの一族だったとは…。本当に影がファロットに狙われているとなると、アジトの場所も変えないとな…」

「まぁ変えたところですぐに見つかるだろうが…。カール、それとは別に少し根本的な対策をしたい」

イタチからの提案は珍しいと思いながらカールはその内容を尋ねる。

「カール、そして俺の背後で聞き耳を立てているクリスとアリス」

イタチがクリストファーとアリスの名前をだした途端、廊下でガタンという音が聞こえた。

「この3人を、俺が鍛える」

「「「は?」」」

イタチの目の前と後方の廊下から、間の抜けた声が3つ揃って聞こえた。

 

--

 

1985年8月

 

薄暗いファロットの屋敷の中、リチャードの前に立つリンダは珍しく緊張していた。イタチとの戦闘から2週間。パトリックたちからの音沙汰は無い。どのような状況の中でかは分からないが、死んでいるとみて間違いはないだろう。影皆殺しの作戦の立て直しとしてファロットの長リチャードから直々に命令が下ることとなり、リンダはリチャードの前に立っていた。

「結論から言う。レティシアを使い2年以内に影殲滅作戦を行う。パトリックとキースで敵わなかったと言う事は、我かレティシアが出ない限り結果は変わらないだろうからな。リンダ、お前はイギリスに飛びうちはイタチの情報収拾を行え。血縁や宗教、一族の特殊技能など全てを丸裸にしろ」

「はっ!」

直立不動のままリンダは応える。

「お前もいいなレティシア」

何気ないリチャードの言葉にリンダは飛び上がりそうになるのを必死でこらえる。

(この部屋にいるのか!?)

リチャードの前にいるときにファロットは気を抜かない。警戒心MAXでいるはずなのに、この部屋にレティシアがいることにすら気付けなかったリンダは驚愕する。

「何でもいいけどさ、何で2年も期間を取るんだ?別に今すぐでもいいんじゃない?」

いつの間にかリンダの真横にいて欠伸をしている少年レティシアは緊張感のない声でリチャードに尋ねる。

金髪の猫っ毛にパッチリとして少し釣り上った猫目の美少年。可愛らしい見た目とは裏腹に、ファロットの歴史の中でも類を見ない体術の才能と底の見えない魔力の量。正に天才と呼ぶに相応しいレティシアは、ファロットが二人がかりで敵わなかったと聞いても気にも留めずにそう言い放った。

「実際、お前の力があればそのイタチという子供も簡単に殺せるだろう。だがその前に、お前に授けておきたいファロットの秘伝があるのだ」

ファロットでは18歳までに殺人術のイロハと思想を叩きこまれる。その修行を終え、一番才があるとみなされた者にのみファロットの長から直接伝えられる秘伝の技があった。

「5歳にしてファロットの修行をすべて終えたレティシア、今日からは我が直接修行をつける。Hsien-シアン-の修行をな…」

ファロットの天才レティシアは、イタチと直接対決する前に、ファロット最強の秘伝を身につけることとなった。




設定資料

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今回は無し


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早くホグワーツ編をやりたいのですが、その前に色々やっておかなければいけないことがありますのでもう少し少年編にお付き合いください。

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