うちはイタチと賢者の石   作:おちあい

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戦争編
1985年7月


うだるような日差しが差し込む中、上下左右フェイントを織り交ぜた多彩な攻撃がイタチを襲う。一撃一撃が相当な重さであり、掠っただけでも普通の人間ではただでは済まない事をその風圧が物語っている。しかしただの一発もイタチに入れることはできない。イタチはすべての攻撃を見切り余裕を持って躱していた。

「なぁ、ボスってボクシングのミドル級元学生チャンプなんだろ?あのガキ一体何者だよ」

初めてイタチの戦いを見る男にマリオは簡潔に答える。

「簡単な話だ。ミドル級の元学生チャンピオンよりイタチの方が強いってだけだよ」

マリオの身も蓋も無い説明に男は言葉を詰まらせる。当然だ。ボクシングの学生チャンピオンに敵う大人ですらほとんどいないのに、ボスと戦っているのはまだ5歳の子供なのだ。常識的に考えて身長が185センチある大人と120センチ程しかない子供が殴り合いをして勝負になるはずもない。

だがイタチは普通の人間ではなかった。イタチは右ストレートのため踏み込もうとしたボスの左足を払い、バランスを崩したボスの顔に掌底をたたきこんだ。そのまま後方に数メートル飛ばされるボス。2人を中心に円を作っていた30人程の男たちが盛り上がる。

「ボスー!なんて様だ!」

「賭けになんねーぞボス」

「イタチィ!相変わらず強すぎだろ」

好き勝手に暴言を吐く外野に苦笑しながらボスが立ち上がる。

「とりあえずここまでか?カール」

「そうだなイタチ。しかし相変わらずの化け物っぷりだな。まるで歯が立たん」

賭けに負けた数人の男に文句を言われているこの組織のボス、カール・マダックス元少尉から離れ、イタチはマリオの所へ向かう。

「マリオ、俺は川で水を浴びてから帰る。先に戻っていろ」

「わかった。まぁ俺もボスに賭けた阿呆どもから金を徴収してから帰らないとだがな」

ニヤリと笑うマリオに飽きれた顔をしながらイタチは川に向かおうとするが、

「おい、イタチって言ったかお前」

先ほどまで言葉を詰まらせていた男に話しかけられた。

「イタチ、はっきり言ってお前の強さは異常だ。お前は何者なんだ?」

イタチは黙って男を見つめていたが、しばらくして口を開いた。

「…人間は自分の知識や常識に縛られて生きている。主観的な常識なんて曖昧なものだ。俺より強い子供だっていくらでもいるかもしれない。そうは思わないか?」

そんな子供いねぇよ!と心の中で盛大に突っ込むマリオをよそに男はイタチに言葉を捻り出す。

「お前まさか…ファロットの一族か?」

男の口からファロットの名が出た途端、周囲が静まり返る。

「おいおいそりゃ都市伝説の…」

マリオは否定しようとしたが、周りの男たちが集まってきて言葉をさえぎられてしまう。

「イタチ!お前ファロットの一族だったのか?」

「ファロットってあのファロットか!?」

「そりゃ強い訳だ!」

「いや、ファロットって伝説だろ?実在はしないって話だぜ」

好き勝手に囃し立てる周囲に疑問を抱いた顔でイタチは質問する。

「ファロットの一族というのは何だ?」

マリオは両手をパンパンと叩き周りを黙らせる。

「いいかイタチ、ファロットってのは実在するかも分からねぇ都市伝説みたいなもんだ。噂だと暗殺を基本とした殺し屋の一族らしい。銃の腕は一流で1000ヤード先からターゲットの目を打ち抜くことが出来て、中国武術の達人30人を一瞬で殺す体術の才能を持ち、戦争では一個小隊を1時間で皆殺しにできるんだとさ。はっきり言って眉唾物だ」

噂が独り歩きした都市伝説だとマリオは言うが、周りの男たちはそれに反論する。

「てめぇイタリア人のくせにロマンがねぇぞマリオ」

「いやあれは伝説だぞ」

「ケネディ暗殺はファロットの仕業らしいぜ!」

「マルコムXの事件も裏で糸を引いていたとか…!」

「いややっぱり存在しねぇだろ。ありえねぇよ」

侃々諤々。それぞれが好き勝手にしゃべり収拾がつかなくなった時、

 

「いや、ファロットの一族は実在するぞ」

カールが輪に入ってきた。

「ボス!」「本当かよ!?」

普段冗談を言わないボスの爆弾発言に男たちは大いに驚いた。

「俺は以前アメリカ軍にいたからな。詳しいことは知らないがアメリカとファロットに繋がりがあることは事実だ。強さの噂は所詮噂だか、奴らは実際恐ろしく強いそうだ。敵国の要人暗殺や戦争にかなり金を使って利用しているらしい。実際に会ったことのある上司は、奴らは魔法だが魔術だかを使えると言っていたが、まぁそれは眉唾だろう」

「マジかよ…」

実在しないと思い込んでいたマリオは衝撃の事実に固まっていたが、我に返り不安を口にする。

「なぁボス、この戦争アメリカの動向も怪しくなってきたぜ…。もしかして俺たちにファロットを差し向けられるなんてことは…」

周囲の男たちもつばを飲み込むが、カールは涼しい顔をして

「ファロットへの依頼額は安くて数十万ドル単位だ。我々『影』を殺すためにそこまですることはまず無い。それにファロットは依頼は受けてもどこにも属さない。ソ連でも中国でも、それこそ俺たちが雇うことだってできる。まぁ連絡手段があればだが。実際影にファロットを送り込まれたら一晩で皆殺しだろう。奴らの依頼達成率はほぼ100パーセントだからな。」

カールの言葉を聞いたマリオはほっと胸をなでおろす。

「そりゃ良かった。しかしほぼってことはファロットも失敗することがあるのか」

「あぁ。ファロットへの依頼は全て前金で失敗した時だけ依頼金が返ってくるのだが、一度だけ軍に返金されたことがあったそうだ」

「はっ!ファロットの一族とはいえ所詮は人間だな。なんで失敗したんだ?」

周囲の男の一人が野次った。

「ファロットが失敗するのは、相手もファロットを雇った時だけだ。ファロットはすべての依頼を断らない。お互いがファロットを雇った時はファロット同士の殺し合いになる。その時は我々が雇ったファロットが殺され依頼は失敗に終わった」

一瞬の静寂。

「狂ってるぜ…」

誰かがつぶやいた一言は全員の総意だった。

「それでイタチ、お前はファロットの一族なのか?」

ニヤニヤと笑ったカールがイタチに問いかける。

「分かっていて聞くなカール。俺のファミリーネームは『うちは』だ。ファロットとやらの一族ではない。俺はもう行く」

そのままイタチは川の方へ立ち去って行った。

 

「なぁボス、ファロットの一族はイタチよりも強いのかね」

マリオがカールに尋ねる。

「何とも言えんな。俺も実際にファロットと会ったことは無いしな。そしてイタチの底も見たことがない」

「次の戦闘は一週間後だったよな。イタチも前線に送るべきじゃないか?ガキとはいえ影の誰よりも銃の扱いが上手くて強い」

「いや、子供にそこまでの負担はかけられんよ。我々がいない間にアジトにファロットが来るとも限らんしな」

ウインクをするとカールも部屋に戻って行った。

 

 

1985年7月

イタチはイランの傭兵部隊『影』にいた。

内葉家の悲劇の一件以降、マリオは警察には行かずにフランス経由でイタリアに密入国した。カモッラ時代の伝手を使い、人身売買のルートでイラン・イラク戦争のための人材斡旋組織までたどり着いた。

マリオは、イタチを傭兵部隊に売って自分はまたイギリスまで戻ろうと思っていたが、傭兵部隊『影』のボスであるカール・マダックスの考え方に共感し自らも『影』に入ることを決意したのだ。

『影』に所属して3年とちょっと。イタチが急にしゃべりだしたり、子供とは思えない戦闘能力を発揮しだしたりと様々なことがあったがそれはまた別の話である。

 

 

--

 

1985年4月某日

 

「依頼だ…」

呟くように、しかし良く通る声で男は言った。彼の名はリチャード・ファロット。ファロットの一族の長である。年は50歳程だろうか。引き締まった巨体に太い腕、左目が傷ついていて隻眼となっているが右目の眼光は鋭く一般人がその目で睨まれれば恐怖に体が竦んでしまうだろう。

王者の風格を纏ったリチャードは前に並んだ3人に指示を出す。

「ターゲットは『影』という名の傭兵部隊。100名ほどの組織で今のイランとイラクの戦争で暗躍している。期限は今年中だ。今年中にアジトを見つけ出し皆殺しにするように。質問は?」

3人は沈黙を守ったままである。

「無ければ資料を受け取り行動開始。以上。下がれ」

資料を受け取った3人は音もなくまるで忍びのように部屋から消えた。

「レティシアの様子は?」

リチャードの言葉に、資料を配り終えた女性が振り向く。

「本日の修行は終わっております」

「ではレティシアをここへ」

「はっ」

だれもいなくなった部屋の中でリチャードはニヤリと微笑んだ。

 

リチャードから指示を受けた3人はファロットの屋敷の長い廊下を並んで歩いていた。

「しかし…たかが100人の傭兵殺しにファロット3人って多すぎやしないか?1人でも十分こなせる任務だ」

一番背の高くヒョロっとした金髪の男、パトリック・ファロットが資料を左手ではたきながら2人に問いかける。

「『イギリスの悪魔』の一件からリチャード様はだいぶ慎重になった。もうファロットとして失敗はできないのだろう」

資料から目を離さないまま、ファロットには珍しい女性、リンダ・ファロットが応える。

「『イギリスの悪魔』か。あれは久しぶりの化け物だった。心臓を抉っても死なないんだからな。イギリスの魔法はやっぱり進んでるぜ。不死の魔法なんてファロットには存在しない」

「不死の魔法を使えるのは恐らく悪魔だけだろう。杖を使わなければ発動しない魔法などに何の意味がある。暗殺という一点においてファロットの術を超えるものはないだろう」

「だが、悪魔を殺せなかったのは事実だ。ファロット700年の歴史の中で、相手側にファロットが雇われていないのに暗殺を失敗したのは初めてだったらしいからな。まぁ慎重になるのも無理はないか…」

やれやれとパトリックが両腕を上げる。

「我々は 与えられた任務をこなす それだけだ」

それまで沈黙を守っていた男。キース・ファロットが口を開いた。

「違いねぇ。ま、とりあえずそいつらの根城を見つけ出す所からだな」

パトリックは獰猛な笑みを浮かべた。

 

--

 

「なぁボス、ファロットの一族はイタチよりも強いのかね」

「何とも言えんな。俺も実際にファロットと会ったことは無いしな。そしてイタチの底も見たことがない」

 

(…体術だけならファロットの方が上だな。しかしあのイタチって子供は少し不可解だ。…どう見てもあれ、魔力を纏っていやがる)

カールとマリオの会話を聞きながらパトリックはイタチの分析をしていた。

イタチとカールの手合せ中マリオに話しかけ、手合せ後にイタチに話しかけた男はパトリック・ファロットその人であった。

(杖を使わずに魔法を利用できる人間はファロットの一族だけのはずだ。本当に何者だあのガキ…)

面倒な任務になりそうだ。とパトリックはため息をついた。

(次の戦闘は一週間後…ね)

パトリックはイタチとは逆方向の森に向かって行った。

森の中に入り紙にメモを書き口笛を吹く。するとパトリックの下に鷹が舞い降りてきた。

「リンダへのラブレターだ。ちゃんと届けてくれよ」

鷹の背を撫でると、リンダ(とキース)にラブレターを届けるため鷹は力強く羽ばたいた。

 

--

 

「じゃあ行ってくる。クリス、アリー、イタチと一緒にいい子にしてるんだよ」

「うん、気を付けてねパパ!」

「いってらっしゃい!」

カール・マダックスの双子の子供、クリストファー・マダックスとアリス・マダックスが戦闘に向かうカールたちを見送る。

「イタチ、すまないが二人を頼んだ」

「分っている」

イタチの応えに頷き、カールと80人の傭兵たちが戦闘に向かった。

カール達の姿が見えなくなるとクリスとアリスが騒ぎ出す。

「イタチ!しゅぎょーだ!」

「しゅぎょー!しゅぎょー!」

これから数週間、長ければ数か月、この3歳年上の子供たちの面倒を見なければならないと思うとイタチは憂鬱だった。

イタチはふと後方からの視線を感じ振り向くが、視線の先に怪しい人物は見当たらない。

「…」

 

--

 

アジトから2キロ先の森の中。仕留めた蛇を焼いて食べようとしていたリンダの下へパトリックとキースが音もなく戻ってきた。

「首尾は?」

尋ねるリンダに、

「問題 ない」

「いや問題あるだろ。キースお前昼間イタチに視線送りやがって。あれほどやめろと言ってたのによぉ」

言い争うパトリックとキース。言い争いながらパトリックはリンダ焼いた蛇にカレー粉をまぶして食らいつく。

ため息をつきリンダはもう一度訪ねる。

「作戦はどうだと聞いているんだ」

「作戦は問題ない。井戸に遅行性の毒を入れ、全員がその井戸水で作った食事を食べるのも確認した。俺たちが奴らのアジトに到着する頃合いに間違いなく死ぬだろう。ただ…」

「またイタチってガキか…」

またそれか。とリンダはパトリックを睨む。

「イタチ も 食事を 食べた」

「だったら問題ないだろうパトリック」

「まぁ、そうなんだけどな…。俺の暗殺者としての勘だ。あいつは相当なタマだぜ」

「たかが5歳のガキだろう…。気にしすぎじゃ…」

「お前たちもレティシアの修行を見ただろう。5歳だろうがガキだろうが警戒するに越したことはない」

リンダの言葉を遮るパトリック。パトリックの眼に油断は微塵もない。

「まぁ毒で死んでいれば当初の作戦通り全員の死亡を確認して終いだ。だか仮にイタチあるいは誰か生き残りがいた場合は最優先で確実に殺す。その後死体を処理してアジトに爆発物のトラップを仕掛ける。帰ってきた連中を爆死させ、運よく逃れた兵士たちを俺たちで殺す。以上がシンプルな今回の作戦の中身だ。質問は?」

リンダとキースが無言で頷く。

 

「ではファロットの誇りを持って、愚かなる敵に突然の死を…」

 

パトリックが宣言すると、3人は夜の闇と同化して走り出す。

恐ろしいスピードで駆ける3人だったが、アジトまで500メートルといったところで足が止まる。

(やはりこうなったか…)

ある意味パトリックの予想通り、3人の前に立ちはだかったのはうちはイタチだった。

 

(この男…先日カールとの手合せの後話しかけてきた奴か…)

特に構えもしないでいるイタチに、相手の一人が持っている銃から銃弾が撃ち込まれる。

イタチは全く慌てずにナイフでその銃弾を弾く。

 

銃を撃った本人であるリンダは驚いていた。ファロットも銃弾をよけたり弾いたりすることは出来るが、5歳の頃から出来るわけではない。

ファロットでは18歳までに殺しの技術と思想を叩きこまれる。銃弾を弾けるようになるのは速くて15歳ぐらいである。

(やはりパトリックが正しかった…。ナメてるとヤバい…。本気で殺す!)

リンダは銃をホルスターに戻し、短刀を右手に構え、イタチに向かって突進した。

イタチまで後数メートルというところでパトリックの口笛が響く。

「…っ」

口笛が聞こえると同時にリンダは攻撃を中断し後ろに跳躍した。

パトリックは短刀を抜刀しながらもう一度口笛を吹く。するとキースも片手に短刀を構え、3人はイタチを取り囲んだ。

 

(やはり素人ではないな…。それに…)

一人で攻撃しようとしていた女を口笛で止め、フォーメーションを組んで攻撃してくる手際にイタチは警戒を強める。さらに…

(チャクラ刀…。全員チャクラを使えるのか…?)

恐らくリーダーであろう口笛の男パトリックに注意を向けた瞬間、死角にいたキースがイタチに銃弾を撃ち込む。

それを避け、イタチがキースに視線を向けた瞬間、パトリックとリンダがイタチに迫る。

パトリックの横なぎの一閃を避けリンダの攻撃をナイフで受ける。瞬間、背後からキースの殺気を感じリンダを後ろに投げ飛ばす。

パトリックの後ろ回し蹴りを避け、短刀の追撃をナイフで受ける。パトリックはニヤリと笑い口に咥えた紐を引く。

(仕込みの銃か…!)

パトリックの腰のあたりからの銃弾を避けると、キースの上からの一閃とリンダの横からの一閃がイタチに同時に襲いかかる。

イタチはキースの手首を蹴り上げ攻撃を止めながらリンダの右腕にナイフを突き刺した。

 

「ぐぅっ…」

リンダは激痛に顔を少し歪めたがそのまま短刀を持った右腕を振りぬく。

その短刀はイタチの足を少しだけ切り裂いた。

仕切り直しとばかりに飛びのいて距離を取るイタチとファロットたち。

イタチは少し切られた自分の足を無言で見つめると、「ボン」という音とともに煙となって姿を消した。

 

イタチとファロットたちの第一戦は、お互い底を見せず、ただの一言も言葉を交わさぬまま終了となった。




設定資料

--

1981年
10月31日
カール・マダックスが傭兵集団『影』を設立

1985年
7月(5歳)
イタチとファロットとの初対決

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魔力=チャクラ
杖を使用した場合ある程度自動で杖がスタミナから魔力を吸い取ってくれる
チャクラはスタミナから手動で練りこむ(ナルト原作通り)

ファロットの魔力運用法はチャクラの使い方と同じ
ただし印の概念がないので忍術を使ったファロットは存在しない
また、忍術という概念もないので、チャクラを練って肉体強化したり武器に魔力を纏わせることを魔法を使うと言っている

ファロットは例外だが
杖を通して術を使った場合→魔法
印を通して術を使った場合→忍術

チャクラを練れる人間は杖を使用して魔法も使える
魔法を使える人間は忍術を理論上使える。ただしスタミナからチャクラを練ることは相当難しい

物語の構成上、神樹と十尾の設定は無しとする



ファロットの名前と設定は借りただけで転生者はおりません
というかイタチ以外、「転生者」は出しません

主要キャラクターの名前は様々な作品から借りております
良ければ当ててみてください

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