“赤”のセイバーと“黒”のアサシンの戦いは、アサシンの牽制をセイバーが弾き、セイバーの斬撃をアサシンが距離を取ってかわすという一連の流れに終始していた。
アサシンはセイバーに近接戦で勝てないことを理解していたし、何よりもセイバーの重装甲がアサシンの攻撃の一切を弾き返してしまう。
それに鎧も厄介だが、その内側――――すなわち、セイバーの肉体自体も、かなりの耐久力があるようだ。猪突猛進な攻め方は合理性を欠いているようでいて非常に理にかなったものであり、アサシンは隙を作るためにナイフを投じるも、蚊に刺された程度のダメージも与えられない。
それでも、アサシンがセイバーと戦えているのは、セイバーが常に獅子劫を背に庇わねばならない位置にアサシン自身がいるからだ。
彼女の攻撃をかわせば、獅子劫にナイフが届いてしまう。
よって、セイバーは獅子劫との位置関係を常に意識せざるを得ず、アサシンを問答無用で斬り殺すことができないでいた。
「ちまちまちまちまと面倒なことばかりしやがってッ。ビビッてんのか!?」
「ビビッてる? そんなことないよ。実力差を正しく把握して戦うのはじゅーよーな戦術でしょ」
舌足らずな言葉回しで、アサシンは嘯く。
コイツ、とセイバーは内心で舌打ちをする。
このアサシンは頭が回る。
セイバーが敵を正面から打ち砕き、喰らい尽くす虎だとすれば、アサシンは、罠を張り、弱所を探り、確実に敵の息の根を止める蜘蛛だ。
まともにセイバーとぶつかる愚を避け、セイバーの唯一の弱所であるマスターを常に狙える位置を取ろうとしている。
虎だろうがライオンだろうが関係ない。サーヴァントであれば等しく致命的な弱所を抱えている。マスターは人間で、マスター失くしてはサーヴァントはこの世にいられない。そして、強大なサーヴァントほど、マスターの不在は早く強烈に影響する。マスターはサーヴァントにとって露出した心臓に等しい。非力なアサシンでも、マスターを狙えば聖杯大戦を勝ち残ることは十分にできるのである。
アサシンはセイバーの剣が威力を発揮する圏内に入ることを避け続け、獅子劫を射線上に捉える形でナイフを投げる。セイバーは否応なく、足を止め、剣と身体で獅子劫を庇わねばならなかった。
これが、真っ当な英霊であれば、このような手は使わない。
英雄の誇りがそれをさせないからだ。だが、このアサシンに誇りなどという高尚なものはない。純粋な殺人鬼であるアサシンは、相手の隙を突き、弱所を突き、勝利のために手を汚す。そこに抵抗を覚えることはなく、セイバーが抱く英雄の誇りすらも使えると思えば利用する狡猾さを持っている。
「わたしたちの霧の中でそんなに動けるんだ。すごいね」
「ぬかせ、アサシン」
アサシンが蜘蛛ならば、この霧は蜘蛛の巣だ。獲物を捕食するための小道具であり、アサシンが十全の力を発揮するための土俵である。
霧に隠れたアサシンは姿が捉えられず、声も反響して位置が割り出せない。時間をかければ獅子劫が霧にやられてしまうということもある。
おまけに、この霧にアサシンの『気配遮断』のスキルが加わって、アサシンの居場所がますます分からなくなっている。通常の『気配遮断』は攻撃行動に出ると大幅にランクが落ちて、位置を特定できるのだが、霧に隠れたアサシンは常に気配を絶っている。
セイバーは憎憎しげに、鎧を鳴らした。
「ああ、そうか。あなた女の人だ」
どこからか聞こえた声に、セイバーは歯軋りする。
「だったらなんだってんだ?」
「だったら、ね」
その時、セイバーの総身を駆け抜けた感覚は、悪寒と形容するのも生ぬるいものだった。まるでナメクジが背筋を這うような不快感。『直感』が警鐘を鳴らしているのだ。一瞬を読み間違えば、そのまま死に直結すると。
つまりは、宝具か。アサシンの言葉からセイバーは自身に致命的な何かを読み取った。
「ハッ。だから、舐めんなよ、殺人鬼」
しかし、セイバーは怖気づくことなく言い放つ。
致命的? それがどうした。その程度のことなら、生前にいくらでも経験してきた。ガウェインを討ち、アーサー王と半ば相打って、ブリテンの栄華を終わらせたモードレッドが、今さらこんな小さな暗殺者に殺されるなど、天地がひっくり返ってもありえない。
「赤雷よ」
セイバーの全身から鮮血のような雷撃が溢れ出す。
霧が邪魔なら吹き飛ばせばいい。
まさに雲散霧消。黄ばんだ霧は、セイバーの赤が塗り潰し、夜闇に散った。
残ったのは、セイバーの前にぺたんと座り込むアサシンだけだ。
「終わりだな、アサシン」
「やだよ。まだ、お腹空いてるもん」
駄駄を捏ねるように、アサシンは肉斬り包丁を構える。セイバーは上等、と剣を突きつけた。
霧が晴れたことで、セイバーを苛んでいた悪寒も消えた。どうやら、霧の中にいるのがまずかったらしい。万全の状態に戻ったセイバーにはアサシンを一撃で斬り殺す自信があった。
距離を取った獅子劫は物陰に身を隠し、広範囲に人払いの結界を敷いた。大都会のメインストリートでも、人気を絶たせるほどの強い人払いだ。建造物への被害を考えなければ、思い切りぶつかることができる。
「んじゃ、終わりだステーキ」
適度に警戒しつつ、セイバーは一気呵成に攻め込んだ。
アサシンが再び霧を構築する前に、有利な状況で打ち倒しておこうと考えるのは当然のことだ。もともと、セイバーはこそこそと策を練るのは好きではない。目の前に敵がいるのなら、叩き潰す。単純明快な戦術が好みである。
一方のアサシンは、もはや逃げることは許されず、セイバーをなんとしてでも乗り越えなければならない。この戦いが敗北必至だというのはさすがに理解していたし、生き残るためにはセイバーを倒すまでは行かなくとも撤退する隙を作り出すことが必要だと分かっていた。
故に、アサシンはセイバーに全力で挑まなければならない。そうでなければ、アサシンはセイバーに傷一つつけることはできないのだから。
狙うは唯一刃が通りそうな首。鎧と兜の隙間から、刃を滑り込ませるしかない。
幸い、アサシンにはその技量がある。セイバーの剣を潜り抜け、ナイフを振るう。
そのための加速を得るために、アサシンもまた前に出る。高い敏捷性を駆使した走り出しは、それだけで陸上の世界記録保持者を追い抜くことができるほどだ。
人間にとっては一瞬、しかし当事者にとっては無限とも思える刹那の時間。
敵の状態、位置、能力、現状、あらゆる要素を感覚で把握し、計算し、セイバーは勝利を確信する。一秒もかからず目の前の殺人鬼の首を刎ねることができる。――――しかし、それと時を同じくして、セイバーは己の死を自覚した。
アサシン、ではない。
別の誰かが、遠距離からセイバーを狙っている。考えられるとすれば、投擲か狙撃。ランサーかアーチャーだ。
セイバーはアサシンを無視して身体を捻る。『魔力放出』で急激に進路を変える。無理な挙動で身体が芯から悲鳴を上げるが、気力でねじ伏せる。
アサシンは『魔力放出』の煽りを食らってひっくり返る。
ちょうどその時、そのままではセイバーとアサシンが激突したであろう箇所に一振りの剣が突き立ち、炸裂した。
■
射った
「どうですか?」
「失敗したようだ。さすがにセイバー。勘が鋭い。直前で、回避を選択したようだ」
「アサシンのほうは?」
「そちらも仕留め損ねた。セイバーの『魔力放出』が彼女を押し戻してしまったようだ」
アーチャーとフィオレは、“赤”のセイバーと“黒”のアサシンとの戦いを、高所から俯瞰していた。シギショアラの名所の一つである時計塔は高さ六十四メートルを誇り、四方を見渡すことができる位置にある。アーチャーとフィオレの二人は、この時計塔の尖塔の上に立っているのだ。
アーチャーの報告を受けてもフィオレは特に非難することはなかった。もともと、サーヴァントをこれだけで倒せるとは思っていない。倒せれば僥倖。そうでなくても手傷くらいはと期待していただけである。
尖塔の上を吹き渡る風は強い。常人ならば、バランスを崩して地に落ちる。サーヴァントであるアーチャーがこの環境を物ともしないのは当然として、フィオレはどうだろうか。
彼女は先天的に足が動かない。ここには車椅子が入る余地もなく、本来ならばフィオレがこの場にいるということがありえない。
しかし、それは常のフィオレであればだ。今のフィオレは戦いに臨む魔術師としてのフィオレだ。彼女の車椅子は時計塔の下の階に置いてきている。その代わり、彼女の手足となるのは
「アサシンは撤退を決めたようだな。どうする」
「では、当初の予定通り、“赤”のセイバーとの戦いに移行しましょう。わたしは獅子劫界離の相手をしますので、あなたはセイバーを」
「了解した、マスター」
アーチャーは弓に矢を番えてセイバーを見る。七つあるクラスの中で最も視力がいいアーチャーは、ここからでもセイバーの顔を視認できる。
どういうわけか、セイバーは兜を外していた。露になった顔は怒気を孕み、溢れる魔力が赤雷となって身体から漏れ出ている。
「……ッ」
僅かに、アーチャーが動揺したのをフィオレは感じ取った。
「どうしましたか?」
「いや、なんでもない」
「そうですか」
また何か隠している。そんな気がしてフィオレはムッとする。だが、それは今追及するべきではない。後々尋ねればいいだけのこと。今は、目の前の戦いに集中しなければならない。
「では、御武運を、アーチャー」
「そちらもな」
そう言って、フィオレは時計塔を辞した。“赤”のセイバーを迂回して、獅子劫界離に向かう。
フィオレを見送ってから、セイバーを睨む。どうやら、向こうもこちらと戦う気が満々なようだ。
「まさか、君と戦うことになろうとはな」
アーチャーの言葉は誰に届くこともなく風に流れていく。
彼の顔に浮かんでいるのは戸惑いと憂い。
アーチャーは“赤”のセイバーの真名を知っている。忘れることなどできない。
戦い方、言動。過去に対峙した時のそれから考えれば、同一人物ということはありえない。ならば、彼女と同じ顔を持つあのサーヴァントの正体は一つに絞られる。
セイバーは自分の真名を秘匿するスキルか宝具を持っているようだが、アーチャーの記憶にまでは干渉できなかったようだ。不用意に素顔を曝したのは失敗だったということだ。
■
“赤”のセイバーはマスターである獅子劫界離が呆れるくらいにあからさまに不機嫌だった。
怒り心頭といった様子で時計塔のほうを睨みつけている。
「おい、マスター。また、あのアーチャーだぞ」
「ああ。まさか連中もここに来ていたとはな。どうする?」
「当然、ぶっ殺す。食い物の恨みは恐ろしいってことを、骨身に教え込んでやらあ」
「ダメだっつっても聞かないんだろう。いいぞ、思う存分やっちまえ」
「よっしゃあッ!」
ドン、とセイバーは地面を踏みしめ、アーチャーの下へまっしぐらに駆けて行く。弓兵相手に正面から挑むのは愚策と言う外なく、あのアーチャーにはかつて一度痛い目にあわされている。それでも、セイバーはアーチャーに挑みかかる。
そして、獅子劫もまた戦いの気配を感じ取っていた。
おそらくはアーチャーのマスター。セイバーをアーチャーが引き付けている間に、自分を討とうという腹だろう。
とするとこのマスターは“黒”のマスターの中でも実力者であるフィオレ・フォルヴェッジ・ユグドミレニアと当たりを付けることができる。ダーニックはおそらくはランサーのマスターであろうし、ゴルドはすでにセイバーのマスターだということが判明している。残りのメンバーもゴーレム使いのキャスターのマスターが同じくゴーレム使いのロシェであると予想するのは当たり前のことで、そうなると残りの“黒”のマスターで直接前線に赴いて戦いそうな魔術師はフィオレ以外にいない。
「やだねえ、まったく」
魔術師ならば情を排して戦うのは当然のこと。しかし、それでも歳若い少女と戦うというのは好ましいものと思えなかった。
“黒”のアーチャーが驚異的な能力の持ち主だということは、“赤”のセイバーとて熟知している。
セイバーの初戦の相手がアーチャーであり、その際に対軍宝具並の矢と鉄壁の守りを実現する双剣術を披露して見せた。
その戦いは終始セイバーがアーチャーの手の平の上で踊らされるという展開になってしまい、最後まで決着をつけることができなかったということも相まって、今思い返しても腹が立つ思いだ。
夜闇を割き、矢が襲い掛かってくる。
これは、以前見た剣のような矢と異なり、通常の矢である。しかし、それは見た目だけ。威力は鉄板を易々と貫き、地面を掘り返すほどである。無論、そんなものはセイバーの分厚い装甲を前にしては豆鉄砲も同然である。
矢の威力は、セイバーの鎧の薄い部分であれば貫通。胸部などの重装甲の部分では確実に防げるといったところか。速度は軽く音速以上。連射速度は秒間五矢以上。正確性は折紙つき。――――だが、それだけだ。
「俺を射殺したければトリスタン以上でなければ無理だぞ、アーチャー」
そう嘯きながら、セイバーは剣を振るい、ジグザグに走って矢をかわしていく。普通ならば、この時点で蜂の巣になっているはずだが、最優のサーヴァントの誉れ高いセイバーには大した脅威にもならない。
もっとも、アーチャーの弓の技量がトリスタンに及ばないということはないだろう。
どこの英霊か分からないが、セイバーの知るなかで最高の弓の使い手に匹敵する怪物だということは正しく理解している。セイバーは自信家だが、敵の技量を低く見積もる愚者ではないのだ。
セイバーを近寄らせまいと、放たれる矢。殺す気がないのなら、どれほどの無謬の技であっても恐ろしくはない。
「舐めてんのか、アーチャー……!」
殺意のなさに苛立ちが募る。
だが、次の瞬間にそれがまやかしであると悟った。
不意に矢が途絶えた。
一拍の後に、いぶかしむセイバーの視界を無数の剣が覆い尽くした。
「なんだそりゃッ!?」
思わず叫ぶ。
数え切れないほどの剣が空から切先を下にして落ちて来る。
アーチャーの矢に力が篭っていなかったのは、こちらに力を割いていたからか。
それはまさに剣の雨。鋼色の龍の顎だ。
「ッ……やべえッ」
セイバーの顔に危機感が浮かぶ。
剣は矢よりも重い。
その単純な理が、セイバーの鎧を貫けるか否かを別つ。
それに加えて、このアーチャーの剣は爆発する。
それを知っているからこそ、セイバーは剣の雨から距離を取ろうとする。だが、左右は建物に塞がれていて逃れられない。
判断は一瞬。
「オオォッ!!」
セイバーは両手で大剣の柄を握り、一閃した。
紅き雷光が、豪風となって剣雨を迎え撃つ。
輝かしい破壊の閃光が、シギショアラの夜闇を払った。
広がる爆炎は、純粋な魔力の塊だ。
宝具ではないただの剣でも、数百からなる剣を同時に爆破すればそれなりの威力にはなる。
しかし、“赤”のセイバーを仕留めるにはやはり足りない。
閃光の中から無傷で生還を果たしたセイバーは、今度は自分の番だとでも言うように、猛烈な加速で以て時計塔に接近する。
アーチャーが大技に力を消費したこの瞬間を狙い済ましたかのように、赤雷の粉を振り撒いて爆発的に加速する。『魔力放出』を加速に用いているのだが、その加速力は今までの比ではない。兜を外したことで、そこに消費していた魔力を加速に流用したのである。
瞬く間にセイバーはアーチャーの足元にまで辿り着いた。
残るは時計塔の六十四メートルを走破するだけ。階段を使うなどという常識的な手段は取らない。必要な歩数は十二歩。よじ登るのではなく二本の足で駆け上る。セイバーは勢いのままに時計塔の外壁を駆ける。さながらミサイルのようだ。
そして、アーチャーは
セイバーの目に、アーチャーの笑みが映ることはなかった。
なぜならば、セイバーの眼前には巨大な壁が立ちはだかっていたからだ。
「んなッ!?」
突然現れた壁の正体は、人をすっぽりと覆い隠せるほどに大きな円形の楯だ。
血のように赤い半透明な楯は、そこに込められた魔力から宝具の類だとすぐに察せられる。
「ぐ……ッ!」
そして、セイバーは楯に激突した。さすがに宝具にまで昇華した楯を体当たりでぶち抜くことはできない。勢いを削がれたセイバーは、そのまま重力に引かれて地面に向かって墜ちていく。
『
アーチャーが持つ防御系宝具の中でも最硬の楯である。
今回は七枚ではなく、敢えて不完全な四枚の楯に抑えた。
理由は一つ。
完全な『
セイバーが時計塔を駆け上ってくるというのは、当たり前のように知っていた。かつて、似たような光景を目の当たりにしていたからだ。
それに、このセイバーの性格なら勢いのままに行動するだろうとも思っていた。
アーチャーは弓に捻れた剣を番える。
楯が消え、視界が広がったセイバーは、それを見て背筋を凍りつかせた。
――――あれはまずい。
今までの矢の比ではない。桁外れの魔力。総身を駆け抜ける悪寒は、形振り構わず回避せよと命じてくる。
足場を失った今、セイバーにできるのは『魔力放出』による瞬間加速だけだ。
「ではな、モードレッド」
「な……」
アーチャーの呟きを、セイバーの耳が確かに捉えた。
サーヴァントの常軌を逸した知覚力が、仇になった形だ。
なぜ、ヤツがオレの真名を知っている?
その僅かな驚愕が、セイバーに回避に必要な時間を消費させた。
チクショウ、と毒づきたい気持ちを抑えて、セイバーは生き残るために最後の手段に打って出る。
半ば、身体が勝手に動いたといっても過言ではない。
メキメキと音を立てて、セイバーの大剣が形を変える。変化は一瞬。輝かしい剣は禍々しい魔剣へと変貌した。
そして、互いの殺気が限界まで到達する。
空間すらも歪める魔力の激突の中で、
「
アーチャーが矢を解き放ち、
「
ほぼ同時に、セイバーが宝具を解放した。
凄まじい威力だ。
アーチャーはセイバーの宝具を間近に見て冷や汗をかいた。
追い詰めておきながら、最後の最後で危うくアーチャーは蒸発させられるところだった。
時計塔は崩落。
瓦礫をブーツで踏み鳴らし、アーチャーは目前のセイバーと向かい合った。
「アーチャー……ッ」
セイバーが怒るのも無理はない。
敬愛し、憎む彼女の父の名を持つ宝具を回避のために使用させられたのだから。アーチャーとしても、まさか空中で宝具の真名解放を行うとは思っていなかった。
その剣を開放される直前、アーチャーは剣の解析に成功した。それは、セイバーの『
セイバーを射抜くはずの『
宝具のランクはA+。『
それでも、アーチャーの片手に火傷を負わせるまでに至ったのだから、直撃を食らえば死ぬ以外にない。
膝をつき、剣を支えにするセイバーからアーチャーは距離を取った。
今のセイバーは手負いの獅子。おまけに宝具を無駄打ちさせられて怒り狂っている。こちらも負傷している上にここは平地。セイバーの土俵である。
セイバーの真名も把握したことだし、ここで撤退しても問題はないだろう。
そう思って、アーチャーはフィオレに撤退の意思を伝えた。