“黒”の紅茶《完結》   作:山中 一

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十二話

「ホーエンハイム君。食器洗いをお願いできますか? わたしは買い物に出かけないといけないので」

「了解した。すぐに取り掛かる」

 ルーラーが教会にホムンクルスを連れて来たとき、さすがにアルマは驚いていた。しかし、彼が身寄りがなく、病弱で困っているという話を聞き、しばらくの間逗留することを認めてくれたのである。

 その際、彼はホーエンハイムという名を名乗った。

 特に意味があるわけではないが、ホーエンハイムと言えば世界最大の錬金術師の一人である。彼の肉体を形作る錬金術は千年間外界から隔絶した環境に身を浸していたアインツベルン式の錬金術であるため、ホーエンハイムの系譜を引くわけではないが、それでも偉大な錬金術師の名を名乗ることになったのは不思議な感じがした。

 つい先日まで、生命とも認められていなかっただけに、一個の名を持つことができるというのは新鮮だった。

 ホーエンハイムは、ルーラーと共に教会に寝起きし、アルマに労働を提供することで宿代としていた。

「ほむ君。あまり無理をしてはいけませんよ。その短剣のお陰で、体力面でも筋力面でも一般人と変わらず活動できるとはいっても、身体の頑丈さまで補われているわけではないのですからね」

「ああ、分かっている」

 ホムンクルスの脆弱な肉体は、本来であれば僅かな肉体労働にも耐えうるものではない。彼の筋力は、外見年齢よりもずっと貧弱で、労働力としては疑問符がつく程度のものだ。だが、それも治癒の短剣の効力でどうにか誤魔化せる。

 傷ついた筋肉がその都度修復されることで、実は急速に筋力が上がっている。その上、生来の一級品の魔術回路が、万全とはいかないまでも行使できる。これまでは身体が魔術の行使についてこなかったのだが、短剣が持つ治癒魔術の効果は肉体の損傷全般に行き渡っているようで、魔術による自傷にも効果が発揮されている。

「俺の身体の構造は基本的に人間と同じだ。こうして活動していれば、自然と体力がつくだろう」

「そうですか。それはよかったです」

 それでも、寿命のほうは如何ともしがたい。

 人工生命体であり、彼自身も優れた錬金術師だからこそ分かる。治癒術によって肉体の損傷が抑えられていても、多少延命できる程度でしかない。三年から五年が限度か。十年は期待できない。

 ホーエンハイムが洗う食器は三人分。洗い終わるのに十分とかからない。アルマが戻ってくるまで、次に手伝うこともなく、ホーエンハイムは暇な時間を過ごすことになる。

「ほむ君。あなたはこれからどうするのですか?」

 唐突に、ルーラーが尋ねてきた。

「これまでは、まだあそこから逃げ出してきたばかりということで、尋ねませんでしたが自由になったあなたはこれからどのように生きていこうと考えていますか?」

「どう生きるか、か……」

 ホーエンハイムは俯きつつ思考する。それから、首を振った。

「いや、どうにも想像ができない。不思議なものだ。城砦にいたときは、あれほど死にたくない、生きていたいと思っていたのに、いざその環境に身を浸すと、途端にどう生きていけばいいか分からないとは」

「それも、一つの発見ですね。その環境に飛び込まなければ分からないこともあります。今までのあなたは『生きる』ということのみを目指していました。言ってみれば、それが目標だったわけです。しかし、今のあなたはその目標を達成してしまいました。これからは、『どのように生きるのか』という新たな目標を設定する必要があると思います」

「生きる目標か」

「ようするに夢です。やってみたいこととか、何でもいいですよ。身近なところからで構いません」

「そうか。すべて、自分で決めていかなければならないのか。自由とは、なかなか不自由なものだな」

 そう言うホーエンハイムの顔にはこれといって不自由している様子は見られない。ただ、先のことを考えて悩んでいるという風ではある。

「難しいな。これが所謂自由の刑というものか」

「じゆうのけい?」

 ルーラーは知らぬ言葉を聞いて首を傾げる。

「サルトルという思想家の言葉だ」

 単なる自由は方向性が定まっておらず、自分で進む先を決めていかなければならないために、苦痛を伴う。自由は言葉にすれば良いものだが、実際にその状態になるとそれはそれで大変だということである。

「俺の人生だから、俺の責任で決めなければならないか」

「そうですね。ですが、そこまで思いつめる必要はないですよ。ほむ君は生まれたばかりなんですから、もっと頼れる大人を頼っていいんですよ。難しい問題ですから、無理に自己解決を図る必要はないんです」

 そう言って、ルーラーはぐ、と親指を立てて自分を指差す。

「なるほど、では後でアルマ殿に相談することにしよう」

「あらら?」

 姉貴分を自負するルーラーはスルーされて少し落ち込んだ。

 

 

 

 □

 

 

 

 二度の小競り合いの中で、カウレスができたことは一つもない。

 カウレスは自分が一流に届かない程度のスペックしか持っていないことは百も承知であるし、本来ならば令呪が宿ることもないと思える程度の実力しかない魔術師だと正しく認識している。そうした中で、通常の二倍は魔力を消費するというバーサーカーを選んだのは、それ以外に選択肢がなかったということが大きい。

 一級のサーヴァントは端から使役できるはずがないと諦めていた。低級のサーヴァントでも狂化によってパラメータを上げることでそれを補える。カウレスに要求されるのは、どちらにしてもバーサーカー以外にはなかった。

 これが通常の聖杯戦争ならば、カウレスは真っ先に脱落していただろう。

 しかし、この聖杯大戦はそうでもない。

 まず、強力な仲間がいる。それに、加えて彼が召喚したバーサーカー(フランケンシュタイン)は、パラメータこそ低いものの、特筆すべきはその宝具の性質である。

 『乙女の貞節(ブライダル・チェスト)』は、攻撃能力こそないものの、大気中の余剰魔力を吸収し、再利用する能力がある。これにより、バーサーカーの消費魔力は実質ゼロとなった。ホムンクルスを生贄にすることで宝具発動の魔力を得ることもできているので、実際にカウレスがマスターとしてすることは、ただ生きていることだけであった。

 さすがに、カウレスが死んでしまえば、バーサーカーをこの世に繋ぎとめておく楔がなくなってしまい、無制限に魔力を得ることができる彼女でも消えてしまう。

 カウレスには戦闘の心得がないし、頭が回るわけでもない。理性のないバーサーカーは戦場にあってはただ敵を屠るだけの兵器になってしまうので、指示自体に意味がそれほどない。

 正直、自分は必要ないだろうと思う今日この頃だった。

 

 

 聞き慣れた車椅子の音にカウレスは伏していた視線を上げた。

「姉さん?」

 現れたのはフィオレとアーチャーだった。

 そして、フィオレの装いを見て、カウレスは表情を変える。

 サーヴァントに車椅子を押させていることに問題があるわけではない。アーチャーは正体不明ながら優秀なサーヴァントで、そんな人物に執事の真似事をさせているのがカウレスとしては信じがたいことであるが、フィオレとアーチャーの関係は単なる主従というよりも友人のそれに近いと思っている。おそらく、この陣営の中でもとりわけ良好な関係を築けている。ならば、そのアーチャーがフィオレの世話をすること自体が間違いとは思わない。

 ここで、カウレスが目ざとく見つけたのは、フィオレの膝の上に乗っているスーツケースだ。

「そんな物騒なものを持って、どこかにいくの?」

 フィオレのスーツケースには、彼女だけの礼装が入っている。一流の魔術師ですら容易く葬る、フィオレの切り札である。それを持ち出すということは、何かしらよからぬ事態が進行しており、彼女がそれに対処する必要性に追われたと考えられるのだ。

 案の定、フィオレは頷いた。

「これから、アサシンとそのマスターにコンタクトを取りに行きます」

「コンタクト? それにしては物騒じゃないか」

 フィオレの言うアサシンは、今まで合流していなかったサーヴァントだ。真っ当に考えれば、こちら側のはずなので、わざわざ武装して出迎えるというのは、おかしい気もする。

 そんなカウレスに、フィオレは嘆息する。

「カウレス。パソコンもいいけど、地元の新聞もきちんと読みなさい」

「はいはい、分かったよ」

 いい加減な生返事をするカウレスに、フィオレは眉を吊り上げかける。

「フィオレの言うとおりだ、カウレス。特に、昨今の若者の活字離れは深刻だというからな。新聞を活用する教育も行われているというし、あれに目を通すのは、悪いことではない」

「だから、お前はいつの時代の人間だよ」

 アーチャーの言葉に、カウレスは言い返す。パソコンの次は新聞か。このアーチャー、現代に溶け込みすぎである。

 そうしたやり取りを見て、フィオレは思わず失笑してしまった。

「何がおかしいんだ? 姉さん」

「ごめんなさい、つい……」

 いぶかしむカウレスに答えぬまま、アーチャーがフィオレの車椅子を押す。問答はここまでと言外に告げている。

「それじゃあね、カウレス。留守番よろしくね」

 最後に、フィオレはそう言い残してアーチャーと共に去っていった。

 姉とそのサーヴァントを見送った直後、カウレスの服の裾をバーサーカーが引っ張った。

「なんだ、もしかして怒ってるのか?」

 バーサーカーは唸りながら頷いた。

 カウレスは首を傾げる。今の会話にバーサーカーが憤るところがあっただろうか。問いかけても、言語能力を失った彼女から明瞭な答えがあるわけではない。

「まさか、姉さんのことか?」

「ヴヴ……」

 どうやら、そのようだ。

 このバーサーカーは、狂化のランクが低いために、言語能力を失うことと、高次の思考に耐えられなくなっているが、話に聞く他の聖杯戦争でのバーサーカーのデメリットを持っていない。

 暴走の可能性は低く、カウレスが魔力を枯渇することもない。彼女自身、感情を失っておらず、幼児レベルの思考くらいは維持している。

 会話できずとも、YesとNoでやり取りをすることができるので、意思疎通に不便はあっても不可能ではない。

 カウレスが自室に戻ったときには、すでにバーサーカーの意図がある程度理解できていた。

 カウレスはイスに逆向きに座って、背凭れに顎を乗せた。

「要するに、お前はいつか敵になるかもしれない姉さんと俺が仲良くするのが気に入らないのか」

 こくん、とバーサーカーは肯定する。

 今でこそ、“赤”という共通の敵がいるが、それを倒せば、次は聖杯を独占するための熾烈な内部分裂が始まる。

「そうは言っても、あの姉さんだからなあ……」

 カウレスが仮にフィオレとぶつかった場合、勝利できるかというと、まず無理だ。一流の魔術師を始末できる姉と一流に届かないレベルの魔術師である弟。真正面から対峙して戦えるはずがない。

「それに、あのアーチャーは謎過ぎる。そうだろ?」

「ヴゥ……」

 バーサーカーにとってはアーチャーの真名などどうでもいい。そもそも、真名から対策を練るという思考に彼女は耐えられない。だが、それでも、理性がないからこそ鋭敏になる野生の勘はアーチャーの宝具の危険性を感じ取っていた。無数の宝具を扱うサーヴァント。敵に回すには危険に過ぎる。もっとも、それは他のサーヴァントを相手にする場合も同じだ。結局、バーサーカーはどのサーヴァントを相手取っても劣勢に回らざるを得ない。

「とにかく、“赤”をなんとかしないことには始まらない。バーサーカー。お前、あのランサーとライダーには近づくなよ」

「ウィィィ」

 最高位のサーヴァントである“赤”のランサーと“赤”のライダーは、バーサーカーの手に余る。特にライダーはこちらのアーチャーでなければ傷一つ付けることができないのだ。そんな相手に挑むのは無謀を通り越してただの蛮勇だ。

 バーサーカーも、一度“赤”のライダーと戦って懲りたのか、これにはあっさりと頷いてくれた。

「新聞か……」

 バーサーカーとの会話が一段落すると、姉の言葉が脳裏を過ぎった。

 一応、この部屋にも新聞は置いてある。カウレスは、それを手にとって適当に流し読みをした。

 そして、新聞を畳むと、バーサーカーに告げる。

「バーサーカー。俺、ちょっと姉さんを助けてくる。お前は、要塞を守っててくれ」

「?」

 意図が掴めないまま、バーサーカーは頷いた。やはり高次の思考ができないからか、疑問を抱いても、深く考えることはしないらしい。

「大丈夫だ。あの姉さんがそうそう後れを取るはずがないし、真っ当な魔術師なら、二対一の状況は避けるだろう」

 希望的観測、とは思わない。

 それは魔術戦でのある種のセオリーだからだ。

 カウレスは直接的な戦闘能力はないが、自分の存在を利用してハッタリを仕掛けることくらいはできる。

 

 カウレスの見た新聞記事。

 そこには、ルーマニア全土を揺るがす大量殺人事件が、センセーショナルに報じられていた。

 

 

 

 □

 

 

 

 獅子劫とセイバーは身を潜めていたトゥリファスを離れてシギショアラにやって来ていた。

 寝床にしていたカタコンベではなく、他人が宿泊していたホテルの一室を暗示で占拠してのことだ。シギショアラは観光地として有名で、小さなホテルのベッドでもそれなりのものを用意していた。カタコンベで安物の寝袋に包まれるという生活を送っていたセイバーは、当然のように嬉々として真っ先にベッドを占拠し、その所有権を主張した。獅子劫はこれがあのモードレッドなのかと疑わしくなったが、二つあるベッドの片方だけの所有権を主張しているだけなので、特に文句を言うこともなく承諾した。

 その結果、獅子劫はセイバーのベッドに腰を下ろすだけで文句を言われることになったが、それもまた特に非難することでもないので、適当に相槌を打って受け流した。

 本格的に二人が行動を始めたのは、その翌日である。

 獅子劫は魔術協会からの指示を受けて、シギショアラの調査に当たることになったのだ。

 なんでも、魔術協会から派遣されているサポート役の魔術師たちと連絡が取れなくなったというのだ。このサポート体制はしっかりとしていて、以前行われた“黒”のセイバーと“赤”のランサーとの死闘も具に観察し、貴重な情報を獅子劫たちに送り届けていた。

 戦地に送られるということで、能力もそれなり以上の魔術師を選抜していたはずなのだ。それが、一斉に連絡を絶った。

 何かあると思った魔術協会は調査を獅子劫に依頼し、こうしてシギショアラにまで出向いているのだが、犯人の目星はここに来る前にすでについていた。

「“黒”のアサシンか。どんなヤツなんだろうな」

 獅子劫はポツリと漏らした。

 現在、獅子劫が確認していない唯一のサーヴァント。それが、“黒”のアサシンだ。魔術師狩りの目的は、魔力補給だろう。獅子劫が確認した遺体は、すべて心臓が綺麗に切り取られていた。この心臓を摂取して、足りない魔力を補っているのだ。

「ハッ、なんにしたって真っ当な英霊じゃねえだろうよ」

 忌々しそうに吐き捨てるセイバーは、“黒”のアサシンの所業に呆れるやら怒るやらで大変そうだ。

 “赤”のサーヴァントはすべて揃っていて、魂食いもしていないというのはシロウ神父から確認が取れている。“黒”の陣営は、アサシン以外はすべてミレニア城砦の中に篭っているので、どう考えてもシギショアラで蛮行をしているのは“黒”のアサシンということになる。

「アサシンの癖にここまで目立つことをしてんのは気になるが……」

「そこまで頭が回らねえ暗殺者ってことだろ。気にすんなマスター。暗殺者程度に遅れは取らねえよ」

「まあ、そうだろうがな」

 気をつけるべきはセイバーではなく、獅子劫なのだ。

 アサシンのクラスはマスターの天敵とされるクラスだ。気配を消して近づいてきて、背後から首を刎ねに来る。総じて戦闘力は低いが、その特性から厄介であることに変わりはない。如何に強力なサーヴァントでも、マスターを失えばそこで終わる。聖杯戦争は、自分だけが生き残ればいいという類ではない。事実、アサシンを召喚したマスターが三日で亜種聖杯戦争を終わらせたという記録も残っているくらいだ。

 それでも、獅子劫がこうして我が身を曝して夜のシギショアラを練り歩いているのは、今の状況下ではほぼ確実に獅子劫を狙ってアサシンが現れるだろうと予測したからである。

「本当に出るのか、マスター?」

「たぶんな。連日連夜の殺人事件で人通りもない。効率よく魔力を得ることができる魔術師はもう全滅状態。今のアサシンはエサに餓えてる」

「はあ、なるほど。つまり、マスターは餓えたアサシンから見ると高級ステーキに見えるってとこか」

「なんだ、食いたいのか」

「何、食えんの?」

「アサシンを獲ったら考えてもいい」

「マジで!?」

 セイバーは兜の奥で目を爛々と輝かせる。

 そして、セイバーは大剣を夜闇に突きつけ叫ぶ。

「来いよ! アサシン! 隠れてないでかかって来い!」

 人気の消えた路地に、セイバーの大音声が響く。

 それから、静寂が戻ってくる。

「……」

「なんだよ」

「いや、元気があるのはいいことだと思ってな」

「……」

 セイバーは何も言わずに剣を降ろした。もしかしたら、調子に乗りすぎたと今さらながらに恥ずかしがっているのだろうか。

 しかし、次の瞬間、セイバーは鎧を揺らして剣を構えた。

「なんだ、どうした」

「悪い、マスター。集中させてくれ」

 セイバーの第六感が警鐘を鳴らしているのだ。

 獅子劫は何も感じない。だが、セイバーには『直感』のスキルがある。彼女が危険を感じているということは、十中八九何かが潜んでいるということだ。獅子劫も、手持ちのショットガンを用意して襲撃に備える。

「霧が出てきたな……」

 獅子劫は呟く。

 遮蔽物のない直線上の路地は、遠くまで見通すことができていた。しかし、今、獅子劫たちを囲むように霧が立ち込めてきたのである。

 あまりにも唐突な霧の発生。自然現象ではありえない。

「ッ――――セイバー。吸うな。毒だ!」

 獅子劫が気付けたのは、対魔力の高いセイバーと異なり、霧の影響をそのまま受けてしまったからだ。

 喉と鼻腔を焼くような痛みが走る。

 獅子劫は魔獣の革から作ったジャケットで口と鼻を守る。ジャケットを通して息を吸うと、僅かにだが呼吸が楽になった。

「まずいな。とにかく、この霧を出るぞ、マスター」

 セイバーは獅子劫の手を引いて走り出した。

 この霧は魔術というよりも宝具に近い。間違いなくアサシンの能力だろう。ただでさえ気配を消すスキルを持っているアサシンが姿を消す宝具を持っているのだ。この霧の内部は、アサシンのテリトリーに相違ない。

 幸い、セイバーが持つ『直感』のスキルは霧による視覚への影響をほとんど無視するレベルに達している。霧の領域をどのように走れば抜けられるか、勘ながら分かっていた。

 正しい道を、最速で駆け抜けたお陰か、霧は次第に晴れてきた。

 脱出に成功したのは確実だ。ならば、この次に備えなければならない。これがサーヴァントによる攻撃である以上は、これだけで終わるわけがないのだ。

「抜けたぞマスター!」

 セイバーの宣言に、獅子劫は大きく息を吸って喘いだ。新鮮な空気を吸い込んで、思考をクリアにする。安堵が胸に広がる瞬間を、狙い済ました斬撃が襲う。

「あ……」

 キン、と甲高い音と共に、地面に斬られたナイフの先端が落ちた。

 獅子劫が振り返ると、そこには少女が立ち尽くしていた。

 すぐ背後だ。セイバーが剣を振り抜かねば、間違いなく獅子劫は殺されていたはずだ。

 これが、“黒”のアサシン。

「斬られちゃった。酷いことするね」

「フン、お前の都合なんぞ知るか」

 セイバーは大剣を構えなおす。相手が小柄な少女であろうと、加減するつもりはない。目の前の敵は、英雄の誇りなど持たない薄汚れた殺人鬼であり、敵のサーヴァント。何よりもマスターを狙ってきた。故に、姿を現した以上、斬り殺さねばならない敵である。

「――――なんにしても、てめえは俺の晩飯だ。高級ステーキだ。さっさと首を置いていけ」

「えー、あなた、変なこと言うね。今日の夕ご飯はあなたたちの心臓でハンバーグなのに」 

 セイバーは素早く腕を振るう。予備動作なく顔面に投げつけられたナイフを籠手で弾き、次の動作でアサシンに斬りかかった。

 それを、アサシンは後方に跳んで避ける。

 敏捷値は相当高い。だが、それだけだ。このアサシンの直接の戦闘能力はセイバーに劣る。ならば、間違いなく攻めれば勝てる。

 そう確信して、セイバーは大剣の切先を眼前のアサシンに向けるのだった。




Cパート♡

 士郎は突然現れた記憶喪失の義妹の扱いに困っていた。手掛かりになるのは、彼女が持っていた一冊の本だけだ。『偽臣の書』と題されたそれを開いてみても、見たことない文字が並んでいるだけで解読はできそうにない。
 ため息をつきつつ、士郎は本を閉じた。このとき、彼は予想だにしていなかった。この出会いが、彼の運命を大きく変えることになるなどということは。

「英霊同士の戦いだって?」
 家に押しかけてきた金髪ドリルが大仰に説明する。
「そうですわ。戦いの名は聖杯戦争。あなたは千年に一度の、英霊の座の王を決める戦いに巻き込まれたんですの」
 青い本を手に、彼女は宣言する。
「本を渡してくださいまし、シェロ。あなたを傷付けたくはありません」
 戦いは加速していく。
 士郎とイリヤはたくさんの敵と戦い、たくさんの仲間を得る。

 迫り来る強敵たち。
「王の威光を股間の紳士に!」
「チャーグル!」
 黄金の敵の股間が黄金に輝く!
「フィオレE.O.のE.O.はE.O.(イスに代わっておしおきよ)のE.O.ですよ!!」
 特に理由のない暴力がアーチャーを襲う!
「イリヤスフィール。座に戻ってくるときは、メロンの種を持ってきてください」
 清廉な騎士は、イリヤにそう言い残して消える。
「ディルムッド様だわ」
「ディルムッド様よ」
「ハハハ、ラガッツァ&バンビーナちゃんたち、そんなに慌てて、いったいどうしたんだい?」
「そんなことより、わたしのおっぱいもいでみて」
「いいのか~い?」
 

「わたしたちのママが今の座の女王なの」
 イリヤと同じ顔をした敵の正体とは!?
「戦うよ、お兄ちゃん!」
「おう!」
 イリヤは激闘を駆け抜ける。
「わたしは優しい女王様になるんだからーーーーーーーー!!」
「第一の術、フォイア!」
 
 

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