機動戦士ガンダム U.C. HARD GRAPH 名も無き新米士官の軌跡 作:きゅっぱち
いやー、長かった。
最近ガンダムがユニコーン、ビルドファイターズトライ、レコンキスタと盛り上がっているので、もっと広まればいいですねぇ。
それはともかく!!中尉は、生き延びることが出来るか?
走る。足があるから。
見る。目があるから。
叫ぶ。喉があるから。
聞く。耳があるから。
戦う。生きているから。
生きて、いるから。
U.C. 0079 9.2
突風が吹き荒び、林を揺さぶる。
風が渦を巻き、泥と木の葉を巻き込みながら空へと上がっていく。
土砂降りの雨は大地を叩き、削り、小さな土石流となって足元を流れて行く。
暗く湿り、濁った空気の中、"ジムヘッド"のセンサーが鈍い光を放ち揺れる。
「…軍曹、聞こえているか?」
コンソールを叩きスクリーンの映像方式を変更しつつ、中尉がモニターから目を逸らさず言う。
あらゆるセンサー・レーダー能力が低下した今、この土砂降りの中でありながら目視での索敵だけが頼り、という最悪なコンディションだ。
そのため中尉は、モードを変更し、カメラだけでなく各種センサーを併用した3D画像から、カメラのみのリアル画像をスクリーンに投影する事で、少しでも変調を見つけ、先制攻撃を仕掛けようと考えていたのだ。
《こちらブレイヴ02。感度良好…何だ……?》
軍曹機の"陸戦型GM"は中尉機に寄り添い、油断無く周囲を伺っている。武装は限界が近い"100mmマシンガン"とシールド、それに一本の"ビームサーベル"。それだけだ。
しかし、それは中尉の"ジムヘッド"も似たり寄ったりである。粒子収束フィルターの摩耗から"ビームサーベル"も各機一本ずつしか装備していない。
バズーカと冠する様な武器も全弾弾切れだ。その有様たるや、ただ一個のグレネードすらないのだ。
まだ関節部アクチュエーター、フレーム、電装系を初めとする内装にはガタは来てはいないものの、それもニコイチの結果だ。予備パーツはもうない。
つまり、現在"ブレイヴ・ストライクス"は満足に戦う力が殆ど残されていないに等しい。敵戦力は未だ全容を把握出来ておらず不明であり、こちらのアドバンテージであった高度な電子戦能力も殆どが沈黙している。
厳しい。あまりにも厳しすぎる。
「こちらの戦力はあまりにも少ない。戦闘が長引くとどんどん不利になる。
………短期決戦を狙い、スラスタージャンプを併用した高速戦闘を展開するぞ」
視界は悪い。グレイズ・シールドの外周の高圧洗浄ノズルが作動し、シールド一体型の高周波ワイパーも全力で稼働中である。それでもなおこの暴風雨は雨を叩きつけてくる。
仕方なく中尉はセンサー類を再起動させる。この高いミノフスキー粒子下では、どれほどの役に立つかもわからないが……。
《それしかない、か………》
「そうだろう……?よし、このまま全速力で前進、25秒後、約8秒のスラスター噴射を行いかえる跳びだ。そして一気に強襲、殲滅する」
《ブレイヴ02了解……往こう、中尉……》
本当に、今出来るのはこれだけだった。基地の迎撃設備は沈黙している上、仮に起動していようとMS相手には荷が重い。十分な武装も無く待ち伏せも不可能とあらば、この特攻に近い突撃しかない。
《CPより各機へ!12時方向より識別不可の敵機が2機接近中。その後方にもう1機が追従している模様です!》
「こちらブレイヴ01了解。聞いたなブレイヴ02。敵さんから仕掛けて来た。プランに変更無し、だ」
上等兵の声を無線越しに聞き、中尉は操縦桿を強く握る。少数を活かすならば、その持ち前の機動力を活かした撹乱が鍵となるだろう。
《こちらブレイヴ02。了解……》
「…ブレイヴ01よりCPへ。"アサカ"との連絡が着き次第、こちらへ回してください」
《こちらCP。了解、です。絶望的ですが、呼びかけは続けます》
……………軍曹も分かっているだろうが、正直ムリだ。お互いに言い出しこそしなかったが、全滅を覚悟していた。
右腕部と背面部に装備していたシールドをパージし、中尉機が身軽になる。
格闘兵装としての機能が持たせてあるこのシールドは、最悪投げつける事で攻撃手段にする予定であったが、それこそ敵に近づかなければ意味を為さない。そのためにはデッドウェイトを捨て身軽になる必要がある。この矛盾を解消するため、苦渋の選択の後の決断からだった。
コクピット内で中尉が深呼吸し、呼吸を落ち着かせる。心臓は先程から早鐘の様に打っているが、不思議と頭は冴え渡り、冷静だった。
「突撃!!」
中尉が機体を操作し、"ジムヘッド"が泥を蹴り立て疾走する。
ミノフスキー粒子が更に濃くなり、それに加え丘の稜線を越えた。もうCP、軍曹としか通信は繋がらない。
《ブレイヴ02。エンゲージ……!》
大嵐の中、マントをなびかせ乱数機動を行いつつ突進して行く。
激しく揺れる機体の中、中尉は小刻みにフットバーを蹴っ飛ばし、ジグザグに、だが確実にその距離を詰める。軍曹もそれに続き、尚且つ射撃を行い注意を引きつけている。
『
「ちっ!」
火線が土砂降りの暗闇を引き裂き殺到する。それを最低限回避し、バイタルパートへと飛び込んで来た弾丸のみシールドで受け止める。
『シールドに被弾 至急回避行動を』
「スラスター噴射でかえる跳びする!!ブレイヴ02!俺の三秒後にスラスターダッシュだ!!」
《ブレイヴ02了解……》
インカムに怒鳴りつつフルスロットルでフットペダルを思い切り踏み込む。周囲の雨風を吹き飛ばしスラスターが作動、蒼いスラスター炎を引きつつ機体を宙へと推し出す。
「んぐっ………ぐ……」
《こちら"バンジャルマシン・ベース"CP!"アサカ"へ!聞こえますか!!》
機体と操縦者に莫大なGを掛けながら"ジムヘッド"が宙へと舞い上がり、奇妙な浮遊感と共に最頂点に達する。
眼下では軍曹もスラスター噴射により突進しつつ"100mmマシンガン"を撃っている。撃ち出された曳光弾が闇を切り開き、光の尾を引いて行く。
「……見えた!!ブレイヴ01!エンゲージ!!」
"ジムヘッド"のメインセンサーが、林に紛れ、青い装甲を光らせる機体を捉える。"グフ"だ。
「喰らえ!!」
スラスターと手足を使い空中で姿勢制御を行う。暴れる大気を機体いっぱいに受け、轟々と風が吼える。
そのまま自由落下に移り始めた機体をそのままに、"100mmマシンガン"を撃ちつつ落下して行く。
眼下の"グフ"もこちらを補足し、左腕を振り上げ機関砲をばら撒く。暗く濁った視界に、赤ともオレンジとも取れる火線が怒涛の如く殺到する。盾が激しい音と火花を撒き散らし、その陰で中尉も負けじと撃ち返す。
「!?」
"100mmマシンガン"が突然散弾を吐き出し、続いて数発の曳光弾を撃ち、また散弾を撃ったかと思うと沈黙する。
──おい!弾無いからって適当入れやがって!!
「ふんっ!!」
《こちらCP!ブレイヴ02!危険です!退避を!!》
完全に故障した"100mmマシンガン"を下手で投げつける。眼下では抜刀した"グフ"がそれを切り払う。その隙にスラスターを噴かし着地、兵装から"ビームサーベル"を選択する。
『接近警報 "グフ"と識別 注意を』
着地の衝撃で激しく揺れるコクピットに警戒音が鳴り響く。
投げつけた"100mmマシンガン"は十分とは言えないが隙を作り出してくれた。それを無駄にするわけにはいかない。
中尉が睨みつける中、メインスクリーンには"グフ"が"ヒートホーク"を振りかざし突進して来るのが画面いっぱいに映し出されている。
『"ビームサーベル" レディ』
シールドを掲げ、身を落とす。ふくらはぎ部の装甲が展開、雨風にも負けず火花を撒き散らしレールが伸び、"ビームサーベル"が右手へと叩き込まれる。
「ちっ……!」
《ブレイヴ02より、ブレイヴ01…距離を、置け……》
「そのために………!?」
牽制のために引き金を引いたが、弾丸は出ずシステムエラーが……。
《隊長!!》
そういやこいつ、頭部機関砲ついてねぇ!!兵装コントロールパネルから消すの忘れてた!!だからエラーか!!
「マズっ!?」
ワンテンポ遅れた対応を、敵が見逃す筈が無かった。
『アラート 敵機左腕部に駆動音 至急回避行動を』
土砂降りの中、激しく水蒸気を出し振り下ろされる"ヒートホーク"をシールドで何とか打ち払うも、こちらへ指向された"グフ"の左腕部内臓式機関砲が唸りを上げた。
「がはっ!!」
至近距離の機関砲弾に機体が揺さぶられ、中尉はシートに叩きつけられる。何かが割れる音と共に火花が飛び散り、モニターが激しく明滅する。
『機体損傷 バイタルパートに被弾 戦闘継続は困難 至急離脱を』
身体の至る所が悲鳴を上げる。焼けた鉄を押し付けられた様な痛みに、中尉は歯を食いしばり必死で耐える。右の視界が真っ赤だ。衝撃で切ったのかもしれない。
「ぐくっ!!…くっ!」
《ブレイヴ01……!》
激しい衝撃の中必死で機体を操作、後ろへ下がる。割れた画面をサブモニターで代用させつつ、損害状況を確認する。
ダメージリポートでは胸部がイエロー……右腕部が…オレンジ!!"ビームサーベル"が使用不可能!?
『警報 至急回避を』
顔を歪め痛みに耐える中尉が、ヒビ割れたスクリーンの端に見たものは、肘から先を無残にも引き裂かれ、オイルやケーブルをダラリと垂らす鉄屑だった。
暗くなりゆくモザイクがかかった様な視界に、激しくスパークする青白い火花が眩しく明滅し、リヒテンベルグ図形を描く幾何学的な残像の尾を脳裏へと焼き付ける。セントエルモの灯の様なそれは、中尉の忘れかけていた記憶を揺さぶり、明確な『死』を覚悟させるに十分過ぎる深い絶望、そのものだった。
──これは………。
《隊長!通信が!隊長!!》
「宅急便とだけ!!伝えてください!!」
それだけ叫ぶのが精一杯だった。身体が強張り、画面に目が釘付けになる。
眼前の大嵐の中、眼前で"グフ"がヒートホーク"を再度振り上げる。態勢を崩した今、"ジムヘッド"にこの攻撃を回避、防御する術は無い。
スラスターを噴かそうにも間に合いそうにない。そもそも先程フルで噴射したばかりだ。これ以上は負荷をかけられない。
…………八方塞がり。万事、休す。
光が届かず薄暗い闇の中、"ヒートホーク"の放つ荒々しいオレンジが、中尉の目に焼き付いた。
──終わり、か………?
だいじょうぶ。
《タクミ!!》
……………光……………?
闇を斬り裂き、一筋の光刃がスパークを散らし"グフ"の背部へと突き刺さる。
それは、『生』を諦めかけた中尉に、希望を与え、意思を持たせるには十分すぎるものだった。
「うおぉぉぉぉぉぉぉおおっっ!!!」
もう無我夢中だ。本能、と言ってもよかった。中尉が叫びながら機体を操作し、態勢を崩した"グフ"に向かって、"ジムヘッド"が左腕部を大きく振ると同時に装着されたシールドをパージ、反動をつけ体当たりする。
「らぁぁぁあっ!!」
その勢いで突き刺さったままの"ビームサーベル"を掴み、思い切り振り抜く。
『データ解析 X.B.Sa-G-03 "ビームサーベル"と識別 リンク成功 レディ』
光が一層強い輝きを放つ。金属を溶断する凄まじい音と共に"グフ"が真っ二つに斬り裂かれ、燐光を撒き散らしぬかるんだ大地へと倒れ伏し沈み込む。
「軍曹!!」
《軍曹は交戦中です!!隊長!!早く援護を!!》
"100mmマシンガン"も、"ビームサーベル"も………軍曹は唯一の武器を俺の為に手放した!
これじゃ………!!
バランスを崩した機体を何とか操作し、ふらつきながら軍曹の元へ向かうも、これじゃ間に合わない。
俺は1対1だったが、その分軍曹は必然的に1対2だ!!
画面が割れ、乱れたメインスクリーンの中で、丸腰となった"陸戦型GM"へと2機の"グフ"が躍り掛かる。
「軍曹ぉー!」
《ファーロングさん!!》
叫ぶ。それと同時に軍服に血が垂れ、飛び散る。それさえも気にならない。今は、時間が惜しい!!
機体を疾走らせる。モニターが示した距離は250m。
これじゃ……これじゃ!!
《………》
装備を手放した軍曹機に対し、それを勝機と取った正面の"グフ"が斬りかかる。それを無言の内に右脚を軸に回転し回避、その反動を利用し、後方から接近して来た"グフ"の胴体へとシールドの先端が叩き込まれた。
《ブレイヴ01……安心しろ……》
一瞬でコクピットを潰された"グフ"が痙攣した様に身悶えし、その戦闘能力を喪失する。その機体を蹴り飛ばし、シールドをパージ、"陸戦型GM"がもう一機の"グフ"と向き直る。
"グフ"は避けられた一段目をそのままに、再度踏み込む様に攻撃を繰り出す。軍曹はそれを半身をずらす事で躱し、振り下ろされた"グフ"の右腕を左腕で掴み、右腕の掌底突きを関節の横から喰らわせる。
たったそれだけで、軍曹の"陸戦型GM"は、まるで当たり前の様に"グフ"の右腕を千切り取った。
それはまるで、MSによるサブミッションだ。実際そうであるのだろうが……。
「え………」
しかし、それは中尉の理解の範疇を軽く越えていた。
そんな中尉を他所に、戦闘は進んでいく。
右腕を肘から破壊され、よろけながら下がる"グフ"へと、軍曹の"陸戦型GM"が踏み込み、ボディーブローをする様に右腕を突き出した。
耳をつんざく様なけたたましい金属のへしゃげる音が鳴り響く。"グフ"の腹部へと突っ込まれた右腕は胴体を貫通、バックパックを貫き背面から顔を覗かせていた。
《問題無い………》
「………………」
そのまま右腕を引き抜き、"陸戦型GM"が何事も無かったのかの様にこちらを向いた。後ろでスローモーションの様に倒れ伏す"グフ"など御構い無しにだ。しかしその指先にはオイルや流体ポリマーに混じり、赤いペースト状の何かが滴り落ちていた。
故障を確認するためか、軍曹が何度かマニピュレーター作動させるが、全て滑らかに動いている。どうやら故障すら無い様だ。
《よかった……無事か、中尉……》
「……あ、ぁあ……」
……………それはこっちのセリフだ。今のは、まさか抜き手か?
MSは人間並みの駆動範囲を持つ。言わば肉体のさらなる延長に過ぎないものである。そのため動きをトレースする事で確かに武術も行える。実際中尉もかなりやってはいるが……これは………。
胸部と右腕部を中心に、無惨にも機体全体に激しい銃撃の後を残す中尉の"ジムヘッド"の隣に、無傷の装甲を雨に晒す軍曹の"陸戦型GM"が並ぶ。ボロを纏った幽鬼の様な"ジムヘッド"に、軍曹が自分のマントを取り外しかける。
《ご無事で!!隊長!!それに軍曹も…良かった…本当に良かった…》
「上等兵……ご迷惑を……こちらは無事です」
上ずった声での通信が入る。思い出したかの様に痛み始めた傷口と、頭をさすり顔をしかめつつ何とか答える。シート脇の緊急医療セットを開き、鈍い痛みと共に額から垂れる血を拭き、手早く止血する。やや赤が混じるもクリアになった視界に、幸いにも目は傷つけられなかった様だと安堵する。他の切り傷は対したことは無い。頭だから少し深めに切れて血の量が多くなったのだろう。
《ブレイヴ02より、CPへ……陸上戦艦の、位置は……?》
《! 現在ポイントチャーリー35で、…!?MSを展開した模様です!!》
「!! 軍曹!!少しでもいい!!陽動を頼めるか!!」
安堵ですっかり頭から抜け落ちていた事に顔を赤くしつつ、中尉はコンソールにパネルを叩きコマンドを実行に移した。"ジムヘッド"の右腕は肩部を残し爆砕ボルトにより切り離され、地面に転がった。デッドウェイトを無くすための、中尉の判断だった。
それにより偏った機体バランスをバランサーの調整、機体各部の駆動系の出力を変更する事で再調整する。
「…………よし」
何とかバランスを取り戻した機体を操作、"ジムヘッド"が敵陸上戦艦がいる方向へと向き直る。
《ブレイヴ02より、ブレイヴ01へ。…………問題無い……》
「頼んだぞ!!」
《隊長!どうするおつもりですか!?もう武器は!?それに…!》
上等兵が一度言葉を切り、一拍置いた後、噛みしめるようにそのまま続ける。声のトーンが前後で明らかに変わった。
………これは、勝ちフラグ、だな。
《…これは、成る程、了解しました》
上等兵も理解した様だ。データ通信が強化され、リンクも確保される。
"ジムヘッド"と"陸戦型GM"が散開し、視界の隅で軍曹は落ちた"ヒートホーク"を拾い、そのまま林の奥へと消えていく。
《現在、SLCMは慣性誘導中。
「ブレイヴ01了解!ホールインワンを決めてやります!!」
データリンクの完了と同時に、サブディスプレイの一つ、兵装データの一角に新たな表示が現れる。
グリーンに近い青で
『警告 CPからのコード確認 SLCM01から05のターミナル誘導引き継ぎ完了 着弾までおよそ18秒』
中尉の機体が林に隠れつつ移動、ついに敵陸上戦艦を視界に捉える。
それはバブルキャノピーの高いブリッジに、前面には2連装機関砲、さらに左右に突き出るような外装ポッド式のジェットエンジンを備えていた。基地に砲撃を加えていたのは機体背部にへばりつくように装備された大型の2連装砲だろう。その陸上戦艦の後ろには巨大なドーム型のタンクらしき物が連なっている。陸上戦艦と言うにはやや小型か?想定していたものより案外小さいものだった。
最新鋭の虎の子兵器が3機撃破されたからか、かなり警戒している様だ。随伴に"グフ"2機と4輌の"マゼラ・アタック"を引き連れ、速度を落として付近一帯を警戒しつつ移動している。
先頭の一機が地雷を踏み抜き、その爆風をもろに受けよろける。そこへ"ヒートホーク"が投擲され、"グフ"の右腕を引き千切った。
停止した陸上戦艦は随伴する2機の"グフ"、"マゼラ・アタック"と共に、軍曹が潜伏している辺りへと前方に搭載された2連装機関砲により砲火を加えている。もちろんといってはおかしいが、姿を見せない軍曹機へは擦りすらしていないが。
中尉がコンソールを叩き、SLCM弾頭を活性化する。それに伴い兵装データの落ち着いた青文字で表示されていた『SAFE』が、一瞬で激しく燃え上がる様な赤い攻撃色の『ARM』へと切り替わった。
『SLCM レディ』
弾頭が活性化される。空の彼方から迫り来る巡航ミサイルのスマート弾頭が、その軛を断ち切られ、牙を剥いたのだ。
《隊長。SLCMと同時に送られてきたメッセージがあります。読み上げますか?》
機体周囲の木がざわざわと騒ぎ始める。ビリビリと周囲の大気が震えだし、頭上から雷の音すら霞ませる様な低く激しいジェットの轟音が接近してくる。
『SLCM01および05 着弾まで後10秒』
南の空、雷鳴轟き渦巻く波の谷間を、光に一瞬照らし出された筒状の何かが、
「お願いします」
中尉が操縦桿に装着されたボタンを押し、設定を変更、トリガーを引く。
『8 7』
中尉の"ジムヘッド"の頭部から
高出力のレーザーが、小さくとも、この嵐の中でも強く輝く真っ赤な光点を灯した。
中尉機の背面カメラが、海から波を割り現れた"矢"を本格的に捉えた。
その放たれた"矢"は急上昇し、雲の中へと吸い込まれて行く。
『5 4』
"矢"が昇る。上へ、上へと。雲を掻き分け、空を貫き、両手を広げ空気を震わす轟音で吼えながら。
《読み上げます。『良くやってくれた。明日の朝食のパンとホットケーキは、我々の奢りだ』です》
「………ふふっ、あーっはっはっはっはっ!!」
中尉が耐えきれず吹き出し、大声で笑い声を上げる。
天を仰ぎ、目元に涙を滲ませ大笑いする中尉の目の前では、メインスクリーンがロックオンカーソルとカウントを鮮やかに浮かび上がらせ、その表示を躍らせる。
《…ふふふ》
《ふっ…………》
それにつられ、上等兵が含み笑いを漏らし、軍曹は軽く鼻を鳴らした。
肩を震わせ、しゃくりあげながら思う。彼らは本物の潜水艦乗り達だと。
『ユーモアを解せざる者は海軍士官の資格なし』。俺も彼らの行動に恥じぬ戦果を残さねばな。帝国海軍の士官だった先祖に顔向け出来ん。陸軍もいたけど。
中尉が目元を拭い、コンソールを叩きメインセンサーを防眩モードへと切り替える。それに反応しグレイズ・シールドが鈍く輝くが、"グフ"のパイロットはそれに気づいたのだろうか。
『2 1』
遙か彼方の上空をなぞり、5発の巡行ミサイルが轟音と共に飛来する。
次の瞬間、音速を越えた"サジタリウスの矢"が怒涛の如く振り注ぎ、炎の槍となって敵に襲いかかった。
『
閃光。
爆炎。
爆轟。
中尉の眼前で煉獄の灼熱が花開いた。鉄の嵐が吹き荒び、木を薙ぎ倒し熱風が地面を舐め尽くして行く。
爆音が轟き天地を揺らし、渦巻く火焔を帯びた竜巻が風を、雨を消し飛ばす。
破片という破片が焼け、捻れ、砕け舞い散り、四散する。
くの字に曲がり、折れ飛んだ砲身が回転し、一筋の光が差し込んだ空へと向かい奇妙なアーチを描く。
『衝撃波到達 対ショック態勢を』
機体を揺さぶる衝撃波に紛れ、大小様々な破片が装甲を叩く。シールドの表面が融解し、マントは断末魔を上げ引き千切られて行く。
それでも、中尉は目を離さなかった。
そして、その口元は緩んだままだった。
「…………──
宙を舞っていた砲身が地面に叩きつけられた音を最後に、まるで何事もなかったのかの様な静寂が訪れる。
『
いつの間にかあれほど土砂降りだった雨は止み、静寂に混じりパラパラと破片が降り注ぐ小さな音のみが響く。
厚い雲がゆっくり動き始める中、ゆっくりとした動作でようやく爆心地から目を離した中尉は、そのまま空を見上げた。風が流れ、掻き回される雲、その雲の切れ間から差す光芒を、いつまでも見上げていた。
雲が割れ、太陽が、どこまでも広がる青空が顔を覗かせる。
雨は上がり、風は止み、自然は穏やかな微笑みを浮かべる。
《こちらCP。隊長。信号確認しました。旗艦"アサカ"率いる聯合艦隊です》
晴れ渡った空へ、まるで祝福されるかの様に大きな虹がかかる。
その下を、軍曹の"陸戦型GM"に支えられ、ゆっくりと歩む"ジムヘッド"が陽光にキラキラと水滴を光らせ、ボロボロの肢体を晒す。
「…………軍曹…」
中尉がゆっくりと口を開く。
《……なんだ……?》
機体の操作は止めず、軍曹が応える。その目の前には、持ち場を放り出し、伍長を先頭にこちらへとかけてくる"ブレイヴ・ストライクス"のメンバーが居た。"ジムヘッド"のセンサーは、管制塔から身を乗り出し手を振る上等兵も捉えていた。
「行こう。皆が待ってる」
《…あぁ……》
集まった全員が立ち止まり大声を張り上げ大きく手を振る。
「《おかえりなさい!!》」
「《…ただいま……》」
遙か水平線の上には、海を割り海水を押し退け、激しい水飛沫を巻き上げた"アサカ"が津波と共にその巨体を晒し、こちらへと向かって来ていた。
『ここが、俺の虹の足なんだな…』
雨が無ければ、虹は出ない…………………………
出てきた陸上戦艦、あれは陸戦艇とも呼べるギャロップです。機動力を重視しているため、じつは装甲は薄かったりします(笑)。
今回はMSが歩兵の延長である、と言う自分のMS論丸出しの話でした。人の様に柔軟に対応する、戦場のスタンダードたる存在という事です。
後方からの火力支援要請はMSでも行うだろうと。思えばグレートキャニオン戦でも近い事やってましたねぇ。今回はミサイルでしたが。ジオニックフロントでもありましたねぇ。あれは火力陣地に近かったですが。
実はWPを使うという案もありました。グレネードは持っていないので却下になりましたが。
今回はそのため純粋な戦闘は少なめです。伍長にいたってはずっとお留守番ですし、中尉は機体を破壊しただけですし、軍曹無双です。そもそもMS同士の戦闘など、長くは続きません。塹壕や障害物越しに撃ち合うならともかく、真っ向からぶつかる戦闘は言うまでもありません。漫画、ギレン暗殺計画なら、平均3分と言われてましたしね?そのため、尺が持たず、倒すMSが増えてしまうのが残念です。確か2機落とせばエースなのに……。
ま、ともかくのんびりやっていきます。時折覗いて、更新や加筆修正があったら読んでいただければ幸いです。
次回 第六十三章 月月火水木金金
「はは……公務員ってた〜のしぃ〜なぁ〜」
ブレイヴ01、エンゲー、ジ?