機動戦士ガンダム U.C. HARD GRAPH 名も無き新米士官の軌跡   作:きゅっぱち

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お久しぶりの続きです!!

最近加筆修正ばかりなので、出来が少し不安ですが……。

とにかくどうぞ!

吹けよ嵐!鳴り響けよ稲妻!!


第六十章 嵐の前の静寂

何事にも予兆がある。

 

嵐の前の静けさの様に。

 

全ての事象は繋がっている。

 

目を凝らせば、自ずと見える。

 

だが、ただ、ただ。

 

人は、それを見て見ぬ振りをするだけだ。

 

 

 

U.C. 0079 9.2

 

 

 

それは突然だった。

 

「…………?これは………?」

 

現時刻○九三○(マルキューサンマル)、"アサカ"と合流予定の時間まであと数時間を切り、遂に、この任務に終わりが見え始めた時だった。

発令所は目の前の海の様に凪ぎ、波も無く穏やかで、ようやく下りかけた肩の荷の重さを、名残惜しげに実感し始めた時だった。

 

「……?どうしました?」

 

中尉がのんびりと反応する。口に放り込み咀嚼していたグミを飲み込み、ほぅっと息を吐き、もうひとつを口に放り込んだばかりだった。

 

「……え、ええと……!! 周囲のミノフスキー粒子濃度が急速変動!!」

「何か大型の核融合炉が稼働している模様!!並の速度ではありません!!」

 

発令所にて資料を読みつつその時間を待っていた中尉には、まさに寝耳に水だった。

 

「……何ぃ!?」

 

グミを噛みもせず丸呑みにし、椅子から勢い良く立ち上がる。机の上の資料が巻き起こった風で床へと舞うが気にしない。それどころじゃない。

 

「何だって!?」

「いえ、しかしレーダーには……あれ?レーダーが……」

 

異常を察知した解析員の声が早いか、同時にオペレーターが声を上げる。

オペレーターの傍に駆け寄り、中尉が焦りつつも口を開く。

 

「奇襲ですか!?レーダーに反応は!?」

「ミノフスキー粒子濃度急速上昇!レベル3!レーダーが使用不可能になりました!!」

「この基地を覆う様にミノフスキー・テリトリーが形成されています!!」

「しかし、敵影は……?アンダーグラウンドソナーにも敵影無し……?」

 

もう30%オーバー……くそッ!早い!!敵は、手練れだ!

 

「総員!!第二種戦闘配備!トロイの木馬の可能性もある!!充分に警戒せよ!」

「コンディションイエロー発令!コンディションイエロー発令!!パイロットは搭乗機にて待機せよ!!繰り返す!パイロットは搭乗機にて待機せよ!!」

「非戦闘員はシェルターへと退避せよ!!繰り返す!!非戦闘員はシェルターへと退避せよ!!」

「各員!!敵は待ってはくれんぞ!!」

 

けたたましい警報が鳴り響き、基地が俄かに騒がしくなる。

目を通して居た資料をまだ持っていた中尉は、てんやわんやの大騒ぎの中資料を放り出し走り出した。

 

「ここは任せましたよ!!」

「了解しました!隊長も早くMSに!!既にロイ軍曹、レオナ伍長は向かっている様です!アイリス上等兵からも連絡が入りました!!」

「了解!!」

「対空監視!!気を緩めるな!!」

「ソナー室!!どんな些細な事でもいい!!状況を常に知らせい!!」

「基地なのにソナー室あるのね……」

 

発令所のオペレーター達の怒鳴り声を背中で聞き流しながら、中尉は全速力で廊下を走り抜ける。行き先は決まっている、"ジーク"の待つMSハンガーだ。

 

「……なんて時に来るんだ……」

 

思わず呟く。本当にこの一言に尽きる。そう思った。武器装備ももうロクな物が無い。整備も終わっていないはずだ。仮にハンガーへ向かいMSに乗り込んでも………どこまで出来る事やら……。

 

「状況は!!」

「………………んぎぃー!!」

 

ハンガーに飛び込みつつ怒鳴る。そこには駄々をこねる伍長と、バラされた中尉の"陸戦型ガンダム"と"陸戦型GM"があった。

 

……………………………。

 

いや、ホントどんな状況だよコレ…………カオス過ぎんだろ………。なんか、こう……コンボイ司令官を思い出すな……。

 

「きゃー!!わたしのジムがぁぁぁっ!!」

「………何だこの状況は………?」

 

思わず立ちすくむ中尉に気づいた伍長が半泣きで縋り付く。誰も聞いてなくていい。返事もしなくていい。だが、もう一度だけ言わせてくれ……何だこの状況……。

 

「あ、少尉!!聞いてください!!あのおバカに言ってやって下さい!!ひどいんですよもう!!おバカのおバカ!!大あほです!!あんぽんたんのぱっぱらぱーですよ!!」

「落ち着け。何が言いたいのか全く分からん。分からんが……何だこの状況……分かりたくねぇ〜…」

「お、おつきですか中尉。さ、早くコクピットへ。遅い奴には、ドラマは追えない、といいますし」

 

整備士の1人が手を招くが、正直行きたく無い。

姿形のしっかりしてるのは軍曹の"陸戦型GM"だけじゃねぇか。詰んでねぇかコレ……。

確かに損傷、損耗の一番激しい伍長機のオーバーホールは指示していたが、何故?

 

「小隊長か!!いいところに来た!!手を貸してくれ!!」

「5番クレーンを回ししてくれ!!」

「どういう状況だこれは!?そして軍曹は!?」

「もう出撃してる!!」

「はや!!」

「すっとこどっこいのすかたんぺけー!!おっぺけぺーのおたんこなすー!!」

「はっは。今回は特に大忙しですな。レオナお嬢様もご機嫌斜めですしな」

 

少尉が機体に張り付きながら大声を張り上げる。そこに走り寄りながら怒鳴り返す中尉。伍長は拗ねてバンバンと床を叩きながらジタバタしている。

おい!今どういう状況か分かってんのか!?

文句なら後でいくらでも聞いてやるから今は働いてくれ!!

 

「この2機は整備も調整も間に合わん!手も足りん!だからニコイチする!!」

「"100mm"も全部だ!全部だせ!!」

「"ビームサーベル"は!?おい!!」

「成る程。状況は理解した。

…………ん!?そっちの方が手間じゃねぇのか!?」

 

おかしくね!?つーかもう共食い整備!?末期過ぎんだろ!!部品不足ここに極まれり。

 

「……ぅぅううぅぅぅゔぅううぅゔうぅう……………」

「幸い整備箇所が被っていなくてな。パーツも一応は共通していてかつブロック構造化してるから調整して挿げ替えりゃいい!!今同時進行でやってる!!」

「……分かった!コクピット側から調整する!……しかし一機減るのはキツいな……軍曹機含めある物全て装備させてくれ!!」

 

その声を聞いて、少尉が虚空を睨みつけたまま固まり、その顔色をみるみる青くする。まさか、問題が?

 

「何かあるのか!!」

「………もう、"ランチャー"、含め弾切れ。"100mmマシンガン"もほぼゼロ、"ビームサーベル"も粒子収束フィルターが……」

「…………くそっ!」

 

酷い惨状だ。

 

だが少尉を責める事は出来ない。ただでさえ少ないMSの消耗品に、十分な量も無く、満足な補給も許されないスタンドアロンな状況。むしろここまでMSを動かせた事自体が奇跡に近いのだ。

 

「それでもいい!いや!だからこそ全部載せてくれ!!」

 

少尉に向かって大きく手を振り上げ、サムアップする。

それが少尉に伝えられる、中尉の最大の賛辞だった。

 

「……よぉし!!フルだ!やるぞ!」

「おっし!」

「おうともさ!」

「はっは。我々の実力、とくとご覧なされ」

 

無いものは、無い。無い物ねだりをしようと何も変わらない。

 

それに、少尉はベストを尽くした。今度は、俺が、俺達があるだけのものでベストを尽くす。それだけだ。

 

「今行く!!そのまま作業を続けてくれ!!」

「あいよ!」

 

中尉はキャットウォークへと登りながら少尉と怒鳴り合う。たった数メートルであろうと周りは重機がフル稼働しているためお互いの声も聞き取りづらい状況なのだ。

喉が痛み出すのも構わず声を出す中尉だが、その中でも聞こえる伍長の駄々は何なのか。

 

「了解したぜ小隊長!!ミノフスキー粒子濃度の変動や目視、ソナー、センサー等の反応から推測される予想接敵時間までまだ余裕はある!!何とか間に合わせて見せるさ!!」

「おし!伍長!おい!!」

 

中尉は立ち止まり、身をキャットウォークの手摺から乗り出し、眼下の伍長へと向け大声を張り上げる。

 

視線の先にはまだ寝っ転がり床をタップしている伍長がいるが………聞いてるのか?

 

「伍長!つーわけで今回はお留守番頼む!!」

「やーいやーいしょーいのかーちゃん糸こんにゃくーっ!!」

 

ってか糸こんにゃくってなんだよ!!罵倒!?糸こんにゃくに謝れ!せめてしらたきにしなさい!!

 

しらたきは肉と一緒に煮込むと硬くなるから!!

 

やっぱ家族の様に猫可愛がり?してた愛機がバラされたからな……ヘソ曲げちゃった?

いや、俺もこの非常時に何を!って一瞬キレそうになったけどさ……。

ハシゴに手をかけつつ伍長を見る。飽きもせずまだ暴れている様だ。

 

「もぉっーっ!!嫌です!」

 

ジタバタと床をたたき、埃を舞上げている伍長に怒鳴る。

 

「駄々をこねるな!!」

「いーやーですっ!!断じて否ぁ!!また少尉が遠いところに………死んじゃいます!!それに!!それにぃぃぃいいっ!!!」

「……はぁ~……」

「ジムぅぅうぅぅぅうゔゔぅうっ!!わ"た"し"の"かわ"いいジムちゃんがぁぁぁぁああ"ぁぁっ!!」

 

伍長が怒鳴り返し、一応会話は成り立ったが…。

時間は無いが……部下のメンタルケアも仕事だなぁ……。勝手な事されても困るし…。

………と言うか……あの伍長は………。

 

「あぁぁぁぁ"ぁぁあぁぁぁぁ"ぁ"ぁぁっっつ!!しょーい許すまじ!!今度復活したジムちゃんで踏みつけたる!!」

 

…………見ててものっそい、こう……アレだし………うん……。

ん?乗機が無いのに何する気なんやろ?

………まぁそれより、今は伍長だ。つーかうるせぇ!!何歳児だ!!

 

「…なぁ伍長、何で俺が死ぬんだ?」

「ぁぁあああ……う?」

 

中尉はせっかく登ったキャットウォークを再び降り、伍長の前に駆け寄った。相当暴れ回ったのか伍長は砂埃と機械油でトンデモ無い感じになってる。以前見たドロヌーバ数歩手前ぐらいか?機械油の油汚れは落とすの大変なのに……。

 

「いつもいつも無茶ばかりするからです……わたしは少尉とお別れしたくないです……」

「いや、それは俺もだよ伍長…だから……」

「………それに、これじゃ役立たずです…これじゃ少尉に捨てられちゃいます…」

「そんな事は無いさ。人は価値だけが全てじゃない。こんな奴でいいのなら、伍長が思う好きな分だけそばにいてくれたら嬉しい」

 

伍長がむくりと起き上がり、女の子座りでこちらを伺う。中尉はしゃがみ込み目線を合わせる。その光景は砂場で帰りたがらない幼児を説得する大人の様に見えた。

 

「……ホントですか……?」

「ウソ言ってどうするよ?」

「ふふっ。少尉……ならイイです!………絶対帰って来て下さいね?」

 

ガバッと抱きついて来た伍長を支え、一緒に立ち上がる。汚れを軽く払うも払いきれず、引き剥がして服を叩くが不満そうなので、そのまま頭を撫でてみる。

 

「あぁ。約束しよう。伍長は命令があるまで待機してくれ。指示はおいおい出す」

「はい!」

 

しっかりと自分の足で立ち、いつもの笑顔を取り戻した伍長がこちらに手を振りながら走っていく。取り敢えずは大丈夫か。いつも軍曹はこんな伍長を相手にしてたのか……押し付けてすまん……。

 

「ごっへ!?」

「うわっ!………生きてるかー?」

 

おい、前を見ろよ前を………ぶつかりたいのか?と思った矢先"ラコタ"に激突した。言わんこっちゃ無い。

 

「…うぐぅ……4/3死にです……」

「死に過ぎだろ……とにかく、頼むぞ……」

「あいぃ……」

 

果てし無く不安であるが、仕方が無い。人や機材が走り回るのだ。そんなとこに寝っ転がられたらどちらにしたって危ないったらありゃしねぇからな。

 

取り敢えずこっちは解決だ。お次は……。

 

振り返り"陸戦型ガンダム"を見据え、そちらに向かって駆け出す。

時間は限られている。今大分ロスした。俺はハードの複雑な整備こそ出来ないが、ソフトの調整なら出来る。そこを代わればまだラクになるだろう。たかが1人は、されど1人。それが切迫した状況なら尚更だ。

 

………頭がまだ無いけど、これからつけるんだよね?サブ・センサー/カメラだけで戦えと言われたら流石に殴るぞ?

 

「……見せつけてくれるな…頼むから比較的マジに爆発しろ……」

「恋愛ドラマの見過ぎだ、病院行けティーンエイジャー」

「はっは。すみません。班長殿は最近やさぐれておりましてな。女の子ガーっと、ね?」

「あー、病気みたいなもんだから…」

 

少尉が刺々しい視線を投げかけ、その隣では整備士が苦笑している。この人も"キャリフォルニア・ベース"からの付き合いで、いつも優しく笑っている気のいいおじさんだ。伍長にはおじちゃんと呼ばれていて、今は一応伍長機の機付き整備士だ。

 

「……それはどっちでだよ小隊長」

「両方だ」

 

パスとして投げつけられたレンチとスパナをキャッチしながら言う。その2つをポケットに押し込みつつ、頭の上で動き回るクレーンを見上げた。

 

「はっは。違いありませんな。ほら、班長殿も手を止めないで下さい。それでも、隊長殿もしっかりレオナ嬢を受け止めて上げて下さいな。それは隊長殿にしか出来ませんからね」

「………」

 

"陸戦型ガンダム"によじ登った途端これだ。思わず肩を竦める。

 

整備士達は妻子持ちも多い。この人もその中の1人だ。だからだいたいは伍長を実の娘の様に猫可愛がりしている。伍長は大人として扱ってと言っているが、そんな事言ってる内は無理だと思う中尉だった。

 

「……左腕部、マニピュレーター外して"100mmマシンガン"を固定するか?」

「ヒューッ!!それは……紛れもなく……汎用性がガタ落ちするからやめてほしい……」

 

一瞬良さそうだと思ったがやめた。MSがあらゆる兵器に最も勝る最大の点は汎用性だ。それをわざわざ殺してどうする。特に今回は装備も十分で無い上乱戦だろう。頻繁な武器持ち替えに、最悪MSによる徒手格闘も考えられる。そもそもリロードどうすんだ?わざわざ右手の武器は置けと?

 

「はっは。それならレーザーかビームでも積みたいとこですな。心で撃つとなると、どうしますかね?」

「分かった!分かったからコクピットに戻って!!ホンのジョークやって!?スパナで殴りかかろうとするな!落ちて死ぬとか嫌や!!」

「大丈夫お前気絶した状態で高さ30m前後から地面に頭から叩きつけられてもしなねーから」

「死ぬわ!!」

 

いや、死ななかったんだよねー。その後電気ショック与えても死ななかったんだよねー。

知らんうちに人体実験の対象になってるって、きちょーなじんせーけいけんですなー。

 

コクピットに潜りコンソールを叩きつつ反応を見る。メインディスプレイに表示された数字はどれも規定値で安定している。よかった。当初の懸念は無駄になったな。

 

「コクピット内でモニターする。うん、今のところ異常ナシ、だ」

「よぉし!全員!準備はいいか!!」

「「おう!!」」

 

重機が唸り、人間の身体を数十倍にした様なサイズの四肢が持ち上げられる。その駆動間接部に整備士達が群がり接続して行く。確かに整備する機体を一機に絞り、人員を集中させるのは成功だな。役割分担もしっかりしていて無駄も無い。かなりの手際だ。

 

この"陸戦型ガンダム"、そして"陸戦型GM"はその特異な製造過程から、同じ機体でも殆どのパーツが"別物"で、部品の構成方法も一機一機全くの別物と言っていい程異なっている整備士泣かせの機体だが、本当によくやってくれている様である。

 

追加生産されたものには殆ど見られないそうであるが、この機体は最初期ロットだ。一番ワガママで気難しいヤツだろう。

 

「小隊長!!どんな感じだ!?」

「左脚部にエラーだ!右腕部にも伝達系に問題ありだとよ!

………案外すんなりいったな…」

「元々伍長機の"陸戦型GM"は、先行生産の先行生産と言うワケのわからんモンだしな……生産の間に合わなかった手脚は"陸戦型ガンダム"と同じだからだな。元々その二機の互換性も高けぇし、ま、当然と言えば当然ってトコだな。機体同士の役割分担もやってっし、まぁ問題はそれぐらいだろうよ」

「おっ、一番問題だったFCSもいい調子っぽいな。どうやったんだ?」

「あーそれか。上見てみ上?」

「?」

 

………………………………。

 

見上げた中尉が思わず絶句する。

 

面食らったのも無理はない!!

 

その悲劇的ビフォーアフターは、中尉には少し刺激が強過ぎた。本来マルチ・ブレード・アンテナがあったところには何もなく、敵を鋭く見据えるデュアル・アイ・センサーがあったところはゴーグルセンサーになっていた。もはや別物、いや、完全に別物と化していた。

 

「………………何これ?」

「あり、中尉、気に入りませんで?」

「あれ?中尉ならと思ったんですが……」

「はっは」

 

ようやく絞り出された中尉の声は、激しい喧騒の中弱々しく吸い込まれて行く。それ程中尉にはショックな事だった。

 

「……小隊長が太田機の如く頭ばっか壊すから……」

「いや、そんな壊してねぇだろ……でも、これは……伍長が拗ねるワケだ………」

「はっは。まぁ、背に腹は変えられませぬ故」

 

そう、修理不可なデュアル・センサーの故障から、頭部はまるまる"陸戦型GM"のものにすげかわっていた。

 

これは、もう……"ガンダム"と呼べないのでは………?まるっきり"GM"じゃん。アイデンティティ全否定やん。

 

「あなたと合体したい……って感じか!はははっ!!」

「少尉……いや、個人の思想としては自由だと思うが……俺、ホモはNGや」

「俺じゃねぇよだアホ!!」

 

そんな中尉の思念とは裏腹に、"陸戦型ガンダム"は接続された"陸戦型GM"のパーツと高速で情報を交換、並列化し最適な値を猛スピードで探り始める。その処理速度はもはや目に追えるレベルではなく、中尉はそれをただ部分的に補佐するしか出来なかったが。

 

「………大丈夫なのかコレは?」

「元々パーツの互換性は高いつったろ?それに性能ならデュアル・センサー周辺の耐弾性こそ落ちたがセンサー性能はこの"GM頭"(ジムヘッド)の方が上だ」

「…そんなものなのか?」

 

中尉がタンタカターンッ、とコンソールを叩き調整を加えつつボヤく。MSの全身の各所に設けられたアクセスハッチから調整を加える整備士と協力しすり合わせて行く。ついでにOSも再起動しとくかな……。ハイテク兵器のアヴィオニクスは繊細だし……。どの様なアプローチで行くか………。

 

「そんなもんだ。調整は慎重になー!」

「はっは。最高に仕上げる、それが私達の仕事ですからな」

 

以前の戦闘データを反映、援用しつつ調整をすすめる。しかし、現地でしか分からない事も多い。あまりにもイレギュラーな状況に歯噛みしつつ、それでも手はとめない。

 

「それにしても小隊長、ハード面に加えソフト面にも強くなったな」

「ソフト麺?……あぁ、ソフト面か。いや、特にそんな事はないが……」

「いや、この調整はかなりのもんだぜ?速度、正確性が以前と比べダンチだ」

「…………」

 

それは俺がやっているワケでは……と言う言葉を飲み込み、やや余裕の出てきた中尉は軍曹へと通信をかける。

正直、今の軍曹の働きが今後を最も左右する重要な要素だ。既にこちらはまともなMSの装備がない。敵の主戦力はやはりMSであろう。

 

「軍曹!!今は何を!!」

 

ならば、こちらの主戦力は基地守備隊の要である"ロクイチ"(アーチャー)1個小隊となるだろう。"キング・ホーク"(アサシン)は追加改良ユニットでガンシップ("ガンズ・ア・ゴー・ゴー")としても運用出来るが、それには時間も、対MS戦では火力も足りない。

 

《基地周辺に…対MS地雷、及び…セントリーガンを、敷設中だ……》

「作動方式は!?」

《感知、及び有線操作だ……》

「了解!敷設完了後は一旦ハンガーへと戻り、装備を換装後再出撃するぞ!」

 

おそらく"種"の事だろう。軍曹ならそうするはずだ。しかし、それらでどれほどの事が出来るか………。

ここらの地形はそこそこのアップダウンと森や林があるが…。時間稼ぎが関の山か?

 

《ブレイヴ02了解…HSL起動。マップに地雷敷設箇所を、追加する……》

「あぁ。頼んだぞ。こっちもなんとか機体の調整が完了しそうだ。ここが正念場だ。何とか乗り切るぞ!!」

《ブレイヴ02了解………》

 

少尉のサムアップに同じくサムアップで応え、機体を再起動する。機体が微かな振動と共に唸りを上げ、サブディスプレイには大量のデータが高速スクロールする。

見た目こそ目も当てられないレベルで変化しているが、いつもとなんら変わりの無い、"陸戦型ガンダム"がここにあった事に安心する。

 

「上等兵はそのまま、管制塔からの指示をお願いします!!」

《こちらコマンド・ポスト(CP)。了解しました。各隊はCPの指揮下に入り、行動を開始して下さい》

「CP、CP。こちらブレイヴ01。"ロクイチ"(アーチャー)隊、重装歩兵(ランサー)隊の展開状況は?」

《こちらCP。おおよそ65%といったところです》

「装備クラスC待機で待たせて下さい。お願いします」

《こちらCP了解しました。CPより…》

 

要件を伝えた後、手動で回線を開き、機体に装備されたHSLが起動、リアルタイムな情報がスクリーンを流れ始める。情報によると基地内の部隊配備はまだ完了していない上、"ロクイチ"も全機出撃しきってはいない。しかしながら軍曹の"陸戦型GM"は作業を終え、こちらに向かって来ている様だ。その手際に舌を巻く。

 

「こちらブレイヴ01了解。展開後はそのまま目視による警戒を続けさせて下さい」

《こちらCP了解。CPより各隊へ。警戒を厳とし、現状を維持せよ。

繰り返す。CPより各隊へ。警戒を厳とし、現状を維持せよ》

《CP、こちらアーチャーリーダー。了解、警戒態勢を維持する》

《ランサーリーダーよりCPへ。了解。各隊の配置が完了次第警戒態勢へと移行する》

 

機体の一通りのチェックを終え、自己診断プログラムを走らせる。結果は全機能異常無し(オールシステム・オン・ザ・グリーン)、だ。

正常に稼働する事を確認しリミッターを解除する。機体の性能に慣れず、機体に振り回されてしまう伍長のため、伍長機はデフォルトでリミッターの解除されている中尉機とは違い、かなり厳重にリミットされているからだ。

その分磨耗なども少ないはずなのであるが……損傷を差し引いていても"被害担当機"ぶりは健在である……。

 

「えー!これしか無いの!?」

「すまんなぁ。でも使った経験があるのなら使って欲しいんだが…

気休めだけど、伍長ちゃんなら上手く使えるよ。片目をつぶってよーく狙って撃つ。

これよ」

「陸上戦艦が出て来たらどうすんですか!!」

「そんときゃもう片方の目もつぶるよ」

 

センサーのテストを兼ねて、鹵獲した"マゼラ・アタック"の前で何か言い争っている伍長をズームし会話を聞いてみる。整備士さんも困り顔だ。どうしたんだ?まだ伍長がダダこねてんのか?……と思ったら案の定だよ。

 

「もっと何か…こう、かっこ良くて強いのは!?わたし一度でいいから列車砲を使ってみたいんです!!それか対空レールガンでもいいですから!!」

「"マゼラ"だっていい戦車じゃないか。列車砲は、そうだな……クリスマスにでも頼んでくれ…」

「う~ん…サンタさんにはもう頼みたい物が…あ!少尉ー!おーい!」

 

予想外に酷い会話だった。伍長の言ってる列車砲は"グスタフ"だろーな……前MSに積みましょうよって言ってたし。MSが跨ってもあまるサイズなんだけど……。そもそも1人で使うもんじゃねぇ。運用だけで村規模なんだぞアレ。

 

伍長が被っているヘルメットの耳にあたる部分をポンポンと叩く。通信機を使うと言う事だろう。通信機の回線を開き、伍長のインカムに繋ぐ。

 

「伍長!文句を言うな!実戦になったら、敵を選ぶことはできん。

逃げ出したくても逃げられん。

人は誰しも配られたカードで戦うしかない。

これが、俺たちのお仕事だからな。

そんなときは…」

《なんです?お祈りですか?》

「知恵と勇気でしのげ。

なんとかなる」

《…なーんだかよくわかんないですけど……わがりますた…》

「よし!」

 

てきとー言って伍長を言いくるめる事に成功し、伍長は渋々といった様子で"マゼラ・アタック"に乗り込む。わがりますたとか言ってるけど、まぁ伍長はなんだかんだよくやるからな。

懐かしいだろうな。"キャリフォルニア・ベース"脱出後の"サムライ旅団"以来だろうし。

 

"マングース"、"ロクイチ"、そして"ザクII"。俺も大概だな。

 

《ブレイヴ02、帰還する……》

 

感慨へ耽る中尉を、ハンガーへ帰還した軍曹の声が現実へと呼び戻す。整備士達が更に慌ただしく走り周り始め、ハンガー内の喧騒がぐっと濃くなるのを肌で感じる。

 

「軍曹ありがとう。助かった。敵影は?」

《見られなかった…この手は、知っている……》

「? どう言う事だ?ミノフスキー粒子を利用した電撃戦じゃないのか?」

 

現に、先程までの勢いこそないが、ジリジリとであるがまだミノフスキー粒子濃度は上昇し続けている。

レベル4までは到達しないだろうが、戦闘にはそろそろあらゆる支障が出始めてしまう。

レベル4、つまりミノフスキー粒子濃度が40%に到達すると、FCSにまで影響が出てしまう。そのためジオンは基本的にレベル3を基本として使用しているというデータが出ている。

 

《一度、ミノフスキー粒子を高濃度に散布し………肩すかしする…その後、時間を空け……警戒、解除のスキを狙い…そこへと、更にミノフスキー粒子を散布する事で……高濃度のミノフスキー・テリトリーを、作る気だ…………》

「成る程。つまり…」

 

そこへ伍長の通信が割り込んでくる。やっぱり乗ったら乗ったで嬉しいのか、ややハイテンションだ。

いい加減無線で大きな声を出す癖をなんとかして欲しい。難聴になっては困る。5.1chサラウンドスピーカーが良く体感出来なくなるのは御免だ。

 

《わたしにいい考えがあります!!やつらをペテンにかけてやるんですよ!!》

「うん……嫌な予感しかしないんだが……」

 

その言葉を聞いて、中尉の頬に一筋の汗が垂れる。おかしいな…コクピット内は適性な温度、湿度に調整されているはずなのだが……。

 

《兵はきど〜なり、戦いとはあざむくことなり……です!勝負とは最初の作戦を練った時点で決まってるんですよ!》

「うん、"詭道"を漢字で書けるようになってから出直そうか」

 

《伍長の案はまだ分かりませんが、軍曹には地雷と一緒に振動感知式の簡単な対地センサーを敷設してもらいました。単純な仕組みで振動の有無しか分かりませんが、センサーの振動検知まで第三種警戒態勢を維持するのがベストだと提案します》

「"アサカ"の事もありますが、敵の規模や位置が分からない限り、こちらは後手に回るしかない様ですね…」

《センサーには、無いが…地雷には二重のトラップを、仕掛けた……効果を、発揮すればいいが……》

「動かします!!離れて下さい!!」

《了解!!中尉、ご武運を!!》

《壊すなよー!もう換えはねぇからなーー!》

「はい!ありがとうごさいます!!」

 

中尉が再設定の完了した"ジムヘッド"を操作し、ハンガーのゲートへと歩かせ始める。

鋼鉄の巨人が唸りを上げ、巨大な武器を振りかざし、地を揺るがし進む。後続にはあるだけの武装を満載した"MSトレーラー"が続く。

 

その眼前ではハンガーの巨大なハッチが口を開け、熱帯特有の強烈な光が差し込み、そのシルエットを浮かび上がらせる。

吹き荒れる潮風にマントがはためき、グレイズ・シールドが発光、調整を始める。

 

眩しいくらいの快晴。中尉は太陽に目を細める。その光も直ぐにメインカメラ・センサー複合機を覆うグレイズシールドがカットし、適正な光量に抑えたのだが。

 

それでも……これが行く末の暗示であればいいのだが。

 

しかし、行くしか無い。俺達は、嵐の前の静けさに、刃を振り下ろしていく存在であらねばならない。

 

「行くぞ、"ブレイヴ・ストライクス"、出撃だ」

 

戦闘が、始まる。

 

 

 

『嵐の前に静けさが支配し、雲は静止し、大胆な風は鳴りを静め、大地は死のごとく沈黙していると………』

 

 

風が、吹き荒れる…………………




万を辞して登場!ジムヘッドです!!

個人的にはジムフェイス、ガンダムフェイス共々好きなので、中々好きだったりします。ゲームではロックオン距離が下がったりしてますが、陸ジムの頭の方がレーダー性能は優秀だったりします。

試作機が優秀で量産型が弱いのはガンダムの特徴と言われますが、なんだかんだジムはガンダムより高性能なところも多いんですよ?活躍するか否かは別として(笑)。

最近加筆修正ばっかで、その加筆修正もいつ終わることやらと思っています(笑)。でも、読み直したら結構ヒドイ(今もまぁ、酷いけど)ところが多く、必要ではあると思いますが………はぁ、こう、絵でも練習して、マンガにしようかなとおもったり……少し書いて、時間がかかりすぎる為ボツになりました(笑)。みんな絵うますぎだよ!!

名前や加筆修正の話など色々ありましたが、この様に意見や苦言、修正点などどしどし受け付けます。指摘された場合、可能な限り対処していく予定なので、これからもこの作品をよろしくお願いします!!


次回 第六十一章 夕爆雨

「15秒で頼む。時間が惜しい」

ブレイヴ01、エンゲージ!!

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