機動戦士ガンダム U.C. HARD GRAPH 名も無き新米士官の軌跡   作:きゅっぱち

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名前が無く日常パートは分かりづらい、と言われた矢先の日常パート………。

何もかも夏が悪いんですよ!!暑いの好きだし、まぁ、冬より好きですけど。冬も雪は好きですけどね。皆さんも体調には気をつけて下さい。自分は無駄に丈夫なので。

ニコニコ動画とかに、何か動画上げて宣伝でもしようかなと思ってパソコン無いことに気づく、そんな風に毎日血迷ってます(笑)。そもそもあっても作れんだろうけど。

ま、のんびりガンプラでも作りながら頑張ります。来たれ!Hi-νガンダム!!


第五十九章 ザ・ライトスタッフ

ちょっとした幕間。

 

僅かな時間。

 

曖昧な時間。

 

人は必ず、常に時間に追われる。

 

終わりは、また新たな始まりと同義なのだ。

 

 

 

U.C. 0079 9.1

 

 

 

「MS-06K"ザクキャノン"それに、MS-07"グフ"か……」

「はい。それが"キャノン付き"、"アオツノ"のペットネームだと言う事です。以降、この2機を"ザクキャノン"、"グフ"と呼称します。MSにも現在判明しているカタログスペックをデータリンクしておきますね」

「……分かったのは、これだけか……?」

「うーん?"ザクII"と似てますけど全然違いますねぇ」

 

軍曹が手にした電子ペーパーをやや目を細めつつ覗き込む。明らかに不満そうだ。

中尉も自分の物に目を落とすが、成る程、そこにあるデータはごく限られた物しかなく、その上アンノウンが目立っている。ポニーテールの上等兵は判明した情報から推測出来る事を書き込んでいるが、それでも元の情報が少な過ぎるので焼け石に水程度だ。

 

「仕方ねぇだろ?部品掻き集めて解析したんだけどよぉ…"ザクII"をベースに発展させた物らしく共通なパーツが多いんだ…かと思えば装甲の方式は全く違う……それに例の新型機もな…腹ん中は空っぽだしよ……おやっさんが居りゃなぁ……」

「無い物強請りしてどうする。分かった事だけでもいいから報告してくれ」

「"グフ"、かっこいいなぁ。ジオンばっか新型出してズルい!!」

「カタログスペックでは"陸戦型GM"の方が上ですよ?」

「そうじゃなくてー、えーっと…」

 

少尉は頭をかきつつ応え、伍長はボヤく。伍長に至っては全く役に立たない情報しか出さないあたり逆に清々しい。

 

「軍曹。軍曹から見たらどっちが脅威だ?」

「……こちらの戦力によるな…しかし…トータルで判断すれば、やはり"ザクキャノン"だろう……」

「えー?"グフ"の方がかっこいいのに?」

「やはり中〜長距離砲撃は脅威ですね。我が軍の"ガンキャノン"に当たる機体でしょうか?」

「…この120mm砲は対空砲の様だな…航空戦力に対しては脅威となるだろう……」

 

ここは占領した"バンジャルマシン・ベース"、MSハンガーだ。下手な市民体育館なんかよりはるかにデカい空間の端っこに、"ブレイヴ・ストライクス"のメンバーは今にも壊れそうなガタガタの木机を囲んでいた。

 

辺りには"MSトレーラー"に載せられジャッキアップされたMSに、所狭しと並べられ分解整備されている"キング・ホーク"、"ロクイチ"が立ち並び、その合間を整備兵達が走り回っている。MSの威容と比べ遥かに小さいその姿はまるで妖精の様だ。ゴツ過ぎるけど。

占領したのがつい昨日だと言うのに、良く使いこなすものだ。元連邦軍基地ではあるが、持ち込まれた資材も多いだろうに……。

 

随伴したその他の補給中隊や通信中隊、設営中隊といった後方部隊も走り回っている事だろう。両軍がどんなに被害を抑えるよう戦闘しても、出る被害は相当なものだ。

 

特に設営中隊はてんてこ舞いだろう。被害は地上の基地設備にとどまらず、地下の水道、電気、ガスなどのライフラインなどをはじめとするインフラストラクチャーのバイタルパートにまで及んでいたそうだし……。

ごめんなさい………。いや、なんとか発電、変電設備は無傷だし、タンクは壊さなかったじゃん………いや、ごめんなさい………。

 

「それにしてもなんで"K"なんですか?キャノンは"C"ですよ………ね?」

「……なんで疑問形なんだ……」

「それでよく日常会話が成り立つなぁ…」

「フィーリングで聞かにゃ伍長の話は理解出来ん」

「それはどーゆー意味ですかー!!」

「そーゆー意味だ」

 

伍長が電子ペーパーでひらひら扇ぎなから言う。珍しく気だるそうだ。それでも目は"グフ"の写真から離されていないが。好きだねぇ本当に。

気だるげ……そうか、そういやもう9月か…。今、南国にいるから実感は無いけど、日本じゃ夏も終わりか。

 

終わり……この戦争の、終わりはいつなのだろうか?

 

いや、来るのか?本当に………?

 

「……そういや、俺も気になってた?なんで?」

「今は関係ないが………上等兵、分かります?」

「はい。確かに英語での綴りではCですが、おそらく"kanone"、ドイツ語なのでしょう」

「…または、大日本帝国陸軍の呼称、"加農砲"の"加"か、"K"だな…」

「………」

「……な、なるそど…分かりません!」

「どもった上に噛んでるぞおい」

「伍長、つまりですね…」

 

上等兵が伊達眼鏡をかけ伍長相手に青空教室を始める。最近伍長は上等兵とT・B・S女の子の会を立ち上げたらしい。それが何故伊達眼鏡に繋がるのかは謎だが。髪型を変えるのもポイントだとかなんとか言っていたが、男には分からん話である。

それに、この光景も見慣れたものだ。教師は今日は上等兵であるが、中尉、軍曹が務める事も多い。伍長はいつも生徒だが。

 

そこから目を離した中尉は辺りに首を巡らす。ズラリと航空機が並べられた光景はかつて見た"アンデス"のハンガーを彷彿とさせる。あの時見た航空機の何割がまだ現存しているのだろうか。あぁ、あの頃に"陸戦型ガンダム"があったら……。一個小隊で"ジャブロー"までひとっ飛びだったろうに…。

 

連邦地上軍の対MS戦闘に最も活躍しているのは航空機で、それこそそこそこの戦果を上げている。

しかしその戦果は相当の犠牲の上に成り立っている。撃墜対被撃墜比率(キルレシオ)は少なく見積もっても1:6程度だそうだ。現在でこそ少しずつ対応策が練られ実行されているが……。

 

"マングース"に乗っていた時期を思い出す。それは遙か昔の事のようだ。しかし強烈に覚えている。

 

眼下に見下ろす"緑の巨人"が向ける銃口、輝く一つ目。地球の空を守り続けて来た守護神の翼が捥がれ、あげる断末魔。

 

実戦で飛んだのはたった2日。その2日で中尉の愛機は鉄クズにされたのだ。

 

今もフライトシミュレーターによる訓練を中尉は辞めてはいない。やはり今こそMSに乗ってはいるが、やはり自分は空が好きなのだろう。

 

気付けば、自分が連邦軍の兵士になったあの日がまるで遠い昔のようで。

それなのに、ここまで辿ってきた道程はつい昨日のようで。

ただ、長い長い戦いを経て漸くここまで来た。その戦いはこれからも、いや、これから本格的に始まるのだろう。終局は、まだ全く見えない。

 

しかし、勝てなくとも、負けるつもりはない。生きている限り、勝利はあり得る。

 

追憶に浸って居た中で中尉がふと目を留めたのは、テイルローターを持たない独特の形状をした数機の攻撃ヘリだった。

 

拿捕され"モルフォ"と名付けられたその攻撃ヘリは"ブレイヴ・ストライクス"の航空戦力に組み込まれ、データ取りが済み次第大破するまで使い潰される予定らしい。

拿捕されたとは言え、兵器とまで最期まで使われる。それが兵器としての本望なのかも知れない。

 

「そういや、軍曹が倒した"青いザク"、データによっちゃ以前にも戦闘経験があるんだな。つくづく何者だよ」

「ただの新米だ。軍曹はベテランだけどな。で、分かった事は?」

「コイツだ」

 

少尉が新しい電子ペーパーを差し出すのを受け取り、軍曹と一緒に覗き込む。"ザク"の趣きをだいぶ残してはいるものの、殆ど別物といってもいいレベルだった。以前は余裕がなかったため、今回が殆ど始めての解析となる。

 

「…水中ではともかく、地上では"ザクII"以下だ……」

「そりゃ何でもかんでも"ザクII"じゃ無理だろうけどさ…それでも1対5で敵を翻弄するか普通……」

 

スナイパーは確かに捕虜にはなれないなと思う。優秀な者ほど特に。

 

「……期待には、最大限の結果で応える……それだけだ……」

「かっけぇ、そんな事サラッと言える男になりたい……」

「であるのなら、仕事をこなして下さい」

「…………」

 

戦場に置いて見えない脅威ほど恐ろしい者はない。それが与えるプレッシャーは想像を絶する。しかしそのプレッシャーはスナイパーにも言える事だ。見つかったら最期、圧倒的な数に押し潰され嬲られるのだから。

 

炸裂した爆弾や砲弾が兵士を纏めてゴミのように吹き飛ばし、毎分数千発という勢いで撃ち放たれた機関銃の弾が兵士をバラバラにして血霧を飛ばす。

戦場での殺し合いは、誰が誰を殺したなど分かるはずもない。

………ただ一つの例外、スナイパーを除いて。

 

だから、スナイパーは捕虜になれない。

 

軍曹は、目標を吹き飛ばす時、一体何を考えているのだろうか。

 

「コイツから考えて、"ザクII"がジオンのスタンダードなんだろうな。取り敢えず新型作るならコイツをベースに……で、対応できなかったら、全く新しい物を…って感じか」

「…あの"クロダルマ"もか……?」

「そうだ。だから解析がすすまねぇんだ…クソッ」

 

"ザク・マリンタイプ"と呼ばれるらしい機体ではなく、それらしく無理やり調整した機体であったらしいが……ジオン、苦しいのか?

それに新型機、通称"クロダルマ"も殆どが"ザクII"のパーツの流用らしい。軍曹曰く見かけに反して素早い動きだったらしいが……。今分かる事はそいつが"ザクII"のパーツを多数使用している事、流線型を描く丸みを帯びたボディはステルス性を考慮したのでは無いかという事だけだ。

装甲が薄かったため、軍曹機の"180mmキャノン"で吹き飛んでしまったのだ。バラバラになった破片からはそれこそ断片的な情報しか獲られず、解析は難航している。

 

「うぅ…暑い……あ〜…」

「伍長、しっかりして下さい」

 

向こうでは暑さにヤられ萎れた伍長が机に突っ伏している。小柄な伍長が体重を加えるだけでギシギシと不安気な音を立てる机にビビる。

最新の基地つっても、末端はこんなもんである。

 

現在中尉達がいるMSハンガーは広く風通しが良くなる様設計されていたが、開放されるべき巨大なドア、窓は締め切られ蒸し風呂状態である。暑くないと言う方がおかしいのである。

 

なぜ扉を開けないか?それはここ"バンジャルマシン・ベース"は海岸沿いであるため、吹き込む風は潮風であるからである。現在ハンガーでは精密機器の修理、調整を行っている。潮風は機械の大敵だ。

もちろんMSを始めここにある機体はすべてその様な環境に対応出来ない様なヤワな兵器では無いが、イレギュラーは極力減らすべきと言う判断からだった。それにいくら表面が強くとも内部はそうはいかない。

 

その様な理由から締め切られたハンガー、その中では大の男達が大声で怒鳴り合い、汗をかきつつ走り回り、重機が唸りを上げている。

 

人や重機の出す激しい騒音に加え、そこには更に人の出す汗の臭いに重機の潤滑油、流体ポリマー、工業用アルコールや有機溶剤、石油にゴムとあらゆる臭いが混じり込み、閉め切られた空間内に充満している。

 

うん。労働環境は最悪だ。

………いや、確かにそうだけどさ、俺ら軍人だよ?少しは我慢しようよ?むか〜しの潜水艦とかロケットとかはもっとだよ?

 

「でもよ〜アチいのは俺もだよ……あー…」

「……少尉ぃ〜泳ぎませんか〜……」

「いや、あのな……仕事あるだろ……」

 

中尉がうんざり顔で苦言を漏らす。軍曹と上等兵も呆れ顔だ。2人はその事に気づいてはいないが。

 

「今話題の水上スキーでもやる?」

「和弓持って?」

「軍曹、和弓経験ありますか?」

「……ないな。クロスボウならある、が……」

 

軍曹……今度上陸作戦にロングソードとクロスボウで装備を固めても生き残れそうだな……。伍長はもちろん装備を落っことしドロにハマる役だ。

 

「あ、その場合しょーいだけノーマルスーツでクロールで〜」

「バナァァァァァァァアアジィィィィィィィィイイイイッッ!!!!」

「誰だよ?」

「知り合いに居ますか?」

「…………3人ほど……1人とは、連絡がとれていないが……」

 

いるのかよ。だから誰だよ。軍曹顔広過ぎんだろ。

 

「ま、ねぇんだけどな……はぁ……」

「ないの?」

「ねぇよお馬鹿!」

「なんでないの!?そんなの絶対おかしいよ!!」

「逆になんであるとおもうんだよ!?」

「……しょーいのばか。もうしらない……」

「え〜……」

 

好き勝手言った後、伍長は炙ったマシュマロの様になり机に突っ伏した。あ、コレダメな奴や。

 

伍長は本当に暑さに弱い。ちなみにご本人様曰く寒さにも弱いらしい。極端な環境に弱い典型的なスペースノイド体質だ。

 

「…クーラーが無いなんて……うぅ…」

「我慢して下さい。基地設備も全て復旧しているわけでは無いのですから、節約出来るところはしましょうとの通達です」

「上等兵の言うとおりだ。"アイリス"だって調整が必要だし、我慢してくれ。"アサカ"と合流(ランデブー)すりゃ終わんだから」

「……う?」

 

溶け始め机と今にも一体化しそうな伍長を励ます。伍長はゆっくり目を瞬かせながらうなづく。ヤバい。言語がヤられたか。しかし、ヤツは四天王(だけど五人います)の中で最弱!まだやれる!!

 

「あー!やってらんねー!!

………いや!待て!!上等兵、暑くないか?脱ぐ!?それとも汗で透ける!?」

「不愉快です」

「おい黙ってろユーグレナ。いい加減にしろよロックフォート島にブチ込むぞ」

「何章ぶりのネタそれ!?」

 

よく覚えてんなコイツ………気持ち悪っ!!

 

「…しょーいのすけべ〜。人間として生ゴミ〜」

「……下らん…」

「なんなの皆して?!何!?何で世界はこんなにも俺に厳しいの!?少しは俺の希望通r…」

 

暑くダレてる割りには妙なテンションを引きずっている少尉を上等兵が一刀両断する。

 

「ダメです。不満があっても聞きません。目と耳を塞ぎ、口を噤んで孤独に生きて下さい」

「そこまで言う!?」

「分かった。今用意するからコンクリート抱いて海に沈む感じで泳いでこい」

「何でそんなフジヤマギャングパラダイスのヤのつく自由業みたいな事言ってんの!?」

「なら首まで埋めてスイカ割り」

「前やりましたね!今度こそ一撃で…」

「一撃でどうする気だ!!」

 

なんだよ。せっかく提案してやったのに。何か言うとすぐ文句ばっか並べやがって……何が不満なんだよ。

 

「うるせーな。そもそもお前に人権があるとでも勘違いしてんのか?」

「ブラックを通り越してダークマターだったこの職場!!」

「……あぁ〜…なるほど……だから"アサカ"ちゃん、オリョクルに行ったっきり帰って来ないんだねぇ〜…」

「ちげーよ!!そもそもあんなランニングコストがクッソ高いの出して採算が取れるか!!」

「やたらテンションたけーなオイ」

「久しぶりの出番ですから」

「そーいや作者にも忘れられかけてたからな」

「ずっとスタンバってました……」

 

いや、"アサカ"は核融合炉で動くから燃費はいいんじゃね?ヘリウム3は取れ辛いどこらか宇宙でしか取れないし、船体は維持費やっべぇけどアレ。あの金はどっから来てんのかな?コーウェン准将大丈夫かね?息してるかな?

 

つっても今のウチこそ資源枯渇しててヤバいからなぁ……弾薬無し、装甲予備無し、フレーム予備無し、駆動系少し、電装系少し、疲労度真っ赤……。これは酷い。マイド閣下にヒントを貰いたいぐらいだ。あまった何かで撃てルンですでも作れねーかな?

 

「じゃあやっぱ紺碧の艦隊に行っちゃったんですね……」

「行ってねぇから!!………てか…アレ!?向こうの方が性能良くね!?」

「しかし、その性能でも生物(ナマモノ)兵器には……」

「それも違うわ!!しかし、そう加味すると"アサカ"って案外………」

「そうですよ!今度おやっさんに言って宇宙潜水艦"アサカ"にしてもらいましょう!!」

「いいかもな!ショックカノンと波動砲もつけようぜ!!」

「……潜水艦………?」

「宇宙のどこに潜るのでしょうか?」

 

"アサカ"にゲシュ=ヴァール機関は装備されてねぇよ。んなもん積むんなら波動エンジン積むわ。

 

ガタンと椅子を蹴立てて伍長と少尉が立ち上がりガッツポーズをキメる。そんなポーズよかなんか悪いクスリをキメてる様にしか思えんのは俺だけか?

 

まぁ、"アサカ"は……コンセプト的にはマジで、こう……何?潜水航空戦艦?

 

…てか誰かこのバカ2人を黙らせてくれ。

 

「……熱で、頭が沸いたのか……?」

「いや!フロンティアスピリットが疼いてるんだぜ!!」

「疼いてんのは脳だろ。つーかなんだよさっきからのテンションは?出番がなさ過ぎて忘れ去られそうだとか焦ってんの?」

「独房に入れて頭を冷やさせますか?」

「どーかんです…」

「…伍長、お前もだ……」

「ええ!?」

 

つーか不安だ!!主戦力の1/3に整備班長(代理+仮+バカ)だよコレ!?

そして座ろうとコケる伍長。チイッ。運動能力もヤられたか!?しかし、ヤツは四天王(全員が自称永遠の3番手)の中で最も気が利く。惜しい奴を、亡くしたな……。

 

「……………暑さが全て悪い……」

「…うぅ……それは同意です…こんな無茶を言う人は、ラッコに頭を割られればいいんですよ……」

 

再び机に突っ伏す2人。仲良いなこいつら。たまに言い争いしてるし……見てると、喧嘩は同じレベルでしか発生しないって本当に的を得てると実感するな。

 

「ラッコ、にですか?」

「…なぜ、ラッコなんだ……?」

「さ、さぁ……?そもそもそんな無茶言ってねぇし……」

 

………伍長の頭が限界を迎えてる気がする。どうしよう、頭の悪いのだけは取り替えがきかんし……。

 

「伍長はともかく…少尉、お前文句多すぎだろ」

「うるせーやい!暑いし女の子少ないしでもう限界だ!!」

 

思春期か!んなもん殺して翼でも生やして出直して来いよ。なんだかんだでハッピーエンドになるよ?

 

「女性兵士なら伍長と上等兵がいるじゃねーか」

「そーゆー話じゃねぇんだよ!小隊長だって俺の居ない時にロリっ子ちゃんときゃっきゃうふふしてたんだろ!!まったく!小学生は最高だぜ!!」

 

ドンと立ち上がりつつ机に手を打ち付ける少尉。何そんなワケの分からない理由でこんなにブチ切れてんのかまったく分からん。はぁー、最近の若いモンの言う事はサッパリだ。時代だなぁ……。

 

「憲兵さんこっちです!ってマジで来た!?ちょ、落ち着け」

「……騒いで、すまないな……」

「は、はぁ。全くですな…」

「小五とロリを足したのかな?」

「そんな悟りは必要ありません」

 

軍曹が憲兵さんに応対している。憲兵さんは渋々と言った様子だが目はキラキラだ。軍曹のカリスマ性すげーな。

 

「…ま、まぁ落ち着けって」

「そうです、落ち着いて下さい。机が痛みます」

 

因みに少尉は手を叩きつけた拍子に顔をめちゃくちゃ顰めていた。机より手首が大きな音を立てていたし。つーか現在進行形である。バカだコイツ。こんなポンコツ机に負けんなよオイ。

 

「正気で……いられるか!!」

「正気でいろよ!!落ち着け!!」

「落ち着いていられるかぁ!!」

「正気でいろよ!!」

「正気で……ってコレ2回目!!」

「落ち着け!!」

「うるせーよ!!おちょくってんのか!?」

「今更気づいたの?」

「うがぁーっ!!」

 

少尉が天を仰ぎ雄叫びを上げる。煽り耐性ひっくいなーコイツ。豆腐通り越しておからメンタルだわ。

 

「……ハァ……」

「休憩にしますか?」

「……そう、だな…………」

「……さんせーです……」

「いっつもそうだこの!!小隊長は!!」

「知るかボケェ!!まったくこの少尉め!」

「誰がスタースクリームだぁ!!」

「んな事言ってねぇよ!!話聞けや!」

「程々にしておいて下さいね?」

「……コーヒー、淹れるか……」

 

軍曹と上等兵が顔を見合わせ、肩を竦める。中尉と少尉はそれにきづかず、その場をヒートアップさせていた。

 

「今こそ決着をつけてやる!!」

 

少尉が立ち上がり、中尉へと向かって手袋を叩きつける。

 

「よけんなよ!!」

「いや、反射的に…」

 

しかも片方は空気抵抗に負け中尉に届かなかった。これはヒドい。

 

「うぅ……テイク2!!いや!フロンティアスピリットが疼いてるんだぜ!!」

「そっからかよ!!めんどくセーよタイムリープの恐ろしさを味わいそうだよ!!」

 

愚痴を言いながらも中尉がそれを受け、両者の間に緊張が走る。

 

…………中尉も中尉で他人をとやかく言えるほど冷静では無かったという事だろう。刀の峰はどっちだっけなどと物騒な事を呟いていた。大概である。

 

「で?何のだよ?あ、アレか?プラモデルの件か?アレは…」

「プラ……? まさか!俺のランチャーストライクを素トライクにしたの貴様かぁ!!ソードも解体しやがって!!」

「違いますー解体なんてしてませーん!ただ俺のエール君の近代化改修のエサに使っただけですー」

「!! このっ!!グランドスラムもなく所在無さ気にアーマーシュナイダーのみを寂しく構えている素トライクさんの気持ちにもなれぇ!!」

「アーマーシュナイダーの良さも分からんとは!だから貴様はアホなのだ!そもそもあんな邪神モッコスの成れの果てみてーな低クオリティーで作んのが悪い!!ストライクが可哀想だ!!それでホント整備兵かお前!?新しく作り直した方が早いし安くね?って思ったわ!つーかそうだったわ!!」

「邪神モッコス扱いだぁ!?許さん!!」

「ふん!」

「ぼばっ!?」

 

身構えた少尉の顔面に中尉がローリングソバットをぶちかます。問答無用にも程がある。

 

「………ギギギ…マジ蹴りかよ………」

「安心しろ、峰打ちだ」

「速いwwwww見えなかったwwwwwwwwなんて素早いチャージインなんだwwwwwwwww 」

「伍長が限界ですね。除草剤ありますか?」

「……技術少尉より、重症か……?」

「ふふっ。そんなしょーいも素敵ですー……しょーいの抱きこごち、冷たくて気持ちいー」

「伍長、それはドラム缶です」

「……中尉が、メカ沢君並に太っている訳は…無いだろう……」

 

止める事を諦めた2人によりツッコミ不在となったこの空間はカオスの巣窟と化した。もはや軍隊も規律もクソもないレベルである。世紀末過ぎる。

 

「まぁ……アレだ。なんの予告も無しに蹴ったのは悪かった。今度は言ってから蹴るから」

「蹴らないと言う選択肢はねぇのかよ!!」

 

因みにこの部隊、一応最新鋭機を擁する地球連邦軍唯一の特殊部隊であるはずなのだが……。

 

「Show me your "MOVE"!!」

「OK!!」

「ごっへ!?」

 

返事と同時にズドンとマテバをぶち込む中尉。腹部にゴム弾を喰らった少尉が吹き飛ぶ。

 

「おごごごごご………」

「勝った」

「銃は禁止!」

「何故だ!?実戦的な決闘で……」

「とにかく禁止です!!もう!!」

「むぅ…分かった…納得は出来んが……」

 

再び両者の間に緊張が走る。しかし少尉の顔には足蹴にされた跡がくっきり残っている上、腹にゴム弾を喰らったせいで足腰が産まれたての子鹿の様になっているため間抜けにしか見えなかった。

 

「見ていてくれ上等兵!!俺の勇姿を!!」

「拒否します」

「ええぇ!?」

「わたしが生温かく見守ってますよー。少尉ファイトー」

「混乱しつつ何的確かつ何気にヒドい事を!?」

 

気を逸らしたな!!それが貴様の敗因だ!!

 

「先手必勝!!P.Kファイアー!!」

「ぎゃぁぁぁああ!!ラッカーとライターとか殺す気マンマンじゃねぇーかァ!!」

「焼き払えー!」

「どちらかというとファイアーフラワーですね」

「…そうだな……」

 

即席の火炎放射器に炎を吹き付けられた少尉がのたうちまわる。それを追いかけながら火を噴射し続ける中尉。外道である。

 

「喧嘩だ喧嘩!!江戸の華だ!!」

「よぉし!!俺は中尉に30ドル!!」

「俺は……そうだな、中尉に35ドル!」

「ふっ、甘いな、貴様ら……ここは中尉に25ドルだぜ!!」

「俺にもかけろよ!!ぎゃぁぁぁぁああ!!」

 

騒ぎを聞きつけ集まってきた整備士達が取り囲み囃し立てる。賭けも始まりお祭り騒ぎ、場はどんどんヒートアップして行く。

 

もちろんハンガー内は火気厳禁である。そこらに可燃物がゴロゴロしているので、良い子は絶対に真似しちゃダメだぞ!!

 

「もちろんメタルブルーだ!太陽に爆ぜろ! 」

「うぎゃぁぁぁぁ!!身体が!!身体が熱いぃぃぃ!!」

「パイソンになって出直すんだな!ザンジバーランドは待ってくれんぞ!!」

「行かねーよんなとぎゃぁぁぁぁああ!!」

「汚物は消毒だ!!燃やしつくせ!命の燃料の一滴までなぁ!ふへはははは!!」

 

そーいやザンジバルとか言う艦あったっけ?これから毎日艦を焼こうぜ?

 

「鬼畜かお前は!?」

「そう呼ばれる覚悟は出来ている!!」

「捨てちまえんなもん!!」

「…伍長は、寝たのか………」

「タオルケットをかけておいて、後で部屋に運びましょう」

 

アフロかつ真っ黒焦げになり煙を上げる少尉が怒鳴る。うるせぇコイツ。

 

「武器を使うとは卑怯な!覇王翔吼拳を使わざるを得なくなるぞ!!つーかさっき禁止って言われたばかr…」

「ふん!」

「ぎゃぁぁぁぁああ!!」

「…立ち上がるところを、蹴っ倒したな…」

「中尉はヒーローの変身中に空爆支援要請とペインティングレーザー照射を行うタイプですね」

「拳というのは時に、口よりも多くの言葉を語る」

「なんとなくわかる気がしますが、 語り合ってどうするのですか?」

「それでも届かない時もある」

「……」

「そういう時は、蹴る」

「……」

 

訳の分からない事言ってんのが悪くね?うん。

いや、でも変身シーンは攻撃しないと思う、よ?多分。その間に罠ぐらいは仕掛けると思うけど。

 

「………腕の骨が折れた……」

「いっぱいあんだからいいだろ?」

「この骨は一本しかねぇよ!!オンリーワンだよ!!」

「単純骨折なら3時間で治るんじゃないですか?」

「んなわけあるか!!クソぅっ!!喰らえ!」

 

立ち上がった少尉がパンチを放つ。正直タフ過ぎて気持ち悪い。

 

「菜食主義者みたいなパンチだな。ふっ、章へ行け!!」

「グァァァァアアア!!!」

「「あ、あれは!!幻の右!!」」

『YOU WIN』

 

パンチを流し、懐へと飛び込んだ中尉が強烈なアッパーカットをぶちかます。吹っ飛ばされた少尉はエコーのかかった断末魔を上げながらクルクルと回り、キラリと光り空に吸い込まれて行った。

どこからとも無く現れた電光掲示板が光り、バトルの終わりを告げた。

 

「エイシャオラァッ!」

「中尉の勝ちだ!」

「さっすがぁっ!!」

「いいパンチだった!」

「ナイスファイト!!」

「安牌過ぎたな」

 

腕を振り上げアピールする中尉を周りが囃し立てる。

 

「…………アレ……?」

 

その時、はたと気づく。

 

「コレ、ヤバくね?」

「「あ」」

 

ヤバいどころの騒ぎでは無かった。

 

「…み、3日間逃げ切れば無罪に……」

「そんな世紀末風な掟はありません」

「と、取り敢えず少尉を回収……天井に刺さってるな」

 

高さ30mはあろう天井に設置された伝統に少尉は頭から突き刺さっていた。訳が分からないよ!!

 

「少尉が死んだ!!」

「この人で無し!!」

 

って言ってる場合じゃないな……。うーん……。

 

「軍曹。少尉が突き刺さってる電灯の外枠、射撃して破壊してくれ」

「……可能だが…」

「それは、山岳地帯におけるロープでぶら下がった死体の回収方法ではありませんでしたか?」

「まぁ同じ様なもんだろ」

「同じなのですか?」

 

同じだろ。うん。少尉だし。

 

軍曹がM-68A2を取り出した。しかししまう。次に取り出したのはアーチェリーだった。毎回思うが一体どこにしまっているのか……。

 

弓を引き絞り、放つ。放たれた矢は少尉を掠め電灯をピンポイントで破壊し、引っかかっていた少尉の身体がおっこってくる。

地面に叩きつけられた少尉は白目をむいて泡を噴いていた。………………いや、何で息があるんやろかコレ。

 

「どうしますか?」

「んー、電気ショックで」

「そんな事して大丈夫なのでしょうか?」

「あー、大丈夫だろ。コイツこの前俺が差し入れた腐ったレーションを4つ食ってケロっとしてたから」

「……少尉……」

「止めましょうよ」

「幸せそうな顔してたから……」

「…任務…了解……」

 

軍曹がバッテリーを調達、その場で組み立て少尉に処置を施す。

 

通電と同時に身体が跳ねた。なんか釣り上げちゃったシャコみてーだ。そして、この後まんたーんドリンクを飲ませれば………。

 

「…………はっ……ここは誰?俺はいつ………?」

 

目覚めた。すっげ。無事ではなさそうだが。特に頭。

 

「タフだなー」

「ですね」

「………何やった?」

「電気ビリビリ」

 

それ以外もやってけど、聞かれて無いからいいよね?

 

「……………どんだけ荒療法だよ」

「まぁ、そうなるな」

「それでも一応効果はあるのですね」

「不思議が一杯だな人体」

「………バカでもカゼは引くから助けてナースエンジェル!!!」

「風邪と人体の丈夫さは関係無い気がしますが、お2人にはお話があります」

 

あっ……………。

 

 

 

 

 

 

 

 

「火気厳禁エリアでの火器の使用。勤務時間内での無許可の私闘。基地設備の破壊。賭博幇助。軍法会議ものです。それが分かっていますか?」

「はい……」

「………あり?なんで俺、こんなとこで正座してんだ?」

「SELNが開発した空間転移技術の実験台にされたんだよ」

「……え?もしかしてゲルってる?いや、そもそも俺殆ど関係n……」

「分かりましたか?」

「「はいぃ!!」」

 

なんか、俺、最近正座してばっかな気がする。もうすぐで二十歳になるのに……。

天井では軍曹が空いた穴を塞いでいる。何故出来るのか?そーいえば逆に出来ない事ってなんだろうな……。

 

「物損ってお前のせいじゃん!!お前が天井に突き刺さるのが悪い!!」

「天井に突き刺さる様なアッパーかましたお前のせいだろうが!!つーか今日で俺何回臨死体験してんだよ!!空色のペンでカレンダーに三重丸書けるレベルだぞコレ!!」

「お前の臨死体験はどうでもいいんだよ!!」

「よかねーよ!!火器使ったのもお前だろーが!!日本の諺にもあるんだろ!?陸奥の第3砲塔とコンボイ司令官は爆発するものって!!」

「ねぇよ!!それとコンボイ司令官は落ちるものです!!」

「2人とも、反省という言葉を知っていますか?」

「勿論!振り向かない事だ!な?」

「若さだよ!それは!!」

「僕らは昔、宇宙刑事に若さとは振り向かない事だと教わった!」

「教科書には書いてなかったな…」

「はっ、このマニュアル人間が!!」

「マニュアルすらまともに読めないクソ整備士が何言ってんだ?神様に誓うが、神様にも無理と言われてんのか?つーかメッキ剥がれてんぞ?素が出てる」

「素じゃねぇ!!タイプミスだ!」

「余計わけわかんねぇよ!!」

 

仲良くならんで正座した状況においてもいがみ合う2人。バカ丸出しである。

 

「わけわかんねぇのは小隊長だろーが!!"ジーク"が勝手に動いただの左腕部アクチュエーターのレスポンスが悪いだの!」

「事実だから仕方ねぇだろ!!あとデュアルセンサーとFCSもなんとかならんのか!?」

「出来るわきゃねーだろ!!おやっさんみたいな化け物クラスと一緒にすんなや!!どーせ小隊長の操作ミスだろ!!」

「言い訳かこの!ふっ!」

「うごほっ!?」

 

中尉が正座したまま肘打ちする。正座を崩さず上半身を殆ど動かさず放ったのは凄いがその努力をもっと他の事に向けられないものか……。

 

「あー、ごめんボタン間違えた。話しかけようとして攻撃しちまったわー。ところでピンチだからセレクトボタン押していい?」

「…うごごご……この野郎!金を得るため一般人を蹴っ倒そうとするもぶつかり多段ヒットしてくたばれ!!」

「うるせーよドア開けたら頭にナイフ刺さるか落とし穴に落ちろ!!」

「なんだと!?てめーこそライフルの弾は切れマッチョにもなれずライフルを振り回しながら詰め!!」

「お前はかりうを一気飲みしてろ!!」

「腰の高さの段差から落ちてくたばれ!!」

「罠にかかりナメクジになった後くたばれ!!」

「いい加減にしてください」

 

しょうもない言い合いを続ける2人を上等兵が断ち切る。無表情な鉄面皮がやや崩れ呆れ顔だ。

 

………………なんか、ごめんなさい。

 

「罰則を決めます。中尉はこの後伍長の看病をする事。少尉はMSに紐で繋いで100kmマラソンです」

「わかりました」

「わからねぇよ!!殺す気か!!」

「割り切れよ、でないと、死ぬぜ?」

「割り切ったら死ぬんだよ!!」

 

ギャーギャーとやかましい。全く、何が不服なんだ?

 

「仕方ない。ここは基地の対空レールガンに込めて射出で手を打とう」

「仕方ありませんね。特別ですよ?」

「何も仕方なくねぇよ!ある意味特別だけどさ!!」

「ならいいじゃん?いいなー特別扱い」

「…………」

「そう凹むなって。お前らしくなくて気持ち悪いから……まぁ、お前の頑張り次第だろ」

「頑張ってどうにかなるかァァ!」

「ともかく、今は仕事をして下さい。わかりましたね?」

「了解!」

「……はい………」

 

 

沈黙する少尉に背を向け、上等兵は伍長をファイヤーマンズキャリーしている軍曹の隣へと小走りで並び、話しかけながら歩いて行った。中尉と少尉はそれを正座しながら見送る。そこはかとなくシュールな光景だった。

 

「「……………」」

 

喧騒の中、沈黙する2人。一瞬、音が全て無くなったかの様に錯覚する。

 

「………上等兵は、さ……」

「何だよ」

 

立ち上がって埃を払う。少尉は立ち上がろうとしてよろけたので助け起こす。掴んだ手はマメだらけだ。

 

分かってるよ。お前が優秀で、努力家なのは。いつもありがとうな。

 

「………ん、いや。で、"ジーク"の事だったか?」

「あぁ。左腕部アクチュエーターはともかく、OSなどのソフト面からコクピット周りのハードまで、何か異常は見られなかったのか?」

 

乾いた足音を二つずつ立てながら、2人が"ジーク"の元へと向かう。

 

「あぁ。自己診断プログラムを新しく組み直しもしたが、それでもだ。俺たちも含め確認したが、余計なファイルも、回路も、書き換えた後も、なーんにも、だ」

「…中枢制御ユニットの方は?統括コアは?」

「異常ナシ、だ………おかしなくらいにな」

 

その言葉に少し前を歩いていた中尉が立ち止まる。振り返り見た少尉の顔は懐疑にゆがんでいた。

 

「…ホントはな、左腕部アクチュエーターもほぼ限界に近かったんだ。けど、それでも、アレだけの稼働率を示してるのはな、ソフトからの干渉だったんだ」

「……どういう事だ?」

「それにソフトから?それはどこからだ?」

 

その質問に答えず、少尉は立ち止まった中尉を追い越し、"ジーク"を整備している整備士達に声をかけながらタラップに足をかけた。

 

「……つい最近からだ。時折、プログラムが変化している事がある。少しずつだが、確実に。

それによるエラーも勿論ある。それも、すぐ更新され効率化、最適化されて行っている……」

「………………」

「まるで……自分で学び、進化する様に……な」

 

中尉がタラップに乗り込むと、柵が自動で閉まった。タラップは一度身震いするかの様に揺れ、2人を載せゆっくり上昇し始める。

 

「バカらしいと思うか?俺も初めはそう思ったさ……しかし、バックアップと比べた後、バックアップすら更新されていた時、疑問は確信に変わった……」

「…………」

「性能は上がっている。アレ(・・)以前にも今も問題は無い。以前として信頼性もある………」

 

タラップが揺れる。手摺を掴んだ中尉は眼前の"陸戦型ガンダム"を見つめる。度重なる戦闘と改修で、出会った時とは似て非なる物となっている。自分の専用機だ。

 

「…俺は今"ジーク"の機付き整備士だ。おやっさんにゃ敵わんが、コイツのほぼ全てを知り尽くしていると言っても過言じゃねぇはず……そんな俺でも、全く手が出せないトコがあんだ」

 

タラップがコクピット前で停止する。解放されたコクピットには計器の灯りがぼんやりとともっていて、どことなく不思議な印象を与える。

 

「手が出せない、ねぇ……」

「ココだ。コクピット真下。シートとほぼ一体化してるトコなんだが……凄まじく複雑な上、重要な部分はブラックボックス。さらには向こうからの干渉で電源すら切れなくなっちまった…」

「いつも他の、特に"イージス"のコンピュータと繋がってんだったっけ?」

「そうだ……おい!!クレーン!!そうだ。8番を回してきてくれ!!」

 

少尉が指示を出し、天井と一体型のクレーンが近寄ってくる。そこから垂らされたワイヤーを掴み、少尉がコクピット内へ滑り込む。

 

「……以前電装系を辿った結果わかったんだが…そこ、固定してくれ、そうだ」

 

少尉が手際良く作業しながら言う。それを手伝いつつも、中尉は今後を考えていた。中尉が兵器に求める一番は信頼性だ。だが、中尉には部隊を守り、MSのデータを収集する使命がある。最新鋭機であり虎の子の兵器であるMSはいまだ試行錯誤段階であるが、"ブレイヴ・ストライクス"隊の戦力の根幹をなす重要な存在でもある。遊ばせる余裕は全く無い。

 

コイツ(・・・)は教育型コンピュータ、引いては機体のコンピュータ系の根幹を成してる場所なんだが……。ハード、ソフト関わらず深く関係しててな……コレだ……」

 

シートが持ち上げられた元を見る。そこには厳重に装甲を施されたボックス状のユニットが格納されていた。

 

「伍長や、軍曹のには?」

「ついてない。おやっさんの特別(・・)ってヤツなんだろうな…」

 

その表面に触れ、フチをなぞる。

 

「見た事の無い機材だ。全くわかんねぇ」

「……まぁ、何はともあれ、乗るさ。俺は………それに、この字……

…これさえ分かりゃ俺は十分さ」

「そうか……俺はアンタを信じるぜ、小隊長」

「いい整備、いつもありがとう。今後ともよろしく頼むよ。どんなハイテク兵器も、整備して動かにゃ役に立たんからな」

「いいって事よ!おやっさんと一緒さ。ココが俺の戦場だ」

 

少尉が立ち上がり、コクピットから這い出す。それを見上げ、すぐ目の前の字に目を戻す。

 

 

 

 

 

 

A.L.I.C.E.。

 

Zephyr.。

 

雪風。

 

 

 

 

 

 

 

別々の言語で書かれた、3つの文字。

 

一つを除き、意味すら分からない。

 

だが、"雪風"だけは、分かる。

 

この真っ白なペンキで達筆に描き出された字は、見間違い様がない。

 

これは、軍曹の字だ。

 

「………"雪風"………………」

 

"雪風"、か……………。

 

まるで妖精か、チェシャ猫に化かされた様だ。

 

「……頼むぜ、"ジーク"………………

俺は、お前を信じてる」

 

もう一度字をなぞる様に撫でなごら、誰に言うともなくつぶやく。

 

そのままコクピットを這い出し、その場を後にする。

 

中尉は気付いていなかった。微かに唸りを強めた"陸戦型ガンダム"の中枢部は、新たな理論の構築に入っている事を。

 

 

 

 

 

『語りえぬものについては

沈黙しなければならない』

 

 

強い光を放って……………………

 




ダラダラ書いてたらトンデモない事に…………。

夏休みとは恐ろしい。でも、やっぱり短い(笑)。

今年は去年と比べて蝉の声が小さい気がしますね。なんか異常気象や災害も多いし、外国もきな臭さが尋常じゃなくなり始めてるし……。

自分は好きな事を快適な環境でやれてる。この幸福感を噛み締めてます。


結局名前はまだ名無しです。一応考えてはいますが……これ以上意見があったら、と言うことで……。

名前と一緒にこれから乗るであろう機体の改良案を妄想してます。これが一番楽しい(笑)。自分はガンプラ大好きですが、合わせ目消しと部分塗装が関の山、改造、ミキシングビルドなんて夢のまた夢……技術とお金が足りませぬな(笑)。
イオリ・セイみたいに、イメージを形に出来ると言うのは凄い事で、凄い日本人敵な事だなぁと考えたりしてる、今日この頃です。

次回 第六十章 嵐の前の静寂

「きゃー!!わたしのジムがぁぁぁっ!!」

お楽しみに!!

↑このお楽しみに!! ってテキトーに考えたので、名前付けるテストヘッドとして変更してみるかも知れません(笑)。
やってみよー!!

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