機動戦士ガンダム U.C. HARD GRAPH 名も無き新米士官の軌跡   作:きゅっぱち

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最近暑くなって来ました。

自分としては暑いのが大好きなので嬉しい限りです。

海行きたいですね。某国がミサイルぶち込みやがりましたが。

集団自衛権が徴兵につながるとか憲法がなんたらだとわけ分からん事叫ぶ暇があったら防衛費を増やして上げてくれよ。つーか中国にODAもういらねぇだろ。

日本は好きですが、思想や教育はわけの分からん国ですなぁ。とぼやいてみる選挙権を持たない自分、今日この頃です。


第五十七章 威力偵察

空が落ちて来る。

 

流星が降る。

 

揺れるはずの無い物が揺れる。

 

二つの朝陽が登った様だった。

 

強烈な光が世界を照らし、人の醜さを映し出した。

 

あの日、世界は大きく動き出した。

 

 

 

U.C. 0079 8.30

 

 

 

濃霧に包まれた密林を、3機のMSと1台の"74式ホバートラック"(ブラッドハウンド)が進んで行く。その数キロ後方には自走コンテナと2輌の"ロクイチ"が続いている。

 

中尉の"陸戦型ガンダム"、軍曹と伍長の"陸戦型GM"に、上等兵の"イージス"だ。

 

簡易野戦基地群を占領下に置き既に久しく、その稼働率は中々のものである。

 

付近のミノフスキー粒子濃度は高く、レーダー、視界ともにホワイトアウトしている。

 

中尉は"陸戦型ガンダム"のシートに座り、歩行をオートパイロットに任せ休憩していた。

右手にカロリーメイト、左手にチューブゼリーのパックを握り幸せそうである。

 

《全隊、停止して下さい。本隊はポイントデルタ755、即ち作戦領域に入りました。総員、第一種戦闘配備。これより通信はレーザー通信による暗号回線に切り替えます》

「……と、言われましても…」

《何にも見えませんねぇ。どうします?海の近くのはずですよね?》

《…微かに、潮の香りはする……》

 

MSが全機停止、膝をつき関節をロック、ジェネレーター出力をアイドリングに設定する。それでも小山の様な大きさであるが、この霧だ。偵察飛行も効果無いだろう。偽装網もいるまい。

 

我々、"ブレイヴ・ストライクス"は遂に今作戦の最終目標、ポイントデルタ755沿岸基地、通称"バンジャルマシン・ベース"へと敵に気付かれる事無く肉薄する事に成功していた。

 

今齧っていたカロリーメイトを口に入れ、名残惜しげに残りをしまった中尉は困惑する。今日は今までに経験の無いような、特に濃い濃霧だ。

 

『こっから敵の基地でーす』なーんてそう言われても実感が湧かないというのが実情だった。

 

《軍曹の偵察情報と、以前自軍基地だった時のデータはありますが》

「データリンク頼みます。上等兵は何か作戦はありますか?」

 

元々ジオンの行動が活発である地域である事からミノフスキー粒子濃度が高めなのを含め、複雑な地形を縫った進軍、さらには定期的に発生する濃霧を隠れ蓑に、何とかここまで来たが……。

 

《この兵力で正面攻撃は正直不可能です。仮に成功しても損害は免れ無いでしょう。そして、この霧も明日には晴れてしまうとの解析結果も出ています》

「こんなに濃くてもですか。いや、だからですか?」

《どーします?待っててもダメ、急いだら負け、"アサカ"も来ちゃうんじゃないかな?》

《……"アサカ"との連絡は?》

《現在は不可能です。霧が晴れ、尚且つ"アサカ"が浮上していれば可能ですが。合流予定日("Xデイ")としては明々後日です。時間的猶予は無いと考えてもらった方が宜しいかと》

 

ここまで来て詰まったな。果たして、どうするべきか……。

 

結局捕虜のお兄さんは何も喋ってくれなかったし……周りがジャングルかつ敵基地も目標のこの基地しかないため解放するわけにもいかずそのままである。きっと今あまりにも暇過ぎて1人何も無い独房の中でシャドーボクシングでもやってんじゃないだろうか?

 

コンソールの角をトントンと指で叩きながら考える。それでもいい案は浮かびそうに無かった。

 

と言うより士官学校時代からあまりこういう事は得意では無かった。どう考えても士官や部隊長向いてねぇよな俺。

 

「現在判明している敵戦力はどれくらいですか?」

《MSが判明しているだけで"ザクII"が4機、"キャノン付き"が2機、"アオツノ"が1機。後は"ヴィークル"などのAPC、"マゼラ・アタック"などの突撃砲が数台ずつ、と言ったところだと思われます》

《うへぇ、バーゲンセールですねぇ。こっちの方が性能が上だとしても……》

「攻城戦だとオワコンだな。敵の方が戦力が多いのが毎回だから慣れていたが……」

《………》

 

どうする?何が最善だ?つーか、どうすんだコレ?

 

「…………」

《…………》

《…………》

《…………》

 

全員が考え込み、会話の途切れたところへ、軍曹が一投を投じた。

 

《…意見具申、いいか……?》

「許可する。なんだ?」

《……遊撃だ…》

 

遊撃……MSが最も得意とする戦術の一つであるが……どうやって?

 

《いや、威力偵察と呼ぶべき、か………ミノフスキー粒子を…最大濃度で、散布と同時に…最低限の軽装で突撃、撹乱、戦力を再把握後…迅速に撤退する…のは、どうだ……?》

 

いや、どうかな?そりゃ?

 

《ミノフスキー粒子濃度の急激な上昇は、敵への宣戦布告に他なりません。それに加え、偵察も出るでしょう》

「そこを叩き、少しでも戦力を減らす……?」

《おぉっ!!霧とミノフスキー粒子に紛れて撤退後も付近に潜伏出来ますよ!!わたしはとてもイイと思いまーす!!》

 

確かに。一理あるが……。

 

「この濃霧に高濃度のミノフスキー粒子じゃ……レーザー通信はおろかFCS、IFFもかなり接近しないと反応しないぞ?大丈夫なのか?」

《それは既に想定済みです。今まで無かった方が異常だったのですから》

《…FCS…?何故そんな物を使うんだ……?》

「…………」

《…………》

 

高機動戦闘中にでも狙撃用スコープを用いてのマニュアル射撃で命中率98.76%になるお方は少し黙っておいて下さいお願いだから。

 

「……よし、その案で行きましょう!30分後に作戦開始!総員、クラスL装備に換装後待機せよ!!」

《りょーかい!!"杏よりも梅が安い"と言いますしね!今はそれが1番いいとわたしのなかの幽霊(ゴースト)も囁いてますし!》

「間違ってるぞ……なんかその幽霊信用出来ねぇな…」

《うえぇっ!?》

《了解……伍長、"100mmマシンガン"をコンテナから出しておけ……》

《プランを立ち上げます。今しばらくお待ちください》

 

さぁて、やったりましょうか!!

 

《でも、いざ、と言う時は間違えてみるのも手だ、って……》

「今その時じゃねぇだろ」

 

追い付き、停止した自走コンテナから走り出て来た整備兵を見下ろしつつ、中尉は食べかけだったカロリーメイトを引っ張り出した。

 

 

 

 

 

 

「ブレイヴ01より各員へ、準備はいいか?」

《こちらブレイヴ02。準備よし……》

《こちらブレイヴ03もコンディショングリーン!!》

《こちらウィザード01。同じく準備よし》

 

深い霧が立ち込める林の中、膝をついた3機のMSと"ブラッドハウンド"が偽装網を掛け停止している。辺りは静まり返り、物音一つしない。聞こえるのは己の呼吸音と"陸戦型ガンダム"が立てる静かな低い音だけだ。

まるで……いや、そうだな…嵐の前の静けさ、と言う奴か?

 

「もう一度作戦を確認する。我々、"ブレイヴ・ストライクス"は霧に紛れ前進、最優先攻撃目標へ闇討ちを仕掛け、戦力を少しでも削いだ後迅速に撤退、潜伏する事だ」

《ウィザード01より補足です。目標基地南東、海岸沿いのエリア、ポイントロメオ24には大規模コンビナートがあります。そこへの発砲は禁止です。近づく事も危険な上、仮に破壊してしまった時の被害は甚大な物となります。基地機能の復旧は絶望的な物となるでしょう。そのためROEを更新します。ご確認を》

「《了解!!》」

《了解……》

 

中尉がコンソールを叩き設定を変更しつつ作戦を再確認する。それに機体が反応、歩行モード、センサー走査、ダクトなどあらゆる機能が最適化されて行くのを確認、満足げにコンソールを撫でる。

 

《隊長機の頭部を見たら分かると思いますが、現在簡易整備程度しか行えません。明日の本格的な戦闘に備え被弾を極力避けてください。"イージス"はここで待機を行います。しかし、アンダーグラウンドソナーによる情報支援、ジャミングによる電子戦は行いますのでご安心を》

《アイアーイサー!"ハイパーバズーカ"が使えないのは残念ですが、給料分はしっかりと働きますよ!》

《距離を、とって戦うのが基本になるが…この天候だ、乱戦になるかもしれない…注意しろ…》

 

相変わらずな伍長を、軍曹がたしなめる。全く、いつでも一切ブレないのが呆れるやら頼もしいやら……。

 

つーか、そうなんだよなぁ…結局デュアル・センサーは修理を終えられず、取り敢えず幌を被せてシーリングしてあるだけだ。命中率ガタ落ちである。

 

「よし!"ブレイヴ・ストライクス"出撃だ!!行くぞ!アローフォーメーション!俺に続け!!」

《ブレイヴ02了解……》

《いぇっさー!》

《ご武運を》

 

3機のMSが立ち上がり、中尉の"陸戦型ガンダム"を中心に矢印の様な陣形をとり進軍し始める。

 

全機の装備は"100mmマシンガン"、シールド、グレネードに"スローイングナイフ"だ。

機動力を落とし、取り回しの悪い上装弾数や命中率に難のある"ハイパーバズーカ"、"ロケットランチャー"、"ミサイルランチャー"、"180mmキャノン"及びコンテナは装備していない。

 

……と言うか、そろそろ弾丸が底をつき始めてて……100mm弾は十分なんだけど…生産数がねぇ…。

 

「接近戦は避けるんだ。無駄な損傷は必要無いし、"ビームサーベル"は目立つ」

《伍長、前に出過ぎるな…》

《分かってますよ!心配ご無用です!》

 

道が見えたが、使用せず木に隠れつつ進む。まぁ、わざわざ道のど真ん中を歩く必要は無い。道以外は地味なアップダウンがあり、身を隠すには結構いいしな…。

 

「上等兵、敵の反応は?」

《MSの反応は無いです。掴めるのは軽車両のみですね。おそらく停止しているのでしょう。動かず、音を出さなければパッシブソナーでは捉えられません》

《不便ですよねぇ…》

《土中は、ミノフスキー・エフェクトが薄い……何事も、長所と短所がある物だ……》

 

そう、"ブラッドハウンド"に搭載されているのはアクティブ・パッシブ複合ソナーだ。主に使用されるパッシブソナーは周囲の音を解析、音源の位置、方位、強度、ドップラー・シフト、スペクトルやパターンを初めとするあらゆるデータを元に情報を得、敵機を識別、位置、移動速度を特定する事が出来る。

 

土中に伝わる音を拾うため遮蔽物・障害物を無視出来る上索敵範囲が広く、尚且つこちらからレーダー波や赤外線などをはじめとした電磁波などを出さないため隠密性に優れ、ミノフスキー粒子散布下に置いても比較的安定した情報を得られるのが特徴だ。

しかしその性質上音を出さない物は検知出来ず、付近で火山活動があるなど大きな音があると使用不可となり、妨害もされやすいという弱点もあるのだ。

超音波を周囲に伝播させ情報を得るアクティブソナーに比べ制度も落ちると言う問題もある。

また、上手く扱い、性能を最大限発揮するには使用者の優れた聴覚に加え、かなりの経験とセンスが必要な事も大きい。音響解析により検出されたあらゆるデータを統合、判断するには高い技量を必要とするのだ。ある程度はコンピュータを用いる事が出来るものの、微細な振動などそれだけでは識別出来ない物も多い。それを最終的に判断するのは人間なのだ。

 

もちろんMSや"ブラッドハウンド"にはソナー以外にも通常のレーダー、赤外線(サーマル)センサー、科学センサーなども搭載されている。

 

レーダーは索敵範囲は広いが、遮蔽物・建造物などの障害物に阻害され、森林などに潜まれると発見出来ない。また、ミノフスキー粒子濃度の高い場所では精度が著しく落ちてしまう。そのため、ミノフスキー粒子の濃度が低く、開けた環境という限定された状況下でしか使用しても十分な効果が発揮出来なくなってしまった。

 

赤外線センサーは熱源を探知する為、森などの遮蔽物、比較的小型で厚く無い建造物などを無視して索敵することが出来、あらゆる状況下、敵機に対しても安定して捕捉することが出来る高性能センサーだ。反面、索敵範囲はソナー、レーダーと比べると著しく狭いため、こちらも用途が限定されてしまっている。

 

アクティブレーダー波や赤外線を照射すれば索敵範囲や走査感度は劇的に強化されるが、敵から見れば広告塔の様に目立ってしまう。そのため隠密作戦が主体の"ブレイヴ・ストライクス"は機材こそ装備されているが、ほとんどのセンサーがパッシブのみの使用に限定されている。

 

霧に沈み、物音一つしない静まり返った森を、MSがゆっくりと地面を踏み締めながら歩く。

 

まるで周囲の時間が止まっている様だと中尉は思った。

灰色がかった白い景色、コロニー落としから舞い上がったチリの影響はこんなところにも波紋を残している。

 

見下ろした世界も、見上げた空も、あの時泳いだ、あの海も……そう思うと気分が沈んだ。

 

"あの日"が、脳裏にちらつく。

 

"空が落ちて来た"あの日、シドニーは消滅した。

 

コロニーは厚さ10kmにも及ぶ地殻を貫通し、造山運動を促してマグニチュード9.5の大地震を発生させ、直撃の衝撃により地球の自転速度が1時間当たり1.2秒速められたとも言われる。

 

その莫大な被害はオセアニアにとどまらず、津波や衝撃波、崩壊し飛び散った破片により世界全土にまで波及したのだった。

 

コロニー落としの爆心地(グラウンド・ゼロ)、現シドニー湾(・・・・・)は衝撃波で周囲全てが薙ぎ払われ、炸裂したコロニーにより汚染され尽くし、汚濁した津波が周囲を洗ったそうだ。

生物は一部の細菌、バクテリアを除き死滅。最大直径500kmにも及ぶ巨大なクレーターを穿ち、オーストラリア大陸の16%を消滅させた。

 

落着の2次被害として衝撃波や津波、気象変動などが発生、人的被害は23億人をゆうに越え、以後も、長年にわたって地球全体に多大な悪影響を及ぼし続ける事になるだろうとの事だった。

 

総被害数現時点でも把握し切れていない。それでも40億を越えるとされる。

 

未曾有の事態、人類史上最大の危機を迎えても、人はまだ争いを続けている。中尉もその中の1人だった。

 

『ただの数字じゃない。ひとりずつに人生があった。…それを忘れちゃいけない』とは、誰の言葉だったか………。

 

その尊厳すら、失われかけているというのに……俺は……。

 

《……こちらブレイヴ02…目視にて敵を補足(エネミー・タリホー)。11時方向、距離3640。シルエットから……"ザクII"だと思われる…》

「……仕掛けるか?」

 

軍曹からの報告で現実に引き戻される。この霧の中、どうやって……。

 

《ウィザード01よりブレイヴ01へ。まだ主兵装である"100mmマシンガン"の有効射程圏外です。それに、高脅威目標である"キャノン付き"が発見出来ていません。見つからず、かつ先制攻撃が可能な位置まで前進して下さい》

《そろそろ森も途切れちゃうよ?かくれんぼも限界がありますよぅ…くうぅ…わたしに銃を撃たせろぉー!!》

「まだ発砲許可は出せん。もう少しだ……」

 

伍長がボヤく。我慢しろこの瞬間湯沸かし器が。

伍長はかくれんぼが得意でない。某ゲームでも途中で隠れる事を放棄しランボーするタイプだ。

 

それに加え、戦闘狂ではないがややトリガーハッピーなところもある。

本当に軍隊向いてねぇな。

 

「しかし、上等兵。"キャノン付き"の火力は確かに無視出来ませんが、別に今は大丈夫じゃないですか?大量に配備されて面制圧をして来るワケでも無いですし……」

《でも撃ちまくって来たら怖いと思いますよ?》

《確かにそうですね。長い射程に高い威力も、当たらなければ効果はありませんが…》

《しかし、"アオツノ"含め警戒すべき、だ……》

 

まぁそもそも18mと言う、下手な小山ぐらいのサイズのMSを隠す方が難しいんだがな……。もう少し小さくてよかったんじゃ?

 

第三匍匐で大きく回り込む様にし、木の繁る崖沿いを進む。しかしもうすぐ海岸だ。隠れるのもそこで限界だな。

 

しゃがみ込み機体を停止させ、関節をロック、電源も最低限度を残し落とす。このミノフスキー粒子濃度だ。これで見つかる確率はかなり落ちるだろう。

 

それでも敵地の真ん前でこんな事するバカは俺1人だろうが。

 

手動によるデータリンクでA1と呼称された"ザクII"の場所が表示される。

 

さて、どうするか?

 

《……ねぇ、軍曹、もし軍曹が敵の司令官なら、ここに1機配備したとすると、残りは何処にやる?》

「……伍長がまともな発言した………」

《……少尉の中のわたしってどんなんなんでしょう……うぅ……》

《だ、大丈夫ですよ。きっと隊長のジョークですから…そうですよね?隊長》

「え、えぇ…まぁ…………で、軍曹、どうだ?」

《こう、だな……》

 

軍曹の予想がサブディスプレイに表示される。

 

「…なーるほど……」

《私もほぼ同じです。おおよそこうだと考えられるでしょう》

《…………………そうなの?》

 

基地中枢を中心に"ザクII"、"アオツノ"を分散配置し、両翼に"キャノン付き"を置く。"マゼラ・アタック"は塹壕の中。

 

軍曹や上等兵が言うように、これが一番妥当で堅実な配置だろう。

 

「1度突っ込み、それで引きますか?」

《背面を曝すリスクが大きいと思います。さらには移動ルートが捕捉されやすく、その座標に向け攻撃を加えられるかもしれません。時間は伸びますが、東から西へ横切る様に遊撃するのはどうでしょう?》

《この壕は深いの?足とられるのはやだよ?視界も悪いし…》

《深く斬り込むのは、リスクが大きいな……このポイントで南へ転進、そのまま撤退するのはどうだ……?》

《…………………3人にお任せします…》

 

議論について行く事を放棄した伍長をほっとき、軍曹の案が採用される。

 

この基地は南に向け開けた海岸沿いに強固なトーチカ群とともに建設され、東西は山で囲まれている鎌倉の様な攻められ難く守り易い地形だ。

 

中尉たちは内陸部である北から西へと回り込む様に移動し、現在その森の中で待機中だ。

そこから南東の基地中心へ向け進軍、有る程度進んだ後北へ離脱する事となった。

 

《威力偵察の主目的は、あくまで情報収集です。敵の撃破が目的ではなく、迅速に行動し素早く撤退して情報を持ち帰る事が優先されます。

つまりは機動力に優れた、我々の様な特務MS遊撃隊によるヒットアンドアウェイが最も有効となります。時計合わせ、5、4……》

「よし、各員、作戦は頭に叩き込んだか?」

 

システムチェック、一部を除きオールグリーン。全関節ロック解除、GPLをミリタリーへ。センサー・カメラリセット、環境に合わせ再設定。セーフティ解除、マスターアームオン、メインアームレディ。セレクターは"レ"(フルオート)に。

 

『コンバットオープン』

 

中尉は機体を操作し立ち上がらせる。

 

グレーブロックパターンベースのスプリッター迷彩が施されたマントが揺れ、ひらひらとはためく。

 

幾何学模様が揺らぎ、シルエットを崩すそのマントのお陰で、その姿は亡霊(レイス)の様に見える。

 

MSは有視界戦闘が主体であり、従来の様に迷彩が効果を発揮するのだ。

この迷彩も試行錯誤中だ。以前から通常迷彩、デジタル迷彩、スプリッター迷彩、ロービジリティ迷彩、ダズル迷彩と既存のあらゆる迷彩パターンを試しデータを収集しており、今回の物はその集大成となるものだった。

従来のデジタル迷彩パターンをベースに改良を加えた物で、通常の迷彩の様に背景に溶け込みつつ、どうしても目立ってしまう機動運用時には距離、速度、進行方向、シルエットなどを崩し錯視させるダズル迷彩のような効果を持たせる、と言う触れ込みである。

ちなみにそのため機動時のマントが揺れるパターン、折れ目、垂れ目なども計算した結果、直線を多用した複雑な紋様を描くような迷彩柄となった。伍長は"ジャム・センス・ジャマー"などと呼んでいたが………。

 

「ブレイヴ01より各機へ。準備はいいか?」

《こちらブレイヴ02。問題無い……》

《ブレイヴ03!もーまんたい!!》

 

よし、準備は整った。これで俺たちは成ったも同然だ。

 

後は、打つ手さえ間違えなければ、自ずと王手は決まる。

 

「時間との勝負だ。各員気を抜くなよ…各員の判断で発砲を許可する………スタンバーイ…スタンバーイ……」

《作戦開始時刻です。ご武運を。ジャミング、開始》

《ゴゥッ!!》

 

"陸戦型ガンダム"が地を蹴り、疾走し始める。そこへ伍長と軍曹の"陸戦型GM"が続く。陣形はクローズドアローフォーメーション。高い速度を保ったままお互いを庇い合いカバーする密集陣だ。

 

『アラート エンゲージ A1捕捉 危険度B』

 

「強襲をかける!!各機!3秒後に14秒のスラスター噴射!遅れるなよ!!」

《了解…!》

《イエッサー!!》

 

スロットルを引き、フットペダルを踏む。スラスターが作動、"陸戦型ガンダム"を無理矢理加速させ滑空させる。

 

()ちろ!!」

 

"100mmマシンガン"から吐き出された火の息が"ザクII"(A1)を撃ち倒す。しかし無駄弾が多い。弾丸を雨あられと浴びせかける様にしてやっとか……。高機動を行っていた事も関係あるだろうが、集弾率があまりにも低い。

 

これじゃ射撃戦は不利だ。危険を承知で格闘戦に持ち込むしか無い。

 

撃破と同時に基地に警戒音が鳴り響き、叩き起こされた巨人達が動き出す。

 

着地し地面を激しく削りつつ"陸戦型ガンダム"がその運動エネルギーを解放、機体を安定させる。

 

《ウィザード01より各機へ!敵部隊が動き出しました!MS歩行音多数確認!!予想とほぼ同じ位置です!》

「聞いたな!!目標は基地西部の"キャノン付き"(C1)にA2だ!それを撃破し次第撤退するぞ!!」

 

中尉がセレクターを"タ"(セミオート)に変更、フォールディングストックを起こし、塹壕に半ば埋まる様に待機する"マゼラ・アタック"(F1)に向け射撃しつつ怒鳴る。軍曹は向かって来たA2へ射撃を加えつつ"スローイングナイフ"を抜く。伍長は基地施設とおぼしき物へグレネードを放っていた。

 

「ブレイヴ03!F3からF8を任せた!俺は軍曹とA2、C1を()る!!」

《りょーかい!!あったれー!!》

《ブレイヴ02了解。退路の確保を優先する……》

 

軍曹がA2からの攻撃を軽く躱し、射撃を加えつつ投げた"スローイングナイフ"でAPCを貫く。

伍長はサイズがギリギリな塹壕の中で必死に超信地旋回しようとする"マゼラ・アタック"を真上から撃ち、踏みつける。恨むなら上部を旋回出来ない様に設計した設計者を恨めよ、と言わんばかりの攻撃だ。

 

「脇が甘い!!」

 

軍曹に掛かり切りとなり隙を見せたA2へ中尉が急接近、抜刀した"ビームサーベル"をすぐさま変更、出力を絞りつつ展開させた"ビームジャベリン"でその胴を突き刺し貫く。

 

「やはり動きが遅い…改造にムリがあんだな……」

 

突き刺した"ビームジャベリン"を大きく振り回す様に凪ぐ事で上半身と下半身を両断する。下半身は立ったまま、胴体だけが支えを失い地面へと転がる。

 

《アンダーグラウンドソナーに感あり!10時方向!距離4800!"アオツノ"(U1)及びA3が接近中!ご注意を!》

「その2機は相手するな!伍長!」

《……!》

 

残る下半身さえも崩れ落ちたA2から向き直り、右手に"ビームジャベリン"を構えた"陸戦型ガンダム"が、左手で"100mmマシンガン"を構え伍長を狙っていたC1に準備射撃を加え牽制する。

 

そのため伍長の"陸戦型GM"を狙った一撃は逸れ、地面を抉るのみだったが……。

 

「……伍長……?」

 

"キャノン付き"のキャノンが向けられる前から、回避に移っていなかった、か……?

 

偶然か?よろけただけか?それとも何時もの勘か?

 

『アラート エンゲージ A3』

 

コクピット内に警告音が鳴り響く。ロックオン警報だ。

 

気が散っていた。戦闘中に考え事など……何をやっているんだ俺は。

 

考える前に身体が動き、足が勝手にフットペダルを蹴飛ばす。殺到する120mm弾の雨を、身を翻し射線から"陸戦型ガンダム"が姿を消す。

 

捉えられたマントが破けただけで、本体は無傷だ。

 

大きく靡くマントが大きな音を立てる。ちょっとデカ過ぎたか?結構音するな……。

 

《目標撃破…》

《ウィザード01より各機へ。作戦目標達成です。至急撤退を開始して下さい!》

「了解!!さっさとトンズラこくぞ!」

《ブレイヴ02了解。殿につく……》

《わかっぱー!"三重ロックは逃げるにいかず"、ですね!!》

「教えてくれ"ジーク"……俺はどこから、後何度ツッコめばいい……?」

 

軍曹が翻弄する様な軽いフットワークで"キャノン付き"の懐へと潜り込み、コクピットをマルチプルシールドの一突きで貫き沈黙させていた。中尉と違い格闘兵装すら使わない実に鮮やかな手際だ。見習いたいな…。

 

「ブレイヴ03!スモーク!!」

《アイサー!モクモクさくせーん!!》

《伍長、敵が接近中です!ASAP!》

 

伍長がスモークグレネードを炸裂させ、広範囲に渡り煙幕を張る。

 

一つ目で"ブレイヴ・ストライクス"の3機を包み込み、さらに追加で放り投げて行く。

 

「よし!!撤退だ!!急げ!!」

《ザザッ……かきゅ…すみや…ザザザ…にぃー!!》

《ザザ…置…やげ、だ…》

 

『アラート 強烈な電波障害発生 各種センサー使用不可 至急、現戦域からの離脱を推奨』

 

伍長、チャフまで撒きやがった……。効果は絶大だが、それはこちらもだわ……。

完全にホワイトアウトしたレーダー、視界を当てにせず、予めインプットしたデータを元に3機は疾走する。

 

敵も同士討ちを恐れ迂闊に射撃出来ない。有効な手と言う物は、今も昔もそう変わらないと言う事か…。

 

視界が開け、電波障害がやや収まる。

 

煙幕を抜け、そのまま走る。その後ろに同じく煙幕を抜けた伍長機が続き、最後に軍曹機が後方を警戒しつつ現れた。

 

「全機無事だな!よし!戦域を離脱する!総員、第一種警戒態勢に移行、周囲の索敵を怠るな!」

《いやー、傑作ですね!煙幕とともにフェードアウト……うーんロマン!!》

《気を抜くな、追撃に注意しろ。痕跡を残すな…》

 

3機仲良くならんで戦域を離脱する。

 

作戦成功、損害は軽微だ。やはり伍長にはMS以外を任せた方がいいな。それでも機銃弾をガンガン喰らっているため装甲のあちこちに細かい傷や弾痕が目立つが……。

 

Mission CMPL(コンプリートミッション) RTB』

 

「このマント、使えるな……」

 

苦肉の策のマントであったが、中々良い。

 

このマントは特別製であり、偽装網、超繊維布、合成ゴム、ケブラー繊維、カーボンファイバーなどをはじめとするあらゆるを素材を数重にも重ねる事で軽いがそこそこの防御力を誇る。

 

さらには中尉の提案で、試製ビームコーティングを塗布され、布自体も空間が特殊な構造で組み込まれており、HEAT弾対策になるのだった。

 

成形炸薬(HEAT)弾とは化学エネルギー弾頭の一種である。

砲弾内に漏斗状に成形された上で充填された炸薬が着弾と同時に起爆、モンロー・ノイマン効果によって発生した高温・高圧の超高速噴流(メタルジェット)により装甲を侵徹、貫通させ、その破孔へ爆轟波、弾片を叩き込み兵器を内部から破壊し焼き尽くす兵器の事だ。

 

運動エネルギーでなく化学エネルギーでダメージを与える弾丸であるため、低速でも威力があるため、個人携行用対戦車兵器にも用いられている。

ジオン軍の主力MSが装備する主兵装も対艦攻撃が主体であった事の名残か使用弾頭もHEAT弾が多いのだ。

 

厚い装甲をいとも容易く貫き内部から破壊する強力な弾頭であるが、肝心なモンロー・ノイマン効果の有効侵徹破壊距離は数十cm程度と極めて短く、そのため装甲へ到達する前にマントに接触させ信管を作動させる事でメタルジェットを装甲まで届かせなくさせ、弾頭を無効化する事が出来るのだ。

 

つまり、低出力ビーム及びごく限られた弾丸のみではあるが、有る程度の実弾射撃を無効化出来る魔法の様な布なのだ。

 

「明日が決戦だな…そういや、軍曹、なんであんなに離脱に時間がかかったんだ?」

《ブービートラップを仕掛けていた……》

「は?」

《え?》

《まさか……》

 

あの短時間で!?

 

ドカン!! 後ろで爆発音と地鳴りが響いた。

 

もうもうと砂煙が立ち込め、その下の惨劇を覆い隠す。

 

《ば、爆発オチなんて……》

 

サイテー!!

 

 

『戦いは常に、二手三手先を考えて行うものだ』

 

 

霧の中、バンシィは叫ぶ………………




最近、ガンダムというよりその皮被った何かになってる感が半端なくなってきました(笑)。

迷彩がスプリッターなのは趣味です。デジタルとかも好きですけど、選べなかったので組み合わせました(笑)。なんか、こう……宇宙世紀のびっくりドッキリ技術で止まってても動いていても見えづらくなる様な迷彩になったと思って下さい(笑)。

サイドストーリーズやりましたが、アレは正史に加えていいもんすかね?手抜き過ぎてビッグトレー倒し放題じゃねーか連邦破産するわ。事あるごとに金塊出て来るしどうなってんだよ。ガンダムエースのマンガでも読んで補強しますかね……つーかスレイヴ・レイスの部隊と機体も設定が結構めちゃくちゃやん?どうすんのこれ?

まぁ、のんびりやって行きます。そろそろ35周年を迎えるガンダムを、今後ともよろしくお願いします!

次回 第五十八章 ターゲット・イン・サイト

「ならもっとテンション上げて言えやぁ!!」

お楽しみに!!

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