機動戦士ガンダム U.C. HARD GRAPH 名も無き新米士官の軌跡 作:きゅっぱち
21世紀になっても、車は空飛ばないし、宇宙にも簡単に行ける様にならないし……。
最近、案外変わらない物かもしれないと思う様になりました。
人の生を要約すると、たった3つだと言う事が分かる。
即ち、生まれ、生き、死ぬ。
つまり、全てと言っても過言ではない。
そう、そのため、
その全てのために、人は生きる、戦うのだ。
U.C. 0079 8.28
《こちらブレイヴ02。動体を視認した。数、規模は不明……》
「こちらブレイヴ01より各機へ。全隊停止。ブレイヴ02、それは間違いないか?」
《気のせいじゃないですか?わたしには見えないけど…センサーにも引っ掛からないですし…》
《ウィザード01より各機へ。現在"イージス"のレーダーはパッシブが主体です。ミノフスキー粒子濃度は18。アンダーグラウンドソナーを使用しますか?》
中尉は考え込み、横を見る。軍曹はコクピットハッチを開放し、そこから身を乗り出していた。
今日は特に霧などはない。晴れ渡る空の青が眩しいくらいだ。
以前の身体検査、軍曹の視力は計測不能だった。
つーか六等星以下の星や木星の衛星を肉眼で見えるらしいからな……。
「軍曹を信じる。アンダーグラウンドソナーを頼みます」
《こちらウィザード01、了解しました。アウトリガー展開、雑音を減らすためしばらく待機してください》
「了解しました」
現在、"ブレイヴ・ストライクス"はポイントチャーリー529にあるジオン簡易野戦整備基地群を潰し、最終目標であるポイントデルタ755沿岸基地、通称"バンジャルマシン・ベース"目指しMSの徒歩により南下中だ。
整備基地は制圧したものの、いつまでもグズグズしては居られないため最低限の守備隊として"ロクイチ"8輌2個小隊を残し移動している。自走コンテナを主体とした兵站中隊もそこで後方待機中だ。
支援用の高機動ティルトローター機"キング・ホーク"もそこだ。
現在"ブレイヴ・ストライクス"はMS3機と"ブラッドハウンド"1輌という最低限の戦力でスタンドアロン中である。
MS部隊による威力偵察を行いつつ沿岸基地を強襲、対空砲を含む高脅威対象を排除し後方の部隊を呼び制圧、その後"アサカ"を旗艦とする潜水艦艦隊と合流する予定だ。
隠密行動のため、ミノフスキー粒子濃度が低くレーダーその他電子機器は使用出来るが、姿を曝すリスクからパッシブに設定していた。
《! アンダーグラウンドソナーにコンタクト!11時方向、距離9300……しかし、これは……》
「聴いた事無い音?新型か?」
《またですかぁ!?ズルいですね本当に!!》
《いや……ウィザード01、それは、
子供?
《はい。軍曹の言葉で確信が持てました。この音は、複数の子供の足音と、はしゃぐ声です。その数おおよそ8、この事から推測するに、周辺に集落があるようですね》
「子供、ですか……」
《慢心!!ダメ!!絶対!!前みたいな事は嫌ですよぉ!!行くならMSで行きましょうよ!!》
正しいが………ソレ、伍長が言うか?
《隠密行動中だ……》
《前みたい、とは?》
「そう言えば上等兵は知りませんでしたね。一度、ある村でゲリラに襲われまして……」
《あの時は、もう!!
……でも、少尉、かっこ良かったなぁ……うふふ……》
《どうします?隊長?迂回しますか?》
「む……」
地図を見る。迂回は……厳しそうだな。そもそもこの人達の行動範囲すら知らん。
「……接近して…接触してみましょう。ブレイヴ03、ウィザード01はここで待機、即時対応が出来るようお願いします。ブレイヴ02、2分後に装備クラスCで行くぞ」
《わ、分かりました、けど……気をつけてね?絶対帰ってくるんですよ?》
《了解しました。接敵予想時間は
《了解した……》
各員が偵察準備に入る。"イージス"を取り囲むように巨人が膝をつき、偽装網をかける。
センサー強度を最低ラインに、レーダーパッシブモード……ミノフスキー粒子散布、GPLアイドリングモードで固定……全関節ロック……。
手早くコンソールを叩きモードを変更、同時に装備も整える。取り出したアサルトカービン、M72A1は昨日整備したばかりだ。表面の強化プラスチックの迷彩パターンも変更済み、予備マガジンもある。
『グッドラック 中尉』
ナイフ、各種グレネード、ボディアーマー……。身につけるのはだいぶ久し振りのものもある。手入れは怠ってはいない。パフォーマンスは常に最高に保たれているはずだ。
一応刀をベルトに差し、準備は完了する。
………うん。B級映画とかに出てきそうな、『謎に包まれた伝説のダークヒーロー、"サムラーイ・ニンジャ・ソルジャー"』見たくなってる………。
………ん?今一瞬、コンソールの予備スペースが……気の所為か?
ダメだ。集中しろ。だからそんな物が気になるんだ……。
最後に飴を一掴みポッケに突っ込み、準備を完了、コクピットハッチを開放、ジャングルの湿った空気を肺いっぱいに吸い込む。
「……ゴホッ!」
むせた。
《どうしたの少尉?だいじょーぶ?》
《………大丈夫だ。問題ない》
《隊長?》
《大丈夫ですから!!たまにやっちゃいませんかこーゆーこと!?》
《……中尉、既に2分なんだが……》
「………すまん…」
むせかえる様なジャングル特有の
あー、恥ずかしい。
照れ隠しに頭を掻こうとし、ヘルメットを掻いていた。………恥の上塗りだ……。
首を振り頭を切り替え、クレーンを展開、フックに足を引っ掛け機体を降りる。下では軍曹が既に待っていた。
軍曹は中尉以上の重武装で全身を固めている。それでも中尉を上回る軽快さを感じさせるのは軍曹ならではだ。
「すまん。待たせた」
「構わない。行こう……」
《ホントに気をつけてね!!約束だよ!!》
《センサーで常にモニタリングしますが、不測の事態はあり得ます。ご注意を》
「了解。心配はいらないですよ、軍曹もいますし」
「不可能はある。気を抜くな……」
「了解!発砲許可を出す。いざという時は頼む」
2人で子供たちがいると思われる地点へ向かう。
ぎゃあぎゃあと得体の知れない生き物が鳴くのを聞き流し、目の前に集中する。
……いや、何かが……。
なるほど、確かにここは普通じゃない。
なんと言うか、人の生活の息吹が感じられる。
植物の生え具合、育ち具合、動物の反応、動き、それが微かではあるが違う。やはり、人が影響を与えているのだ。
今までのジャングルにはない気配だ。子供が囮である事も考え警戒は解かないが。
全く、ジオンの拠点の次は、正体不明の子供たちの集団と来た。俺の人生はイージーモードのはずだったんだが……。
「……スナイパーの有無は分かるか?」
「確認出来ない。それに…ここは狙撃に向かない……」
「仕掛け爆弾もなさそうだ。よし、5m間隔、目標の20m手前まで音を立てず前進、しばらく観察するぞ」
「了解……」
ハンドシグナルを出し、ゆっくりと前進する。木の裏に、草の影に、姿を眩ましつつ接近、待機する。
時折前を塞ぐ、避け切れない蔦をマチェットで音もなく切断する。
何か懐かしいな。サバイバル訓練はキツかったけど、凄く楽しかった。皆死にかけてたけど、なんか、こう……妙にしっくり来たんだよな……。
「こっちだよー!!」
「こらー!まてー!!あははは!」
「足遅いなぁーっ!!うわっ!!」
「あはは、ばっかでー転んであんの!!」
近づき子供たちを観察する。どうやら追いかけっこをしているようだ。
だいたい6歳前後の男の子に、女の子。皆が皆てんでバラバラの方向へ駆け回る。それを1人の男の子が追い掛ける。
不自然な動き、おかしな言動、怯えている様子もない。周囲に動きもない。
罠の可能性は限りなく低いな。しかし……。
握っている銃のグリップの感触を確かめる。セレクターは変更しない。まだ何があるか分からない。石橋を叩き割って隣の鉄橋を渡るのもいい。
「……軍曹、どう見る?」
《ただの子供だな……年齢およそ6歳前後、健康状態に異常無し……黄色人種、身長120cm前後……訓練も受けていないようだ…》
「接触してみるか?」
《危険はないですか?》
《問題ないな……》
軍曹がそう言うなら、だな。さて……。
「よし、俺が行く。軍曹は一応見つからないよう着いて来てくれ」
《了解……》
《"イージス"も追従しますか?》
《1人は嫌ですぅ!!寂しいし怖いです!!》
「……との事です。待機を続行して下さい」
《了解しました》
メインアームであるアサルトカービンのセーフティをかける。
中尉は全身の装備を再確認し、異常を見つけられない事に一息つく。
軍曹は既に動き出し身を潜めた。心の支えとなり、頼れるのは武器類だけ。
その武器類だって、子供に組みつかれ、手榴弾のピンが抜けて死んだらシャレにならない。銃の暴発もあり得るかもしれない。
「…………よし、接触を図る。各員警戒を厳とせよ」
《了解……》
《りょーかい!!いざという時は任せてくださいね!!》
《周囲に異常は見受けられません。幸運を》
ガサガサっと下草を踏み分けながら中尉が姿を曝す。全身草まみれだ。ギリースーツなどは着用していないが、その草にまみれた姿は森に住んでる、こう……なんかするヤツだ。
カービンは肩からかけ、両手をフリーにする。ヘルメットを外し、草を落とし、頭を外気に晒しつつ汗で張り付いた髪をかきあげる。
流石に少しは涼しさを感じたが、やっぱし熱帯雨林はそんなに甘く無かった。熱い。暑いじゃなくて熱い。
子供たちはポカーンとしている。
ムリもない。遊んでいたら突然武装した草まみれの男が出て来たのだ。
その異常事態に動きを止め、お互いにアイコンタクトをとっている。
「こんにちは。元気がいいな君たちは……何かいい事でもあったの?」
「………い………」
「…………お………」
な、なんだ……?爆発すんの?
子供たちが集まって………。
まさか…合体とか……しないよね?
「いらっしゃいませー!!」
「わぁーい!!おきゃくさまだー!!」
「わぁーニンジャ!ニンジャ!!」
「バッカ!サムラーイだろ!!」
「ねぇにいちゃんなまえは?どこからきたの!?」
「ねぇねぇ遊ぼうよ!!ねぇねぇ!!」
「かっこいい!!おにいちゃんなにものー?」
「ぼ、ぼくもー!!」
「カタナー!!」
一斉に飛びつかれた。警戒心とかないのかおまいらは。
「お、落ち着いてく……」
「ぼくんちにおいでよ!!おもてなしー!!」
「いいや!ぼくんちだ!!」
「遊ぼうよ!おにいちゃんおにやってー!!」
「あってめ!どさくさにまぎれてー!!」
「ちょっとー!おにいちゃん困ってるでしょー!!」
「おまえー!おにいちゃんがかっこいいからってー!」
「そうだそうだー!」
「こ、この〜」
今度はケンカを始めた。うん、小さいクセに中々パワフルだ。
ここは……よし!!コレだ!!
「よぉし!誰が一番初めに静かになれるかなー!!」
「「!!」」
子供たちは顔を見合わせ、一斉に口を閉じその上に手を当てる。うんうん、素直でよろしい。そのスキに素早く通信を送る。
「……コンタクトに成功した。向こうはあまり警戒していないようだ。引き続き接触を続け、集落の情報などもおいおい聞き出してみる。軍曹はそのまま、伍長、上等兵は気づかれるギリギリまで接近して下さい。MSはオートで。上等兵、ジャミングはいいのでMSのサポートを」
《了解……》
《りょーかい!!難しいですが、やってみます!!》
《了解しました。お任せを》
子供たちに向き直り、笑顔をつくる。そうだ、士官学校の時を思い出せ……あの時も子供たちに触れ合う機会あったろ……。
「ん、よろしい!みんなえらいぞー。ところでここで何してたの?」
「おにごっこー!!」
「みんなでね!!それでね!!」
「こう、すてーん!!ね!おかしいでしょ!!」
「いうなよー!!カッコわるいだろー!!」
誰もが一斉に喋り出す。まるでエサを求める雛鳥だ。口々に好き好きに喋るため何言ってるのか全然分からんが。
俺は聖徳太子じゃねぇんだぞ?いや、その聖徳太子も7人位が多分限界だろうな。人間どうやっても8個以上の同時進行はムリって言うし。
「ごめんねー。一人ずつ喋ってくれないとお兄さんわからないんだ。お父さんやお母さんたちは?」
「え、えと……」
「むずかしい、なんだったっけ……」
「か、か……かいに?」
「かいぎー」
「そうそう!それそれ!!かいぎ!!」
「会議?お話してるの?」
「うん!!」
「じゃまするな、って……」
「子供は遊んでなさい、って……」
「ふぅーん。だからここで遊んでるのか。えらいぞーみんなーうりうりー」
「きゃー」
「あははは」
子供たちの頭を撫でる。身をよじらせくすぐったがる子や、空いた手に頭を自分から擦り付ける子、ビクリと身を竦ませる子と十人十色だ。
……この手が血塗れだと知ったら、この子達はどういう反応をするんだろうか………?
「……聞いての通りだ、どうする?」
《どっちみち…近づかない訳には、いかない……》
《わぁー!!かわいーな!!いいな〜…》
《接触してみましょう。ブレイヴ01は先行、ブレイヴ02はそれに追従して下さい。私達はそれに続きます。隊長は子供の扱いに慣れていらっしゃるのですね。知りませんでした》
「了解!…色々ありまして…ね?………みんなー!!そこに案内してくれる?そしたらこのアメをあげよう!」
「えっ!?やったぁ!!」
「うん!!こっちこっち!!」
「わぁっ!甘い!!おいしー!」
「ぼくもー!!ぼくもあめー!!」
「おいおい。1人一つずつあるから、順番だぞー」
うむ。買収恐るべし。今までこちらを少し離れて見定めるように睨みつけていた子もやってくる。お菓子の力は偉大だ。おいしいし。
《隊長。他人の嗜好に口出しする事は失礼だと思いますが、少々間食が多くないですか?》
《そーだよ少尉!!ズルい!!わたしも食べたいよ!》
「俺は定期的にパインアメのみに含まれる成分、パインニウムとパイン酸とパインアメ分を摂取しなきゃ死ぬんだよ!!コレだけは何を言われ様ともやめませんからね!!」
《はぁ…糖分は大切ですが…過剰摂取は身体に毒ですよ》
《ヘぇ〜そんな秘密が……大変だね〜》
《……》
軍曹……無言はキツいよ……。
「おにーちゃんだれと話してるのー?」
「うん?独り言だよ。なに?」
「あめ、まだある?」
「こらっ!」
「うぇー!おにばばー!」
「だれがババァよ!!」
「おには認めるのか!はっはー!」
「……キツく、後悔させてあげなきゃダメなようね……」
「うひ〜」
「あばばばばば」
「こらこら。案内、頼むよ」
「「はーい」」
中尉を囲む様に走り回る子供たちに道案内を任せる。無邪気な笑顔が周りに溢れている事に、なぜか懐かしさを感じた。
軍曹は相変わらず一定距離を保ちついて来ているようだ。気配を微塵も感じさせないその立ち回りは、流石としか言いようがない。
「そうだ、なんで大人たちは会議をしているか、誰か知ってる?」
「わかんなーい」
「なんかしってる?」
「ううん。なんだろ?」
「じゃあ、何か変わった事は?」
「うーん、おにいさんたちがいなくなったこと?」
なんだと?
「聞いたか?」
《あぁ……》
《ジオンの勢力下です。可能性は高いかと》
「もう少し聞き出してみる。軍曹、直掩は任せた。きな臭くなって来た…」
《了解……》
「おにいさんたちって?」
「そのまんま、おにーちゃんたちだよー」
「おにーちゃんにふいんきにてたなー」
「緑のお服。鉄でできた変なぼうしだよー」
「すっごいんだよ!緑や茶色、青の巨人に乗ってんだよ!大っきくて!強くて!かっこいいんだぁー」
「わたしはいやだな。だって一つ目じゃない」
「そこがいいんだよーだ」
確定だ。
しかし、そのMS部隊構成は……。
「その人たちはどこに?」
「わかんない。少し前に出て行って、そのまま」
「そのおにいちゃんたちがお仕事くれた、ってお父さん言ってた」
「いつもはたらいてるのにへんだよねー」
「でもばーちゃん、いなくなってから、清々したっ、て言ってたけど……むむ…」
「おまえんちのばーちゃん変わり者だからな、にゃははー」
「でも、なんか、難しくて長い、会議?が始まったのもそのおにーちゃんたちが来てからだよねー」
子供たちも一生懸命考えているようだ。
自分たちの世界を変えた、"おにいちゃんたち"の存在を。
「わたし、兵士さんは嫌いだな。だって、ババババんって鉄砲撃つ人だもの」
「えぇっ!?かっこいいじゃん!僕も大きくなったらにいちゃんみたいな兵士さんになるんだ!!」
「あんなロボットに乗れるのかなぁ……」
無邪気だな。本当に。
…………本当に、無邪気だな。
この子達は、何を見て、考えて育ったのだろう。この、戦場のどこにでもある、ありふれた光景。非日常だからこそ、多くの人々が忌み嫌い、それでいて心のどこかで憧れる"軍隊"の光景。
「ねぇ…」
「うん?なんだい?」
1人の女の子がこちらを上目遣いで見上げていた。何かを言おうとして、言い淀んでいる感じだ。
「お兄ちゃんは、兵士さんでしょ……誰かが死ぬとこ…何回も見てきたの?」
「こらっ!!」
「いや、いいんだ」
諌めるお姉さん枠の子をやんわりと止める。
こどもは無邪気だ。純粋だ。
それ故それが時折残酷だ。
それでも、これはとても大切な事だ。
しゃがみ込み、目線を合わせ答える。この答えが、この子の人生にいい意味をもたらす様に。
「そうだよ」
「……何人ぐらい?」
「数えるのを、諦めるぐらいかな」
目の前で失った部下、仲間、上司……数え切れない。死んだ敵はなおさらだ。
この戦争、人はあらゆる物を失い過ぎた。
第二の大地を、美しい自然を、大勢の命を、そして、何よりも人の心を。
友も多くを失った。未だに連絡のつかない友も多い。
人は、儚い。
「5人ぐらい?」
「そ、そこまで馬鹿じゃない……かな?」
「10人?」
「うん。指から離れて」
子どもには少し早かったかぁ………。
「伍長、突入準備。上等兵は……すみません、負担は覚悟の上で、ジャミングとMSの準備を頼みます」
《りょーかい!》
《了解しました。何とか、やって見せましょう。オートパイロットシステムは初陣になります。システムエラーがない事を祈りますが》
目の前が開ける。森と山の隙間に、木で出来た家が立ち並んでいる。
だが、何か、おかしい……。
活気というか、人の生活感があまり感じられず、ひっそりとしている。
「みんな、ありがとう。ここまででいいよ」
「どーいたしまして!」
「へっへー。感謝してほしーな!」
「よぉ〜し、じゃあ、代わりにかくれんぼしよう。僕がオニだ。さぁっ!逃げろぉー!」
「わぁ〜!!」
「目つぶんなきゃダメ〜」
「30秒数えてよ〜!」
「僕あそこにかくれよ!!」
「こっちくんなよみつかっちゃうだろ!」
蜘蛛の子を散らすように走り出した子供たちを笑顔で見送る。
全員逃げた事を笑顔のまま確認した中尉は、その笑顔を崩し、アサルトカービンを取り出し、セーフティを解除、セレクターをフルオートに合わせる。
同時に中尉のスイッチも切り替わり、中尉は軍人の顔になる。
既に、"おにいちゃん"である中尉は居ない。
ここにいるのは、明確な殺意と共に行動する、一つの戦闘マシーンだ。
「よし、行くぞ軍曹。目標は集落の中央やや北よりの大きな建物だ」
《了解……先回りし、狙撃ポイントの確認及び直掩に着く……》
「任せたぞ……ムーブ!!」
カービンを構えた中尉が音も無く走り出す。
装備も無駄な音が極力出ないように調整されている。人では無く、蛇の様に。人気の無い道を壁伝いに、まるで影のように移動する。
「……あそこか…目標視認、偵察に移る」
《了解……場所は把握済みだ…》
《了解しました。警戒を怠らないでください》
《き、気をつけてね?嫌だよ?わたしは少尉とお話出来なくなるのは……》
声が聞こえ始める。大人の怒鳴り合う声。かなりヒートアップしているようだ。
…………こりゃ、お子様には聞かせられないな。
「……!!………!!!」
「……!………………!!」
いやー、ザルだな。いや、フツーこんなとこに偵察に来る方がおかしいんだけど……いやさ、全員集まるって……ドロボーとか考え……。
周囲数十キロに村無ぇ(笑)。車もそれほど走ってねぇワケだ。
咽喉マイクを壁に取り付ける。これは"ワッパ"に装備されていたものだ。役に立つだろうと持って来てよかった。
「……からだ!ここの食料をだな!!」
「渡してどうすると言うのだ!!確かにお前たちに恩はある!!しかし!!この量はなんだ!!死ねと言うのか!!」
「そうだ!!これでは俺たちは干上がる!!やはり使い捨てるのか!!」
「そうではない!!しかしだな!!」
「やかましい!!だからスペースノイドなんぞ信用ならんのだ!!」
スペースノイド……か………。確かに、ジオン訛りが複数人……。
「……と言う事らしいですが……」
《どうするのー?凸かまします?突撃、お隣さん!な感じで?》
「いや、落ち着けよ。MSで凸かましたら、晩御飯食うとかの話じゃ無くなるわ」
《中に居る人数は何人でしょう?それに応じて対処する事を提案します》
「軍曹、壁抜きは?」
《
「……フツーに言ってっけど、それ神業レベルじゃね……?」
素直に対物ライフルを持って来て無いって言えよ!!バトルライフルで壁抜き出来るのかよ!!
《継ぎ目や、構造的に脆い部分を突けば……》
「………」
カービンのストックを縮め……コレ、ブルパップだった……取り敢えず着剣する。
これで、俺の最も得意とすると言っても過言では無い武器、
コイツ、そういやCQB向いてるけど、格闘は推奨もされてないんだった……。
「外に俺以外の人は?」
《ゼロ、だ……》
《周囲数十キロ圏内に敵の反応無しです》
ならば………。
「よし、軍曹、突入するぞ。民間人に被害が無いとは言え、スタン、スモークはマズイな。実力で排除する。合流までは?」
《8秒後だ…》
《中尉、危険では?》
「一番いいと思うんですけど……」
民間人巻き込んでズドン、はマズいし……。
マイクロドリルで壁に穴を開け、カメラを通し中を確認……目標を確認する。3人……いや、4人か?
《あの〜》
「MSはダメな」
《うぅ……》
《すみません。その他の方法は現時点で無いでしょう。その方法が最善だと思われます》
肩を叩かれる。軍曹が中尉の傍にきっかり8秒後に音も無く控えていた。
手の中のライフルが鈍く光を反射し、臨戦態勢が整っている事を暗に告げていた。
軍曹が装備のC4で
流石プロ。俺も、一応はプロだけど………。何か、こう…比べられないレベルなんすけど……。
中の言い争いは続いている。人数は分からんが……やるしか無い…。
軍曹からC4の起爆スイッチを受け取る。好きなタイミングでやれ、と言う意味だろう。
「よし、軍曹、来たな…民間人に被害は出すな。しかし最優先は俺たちの命だ。3秒後に行くぞ……OK?」
「OK……!」
ズドン!!
「ぐぎゃっ!!」
起爆と同時に軍曹が射撃する。赤外線センサーとかその他諸々ハイテク機器の補助無しに壁抜き……。
って驚いてる場合じゃねぇ!!
もうもうと立ち込める煙に紛れ内部に突入する。
軍曹は壁から銃を覗かせ正確な射撃を続ける。今の内だな。
「きゃぁぁぁあ!!」
「くそったれ!!この
「うわぁっ!?」
突然の事に逃げ惑う民間人がジャマだ、俺はそこまで射撃に自信があるワケではない。
ならば……!
接近戦を仕掛けるのみ!!
ライフルを向けようとしたジオン兵へ走り寄る。
対応が遅い。甘いな。
ここからは、俺の距離だ。
「ふっ!!」
「ぐげっ!?」
身を屈め急接近、懐に飛び込み飛び膝蹴りをぶちかまし、よろけ、晒された喉元にバヨネットを突き立てる。
ぐじゃり、と刺さった銃剣が喉を引き裂き押し潰し、血が飛び散る。引き金を引きフルオート射撃。反動でカービンを無理矢理引き抜く。
「!!」
バチュンッ、とおかしな音が機関部から響いた。
いや、使ってねぇからヘソ曲げたんか?
「クッ! ふん!!」
「んな!?」
使えなくなったカービンを投げつける。カービンモデルと言えど、その正体は重さ4kg近い鉄塊だ。
殺せるとは思わないが、隙さえ作れば良いのだ。
サイドアームのマテバを抜き撃つ。この距離だ。片手撃ちでも外さない。手首痛めるかもしれないけど。
4発の弾丸を撃ち込まれ、鉛弾で体重を増やしたジオン兵の胴体を逆手で抜刀した刀で突き刺す。
ボディーアーマー対策なぞ頭に無かった。現実離れした事やってるなぁ……。
胴を蹴りつける事で刀を抜き……抜けない!仕方無く刀を手放すと、ジオン兵が血を噴き崩れ落ちる。
噴き上がった返り血を全身に浴びる。あぁ…血のシミは落ちづらいんだ……。
端からみたら人斬りにしか見えねぇだろうな。
『そう、俺の正体は………日本刀と銃を同時に使用すると言う"俺的流派・生涯無敵流"を編み出した"スーパーウルトラセクシィヒーロー・
『黒い瞳のガンマンが、海を渡って武者修業。極めし銃と刀にて、この世に無用の悪を断つ!!それが俺!!』
『トドメ・ファイナル!!ガッショウハラキリコイシグレ!!』
うん。笑えないしそんな事考えてる場合じゃ無い。
あと1人……!!
「動くな!!」
「ッ!?」
残る1人は人質を取っていた。若い女性だ。恐怖で顔を歪ませていた。
銃をこちらに向け睨んでいる。
撃たないのは……交渉を望んでいるのか……?
「そこの野郎も出て来い!!そして銃を置くんだ!!」
「…………」
「……たっ、助けっ……ひっ!」
ジオン兵が首を絞め、女性の顔は苦悶で歪む。完全に身体を覆い隠しているため、軍曹も狙撃は出来ない…。
マズイな……大変にマズイ……。
刺激しないようにゆっくりと銃を置く。
軍曹もゆっくりと壁の裏から出て来る。ライフルは握ったままであるが。
「へへっ、何も出来まい……おい!!武器を置け!!」
「……何が望みだ?」
「言える立場か!?手を上げ!?」
ゆっくりとライフルを置こうとした軍曹が、置いたと同時に地面を蹴る。
速い。
速過ぎる!!
気がついた瞬間にも軍曹は距離を0にまで詰め、向けられた銃を掴み逸らす。軍曹の手の中で、銃が同時に一瞬でバラバラに分解、腕を掴み足をかけ地面に叩きつける。
「クリア……」
「お、おう……」
いや、何をどうやったらそうなるの?そしてなんでファイヤーマンズキャリーなの?
「無事か……?」
「え……あ、はい」
「流石だな軍曹。我流なんだっけ?」
「……あぁ…"バリツ"、と呼ばれている………」
聞く前に、そして俺と話す前に降ろすのが先じゃ無いのか軍曹……。刀を引き抜く。鞘に入らない。どうもどこか歪んだらしい。
「あんたたち、連邦軍か……?」
避難し、帰って来た男が聞いてくる。
その顔は複雑だった。
「はい。そうです」
「………名は?目的は?」
「軍規に差し障りますので」
「余計な事をしてくれた……これで、ジオンとのパイプはなくなった…!!」
「………」
仕事、とやらの話か。そうだろうな。
出て行っていた人たちが続々と戻って来る。皆一様に複雑な表情だった。
「確かに、感謝したい事もある、が、しかし……」
「ジオンの要求は確かに厳しいものもあったが……」
「俺たちは明日からどうすりゃいいんだ!!」
「本当に余計な事しやがって!!」
「お前たちはいいよな!!そうやって人殺してや金になんだ!!」
「復讐されるとしたら我々だ!!その意味をわかっているのか!?」
「………」
四方八方から浴びせられる言葉を無言で受け止める。
同時に悟った。
この人たちは、
「……あなたたちの言い分は分かりました。しかし、分かった上で私たちに出来る事はありません」
「無責任な!!」
「いい加減にしろ!!」
「……それでも軍人か!!人か!!」
人、人か……。
「………今の私は、人である前に軍人、兵士です……そして、その前に、兵器です……」
「…………」
「作戦行動中です。では……行こう、軍曹」
「了解……」
「……ん!?あんた、まさか……!!」
「…人違いだろう………」
手早く死体を処理し、壁の補修作業を行っていた軍曹を呼ぶ。
その軍曹の顔を見た1人が仰け反るが、軍曹はにべも無く一蹴する。
「行くぞ、軍曹……おおっと……」
「了解……」
捕虜を担いだ軍曹と歩きつつ外へ向かう。
軍曹は中尉が誤って蹴飛ばした、場違いな段ボール箱の中の、動物を模したフィギュアを見つつ呟いた。
「……フン、いい、趣味だ…」
「こ、これはだな……」
「?」
何の話だ?さっきも顔割れてたし……。
「………」
「…さっきから、どうした?軍曹?」
「いや、本当に…イイ趣味、だと思ってな……長く、無いな………」
その目はフィギュアから離されていない。無表情である軍曹の顔が、ほんの少しだけ歪められていた。
まさか………。
「軍曹……まさか、コレ……」
「…………」
軍曹が無言でうなづく。その顔に変化は殆ど無かったが、嫌悪感を抱いている様だった。
やはり、か………。
あのフィギュア……やはり、圧力成形したコカインか……。
長くない……ねぇ。それは、何を指しているのか……。
外へ出て歩き出す。もちろん見送りなど1人もいない。時折向けられる目も敵意混じりだ。
足元に石が転がった。
投石だ。そこまで憎いか。
「状況終了です。こちらへ向かって来て下さい」
《了解しました。が、この騒ぎは一体?》
「たはは……嫌われちゃいました……」
《…少尉は、悪くないのに……》
カコン、と投げられた石がヘルメットに当たる。
何も言わず、軍曹が中尉の後ろに回った。
「軍曹、別に…」
「隊長への攻撃に、身を持って守るのが部下だ……」
「…いや、それは…………ありがとう…さっき、人質を取られた時、撃たなかったな」
「捕虜にするため、だ……」
「そうか……」
多分、女性に血を浴びせたくはなかったのもあるだろう。軍曹は優しいから。
この部隊の中で一番冷血人間に見えて、一番他人を優先する男だろう。
「……ねぇ…」
「ん?」
「こらっ!!こっちに来なさい!」
袖を握ってきたのはさっきの女の子だった。
何故だ?と思うのが一番先だった。刀を手にした血塗れの殺人鬼に、何故こうも?
「お母さん、呼んでるよ?それに、血も……」
「……ううん…いいの……もう、行っちゃうの?なんで石、なげられてるの?」
「……いつか、分かるよ…さぁ、お行き…」
声をかけ女の子を送り出そうとしたら、他の子供たちも来た。
みんな、子供心に何かを感じ取っているようだった。
「おにーちゃん…」
「……すまんな、約束を破った事は謝るよ…」
「違うんだ…違うんだよ…おにいちゃん…」
「またいつか会えるよ。ほら、お別れだ」
最後に頭を撫で、子供たちを送り出す。
「………ありがとう!!」
「ありがとうおにーちゃん!!」
「ありがとー!!」
「また会おうね!!」
「約束だよ!!必ず!!」
「ありがとぅー!!」
そのまま歩き出した中尉は、振り向かなかった。
ただ、手を一度振った。
それだけだった。
歩く。歩いて行く。
中尉の先には、稜線の影からその巨体を表す"陸戦型ガンダム"が姿を見せ始めていた。
刀も、一晩すれば元に戻るだろう。俺たちの日常と同じ様に。
『この戦いに、意味は……あったのか………?』
踏みしめる足に、迷いは無く………………
またも泥臭い接近戦でした。
映像作品を見ていると、地球はどうも田舎が多い様で……。暮らしぶりはあまり変わっていないのでしょうね。
コロニー内もあまり変わらないのは、保守的なのか、はてまたやはり重力に魂を縛られているのか……。
ガンダムで外せない"子供"を出しましたが、果たしてU.C.ハードグラフには必要だったのかなぁ?
次回 第五十七章 威力偵察
「……伍長がまともな発言した………」
お楽しみに!!