機動戦士ガンダム U.C. HARD GRAPH 名も無き新米士官の軌跡   作:きゅっぱち

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なんかぼさっとしてて更新忘れてました(笑)。

別に怪我とか病気とかそんなんじゃないんで……

では、お楽しみ下さい!


第五十五章 風は吹く

戦いは続く。

 

現実で、自分の中で。

 

人は流されるだけだ。

 

時代にも、周りにも、

 

そして、自分にさえも。

 

 

 

U.C. 0079 8.26

 

 

 

《作戦開始時刻まであと10秒……5、4、3、2、1、作戦開始時刻です。現在のミノフスキー粒子濃度63》

「よし、"ブレイヴ・ストライクス"出撃だ!!」

《りょーかい!!すぐにすまして、今度こそカウチポテトです!!》

「そのフレーズ気に入ったのか?」

《ブレイヴ02了解……》

《こちらウィザード01。レーダー、ソナーに反応無し。アンブッシュの可能性があります。各機、索敵を厳とせよ》

 

雨は止んではいない。昨日ほどの勢いこそなく霧雨程度だが、メインセンサー・カメラに泥がこびり付いていた。

中尉はコンソールを叩き環境対応設定を変更、その命令を受けた"陸戦型ガンダム"がすぐさま反応し画面から泥が消え、クリアな視界が映される。

 

「プラン通り動くぞ。目標、D3」

《ウィザード01より各機へ。今回はブレイヴ02の狙撃は不可能です。そこで"イージス"を中心にVフォーメーションを取って下さい。ライトウィングにブレイヴ01、レフトがブレイヴ03。バックスをブレイヴ02がそれぞれついて下さい》

「ブレイヴ01了解!ブレイヴ03、行くぞ!」

《はぁーい!!》

《ブレイヴ02了解…》

 

中尉の"陸戦型ガンダム"が立ち上がり、それに2機の"陸戦型GM"が続く。

 

中尉の乗る"陸戦型ガンダム"のメインセンサー及びカメラを覆うグレイズ・シールドは最新型の環境対応仕様だ。

 

外周には高圧洗浄ノズルが装備され、シールドそのものが高周波ワイパーとなっている。泥や埃はおろか、吹き付けられたアクリル塗料であろうとものの数秒で視界を回復させる優れものだ。まだ試作段階ではあるが。

結構こういう細かいところまで要望に応えられ、おやっさんによって改造されているためコストはどんどん跳ね上がっているわけだが。

 

《! アンダーグラウンドソナーに感あり(コンタクト)。12時方向に1機、距離1400。そのさらに奥に2機、距離1520。計3機確認。振動、音紋から計測するに"ゴッグ"です。それぞれG1、G2、G3と呼称。ご注意を》

「聞いたな?ブレイヴ02、03、俺が出て囮になる。そのうちに叩け。ヤツらを河に入れるな!」

 

言い切るやいなや中尉は機体を走らせる。

 

"ゴッグ"のスペックはこちらに筒抜けだ。ヤツらは水冷式のジェネレーターで動力をまかない、ムリにメガ粒子砲を搭載したため設計に問題が生じている事も。

 

水が無ければ干上がるカッパだ。後は、上手くお辞儀をさせるだけ。

 

《りょーかい!!狙い撃ちますよ!》

《ブレイヴ02了解。しかし。無理はするな……》

《ウィザード01よりブレイヴ01へ。右へ迂回しつつ攻撃を加える事を推奨します。左肩への被弾に気をつけて下さい》

「了解!!」

 

風を切る機体が左肩にかかったマントを翻し、その姿はまるで西部劇に出て来るガンマンのようだ。

 

今の"陸戦型ガンダム"は左肩にマントを羽織っている。損傷の著しい伍長の"陸戦型GM"にショルダーアーマーを譲ったのだ。申し訳なさそうな顔をする伍長にパーツの互換性があって良かったと中尉は笑っていたが。

 

装甲がなくフレーム剥き出しの左肩は簡単なシーリングだけではどうも不安なので、どうにかしようと思いついた案がコレだった。実はただ取り外すだけではバランサーの再設定に大幅な調整なども絡むためマント自体にも様々な細工が施してあるが。

 

操縦桿(サイドスティック)についているセーフティを解除し、マスターアームオン、FCS起動。

 

『エンゲージ G1 メインアーム レディ』

 

セレクターは"3"(3点バースト)に。

これで"陸戦型ガンダム"は臨戦態勢に突入、獲物を捉え、攻撃指示を待つ狼となる。

 

そんな中尉を待つ事もせず、先頭の"ゴッグ"(G1)が射撃態勢をとり、身を屈めた。

 

挨拶とばかりに"100mmマシンガン"を発射する中尉。100mmAPFSDS弾の3点射が先頭の"ゴッグ"の捉えるも、やはり動きを止めるには至らない。

 

『アラート G1からのレーザー照射を確認 至急回避行動を』

 

今回の装備は"陸戦型ガンダム"と軍曹の"陸戦型GM"が"100mmマシンガン"、グレネード、"スローイングナイフ"だ。軍曹は"100mmマシンガン"を2丁下げている。

伍長機は"ミサイルランチャー"に"100mmマシンガン"、それに新型コンテナ(Bコンテナ)だ。腰には残り2つとなった"ランチャー"も懸架されている。

 

《隊長!!G1の赤外線放射量増大!!メガ粒子砲が来ます!!至急回避を!!》

「!! ふっ!!」

 

既に中尉は反応していた。

"ゴッグ"の腹部から光の束が吐き出されるよりも早く機体を操作、大きく飛び横っ飛びに機体を横転させ、木をなぎ倒しながら地面を転がる。

 

瞬間的に多大な負荷をかけられたフレームがたわみ、高レスポンスで作動した関節駆動部が悲鳴を上げる。コクピット内は警報でやかましい。まるで機体そのものが乱暴に扱うなと怒っているようだ。それでも限界機動には程遠い。"陸戦型ガンダム"(コイツ)の能力は底が知れない。本当に。

 

メガ粒子砲が地面を抉り、草木を焼き尽くす。含まれていた水分が激しく蒸発し水蒸気となりさらに霧が濃くなった。

 

「……っぶな……」

 

スプレーのように拡散しながら発射されたメガ粒子砲は"陸戦型ガンダム"の左腕を捉えたかの様に見えたが、焼いたのはそのマントだけだった。

 

《少尉!!》

《隊長!!》

「無事だ!!それより撃て!!」

 

その時には既に軍曹は攻撃を開始していた。発射態勢を取っていた後ろの"ゴッグ"の頭部に"スローイングナイフ"が突き刺さり炸裂。頭部をバラバラに吹き飛ばす。

同時にフルオートで撃ち込まれた弾丸が胴体のメガ粒子砲マズルを歪め、行き場を失い暴発したエネルギーが逆流し"ゴッグ"を内側から焦がし尽くした。

 

《1機沈黙を確認!!引き続き攻撃を加えて下さい!》

《了解……》

《あいさー!》

 

その横から中尉の3点射が"ゴッグ"を襲う。身を投げ出した匍匐状態からしゃがみ、立て膝と少しずつ下がりながら射撃を加える。

やはり効果は薄いが、間接部を狙った射撃は"ゴッグ"の動作を確実に鈍らせた。

伍長も"100mmマシンガン"を撃つ。半身になりシールドを向け移動しつつの射撃は有効打にこそなり得ないが、牽制にはもってこいだ。

 

『アラート メガ粒子砲発射態勢 回避行動を』

 

1機を沈黙させられ、十字砲火に曝された"ゴッグ"が目標を最も近い中尉に絞り攻撃する。

 

「……当たらなければ!!」

 

腹部が輝き、またしても拡散ビームが放たれる。霧雨が蒸発し、軽く水蒸気爆発が起きるもその巨体は揺るがない。

 

「……どうと言う事は無い!!」

 

マントを巻き付けられたシールドを向けつつまたしても転がる中尉。激しい回転運動で三半規管がバカになっている。しかし動きを止めたら最期だ。

歯を食いしばりつつ機を操る。

上下左右へと振り回され中尉は少し吐きそうだった。

 

「…その威力では、当たったところでどうという事は無いがな」

 

回転運動をとる"陸戦型ガンダム"。そのシールドを数発のメガ粒子砲が捉えるが貫通には至らない。

 

改めて中尉へと向き直ろうとした"ゴッグ"へと多数の弾頭が降り注ぎ炸裂、その強靭な装甲を焼き払う。3機の"ゴッグ"は今度こそ煙を噴き上げながら炎の中に倒れ伏した。

 

《間一髪でしたねー少尉。大丈夫ですか?》

「…あぁ。やはり的になるのはいい気分じゃないな。しかし門番は破った。後は殲滅だ。アパム、"100mmマシンガン"(コイツ)を頼む」

《はいはーい!ってアパムって誰ですか!?もうっ!軍曹もどうぞ!》

《頼んだ……アイリス01、周囲に敵は……?》

《反応はありませんが、警戒はして下さい。弾丸の補給が終わり次第拠点(D3)を制圧、次の目標へ進軍しましょう》

 

"ミサイルランチャー"のミサイルコンテナをパージ、新しいコンテナへと付け替えている伍長の"陸戦型GM"に"100mmマシンガン"を渡す。

 

「冗談だよ」

《冗談はやめてくださいよもうっ!!

……あ、そう言えば"ゴッグ"って》

「ん?なんだ?」

《緑色に塗ったら『バトルモンスターズ』ってゲームに出て来る『ストロベリー・ジャム』ってキャラに似てません?》

 

突然なんて話を始めてんだよ。そりゃ名作だけどさ。

 

「……いや、似てねぇだろ」

《えぇ!?もしかしてキバ派ですか!?》

「いや、チリ&ペッパー派だ」

 

2人でボコれるからな。

 

《作戦行動中です》

「すみません……」

《ません……》

《隊長も時と場合を弁えて下さい。軍曹も何か言ってあげて下さい》

《確かに、今する話では無いな……》

「はい……」

《うぅ……》

 

そうこうしている間にもリロードの済んだ"100mmマシンガン"が返却される。それを掴みプラグを接続、FCSと同調させる。他2種類の通信も良好だ。セレクターを変更、"ア"(セーフティ)から"タ"(セミオート)へ。これでまた戦える。

 

伍長機の背負ったBコンテナとはただのコンテナでなく、"100mmマシンガン"を自動装填する特殊なものだ。それで通常型のコンテナ(Aコンテナ)と差別化を図るためにBコンテナと呼ばれている。

これは戦場での迅速な弾倉の交換を行い継戦及び弾幕形成能力を強化するものだ。"100mmマシンガン"を保持し弾倉交換及び再装填を行うアームと弾倉から形成されている。

 

「中々いいじゃないかソレ」

《ですよね!少し不恰好なのがまた無骨でいいですよね!!ねっ!?》

《見た目の話では無いと思いますよ?》

《えっ!?アレ?》

《MSならではの、装備だな……》

「ペットネームはアパムで決定だな」

《だから誰ですか!?》

《しかし…》

 

上等兵が一度話を切る。

このパターンは知っている。

知っているぞ…………。、

 

《暗号通信と言えど、()が付かないとは言い切れません。それに、いくらレーザー通信と言えど通信量の増加は敵に発見され易くもなります。余計な通信は控えて下さい》

《そうだ……限りなく少ない情報からでも、分かる事は多々ある……》

「……了解です。すみません」

《はい……》

 

さっきから怒られてばっかや。

 

レーザー通信はミノフスキー粒子の影響が少なく、電波より漏れづらい上一気に大量のデータを送信出来る。さらには通信時間も短縮出来るため傍受されづらいのだ。それにも限界はあるが。

もちろん欠点もある。レーザーであるため当たり前だが山越えが出来ず、高出力で照射する事である程度カバー出来るが大気状況に左右され易く長距離通信にも向かないのだ。

 

結局この世には何事も何にでも万能で便利なものなど存在しないのだ。

 

 

 

 

 

拠点を防衛するAPCを"100mmマシンガン"で一つ一つ吹き飛ばして行く。対人戦闘で猛威を発揮するAPCも、MS相手ではオモチャも同然だ。

 

カンカン、と装甲が音を立てる。その軽い音が相手の意思だ。

生へと向かおうとし、迫り来る死へ抗おうとする必死の音だった。

 

その音もだんだんと減って行く。そもそもその音を立てる事すら少なかった。

シールドに、マントに阻まれた弾丸はその意思を伝える事すら出来ずに運動エネルギーを失い地面へと落ちて行く。

 

軍曹が"Sマイン"を作動させ一掃する。上等兵が制圧要請を発信し、"キング・ホーク"を呼ぶ。飛来した"キング・ホーク"の陸戦隊によりじきに制圧されるだろう。

 

《…なんか、やりきれませんね……》

 

伍長がポツリと呟く。中尉は効くはずのない小銃を構えた歩兵達の集団を頭部機関砲で吹き飛ばしていたところだった。

当たらなくとも衝撃波だけで引き裂かれる歩兵は、子供が遊び半分に昆虫の脚をちぎる様を連想させる無力さだった。

 

「……だな……でも、仕事だ。見たく無かったら見なくていい」

 

しかし伍長機に動きは見られなかった。

 

一拍おいて"陸戦型GM"が左手の"100mmマシンガン"を構えた。

 

その先には敵のエレカ"サウロペルタ"があった。

 

ドライバーシートには若い兵士が必死にエンジンを回そうと躍起になっている。

 

中尉のコクピットにも、顔を恐怖に引きつらせ、汗を垂らすのが手に取るように見えていた。

 

《……いえ、やります。やらせてください。わたしにも背負う責任があります……》

《伍長………》

 

上等兵が呟く。その悲痛な声は震えていた。

 

《………多くの殺し屋が数年がかりで身に付ける『指先を心と切り離したまま動かす』覚悟など、逃げだ……》

「軍曹……?」

《武器への、奪う相手の命への冒涜だ…………撃って良いのは、撃たれる覚悟がある者だけ………

…………ブレイヴ3。兵士、戦士であるなら……『引鉄は、指で引くな、手で引くな、闇夜に降る霜の如き、静かな心で引け』………》

「……伍長、後は、自分自身に聞け……後悔しないように」

《……うん…………

…………………ごめんね……》

 

伍長機の構えた"100mmマシンガン"のマズルが閃光を発し、撃ち出された100mmHEAT弾が"サウロペルタ"を消し飛ばす。

 

強烈な衝撃に跳ね上げられた車体、そこから投げ出されバラバラになっていく兵士が飛び散るのが目に焼きつくようだった。

 

《……行きましょう。まだ作戦は終わっていません》

 

上等兵の、普段通りに聞こえるようにムリをした声が、救いだった。

 

「……よし!行くぞ!!」

《了解……》

《……はい!!行きましょう!!きっとより良い明日が待ってます!!》

《念のため"種"をまいておきます。しばしお待ちを》

 

グレイズ・シールドがリセットされ、"陸戦型ガンダム"の双眸(デュアル・センサー)が煌めく。

 

意思を新たに、"ブレイヴ・ストライクス"は前進を開始する。

 

まだ見ぬ、あるはずの輝く明日へ向かって。

 

 

 

 

 

 

 

 

《ウィザード01より、ブレイヴ01へ意見具申します。一度引き返し、巨岩エリアを経由しましょう。増援が来ないという事は、最後の拠点(D4)にて全軍を持って迎え撃つという事でしょう。そこへわざわざ正面から攻める必要はありません》

「こちらブレイヴ01、了解。それで行きましょう。地盤が変わるぞ?歩行モードも再設定しておけ」

《オーキードーキー!……すみません上等兵さん、頼めます?》

《………はぁ……回線C開通確認。システムチェック……リンク開始……》

《………大丈夫、なのか……これは……?》

「………さぁ?」

 

まぁ、昔から一番有能な軍隊より、一番無能で無い軍隊が勝つもんだ、って言うし………。

 

《あ、あのー、出来ればハンドシグナル自動識別装置のアップデートも……》

《…………》

《……ごめんなさい………………》

 

あ、ダメだこりゃ。

 

それでもやってあげる上等兵は優しいな。

 

……いや、やらんと部隊全体が危険に晒されるからか……。

 

《…完了です。行きましょう》

 

動き出した"アイリス"を中心にアローフォーメーションを取る。先頭の中尉は時折木を"アイリス"の蹴り倒し進路を確保する事を忘れない。

 

岩山は巨大だ。全長18mもあるMSを軽々と覆い隠す大きさに、厚さも十分にあり弾丸やレーダー波も通さない。そこへゆっくりと侵入して行く。敵拠点はまだ見えない。

 

谷間を縫い、細い迷路のようになった中を警戒しつつ進んで行く。

中尉は自機の背中を岩盤に押し当て、前方を注意しつつゆっくり進む。

それに伍長が続き、"イージス"を挟み軍曹が殿を務める。

 

お互いがお互いの死角をカバーするポジションだ。

人体の延長であるMSは、歩兵の動きを拡大解釈しトレース出来る。それが最も活かされている状況だと言えよう。

 

全員一言も言葉を発さない。通信を抑えるため曲がり角ではハンドシグナルのみで会話している。センサーもパッシブのみを起動し、かくれんぼ(ステルス)する。

 

口の中が渇く。センサー強度を落としているため、今の中尉達は目隠しも同然な状態なのだ。緊張しないわけが無い。

 

アメを口に放り込みチューブゼリーを啜る。やや落ち着く。やはり甘い物はいい。

 

やや出て来た余裕に任せ、ふと思う。

アメが減ってきた、足さなきゃとぼんやり考える中尉だった。

 

中尉が機体を停め、ハンドシグナルを出す。全体が音も無く停止する。

 

岩山の迷路が終わり、視界が開ける。前には緩やかな丘陵地帯が広がっていた。

 

目標の拠点は、その上…………

 

 

 

!!

 

 

目の前で岩壁が抉られる。敵意、いや殺意を持った射撃だ。

 

「ちっ! バレてたか!!」

《センサーにコンタクト!"キャノン付き"3機に"ザクII"が2機です!!C5、C6、C7、A7、A8と呼称!》

《縛り付ける気か……》

《少尉!!反撃していい!?一方的なんてまっぴらです!!》

 

岩壁の裏に完全に隠れる。岩が揺れ、パラパラと破片が落ちる。しかし削り切られる事は無いだろう。

 

「ブレイヴ01より各機へ!!交戦を許可する!ブレイヴ03!コンテナを降ろせ!撃ち合うぞ!!ウィザード01は"種"の起動準備と"ロクイチ"(アーチャー)隊への支援射撃要請を打診を頼みます!!」

《ブレイヴ02了解……時間を稼ぐ……》

《ブレイヴ03りょーかい!!わてしがんばっちゃいますよー!!》

「伍長落ち着け噛んでるぞ」

《ウィザード01了解しました。オープン回線を除くあらゆるチャンネル、通信手段を用い打診してみます》

 

岩壁からシュノーケルカメラを伸ばした上で、"100mmマシンガン"だけを突き出し大まかな狙いをつけ射撃を行う。

 

伍長もそれに習い射撃を始める。軍曹は既に射撃を始めている。

やはりと言えばいいか当たらない。しかし当たらなくとも牽制にはなっている。ここに突撃でもされたら厄介を通り越しかなりヤバい。

 

クソッ!せっかく高性能なFCSがあるんだ!銃の方にも本格的なセンサーを取りつけりゃいいのに!!

 

断続的に銃声が鳴り響く。

 

両者ともこの場に縛り付けられた膠着状態に陥った。打開策は……!

 

《少尉!もう気化爆弾を使いませんか!?弾にも限界がありますよ!?》

「俺もうんざりしてたところだ!それも案外いい案かもしれんな!上等兵!"ロクイチ"(アーチャー)隊とのコンタクトは!?」

《取れました!支援射撃!20秒後です!》

「よっしゃ!きっかり5秒頼みます!!アーチャーからの支援射撃終了と同時に突入するぞ!!ウィザード01は"種"の制御を!ブレイヴ02はスモーク!ブレイヴ03は"ミサイルランチャー"を全弾ブチかましてやれ!!」

 

"種"とはおやっさんが開発したMSデコイだ。"メキシコシティ"でも一度使ったデコイを高濃度のミノフスキー粒子下でも使えるよう、地面を伝わる特殊な音波に反応し作動する様になっている。

コレはただデコイとして作動するだけで無くセンサー、スモーク散布、セントリーガンとしても使用できる。その分コストが高まったためその機能がついているのはこの初期ロットだけだが。

 

遠雷の様に砲撃音が鳴り響く。"ロクイチ"の支援射撃だ。

 

《弾着まで5、4……》

「各機!撃ちまくれ!少しでも相手の動きを制限しろ!!」

《…2、1!弾着、今!!》

 

"イージス"の示した座標へと155mm砲弾が降り注ぐ。大まかな座標で山越え射撃かつミノフスキー粒子下での攻撃に精密さはない。しかし、その目視外射程(BVR)であれ、面制圧効果は十分にあった。

 

《各機!援護しろ!!トドメは俺が決める!!》

《ブレイヴ02了解……》

《ブレイヴ03りょーかい!!お任せあれー!!》

《ウィザード01了解しました。"種"、起動!!》

 

砲撃に掻き回され、爆発的に増えたレーダー反応に後押しされ、敵は混乱しているはずだ。

 

スモークに紛れながら突進する。目の前では更なる爆発が起きる。伍長の放った"ミサイルランチャー"だ。

やはり中距離での面制圧には十分過ぎる効果だな。

 

"100mmマシンガン"をフルオート射撃、"マルチランチャー"を放ちグレネードを投げ込みつつ突入する。

砲撃を逃れた"ザクII"(A7)を中尉の放つ100mmHEAT弾が捉える。動きを鈍らせたA7にグレネードを叩きつけ爆破し、周囲にセンサーを走査させる。

 

戦闘は既に終結していた。後続の軍曹が"スローイングナイフ"を投げ付け、残る2機であるC5、A8のコクピットへと突き立てていた。

伍長は既に対地攻撃へと移っている。

 

我ながらいいチームだ。チームワークのないスタンドプレーの集合っぽいが。

 

「よし、高脅威目標は全機沈黙したな……」

《はへー、長かったですねぇ…》

《いえ!!まだです!!アンダーグラウンドソナーにコンタクト!10時方向!距離4200!数3………これは、聞いたことが……緊急通信(PAN)緊急通信(PAN)!!緊急通信(PAN)!!!コードユニフォーム!!》

《うぇえっ!?》

「なんだって!?各機!戦闘態勢を維持!!新型機の襲来に備えろ!!アローフォーメーション!!」

 

まだいやがんのか……しかも新型だと!?

つーかおい、ジオンに兵なしとか嘘だろ!!

あのおっさん、負け戦をなんとか痛み分けに持ってったが……現場にとっちゃデビルだわ!!

 

「ブレイヴ01よりウィザード01へ!!その情報は確かか!?」

《ウィザード01からブレイヴ01へ。巡行速度、足音の音紋パターン、駆動音、どれも聴いた事がありません。もっとも類似しているパターンは"ザクII"ですが…それに、関節駆動部の磨耗具合も新品同様というのもその信憑性を高める一因となっています》

「了解しました。後退しデータ収集を頼みます!各機、迎え撃つぞ!気を抜くな!!」

《ブレイヴ02了解…》

《ブレイヴ03りょーかーい!!見せてもらいましよう!新しいMSの性能とやらを!》

 

『アラート エンゲージ アンノウン接近』

 

"陸戦型ガンダム"も敵機の情報を収集し始める。確かに形状、赤外線放射量など違う……エネルギーゲインは20%増し、と言ったところか?

 

「エンゲージ!目標を確認!!

……………素手?武器を内蔵しているのか?」

《そう考えるのが妥当だ……》

《なんかひきょーですね。男らしくない!》

 

攻撃的でスパルタンな青いボディ、目立つ反り返った両肩のショルダースパイク、隊長機を表すはずの角。

 

なるほど……完全なエース部隊仕様の"ザクII"改修機、と言う事か。

 

「ブレイヴ01より各機へ、以降、ヤツを"アオツノ"と呼称する!!散開(ブレイク)!!三方向から挟撃し格闘戦へ持ち込め!様子を見るぞ!!」

《ブレイヴ02了解…》

《あいさー!!》

 

伍長、軍曹が散開し包囲を始める。

 

『アラート U1よりレーザー照射を確認』

 

中尉はその中心に立ち、左半身を見せ付ける様に構える。

 

敵との距離が3000を切った。

 

「さて……どう出る?」

 

"100mmマシンガン"を先頭の"アオツノ"(U1)へフルオートで撃ち込む。

 

「………なるほど……」

 

"アオツノ"は左腕のシールドを向け真っ直ぐ突っ込んで来た。

 

やはり内臓式の武器を装備している様だ。それも近接格闘武器を。パワーも余裕があるのだろう。"ザクII"を上回る突進速度で向かってくる。

 

後ろの2機に左右からの攻撃が殺到する。軍曹と伍長だ。相手も散開し、一対一の状況が3つ出来る事となった。

 

《ウィザード01より各機へ。無理はせず、情報の収集を主体に戦闘を継続して下さい。最悪撤退する事も視野に入れて戦闘を!》

「ブレイヴ01了解!」

《ブレイヴ02了解……》

《ブレイヴ03りょーかい!!逃げつつ撃ちます!》

 

中尉は2人を信じ目の前の敵に集中する。敵に向かって射撃しつつ前進、距離を詰めて行く。

 

ジグザグに進み100mm弾を弾きつつ突進して来る"アオツノ"へ、"100mmマシンガン"が曳光弾を吐き出す。

 

「行くぞ!!"ジーク"!!」

 

曳光弾が引く光の尾を確認し、自分に発破をかけるつもりで声を出し、機体を走らせる中尉。

 

『アラート メインアーム 残弾0』

 

コンソールの残弾カウンターがゼロになる。

 

その時にはお互いの距離は既に白兵戦の距離だった。

 

「!! っ! やはりか!」

 

曳光弾が引く光の先、"アオツノ"がシールド裏から発光する剣を抜き、左手からマシンガンを放ってくる。

 

シールド裏に武器を仕込んでいたのか……?

 

マントを翻し、シールドとマントで弾丸を受け止める。

 

マントがバラバラに千切れ飛び、風に舞う。

 

しかし無残に引き裂かれるはずのその下の装甲は無傷だった。

 

左腕で抜刀、抜き様に斬りつける。

 

『アラート 接近警報』

 

"アオツノ"がそれを剣で受けとめ、お互いに鍔迫り合いになる。

 

強化されたと言えど、パワーはこちらが上か。

 

機体を操作、足払いを掛けようとしたが一瞬で思いとどまり頭部機関砲を発射する。

 

それをすんでの所で躱した"アオツノ"が右手を突き出す。

 

『アラート 敵機右腕部に駆動音 至急回避行動を』

 

右手の"100mmマシンガン"を手放す様に投げ、機体を投げ出す様にして回避する。

 

中尉の目は"100mmマシンガン"がグレーのムチの様な物に巻かれ、焼き切られるのを回る視界の隅で捉えていた。

 

「!! っく!!マジかよ!?本格的に"ザク"とは違うのか!?"ザク"とは!!」

 

シールド裏から"マルチランチャー"を放つ事で態勢を立て直す布石とする。立ち上がり、"ビームサーベル"を右手へと持ち替える。

 

2機はそのまま、弧を描く様にジリジリと回りながら睨み合う。

 

"アオツノ"が仕掛ける。左腕部の機関砲をばら撒きつつ突進、剣を大上段へ振り上げ突進する。

 

シールドを向けつつ身構え、シールドのセンサーが反応しなくなった瞬間に投げ捨てる。

 

「っ!」

 

跳弾が"陸戦型ガンダム"の頭部に当たる。ダメージリポートでは照準用センサーの一部が使用不能と出る。

 

だが、今は関係無い。

 

「………フッ………」

 

迫り来る"アオツノ"の手前、"陸戦型ガンダム"が腰を落とし、居合構えをとる。

 

 

 

一閃。

 

 

 

"アオツノ"の振り上げた両手首が両断される。

 

一瞬動きが停まるのを見逃さず、足の裏で蹴り倒し"スローイングナイフ"をトドメとばかりに投げ突き立てる。

 

「……間合いを読み違えたな。こちらは()()()()()()

 

胸部に大穴を開け、そこから煙を噴き続ける青い巨人を見下ろし、呟く。

 

決して届く事の無い、言葉を。

 

「こちらブレイヴ01。目標撃破。ブレイヴ03の援護に向かう」

 

切り替え早く通信を行う。軍曹はともかく伍長は心配だ。

 

《こちらブレイヴ02………同じく目標撃破……ブレイヴ03を援護する》

《助けてくださーい!!手が銃とかズルい!!》

 

助けが必要らしい。やはりと言えばやはりだが、たまには期待をいい意味で裏切って欲しい。

 

シールド裏かと思ったら……手が銃?何だその設計は?

 

《ウィザード01よりブレイヴ03へ。ポイントエックスレイ65へ向かって下さい。ブレイヴ01、02はポイントズールー27へ》

《あ、アイサー!!うひぃっ!?》

「聞いたか!ブレイヴ02!行くぞ!」

《ブレイヴ02了解……》

 

レーダー上で伍長がダッシュをかける。

 

中尉達はその前へと回り込む形となった。

 

《え?》

《上手く掛かりましたね》

 

そこには"ロクイチ"がズラリと並んでいた。

その数全部で12輌。3個小隊、つまり一個中隊だ。

 

その間にはパワードスーツを装着した兵士が40mm砲を構え"ロクイチ"の前面には"リジーナ"、"スーパージャベリン"を構えた兵士達が陣形を組む。

 

《Make ready!!》

 

空を睨む、計24門の主砲が、大小60門を越える個人携行火器が"アオツノ"を狙う。

 

《Present!!!》

 

その後ろには"100mmマシンガン"を構えた中尉と軍曹の"陸戦型ガンダム"と"陸戦型GM"が並ぶ。

 

その光景は壮観だった。

 

《各機、オールウェポンフリー!!撃ち方始め!!》

()ぇーっ!!」

《Fire!!!!!》

 

まるでダムが決壊するかの如く、全砲門から砲弾が撃ち出され、"アオツノ"に集中する。

 

周囲には遮蔽物の無い緩やかな丘陵地帯だ。逃げる所などない。

 

さぁ、どうする?尻尾を巻いて逃げるか?逃がさんが。

 

「!! 何ぃ!?」

《え?こ、こっちに来る!?》

《骨のある奴だな……》

《アーチャーリーダーより各機へ!!ヤツを寄せ付けるな!!撃て撃て!!》

 

しかし、"アオツノ"の行動は違った。

 

ヤツの取った手段とは、"突撃"だった。

 

"アオツノ"はシールドを向けジグザグに突進する。明確な攻撃の意思に他ならない。

 

軍曹の言う通り骨のある奴だ。

 

155mm砲弾、 40mm弾、30mm弾、7.62mm弾、13.2mm弾、5.56mm弾、30mm弾、100mm弾が雨霰と降り注ぐ中、"アオツノ"は速度を落とさず、全身に被弾し装甲を脱落させながらも突撃をやめない。

 

シールドが吹き飛ぶ。

 

頭部が蜂の巣になる。

 

左腕が千切れ飛ぶ。

 

全身の装甲に穴が空き、外れ、バラバラに砕け散る。

 

《す、凄い……》

 

満身創痍でありながらも伍長機に肉薄し、残った右腕で剣を振り上げる。

 

その腕も軍曹が投合した"スローイングナイフ"が直撃、真ん中から折れ飛んだ。

 

ズドン、と胸部に大穴が空く。

 

動作を停止した"アオツノ"は、伍長機の目の前で、ゆっくりと膝から崩れ落ちた。

 

伍長が至近距離から"ランチャー"をお見舞いしたのだ。

 

"ランチャー"から放たれた徹甲弾はその運動エネルギーを消費し切らず、"アオツノ"から遠く離れた地面に着弾し砂煙を上げた。

 

《…………》

 

腰だめに構えられ、無理な体勢から撃ち放たれた"ランチャー"のマズルから煙が上る。

 

「"戦士"、だったんだな……」

《です、ね……危なかったです……怖かった…………》

 

伍長の"陸戦型GM"がランチャーチューブを投げ捨てる。

 

捨てられてもなお、まだマズルから上がる硝煙は、戦士への弔いのようだった。

 

《敵機の反応、全機消滅しました》

《終わり、か……》

「ここまで……この戦争、忙しくなるな……クリスマスまでに、帰れんかもしれん……」

 

軍曹が空を見上げ、つられて全員がそれに習う。

 

CMPL(コンプリートミッション) RTB』

「……ミッション、コンプリート………帰還する(RTB)

 

空はいつの間にか雨は上がり、雲の切れ間からは陽射しが見え始める。まるでオーロラのようだ。

 

その光に照らされ、天からの祝福を受けているような"陸戦型ガンダム"が旋回し、歩き始める。

 

それに全機が続く。

 

射し込む絹のような光の中を"ブレイヴ・ストライクス"が進んで行く。

 

基地は、もうすぐそこだ。

 

 

『納得しろとは言わん。だが、理解しろ』

 

 

風の吹く先に、あるものを探して………………




またまた戦闘回。そして敵にも新型が!!

まぁ、アイツですけどね。デザイン大好きです。連ジでもずっと使ってたなぁ……。

書き溜めはありますが、最近色々忙しいので更新はゆっくりになりそうです。そこはご容赦下さい。

あいもかわらず派手にドンパチ、あっちへフラフラこっちでゴタゴタ。こんな中尉達ですが末長くお付き合いいただけたら幸いです。

次回 第五十六章 ポケットの中は

「たはは……嫌われちゃいました……」

お楽しみに!!

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