機動戦士ガンダム U.C. HARD GRAPH 名も無き新米士官の軌跡 作:きゅっぱち
地上戦線最大の激戦区、東南アジア地域で中尉はどうなるんですかね?
ネタ吐いてる場合じゃ無いぞ中尉!!
人は賽だ。
人は流れに逆らう事は出来ない。
しかし、自分を投げ込む事は出来る。
賽は投げられた。
中尉は"陸戦型ガンダム"を駆り、ルビコン河を渡る。
賽がどう転がり、どの目を出すかは、誰も知らない。
U.C. 0079 8.25
《ウィザード01より各機へ、作戦をもう一度確認します。よろしいですか?》
「こちらブレイヴ01。頼みます。まだ少し時間がかかりそうなので……作戦開始時刻までまだ余裕もありますし…」
《と、言っても命令は変わりません。
「ですよねー」
深い深い密林の中、とある山の中腹に、中尉の"陸戦型ガンダム"が膝立ちの状態で偽装網を被り待機していた。
その隣には軍曹、伍長の"陸戦型GM"が並び、その足元には"アイリス"が、またその隣には"キング・ホーク"が同じく偽装網を掛けられ、その時を今か今かと待ち構えていた。
"陸戦型ガンダム"はいつも通りの"100mmマシンガン"にシールド、グレネードに"スローイングナイフ"だ。"陸戦型GM"2機はウェポンコンテナを背負っている。
軍曹の"陸戦型GM"は"180mmキャノン"を両手に保持し、コンテナ内には"ミサイルランチャー"を、伍長のは手に"ハイパーバズーカ"、ウェポンコンテナ内には"ロケットランチャー"という重武装だ。
あたりには白く、濃い霧が立ち込め、中尉達の存在を知る者は誰も居ない。
時折響く、得体の知れない声の持ち主以外は。
《まったく、イヤなお天気ですよね〜。わたし、南国の島はいつも晴れのちグーだと思ってました……せっかくの晴れ舞台なのに……》
《熱帯は、雨が多いぞ……?》
《そ、そうなんですか……?》
《特にここ一帯はその傾向が強いです。今リンクを開始しました。サブディスプレイCを見てください》
「了解」
《了解…》
《はーい!》
レーザー通信を主体にした
記された複雑な地形データが丁寧にマッピングされており、そこにどんどん情報が追加されて行く。
北から南に向かい、2本の河が流れており、その河の間、北側には断崖絶壁を持つ山が聳え、両岸側は丘陵となっており、木が群生していた。
ここが今回の戦場だ。河、林、山、丘陵と変化に富んだ地形であり、その複雑な地形を縦横無尽にかけまわり、踏破出来る存在はMS以外にあり得ない。
中尉達を示すマークは北東の端だ。そこには緩やかな坂の上の丘陵地帯に林が広く広がっており、身を隠すにはうってつけだ。
2本ある河は川幅自体はあまり広くはなく、MSの全長くらいだ。しかし深さはMSの腰から胸程まであるそうだ。
日本人である中尉からしたらかなり大きな河だ。それでもMSからみたら軽く飛び越えられる位なのであるが。
2本ある河の、東側の1本の川べり、山の近くに
その奥、南東の丘陵地帯に
ほぼ真南、そびえ立つ山の奥、2本の河が合流しかけ、平地となった中洲に
そして、もう1つは北西、2本の河と山を越えた先に
合計4つの光点が輝き、その存在を主張していた。今回の攻略対象である、簡易野戦整備拠点だ。
「良く調べましたね、これ程の情報を……」
《それに対しては軍曹に言ってください。軍曹の情報のお陰です》
《さっすがー!!ところで、この点は?敵ですか?》
《そうだ……敵の主力は、"ザクI"、"ザクII"、それに"アンノウン"だ》
色の違う光点が追加されて、マップが急に賑やかになる。近いものから
なるほど、こりゃぁ大歓迎だ。
それに、"アンノウン"……?
「軍曹、"アンノウン"とは何だ?」
《データに無い………"ザクII"の、改良型のようだ……右肩に、キャノンを背負っている……》
《ここ一帯の上空を飛ぶ友軍機が撃墜さている事から、対空砲撃機だと思われますが…》
《キャノン付き!!ズルイ!!もうっ!!》
「それ何に対してキレてんの?何ギレ?」
キャノン付き………"ガンキャノン"の様な中距離支援機、と言う事か……?
《今回はその"砲付き"を
「ブレイヴ01了解!」
《ブレイヴ02了解……》
《ブレイヴ03もオーキードーキー!》
新型か……。取られた写真を見る。
画質は悪く、シルエット程度しか分からないが、こりゃまた立派な物を背負っている。仮に"ガンキャノン"の物と同じ物だとしたらその口径は240mm………いくら強固なルナチタニウム合金を纏った"陸戦型ガンダム"と言えど一溜まりもないだろう。
《今日は、河を挟んで東側にある拠点の2カ所が目的です。その際、2つある
「…西側はいいのですか?」
《はい。今の装備では弾薬が絶対的に足りません。その為まずこの2つの架設基地を奪取、簡易前線補給基地とするのが第一目標です。また架設橋を破壊する事で敵のMS以外の陸上兵器の脚を封じます》
《……質問が、ある……》
《はい、なんでしょうか?》
《……反撃を、考えないのか……?》
《今日できることはやっちゃったほうがいいんじゃないですかね?今日の夜はどーですか?》
《いえ、この後は霧がさらに濃くなり、レーザー通信すら不可能になる上、夕暴雨となります。MSや"アイリス"は十分稼働可能ですが、その状況での作戦行動はメリットに対しリスクが大き過ぎます》
「成る程……了解しました。『待つのも戦』と言う事ですね」
《そうなります》
サブモニターの情報が次々と更新されて行く。データリンク、上手く行っているようだ。
「聞いたな伍長、そーゆー事らしい。あと、基地設備にはなるべくダメージを与えるなよ?」
《りょーかいです!ところで制圧はどうすんですか?》
《心配ありません。隊長の進軍に合わせ、
《残りは明日、か……?》
《はい。今日1日ではムリですから。戦力も西側の方が多いようですし。睨み合うのもまた作戦です》
「"イージス"はどうしますか?今は1人でしょう?」
そう、少尉には整備に専念してもらうため、今"イージス"に乗り込んでいるのはウィザード01、つまり上等兵だけだ。
"イージス"は通常の"ブラッドハウンド"では無い。ミノフスキー粒子下における高度な電子戦を行うための改造が施してあり、いくら自動化、高性能AIを搭載しようとも最終的に判断するのは上等兵だ。その負担は想像を絶する。
《はい。しかし、濃い霧に加え、このミノフスキー粒子濃度です。ジャミングは広域通信のみに限定します。
本機は従来通り部隊に追従し、アンダーグラウンドソナーによる情報支援を行います》
「分かりました。判断に従います」
《意見具申、構わないか……?》
「許可する。何だ?」
《状況は理解している。しかし、少しでも、負担は減らすべき……》
確かに。しかし、これ以上どうすんだ?
上等兵はパイロットとしても十分通用するどころか、現時点ではエースとしても通るような腕前だ。
それでもオペレーターをやっているのは、ウチでオペレーターを任せられるのが上等兵と軍曹だけしかいないからだ。
オペレーターはかなり高度な専門技術が必要でかつセンスや才能も必要だ。当然責任も重い。下手するとパイロットよりも重労働な役職なのだ。誰でも出来るわけでは決してない。
《少尉が命令すればいいよ!!上等兵さんもそれでいいんじゃないですか?》
《俺も、その意見には、賛成だ…………》
《分かりました。隊長、データリンクは出来ます。小隊指揮願えますか?》
「分かりました。任せて下さい!
本作戦は"イージス"のジャミングと同時にブレイヴ02がC2に狙撃する事から始まる。前衛が俺、カバーとしてブレイヴ03、後方400mの位置にブレイヴ02と"イージス"だ。
優先順位はC、A、Bだ」
《りょーかい!ガンガンいきましょー!》
《了解……》
《作戦開始時刻です。これより回線はレーザー通信による暗号通信に切り替えます。現在のミノフスキー粒子濃度は48。ジャミング、開始!》
「………さぁ、戦争の時間だ」
言うが早いか、軍曹が狙撃する。
………いや、どうやって?赤外線センサーとかもあんま働いて無いんだけど……。
《アンダーグラウンドソナーに
放たれた弾丸が白い闇に吸い込まれ、白霧をスクリーンに大きな火球を描き出す。
つーかこれもう軍曹だけでいいんじゃね?この霧の中"180mmキャノン"で狙撃するって……。
「ブレイヴ03!D1に向け進軍するぞ!着いて来い!!」
《ブレイヴ03りょーかいです!!兵はその……早速たっとぶ?》
「兵は拙速を尊ぶだろ。それ誤訳らしいけどな」
《ええっ!?がんばって覚えたのに!!》
いや、覚えてねぇじゃん。軍曹と上等兵も注意する以前に呆れ顔だ。こんなんでいいんかね?
《ウィザード01よりブレイヴ02へ。"イージス"の援護をお願いします》
《ブレイヴ02了解………》
偽装網を脱ぎ捨てつつ、機を立ち上がらせ疾走させる。全セーフティ解除、セレクターは
メインスクリーンにガンレティクルが浮かび上がり、敵を求め不規則に揺れ動く。
『コンバットマニューバ オン メインアーム レディ』
操縦桿のトリガーに取り付けられた最終セーフティを親指で弾き解除する。ディスプレイ中の兵装データの一角、そこに明るいグリーンで表示されていた"SAFE"が一瞬で攻撃的な赤文字の"ARM"へと切り替わった。兵装使用ランプが点灯、"陸戦型ガンダム"はその軛を放たれ、敵に向かって突進する。
「よしっ!こちらブレイヴ01、
目標は最も近い坂を下った先の川沿いにある
『アラート エンゲージ A1 B1 C1 最優先目標をC1に設定』
爆発に反応し、敵MSが動き出す。モノアイが光り、周囲を走査し始めるのが分かった。
「敵さんもお気づきになさったか……それにしても……」
光るモノアイ、霧の中でめちゃくちゃ目立ってんだけど……それでいいのか?
「ブレイヴ03!"ハイパーバズーカ"は初の実戦でなおかつデータもない!止まっている目標から狙え!!」
《りょーかいです!!後ろに立たないでくださいね!!》
伍長が立ち止まり、機体を安定させ少しでも命中率を底上げするため膝を付く。
中尉はそれを追い越し、疾走し続ける。スラスターを用いて強襲出来る距離まで、残りは……。
「大丈夫だ!かましてやれ!」
《停泊中の"ジャングルボート"を第1もくひょー、"マゼラ・アタック"、"ヴィークル"を第2、第3もくひょーにします!HEAT弾、次弾も同じ!ファイアー!!》
伍長が機体を安定させた後、その肩に担いだ"ハイパーバズーカ"が火を吹いた。
カタログスペック上では無反動砲であり、走りながらでも撃てるとの事だが、念のためと命中率の低下を避け、確実な照準をしダメージデータを取るためだった。
"陸戦型GM"の目は"ザクII"以上であるが、今は霧でどちらも見えない。しかし、こちらには
ソナーにレーダー、センサーの統括運用能力は全てこちらの方が上だ。
そのため、データリンクによってこの濃い霧の中でも、敵の位置は丸わかりだ。
"イージス"の強力な情報支援を受け、メインスクリーンにもデータリンクによる敵MSのシルエットが投影されている。
しかし、今回の戦闘では"ハイパーバズーカ"の性能テスト及び情報収集が主体のため、主にこの恩恵を受けているのは伍長で、中尉はそのおこぼれを預かっているに過ぎない。
ちなみに軍曹はこの支援を受けていない。少しでも負担を減らすとは軍曹の弁だが、その状況下でも弾を外さない軍曹はなんなのか。
白煙を引き直進して行く"ハイパーバズーカ"の380mmHEAT弾が吸い込まれる様に直撃、炸裂し、"ジャングルボート"をバラバラに吹き飛ばす。
オーバーキルだろ。
その煽りを受け桟橋が崩れ、爆風に舐められた人が火に包まれながら河へと落ちていくのが爆炎の光の中見て取れた。
「ふっ!!」
中尉はフットペダルを踏み込み、"陸戦型ガンダム"をスラスター噴射により加速させ、強襲をかける。
莫大な推量に後押しされた機体が弾かれる様に加速し、息を吐き出しその衝撃に備えた中尉は、その強烈なGに歯を食いしばって耐える。
やや弧を描くように、外側に少し膨らむように機体を操作、その操作を受けたベクタードノズルが正常に稼働する。
連動し機体が重力下に設定されたAMBAC機動を行い、加速する"陸戦型ガンダム"を空中で安定させる。
《ウィザード01よりブレイヴ02へ。C2、A3、B2を撃破、沈黙を確認。引き続き攻撃を続行して下さい》
《ブレイヴ02了解……》
《ねっ、狙いが………えっと……》
《後ろ弾はやめてくれよ!!》
絞り出す様に叫び、危うく舌を噛みそうになる。流れ弾に後ろ弾、FFでのチープキルなんぞ真っ平御免だ。
そんな中尉の様子を知る由もなく、地を這うように低く滑空し、"陸戦型ガンダム"が突撃する。
莫大なスラスター出力を持つ機体のみに許された、MSにしか出来ない機動だ。
白い闇のカーテンをかき分け、空気を掻き回しくぐり抜けながら、"陸戦型ガンダム"が滑空しつつ右手の"100mmマシンガン"をフルオートで掃射する。
霧の中から降って湧いた様に見えたのだろう。対応の遅れた
煙を噴きつつ崩れ落ちるのを見るより早く、着地し滑りつつ"100mmマシンガン"を腰の裏のハードポイントに懸架、コンソールを叩き兵装選択を呼び出し、兵装を変更。流れるような動作で"スローイングナイフ"を2本引き抜き投合する。
《稜線の陰に隠れられた………射点変更する………》
《ウィザード01よりブレイヴ03へ。後退する
《ブレイヴ03りょーかい!!あったれー!!》
霧を切り裂くように飛翔する"スローイングナイフ"が、"ザクマシンガン"をこちらへと向けた
深々と潜り込んだ"スローイングナイフ"に内部から上半身を吹き飛ばされ、"ザクI"は崩れ落ちるように倒れ伏した。
「この距離だ。その自慢の砲も使えまい……」
残された
中尉は構う素振りを見せずに機体を操作、弾丸の奔流をシールドを向ける事で真っ正面から受け止める。
『シールドに被弾 至急回避行動を』
激しい衝撃に身を揺すぶられ、流し目で見たダメージリポートは異常無し。
シールド以外に着弾した弾丸も、ルナチタニウム製の装甲の前に弾かれ、"陸戦型ガンダム"を傷付けるには至らない。
勢いに任せ"ビームサーベル"を抜刀し
舞い散る粒子がスパークし、霧の中一際大きな光を放つ。光り輝く一刀の下、背中から伸びたキャノンの銃身が叩き斬られ、くるくると宙を舞う。
さらに返す一刀で今度は右手を肩の大型シールドごと斬り飛ばす。千切れ飛んだパーツが弧を描き、断面から火花とオイルを撒き散らす。空中で右手はその形を失い、河の中へと水柱を立てながら派手に着水する。
持てる武装を全てバラバラに切り裂かれた"キャノン付き"が、必死の
「遅いっ!!──ジャベリンは…こう使う!!」
操縦桿に備え付けられたボタンを叩き"ビームサーベル"のエミッターを変更、たちまち"ビームサーベル"はその形状を変化させ"ビームジャベリン"になる。
「ッ!!」
無音の気合いと共に繰り出された、十文字槍状の"ビームジャベリン"が薙ぐように一閃され、"キャノン付き"の胴体を真っ二つに両断する。
《最優先攻撃目標、全機排除……》
《了解しました。ブレイヴ02はD2を。ブレイヴ03は離脱を開始した"ジャングルボート"を追って下さい》
《ブレイヴ02了解………》
《はーい!》
上空を旋回する攻撃ヘリを蚊トンボの様に撃ち落とし、運悪く斬り伏せられた"キャノン付き"に押し潰された"ヴィークル"は無視し、足元をしっちゃかめっちゃかに走り回るその他の"ヴィークル"、"サウロペルタ"、歩兵へと頭部機関砲を掃射、バラバラに
血霧などという言葉すら生温いその惨劇に、中尉は思わず目を逸らす。
しかしそれと同時に、なんとも言えない非現実感を感じていたのも確かだった。まるで、スプラッタ映画を見ているかのような、自分がここに居ないかのような感覚。
無意識の内に、随分と染まっていたものだ。
「…ミンチより酷ェや………ウィザード01、こちらブレイヴ01。D1の戦力の大部分を撃破。"キング・ホーク"と"ロクイチ"を」
『第一目標達成 ミッションアップデート』
通信を送りつつ"ビームジャベリン"を格納、入れ替えるように取り出した"100mmマシンガン"のマグチェンジを行う。
例の"新型コンテナ"の調整はまだかね。結構前から情報は入って来てんのに……まぁMGSもPV出てからが長いんだよなぁ……。
そこへややノイズの混じった通信が入る。霧が濃い。ミノフスキー粒子濃度も上昇して来ている。
センサーの走査設定をリセット、"イージス"からのデータリンクにより適切な形へと更新する。
一瞬さっきの惨状がフラッシュバックする。かつての自分なら眉を顰める程度だったか?
いや、顔色一つ変えず任務を遂行していたか?
どちらにしてもロクでもなかった。
「……休暇が……長過ぎたよ、長過ぎた………」
人知れず密やかに呟かれた中尉の言葉は、中尉自身にも届く前に循環する空気に吸い込まれて行った。
《ウィザード01よりブレイヴ01へ。了解しました。D2の方はブレイヴ02が単身撃破し現在制圧中です。プラン変更。ブレイヴ03と合流して下さい。これよりブレイヴ01、02の2機は目標をE2へと変更し、速やかにコレを破壊後撤退して下さい》
「ブレイヴ01了解しました。聞いたか伍長!行くぞ!」
《はーい!!逃げた"ジャングルボート"も仕留めました!現在コンテナから"ロケットランチャー"を取り出して組み立て中です!》
《ウィザード01からアサシン01、アーチャー01へ、D1へ装備クラスBで向かって下さい》
「ブレイヴ01からブレイヴ03へ。合流する。その場を離れるな」
《ブレイヴ03も同じくー》
「……アレ?E1は?」
《ブレイヴ02が破壊済みです》
本当にもう軍曹1人でいいんじゃないかなこの部隊。もはや1人旅団だわ。
機体を旋回させ、伍長がいるポイントへと向かう。
「あの改良、中々だな…」
少尉はノズルを改良したと言った。それだけでここまで変わるとは……。
中尉はスラスターノズルがスラスターにとってどれだけ大切か分かっていたつもりだった。
スラスターノズルは酷使される物である上に繊細だ。
ちょっとの狂いが、それこそミクロン単位のミスが大事故を起こし、噴射効率を大きく変える。
宇宙戦艦、戦闘機、ロケット、ミサイル……そしてMS。あらゆる物に装備されている、
かつて、人を宇宙へと上げ、今を創り出した。それが、このちっぽけな発明品だ。しかし、ちっぽけでも、この宇宙世紀を描き出した一つだった。
《……いっ!…………少尉っ!!聞いてますか!!》
「……っ! すまん、ぼさっとしていた。集中する。
……で、なんだ?」
《あの、わたしは準備オッケーなので…その、大丈夫ですか?》
「……大丈夫だ。問題ない……よし!目標はE2だ!さっさと終わらせて帰ろう!」
《はい!!うまくいけば今夜にもカウチポテトですね!!》
「それはムリだ」
既に破壊された仮設橋の傍を通り過ぎ、先を急ぐ。その周りにはバラバラになったMSのパーツらしき残骸が散らばっている。
例の新型のものだ。早くこの一帯を制圧し解析したいものだ。
「アレ?ブレイヴ03、"ハイパーバズーカ"とウェポンラックどうした?」
《じゃまだったので置いて来ました!》
いや、それ、機密の塊で、結構なお値段するんですけど………。
《ウィザード01よりブレイヴ01へ。"ハイパーバズーカ"はブレイヴ02が回収に向かいました。気にせず目標に集中して下さい》
「了解しました。………すまない」
《問題ない……》
《ですね!》
「お前が言うな!!」
伍長を引き連れ川沿いを走る。その先に目標を確認する。これでやっと終わりだ。
「ブレイヴ03、仮設橋を破壊しろ」
《ブレイヴ03りょーかい!》
《いえ!!待ってください!!この音は……!!》
水面が泡立ち、水柱が立つ。
激しく巻き上げられた水のカーテンの向こうに、揺らぐ巨体が見えた。
センサーが敵を捉え、けたたましい警報がコクピット内に鳴り響く。その音声で一瞬にして戦闘態勢に入った中尉は、思わず身体を強張らせた。
『アラート エンゲージ "ゴッグ"と断定 注意を』
現れたのは"ゴッグ"だ。
こいつ………ステルスかよ!!水中でアンブッシュしてやがったな!!
「引け!ブレイヴ03!!その武器じゃムリだ!!」
《えぅっ!?わきゃっ!?》
"ゴッグ"が頭を向け突撃、伍長の"陸戦型GM"を吹っ飛ばす。
咄嗟にシールドを向け、崩れ落ちるような回避行動をとったもののメインアームである"ロケットランチャー"を取り落とした。
それに加えまたもやショルダーアーマーがすっ飛ばされた。おい、もう一つもねぇんだぞ予備パーツ……。
《うわっ!!ひぇ〜!!》
《隊長!!》
伍長が何か他人事みたいだが、接近しつつも中尉は攻めあぐねいていた。
"100mmマシンガン"じゃパワー不足だ。最悪跳弾が伍長に当たるしかし。"スローイングナイフ"じゃ爆風に巻き込まれる。グレネードは言うまでもない。
格闘戦を仕掛けるには距離がある。
今の伍長に接近までの時間が稼げるとは思えない。
《きゃあっ!!》
「…くっ!!」
《隊長!!早く!!》
《間に合わんか……!》
伍長が"ゴッグ"に押し倒される。
このままじゃマズい。しかし効果的な手段も……いや!!
「!! こいつを、喰らえ!!」
中尉が取った行動は最善とは言わないが、効果的な一投だった。
駆け寄り助走をつけつつ、兵装を選択、エミッター変更、"ビームジャベリン"を展開させ投げつけたのだ。
始めて
それは今まさに伍長を引き裂こうとした"ゴッグ"の頭部に深々と突き刺さり、モノアイを破壊する。
「どけ!!伍長!!」
《はっ…はい!!》
突然視界を奪われ、自らの頭部を掴み混乱する"ゴッグ"に接近、右手で突き刺さった"ビームジャベリン"を掴み"ゴッグ"の巨体を持ち上げる。
「早く!!」
《あわっ!!うひゃー!》
伍長の"陸戦型GM"が転がる様に"ゴッグ"の下を抜け出し、離脱する。
素早く伍長の機体を観察する。パーツの歪みが酷い。特に挟まれた左腕などあらぬ方向を向いている。
あの巨体に短時間とはいえ乗っかられたのだ。かく言う"陸戦型ガンダム"の右腕も過負荷に呻いていた。
『左腕部第3 第5 第8アクチェーターに過負荷 危険領域まで25秒 至急対処を』
中尉の判断は早かった。左腕部を振りかぶりシールドのアタッチメントを瞬時に展開、先端部をパイルバンカーの様に"ゴッグ"のコクピットへと叩きつける。
端から見たらものっそい残虐だな、と思いつつシールドを引き抜く。たったそれだけで"ゴッグ"は倒れ伏す。
こいつコクピット周りの装甲薄過ぎだろ。この"陸戦型ガンダム"も他人の事は言えないが……。
《隊長!それに伍長も!ご無事ですか!!》
《少尉!!助かりました!!ごめんなさい!!》
「謝らなくていい。過ちを気に病むことはない。ただ認めて次の糧にすればいい。それが大人の特権だ」
《分かりました!わたしは一人前のレディーですから!》
れ、れでぃ?マーセナス家のお坊ちゃんか?
俺の周りにレディーは上等兵しかいねぇぞ?後はどう見ても14歳程度にしか見えない様なお子様しか……。
《中尉、すまない……援護出来なかった………》
《私もです。オペレーター失格ですね》
「何で皆謝るんですか!?」
軍曹に至ってはこの霧の中視認出来るレベルの丘の上だ。いや、来るの速過ぎね?
グレネードを投げ込み仮設橋を破壊する。付近に敵影は無し。世は全て事も無し。
「撤収しましょう!明日もありますし」
《はいー!今日はパーティですね!》
《伍長。聞いていましたか隊長の話を》
《……全く……しかし、無事で、良かった……》
『
3機と1台が合流し制圧し奪取した野戦整備施設へと向かう。
弾痕の目立つ中尉の"陸戦型ガンダム"に、肩が剥き出しの左腕がぶらつく伍長の"陸戦型GM"。
無事とは言えないが、全員帰還だ。
敵も戦力を再編し、明日、決戦となるだろう。
霧は、まだ晴れそうになかった。
『よろしい、ならば戦争だ』
煙霞む大地に、閃光は瞬く……………………
戦ってます!!戦ってますよ中尉が!!
今までサボってたからなぁ……。
ガンダムもガンプラ、ビルドファイターズ、ユニコーン、サイドストーリーズと勢いにのってますので、この調子でカットビングだぜ!!
出て早々故障し被弾する伍長ェ………。今後の活躍にご期待ください(笑)。
最近このハーメルンのレイアウトも変わっていい感じですね。書き込むにはちょっと不便になりましたが………。
次回 第五十四章 "零"
『レディ』
お楽しみに!!