機動戦士ガンダム U.C. HARD GRAPH 名も無き新米士官の軌跡   作:きゅっぱち

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新章スタートです!!

中尉、激戦区である東南アジアへ。

霧煙る熱帯雨林に、中尉は何を見出すのか。


第五十二章 ROMANCE DAWN -冒険の夜明け-

ボルネオ島。

 

世界の島の中では、グリーンランド島、ニューギニア島に次ぐ、面積第3位の島。

 

古来より海上交通の要所として栄え、数々の国々がそこの覇権を求め血を流した島。

 

また鉱物資源が豊富で、石油、石炭、ダイヤモンド、金、銅、スズ・鉄、マンガン、アンチモン、ボーキサイトなどが産出する。

 

その為ジオン軍による第3次地球降下作戦プランBで占領され、地球連邦軍太平洋艦隊を押し留めている要所。

 

そこへ打ち込まれる楔は、たった一本。

 

しかし、その楔は、どんな物よりも硬く、鋭い。

 

 

 

U.C. 0079 8.24

 

 

 

作戦開始時刻(ゼロアワー)です。これより本戦隊は作戦行動を開始します』

『よぉし!!我が戦隊結成においての初の作戦だ!!作戦名、"オペレーション・ターゲット・イン・サイト"!!』

『総員!第一種戦闘配備!これは訓練では無い!!繰り返す!総員!第一種戦闘配備!!これは訓練では無い!!』

『これより回線をレーザー通信による暗号回線に切り替える。回線オープン』

『発令所へ、こちらソナー。周囲に音紋無し』

『よしっ!本艦はこれより浮上し上部船殻を展開する!!メイン・バラストタンクブロー!!針路このまま!3ノットにまで減速!上げ舵5°!各員衝撃に備え!!格納庫作業員は機材の固定を怠るな!!』

『アイ・アイ・キャプテン。メイン・バラストタンクブロー。針路このまま。3ノットに減速。上げ舵5°。よーそろー』

『現在深度50』

『ミノフスキー・クルーザー、パッシブ。センサーに異常なし』

 

発令所からの通信を、格納甲板内の"ミデア"の中で聞く。

 

音も、揺れも一切無い。見事な物だ。

 

巨大な船体が変温層(サーモ・レイヤー)を抜け、海を割り、どんどん上昇して行く。それを知るのは、乗組員と、魚と鳥だけだろう。

 

「なんか不思議か感じですねー?海の中、潜水艦の中、飛行機の中です」

「潜水艦の中にプールだってあんだ。そんなもんだろ」

「改めてとんでもねぇなぁ。"ミデア"だぞ?コレ」

「すぐ慣れますよ」

『甲板作業員へ告ぐ!最終チェック!ケーブル解除!続けてチューブ!バルブを調整して減圧するのを忘れるな!アクセスパネルを閉鎖!』

『海流は北西から3ノット。海上は東北東から微風』

『データリンク確立。回線B1にアクセス。発令所より応答。優先度B。接続完了です』

 

"ミデア"内の待機所には"ブレイヴ・ストライクス"のメンバーが揃い、出撃を待っていた。

 

いつもの野戦服に、インカムを付けた中尉、軍曹、少尉、上等兵だ。MSパイロットである2人はヘッドギアを抱えている。伍長は既にヘッドギアを被り、ボディアーマーを装着していた。小柄過ぎる伍長はボディアーマーが無いとシートベルトがしっかり閉められないのだ。因みにフットペダルにも足が届かず、コンソールなども叩けない場所があるのでかなりレイアウトを変更した特注コクピットなのは秘密だ。

MSにもチャイルドシートがいるなと声に出さず密かに思う中尉だった。

 

"アサカ"内の格納甲板を作業員が走り回り、最終チェックを終え『Remove Before Launch(出撃前に外せ)』と書かれた赤い注意リボン(RBLリボン)を取って行く。

 

『浮上完了。フライトハッチ開放準備。エレベーター起動開始。"ミデア"01より前へ』

『0号エレベーター起動。甲板作業員は退避せよ』

 

耳障りな警報音が鳴り響き、警告灯が輝きつつ明滅する。エレベーターが起動、上昇し、"ミデア"がその巨体を晒し、飛行甲板へと出る。

 

『よぉし、加速かけろ!30ノットまで増速!』

『アイ・アイ・キャプテン。針路このまま。速度30ノットまで増速』

『アイ。増速掛けます。現在25ノット。よーそろー』

『ハッチ解放だ!』

『アイ・アイ・キャプテン。システムチェック。オールグリーン。ハッチ解放。よーそろー』

 

その頭上では巨大なフライトハッチが動きだし、左右に分かれ展開して行く。

 

太陽の光を受けて輝く白雲と、目の覚めるような青空が広がり、前に出た"ミデア"01のリフトローターが唸り、ジェットエンジンが轟音を立てて回り始める。

 

『こちら"ミデア"01。射出準備完了。最終射出信号(TLS)、送信』

『こちら発令所。TLS受信。グッドラック。快適な空の旅を』

「わぁっ!!海だ!!空だ!!気持ちいいですねー!!」

「海好きなぁホントに……あぁ……俺も行きたかった……」

「伍長。ちゃんと座ってシートベルトを締めないと危ないですよ」

「あ、軍曹、そこのチューブゼリーを取ってくれ」

「……了解…」

『テイク・オフ!!』

 

"ミデア"がその巨体を浮かび上がらせ、青が広がる虚空へと駆ける。

 

それに続き、後続の"ミデア"が後ろへ付き、それと入れ替わる様に索敵行動を行っていた"フラット・マウス"が"アサカ"へと着艦して行く。

 

今回の作戦において"ミデア"の護衛につく随伴機は一切いない。

 

"ミデア"のように不整地にも降りられるVTOL戦闘機は無く、向こうでは満足な整備も行えない為だ。潜水艦がその無防備な姿を海上に表すのはかなり危険な行為であるため、帰還させるのもリスクを考えるとキツイ。

 

それに連邦軍の艦載機は全てJFSがついていない。野戦運用など夢のまた夢である。

JFSとはJet Fuel Starterの略で航空機に装備される機能の一つだ。コレがついていれば電源車を初めとする周辺機器なしで自力でエンジンをかけられる。

地球連邦軍の艦載機は基本的に設備が整った基地や母艦から飛ぶことが殆どなのでエンジン始動に必要な電源や圧搾空気を外部に頼ることが多い。それにより機体重量の軽量化、コストの削減を図っているのだ。

 

そのためMSにはいざという時のためにパラシュートパックが装備されている。俺たちに今出来る事は、それをどうか使いませんようにと、居るかどうか分からない神サマとやらに祈るだけだ。

 

『こちら"ミデア"01、全機離陸。予定通りポイントゴルフ357へ向かう。到着予定時刻はマルヨンサンマルを予定』

『こちら"アサカ"。了解。本艦はこれより飛行甲板を格納、変温層下へ潜行し着底、待機行動に移る。幸運を』

『ハッチ閉鎖中。完全に閉鎖し密閉するまで残り10』

『発令所へ、こちらソナー。高周波(HF)ソナーに感あり。方位3-0-7にコンタクト。シエラ1に認定』

『ハッチ閉鎖完了。潜行可能です』

復調雑音(DEMON)解析中』

『よぉし!本艦はこれより急速潜行を行う!!メイン・バラストタンクに注水!下げ舵15°!!速度40ノットにまで減速!!』

『アイ・アイ・キャプテン。メイン・バラストタンクに注水、潜行角度15°、速度40ノットまで減速。よーそろー』

『ソナー室は方位8-0-0付近に注意せよ、日本の漁船が操業中との報告あり』

『ESMに感あり。漁船と思われる水上艦発見、解析を実行中』

『取り舵30!針路5-0-2!!本艦はこれより現在海域を離脱し、深度600まで潜行!』

『アイ・アイ・キャプテン。取り舵30、針路5-0-2、深度600まで潜行』

『中尉!!聞こえているか!?いい知らせを待っているぞ!!』

「こちらブレイヴ01了解。最高の勝利を約束する」

「いってきまーす!!美味しいディナーを楽しみにしてまーす!!」

 

突然入った通信に、伍長を押し留めながら何とか答える。

 

全く。伍長は……。まぁ、そこがイイところ……?なのか?

 

他にあるかな〜いいところ。難しいなぁ探すのは。

 

眼下に白い尾を微かに引きながら潜行して行く"アサカ"を見下ろし、"ミデア"は中尉達を乗せて飛んでいく。

 

戦場はすぐそこだ。

 

 

 

 

 

機が安定する。軍曹が席を立ち、それに上等兵が続く。珍しく本を読んでいた伍長は寝ている。首の角度が辛そうだ。

 

何々……ティム・マルコー著作、今日の献立1000種……?

…………なんかロックでもないのが出来そうだ……。

 

「………わぁ、さすが…ホームランだぁ………」

「……今の寝言!?」

「……うぅん……げんこつ飴……」

「……………」

 

寝言はほっとき、伍長を寝かせ、部屋の真ん中に立つ。

 

腰に差した刀を抜き放ち、型を行う。

 

空を切る刃に、風切り音が少し遅れて聞こえてくる。身体は水の様に流れ、足はリズム良くステップを踏む。

 

狭い室内を、中尉が舞う。刀は既に身体の延長と化し、空間をギリギリに滑って行く。

 

しかし、何かが足りない。そんな気がする。そんなモヤモヤを抱えながら型を続け、集中し気を張り詰めて行く。

 

気を気で擦り合わせ、少しずつ、少しずつ研ぎ澄まして行く。まるで一振りの刀を打つ様に。

 

無心で、ただただ刀を振るう。そこには、何もない。あるのは風を切る音だけだ。

 

伍長の寝返りに咄嗟に反応した時、無意識のうちに右手には抜いたハンドガンを、左手に刀を握っていた。

 

何かを、掴んだ気がする。

 

武器を納め、手のひらを開いたり閉じたりしてみる。何も変わらない自分の手のひらがとても異質なものに見えた。思わず窓の外を見る。

 

そこには一面の青が広がっていた。

青い空が青い海と交わり、そこに穏やかに移り行く波と細くたなびく雲が白いアクセントを加えている。

 

その青の果てに、緑の陸地が見え始めていた。

 

戦場は、すぐそこだ。

 

 

 

U.C. 0079 8.25

 

 

 

「島スタート。まさかの島スタート…………」

「よぉし!!MSを降ろしますよ!!」

 

ボルネオ島中心部からやや南より、密林濃い山岳地帯の一角に、降り立つ機影があった。

 

無事全機着陸した"ミデア"輸送機だ。次々と降り立つ"ミデア"がそのコンテナハッチを開け、中身を展開し始める。

 

その中の一つ、"ミデア"02から、中尉の"陸戦型ガンダム"が顔を出す。

 

その周りでは他の"ミデア"からも人や重機が飛びだし、わらわらと集いながら物資を降ろし始めている。

 

怒号と指令、それに重機の駆動音や騒がしいジャングルからの得体の知れない声など辺りは大賑わいだ。

 

「整備班!!物資のチェック始めろ!!」

《……索敵に出る……》

《了解しました。データリンク開始します》

「気をつけてな!!」

 

"ワッパ"に跨がった軍曹から通信が入った。ジオンから鹵獲したこの"ワッパ"はオフロードの偵察に売ってつけだ。軍曹は時と場合によりオフロードバイクと使い分けている。

 

「おーい!!こっちだ!!手伝ってくれ!!」

「周囲の警戒を厳とせよ!!」

「"ミデア"04のコンテナ切り離し開始!!周囲に注意せよ!!」

「うへぇ……酔った……うぷっ……」

「わぁー!袋袋!!」

「歩行モード調整開始……ダクト稼働率は……」

「わたしも動かしまーす!!離れてー!!」

「おい!!ドラム缶を転がすな!!危ないだろ!!」

「押してもいいんだぜ!!あの懐かしいドラム缶をよ!!」

「526コンテナは!?おい!」

「"イージス"起動。周囲にジャミングフィールドを形成開始」

「シーリング作業も平行して行うぞ!!」

「そこ!サボってんじゃない!!」

「霧が……」

「"ロクイチ"隊、慣らし運転を始めろ!」

「あぁっ!?なんだって!?」

「センサー強度設定……通信回路は……カメラモード変更っと……」

「ヘリウム3タンクはこっちだ!!」

「コンテナユニットはこちらに!!なんだって?新型の奴は?」

「パワードスーツは?」

「そこのマシンガン取ってくれ!!」

「仮設整備基地はまだいい!!それよりコレだ!!」

「おい何だコレ?デカい拳銃とランタン?」

「それは俺のだ!アレ?ボルトカッターは?」

「おい大丈夫かお前。頭のネジ吹っ飛んでそこに干ししいたけでも詰めたのか?」

「"キング・ホーク"は降ろし次第テストを開始せよ!!」

「そういや"キング・ホーク"ってどこのだ?カプコン?」

「そっちのコンテナはまだだ!!おい!台車まだか!!」

「弾薬ケース降ろすぞ!!細心の注意を払え!!ここら一帯が吹き飛ぶぞ!!」

「場所を考えろアホ!!」

「"ミデア"に偽装網を!!なるたけ早くなー!!」

「なぁこのガンガンうるせぇコンテナ中からメ〜イデ〜イって聞こえんだけど……」

「こっちに重機を回してくれ!!」

「周辺のデータ入力開始」

「陸戦ユニットは陣地形成を開始!!」

「風がぁー!!」

 

てんやわんやの大騒ぎを"陸戦型ガンダム"から見下ろす。

 

やはり、統率があまり取れて居ない。

 

動きにキレがない。

 

今はおやっさんが居ない。

それがこんなにも大きな影響を及ぼしている。

 

しかし泣き言ばかりは言って居られない。この作戦に必要なのは、何よりも速さだ。

 

「上等兵、聞こえるか?」

《はい。通信状況は良好です。なんでしょう?》

《どうしましたー?》

 

何故伍長が……え?どうやって割り込んだの?

 

「俺たちは今にも出たほうがいいんじゃないですか?霧も少し出て来ていますし……チャンスじゃないですか?威力偵察くらい……」

《しかし隊長、今の私たちには、まだまともに運用はできかねません。私たちが目標としているエリアには、何があるかすらも分かりません》

《そうですよ少尉。早い、早過ぎますよ?まだ朝も早いし、軍曹が来るまで待とうよ》

「……そう、だな……すまん。焦り過ぎた」

《仕方がありません。整備班長が不在な今、隊全体が浮き足立っています。隊長も、少し時間を置いて落ち着くべきです》

「はい。しばらく何も考えず仕事します」

《そーそー上等兵さんの言う通り!!こーゆー時、慌てた方が負け、なんですよ!!》

《まだ霧が濃く無いので、レーザー通信も使えます。軍曹からの情報もノイズ混じりですが入って来ています。プランの修正を掛けますので、軍曹が帰還次第出撃しましょう。通信を終えます》

「頼みます。聞いたか?伍長?」

《はい!!ばっちりです!!じゃあわたしはあっちを手伝って来ます!!約束ですよー!》

「安心しろ。守れない約束はしないから」

《熟知してますよー、交信終了(オーバー)

「通信終わり」

 

伍長の"陸戦型GM"を見送り、中尉も機体を振り返らせ……そこで動きを止める。

 

「……………」

 

目を閉じ、呼吸を落ち着かせる。

深く浅く、ゆっくりと息を吐き、気持ちを落ち着かせて行く。

 

余計な事は考えない。今ある不安を頭から追い出し、深く深呼吸する。

 

「よし!!」

 

パチン、と両手で挟み込むように頬を張り、気合を入れ直す。

 

やる事はいくらでもある。それこそたんまりと。

 

中尉は狭いコクピットを見回し、スクリーンを見る。

 

何故か突然少し可笑しくなる。

 

クスッと含み笑いを漏らし、中尉が俯き肩を震わせる。

 

そうだ、いったい何をやってんだ俺は。全く……聞いて呆れる。

 

俺は俺の出来る事を、精一杯やるだけだ。それこそ、後で後悔出来るように。

 

そうだろ?今も昔も、それだけは変わらない。

 

中尉がフットペダルを踏み込み、"陸戦型ガンダム"を歩かせる。

 

揺れ動くスクリーンを見る目は、先ほどまでとはまるで違い、爛々と輝いていた。

 

 

『忘れるものか、この一分一秒を』

 

 

ボルネオの空は、青いか……………




新章 ボルネオ激闘編、スタートです!!

新しい土地、新しい武器、新しい出会い……。

早く戦闘にならんもんかね。この人達ノンビリし過ぎやろと思う今日この頃です。

アサカ、特に何もせず潜行、待機(笑)。
なんかいろいろ適当だな。
つーよりやっぱ書くのが面倒いんで……。

次回 第五十三章 緑の王

「遅いっ!!」

お楽しみに!!

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