機動戦士ガンダム U.C. HARD GRAPH 名も無き新米士官の軌跡   作:きゅっぱち

58 / 84
最近、家の近くに外国人が引っ越してきました。

とても日本語が上手く、人生最大の夢であった日本に来れて本当によかったが口癖のおっちゃんです。

それを聞いて、とても嬉しいのと、自分の幸運を噛み締めています。

来るべき将来に、その様に言われ続ける日本を作りたいものです。


第四十九章 一番熱い夏 〜この夏最高の思い出を〜

人類ほど、"生物"からかけ離れた生き物はいないだろう。

 

生まれて数ヶ月たってさえも、立つどころか身体すら支えられない新生児。

 

幻想、幻覚、幻聴をも引き起こす、常にエネルギーを浪費する脳。

 

生活の絶対条件ではない娯楽を求め、地球環境を改変し破壊、さらには同種属でさえ平気で殺しかねない精神。

 

人類こそ、"進化"の枠からはみ出した、"失敗作"(エラー)なのではないか?

 

 

 

 

U.C. 0079 8.16

 

 

 

「はぁ~堪能しました~」

「夕食はどうしましょうか?」

「……そうだな……頃合いだ……」

「? 軍曹、何か準備があるるのか?」

「少尉ー!見てくだ……あああぁ…」

「伍長?どうした?晩飯にするから取り敢えず洗って来い」

「はい……」

「そーいや軍曹、そのサングラスなんだ?レイバン?」

「……いや、ニコンだ…」

「へぇ、いいセンスだな。どうだ?俺のサングラスもイカすだろう!!」

「……あぁ、似合っているぞ……」

 

日も暮れ始め、海水浴に来た客も減り始めていた。

真っ赤な太陽が傾き、美しい夕陽が辺りを照らし出す。海は昼とはまた別の顔を見せ、キラキラと輝いていた。

 

ついあのまま一日中遊んでいた事になる。久々の平和な時間だった。

泳ぎ疲れた後半は中尉は銃の分解整備を始めようとした軍曹を何とか押しとどめ軍曹と日光浴し、上等兵はパラソルの下で読書、伍長は波打ち際で砂の城を造っていた。明らかに立地条件がおかしい。せめてもう少し離れろよ。

 

「……準備をして来る…」

「あぁ。何か手伝うか?」

「…問題ない…」

「どうするんでしょうね?」

「分からんが、問題は無いな。軍曹がこう言った時問題があった試しがない」

「ご飯、何ですかねぇ……楽しみです!!」

 

全身砂まみれだった伍長が砂を落としてやって来た。造っては崩れ、造っては崩れを繰り返し、もはや賽の河原の石積み状態だったが楽しんでいたようだ。

後半は何を血迷ったか水中で造ろうとしてたし……大丈夫かな、頭。

 

「……こっちだ、来てくれ……」

 

軍曹も呼びに来る。あまりにも準備が早い。殆ど一緒に居たのに、いつ準備したんだよ?

 

「どれどれ……うわっ……」

「少尉?うわって……うわわッッ!!」

「伍長、ッが一個多くなかったですか?」

 

突っ込むところそこかい!!つーか今どうやって発音したん?

 

「…もうすぐで焼ける…」

「…………すげ………」

「お皿です。どうぞ」

「わーい!!ご飯だぁー!」

 

そこには焚き火と魚、貝、ウニなどがたんまりあった。生のままや焼いた物、煮た物とバリエーションも豊富だ。

どれもかなり美味しそうで、量も十分……じゃなくて!!

 

「どしたのコレぇ!!」

「美味しーよコレ!ほらほら少尉も!」

「伍長!?食うのはえーよ!!」

「そうですよ伍長。いただきますは言いましたか?」

「いやそーじゃなくて!いやそーだけれども!」

「見事ですね。コレは刺身ですか」

「……中尉、安心しろ…許可は取ってある…」

「ならいいな…って、どうやって?つーかコレいつ取ったの!?かなりの量だよ!?」

「ちくわ大明神」

「……魚は釣りと罠……その他貝類は素潜り……」

「いやいやいやいや…」

「そんな事より美味しいですよほらほら!」

「では、私も。いただきます」

「…ありがとう軍曹。いただきます」

「誰だ今の」

「……時間さえ、あれば………もっと……」

 

これ以上何をする気だったのか。

俺の周りにはやはり一般人はいないのか……。

何でも出来る軍曹上等兵に、底の知れないおやっさん。勘がもはや未来予知に近いレベルの伍長……。

あっ、忘れてた。少尉はまぁ普通だった。やったね同族がいたわ。

……………うれしくねー。

 

「これは、フグですか?」

「……あぁ……安心して欲しい、フグ調理師免許は持っている………」

「軍曹料理屋やれるだろ。しかも一流の」

「……いや、趣味の域だ……」

 

んなわけあるか!!全国の料理屋の大半がキレるぞその台詞……。

今度軍曹の持ってる資格とか聞いてみよう。とんでもない事になりそうだ……。

そういう軍曹まだ25歳。どーゆー事だよコレ。クロックアップでもしてんのか?

 

「そう言えば、"母艦"ってどうなるんでしょうかねぇ?戦艦?なら名前は"大和"にしましょー!」

「戦艦にMS運用能力持たせるのは厳し過ぎだろ。やはり空母をベースにするんじゃないか?後何故に"大和"?知ってんの"大和"」

「そう考えるとすると、妥当なのは"ヒマラヤ"級などでしょうか?」

「……しかし…艦隊を組んでも、水陸両用MSの前では……」

「でも、早く欲しいですねぇ。艦は大好きです。海は見ていて飽きませんしご飯も美味しいですし……」

「よく考えたら昼から結構食ってんなー俺。太ったらどうしよ?」

「怖い事言わないで下さい少尉!!食べますけど!上等兵さん!どうすれば上等兵さんみたいな感じになれますか!!?」

「え?私ですか?ええっとですね……

………いや、分かりません。力になれなくて申し訳ありませんが……仮に同じ生活を送ってもだめでしょうし……」

「ぐぬぬ…」

 

いや伍長、ぐぬぬって。女子はそーゆー話好きな。男子が筋トレの話をするノリか?

 

「……軍曹、私はどうなんでしょう?」

「……魅力的だぞ…」

「え?あ、ありがとう、ございます……」

「うぅん……少尉、どうすれば……」

「男の俺に聞くかソレ?伍長はそのままで十分かわいいんじゃないのか?」

「そうですか!えへへ…照れますよ少尉…えへ」

 

多分な。

このような話はニガテだ。軍曹もニガテらしいがかなり上手く喋っている。見習いたいものだ。

やっぱ軍曹が指揮官とかやるべきだろ。いや、戦うコックとしてエステバリスに乗ってもらうか?

 

「軍曹これは生で食べられますー?」

「……大丈夫だ。ちゃんと考えて調理した……」

「……? この巻貝みたいなヤツは?殻ごとですか?」

「んなわけねーだろ。中を見ろ中を」

「……? 嘘じゃないですか。中に誰もいませんよ?」

「伍長、それは私が食べた後の殻です」

「そら居ないわな」

「……殻入れだ…」

「………もう貝はいいです……」

「一回限りでしょげるな。ほら、コレとか……すげ、手ェ込んでんなコレ」

「……それは、蒸してある……」

「これは何ですか?」

「……干しアワビ料理…」

「なるほど、支払いは貴様持ち……と……」

「ちょっと事務所へ来い」

 

だからその時間はどこから来たんだよ……。

が、しかし………。

 

「しかし、いつ食べてもホントに美味いなぁ……ウチの部隊にコックが居ないワケだ」

「……口にあってよかった……まだある。食べてくれ……」

「ありがとう。いただくよ」

「……でも刺身にツナ、無いんですねぇ…」

「伍長、ツナは沖を泳いでいるんです。ここでは取れません」

「そうなんですか!びっくりです!ところでコレはなんです?」

「亀の手ですか?食べられたのですね」

「無人島生活みたくなってきたな……」

 

なんか伍長、知識に偏りあり過ぎだろ。魚が切り身のまま泳いでるとか思ってねぇよな?うなぎは泥から自然発生するとか。

 

「……む、炊けたか……」

「ご飯まで炊いたんかい!!それはどうしたんだ?

………お米が……立っている…………!!」

「……近所の、農家に分けてもらった……スシ、握るか……?」

「わぁ!スシだって上等兵さん!食べませんか!?」

「はい。食べたいです。お願いします」

「酢はあるのか?」

「……入手済み…煮魚に貝類も焼けたか……?」

「美味しいです!」

「……この煮魚懐かしい味がするんだけど…………」

 

辺りがすっかり暗くなる中、焚き火を囲み夕食を食べる。

頭上は満点の星空に天の川がかかり、昼とは違ういい雰囲気だ。

……なんかそこらの一般人より遙かに夏を満喫してる気がする………。

 

脳裏に浮かぶのは1人の男。ごめん少尉、許して(笑)。

 

宴は続く。笑顔と笑い声でいっぱいだ。幸せだ。本当にそう思う。

 

 

 

「……ねぇ少尉、今気づいたんですけど……」

「ん?なんだ?」

 

不意に伍長が口を開く。それは後片付けを終え、付近のゴミを拾い温泉に向かう途中だった。

温泉は海岸から徒歩圏内にあり、いつもは大賑わいなのだが、持ち主と知り合いなため貸切にしてもらった。快く承諾してくれたが、大損なんじゃないだろうか?

 

「あっ!少尉!それより潰した缶がゴミ箱に入りません!助けて!」

「何やってんだよ……って何コレ?スチール缶をムリに曲げようとするなやビミョーにひん曲がってんなコレ」

「……仕方ない…」

 

それをひょいと片手で取り上げた軍曹が、そのまま軽く握り潰す。

 

「それを涼しい顔でまるでアルミ缶のようにくしゃくしゃに……」

「軍曹なら素手で戦車を破壊出来そうですね」

「軍曹!『ただのコックさ』って言って見て下さい!!」

「……いや、本職は違うのだが……」

 

因みに食べ物があんな大量にあったからゴミも……と思いきや、食べられる部分は全て加工され、出た生ゴミなどは完全に分別され一部は埋め一部は海に撒き、殆どゴミが出なかった。軍曹は自然にも優しい。

 

「で?なんだ?」

「温泉って、お風呂ですよね?」

 

何その質問。キリンはどーしてキリンなのですか?的な?

 

「……そうだが?」

「…お風呂は、普通裸で入りますよね?」

「まぁ外国とかは知らんけど日本はそうだな」

 

いい終わるや否や伍長が顔を真っ赤にして首を振り始めた。

 

「むむむむむむむりですよ裸なんて!!えええええぇぇええ!!!」

「いや、そーゆーもんだし……」

「……そうだな……」

「じょ、上等兵さんは恥ずかしくないんですか!?恥ずかしいですよね!!なので…」

「? いえ?特には」

「えええええぇぇええ!!!あわっ!あわわわわわわ」

 

何で伍長はこんなにうっさいんだ?

マズイな、水に濡らしたからか?光に当てたからか?前夜12時以降にお菓子をあげたっけ?

 

「えっ!?そんな……だって……少尉、ちょっとお腹の調子が……」

「そんな洗礼のようなシャワーを浴びただけの身で何処へ行く気だ」

「むりです!!むーりーですっ!!恥ずかしいんです!!少尉ぃっ!!ごしょーです!借りは来世で返します!!」

「何言ってんのこの子?」

 

え?確かに"コンボイ"では女性兵士は1人だったし、"ジャブロー"では部屋にフロ付いてたけど、"キャリフォルニア・ベース"とか野戦基地では他の女性兵士とシャワー浴びてたんじゃないの?

 

「上等兵?こんなに恥ずかしいものなの?」

「いえ、私には理解出来ません」

「……伍長、風呂は男女別だぞ……?」

「え?………………………え……………………な、なら、問題ないです…………」

「「……………」」

 

こりゃまた妙な勘違いを……そりゃ恥ずかしがるわってか俺も恥ずかしいわ。

 

再び真っ赤になって俯いた涙目の伍長を連れて、4人は夜道を歩く。

温泉は、すぐそこだった。

 

 

「待ちな……」

 

夜道で呼び止められる。前に男が一人仁王立ちしており、その男に呼び止められたようだ。逆光で男の姿はよく見えないが、何だ?

 

「ここから先へは行かせん……」

「……何者だ?」

「……俺が何者などどうでもいい……どうしてもこの先へ行こうと言うのならば……」

「言うのなら、なんでしょう?」

「軍曹、ショットガンで倒そう!」

「……待て、ここは日本……スタンガンで……」

 

落ち着けよ。

 

「入浴料を払え」

 

風呂屋かよ!!

 

「おっちゃーん!久振り」

「おう、よく来たなって女連れ!?それも2人!?」

「そのセリフ聞き飽きましたから…」

「軍曹が無視されてるよ?」

「……別に、構わないのだが……」

「それ以上のインパクトなのではないですか?」

「まぁゆっくりして行って下さいな。今日は貸切ですし」

「……それ、ホントに良かったんすか?」

「お安い御用さ?」

「何故に疑問形?」

「おっちゃん!まずは美味い水を4つくれ!」

「二つで十分ですよ」

「い~や、4つです!2つじゃないです!!」

「二つで十分ですよ」

「それにラーメンも」

「分かってくださいよ………」

「いや伍長、伍長は温泉屋のオヤジに何を求めてんだよ。そしてオヤジもなんで2つで十分だと判断したんだよ」

 

伍長、上等兵と別れ風呂へ。効能は肌に優しいとだけ書いてある。大雑把だなおい。洗剤とかの宣伝じゃねーんだから。

 

いや、よく見たら下に何か消された跡が……………うっすらと………『人間関係』…………。

風呂の効能かソレ?

 

「軍曹!露天風呂があるんだとよ」

「……それはいいな……」

 

身体を洗い外へ。中々風情のある趣だ。前行った時とは違い、池に満月が写り、その静かな湖畔には像が静かに立っている。

 

「ふぅ……いい湯だ……でも湯気がすげぇな……何だコレ?」

「…確かに……」

『わぁーい!!広い広い!!上等兵さーん!!早く早くー!!』

「伍長、貸し切りと言えど静かにしなくてはいけませんよ?」

 

冬の温泉は格別だが、夏の温泉もまたいいものだ。これで後10年は戦える。

 

伍長………泳いでそうだな………。

 

「……来て、よかったな……」

「そう言ってもらえて嬉しいよ。軍曹もリラックスしているようだな…」

「…あぁ、ここは逆光、海風に加え、この湯気だ……サーモセンサーでも狙撃は不可能……貸切で、人気(ひとけ)もない……」

「……それよか明日はどうする?遊園地か?」

「……好きなのか?」

 

何故に意外そうな顔を。

 

「軍曹が行きたいって……」

「…いや、大丈夫だ。この星が、見られただけで……」

 

軍曹が上を見上げる。確かに満点の星空だ。釣られて上を………。

 

「……………なにやってんだ伍長?」

「日本の風呂は、覗くものだと聞いたので!!」

「誰だその歪んだ日本の偏見教えたヤツは!!」

「……分からんが……逆じゃないのか……?」

 

塀から伍長が顔を覗かせていた。もはや言葉も出ない。出てるけど。

日本人は折り紙で競技したり埋まり土下座したり割り箸を変な持ち方したりしないからな!?

何故伍長がそんな勘違いをしたのか?それは、謎です。

 

「伍長、言った通りでしょう?」

「そうだ上等兵注意してやってくれ!」

「次は私の番です」

「酔ってんのか!?」

 

それとも何だ!?宇宙ペストかなんかか!?

 

だぱーん、と向こうから大きな水音が聞こえて来る。伍長が落ちた音だと思われる。静かに風呂ぐらい入らしてくれよ。

 

「上等兵ー、やめた方がいいかとー!」

「冗談です。興味が無いわけではありませんが」

「わわっ!上等兵さんハレンチですよ!!」

「そうですか?」

「むむっ、これが……大人の余裕なのですか!?」

「……何を言っているんだ…?伍長は……」

「これセクハラだろ」

「……そうだな…」

 

まぁ少尉が居なくてよかった。いたら確実に何が何でも覗こうとするに違いない。セントリー・ガンの設置が必要になるな。

つーか女性からセクハラ受ける俺らって………。

 

「……はぁ…全く……」

 

と言う軍曹の手には熱燗が。でも似合うのは何故?世の中所詮顔が9割、か……。

 

「酒持ち込んでいいのかここは?それに風呂の中の飲酒は危なくねーか?軍曹なら心配なさそうだが……」

「まあまあそう言わずに……」

「誰だよ!?」

「風呂屋だ」

「何でいるんだよ!!」

「まぁ、コレでも飲んで落ち着いて……」

「風呂の中でラムネ!?しかもヌルい!ヌルいよコレ!!しかも熱せられて落し蓋が硬い!!グニャッて!!」

「……ふむ……"ラムネ"…か………」

「わたしはアイスクリームがいいです!!」

「メリケンが!!日本人なら大和ホテルのラムネなんだよ!!」

「上等兵さぁーん!!飲みましょー!!その後はオンセンピンポンやりましょー!!ココントーザイです!!」

「いいですが、お酒は抑えてくださいね?後私はピンボールと言うものがやってみたいです」

 

まぁ、退屈より、マシか……………………………。

 

 

 

 

マシか?コレ?

 

 

 

U.C. 0079 8.17

 

 

 

「休暇は、今日の昼までだとさ」

「ええっ!!」

「あらあら」

「次はどこへ?」

「……西へ。次の任務が待っている………」

 

朝一番の電話がコレか。全く……。

 

「そう、ですか。短い間でしたが、お世話になりました」

「いえいえ、お気になさらず……」

「これからも、コイツを頼む。出来は悪いが、息子なんだ」

「……ハッ……………お任せを……この命に、換えてでも………」

「……もっと、一緒に居たかったです……」

「あなたたちならいつでも歓迎よ。またぜひいらっしゃい」

「……うぅ……また!来ますから!絶対!!」

「兄貴は?」

「会社よ」

「そうか……」

「……装置を、回収して来る……」

 

各々に挨拶を終える。戦場は、待ってはくれない、か……。

 

それに、"また"か……。その"また"は来るんだろうか。

 

胸に手を当てる。手に当たるのは、硬い本の感触。

 

いや、必ず来る。掴み取るんだ。

 

「おい、餞別だ。コイツを持ってけ」

 

そう言って渡されたのは、布に包まれた棒状の物だ。

 

「父さん、これは……」

「"貸して"やる。だから……」

 

息を切り、こちらを見る。

 

「……お前も、もう大人の男だ。これは男同士の約束だ。

必ず、帰って来い。今度も、他の仲間も一緒に!!」

「……承知!!」

 

さぁ行け、とばかりに背中を叩かれ、エレカに乗り込む。

 

「行って来ます!!」

「さよーならー!!また会いましょー!!」

「ありがとうございました!!」

「がんばってね!!絶対ですよー!!」

「必ずだぞー!!」

「………再開を、必ず……!」

「俺はここに帰るから!前にも話したけど、俺の終着点はここだから!」

 

エレカが走り出し、手を振るシルエットが遠くなって行く。

 

「さよーならー!!」

「伍長、そろそろひっこめ」

「…うぅ…」

「……今日の午後、と言ってたな……」

「あぁ、あと数時間で、俺たちの夏休みは終わりだ」

 

泡沫の夢は、醒めるものだからな。

 

「最後に、お土産でも買って行きましょう。皆さんも喜ぶでしょうし」

「さんせーです!そうしましょうよ少尉!」

「…そうだな、行こう!軍曹、頼めるか?」

「……了解した…」

 

エレカが進路を変え、繁華街へと向かって行く。かなりの賑わいで、活発に人が行き交っているのがよく見える。

 

その一角にエレカを止めると、伍長が直ぐに飛び出した。

 

「うわぁっ!!凄い!!むむっ!向こうから、何かいい出会いがありそうな予感が!!」

 

伍長が降り立ち、周りをキョロキョロと伺っている。その姿はどこかハムスターなどの小動物のようだ。そして、その先はゲームセンター、アミューズメントハウスだ。コロニー含め幅広く出店している代表的なゲームセンターである。

 

「隊長、少しお話しが…」

 

エレカを降りようとしたら、上等兵に呼び止められる。因みに軍曹はホルスターと中の銃の残弾を確認している。

そして軍曹はアタッシュケースを取り出した。何で?

………いや、多分、アレ仕込み銃だ………。

 

「伍長についてあげて下さい。お土産は私と軍曹で買っておきますから」

「……その役は軍曹か上等兵じゃないですか?それより軍曹、ソレ……」

「いえ、隊長が適任です。伍長に、この夏最後の思い出をつくってあげて下さい」

「……ご期待に沿えるかどうかは分からんが……分かった…軍曹、いいか?」

 

一応軍曹に聞く。軍曹は俺の護衛に来ているからだ。と言うより二つも……どこから……?

 

「……話は聞いた……もしもの為に、これを渡しておく……」

「おうっ…って、コレ俺のマテバ!!」

「どうして軍曹が持っているのですか?」

「…念の為だ…」

「もしかして……」

「……グロックか…?あるぞ…」

「……金属探知機には引っかかるはずなのに……」

「……軍曹には通じないんだろ……」

 

そう言う事を聞いてるんじゃ無いが……まぁ、いいか。

クリスマスには毎回ツいてない刑事の映画は面白いけど、そのセリフだけはいただけないよね?

 

「……ありがとう、行って来る」

「はい。また後で」

「…何かあったら、連絡頼む…」

 

2人と別れ、伍長をさg…

 

「あっ!少尉ー!一緒にお買い物しませんか!それにゲームも……」

 

向こうから見つけてくれた。頼むから手をそんなに振らんでくれ。目立ってしょうがない。

 

「ちょうどよかった。俺も探してたんだ。上等兵がお土産は任せて、2人で買い物して来いだとさ」

「上等兵さんが!…ふふっ、分かりました!いきましょー!ここなら、色々売ってそうですしね!

……選り取り見取り!ふふふっ!!」

「ゲームはまた今度な」

「はーい!!…えへへ」

 

伍長が手を取り、握ってくるのを握り返す。あと少し、この平和を楽しもう。

 

雑多で、でもどこか統一感のある繁華街を歩く。人通りも多く、客引きの声が心地良い。

登り切った太陽が輝き、ビルの側面のガラスに光を投げかけている。

そこらがキラキラと輝き、中尉は目を細める。

 

それにしても、本当に平和だ。殺伐ときた雰囲気など微塵も感じられない。仮にも今は戦争の真っ最中なのだが……。豊かな分、のんびりしてるなぁ………。

 

「プラモデル欲しいです!」

「…作れないのにか?」

「また一緒に作りましょ……ってコレは!!」

「えっ!!」

 

そこにあったのは、ものっそい見慣れたアイツ(・・・)だった。

 

曲面を多用した装甲、左右非対称でありながらバランスの取れたシルエットに、目の覚めるようなグリーンの躰、頭部の一つ目が特徴的なアイツ、MS-06 "ザクII"だった。

 

「コレ買います!決めました!」

「ウソだろ?出すの早えなおい。マジかコレ……うわ、内部フレームまで…どこ情報だよ………」

 

連邦軍人がジオンの象徴とも呼べる"ザクII"を買うのは、何かおかしな気もするが……。

 

うん。俺も買おう。結構出来も期待出来そうだし……。

 

はしゃぐ伍長を見守りつつ考える。

コレも平和だからか。いい事だ。どうせなら、フルスクラッチビルドで"陸戦型ガンダム"でも………。

 

「ううむ……」

「どうした?伍長?」

「いえ、コレが欲しいんですが……手持ちではぜんぜん…」

「欲しいって、コレが?まぁ、確かに……」

 

気がついたらペットロボットコーナーで、伍長がいつにも増して真剣そうに目の前のロボットを睨んでいる。

 

そのロボットは立方体の箱に4本の棒のような脚と2本の棒のような手が付いたようなデザインで、俗に言う"ジェイムスン"型だった。

いや、でもコレ、フツーペットロボットコーナーに置くか?

 

それも相当歳のいった男ならともかく17歳の女子が欲しがる物かコレ。

 

「日本物価高いしな……こっちならどうだ?」

「うーん……むむっ……ん? これは……」

「おい!ちょっと……あっ、すみません店員さん。なんでもないんです、はい」

 

伍長が戸棚に身体を突っ込んで、取り出したのは丸いヤツだった。

 

「コレにしました!!今心にズギュンと来たんで!!」

「いいのか?結構古いタイプだぞ?」

「はい!これは運命です!ふふっ」

 

伍長が両手で抱きかかえたそれは、目を光らせ、丸い身体からパタパタと耳のような物を羽ばたかせながら一言発する。

 

『ハロ!』

「ハロって言うんですか!よろしくね!ハロ!」

『ハロ!』

 

うんうん。お互いを認め合ったようだ。

仲良き事は美しき哉。

 

ハロを抱いてクルクル回る伍長を見て、中尉はなんだか心が暖かくなったような気がした。

 

その伍長から目を離し、窓の外を見る。

 

偶然にも、その方向の遙か彼方には、次なる戦場が、地球上において最大の激戦区が広がっていた。

 

 

『だから、僕は、戦場へ戻る(・・)

 

 

渚にて……………




中尉の夏休み編、遂に終了です。長かったぁ〜……。

新しい仲間?も参加し、ますます賑やかになったT・B・S、戦場へ!!

次回、念願の母艦とのファーストコンタクトです。お楽しみに!!

ここで、新しい母艦の名前、大募集します(笑)!!
どしどしご応募下さい(笑)!!
無かったら無かったでまた自分が無いネーミングセンスを絞ります(笑)。
ご応募方法は感想、メッセージ、活動報告への返信どれでも構いません。ご協力お願いします!

次回 五十章 鋼鉄の咆哮

「うるせーよ黙っててくれよ頼むから……」

お楽しみに!!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。