機動戦士ガンダム U.C. HARD GRAPH 名も無き新米士官の軌跡   作:きゅっぱち

54 / 84
作戦を終え、ほっと一息。

そんな感じでよろしくお願いしまーす。


第四十五章 見据える先の未来には

平和とは何だろうか?

 

戦争と戦争の間の、準備期間に過ぎないのか?

 

人は抗争から逃れる術を持たない。

 

しかし、平穏な時は必ず人に訪れる。

 

それは、どんな時でも。

 

戦争とは、何なのだろうか?

 

 

 

U.C. 0079 8.13

 

 

 

「……明日、ですか……」

 

それは、ちょうど仕事にひと段落がつき、休もうとした矢先だった。

 

「…また、急だな…」

「へー!何で行くんですか?」

「飛行機を出してくれるそうです」

「飛行機で行くのか」

「はい」

「"ミデア"かな?何かな?」

「あとお弁当出ます」

「いや、それはいいんだが」

「おやつもでるのかな?」

「何のお弁当がいいですか?」

「いや、それはいいんだが」

 

さっきからの上等兵の弁当推しはなんなんだよ。

 

「わたしはハンバーグカレーがいいですね!」

「……カツじゃないのか……」

「あっ、やっぱカツで!」

「経費で落ちる?」

「もちろんです」

「デザートはプリンがいいなぁ」

「ご飯も五目か赤飯かチャーハンか選べるそうです」

「白米はないんかい!偏っとんな」

「……五目だな。俺赤飯好きじゃない」

「うえぇ!?日本人なのに!?」

 

さっきからオーバーアクションだな少尉。うっせーぞ。

 

「うるせーな。少尉、お前どうした? 真っ昼間から喧嘩を出血サービスの大安売りか? 買うぞ?ちょっと待て、今薙刀持って来る」

「なぎっ……!!本気かよ!?こっちが流血しそうなので遠慮させてください!!つーか何!?何で俺にだけそんな殺意のトリガー軽いの!?」

 

なんかごちゃごちゃと。何だコイツ。

 

「…………軍曹、射的やろう。伍長も練習せにゃな」

「……そうだな…」

「はーい!」

「!?」

 

"喧嘩"が"射的の的"になった事に驚愕する少尉をよそに話は進んで行く。

本人は同意した軍曹伍長に驚いているようだった。なんでコイツこんなに騙されやすいの?

 

「伍長はデザートイーグルか……軍曹は?」

「……ウィンチェスターを…」

「ちょぉい!!……そのマジな表情でマテバを引き抜かな……」

「で、何だっけ? デコは50点、目は30点だったか」

「ちょっとォぉぉ! その遊びどう転んでも死人が出ますよねぇ!ねぇ!?聞いてる!?」

「鼻は40点にするか……」

「うぉぉぉぉぉぉおおおいいいい!!!!上等兵もグロックを確かめるな!!」

「しょーいー、白目剥いてー?書き込めないー」

「安心しろ、一発だけなら誤射だ。特にそれが後ろからなら、な……」

「……一発あれば十分だ……」

「言ったら台無しだろーが!!モロ殺しに来てんじゃねーか!!」

「少尉。煩いです。静かにして下さい」

「俺が悪いのかコレは!?」

「隊長も辞めて下さい。弾丸が勿体無いですし、飛び散った血の飛沫を拭き取る掃除をするのは大変なのですよ?最前線の軍事施設ですからハウスクリーニングも頼めませんし」

「……俺の身を案じるヤツはいないのか……?」

「冗談だよ、うっせーな」

「……目ぇ見て言ってくんね?」

「……冗談だ…」

「無表情で、未だ武器を用意しながら言われても…」

「…折角ゴム弾装填して来たのに……」

「!?」

「私も冗談は言っていません」

「………………」

 

因みにゴム弾、実弾より痛いと好評である。流石紳士の国リターンズ。

 

ここは"グアンタナモ・ベース"仮設基地だ。

制圧というより丸々吹き飛ばしてしまったので、未だに全く復旧など出来ていないのだった。復旧より新しく作り直した方が早いレベルである。なので現在基地機能の復旧中であり、連邦軍人以外のA.E.Iの人間なども多く入り込んでいる。

 

しかし、局地的勝利とは言え、連邦軍の東南アジア方面軍の機械化混成大隊(コジマ大隊)に続く連邦軍の2回目の勝利だった。

こちらの損耗も少なく、基地はこんなだがかなり盛り上がっていた。

 

そんなこんなで中尉達は基地の瓦礫撤去に駆り出されていた。

しかしMSは度重なる激戦に続く激戦で、既にあちこちにガタが来ていたため、使用不可能だった。

 

速攻でぶっ倒れた伍長に、常人の数倍以上の作業効率の軍曹、ほぼ破壊し尽くされていた基地機能の復旧やデータサルベージなどを行っていた上等兵と少尉がこのように集まれたのは、作戦以来だったが……。

 

「……全く、休む暇すりゃありゃしねぇな」

 

復活した少尉が言った。やはり立ち直り早いな。こんにゃくメンタルと名付けよう。斬鉄剣でも切れない。

………ん?ちょい待ち……あれ、峰打ちすりゃノーマルな圧力で斬れたんじゃね………?

それに刺しゃええやん。

 

「貴方は隙あらばサボっていたじゃないですか」

「ゔっ!!」

「……呆れたものだ…」

「……ったく…それで、行き先はどこなんです?」

「予定通り東南アジア方面です。現在地球上で最も激戦区だと言われています」

「……ふむ……」

「……東南アジア……近場の、"マドラス・ベース"を軸に……か…?」

 

東南アジアか……おやっさん言ってたな、もし"陸戦型ガンダム"が配備されるとしたらそこだろうと……。

今度はそこが戦場になるのか……。

え?"マドラス"って東南アジアじゃなくね?

 

「大将!ここにいたか!」

「おやっさん!話は聞きましたよ。東南アジアですか…」

「あぁ、だが、その前にジャックから大将へラブコールだ。良かったなオイ」

「……准将から……?はぁ…」

 

嫌ーな悪寒がするなぁ……。予感じゃねぇよまぁたロクでもない事になりそうだ。七面倒な。

 

「なんですかね?新しいMSとか?」

「んな簡単に出来たら苦労しねーよ。別件だろうな」

「移動の辞令でしょうね。おそらく」

「……また、湿度が高いところへ……」

「アジア広いし、もしかしたら砂漠か……それか?」

「? どーゆーことです?」

「砂漠での作動テストか?」

「防塵対策が必要ですね」

「確かにキットにはあったな……」

 

喋りながら通信室へ。

ここは一番初めに整備された部屋だった。というか、"ミニ・トレー"の予備パーツをはめ込んだに近い。

グラスファイバーが生きていたのは僥倖だった。やはり有線だ。アナログはアナログだが、それほど使われて来るほど信頼性が高いという裏打ち付きだ。その最たる例と言えよう。

 

通信室前の憲兵(MP)に敬礼して部屋へ。質素だが最低限の設備、いやかなりの設備が揃っていた。

 

前面に設置された大型スクリーンに明かりが灯り、ジョン・コーウェン准将の姿が映し出される。

なんか、かなり久しぶりな気がしていた。

"ジャブロー"を発ったのはいつだっけ?後で日記を見直そう……。

 

『久しぶりだな中尉。活躍は聞いておるよ……』

「恐縮です」

『そう畏らんでいい。儂と中尉の仲じゃないか』

 

知るかんなの。面識しかねーよ勝手にカテゴリーを変えるなや。

 

「そうだぞ大将。コイツにヘコヘコする必要はねぇって」

『……お前は少しは敬意を払おうとは思わんのか?』

「まったく?だって、俺と、お前の、仲、なんだろ?だから、その(よしみ)で休暇くれよ?休暇、なぁ?どうせ"アレ"の準備にも時間はかかるしな」

 

メチャクチャ言ってっぞこの人。妖怪休暇置いてけだ。出来れば巻き込まんで欲しい。休暇とか要らないから。

 

「はーい!さんせー!わたしも休暇欲しいです!!」

「伍長……お前……部下の非礼をお詫びします………」

「はぁ……」

「…はぁ……」

「……あー、俺も、欲しいかなー、なんて……ふはっ……」

「おらー、部下の疲労も蓄積してんだよ。MSも今どっちみち使えん。さぁ寄こせ」

 

メチャクチャ言い出したよ。伍長はともかく、少尉悪い影響受けてね?

 

しかも准将、八つ当たり半分のような顔で中尉に核爆弾級の発言。

 

『………中尉は、どう思う?』

 

ここで俺に聞くかぁぁぁぁぁぁぁああ!?

ふざけんなここまで来て丸投げか!?

 

「………ど…」

『「ど?」』

「…………どちらでも、宜しいかと…………」

『「…………」』

 

あれ?何?最悪な答えを叩き出したか?

伍長に少尉、そんな顔すんなよ。本当にどうでもいいんだよ俺は。

 

『はっはっはっはっ!……中尉ならそう言うと思っていたよ……』

「は、はぁ……」

「俺もだ。ヘタレ大将?」

「……中尉、気にするな……そこも、美徳だ…」

「そうですよ隊長。軍曹の言うとおりです」

『ふむ……ならば、伍長と上等兵が儂に頼んだら……』

「休暇下さ〜い!」

 

はや! でもそれ、人にモノを頼む態度なのか?しかも目上の上司に……。

准将だって……なんかものっそい優しそうな目ぇしてるぅー!!

完全に孫娘を見る目だコレ!!

准将よ、お前もか。

 

「上等兵!お願いだ!!頼むー!」

「貴方に頼まれたら急にやりたく無くなりました」

「…………」

「……うぅ……上等兵さん………」

「えっ!あっ……え〜っと…」

 

向こうでは上等兵が珍しくあたふたしている。伍長の涙目に負けたか?

その様子を見ていた准将が口を開いた。

 

『はっはっはっはっはっはっ!元よりその気だよ。安心したまえ……次の目的地、東南アジアへ向かう際、日本に寄り、3日間の休暇を与える事を許可しよう!』

「わーい!!准将優しい!!パンダコパンダの国だぁ!」

 

伍長違うそれは隣だ。それにそれでもノーマルなパンダしか居ないと思う。

 

「いーっやっほぅ!!!!日本だ!!」

「すみません准将。しかし……」

『まぁまぁ中尉。上司の好意は、ありがたく受け取るのも部下の仕事だ』

「はぁ?短くねーか?どんだけ俺たちが働いたと思ってんだよ……お前みてーにケツでイスを磨くのが仕事じゃねーんだよ」

『いいや!コレが最大の妥協だ!!これ以上やるわけににはいかん!!他の部下に示しがつかんのだよ!!』

「んなもん俺にゃ関係ねぇんだよ!!グダグダ言ってねーで休暇伸ばせ!!ここらの大ヒル箱一杯に送りつけたろうか!?」

『なぜそうも的確かつ腹立つ嫌がらせを思いつくんだ!!前も凄まじい偽装技術を駆使し税関その他を潜り抜けさせ同じ用な事を……!!』

 

何やってんだよ!!小学生かっ!!

つーかマジやったんかい!!

高い技術を無駄遣いするケースの典型だな。とんでもないのが技術と地位を持って本気出すとホント手がつけられ無いな。

 

「おやっ…整備班長……いいですから…。お…私は別に……」

「そうですよ整備班長。隊長の言うとおりです」

「だからー大将!コイツの前で畏まらなくていいっつーの!上等兵も、俺にゃ敬意は払わんでいいっつーの」

『………お前は軍隊を何だと思っているんだ………?』

「うるせ〜今テメーに話しちゃいねぇよ!あーもう分かった!モルガンテンでどうだ!?それで5日だ!」

 

まさかの賄賂。とんでもない事になって来たぞコレ……どーすんの?

 

『………何年物だ?』

 

応じるなよ准将。しかも酒かい。

 

「ふっ、聞いて驚け、25年物だ。しかも輸入元はヴェズンリカーだぜ?保証書付きだ」

『何!?"グラナダ"本店のか!?』

「勿論。これでどうだ……?」

「……ううむ……」

 

"グラナダ"って………。今、ジオン勢力圏内じゃねーか。

 

「……ねー、軍曹軍曹、ヴェズンリカーって凄いの?」

「……月面"グラナダ"市のモンテレー区、リバーサイド101……"グラナダ"完成の頃からある老舗だ……」

「私の父も行っていましたね。いいお酒が揃っている様です」

「くっ、持ち込みゃよかった……」

「……高いのか?」

「……25年物になると……9000ドルは下らないな……」

「ぶっほぉッ!!」

 

なんだそりゃぁ!!

今の為替レートで大体でもいいから日本円にしたら………うわっ………。

 

「……上等兵さん上等兵さん、それは何ハイトくらいですか?」

「……今の為替レートなら3592ハイト18クールですね」

 

そして『へー』とぐらいしか思っていない伍長と上等兵はやはりお嬢様だった……。

中尉と少尉の庶民2人には分からない話だった。ポカーンである。

 

それにしても、共通通貨とかないのかね……¥€$(イエス)的な……あっても速攻で廃れそうだけど……。

 

『………んむ。仕方がない。仕方がないのだよこれは……』

「はっ。ありがたく思えよ?」

『……どの、口が……!!……というより、お前には名指し指名で特命だ。残念だったな』

「……分かった。だが、こいつらにはしっかり休暇を与えてやってくれよ?」

『分かっておるわい』

 

とんでもない口きいてますが交渉が終了したようです。

大人って……そう思いました。自分はまだまだ子供なのだと……この反省を活かし、今後の糧にしていきたいです。おわり。

准将はまだ苦い顔でブツブツ言ってっけど。

 

『………それでは、言いたい事はかなりあるが……以上で終わりだ……』

「はい。失礼します……すみません……」

『………………』

 

ブツリと映像が途切れた。はーっと溜息をつく。伍長は興奮し、上等兵はいつもと変わらないが、やや嬉しそうにもみえた。

軍曹は何も変わらない。おやっさんはガッツポーズをしていた。少尉はまだポカーンである。

 

「よぉーし!休みも分捕った!良かったなぁ大将!!」

「……ってそんな凄い物を!?」

「んあ?んなわけねーだろ?値切ったわ。レイノックスの4年物にした」

 

いや、分からないんですけど……。でも、聞きたくもない。

 

「……近年発表されたワインだ……高くは無いが…その独特の風味と、生産量の少なさから稀少価値が出始めてる……」

「そ、そうなの……」

 

何でも知ってんのな。軍曹……。

 

「そのワインは初耳です。お詳しいのですね」

「……いや、特には……気になるなら、クラウディア社の"グラスキュート"か、A.Eクレジット社の……」

「ケチケチしやがってなぁアイツ……どっちみち日本に長く寄るこたぁ知ってっくせに……」

「はぁ……5日か……キョウト、ナラ、オーサカ、トーキョー、ナゴヤ、ハコダテ………だぁーっ!!行きたいところが多過ぎる!!永住したいぃ!!」

「……どこ行きたいんだよ」

「細かく言うと全部で27264862箇所だな。全部言おうか?」

「諦めろバカ」

「ねっ、ねっ、少尉はどうするの!?ねぇねぇ!」

「うーん…おやっさん、日本のどこに用があるんです?って、おやっさんは行くんですか?」

「おお?"クレ・ドッグ"だ。知ってるだろ?でも俺は行けなくなった。少尉に一任する事にした。休んでる暇は無いぞガーデルマン」

「うええっ!?俺の休暇は!?」

「ねぇよんなもん。牛乳飲んだら出撃だ」

 

もちろん!!おおっ!!近い!近いぞ!!

これで、"あの本"も交換……いや、そのまま持つか……。

 

「……実家に、顔出すか……な………」

「!…………!………ふふふっ……」

 

懐かしい。主要な軍港や基地はほぼ全部回ったからなぁ……ん?呉?

 

「……何しにですか?」

 

おやっさんが振り向いてにやっと笑った。

 

「言って無かったか……色々回った時、パイプ作っておいてな……」

 

最高に楽しそうな顔で、こう言った。

 

「俺たちの"母艦"を受け取りに行くんだ」

 

 

『艦は、いいものだ………』

 

 

まだ見ぬ明日に、希望を抱いて……………………




カリブ海激闘編、終了!!

次回から、中尉の夏休み編が始まります(笑)。戦闘?戦争?ナニソレ?美味しいの?
いいえ、知らない子ですね(笑)。

苦手な日常パートを如何に書くかのテストになると思います。頑張ります、なんとか。
連邦軍はいつでも余裕たっぷり(笑)で、フツーに休暇とかあります。第二次世界大戦の時のアメさんと同じですね(笑)。
常にいっぱいいっぱいのジオンでも休暇はありましたし。


次回 第四十六章 フライング・イン・ザ・スカイ

「……という事は…この泥棒猫………」

お楽しみに!!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。