機動戦士ガンダム U.C. HARD GRAPH 名も無き新米士官の軌跡   作:きゅっぱち

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カリブ海激闘編、遂に完結!!

グアンタナモに、嵐が吹き荒れる!!


第四十四章 グアンタナモ・ベース攻略戦

史上最大の作戦。

 

かつて、そう呼ばれた作戦があった。

 

オーバーロード作戦。

 

大規模な落下傘部隊と強襲揚陸艦による上陸作戦。

 

歴史は、繰り返す。

 

 

 

U.C. 0079 8.10

 

 

 

『カリブ海上空。高度36,000フィート(エンジェル三-六-◯)

『まもなくジオン制空権内に近づきます』

 

メインスクリーンには薄暗い映像ばかりだ。赤い非常灯に照らされた、狭く薄暗いコンテナの中。

それが、今中尉が見る事の出来る世界の全てだった。

その赤い非常灯の明かりに照らされ、金属のパイプや骨組みの間に、消化装置とその注意書きが見えた。

 

『降下20分前…機内減圧開始』

『装備チェック』

《どうだー大将。そいつ(・・・)の様子は?ヘソ曲げてないか?》

「大丈夫なようです。まぁ、疑っていたワケではありませんが」

《ねぇねぇ軍曹、36,000フィートって何km?》

《……約10.9728kmだな》

《わぁ!成層圏かな!?成層圏から地上へダイブ〜ふふふふ〜ん》

 

楽しそうだなオイ。怪我一つなけりゃいいんだけどなぁ……。君のためなら死ねるってか?

 

サブモニターが高速でスクロールし、機体のコンピュータが項目を一つ一つチェックして行く。

 

自動開傘装置のアーミングピンを外せ(アームメインパラシュート)

『よし…準備はいいか?』

「こちらブレイヴ01。準備よし」

《……こちらブレイヴ02。準備よし》

《こちらブレイヴ03オッケー☆》

《こちら"イージス"。システム、オールグリーン。問題ありません》

『もう一度作戦を確認する。現在"グアンタナモ・ベース"には我が軍の"61式主力戦車"と"ミニ・トレー"を主軸とした部隊で攻撃を行っている。

諸君らの任務は"ミデア"から敵防衛ライン内に空挺降下、着陸しその場を死守、友軍の到達まで持ち堪える事だ』

「……了解」

《……厳しい作戦です。しかし、私達"ブレイヴ・ストライクス"なら、必ず成し遂げられますよ》

《……無茶だな》

《スリルというお土産と引き換えに、給料分のお仕事はしますよ》

《内陸な分、"ゴッグ"とやらが出ないと思われる分マシなんじゃね?ねぇ、つーかホントに飛ぶん?》

 

ポジティブだな少尉。いや、あいつマジでヤバイぞ?相手取ったら分かっけど。あんな国籍不明の黒人力士みてーなカッコしてる癖に。

 

『だが、やるしかない。諸君らだけが頼みなのだ……頼んだぞ!!』

《「了解!!」》

 

ここは飛行中の"ミデア"のコンテナ内。

ターボファン・エンジンの爆音が、細かな振動となって伝わってきていた。

降下作戦開始まで、後10分少々だ。

戦場までは、何マイルだろうか?

 

『高気圧、いぜんとして目標地域に停滞中』

『イレギュラーな突風(ガスト)、無し』

雲底高度・視程無限(CAV OK)

『いいぞ。視界は良好だ』

「それは良かった」

《お外が見れないのがざんねんですねー》

《雲しか見えないと思いますよ?それにまだ夜ですし》

《でも真夜中の眼下に広がる雲海はロマンだよなぁ……って、ホントに?ホントに飛ぶの?》

『パックゼリーを口から離せ』

《ええ!?まだ飲みきってません!!》

 

遙か上空、まだ星の煌めく夜空を飛ぶ"ミデア"の中、専用のガイドレールに固定され、中尉の"陸戦型ガンダム"は待機し、その時を待っていた。その隣には軍曹の"陸戦型GM"もいる。

2機とも背中に巨大な降下ユニット(パラシュートパック)を背負っている。空挺仕様だ。

せめて一回は訓練させて欲しかった……シミュレーターだけだ。

ぶっつけ本番でテストって……。

 

『ヘルメット装着せよ』

『あの女…素人か?』

 

すみませんそうです。というか降下は軍曹以外全員素人です。

MSなら尚更だよ。

 

ブザーが鳴り、刻一刻と時が迫っているのを伝える。手のひらに汗が滲み、手袋を濡らした。

 

『リリースポイントに接近中…』

『降下10分前』

『おい!聞こえたか?!』

『パックゼリーを置いて、ヘルメットを装着しろ』

《わ、分かりました!今飲み終わりましたから!!》

 

さっきから伍長は何をしているのか……。向こうの機長さんは大変だろうな……。

現在"ミデア"は3機の編隊を組み飛行中だ。一機目には中尉と軍曹。二機目には伍長と"イージス"、それにコンテナユニット。三機目は"ミデア"を改造したガンシップだ。

それに直掩機として3機の"セイバーフィッシュ"が付き添っている。一機が先行し、残る二機が"ミデア"の斜め後方を追従している。ちょうど直角二等辺三角形を描くようにし、その重心に"ミデア"が位置している。

 

『大丈夫なのか?こいつは……』

「すみません機長。ご迷惑をおかけしました」

『降下の時にヘマは困るぞ』

「はい」

『作戦参加部隊全員の命がかかっているんだからな』

「承知しております、サー」

『そもそもだ』

『連邦のMS搭乗員ってのは、精鋭中の精鋭が選ばれるはずじゃないのか?』

「ええっ!?い、いや……多分……」

 

俺に言うなっつーの。かく言う俺も成績は中の下だぞ?いや、下の上?

 

『だというのに、今のはなんだ?お前の部下のせいで、俺の部下までが不安を感じてる。バカを落とすんじゃない。70tの高価なハイテク装備を3機と、これまた高価なハイテク装備満載のトラック、それに武装コンテナ……それら最新兵器を落とすんだ、ミスは許されない。それが分かっているのか?』

「はっ。肝に銘じております……」

『あの体たらくでは、お前の能力も怪しいもんだ』

「尉官としての責務を果たすべく、より一層の努力を誓います、サー」

 

グッダグダグッダグダとぉ!!

俺の、知ったことかっ!!

 

『わかればいい。注意しろ』

「イエッサー」

 

なんで、俺が怒られなきゃあかんの?ったく……。

あ、俺の所為か。

 

『機内の減圧完了。酸素供給状態確認』

『降下6分前!後部ハッチ、開きます』

『日の出です』

「……また、朝が来た」

 

耳障りな警告(アラート)音が鳴り響き、回転灯が目に焼きつく。後方のコンテナハッチが解放、目も眩むような太陽光が差し込む。ハッチ開放による気圧差から乱気流が流れ込み、格納庫内で荒れ狂い大きな音を立てる。

 

『外気温度、摂氏マイナス46度』

《うっひゃ〜。凄いですねぇ…》

『隊長さんよ、伍長を黙らせろ』

「3番機…私語は慎め」

《むー、はいはい》

「はいは一回だ」

《はーい…》

「伸ばさなくていい」

《はい?》

「あげなくてもいいからな?」

《隊長も付き合わなくて結構です。伍長?………………怒りますよ?》

《はいぃ!!》

『降下2分前…ガイドレール最終チェック』

『時速130マイルで落下する』

『風速冷却でのセンサー異常に注意しろ』

『ガストにも気を付けろ?攫われるなよ?』

『降下1分前…電磁レール励起』

『コクピット環境コントロールシステム(CECS)を再チェック、酸素装置(ベイルアウトボトル)を再作動』

『これが記録に残る世界初のMSによるHALO降下になる…』

『降下10秒前……スタンバイ』

『全て正常。全系統異常無し(オールグリーン)

『降下準備…』

『こちら機長。今ポイントホテルを通過した!高度40,000フィート!各MS搭乗員は準備しろ!!』

「ブレイヴ01、了解!」

《……ブレイヴ02、了解》

《ブレイヴ03りょーかーい!!》

《こちら"イージス"、了解しました》

『マジメにやれ!!』

『カウント、 5、4………』

『各MS搭乗員へ。現在の天候は晴れ。南西の風、6ノット、ガスト無し………以上』

『2、1…鳥になってこい!幸運を祈る(Good Luck)!』

『降下開始!!降下!降下!!ASAP(可及的速やかに)

「了解!!ブレイヴ01!"陸戦型ガンダム"、出るぞ!!」

《ヘルダイバーいっきまーす!!エントリィィィィィィィィィィイイイイイイイイイ!!!!!!》

《……I'll be back!!》

《ジェロニモ!!》

《降下開始!》

《……しゃ、しゃるうぃーだいぶ?あいきゃんのっとふらーいぃぃぃ……》

 

中尉は自機を固定する電磁ロック解放スイッチを作動させる。

 

警報ブザーが鳴り響き、機体のロックが解除される。

 

たちまち火花を撒き散らしつつ床のレールを滑り、中尉の"陸戦型ガンダム"は機外へ、暁の空へと放り出されて行く。

 

『降下開始 システム・チェック オールグリーン』

 

機体をロックしていたカタパルトブロックが爆砕ボルトで吹っ飛び、風を受け回りながら落ちていく。

 

上空には過ぎ去って行く"ミデア"が、東の空には輝く太陽が、まだ夜の残る西の空には細く煌めく星空が見えた。

 

荒れ狂う暴風が叩き付けられ、激しい振動と共に機体が暴れまわり、回転する。揺れに耐えつつなすがままにし、回転する事により一方方向のみの風を避け、センサーを保護する。

 

眼下には吹き上がる爆炎と黒煙が微かに見える。

目標の、"グアンタナモ・ベース"だ。

 

中尉は"陸戦型ガンダム"を操作、両手両足を広げ機体を安定させる。

 

「現在降下中。目標降下地点到達(TOT)まで6分」

《少尉ー!!わたし飛んでるよー!》

《……落ちているんだ》

《何をしてるんだ?》

《落ちてるー!!》

《舌を噛み切りますよ?口を閉じていた方が無難ですが》

《ひっ!》

《……おっ!おっ!!降りられるのかよぉぉぉぉおお!!!!!……うっ…………》

 

伍長が口を噤んだ。痛いの嫌いだからね。偉い偉い。

 

3機のMSに、1台の"74式ホバートラック"(ブラッドハウンド)が高度を合わせ、落下して行く。その上にはコンテナユニットだ。

 

"ミデア"はもう飛び去り、見えない。

 

中尉は計器類をチェック、高度計を確認する。

スクリーン内ではぐんぐん眼下の基地が近づいて来る。既に下は地獄だ。砲火が飛び交い、あちこちで爆発が起きていた。

 

対空砲火は無い。コレは地上部隊の頑張りだ。迎撃機も、海上の空母からの航空支援(エアカバー)対応に追われているはずだ。

 

ミノフスキー粒子下といっても目視ではバレる。そんな中落下傘を開くなど、私は射的の的です、どうぞ撃ってくださいと言うようなものだ。

 

ギリギリまで引きつけて落下傘を開く。

 

それがこの作戦の肝、高高度降下低高度開傘(High Altitude Low Opening)だ。

 

高度計が2000mを切った。

 

何と軍曹が、降下しつつも眼下の基地へ狙撃を開始する。しかし中尉にそんな余裕は無い。タイミングを測るので精一杯だ。

 

「一次開傘!!」

 

バコンッ!と背中のパラシュートパックの装甲が爆砕ボルトで吹っ飛び、パラシュートが展開する。

 

「ぐっ!!」

 

落下速度が急激に落ち、凄まじいGが身体にのしかかる。シートベルトが肩に食い込み、身体がみしりと軋む。

 

最初のパラシュートを切り離し、二次開傘。

 

更に落下速度が落ち、機体が限りなく安定する。今が一番危険だが、敵はまだ気づいていないようだ。

 

パラシュートを切り離し、自由落下。

 

地面がぐんぐん近づいて来る。まだ、まだまだ……今!!

 

中尉がフットペダルを思いっきり踏み込む。パラシュートパックのロケットモーターが作動、スラスターが凄まじい勢いで火を吹き、機体が一瞬浮き上がる程の推力を叩き出す。

推進剤を全て吐き出したパラシュートパックが自動でパージされ、中尉と"陸戦型ガンダム"は決戦の地へと自由落下して行く。

 

「ぐぅぅうっ!!」

 

耐える。ひたすらに耐え続け、そして叫んだ。

 

「ブレイヴ01より各機へ!

         ──…………待たせたな!!」

《やっほーい!!遅れてやって来る、空挺部隊(ヒーロー)の登場だよー!!敵基地に"潜入"成功!!レッツパァァァァァァリィィィィィィィ!!!!》

《……敵MS撃破。着地地点(LZ)を確保》

 

そこへ地上攻撃隊からの通信が入る。誰も彼もが興奮気味だ。

 

《ようこそ戦場へ!!》

《やっとかぁ!!》

《うぉっしゃあ!!》

《ひゃっほぅ!!愛してるぜベイベー!!》

《来たのか!?》

《おせぇんだよ!!》

《待ちかねたぞ少年!!》

 

そして、着地。遂に中尉は、決戦の地、"グアンタナモ・ベース"へと降り立った。

 

「ぐぅうっ!!がはっ!!」

 

度重なるGに、まるで地面が爆発したのかのような激しい着地の衝撃に、全身の骨が悲鳴をあげ、頭の中で火花が散る。

 

『システム・チェック オールグリーン』

 

しかしそれに歯を食いしばって耐え、機体を操作しその場を離れつつ素早く周囲を走査する。周りは敵の反応だらけだ。敵陣のど真ん中に降下したのだ。当たり前である。

 

『アラート エンゲージ "ザクII"と断定 回避を推奨』

 

こちらを振り向いた"ザクII"にグレネードを投げつけ、命中は確認しないまま下がる。

 

「スチールー一等兵やバンダーボルト中佐の様にならんで助かった」

 

激戦の真ん中へ着地し、周りへ牽制射撃を加えつつコンテナユニットの落下地点確保を始める。

 

《ウィザード01より各機へ。状況を報告し、集結せよ》

「こちらブレイヴ01。異常無し」

《…こちらブレイヴ02。問題無い》

《こちらブレイヴ03!オールグリーンだYO!ライアン二等兵とは違いますよ!》

《な、なんて数……!》

《持ち堪えてくれ!!今行くからな!!》

《くそぅ!グエンがヤられた!吹っ飛んじまったよぉ!!》

《カードの貸しも吹っ飛んじまった……》

 

3機が"イージス"を中心に集結し、周囲に射撃を加え始める。ジオン軍は文字通り降って湧いたMSに奇襲され混乱し連携を崩していた。

 

《増援を!MSが!"ザク"が来る!!》

《こっちも手一杯だ!!くそッ!くたばれジオンのクソッタレがぁ!!》

 

降り立ったのはHLV発射台の近くだ。そのため噴射炎を出す堀とそのガードで複雑な地形となっている。

MSサイズでも十分に身を隠せるほどの大きさだ。

軍曹が"スローイングナイフ"でトーチカを吹き飛ばし、スモークグレネードを投げ込む。

 

「くっそ!!銃撃が激しいな!」

《周囲は敵だらけだよ!!》

《……落ち着いて撃て。無駄弾を撃つな…》

《こちらウィザード01より各機へ!ブレイヴ01、ブレイヴ03は正面を!ブレイヴ02は後方の敵を叩いて下さい!》

「了解!やってみせる!」

《手伝いますよ!》

《……多いな…やはり本拠地か……》

 

現在中尉達はそこに隠れ、周囲のMSを寄せ付けない様射撃を加えていた。

飛び出してきた"ザクII"を"100mmマシンガン"で蜂の巣にしつつ中尉が怒鳴る。煙を吐き出しつつ崩れ落ちた"ザクII"の機体が歪に歪み、大爆発を起こす。

 

「撃て!撃ち続けろ!!銃身が焼け付くまで撃ち続けるんだ!!」

《了解!!これでも喰らえ!!》

「どこ撃ってんだ!?軍曹!スモーク!!」

《……了解…!》

 

伍長がグレネードを投げつける。その爆発の裏から軍曹が射撃をし、また一機の"ザクII"を屠った。

投げ込まれたスモークが立ち込め、敵が攻撃を躊躇う。同士討ちを恐れているのだ。しかし、周りが敵しかいない中尉達にその心配は無い。

時間稼ぎの策だった。

 

《こちらウィザード01。コンテナユニット確認。予定通り落ちてきたようです。風に流されたり、迎撃された様子はありません!》

 

中尉が空を睨む。その視線の先には落下傘を開き舞降りるコンテナユニットがあった。

空からの救いの手だ。中尉達は降下するため手には最低限の武装しかない。

そのためコンテナユニットを投下し現地で補給する。そのためだった。

 

「来たか!!援護頼む!!」

《……了解》

《まっかせて!!少尉のジャマはさせないよ!!》

《攻撃ヘリです!上方に注意を!》

《…任せろ》

《伍長は"マゼラ・アタック"を!》

《はい!》

 

軍曹がヘリを撃ち抜き、伍長は"マゼラ・アタック"を蜂の巣にする。

2人とも確実に迎撃し一機たりとも近づけさせない。鉄壁の布陣だ。

 

《やっぱり変!!》

《ウィザード01からブレイヴ03へ。どうも降下時の気圧がメインセンサーに悪影響を与えた可能性がある様です。フォローします》

《はい!やた!》

 

そして遂に中尉達の周りに8つの投下されたコンテナユニットが降り立った。

 

「損傷は伍長機だけか」

《あんたら2人のには損傷は見られん。簡易的なバイザーを護るパーツが要りそうだな…》

 

それに駆け寄った中尉が"陸戦型ガンダム"を操作、"180mmキャノン"を組み上げて行く。

 

《隊長!急いで下さい!》

《小隊長!敵の一群が向かってくる。かなりの数だ!航空機も多いぞ!!》

「かなりじゃ分からん!!つーか今まで何してた!」

《少尉は気絶していました》

 

はぁ!?ヤワな坊ちゃんだなぁ!!

つーか気絶って……。ダサっ。

 

《うぷぷ〜少尉弱っちいですね!バイザーより少尉をまもるパーツがいりますね〜》

《…訓練を詰んでいないからな…》

《日頃のトレーニングを怠るからです》

《言うなよぉ!!くっそぉ!!》

《繋がりました。上空の"ミデア"からです。隊長の"陸戦型ガンダム"へと繋げます》

《11時方向距離400!敵2!3時方向距離800!敵1!全部"ザクII"だ!》

《……了解、迎撃する》

《多いよ!弾が尽きちゃう!》

 

ザザ…っと雑音を交えつつスピーカーがなり始める。

 

《12時方向発砲炎!》

《大将!聞こえるか!!》

「はい!今組み上げてます!2丁目(・・・)が今組みあがりました!」

《よし、コンテナユニットを組み上げろ!!間違えるなよ!》

《きゃあ!!》

 

爆発音がし、伍長の悲鳴が響いた。この音は"ザクバズーカ"だ。マズい!急がなければ!!

 

「無事か伍長!!損害報告!」

《左腕がイエローです!!シールドもヤられて…うわっ!!》

《ブレイヴ03!伍長!!下がって!!》

《1時方向からまた"ザクII"だ!くそッ!キリがねぇ!!》

《…フォローする。"ランチャー"を取りに行け》

《は、はい!》

「すまん!もう少しなんだ!なんとか持ち堪えてくれ!!」

《くぅぅ、やったりますよ!!》

《……了解》

 

くそッ!!急げ!!早く!!

 

よし!出来た(・・・)!!

 

『装備 換装完了 FCS HSL 再起動』

 

「準備完了だ!アイリス01、頼む!」

《はい!》

《かましてやれ!!大将!!》

 

中尉の"陸戦型ガンダム"は急いでコンテナユニットを背負い、()()()()()()()"1()8()0()m()m()()()()()"を()()()()

 

「よぉし!!どけぇ!!」

 

"180mmキャノン"が火を噴き、軍曹が牽制射撃を行い行動制限していた"ザクI"を吹き飛ばした。

 

「……Hasta la vista, Baby(とっとと失せな、ベイビー)!!」

 

マズルブレーキから猛然と煙を吐き出す"180mmキャノン"がもう一度撃ち放たれ、煙を吹き散らしつつ伍長を狙っていた"ザクII"に直撃し、その胴体を両断した。

 

《わぁ!!カッコいい!!》

「言ってる場合か!!重た過ぎてまともに動けん!フォロー頼む!!近寄られたら終わりだ!!」

《…了解》

《はい!ええい!当たれぇ!》

《友軍到着まで残り600秒!》

《10時方向より"ザクI"2機!続いて爆撃機だ!!ヤツらめ、自軍の基地の中でもヤるのかよ!!》

「軍曹!航空機は任したぞ!!」

《…了解……》

 

爆炎の奥から姿を現した中尉の"陸戦型ガンダム"は、人の形をしていなかった。

 

片膝を立て、しゃがみ込む"陸戦型ガンダム"の背には、()()()()()()()()()3()()()()()()()()()()()()()()()

 

通常通り背負われたコンテナユニットから、両肩の後ろに張り出されるように追加されたコンテナユニットの上にはレドームが設置され、それから突き出ている長い弾帯が直接両腕の"180mmキャノン"に接続されていた。

 

これが中尉達の苦肉策。圧倒的火力による弾幕を張り敵を寄せ付けないための装備、"拠点防衛用長々距離砲撃戦特化型装備"、通称"ハルコンネンII"ユニットだった。命名は中尉自身のものだ。理由は言わずもがなである。

 

かつて、火砲をヘリで空輸し迅速に展開、短時間の集中的な火力支援を行い、終了後は反撃される前に撤退する"アーティラリーレイド"と言う戦法が存在した。しかし、今回において逃げ道は無い。なら、敵を寄せ付けず、倒し尽くすしかない。

 

両翼の大型レドームと"陸戦型ガンダム"自身のセンサー、それに"イージス"のアンダーグラウンドソナーをデータリンク、それにより流れ込む莫大な量の情報を一手に集約し"アイリス"に搭載されたコンピュータで統括し、理論上では命中率96.8%を叩き出す拠点防衛用の即席換装装備だった。

考案は伍長。理由は絶対カッコいいからというアホな理由だったが、まさか使えるとは………。

 

「パーフェクトだ、おやっさん」

《感謝の極み》

 

さぁて、反撃開始だ。追い詰められたキツネは、ジャッカルよりも狂暴だぜ?

 

「……さぁて!準備はいいか!?」

《…いつでも》

《どこでも!!》

《「ロックン・ロール!!」》

 

圧倒的火力を持って"陸戦型ガンダム"が敵を蹴散らして行く。

トーチカ、砲台、MS、攻撃ヘリ、航空機、戦車……どれも近距離からの"180mmキャノン"を耐える装甲など持っていない。

二門の砲から放たれる鉄の爆風の前に、全てがゴミ屑のように吹き飛ばされ、哀れな残骸と化して行く。

敵が怯み、引き始めた。

その隙を逃さず軍曹が"スローイングナイフ"を直撃させ、伍長も負けじとグレネードを投げ込み"100mmマシンガン"で弾幕を張り続ける。

中尉もなんとか立ち上がり、歩きつつ射撃を行う。一歩歩くたびに丈夫なコンクリートが砕け散り、脚がめり込むも気にしない。

 

《隊長!ポイントデルタ58へ砲撃を!次はポイントエコー22へ!》

「了解!!」

《小隊長!曲射で炙り出せ!》

《凄い!凄い凄い凄い!!》

《……圧倒的火力だな……》

 

伍長はコンテナユニットから"ランチャー"を引っ張り出し追い撃ちをかける。軍曹は両手に"100mmマシンガン"を構え弾幕を張っている。

そうして敵を押し込み、前線を押し上げる。中尉達はそのための橋頭堡だった。

 

この"拠点防衛用長々距離砲撃戦特化型装備"は、短時間で前線に展開出来、"ガンタンク"並みの火力を叩き出す装備として開発されたユニットだが、実は弱点の塊としか言いようのない欠点だらけの即席兵器だった。

 

元々"ミデア"の積載量なら"ガンタンク"すら空輸が出来るが、前線への迅速な展開が出来なかった。

それに"ガンタンク"はその仕様から近接戦闘に滅法弱く、シミュレーターでも距離を詰められると為す術も無く撃破される事が多かったため、この様な装備が開発される結果となったのだった。

しかし"ガンタンク"以上の自由度の高い砲戦能力があるも、自衛力は"ガンタンク"以下であり、2機以上の直掩機による援護が必要不可欠だった。

その上"ガンタンク"と違い同時に2方向へ攻撃出来るが、その砲撃のための情報処理は外部に丸投げであり、また旋回性能、機動力も劣る。

その破格の重量から地面に脚部がめり込みほぼ歩けないのだ。そこは無限軌道を履いた"ガンタンク"には安定性は遠く及ばない。足の遅さも致命的で、他の兵器と連携し行動に追従出来ないのである。

組み上げ、装備するのにも時間がかかる。戦場においてその隙は致命的だ。

"ガンタンク"と違い0距離射撃の射撃位置が低いため懐に入られ辛く、また仮に懐に入られても白兵戦に対応出来るが、その際には装備をパージする必要があるためその後の火力もガタ落ちとなってしまう。

 

つまり空挺可能な劣化版"ガンタンク"という性能なのだ。その性能はお世辞にも良いとは言えない。

その使用目的も著しく限定的だ。

 

しかし、物は使いようだった。

 

《隊長!やりました!我々の役割は達成です!》

「援軍か!」

《少尉!"ロクイチ"だよ!凄い数の!!》

《全隊!前進!!火力を持って押し潰せぇ!!》

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《こちら"ミニ・トレー"級陸戦艇"エセックス"!ご苦労だったな中尉。よくぞ持ち堪えてくれた!あとは我々に任せてくれ!砲撃続けろ!航空爆撃隊も前に出すんだ!》

「こちらブレイヴ01。貴官の到着に感謝する。これより"ブレイヴ・ストライクス"は貴官の直掩に着く」

《了解。頼むぞ》

 

中尉達の後方から飛び立った"ドラゴン・フライ"に"マングースII"が飛んで行く。弾着確認のためだろう。

中尉達の周りに"ロクイチ"の大部隊が結集、同じく射撃を加え始める。

その後ろには指揮所兼前線基地である陸戦艇"ミニ・トレー"が続き、主砲を撃ち放す。

 

防御陣地が既に瓦解し、基地内に侵入され防衛ラインがズタズタに崩され、破壊し尽くされた"グアンタナモ・ベース"に防衛力はもう残されていなかった。

 

頭上を爆撃隊が通り過ぎ、前方の基地へ大量の爆弾を投下して行く。

 

既に戦況は掃討戦へと移りつつあった。

 

「……この基地も、もう終わりだな……」

《そのようですね。もうジオン軍に戦力はほぼ残されていないようです》

《どうします?攻め込みます?》

《……必要無いだろう。航空爆撃の邪魔になるだけだ……》

「だな……」

 

スラスターを吹かし"ミニ・トレー"の真上に着地し、膝を立て射撃の構えを取っていた中尉の"陸戦型ガンダム"が立ち上がる。

ガシャン、とほぼ撃ち尽くされ、銃身も焼け爛れ曲がってしまった"ハルコンネンII"ユニットがパージされ、地面に転がった。

 

砲撃と爆撃はまだ続いている。

 

火柱が上がり、黒煙が立ち込めて行く。

 

中尉は既に"100mmマシンガン"に持ち替え、軍曹、伍長と共に"ミニ・トレー"の直掩に着いていた。"イージス"はその隣でアンダーグラウンドソナーを展開中だ。

 

こう並ぶと親子みたいだと中尉は思った。親デカすぎるけど。

コレでも"ミニ"なのだ。"ビッグ・トレー"はどうなることやら……。

大艦巨砲主義だなぁ………。

 

30分後、歩兵が突撃して行く中、"グアンタナモ・ベース"からオープン回線での投降宣言がなされた。

 

戦闘が、遂に終結を迎えたのだ。

 

そしてそれは、ジオン軍の中南米における一大拠点、"グアンタナモ・ベース"が陥落した瞬間だった。

 

「……勝った、のか………?」

《……なんか、実感湧きませんねぇ…》

《……そうですね》

《……………》

 

激戦区だった真ん中で、中尉の"陸戦型ガンダム"はずっと立ち上る噴煙を眺めていた。

 

デュアル・センサーのグレイズ・シールドに反射し、映し出された噴煙には、まだ火花が舞い続けていた。

 

『三度やって駄目だったからもう一度やるんだ』

 

 

"大君主"の名の下に…………………




空挺作戦!サイコー!!

ちなみに使用されたパラシュートパックは08小隊OPの物と考えて下さい。あっちのがカッコイイので(笑)。


遂に出ました、デンドロビウム(笑)。

現地改修魔改造の一つだと思って下さいあのトンデモ君は。
元ネタはゼク・アインで、プラス例のアレです。まんまですが。

コレは長い事考えていて、絶対ヤりたいと思ったヤツです。まぁ、それなりにイケると思います。ガンプラでやったら思いの外180mmが小さくてショボかったけど。


次回 第四十五章 見据える先の未来には

「……一発あれば十分だ……」

お楽しみに!!

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