機動戦士ガンダム U.C. HARD GRAPH 名も無き新米士官の軌跡   作:きゅっぱち

52 / 84
最近色々ゴタゴタがありました。

それでも、のんきにのんびりやって行きます。


第四十三章 刹那 from 聖永

生きる。

 

生きている。

 

ただそれだけの事が、何故こうも眩しいのか。

 

食べれるからか?

 

寝れるからか?

 

違う。人と、会えるからだ。

 

 

 

U.C. 0079 8.7

 

 

 

中尉は奪還した基地内を歩き、ハンガーへ向かっていた。

 

ジオン軍はこの基地が奪還され、他の小規模基地は爆撃に晒され消耗し、今この中南米諸島でのミリタリー・バランスは大きく連邦軍へと傾き始めていた。

 

ここの基地の陥落を聞き、多くのジオン軍基地が我々の最終目標、"グアンタナモ・ベース"へと集結している、という話も聞いていた。

 

そして、それは中南米のミリタリー・バランスを一変させ、"ジャブロー"と言う喉元に突きつけられた刃を退ける、「絶対生存権確保」のための局地的一大反攻作戦、中南米諸島奪還作戦である"一号作戦"も大詰めに近づき、決戦が近い事を同時に示していた。

 

と言ってもラクな戦いではない。

確かに物量から来る単純な戦力差は8:1だ。しかし、こちらの陸上主戦力は"ロクイチ"だ。

MSは少数精鋭、そしてその存在を敵に知らせてはならないという特殊性からまともな軍事行動を行う事が出来ないのだった。

 

そう、今まで奇策とも取れる策しか取れなかったのもそのためだった。

 

余りにも特殊過ぎるのだ。MSという存在は。戦場が変わるわけである。

 

「おやっさーん!」

「おう!大将!どうしたぁ!?」

「いや"陸戦型ガンダム"は大丈夫かと……」

「へっ!任せな。そもそも損傷を受けたのは左腕だけ、フレームはチェックしたが問題無し。後は駆動系を交換するだけだ。そこの被害担当機(ハンガー・クイーン)と比べたらマシなもんさ」

「この短時間で……やっぱ伍長機ですか……」

「あぁ、特に左腕は必ずと言っていいほど被弾して帰って来るな。もう左肩に至っては予備が無い。次被弾してすっ飛ばされたらフレームだけだ。まぁ、その心配は無さそうだが……」

「……それは、わたしが居る事を知ってて言ってるんですか……?」

「もちろん。うはははははっ!!」

「どうしたんですおやっさん!って小隊長、まだなんですか?」

「……あぁ……」

 

一昨日中尉が撃墜されかけてから、伍長は中尉のそばをほぼ片時足りとも離れなくなっていた。

 

あの後は大変だった。戦闘が終わるや否や伍長は機体を飛び出し中尉の"陸戦型ガンダム"のコクピットに飛び込んでずっと泣いていたのだ。

中尉がどんなになだめても聞かず、遂には抱き付いたまま疲れて眠ってしまった。

仕方無く伍長の"陸戦型GM"は上等兵が仮設ハンガーまで移動させ、中尉はなんとか寝ている伍長を引き剥がし部屋に寝させ、報告書を提出、反省会を行いその他諸々を終わらせたのだった。

そして寝ようと思ったら伍長がいつの間にか中尉のベッドに丸まっていた。なので別の部屋で寝た中尉だったが、起きたら何故か伍長が抱きついて寝ていたというホラーに近い状態だったのだ。

つーか呪いのビデオかよ。

宇宙世紀になってもビデオ……。俺の考えは古いなぁ……。

 

そこから伍長は片時も離れず中尉の軍服の裾を掴み雛鳥の様に着いて回っていた。

流石にお偉いさんと話す時は離れたが曲がり角から顔を半分だけ出して見ていた。

そして終わるとすぐに元に戻るというのが続いていた。

 

「いい加減にしたら伍長ちゃん。しょーたいちょーも困ってんじゃないの?」

「…少尉は目を離したら死んじゃいますからダメです」

「……いや、どうやって?」

 

死んじゃうって……。伍長の中で俺はどういう存在なんだ?

医者が見た限りやや依存が強くなっただけでPTSDとかではない、至って健康つってたけど嘘じゃねあのヤブ。

 

「うはははははっ!!いいんじゃないか!中尉もどうせ次の作戦までは待機なんだろ?一緒に居てやれ」

「と言っても機体整備を…」

「わたしも手伝いますから!」

「…いや、自分のやらにゃ意味が…海にでも行ったら?楽しいんじゃない?」

「いいんです!全くもう!!」

「あーっ!!イチャイチャしやがってこの!!」

「お前にはコレがどう見えてるんだ!?病院行って来い!!」

「うるせー!こちらとて上等兵がなぁ!!」

「私がどうかしましたか?ところで軍曹を見かけませんでしたか?」

「…………向こうで機体整備やってるよ……」

「はい。分かりました。ありがとうございます。では…」

 

少尉、件の上等兵は来て速攻で軍曹とこ行ったぞ?やっぱ歯牙にも掛けてもらってなくね?何があと一押しだこのアホ。

多分また相談か意見交換だろうけど。

面白そうだから言わないでおこう。

 

「………………」

「………………」

「……………………なんだよ?」

「……………いや…………?」

「………ぶっ!うはははははっ!!」

「あはははははははっ!!」

 

負のオーラを撒き散らす少尉を見て爆笑する2人を囮に、中尉はこっそり場を離れようとする。しかし裾がくいっと引かれ伍長が気付いたのでそのまま着いてくる。

まぁ、仕方が無い、か………。

 

「伍長、機体整備を手伝ってくれ」

「はい!任せて下さい!」

 

機体によじ登る。下ではまだおやっさんが爆笑し、少尉は体育座りになっている。それに蹴りを入れるおやっさんと整備班達。泣きっ面蹴ったりとはこの事か。

 

「あり、中尉?今日も彼女同伴ですか?」

「そんな…彼女なんて照れますよ……えへへ…」

「コレがそう見えるならいい医者を紹介するよ。それに伍長、誤解されるような物言いは辞めとけ。困るのは伍長だぞ?」

「パイロットは古今東西モテますからねぇ~羨ましい限りですわ」

「本当っすよ!中尉は"キャリフォルニア・ベース"の時から……くそぅ!!」

 

そんな事は無かったろ。軍曹はモテてたけど。イケメンだしな。

 

「…からかいたいだけなら辞めて下さいな。きっと整備班達の方がモテますから。

きっと隠れて……見てあの上腕二頭筋!すっごいセクシーよ!とか言ってますよ多分」

「……そうなのか伍長?」

「「マジか!?」」

「えー、そういう人もいると思いますよ?多分」

「「…………我が世の春がきたぁぁぁぁぉぁぁぁぁああ!!!」」

「お薬出しときますねー?虹色のやつ」

 

突然集まって来た整備班達がそれだけを聞いて叫びながらまた散って行く。

伍長も俺のテキトーな意見に同意するなよ。どうすんだコレ?

 

コレで失恋とかされても困るなぁ……。連邦軍初のMS部隊は整備班達の失恋のショックから稼働率が低下し全滅したとかシャレにならん。

 

めんどくさいので整備を続ける。伍長は工具箱を抱えその隣でニコニコしている。

伍長は銃の分解整備すら満足に出来ないので、このように工具箱を持って工具を渡す係だ。それでもメカはやっぱり好きなので目は輝いている。そしてこれを機に少しは出来るようになって欲しい。

 

「…伍長、なんで俺が死ぬと思うんだ?」

「少尉はムチャばっかしますから!わたしが見てないといけません!!

少尉は自分の命を軽く見過ぎです!!生き延びたいと言ったのは少尉なのに!!全くもう!!」

「うーん…」

 

確かになぁ……やっぱハイだったんだろう……。

………でも、本当に、俺は生きたい、生き延びたいと思っているのか?

 

「伍長、安心してくれ。そんな事は無いから」

「いーえ!ダメです!これは軍曹にも頼まれたんです!!」

 

原因はそれかぁぁぁあ!!!

口先だけでごまかそうと思ったのに!!

 

「……多分それはずっと見張ってろって意味じゃないだろ?伍長も大変だろ?」

「わたしは構いません!」

「……俺が構うんだよ!伍長が無理してもダメだ。伍長も自分の所為で大切な人が体調を崩したら嫌だろ?そんなのは俺は嫌だぞ?」

「うーん、そうですねー。でも!今日一日は見張ります!わたしも少尉といるのは……その……楽しいです、から………」

「はぁ……構わんが……」

 

だから勘違いするような事言うなって。

俺にとっての伍長ってなんなんだろうなぁ……。伍長にとっての俺も。

 

「そういえば少尉、"100mmマシンガン"、威力足りないと思いませんか?」

「そうか?俺は"ザクマシンガン"よりは命中率は高いし、ストッピングパワーも十分だとすら思うんだが?」

「うーん、倒すのに時間がかかるじゃないですか。もっとドババババって倒せる武器が欲しいんですよねぇ…敵を逃がしても困りますし……」

「確かに、決定打にはかけるよな……"ゴッグ"にはやはりと言ってはアレだけど効かなかったし………一応打診はするが……次の作戦が終わったら、休暇に補給があるって言ってたし、その時にでも……」

「………うーん……あっ!!アレ(・・)なんかいいかも!!うふふ……」

 

そう、部隊内ではこの話題で持ちきりだった。やはり目の前のニンジンに弱いのは馬だけでない。

伍長ニンジン嫌いらしいけど。前食堂でニンジン要らないよ!って言って山盛りにされてたな……。

 

「そうですよねぇ~。休暇……うふふ…」

「俺らには無いぞ?」

「えぇっ!?なんでですかっ!!」

「…なんでそんなに休暇が欲しいのか分からんが……東南アジアに飛ぶらしいからな……新装備の受領もあるし……伍長お待ちかねの正式採用の"バズーカ"だぞ?」

「そんなぁ………でも新装備………うぅ……」

「……ま、まぁ…寄港地には少し出て歩いたり出来るかもよ?」

 

なんか伍長が身悶えしている。

新装備と休暇の狭間で揺れているらしい。

休暇っつってもなぁ……故郷に帰れるワケでもねぇし……俺はどうでも……。基本パイロットになってからは休み時間長くて多いしなぁ……。

 

でも火力か……確かに次の作戦にも必要だなぁ……今度作戦会議でおやっさんと相談しよう。

MSに"カチューシャ"見たく"ランチャー"引っ付けて並べるか?でも汎用性が……。ある程度の連射性能も欲しいし……。継戦能力がなぁ…。

 

その時ベルが鳴った。昼食の時間だ。溶けていた伍長がバッと顔を上げこっちを見た。うん。この切り替え、見習うべきだな。

 

「少尉!!お昼ですよ!お昼!!食べに行きましょう!!」

「分かった分かった。軍曹達も誘おうか」

「早く早くー!」

「そう焦るなって。逃げやしないから」

「逃げますー!ご飯は逃げるんです!!」

「マーリンの髭!……そんな蛙チョコみてーな昼飯は食いたく……いや、案外イケるかもな」

「軍曹ー!上等兵さーん!おやっさーん!お昼ご飯食べに行きましょー!!」

「……そうだな」

「はい。そうしましょうか」

「おう!野郎ども!飯行って来い!」

「「おう!!」」

「……俺だけ名前呼ばれんのはデフォなのかね……」

 

…………忘れてた………。

さっきあんないじったのに……。

 

「そ、そんな事無いんじゃないか!?」

「まぁ影薄いのは確かだがな!うはははははっ!!」

「……そうだな…」

「それには同意ですね」

「えっ、しょーいいたの?ごめんね?」

「……うぅ、みんなのバカ~ん!!」

 

走って行ってしまった少尉を見送り、5人は食堂へ向かう。なんかいじられキャラが定着しつつあるな。

 

「次の作戦、どうしますか、おやっさん」

「取り敢えず持てる武装は全部使っていいが……」

「運搬や移動なども考慮に入れませんといけませんね」

「……"グアンタナモ・ベース"は航空基地だ……MSは、対空戦闘はあまり得意でない……」

「……戦術オペレーターとしては、この作戦、MSを活かすのは…」

「今ある装備で、か……」

 

食堂で食券を買う。中尉はキツネうどん、軍曹はMREレーション、上等兵とおやっさんは日替わり定食、伍長はまたもカツカレーだった。

 

「軍曹…こんな時までレーションを食べなくても」

「……いや、好きなんだ……」

「えぇぇ?そんなのがですか?」

「仮にも食べ物にそんなのとか言うなよ…」

「そういう大将も仮にもとか言ってるからな」

 

いや、美味しくないし……アレは食べ物に対する冒涜だよ。

つーかんなもん食ってなんで美味い料理作れんの?

 

食券を交換し、昼食を持って机に着く。

少尉は向こうでやけ食いに早食いをやっている。周りも大声で囃し立てていた。

若さっていいねぇ……。

 

「伍長今日もカツカレーか?」

「はい!昼食はいつもカツカレーです!」

 

何がそんなに伍長を惹きつけるのか……いや、美味しいけどさ…。

食堂のおばちゃんからカツカレーの子って呼ばれてんの知ってんのかね?

 

「……"一号作戦"の最終目標…か…」

「潰せますかね?流石に大規模な基地ですから空海陸と波状攻撃を仕掛けるらしいですけど」

「そーいや、あの中佐も参加するんだとよ。顔は合わせられんが」

「あぁ!あの!……提督と呼ばれてたのが懐かしいですねぇ。航空戦力は"アンデス"からかぁ…」

「あー……はー、艦のご飯は美味しかったですよねー」

「……隊長は何者なのですか?」

「うん?ただの新米中尉ですけど……」

「……当時はまだ少尉だったな……」

「なんで少尉が提督を……ゲームじゃあるまいし……」

「……ゲームでもありえねぇよ。まぁ、一日提督だろ」

「少尉はすごいっ!って事ですよきっと」

 

違うと思う。うん。それはない。

 

「あー伍長カレー付いてる」

「伍長、お口の横にカレーがついてますよ?」

 

声がハモった。因みに軍曹とおやっさんはナプキンを差し出す行動が被っていた。

 

「……わたしってどう思われてるんですか?」

「……手のかかる孫娘?」

 

とおやっさん。おやっさん娘が居る事は聞いてるけどまだそんな歳じゃないやろ。

 

「……娘がいたらこんなのか、と……」

 

と軍曹。軍曹25だろ。まぁ腕立てん時の目とかマジでそうだったよな。

 

「可愛い妹ですかね?」

 

と上等兵。そうだね。端から見てたらどう見てもそうだよ。似てないけど。

 

「右に同じだな」

 

中尉も続く。正直そんなものだった。兄しかいないから弟か妹がいたらこんなのだろうなと。

 

「……うぅ…いつかはお姉ちゃんと呼ばれる立派なレディーさんになりたいです……」

「応援していますよ?頑張って下さい」

「はい!」

 

ヘコんだ伍長の頭を上等兵が撫で、速攻で機嫌がなおってカレーを口に運ぶ伍長。それを見て当分は無理だなと思う4人だった。仔犬みたいだと思ったのは秘密だ。

 

「そーいえば海沿いでしたよね?"ゴッグ"もまた出るんですかねぇ?だったら"ロクイチ"じゃ勝てませんよ?MSでも嫌です」

「……その可能性は、十分にあると見ていいだろうな……」

「"ランチャー"追加生産だな。うん」

「……そろそろ死人が出ませんか?」

「……"ゴッグ"……あの突っ込んで来た水陸両用MSですね?前はよく見えませんでしたが……」

「アレは手こずりましたよ。殺されかけましたし」

「わたしも逃げ回ってました!」

「……155mmを喰らわしても、怯みすらしなかったな………180mmなら一撃だが……」

「……それは、大変でしたね……」

「全くだ。あの時も"ザクII"を大破させやがってに…アレ"ゴッグ"の残骸からパーツ取りしたんだぞ?」

「今さらっとトンデモない事を!!」

「……いつも思うのですが整備班長も何者なのですか?」

 

食べ終わり雑談を続ける。軍曹がどこからかコーヒーを淹れて来た。手に雑誌も持っている。

いや、美味しいけどどこから?それに食堂にいる時は食堂のコーヒー頼もうや。

 

その時アナウンスが流れた。呼び出しだ。

 

「……来たか……」

 

"アナハイム・ジャーナル ルナ・コーヒー特集"から軍曹が顔をあげつつ言った。

しかし伍長は"ガンクラブ 特別号"から顔を上げなかった。左手もコーヒーを探しうろついている。

 

「コーヒー、飲んでからにしましょう」

「だな」

「はい!ヤケドしても嫌ですしね」

「…………アレ?」

 

立ち上がった俺らがおかしいのか?

 

「……行かないのか…?」

「…これだけ、これだけは飲ませて下さい」

「そーですよ少尉!英国紳士はティータイムを大切にするんですよ!」

「そうだな伍長。それは正しいぞ?」

「どっからツっこみゃいいんだよ!!」

 

戦争って、なんだろうな………。

 

それでも、俺は、この一瞬を大切にしたい。

 

いつか終わるやも知れぬ、この時が、永く、続きますように。

 

 

『笑って、泣いて、また笑う。それが、人間だから』

 

 

そして、決戦へ……………




遂にカリブ海激闘編、大詰めです!!

最近どのキャラも勝手に一人歩きし始めてしまいました……。何処へ行こうと言うんだ……。

外伝と言えば、ガンダムサイドストーリーのゲームが発売されますね!
セガサターンからやってた身としては楽しみです!
広がれ!ガンダムワールド!!

おやっさんはザクのパーツをゴッグから取ったと言ってますが、同じジオン製MSとはいえザクはジオニック、ゴッグはツィマッドなので結構無茶やってます(笑)。

執筆は進んでいますが、色々あったため、ゆっくり投入する事にしました。ご了承下さい。
これからも一週間一本ずつくらいにして行こうかと。
のんびり楽しんで頂けたら幸いです。


次回 第四十四章 グアンタナモ・ベース攻略戦

「……また、朝が来た」

お楽しみに!!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。