機動戦士ガンダム U.C. HARD GRAPH 名も無き新米士官の軌跡   作:きゅっぱち

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世界から見た日本、日本人ってどうなのですね?

自分は日本で生まれ育った事に物凄い幸運を感じていますが……。

世界で続いていた紛争が、日本でも表面化し始めている今こそ、日本人は世界と向き合うべきだと思います。


第四十二章 セントジョンズ湾岸基地攻略

新しい時代には、新しい風が吹く。

 

人は流れに乗って生きる生き物だ。

 

その適応力には目を見張るものがある。

 

『最新』とは、次の瞬間にでも『過去」となり得る不安定な存在だ。

 

しかし、その与える影響は計り知れない。

 

ホンの些細な事が、大きなブレイクスルーになり得るこの世界で、

 

人は、今日も生きている。

 

 

 

U.C. 0079 8.4

 

 

 

本部(CP)より各隊へ。作戦開始時刻まで5分を切りました。各部隊、用意はよろしいですか?》

「こちら"ブレイヴ・ストライクス"、準備完了。隊員の士気旺盛。いつでも行けます。どうぞ」

《こちら"ロクイチ"隊(アルファチーム)、準備よし。どうぞ》

《こちら"ナナヨン"揚兵隊(チャーリーチーム)、右に同じ。どうぞ》

《こちら"ファンファン"隊(デルタチーム)、エンジンは温まってるぜ?どーぞ》

「CP了解。そのまま待機を続行せよ」

《「了解!!」》

 

背中にコンテナユニットを背負った"陸戦型ガンダム"のコクピットで中尉が答え、チューブゼリーを啜る。

始めての大規模作戦だ。今回の前線指揮は"イージス"もといCP(コマンド・ポスト)に一任しているが、それでも最終的な判断を下すのは中尉の役目だった。

 

うん。こいつも美味い。やっぱレーションは美味くなくちゃ。

 

中尉の機体のコクピットの格納スペースには飴、カロリーメイト、チューブゼリーで一杯だ。

本来は個人携行火器や緊急医療セットなどが入っているはずなのだが、それらのスペースを削ってまで入れてあった。実は中尉の楽しみになっていたりする。

 

中尉の"陸戦型ガンダム"の背部に装備されたコンテナユニットには今回の目玉装備である"ガンダム・ハンマー"が格納されている。

手持ちはいつもと変わらない"100mmマシンガン"とグレネードだが、"スローイングナイフ"は腰部背面、シールド裏、肩部裏に分割し装備してある。

特に腰部背面はグレネードもあり、シールド裏も"マルチランチャー"ユニットがあるためもはや武器庫と化している。腰部前面にも"スローイングナイフ"とグレネードだ。

これは機体各部にあるハードポイントのテストとそれらを自由に使いこなせるかのテストとなっている。

 

伍長の"陸戦型GM"もコンテナユニットを背負っている。

新しく装備されたバックパックユニットのテストを兼ね、中には気合で大量生産された"ランチャー"が8発も格納されている。

そのうち何発が地面を抉る事になることやら………。そして今何人の整備班がぶっ倒れているんだろう……。

 

軍曹の"陸戦型GM"のコンテナユニットには"180mmキャノン"が格納されている。

今回は完全な後方支援射撃のみなので手には予備のマガジンのみだ。

というか全身のハードポイントに予備マガジンを装備しており異様なふいんき(←何故か変換出来ないw)を纏っている。

 

今回は全身のハードポイントにあらゆる装備をし、それを外しながら戦うためバランサーや機体重心の傾き、モーション・パターン、歩行モードなどの切り替えなどのバランス調整テストも兼ねている。

テストばっかで内心めんどくさい。

つーか兼ね過ぎだろ!!いっぺんにやろうとするなや!!しかも実戦で!!

まるでモルモットだぜ。生きて帰れるかなぁ……。

全く、出資者は無理難題を仰る……。

 

MSはその汎用性の高さから、手持ちの武装を交換する、捨てる、拾うなど柔軟な行動が出来る分、全てが全て違うためその度コンピュータがモーションの最適化を図り計算し直しているのだ。

それはモーションにも反映されるため当たり前と言ったら当たり前だ。

人間で例えるなら、全身に重りをつけた状態とつけてない状態、半袖半ズボンと長袖長ズボン、手に重さ4kgのダンベルと重さ10kgの鉄パイプでは同じ動きは出来ない事と同じだ。

 

MSは武器装備が変わるたびその都度モーションの最適化を図るため、そのエラーを出さないためのテストだった。

 

そのためあらゆる装備を全身に装備し歩く武器庫状態と化したワンマンアーミーというかコマンドーというかメイトリクス大佐と言うかのMS隊の3機は既に人型というシルエットから激しく逸脱していた。

しかしこれでも比較的ガンガン動けるのは連邦軍脅威のメカニズムである。

流石"ガンダム"だ。何ともないぜ!!

 

「……んなワケねーだろぉ!!重いわアホ!!」

《でもロマンです!!》

《だよな!!分かってるなー伍長ちゃんは!!》

「分かるよ!!追加スラスターユニットがあれば俺も文句は言わねーよ!!」

《……はぁ……》

《隊長が高機動戦闘を好むのは知っていますが……我慢して下さい》

《うははははっ!!大将!そんな装備で大丈夫か?》

《………一番良いのを頼みます………》

《大丈夫だ!!問題無い!!あはははは!!》

《伍長ちゃんテンション高いなー!しょーたいちょー殿も見習えよなー!》

《……………》

《……元気出してください隊長》

 

そう、機動力は嵩んだ重量がたたり65%程度となっている。そりゃ"ザクII"と比べりゃそれだけの低下で済むというのはかなりのもんだけどさ……。いや、今から水中歩くんですけど………。

こりゃフレームや駆動系も……帰ったらまた即オーバーホールだ……。

おやっさん達死んじゃうって……。

 

《イイじゃねぇか……俺たちの"ロクイチ"と比べりゃそれでも早いぜ?》

「荒地で90km/hを叩き出すMBTが何言ってるんですか……」

《アンタ達がこの作戦の命運を握ってんだ、がんばってくれや》

《はーい!!頑張っちゃいますよー!!》

「努力はしますが……」

《元気がいいねぇ嬢ちゃん!そういう奴は大好きだ!どうだ!弟の嫁に来んか!?》

《私には運命の人が居るのでダメでーす!!》

《いいよなーソレかっけェじゃん!!交換してくれよ!!》

《痛い!!痛たた!!暇だからって肩蹴らないで!!》

《あ?電話?オーガスタから?分かった今でっから》

《誰かー"う"から始まる言葉プリーズ!!》

《上等兵!コーヒー淹れようか?》

《淹れてあるならいただきますがまだなら必要ありません》

《あっぴゃぁ~ふぅーっ!!》

《くそー俺も欲しいぜMS!!あったらジオンの野郎を蹴散らしてやるのに!!》

《あーあー、本日は晴天なれど波高し》

《頭ならイイって話じゃないです!!》

《カレー食いてぇ!!》

《なら俺ラーメン!!もうレーションは飽きたぁ!!》

 

う、うるせぇぇぇぇぇ!!!

大騒ぎが始まってしまった。

オイ、どーすんだこれ?皆が皆一斉に好き勝手喋るから通信がパンクしかかってっぞ?

軍曹に至ってはHQとMS隊以外の通信カットしちゃってるし!!

途中からは叫ばなきゃ負けみたいな雰囲気になってない!?聞いてねーよおめーらの昨日の晩飯なんぞ!!

 

《時計合わせ、5、4…》

 

その言葉が聞こえた瞬間ピタッと通信が止んだ。

流石プロ。腐ってもプロだった。腐り切ってる可能性もあるが。主に脳が。腐っても発酵とは言えないレベルで。

 

《…2、1…作戦、スタート。これから通信はレーザー通信による暗号回線に切り替える。ミノフスキー粒子散布開始》

「こちらブレイヴ01了解」

《アルファ1了解》

《チャーリー1了解》

《デルタ1了解》

《CPより各機、作戦通りに行動を開始。"ブレイヴ・ストライクス"の2機を主軸に前進せよ。ASAP(可及的速やかに)

「ブレイヴ01より各機へ!しっかり着いて来いよ!!」

《《了解!!》》

 

MS隊3機を先頭に部隊が移動を始める。目標の敵基地は密林を抜けた先の海岸の、対岸の島だ。

 

「海岸線までは5分を予定。各機、警戒を厳となせ。特に上方警戒を怠るな」

《……少尉、重い……》

《…無理は、するな…慎重に行け……》

《おおぅ、南国だなぁ~》

《あ、おさるだ!おさる!!》

《作戦行動中です》

《《すみません……》》

 

遠足気分がぶり返した隊員へ向け、上等兵の地の底から響いて来たような底冷えする声が黙らせる。怖い。

さっきのも結構怒ってたんだろうな。きっといつもとかわらない無表情なんだろうな。それがもっと恐ろしいんだが。

 

倒木を蹴ったくり、腐葉土を踏みしめ"陸戦型ガンダム"は進む。時折鹵獲した"ヒートホーク"で木を伐ったりもする。手のひらのコネクターを合わせる時間が無かったため、充電式で使い捨てだ。

 

今回はMS用(かんじき)("ザクII"の足裏を模している。本来の用途と違い、偽装工作用)は履いてきていない。

その分やや歩きやすかった。

 

《CPより各機、海岸線(作戦ポイント)に到着。部隊を2分し、A分隊はMS隊と行動し、B分隊は迂回し挟撃を実行せよ。散開(ブレイク)!》

《《了解!!》》

 

"ロクイチ"が"LCAC"に乗り込み始める。"ナナヨン"に"ファンファン"はホバークラフトなので必要無い。

 

《ブレイヴ02、コンテナを投下、収納された"180mmキャノン"を取り出し組み立て始めて下さい》

《…了解》

 

軍曹の"陸戦型GM"が膝立ちをしコンテナユニットを外す。

 

投下されたコンテナユニットが圧搾空気を排出しながらハッチを開き、中から分解された"180mmキャノン"が顔を出した。

 

このようにYHI製はこのコンテナユニットによる運搬が可能だ。もちろんこの手持ちの"100mmマシンガン"もだ。

現在さらに"100mmマシンガン"用の給弾ユニットとなったコンテナユニットも開発中との事だった。

 

手早く軍曹が"180mmキャノン"を組み上げ、肩に担ぎ射点へ移動を開始する。軽くなっていいなぁ。

 

《アルファチームが全機"LCAC"に載りました。ブレイヴ01、ブレイヴ03は行動を開始して下さい》

「了解!出るぞ!!」

《海へGO!!》

《半裸でか!!》

《はい!海と聞いて水着です!!》

《《うおおおぉぉぉぉぉぉ!!!》》

《静かにして下さい》

《《…………はい……》》

 

バカだ。バカしかいない。MSは完全密閉型コクピットだっつうの。マーシィドッグじゃねぇんだから。

みんなノリがアメリカンだなぁと思ってよく考えたら日本人俺だけだった。ヤックデカルチャー……。

 

中尉は"陸戦型ガンダム"を走らせ、スラスターを利用し跳躍、水に飛び込む。

伍長もそれに続き、水を掻き分けながら歩き出す。

 

《A分隊はMS隊に追従せよ。決して隊列を崩すな》

《《了解!!》》

 

B分隊が迂回し離れて行くのを見、前を睨み直す。

既に水深は腰まである。機動力もかなり落ちている。

 

《ところで伍長、本当に水着なのか?》

《はい!この後泳ごうと思って!上から軍服着てますけど》

《…………》

 

比較的マジにアレだった。大丈夫かなこの子。主に脳が。沸いてんのかな?脳が。

 

《前方より敵機多数!警戒して下さい!》

「! ブレイヴ01エンゲージ!!ブレイヴ03!離れるな"100mmマシンガン"で牽制しろ!敵を近づけさせるな!」

 

セーフティ解除、FCS起動、マスターアームオン、メインアーム、レディ。

セレクターを変更、"ア"から"レ"へ。これで、いつでも戦える。

 

《りょーかい!見てて下さい!やって見せます!》

「デルタチーム!ミニガンで追い払え!"LCAC"をヤらせるな!」

《了解!!さぁ来い雑魚ども!!》

 

敵機は多数の"シーランス"だった。ロケット砲と魚雷で武装しているようだが、この状態ではMSに勝てる要素は速度しかない。

しかし装甲の薄い"LCAC"や"ナナヨン"をヤられたらマズい。

おそらく一溜まりもないだろう。

 

シールドを構え、前進は止めず"100mmマシンガン"を撃つ。シールドに機銃弾が着弾するのをセンサーが捉えるが気にしない。"ザクマシンガン"の120mm弾をもストップするルナ・チタニウム製のシールドの前に、その程度の攻撃など豆鉄砲以下だ。

 

"シーランス"は高速ホバークラフトだ。その速度は不安定さの上に脆くあるに過ぎない。

つまり、大口径の弾丸なら当たらなくでも十分だ。

 

ばら撒かれた100mm弾が近くを通るだけで"シーランス"はバランスを崩し海面に叩きつけられ激しくスピンする。

また大きな水柱に突っ込み水没する物も出た。複数機が巻き込まれ、それに接触しさらにクラッシュしている。軍曹の"180mmキャノン"だ。

 

海面を撃った弾丸の起こした波に攫われる物、直撃し大破する物、"ファンファン"の7.7mm4連装ミニガンで蜂の巣にされる物……。

 

瞬く間に"シーランス"はその数を減らし、射程距離に近づく前に全滅していく。

 

対岸で火柱が上がり、"シーランス"がまたも吹き飛んだ。軍曹がドッグに弾丸をブチ込んだらしい。

 

「助かった!軍曹ありがとう!」

《…問題無い。今の内に接近を…》

「了解!」

《B分隊が前進を開始。付近に敵影は確認出来ず》

《…………!》

 

その時軍曹が"180mmキャノン"を発射、海面が爆発し、敵MSのパーツ(・・・・・・・)が飛び散った。

 

まさか………!

 

《隊長!!"ゴッグ"です!!》

 

上等兵の声が早いか、爆発による水柱の近くから"ゴッグ"が頭から向かって来た。水面を滑空してくる!!

 

「伍長!!援護!!」

《はいっ!!》

 

"100mmマシンガン"を撃つも、ストッピングパワーが足りなかった。そのまま突っ込んで来やがる!!

くそッ!格闘戦に持ち込む気か!!

 

《隊長!!》

 

中尉の"陸戦型ガンダム"の目の前に着水した"ゴッグ"が、その特徴的な"アイアンネイル"を振り上げた。

伍長は誤射を恐れて射撃出来ない。

地上より早い!回避は間に合わない!

 

「!」

 

"ゴッグ"の"アイアンネイル"に"180mmキャノン"の砲撃が直撃する。軍曹の"陸戦型GM"だ。胴体は中尉の"陸戦型ガンダム"に隠されて狙えない為、激しく振りかざされる"アイアンネイル"に、針の穴を通す様な精密射撃をお見舞いしたのだ。

しかし、硬質金属製であり、"アイアンネイル"の鋭利な先端ではなく、基部の丸みを帯びた部分に直撃した徹甲弾は、激しい音と火花を撒き散らしはじき返されてしまった。

 

「っ!ふっ!!」

 

しかし、軍曹の狙いは正確だった。彼は、今自分が出来る最大限の事で最良の結果を叩き出す事に長けていた。そう、正しくその一瞬だけで十分な時間だった。中尉は咄嗟に左手で"ビームサーベル"によるカウンターに近い抜刀斬りを行い、振り上げられた"アイアンネイル"を到達前に斬り飛ばす。

"ビームサーベル"の溶断能力に助けられた!!

"ヒートホーク"や"ムラマサ"ならヤられていた。

 

「ニーカッター!!」

『ニーカッター レディ』

 

叫びつつ"ゴッグ"のコクピットへスラスターを噴かした飛び膝蹴りをブチかます。

展開された"スローイングナイフ"が装甲を抉り、コクピットに突き刺さる。

 

「下がれ!!」

 

コクピットを潰され、水飛沫を上げながらゆっくりと水中へと倒れ伏した"ゴッグ"から、"陸戦型ガンダム"がスラスターを噴かし飛び上がりつつバックジャンプする。

 

眼下では突き刺さった"スローイングナイフ"の遅延信管が作動、爆発し"ゴッグ"の魚雷に引火、激しい水柱と成り果てた。

ちょい……マズかった……。

 

「……はあっ…はぁっ……!!」

 

再び着水し、大きな水しぶきが上がる。

 

《隊長!…良くぞご無事で……》

「…"陸戦型ガンダム"(コイツ)でなければヤられてましたよ……ブレイヴ03、損傷は無いな?」

《あっ、はい!少尉も……よかったぁ………》

《付近の反応は消失しました》

「よし!前進だ!軍曹もありがとう。助かったよ」

《……構わない…》

「総員!続け!!」

《《了解!!》》

 

"ゴッグ"はなんとか退けた。数が少なくて助かった…………。

 

ある程度接近できたその時、対岸でまた動きがあった。

 

地面の一部がせり上がり、回転する。こちらに向くのは黒く輝く砲口だった。

 

《セントリー・ガンの起動を確認!!A分隊は散開(ブレイク)!!軍曹!軍曹だけが頼みです!お任せします!!》

「聞いたか!散開だ(ブレイク)!」

《《了解!!》》

 

言い終わるやいなや中尉の近くにも着弾、大きな水柱が立ち、機体が揺さぶられる。

 

《隊長!》

《少尉!?》

 

なんで俺ばっか!?今日は厄日だ!!

 

「俺は無事だ!問題無い!ブレイヴ03!ランダム回避運動を止めるな!ヤられるぞ!」

《は、はい!!》

《いやっはー!》

《野郎ども!!波に乗るぞぉっ!!》

《いっえーい!!》

 

立ち上がる水柱を果敢に掻き分け、ランダム回避運動を取りながら前進する中尉の後ろでは、突然のビッグウェーブに乗り出したバカしかいなかった。下手すると転覆するというこの事態に何をしてるのか?

恐怖を抑え込むにも他にあるだろ!!

 

ダメだこいつら。脳が。

腐ってやがる……早過ぎたんだ……。

 

《デルタチームは先行。アルファチーム、チャーリーチームは黙って口をつぐめ》

「伍長!チャーリーチームのフォローに!俺はアルファチームのフォローに入る!!」

《りょーかい!!着いて来てー!》

 

その時中尉はメインモニターの奥で砲台に弾丸が突き刺さり吹き飛ぶのを見た。

そんな事が出来るのは、ここに1人しかいない。

 

「軍曹か!!」

 

A分隊を2分し、対岸へ向かい始める中尉と伍長、騒ぐアルファチームとチャーリーチームというカオスの中、その遙か後方で軍曹は機体を膝立ちで固定、シールドを地面に突き刺し銃架として冷静に狙撃を続けていた。

 

砲台が一つ、また一つと吹き飛び、弾幕に勢いが無くなってくる。

軍曹は精密な狙撃に向かない"180mmキャノン"で既にトーチカの半分を吹き飛ばしていた。一発も外していない。

マグチェンジと焼け爛れた銃身の交換を行い、狙撃を敢行する。

本来戦場での銃身交換は想定されていないが、それをしてもなお命中率は下がっていない。

 

《B分隊より入電。予定経路の半分を進んだとの事です。合流予定時刻は20分後です……隊長!今です!》

「了解!伍長!俺に続け!」

《はい!!》

 

2機のMSがスラスターを吹かし跳躍する。水を吹き上げ、その軌道に虹を描きながら中尉と伍長は宙を舞う。

"ザクII"などには不可能な、大推力があってこその無茶な芸当だった。

 

飛翔し、同時に敵基地内で着陸(・・)する。

 

「キャスト・オフ!!」

 

中尉の言葉に反応した"陸戦型ガンダム"が全装備のロックを解除、地面にばら撒く。その隣で伍長は援護射撃を行う。

 

《隊長!前方からMS3機です!形状から"ザクII"だと思われます!》

「了解!伍長!フォローを頼む!"新兵器"を試すぞ!」

《お任せあれ!!見せてもらいましょうか!新しい兵器の性能とやらを!!》

 

コンテナユニットから引き摺り出した"ガンダム・ハンマー"を両手で構えた"陸戦型ガンダム"が、右手で大きく"ガンダム・ハンマー"を旋回させ始める。

 

「……うおおおぉぉぉぉぉぉ!!!おぉりゃぁぁぁぁあ!!!」

 

伍長の弾幕に推され、無我夢中で走り敵機に接近した"陸戦型ガンダム"が回転させて溜め込んだ"ガンダム・ハンマー"の運動エネルギーを開放する。

中尉は無防備な状態で敵部隊に突撃するという恐怖から、気がついたら叫んでいた。もうめちゃくちゃだ。

 

ギャリギャリガャリガガゴガガガゴッッッッ!!!!

言葉では言い表せないような金属を激しく擦る音と共に激しい火花を撒き散らしながら"陸戦型ガンダム"の右手から放たれた"ガンダム・ハンマー"が先頭の"ザクII"に直撃した。

 

ギャガャグシャッッッッ!!

右肩のシールドを向け防御姿勢をとったはず(・・)の"ザクII"は、シールドがひしゃげ右腕は肩ごと千切れ飛び、胴体を激しく押し潰されながらもなお運動エネルギーを消費し切れず、後ろにいたもう一機の"ザクII"を巻き込み吹き飛ばされた。

 

あまりの衝撃に砕け散り、弾け飛んだ装甲がバラバラになり、辺りに四散するのがスローモーションで見えた気がした。

 

昔の人はいい事を言う。『レベルを上げて物理で殴ればいい』。まさにその通りだ。

 

「………っはぁっ、はあっ……!」

《少尉!!》

「ッ!」

 

あまりの威力に目を奪われていた中尉は、伍長の言葉で現実に引き戻され、反射的にペダルを踏み込み後方へスラスタージャンプを行っていた。"ガンダム・ハンマー"は既に放棄している。巻き取る暇などありはしない。

 

中尉の"陸戦型ガンダム"の左腕のシールドを"ザクマシンガン"が捉える。

 

シールドに着弾し、左腕に跳弾する。撃たれたのは徹甲弾らしい。反射的にサブモニターに表示されたダメージリポートを見る。ショット・トラップによって間接部に受けたのは誤算だったが、損傷は軽微だった。

 

《隊長!ご無事で!》

《危なかったぁ!よかった!!心配かけないでください!!》

「すまない!」

 

中尉は伍長に駆け寄り、その傍のウェポンラックから"ランチャー"を取り出し、倒れ込んだ"ザクII"2機に向かってブチ込んだ。その傍では伍長も弾の切れた"100mmマシンガン"を捨て"ランチャー"を掴み引き延ばしにかかっていた。

 

大破炎上する"ザクII"の煽りを受けたもう一機の"ザクII"に、中尉が撃ち切ったランチャーチューブを投げつける。

 

「今だ!」

《はい!当たれぇ!!》

 

中尉の投げたランチャーチューブを打ち払った"ザクII"に、伍長が"ランチャー"を撃ち放つ。

 

「ここで外すか!?」

 

外しやがった!!どこ狙ってんだ!!

しかし、2発の火球が"ザクII"に直撃し、煙を噴きながら倒れ伏した。

 

『俺たちの事、忘れちゃいないか?』

「助かりました!次は砲台だ!」

《はい!今度こそ外しません!》

「CP!他のMSは!?」

《こちらCP、5機!いや4機……残り3機です!》

《…射線軸から逃げられた。中尉、頼む》

「了解!揚陸隊は侵攻を開始しろ!デルタチームは回り込め!」

《了解!"ファンファン"乗りの力をご覧あれ!》

 

砲台へ向かって足元の"スローイングナイフ"を拾い投げつけ爆破しつつ伍長に声をかける。伍長もしっちゃかめっちゃかに"スローイングナイフ"にグレネードを投げつけていた。砲台とトーチカが施設と離れてて良かった。伍長に手加減はムリだ。

 

「ブレイヴ03!ここで残りの砲台を潰しつつ揚陸隊を援護しろ!!俺はMSを潰す!」

《はい!!まっかせて!少尉もムリしないで下さいね!!》

《あぁ!》

 

あの距離からMSを潰した軍曹の狙撃技術に戦慄を覚えつつ装備を整える。

 

と言っても"100mmマシンガン"を拾うだけだ。後は伍長があらかた使ってしまっているし、"ガンダム・ハンマー"はもう使いたくない。

 

威力こそ絶大だが、攻撃までに時間がかかりその間は無防備な上、攻撃後巻き取る必要があるため再攻撃も遅い。

しかもそれらを敵機に接近して行わなければならない。

まぁ、改良あるのみだ。回転させて運動エネルギーを溜める時間を短縮するため、"ハンマー"本体にスラスターなどを取り付けて見たらどうだろうか?

それに鎖もどうかと。ワイヤーとかで良くね?マニピュレーター壊れちゃうよ。

 

《隊長!一機では危険です!》

「こっちにはもう武器がない!!奇襲をかけ接近戦に持ち込むしかない!!」

《っ! いや、しかし!!》

 

しかし中尉は既に聞いていなかった。興奮し、正常な判断力を失っていたのだ。

 

中尉の発言には確かに一理あるが、それは中尉自身の命を無視していた。

 

スラスターを噴かしジャンプ、敵を上から捉える。

これが出来たのは軍曹のおかげだ。

軍曹の射撃のプレッシャーから逃れるには、隠れる場所は少ない。そこへ見当をつけ飛び掛かったのだ。

 

シールド裏の"マルチランチャー"の閃光弾を撃ち、"100mmマシンガン"も同時に撃つ。

 

激しい閃光にセンサーをヤられ動きを止めた"ザクII"に弾丸が襲い掛かり、中尉が左腕で抜刀した"ビームサーベル"が着地と同時に"ザクII"を袈裟懸けに切り裂く。

 

同時に隣の"ザクII"に頭部機関砲を乱射し、"100mmマシンガン"の残弾をありったけブチ込む。

胴体を至近距離からの13.2mm弾と100mm弾で蜂の巣にされた"ザクII"が崩れ落ちる。

 

「……後、一機……!」

 

コクピット内に鳴り響くロックオン警戒音に反応し、中尉は機体を操作しシールドを向けた。

 

そのシールドに280mm成形炸薬弾が直撃し、シールドを破壊した。

 

「っ!!」

 

衝撃を殺し切れずダメージを受けていた左腕はマシントラブルを起こし機能を停止した。

ダラリと垂れ下がった左腕とダメージリポートから中尉はようやく自分が大変危険な状態に追い込まれている事に気がついた。

 

「……"ザクバズーカ"………」

 

敵はほぼ一撃必殺の飛び武器があり、こちらは左腕が損壊、武器は格闘兵装のみ。一応手には"100mmマシンガン"が残弾2発のこっているが…マズい。大変にマズい。

 

《隊長!!》

《少尉!!》

 

"ザクバズーカ"を回転してよける。

マズい。機体にガタが……。脚部へのダメージが深刻だ。今回、奇襲の為や短距離ジャンプの多用から、ジャンプの着地時にスラスターを噴かしてダメージ回避を行ってなかった。それが例え着地先が水面であっても、その衝撃はコンクリートとなんら遜色は無いのだ。それに、水中渡河時、至近弾を喰らい過ぎたのもあるだろう。直撃はしてないとはいえ、水中の衝撃波は空気の数十倍だ。至近弾でも致命傷とまではいかなくとも、ダメージは蓄積していく。

そこで、止めとばかりに"ザクバズーカ"の衝撃だ。遂にサスがヤられたか!?

 

………………よし。

 

ダンダンッ!残弾2発を空に向け放つ。明らかな挑発行為だ。

 

《隊長!その機体では無茶です!》

「撤退も出来ん」

《でも…っ!》

「気に病むことは無いですよ?警告を無視したのは俺ですから……次の隊長によろしくお願いしますね。安心して下さい。最悪でも刺し違えて見せます」

《少尉っ!!ダメ!嫌です!!》

《……………》

 

"100mmマシンガン"を投げ捨て"ビームサーベル"を構える。

 

土壇場の決戦(ショウ・ダウン)、なんて言葉が脳裏に翻る。

 

これは俺のミスだ、伍長機にはまともな武器がない。巻き込みたくはない。

伍長は大富豪の一人っ子、こっちはただの次男。社会的価値が違う。

それに、仮に死ぬなら、損害は最低限に抑えたい。

 

頼む……ノッて来い……来た!!

 

『…決闘、という事か……貴様も武人なのだな……その勝負、受けて立とう!!』

 

オープン回線で話し掛けて来た!?

何て自信だ……!

 

《隊長!今伍長が向かっています!!持ち堪えて下さい!!》

《急いで……!早く!!早くぅ!!》

 

中尉は"陸戦型ガンダム"を操作、それにうなづき返す。

 

『……ふふ……血湧き、肉躍る……この感触こそ…俺の求めていた戦争!!』

 

敵の"ザクII"が"ザクバズーカ"を捨て、"ヒートホーク"を抜き放ち、中尉の"陸戦型ガンダム"の前に降り立った。

 

「………さぁ、勝負だ……」

 

中尉は機体を沈み込ませ、"ビームサーベル"を構える。

度重なる戦闘機動に重装備の負担から足回りはガタガタだ。こんなに酷使したのは初めてだ。

近接格闘を行う戦闘機動は後数分が限界だな。

勝負は一瞬で決まる。

パネルを叩き、GPLの制限解除を実行、最終リミッターを解除。ミリタリーマニューバからMAXへ。デッドウェイトの左腕を爆砕ボルトで……………え?

 

《え?》

 

目の前で"ザクII"の上半身が吹き飛ばされた。

 

えっ…………あっ。

 

「………軍曹……?」

《軍曹!!ありがとうございます!!》

《少尉ぃ~っ!!》

 

軍曹は射点を変えるべく移動していた。

そして中尉の誘いにノッた"ザクII"は軍曹の射撃可能な射線軸に入り込んだのだった。軍曹がそれを逃がす筈が無い。

 

中尉の"陸戦型ガンダム"が限界を迎え、テンションが切れた。

膝を着く"陸戦型ガンダム"に伍長の"陸戦型GM"が駆け寄る。

 

《少尉!!少尉ぃ~っ!!良かったぁ~わぁ~っ!!》

《まさか中尉、これを狙って……?》

「…………いや、違いますけど……偶然です。軍曹に助けられました…すみません。心配をお掛けしました。伍長も、泣き止んでくれ…」

《わぁ~っ!!》

「………すまん…助かった。軍曹…ありがとう……」

《…当然の事をしたまでだ。無事でよかった》

《少尉ぃい~っ!!よがったぁぉぉあ~!!》

《………伍長、ごめんな……ごめん……でも、ありがと……………》

 

20分後、上陸し攻撃を続けていた"ファンファン"、"ナナヨン"、"ロクイチ"が基地の制圧が完了しても、伍長が泣き止む事は無かった。

 

 

 

『極限の生と死の狭間に、刹那の"活"を見出せ』

 

 

 

揺れるわだつみの鼓動を遺して……………




中尉さんかい?長い!!長過ぎるよ!!

こういう時、慌てた方が負けなのよね……。

分割してもコレかよ!!

やはり戦闘描写は苦手です。とても加減が難しい。

特に自分は小説での効果音が好きではありません、今回は使いましたが……なんとなく間抜けっぽい気がしません?

今回は何時もの約2倍書きましまたが、コレでも2/3程に端折ったんですが……。

正直疲れました。

1/144だろーが1/100だろーがコンテナにガンダムハンマーが入らなかったのは秘密です(笑)。きっと、なんか、こう……宇宙の法則を乱したりしてブチ込んだんです(笑)。

次回 第四十三章 刹那 from 聖永

「……来たか……」

お楽しみに!!

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