機動戦士ガンダム U.C. HARD GRAPH 名も無き新米士官の軌跡 作:きゅっぱち
自分のヤツより読みやすくて面白いし。
負けてられませんね!!遅々として進んでないけど!!
オデッサー!!早く来てくれー!!
モルモットが駆け回る。
全てはマスターのため、その身を賭して。
モルモットが走らされる。
彼らの意思とは関係無しに。
モルモットは走りを停めない。
停めたその時が、寿命となるからだ。
U.C. 0079 8.3
「…作戦が…」
「延期になった?」
「はい。我々、"ブレイヴ・ストライクス"は新型武器のテストも兼ね、"アンティグア・バーブーダ"島、ポイントゴルフ53の基地である、通称"セントジョンズ"湾岸基地を攻撃し制圧しろ、との命令です。その際、なるべく基地には被害を出すな、との厳命付きです」
「つーことは気化爆弾は使えないっつー事か」
「そうみたいだな」
「ここの主な敵戦力は何だ?MSか?」
「そのようです。そのため大規模作戦前の余計な被害を避けるため、我々に白羽の矢が立ったようですね」
「何ですか?どーしたんですかー?」
MSのオーバーホールが終了し、慣らし運転をしていたと思ったらコレだ。ヴェトロニクスの調整を済ませ、これから…という時に……。
「…分かった。"イージス"へ行きましょう。そこで作戦会議です。少尉、おやっさんは機体の整備を続けて下さい」
「あいよ。用があったら呼んでくれ」
「へいへい。今度は乱暴に扱わないでくれよ?MSは女の子と同んなじで繊細なんだから…」
「ぶつくさうっせえぞボウズ!!早く来い!!」
「あっ、へーい!!」
「じゃ、行きますか……」
「あっ、軍曹コーヒー淹れようよ!きっとその方がいいよ!」
「お、頼むよ軍曹。すまんな」
「私からもお願いします。軍曹のコーヒーは美味しいので好きなんです」
「……構わない…任せて欲しい…」
騒ぎながら整備班2人が再びMSに向かうのを見送った後は、コーヒーのために離脱した2人に手を振る。
伍長はお菓子を取りに行くのだろう。
伍長は料理が苦手だ。例えレシピ通りに作ってもなんか微妙に美味しくないのだ。理由は不明であり、伍長自身も首を捻っている。
因みに中尉は普通ぐらいだ。何を作っても普通と称される。伍長曰く食堂の味。何だそれは?
おやっさんは出来ないワケではないらしいがめんどくさがりやらず、少尉は出来ない。前
上等兵は美人で何でも出来るが料理だけは出来ないというアニメなどの相場を打ち破り、料理も上手い。だが一番上手いというかプロ級なのは軍曹だ。本人曰く火薬調合の方が得意らしいが。
まだ25歳で、長く戦場にいたはずなのに、どうしてそうもあらゆる事が出来るのか……?
「…上等兵、最近悩みとかは無いですか?」
「…ある事はありますが、大丈夫です。心配には及びません」
"イージス"に向かいながらそう聞いてみる。仕事などに不備は一切ないが、
隊長として、出来る事はやりたい。中尉は整備班の話などにも耳を傾け、少しでも状況改善に努めていた。
中尉はそれらがダイレクトにこの部隊の生存率などに繋がると考えているため、かなり頻繁に意見を聞いていた。
「…私は中尉を含めて多数の意見を聞いた上で自分の考えを纏める事が出来ています。それに、軍曹にも相談をしてもらいましたから…」
「なら良かったです。軍曹、頼りになりますよね。俺も助けてもらってばかりです」
「そうですね。今度お返しをしませんと…」
「全くですよね。返し切れるとは到底思えませんけど」
"イージス"内で会議の用意をしつつ話を続ける。
中尉は上等兵の様子を注意深く観察しながら、心配はなさそうだと安心する。
上等兵は"ブレイヴ・ストライクス"の連携や指示、判断、戦術、索敵などを一手に請け負っている。言うならばチームの中核だ。居る居ないでは大きな差が出る。それ程重要な存在だった。少尉はそのフォローをしているに過ぎない。
中尉は一挙一動の震えや瞳孔の動き、呼吸、発汗などからある程度相手の心理状態を読む事が出来る。これは武術を続けている内に自然と身についたものであったが、上等兵が嘘をついたりムリをしている様子はなさそうだった。
「お菓子持ってきましたー!」
「…コーヒー、淹れたぞ…」
「あぁ、ありがとう」
「ありがとうございます。伍長もお疲れ様」
「えへへ」
上等兵に頭を撫でられご機嫌な伍長を見つつ、軍曹からコーヒーを受け取る。うん、あり得ない程に旨い。
「……じゃ、上等兵、説明を」
「はい。攻略対象はこの海に面した基地です。対空迎撃網が厚く、爆撃機による爆撃では有効打を与えられませんでした」
「海!!はー!」
「…戦力は…?」
「数は不明ですが、MSが確認されている事に加え、強固なトーチカに、対空砲陣地、海辺周辺にも展開式砲台が並んでいます」
「はーい!展開式砲台ってなんですかー?」
「普段は収納されていますが、射撃時には1秒以内に展開、目標に攻撃を加える厄介な相手です。収納時は頑丈なシャッターで守られており、その状態で壊すのは困難です」
「それらを潰すのが俺達の仕事か……」
「そうなりますね。この作戦は我々が以下に早くそれらを破壊し、我が軍の損耗率を低下させるかに懸かっています」
「責任重大だねー」
呑気そうに伍長が言うが、それお前もだからな?
お菓子をつまむのはいいけど零すなよ?
「……どうやって制圧するか……」
「それなら心配ありません。今回の作戦は友軍である基地制圧隊の援護にあります。基地制圧隊の戦力は"61式主力戦車"一個小隊に、
正面戦力としての"ロクイチ"4両に、歩兵輸送、揚陸のための"ナナヨン"、それに対地掃討用の"ファンファン"か……。
あっ、このチョコ美味しい。
「なるほど…それらの侵攻ルートは?」
「ここです」
上等兵が地図上の敵基地海岸の真正面を指差す。
成る程……って、コレを守れと?
「……俺達に、"LCAC"は?」
「それは…ありません。"61式主力戦車"の分しか……」
「歩いて海を渡りつつ、援護するのか……」
「……? え~っと、何がダメなんですか?あ、MSってカナヅチなの?」
「我々はこれらを守りつつ、海の中を歩いて敵基地まで向かわねばならない、という事です」
「……コレだな……」
「……泳げないんですか~。難しいですねぇ。なんとかなりませんかねぇ…MSが飛べたらいいのになぁ………」
「無い物ねだりしても始まらんさ…人間は、配られたカードで戦うしかないからな……すみません。おやっさん、聞こえますか?」
《おう!何だ大将?》
おやっさんに無線連絡をする。周りがガンガン煩いが、まぁ聞こえないワケじゃ無い。
「MSに簡単なシーリングと水中行動用のチェーンを頼めますか?」
《あぁ。それ用の試作キットも補給物資の中にあったからな。次の作戦に使うのか?》
「はい。海を歩いて渡る事になりまして……」
《つってもあれは精々故障をしなくするだけのヤツだぞ?劇的に変わる様なモンでも無いが……》
知っている。それは説明書を読んでいた。
本来MSは膝より高い水位で機動力は約30%ダウンし、腰より上で約60%ダウン、完全に水没すると行動自体がかなり制限される。ただしソースはソニー。
水中用のチェーンはそれを少し軽減するくらいでしかない。実際に2回ほどMSごと水に沈んでいる中尉には水中の恐ろしさは身に沁みて分かっていた。
「それでもマシントラブルを起こすよりはマシです。お願いします」
《あぁ!任せな大将!!こちらもプロだ。それにそこそこの経験もある。改良も加えカタログスペック以上を出す事を約束しよう》
「はい。頼みます。では…」
通信を切る。相変わらず頼りになる人だ。普通あんな事は簡単には言えない。だがおやっさんなら言い切れる。そこは、流石としか言い様が無い。
「……どうでした?」
「水中用のチェーンは施してもらえるそうだ」
「これで一安心ですね!!」
「……そうとも、言えない……」
「そうですよ。それで劇的に機動力が上がるなんて事はありませんから……」
「……む~」
「私たちは新武装のテストもしなければなりませんし……」
新武装、か……
「私に良い考えがある!」
「司令官!!」
ノッてくれるのは嬉しいけどやめて!転げ落ちるから!!下手に高いとこ登ったらローチじゃなくても落っこちるから!!
「どの様な案なのですか?私はMS隊3機で陽動を行い、その間に上陸させる事を考えていますが……」
「ほぼ同じです。作戦はこう……軍曹には、ここ、ポイントエコー35で"180mmキャノン"による対岸からの狙撃に徹してもらいます。こっちから対岸までの直線距離は6km……要塞攻略用の"180mmキャノン"なら十分に有効射程距離内です…狙撃には向かない武器ですが……その分、俺達がその囮になってそれをカバーします。
まず、MS2機で正面から攻め、敵の目をこちらに引き寄せ、そこを軍曹が狙撃してもらいます。
その他揚陸部隊は俺達を囮に迂回し上陸、それまで俺達は水の中で逃げ回る、といのでどうでしょう?」
「……確かに……いや、機動力の下がる水中での長時間行動は危険です!揚陸部隊を二分し半分はMS隊と行動させる事を提案します。これは、揚陸部隊にも有利な筈です」
「……中尉、本気か……?」
「え~っと……なら、ジャンプを繰り返して直ぐに突っ込めばいいんじゃないですか?」
「そうですね、あまり飛び上がり過ぎても撃ち落とされる可能性が上がりますが、いい案だと」
「先行し過ぎても上陸部隊がヤられますから、途中までは歩く必要がありますね…」
「……狙撃点は……分かった。その役目、任せてもらう……」
作戦の大部分は決定した。後は、これを各部隊に伝え、擦り合わせて行く事だ。
「上等兵、この作戦をまとめて提出、各部隊に通達し作戦の擦り合わせをしてくれ」
「はい。お任せ下さい。中尉は新武装のところへ」
「……俺は、先に行ってFCS調整を始める……」
「あぁ、頼んだぞ…」
軍曹を見送る。あのキャノン、クセはあるけど大口径で長砲身だから、海風にもあまり流されずイケるはずだ。
それにしても180mmか……そう考えると"大和"級の46cmや"ヒマラヤ"級の60cm、
「……アレさ…ホントに使わなきゃダメ?」
「ダメです」
「えぇっ!!私も使いたいです!!」
「なら……」
「ダメです。あの武装は"陸戦型ガンダム"のパワーがあってこその兵装ですから」
「……うぅ~、む~」
伍長が頬を膨らませている。
そんな使いたいか?アレ。
俺はアレをハンマー投げの要領でぶん投げてそのまんまにしてーよ。
アレ絶対黒歴史扱いされるよ?白兵戦つっても戻り過ぎやろ。
つーかそんなジェネレーター出力に違いあったっけ……?あっ、フィールドモーターの出力の違いか。いや、それにもあまり……あ、伍長機はリミッターでガッチガチだから……。
「伍長、"ランチャー"も整備班不眠不休の努力で大量生産されたから……」
「えぇっ!!やった!!ならいいです!!」
「……さ、さいで……」
「良かったですね。シュミレーターでの訓練の成果、活かしてくださいね?実物を撃った感覚も参考にするといいですよ」
「はーい!!」
「では、隊長も、無理はなさらないで下さいね?」
「え?あ、はい。それでは頼みます」
ファイルを脇に抱えた上等兵を見送る。
銃の腕も中々のものだったしな……優秀だなぁ……アレ?この部隊に俺いらなくね?いらない子か!?
銃はグロック26か……。伍長に勧めようとしたヤツだ。
少尉はあんまりだったが、銃はベレッタM92FSだったな…。
なるほど、いいセンスだ。だがその悪趣味な
観賞用や趣味のヤツと実戦用は違うんだよ。
象牙のグリップにジョリーロジャー、"プライヤチャット・ソード・カトラス"ねぇ……。アンタやっぱオタクだろ。つーかなら二丁持てよ。
……………いや!!誰かM-71を使ってやれよ!!埃被ってるよ!!
俺も人の事言えんけどさ!!
「じゃあ行きましょう少尉!調整の続きをしなきゃ!!次の戦場では、"ランチャー"無双だぁ!!」
「んあ?ならコップを……」
……………既に片付けられてた。ごめんなさい。
ふと作戦板を見る。ここで表示される駒一つ一つに、本物では何人もの命が宿るのだろうか?
2人乗りの"ロクイチ"。2人乗りの"ファンファン"。揚陸艇として多数が乗り込む"ナナヨン"。
そして、1人乗りのMS。
「俺たちは……一体……?」
「……?……少尉?」
「うん?あ、すまん……行こうか」
「はい!」
作戦板を見て動きを止めた中尉の袖を伍長が引いていた。
振り向いた中尉の手を握り、伍長が歩き出す。
それに中尉が並び、2人揃って"イージス"を出て行く。
残された作戦板が暗闇で輝く。
『損耗率』という言葉が、真っ暗な"イージス"の中で浮かび上がって見えた。
『さぁて、お仕事の時間ですねぇ……』
波を掻き分け、あの島へ…………………
最近筆が滑ります。短く収めるのが難しい……。
これも「前夜」とあるように、ノリで書いてたら結構な長さになってて、分割に苦労しました。
夜じゃねーけど。真昼間だけど。
展開式砲台は、ゲームガンダム一年戦争の鉱山基地のアレか、PS3版ガンダム戦記のオーガスタ基地の砲台をイメージして欲しいです。
なんかグイングイン動くヤツ。
戦闘描写は苦手ですが、こーゆー日常?パートも苦手です。
好きこそ物の上手なれや、趣味が高じて……なんて、上手く行きませんねぇ……。
次回 第四十二章 湾岸基地攻略
「カレー食いてぇ!!」
お楽しみに!!