機動戦士ガンダム U.C. HARD GRAPH 名も無き新米士官の軌跡   作:きゅっぱち

47 / 84
遂に"ブレイヴ・ストライクス"初の実戦を迎えます!!

記録には残されない、殲滅を主とした部隊が歩み始めます。

MS隊、前へ!


第三十八章 地上の星

戦争のルールとは、なんとも笑える話ではないか?

 

殺意を隠そうともしない殺し合いの中に、ルールなど。

 

戦争は政治の最終手段、そう捉えたとしても滑稽な話だ。

 

例え、そこにどんな背景があろうとも。

 

宇宙へ棄民に近い政策を行い、その後も宇宙移民(スペースノイド)を押さえつけ、虐げた連邦政府も。

 

それに武力で対抗し、NBC兵器と大質量兵器による無差別殺戮を行ったジオンも。

 

大義も、正義も、所詮は主観でしかない様に。

 

 

 

U.C. 0079 7.27

 

 

 

「……上等兵、確認しますが本当に大丈夫なんですか?ムリに…」

《いえ。お見苦しいところを見せてしまい申し訳ありませんでした。私は大丈夫です》

「……すみません」

《謝らないで下さい。これは、私の問題で、それも、解決したのですから》

「本当に、ですか……?」

《──はい。今までも、薄々は気付いていました。しかし、私はその事に目をつむり、背け、逃げて来ましたが──。

それに、そのような感情で義務を怠るわけにもいきません。

──隊長は、どのようにお考えなのですか?》

「俺は……言った通りです。ただ、自分が後悔位出来る様に、信じた事をやるだけです」

《──隊長らしいですね。

──重ねて申し上げますが、私は大丈夫です、隊長。ご心配をおかけしました》

 

小型の偽装網を掛けられ隠蔽された"陸戦型ガンダム"のコクピットの中で、中尉は上等兵の声をスピーカー越しに聞いていた。

あの時の気の弱さを一切感じさせない、いつもの声だった。それが、逆に不安だった。

きっと、一応区切りはつけたものの、まだ葛藤は続いているのだろう。だけど、俺は上等兵を信じる。

 

「……分かりました。俺達MSパイロットの命、預けます!!」

《はい。お任せを。私達はチームですから》

 

通信を切り、シートの上で目をつむり手を組む。

作戦開始までまだ少しある。

作戦の準備は完璧だ。後は、その時間を待つのみ。

 

ピピッという音に反応し目を開く。少尉から通信が入っていた。

なんだろう?そーいや、何も伝えてなかった。

 

「どうした?少尉?トイレなら今のうちだぞ?」

《ちげーよ。上等兵の事だよ。何か知らない?》

「なんかって?何?どったの?」

《いや、今なんかやけにスッキリしたよーな顔で軍曹と話してんだけど……》

 

あり?落ち込んでるとかじゃなくて?いい事だけど。強がりじゃなかったのね。

引きずってなさげでホッとしたのでカロリーメイトを齧りながら通信を続ける。

 

「さぁ?なんかいい事あったんじゃないの?」

《ふぅーん。しょーたいちょーは知らんのな。いやーよかった、NTRかと》

「おまいはそれ以前やろ。後一押しなんじゃなかったん?」

《いやー、そっからがねぇ……しょーたいちょーと伍長ちゃんはどうなのよ?いい感じか?》

「俺と伍長?なんだその組み合わせは?軍曹じゃなくてか?」

 

お前は知らんかも知れんが、あの2人は"夫婦"って呼ばれてたんだぞ?

 

取り敢えずムダ話を続ける。続けながらシステムを再チェック。うん。コンディショングリーンだ。飛べそう。比喩だけど。いや、どっちかっつーとミッドナイトブルー?

 

《…………いや、まぁ……ところでなに食ってんの?》

「うん?カロリーメイトチョコレート味。あげないよ?」

《ふぅーん。別にいらねぇよ》

「んだと!!喧嘩売ってんのか!?」

《んあ?そーゆーしょうたいちょーは何で食欲あんの?初出撃前だぜ!?》

「『腹が減っては戦はできぬ』だよ。腹六分目をキープしてんの。集中力切れたら死ぬのは俺だけじゃなくなる可能性が高いんだから」

《へぇー。俺も一応軍属だからやるべきかなぁソレ。あ、そーいやさー、なんたら味ってあんじゃん?》

「あぁ。それが?何?そーゆーおかしのイチゴ味とか嫌いなの?」

 

あのわざとらしい味がまた良いんだろうが。あのなんとも言えない安っぽさが。日本男児の駄菓子好きなめんな。

 

《いや、そーじゃなくて、そーゆーので、サラダ味って何味だろーって…》

 

は?何言ってんだコイツ?サラダ味はサラダ味に決まって………サラダ、味?

 

「何その地味に哲学的な問い……確かに……」

《少尉ー?何の話してるんですかー?》

 

伍長からの通信が入る。作戦前になんて話してんだろうなコレ。さっきから。

まぁ、緊張をほどくという意味でいいかもな。冗談の一つでも言えるように練習でもしようかね……。

 

「サラダ味って何味だろうねって話」

《サラダ味…サラダ、あじ……確かに……軍曹分かるー?》

《……それはだな……》

《時計合わせ。5、4…》

《なぁっ!?空気よめよー》

「何を言ってんだおまいは。……また後にするか」

《ですね。あ、コレは死亡フラグですかねぇ?》

《…2、1、作戦スタートです》

「んなわけ無いだろ。よし、"ブレイヴ・ストライクス"出撃だ!!各機、"イージス"を中心にアローフォーメーション!!これより回線はレーザー通信による暗号通信に切り替える!!」

《……ブレイヴ02了解》

《ブレイヴ03りょーかーい!!》

《こちらウィザード01、了解しました》

「小隊、前進する!各機、警戒を厳とせよ!」

 

中尉の、隊長としての初の実戦がスタートした。

 

中尉の"陸戦型ガンダム"を先頭に、その後方に"イージス"、その"アイリス"の左脇に伍長の"陸戦型GM"(ブレイヴ03)、右斜め後方に軍曹の"陸戦型GM"(ブレイヴ02)が続く。

 

そのフォーメーションを維持しつつ、密林を奥へ奥へと進んでいく。

 

月下の出撃だな。今夜は月が明るい。バックパックの投光器が必要無いくらいだ。

緊張と興奮の入り混じった不思議な感覚と共に、中尉は機体を操縦する。

中尉を乗せた"陸戦型ガンダム"は順調に歩を進め、着実に作戦ラインに近づきつつあった。

 

《ウィザード01から各機へ。作戦ラインに到達、ミノフスキー粒子濃度は60。これなら敵に気づかれず敵基地に接近出来ます。本機はここで待機し、ジャミング・フィールドを形成します。ここからMS3機は敵基地に突入、特殊グレネードで破壊しつつ前進し、野戦基地を破壊して下さい。損害評価後は、迅速に撤退して下さい》

 

特殊グレネードの威力と効果半径は絶大だ。"イージス"を巻き込むワケにはいかないため、ここで待機となる。

しかし、高出力指向性レーザー通信でサポートは行えるようだ。

その証拠に"イージス"は停止しアウトリガーを展開、ピックを突き刺しアンダーグラウンドソナーを展開している。

 

《! 早速お出ましだ……MS歩行音確認っと……12時方向に2機、距離1500。その奥に1機、距離1900。計3機確認。遠ざかってる》

 

少尉からの通信だ。やはり、アンダーグラウンドソナーは高性能のようだ。昨日の偵察からの地理情報も統合し、かなり高精度な探知を行っている。

 

「よし、MS隊は気化爆弾有効射程距離まで接近し、グレネードを投擲(フラグアウト)。爆発の収束と共にスラスターを使い突入する!!予定時間は30秒後だ!!行くぞ!!」

《……ブレイヴ02了解…》

《ブレイヴ03りょーかい!!初陣をド派手に飾りましょー!!》

 

言うないなや中尉は機体を走らせる。セーフティを解除、兵装はグレネードを選択する。

"陸戦型ガンダム"の装備は"100mmマシンガン"にシールド、それに気化爆弾グレネードだ。伍長、軍曹の"陸戦型GM"もほとんど同じで、違いはグレネードが通常型なのと、伍長はグレネードの代わりに試作の使い捨て"バズーカ"を腰部背面に懸架している事だった。

 

「……5!4!3!2!1!投擲(フラグアウト)!!爆発予定は15秒後!!各機!耐ショック、耐閃光防御姿勢を取れ!!念のためセンサー強度も最低ラインにするんだ!!」

《……ブレイヴ02了解》

《ブレイヴ03了解!!ちょっとワクワクして来ました!》

 

走る勢いのままオーバースローでぶん投げる。綺麗な放物線を描き基地の上空へ飛ぶグレネードを見送りつつ、膝を立て盾を構えた。

 

《……わくわく》

「口で言うか?」

《時間です!》

 

その時だった。月明かりに照らされぼんやりと浮かび上がる基地上空に、独特で不気味な、忘れられないキノコ雲が咲いた。

次の瞬間、闇を切り裂く、日の出以上の激しい閃光とともに目の前がホワイトアウトした。

 

その時、中尉は確かに見た。空に孔が穿たれる瞬間を。

 

「うおっ!まぶし!」

《閃光確認!衝撃波、今!》

 

ゴウッ、という凄まじい爆轟と共に70t近い機体が大きく揺すぶられる。2度3度、そして最後には引き寄せられる様な吹き戻し。凄まじい衝撃だ。爆心地は、どんな衝撃なのだろう?

煌々と輝く爆炎が夜空を染め上げ、中尉達のMSの影が長く伸びる。まるで真夜中の日の出だ。

それも徐々に収まり始め、再び夜の闇が辺りを包む。

 

《爆発の収束を確認!!》

「全機、飛べぇー!!」

 

フットペダルを踏み込むと、スラスターが作動し激しい噴射炎と振動をもたらす。機体が莫大な推力に持ち上げられ浮かび上がり、月明かりの下を駆ける。軍曹、伍長もそれに続いた。

 

「ブレイヴ01より各機へ!発砲許可を出す!!各々の判断で交戦を許可する!!」

《りょーかい!!初陣をかざりましょー!》

《了解……》

 

月をバックに、肩部フックに引っ掛けられた偽装網をたなびかせ宙を舞う3機のMS。蒼白く照らし出されるその姿は、まるで死神の様だ。

 

「…………」

《うわぁ、すごい………》

《……想像通りの威力だな…》

 

眼下には、月明かりに照らされた元基地(・・・)が残骸を晒していた。動くものは一つもない。

 

《11時方向、距離800!動体反応検知!"ザクII"か!?》

「………」

 

反射的にセーフティを解除、セレクターは3点バーストに。

FCSが起動、沈黙していた武器使用ランプが点灯、『メインアーム レディ』と表示される。

 

"陸戦型ガンダム"のセンサーが機影を捉える。ツインアイが煌めき、廃熱を行う機体をそのままに、中尉は反応のある方へと振り返った。

 

そこには機体の約半分が瓦礫に埋まり、弱々しく手を蠢かせる哀れなMSがあった。"ザクII"とは違いパイプが出ていない。新型?

そのコクピット周辺に"100mmマシンガン"を3点射で容赦無く叩き込み、機体が停止したのを確認した中尉の"陸戦型ガンダム"が左手を上げハンドシグナルを出す。

 

ブレイヴ01(ブレイヴリーダー)より各機へ!この好機を逃すな!!前進するぞ!!ブレイヴ03をトップにアローフォーメーション!!"アイリス"はMS隊後方距離2500へ!」

《…ブレイヴ02了解。背中は任せろ》

《ブレイヴ03右に同じ!!私について来てー!!》

《ウィザード01了解。ジャミングを掛けつつ前進します》

《ウィザード02より各機へ、2時方向の敵野戦基地より敵機!距離1200!》

 

閃光と爆轟を確認し、巣穴から出て来やがったか。

 

伍長が盾を向けつつ右へ回り込み始める。それを見て左へ。

 

「こちらブレイヴ01、エンゲージ!!挟撃だ!ブレイヴ03!!」

《はい!》

 

2機で挟み込む様に移動し、じわじわと距離を詰める。動きを停め、戸惑いを隠さない"ザクII"へ同時射撃を行う。

 

放たれた火線が夜空を彩り、"ザクII"へと殺到する。

 

装甲が弾丸を受け、激しい音と火花を散らす。2方向からの射撃に晒され、怯んだ"ザクII"の胸部に、"スローイングナイフ"が突き刺さり、一瞬遅れて爆発、上半身を吹き飛ばす。

 

軍曹の"陸戦型GM"だ。

 

性能差に、機体の数もこちらが上。そんな相手に波状攻撃を喰らったら一溜まりもないだろう。事実、2人とも反撃を受けていない。

 

それに相手は敵がMSという事に困惑したに違いない。ならば、こちらが有利に決まっている。

 

《さっすがー!!》

「周囲にMS反応は!?」

《ねぇよ!!来たとしても、距離がかなりある!間に合うワケがねぇ!!》

《ウィザード01よりブレイヴ01へ。隊長、前方の基地を破壊後、撤退へ移る事を推奨します》

「ブレイヴ01了解!!ブレイヴ03下がれ!!気化爆弾を使う!!」

《はい!!退避しまーす!!》

 

上等兵の意見を承諾、伍長を下がらせる。

 

中尉の"陸戦型ガンダム"の周りに2機の"陸戦型GM"が集結、周囲を警戒しつつカバーする。伍長が盾を構え右前方を、軍曹が左後方を見張り、一瞬の隙も見せつけない。無防備に近い"陸戦型ガンダム"を守り、どこからの敵からも対応が出来る、完璧と言ってもいい連携だ。

 

その動きに満足しつつ、中尉の"陸戦型ガンダム"がグレネードを構え、放り投げる。

 

「よし、撤退だ!!基地守備隊の"ザクII"もこっちに気付いてる。逃げるぞ!!軍曹!殿を頼む!」

《…了解》

《はーい!さっさと逃げましょー》

「ブレイヴ01より"イージス"へ!センサーが壊れない程度に観測頼む!」

《了解》

《耳痛めたらしょうたいちょーの所為だからなぁ?》

 

スタコラサッサと逃げ出す伍長の"陸戦型GM"を追い、中尉が続く。軍曹はバックし警戒しながらだ。

 

MSさえも覆い隠す、巨大な岩の裏に隠れる。中尉は"陸戦型ガンダム"のシュノーケルカメラを展開し観察を続ける。

その瞬間再び閃光が闇夜を照らす。その光の中で、2機のMSのシルエットがグズグズに崩れて行くのを中尉は見た。

 

《うっわー。凄まじい光ですね》

《……戦術核と、間違えられそうだ……》

《……この、光の中で……》

「ウィザード02、爆発の収束後、アンダーグラウンドソナーで動体検知を」

《あいよ、と。全く俺っち大活躍だねぇ…》

 

光続ける(・・・・)爆炎を見ながら、夢想する。

 

ジオンの毒ガス攻撃や、核攻撃も、こんな大量虐殺が起きる事を理解した上で、国の為、作戦の成功の為、やったんだろうか?

 

そんな考え、俺には無いが……。

 

《爆発収束。センサー走査開始して下さい》

《………反応ゼロ。跡形もなく、だ》

Mission CMPL(ミッション・コンプリート)、だな……》

「………よし、撤収だ!全機、帰還する(RTB)!戦闘配置を解除! 第1警戒態勢に移行」

《……了解。撤収する》

《ふーっ。軍曹!少尉とおいしいコーヒーお願いしまーす!》

《……了解。最高の一杯を約束しよう……》

 

あぁ、取り敢えず今回も生き残れた。それぐらいのご褒美、いいよな?でも、今からコーヒーって眠れなくなるんじゃ………?

センサーからも目を離していないが、反応は無い。追撃もなさそう……ってムリか。

 

《おいおい、基地に帰るまでが作戦だろぉー?あっ、上等兵?帰ったらお茶でも……》

《結構です。それと隊長に軍曹、伍長も。私も混ぜていただいてよろしいですか?》

《何故に!?俺とは!?》

《…了解。中尉も、いいか?》

「構いませんよ。伍長もいいよな?」

《はい!!上等兵さんなら大歓迎です!!》

《あのー、俺は?》

《どうでもいいです。果てし無く》

《あっははは!フられましたー?》

《まだだ!まだ終わらんよ!!きっと上等兵もすぐ俺の魅力に……》

「………んな事言ってる内はムリじゃね?」

《……的を、得ているな……》

 

陰鬱な空気を寄せ付けないかの様に、笑いながら基地へ向かう。軍曹と少尉は笑って無いが、軍曹はやや楽しんでいるようだ。

 

空が白み始め、辺りを優しく照らし出し始める。美しい朝陽だ。

 

暁の中を歩く。やや煤けた白銀の装甲が光を照り返し、その姿はまるでかつて絵画で見たような英雄の凱旋だ。

 

中尉の目には、逆光の中で浮かび上がる基地(帰るべき場所)が見えていた。

おやっさんが、整備班達が走り出し、手を振る。

 

「ただいま」

 

英雄(大量虐殺者)の、凱旋だ。

 

 

 

『一つの殺人は悪漢を生み、100万の殺人は英雄を生む』

 

 

 

小さな火種が、大輪の戦花を咲かせる…………………




初のMS戦闘は、やや後味の悪い物になってしまいましたかね。反省です。自分的にはブッとんだバカ話が好きなんですが……。

既に書き溜めが3つあり、物語は決まっていますが、気化爆弾の反響が大きかった事、更新が早いとの苦情からこのようになりました。ヅダはアレなんで、ジム・ライトアーマーぐらいを目指します。

しかし、自分はこれを書いた事には後悔はありません。
一つあるとしたら、ミデアからの空挺で出撃させたかったですね。

書き溜めの段階でパトレイバーネタは既にあったのですが、感想でも言及されて驚いてます。今回のは微妙ですが、一応意味があります。

戦闘はやはり難しく、慣れませんね。特にアイリスの索敵など。違和感あったら意見お願いします。

次回 第三十九章 釣り野伏せ

「ヒューっ!戦場は地獄だぜぇ!!」

お楽しみに!!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。