機動戦士ガンダム U.C. HARD GRAPH 名も無き新米士官の軌跡 作:きゅっぱち
中尉の、初のMS部隊隊長としての任務が始まります!!
では、どうぞお楽しみ下さい!!
軍隊という組織は、なんなのだろうか。
命令に拒否権は無く、人は駒のように使われる。
人の生死は、
どう生きるか、ではない。
そのような決定権すら、駒には与えられない。
駒は、ただ黙々と働くのみだ。
U.C. 0079 7.25
「辞令だ。君たち、"ブレイヴ・ストライクス"は"ミデア"輸送機2機に搭乗し、中南米の諸島に降下しろ。そこへ仮説野営地を建設、それを橋頭堡とし、中南米の諸島を制圧するのだ。作戦名は"一号作戦"。それが諸君らの初任務となる」
「「はっ!!」」
突然呼び出され、我々"ブレイヴ・ストライクス"はジョン・コーウェン准将の執務室へ来ていた。
「……君たちの報告には、そこらの諸島にはジオンが基地を構え、この"ジャブロー"を探している、という話だったな……君たちはその基地を炙り出し、最終的には奪取され使用されているジオン軍の中南米における一大拠点、"グアンタナモ・ベース"の奪還にある。健闘を祈る」
「「はっ!!」」
ついに、実戦か……武器はともかく、練度は十分だ。
これから、連邦軍の反撃が始まる!!連邦軍のMSの性能を見せつけt………。
「それともう一つ、諸君らに頼みたい事がある」
「は、はぁ……」
「諸君らの知っての通り、連邦軍のMSは最高機密であり、隠し球だ…………ジオン軍にその存在を知らせてはならない!!」
「なっ……!」
「えっ!?」
「…………」
「……准将、それは……」
全員がその言葉に反応する。そりゃそうだ。主力兵器を敵に晒してはいけないなど、不可能に近い。それに、敵の戦力も分からないのに、
「……君たちならやってのけると期待しているよ……ではな」
「は、はっ!!」
「はい!!」
見敵必殺かよ……。キツい。キツ過ぎる……。
執務室を出て、歩きながら少尉が喚き出した。
「なんなんだよあのおっさん!!何を言いやがる!!」
「……確かに、言いたい事は分かるが……」
「存在を示すのも、十分な効果があると思いますが……」
「……作戦開始まではまだ2日の時間がある。ブリーフィングルームへ行こう。そこで作戦を練る」
「作戦つったってさぁしょーたいちょー。どうすんだよ?」
「…それを今から考えるのですよ。貴方は、全く。騒いで嘆いた所で何も変わりませんよ?」
「……どうせなら"イージス"でやろう。アイツには優秀なコンピュータを積んでるからな」
「そうしますか。では行こう」
ハンガーの"イージス"へ向かう。"ブラッドハウンド"と呼ばれる"74式ホバートラック"は前線指揮車両としての設備も揃っている。妥当な判断だ。
「……ふむ、
「おやっさん、何かあるんですか?」
「まぁな」
手を叩いたおやっさんが大きくうなづいた。なんだろ?
「っつー事で寄る所が出来た。先行っといてくれ」
「分かりました」
おやっさんが何処かに行くが、おやっさんの事だ。何かあるんだろう。
「アレってなんでしょうねー少尉?新作の武器かな?」
「……まだだろうな、それは……」
「…! 隊長、"イージス"の電装関係かもしれません」
「そうなのか?少尉は何か分かるか?」
「……それは俺が聞きたいくらいっすよ。"イージス"の中はかなり改造されてる。特にコンピュータ、アレは見た事ないね」
「……鍵は"イージス"になりそうだな」
ハンガーへ着くと、そこには既におやっさんが居て作業を行っていた。整備班も走り回っている。
「おやっさん!?」
「おう!来たか!状況は整ったぞ!!取り敢えず入れ入れ」
おやっさんに押されるまま"イージス"に乗り込み、中で全員が顔を合わせる。おやっさんが口火を切った。
「
「いいえ?」
「浮くんですよねコレ!!」
「……伍長、そうじゃない……」
「……電装系はほぼ一新されている、くらいしか……」
「情報が欲しいくらいだよおやっさん。コイツを本社で製作したいぐらいだ」
「コイツは2人の言う通り改良を加えてある。特殊な学習型コンピュータと、背部ユニットだ……」
おやっさんが作戦会議用ディスプレイを点灯させ、説明を始める。その内容は驚くべき話だった。
一つ、特殊な学習型コンピュータは民間企業のテスト品を改良し搭載して来たという事。
「こんなん見た事ねーよ!!どこのだ!?」
「あちこち回ってな、それのいいとこ取りだ。根幹になったのは2人の学者のヤツだな。ワイハマー・T・カインズっつーヤツとミズ・ルーツさんだ、それをジャパン製の小型スパコンに載っけた。コレの簡易版を中尉の"陸戦型ガンダム"にも積んでる」
「俺のにも!?知らんかった。何が違うんです?」
「簡単に言うと、かなり賢いですね。私も"イージス"のコンピュータを使用していたのですが、学習能力が凄まじいの一言ですね」
「へー。いいなー少尉。何がいいのかよく分からないけど」
「……もう一つ、と言うのは……?」
もう一つは、電子装備の改良だった。
「中尉の"マングース"の装備の一つにECMポッドがあっただろ?アレを強化発展させたものを"イージス"背部ユニットに搭載する事にした。ミノフスキー・エフェクトをも利用した最新型だ」
ディスプレイに映された装備は、"ナナヨン"の背部ほぼ全てを埋める大きさで、レドーム、展開式アンテナなどでごちゃごちゃしている。
「これは……! 隊長!!これならばミノフスキー粒子を利用すればかなり広範囲かつ強力なジャミング・フィールドが形成可能です!!」
「ふーん、索敵撹乱などの潜行用装備も揃ってんな……コイツぁすげェ!!おやっさんどうやって!?」
「聞くな!!俺は整備屋だ!!そこらへんにあったもので作ってみたんだが……」
どうやって!?すげェ!!さすがおやっさん!!装備に丸太を追加してくれ!!
「テンションの変動激しいな少尉!?」
「つまり何ですか?私さっぱり分からないです……」
「……つまり、ステルスだ……」
「えっ!?見えなくなったり出来ます!?」
「……それはムリだろ……」
きっと伍長の頭の中では水に濡れたら使えなくなる例のアレを想像してるんだろうな……。なんで共通して水に弱いんだろ?
「それに以前から開発を進めていた"デコイ・ポッド"に、各種スモーク、チャフなどのグレネードも開発を進めている。コレでまぁラクになるだろ」
頼りになるなー。知ってたけど、ここまでとは……。
伍長に至っては理解出来ずポカーンだ。
まぁ、俺もそれに近いが。専門的な話になるとさっぱりだ。よく考えたら、ウチの部隊の主要メンバー6人のうち3人博士号持ってんだよな。こぇーよ。
「おやっさん、それの運用は何人で出来ます?」
「0だ。"イージス"が統括管理してくれる。ホントは無人機化も出来るが、やはり不安だからな…」
「……凄いな……」
「私でも全能力は一人で使えますが」
「……俺寝てるだけでいい?」
ホントに何もんだよおやっさん。オーバーテクノロジー過ぎだろ。南アタリア島に落ちてきた超時空要塞でも解析したのか?
「よし、策は決まった。では、配置を伝えるぞ?」
「はーい!!」
「…了解…」
「必要、ありますか?」
「念のためだろ?仲良くやろうぜ上等兵ぃ〜?」
「最低限は」
「身持ちが硬いなぁ」
うるせーよ少尉ナンパは後にしろよ。視線を釘付けに出来てないじゃん。
「あ!少尉!コールサイン考えてきましたよ!!」
「決定済みだ」
「えぇ!?そんな……」
「どんなだ?聞かせてくれよ。上等兵も気になるだろ?」
「いえ、べつ……ええ、気になりますね」
伍長の顔を見て意見を変えた上等兵さんは大人だった。見習わんと。
「じゃあはっぴょーしまーすっ!!少尉が"ランサー"で、私が"セイバー"に、軍曹が"アーチャー"です!!このトラックさんは"チャーリス"でどうでしょう!!」
うん。元ネタは分かるけど。アニメに影響され過ぎだね。見せたの俺だけどさ。セルフ・ディフェンス・フォースのSじゃねぇんだから。
前も真剣な顔して、『もし魔法少女になったら、MSって魔女の結界に入れますかね?』って言ってたもんな。
多分パンパンになるんじゃないかな?それにオーバーキルだろ。
「……決まってるから。また今度な?」
「はーい……約束ですよ?」
出来んわ。
「隊長が俺。機体は"陸戦型ガンダム"に、ポジションはサポート。コールサインは
「はい、はくしゅー」
「わーわー」
「静かにして下さい」
そんなクラス委員長が決まったノリ出さなくていいからな?伍長もノるなよ。
「続いて軍曹が"陸戦型GM"で、ポジションはバックス。コールサインは
「……了解…」
「伍長が"陸戦型GM"で、ポジションはフォワード。コールサインは
「はーい!!がんばります!!」
「上等兵は"イージス"で戦術オペレーターを。コールサインは
「はい。鋭意努力します」
「少尉は同じく"イージス"で上等兵のフォローを。分担は任せる。コールサインは
「あいさー」
「俺は?」
「ありませんよ!?」
戦う整備班とか、シャレにならんわ!!
あ、俺やらせてた。やっべ。
「よし、"ブレイヴ・ストライクス"結成だ!!みんな、よろしく」
「よろしくねー!!」
「……よろしく頼む…」
「はい。よろしくお願いします」
「オーケー!!張り切って行こうぜ!!」
「ん、なんか記念が欲しいな……」
「写真!!写真撮りましょう!!」
「いいな、よし!写真だよ!全員集合!!」
「「おう!!」」
あれよあれよと言う間に集まってきた整備班およそ60人。
"イージス"をバックにタイマーで写真を撮る。
中尉を真ん中に、伍長、軍曹が固め、それにおやっさん、上等兵が入る。上等兵の隣を取ろうとした少尉はもみくちゃにされている。
「おあ!押すなって!!」
「そっちいけよー!!」
「中尉!!真ん中真ん中!!」
「傍は軍曹が!!どうぞ!!」
「少尉ぃー腕組みましょうよ!!」
「……いや、普通でいい」
「おやっさん!!イスどうぞ!!」
「じょうとうへー!!」
「寄らないで下さい」
「んじゃ、いいですか?撮りますよ」
ギャーギャー押し合う整備兵達が何とか写ろうとして"イージス"にへばりつく。機体整備なども試行錯誤中なので、大人数なのだ。あんまムリすんなよ。
ピピピッ、カシャという軽い音と供に写真が撮られる。
飛び込んだ整備兵は写れたかな?
「どうですか中尉?コレでいいですか?」
「俺は構わないぞ」
「じゃあこの一枚は中尉へ。後で人数分コピーしておきますね」
「見て見て少尉!!かわいいですか!?」
「あぁ、綺麗に撮れてるんじゃないか?」
「後で裏に日付でも書くか!」
「おやっさん素敵です!!おやっさんの弟子で俺は幸せっすよ!!」
「だろ?おっ、なかなか男前に写ってんじねぇか」
「あーっ!!俺目ぇつぶってる!!もっかい撮ろうぜ!!」
「軍曹は笑わないのですか?」
「……普通でいい…」
「帽子取りゃよかったぁ!!」
「顔しか写ってねぇ!!」
ワイワイ騒ぐ場を見ながら、胸ポケットに写真を入れる。
この人達の命を、俺が預かるのだ。
大切にしよう。そう思った。
U.C. 0079 7.26
目の前には発動機を唸らせ、離陸を今か今かと待ち構える"ミデア"があった。
「運ぶ機材は、これで間違いありませんね?」
「はい。よろしくお願いします」
「ウッディ!準備はよろし?」
「あぁマチルダ。しっかり届けてやってくれ!」
「貴方が隊長ですね?ミルスティーンから話は聞いています。私の名前はマチルダ・アジャン。階級は貴方と同じ中尉です」
「はい。よろしくお願いします」
「貴方達は私が機付長として、しっかり届けて見せます。安心して下さい」
「その言葉。信用していますよ……我々にそれ程の価値があるとは思いませんが……」
「価値はあるものなんて事は決してありません。創り出し、見出すもの、と私は定義しています」
「マチルダ中尉……」
「私や、ウッディが補給部隊に属しているのもそのため。貴方達の事、信じていますよ?」
握手し別れる。最近出会いが増え嬉しい事だ。みんな、みんな大切にしたい。そのためなら、戦える。
コクピットへ向かう中尉を見送り、振り返ると部隊員が揃っていた。
「あの2人、婚約者なんだってさ。こりゃ頑張らんとな!!」
「そう気張るな、お前が出来る事なんてたかが知れてっよ」
「ちょ」
「そうですね」
「ね」
「……気にするな…」
「ん、伍長。ボナパルトとの別れはすんだのか?」
「はい!しっかり約束して来ましたよ!」
「折角砲塔上部に対人攻撃用の無人砲塔を備えたばかりだったのになぁ」
そうなのだ。キューポラに接続する形で、車長ハッチに取り付けられた奇妙な銃塔が追加されたのである。まさかの多砲塔戦車である。鏡餅の様な感じだ。マジかよ。本来ならリモコン機銃を強化する予定だったが、おやっさんがどうせならと砲塔に機銃、擲弾発射器、センサーを纏めたのである。
この砲塔の機関銃と40mmグレネードランチャーは、"サムライ旅団"が"ザクII"にも対人装備を持たせマルチロール化したのを"ロクイチ"にも試験的に導入した結果だ。"ワッパ等"による損害、密林での遭遇戦において砲塔を回せず対応が遅れた為攻撃された事が多々あった為、"ロクイチ"自体の自衛力を高める事が目的であった。テストの結果は敵歩兵や装甲車等ソフトターゲットに対しては過剰なまでの威力を発揮したが、勿論MSには全く効果は望めなかった。現時点では想定されていたフルオート化も間に合わず、車長の負担が更に増える為採用は無さそうである。"リジーナ"搭載も流れた。残念だ。
突然の集中砲火にボコられる少尉を無視し、呼びかける。
「よし、これから、我々"ブレイヴ・ストライクス"は任務へ向かう。隊長は俺だ。行く先は戦場。何が起きるか分からない……作戦から、危険も多いだろう……」
全員の目が集中する。久振りの感覚。その感覚が、少し心地よかった。
「すまんが、皆の命をくれ…………だが、あえて言おう。
死ぬな!!!」
「はい!!」
「……了解……!!」
「「はっ!!」」
「うぉっしゃ!!聞いたか!野郎ども!!」
「「おう!!」」
よし、士気は高い!!今までの戦いは、この一瞬のためにあったんだ!!
「"ブレイヴ・ストライクス"、出撃!!」
『仲間の為なら!!戦える!!』
彼は、タイムカードを押して、戦場へ向かう……………………
中南米かえる跳び作戦編、始動!!
戦火渦巻く戦場で、新米士官は何を見るか。
AIユニット、ジャミングなどは前者はのちのゼファーガンダム、Sガンダムに、後者はサラブレッドに搭載されます。
おやっさんやべぇ。自分で書いてておかしいだろと不安に。
まぁ、ご都合主義です。
次回 第三十七章 二律背反の二重螺旋
「あ、少尉、おやつは何ハイトまでですか?」
お楽しみに!!