機動戦士ガンダム U.C. HARD GRAPH 名も無き新米士官の軌跡   作:きゅっぱち

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急遽入れる事になりました訓練編。

やはり、つまらないと思いますが、しばらく続くかも。


第三十五章 地の底の"ガンダム"

開発とは、技術との戦いである。

 

より強く、より頑丈で、より早く、より先へ。

 

そんな競争の中の、傑作のみが世に出てくる。

 

周りを見回してみるといい。

 

些細なモノでさえ、数え切れないほどのトライアンドエラーの結晶なのだ。

 

命を預ける、それに足るものを目指して。

 

 

 

U.C. 0079 7.23

 

 

 

"ジャブロー"の奥深く、余程の物好きすら近づかない自然空洞が残っているエリアに、蠢く影があった。

 

地を這う様に飛ぶ"それ"は、鍾乳洞を縫うように走っていく。

 

その車両の名前は"74式ホバートラック"(ナナヨン)、コードネームは"イージス"だ。

 

その"アイリス"の後ろには、3機のMSがぴったりと寄り添うように控え、鍾乳洞を走り抜けている。

 

ダゴンッ! という音をセンサーが捉えた事を知り、中尉は"陸戦型ガンダム"を停止させた。

 

「またか!伍長!!地形に気をつけろと言ったはずだぞ!?コレで何度目だ?」

《…ご、ごめんなさい……まだ、このパワーに慣れてなくて……》

《……焦らなくて、いい……そのための練習だ……》

「…そうだな、少し焦っていた。すまん」

《少尉は悪くないです!!すみません!!がんばります!!》

 

その音源は伍長の"陸戦型GM"だ。鍾乳石に足を取られ、転びこそしなかったがバランスを崩し手をついていた。

 

現在中尉たちは支給されたMS、"ナナヨン"のテストのため"ジャブロー"地下で走破性訓練兼テストを行っていた。

これはチームとしての動きの訓練も兼ねており、既に訓練を始めてから一週間近く経っていた。

 

《そうですね。しかし、反応は確実に早くなっています。その調子ですね》

《後で音響センサーの反応を調整しておくよ。おやっさん、データよろしくー》

《おう!一度ハンガーに戻ってくれ!新しい武器も試すぞ!》

《「了解!!」》

 

機体を振り向かせ、ハンガーへ向かいつつ考える。

やはり、ヤバい事に巻き込まれたな、と。

 

連邦軍のMSのテスト。そして訓練。それが"ブレイヴ・ストライクス"の初任務だった。

新型のMSはトップシークレットであり、決してバレるワケにはいかない。スパイなどの問題もあるが、人の口には戸は立てられない。些細な事から情報が漏れる事など過去を見れば腐る程ある。

そのためこのような僻地で訓練をしているのだった。

その他の"V作戦"、"RX計画"で生産された奴は専用の射爆場が設けられているが、ウチらにそんなものはない。

 

そもそも現在我々は"存在しない部隊"なのだ。

 

実は"RX計画"は一応の集結を迎え、現在計画は第二段階へ移行しつつあり、それを隠れ蓑にこの部隊は設立した。

 

"RGM計画"。それが隠れ蓑の名前だ。

 

RX-78の純粋な量産機開発計画である。

 

しかしその計画にはまだまだ時間が掛かると予想されたため、RX-78の開発完了に伴い先行量産計画も同時進行されている。

 

それこそ中尉たちの乗る、"陸戦型ガンダム"、"陸戦型GM"の正体だ。

 

しかし、中尉たちの機体は公には"存在していない"。

 

ある1人の准将の独断で、極秘裏に機体が開発され、回されたのだ。生産ラインこそ完成し、稼働し始めているものの、その3機にナンバーは振られていない。

 

そんな事を極秘裏にしでかした男は、今そんな事をおくびにも出さず"ジャブロー"のオフィスで美人に囲まれながらふんぞり返っている事だろう。

 

その男の名前はジョン・コーウェン。

 

その男が設立した極秘部隊、"ブレイヴ・ストライクス"。

部隊のメンバーはMIA(戦闘中行方不明)扱いのままの3人の兵士と、書類上前線へ送られたとされる3人のみ。

 

「……全く。これからどうなる事やら…」

《そうボヤくなよ大将。過去はどうしようもない。ジャックに関わっちまったんだ。どうせならこの状況を楽しもうぜ?いまからお待ちかねの新兵器もテストするんだからよ》

「分かってます。楽しんではいるんですがね。伍長や、上等兵が心配なんですよ…」

《私はだいじょーぶだよ?でも、心配してくれてありがとうね!》

《……そこは、あの准将の事だ……上手く、やってるだろうな……》

《私も大丈夫です。心配要りません》

 

伍長の両親は大とつくレベルの富豪らしく、伍長はその一人っ子だし、上等兵も軍人一家の長女だ。ただの次男とは社会的価値が違うのだ。

 

《たいちょー俺は心配してくれないんですかー?》

「お前は大丈夫だろ。どちらかというと一気に出世出来るかも、だろ?」

《ま、情報を漏らしてみろ?出来るものならな》

《分かってますよーおやっさんー》

 

もう部隊のみんなもお互いに馴染んで来たな、みんな仲良くていい事だ。軍曹もしっかり話せてるし……としみじみ思いつつ機体を操作する。

 

馴染んだのはそれだけでなかった。この機体の操作にも、だ。

 

初めは"ザクII"とのあまりのパワーの違いから機体に振り回されたが、今はもうそれも無い。

 

この"陸戦型ガンダム"は、既に"ザクII"よりも中尉とマッチしていた。

繊細なのに大出力で、素早く、強く、そして何よりも馴染む。レスポンス、反応、キレとも全て高水準で纏まっており、"ザクII"とは比べ物にならない。

 

この性能に中尉は驚きを隠せてはいなかった。

本当にコレがMSと呼べるのか?もはや、"バケモノ"といっても過言ではないレベルだと思う。

 

しかし、伍長にはちとキツいようだった。

今だに"ザニー"の時からの操縦から抜け出せず四苦八苦しているが、最近は転ぶ事も無くなった。

伍長の努力もあるが、頻繁なデータリンクと情報蓄積もそれらを支えている一端だろう。

 

《新装備、開発したヤツから出す!!試してみてくれ!!》

《うわーい!!お楽しみの時間だよ!!少尉!!》

「よし!気合いれてっか!!」

 

おやっさんの声で現実に引き戻され、中尉は改めて気合を入れ直す。

 

"新装備"。それはMSを受領した日におやっさんから提案された物だ。

 

現在用意されている武器はYHIの"100mmマシンガン"だけだ。

 

現在連邦軍にMS運用実績などは完全にゼロであり、それを手探りで作っている状況だ。

 

そのため手探りなのはMSだけでない。MSの携行する武器もだ。なのでおやっさんはMSに乗る3人にシュミレーションを含めあらゆるシュチュエーションで、MSとその武器に必要だと思える物を聞き、試していた。

 

その一環として、試したい武器を聞き開発を開始していたのだった。

 

中尉は"薙刀"と、"ビームサーベル"の形状を刀型にする事。

頭部機関砲ユニットに、胸部は機関砲ユニット、"マルチランチャー"ユニットのオミット、装甲の追加、ダクト位置の変更だった。

自由度の効かない胸部の機関砲は敵機への追従性が低く、また左右非対称の設計は整備が煩雑になると判断したためだった。

そのためオミットしその空いたスペースを利用、ダクトを分割し横向きに、前面には装甲を追加していた。また、来るべき計画されている"ビームライフル"の配備に備えサブ・ジェネレーターの追加に冷却機の強化も行っている。

"マルチランチャー"自体は有効だったため、シールド裏に移した。しかしなんとか重量の増加は避けている。

 

軍曹は"スローイングナイフ"に"スナイパーライフル"。対地歩兵掃討用の"Sマイン"。中尉の"ザクII"で改造が施された足の甲部分の機関砲はスペース的にボツになった。

それに加え狙撃用スコープだった。それ自体は軍曹は必要なかったが、後ほど必要になるのではという判断からだった。

後は通信機能を強化するため頭部、胸部の上部にロッドアンテナを追加した程度だった。

これは狙撃を確実かつ迅速に行うため"アイリス"とのデータリンクを強化するためだった。

 

伍長は"バズーカ"に、"ショットガン"だ。サブマシンガンサイズの"100mmマシンガン"に不安を感じていた事と、射撃があまり得意でないため使用していた散弾銃をMSでも使いたい事に、火力が欲しいとの事だった。

 

「何が完成したんです?」

《大将のは"薙刀"だな。スチール合金を削り出した柄の先に"ビームサーベル"を取り付けたが……収納性などは皆無だぞ?》

「分かってます。取り敢えずモーションだけでも取ろうかと……」

《おやっさん!!私のは!?》

《すまんな伍長!!"ショットガン"はまだだが、"バズーカ"は試作を用意したぞ?火器は難しいからなぁ……コレも試作の試作だ。大将!伍長とMSを降りて人間サイズの試作品をまず試してみてくれ!!》

「了解!!」

《はーい!!少尉!!よろしくね!!》

 

"陸戦型ガンダム"に膝立ちの姿勢を取らせ関節をロック、コクピットハッチを解放し昇降用ワイヤークレーンを展開、足を引っ掛け降りる。伍長も隣で同じ様にする。

 

おやっさんの元に向かいつつ軍曹の"陸戦型GM"を見る。

軍曹は投げナイフが特技だ。つーかなんでも出来るが。生身で約30m先の標的にヒットさせられる。それをMSでやってみようと提案したのだ。

 

MSは人間をそのまま同じサイズに拡大した以上のパワーを持つが、人間と同じ動きが出来る。

それに目をつけ、人型である事を最大限に活かそうとしたのだ。

MSサイズに拡大した"スローイングナイフ"には構造的余裕があり、内部にタンデム方式の成形炸薬を内蔵したのだ。

つまり、"ロケットランチャー"の弾頭だけをぶん投げるイメージだ。

これで、射程距離はともかく、ほぼ"ロケットランチャー"と同等のダメージながら、ランチャーチューブと弾頭そのものに推進機構が必要ないためコストの削減を狙ったのだ。

これによりバカデカくて邪魔になるランチャーチューブを持たずに済むかもしれなくなるかもしれない。投げる分隙も大きいが。まぁ、どうせテストだし。上手くいかなかったらいかなかったで残念賞で済むしな。

 

因みに軍曹は両手利きである。伍長は左利きだ。なので伍長はややOSに癖があり、軍曹が製作、調整を手伝っている。

 

因みに以前中尉は軍曹の投げナイフに憧れ投げ方を伍長と習うがあまり上達しなかった。伍長に至っては投げた瞬間足元に着弾したり、振りかぶった時に後ろにぶん投げたりしやがった。

 

結果、ダーツがやや得意になった。それだけだった。

 

全く出来ず落ち込んだ伍長にスペツナズナイフをプレゼントしたのはいい思い出だ。

 

「軍曹、後でそのモーション、ダウンロードさせてくれ」

「あっ、わたしもお願いします!!」

《……了解、あらゆる投げ方を試しておく……》

 

ヘルメットと一体化しているインカムを通し軍曹に頼み込む。

 

そう、生身で出来なくとも、MSは経験共有(・・・・)が出来る!!

 

コレで俺も伍長も使えるぜ!!

 

ある程度の距離まで接近する必要がある上、隙も大きいが、"バズーカ"を持たず"バズーカ"並の火力を持たせられるかも知れない。我ながらナイスアイディアだ。

 

「……はぁ、ショットガン…」

「まぁ、おやっさんの事さ。直ぐに用意してくれるって」

「そうですね!!"バズーカ"が楽しみです!!」

「おっ、来たな大将!」

「あらあら、聞いての通り、仲がよろしいのですね」

「……はぁ、貴方は?」

 

おやっさんの隣には金髪の美人さんがいた。メガネをかけていて理知的に見えるが、物腰はのんびりとした柔らかい感じだ。誰だろう?

 

「おねーさんは名前なんて言うんですか?」

「あら、名乗っていませんでしたね。私の名前はレーチェル・ミルスティーン。コーウェン准将の補佐役兼補給部隊指揮官で、階級は中尉ですわ」

「これは失礼しました、中尉。私はこの部隊の指揮官です。この度は補給、物資支援感謝します」

「よろしくねレーチェルさん!!」

「あらあらどうも。うふふ」

 

握手をし自己紹介をする。これからもお世話になりそうだ。

それにしても准将、ホントに美人さん好きな。でも、この人も実力の伴った人なんだろーな。

天は特定の人に何物も与えるね、全く。

 

「大将、"バズ"は2パターン用意したが……」

「はい!すみません。では中尉、また後で。伍長も、行くぞ?」

「はい!今度お話しましょう!」

「はーい。待ってますよ」

 

ミルスティーン中尉が手を振っているので振返し別れる。

 

試作の"バズーカ"は二種類あったが………コレ、実質1択だろ……。

 

「……な、なんですか少尉コレ?どうやって使うんですか?」

「……俺も始めて実物は見たが……おやっさん?」

 

何?ふざけてんの?それとも死ねと言ってんの?

 

「……"ザクバズーカ"のコピーをする予定だったんだが、ジャックがオリジナルを……とか言いやがってな……」

「……?………??………少尉ぃ〜わかりませーん……」

「そしてコレを、ってこった。ヤツのオーダーさ。全くのんなジャンクにどんな価値があるのか……」

「……いつの時代にも、旧式デバイスへの熱きノスタルジーを捨てきれない輩がいるものだとは聞いてましたけどね…」

「こんかんデバイスには入んねーよ」

 

試作の"バズーカ"は両方とも先込め式だったが、片方の作動方式がまさかのPIAT(パイアット)方式だった………。

 

バカだ。バカ過ぎる………。

 

パイアット方式とはみんな大好き紳士とパンジャンドラム、撃てる産廃鈍器L85の国イギリスが生み出した"ロケットランチャー"の発射方式だ。

 

バネ(・・)

 

バネである。

 

ランチャーチューブ内に大型のバネが二つ入っており、それを押し込む事で発射準備完了し、引き金を引くとバネが作動、弾頭の雷管を叩くというステキ仕様だ。

 

ステキ過ぎる。何考えてんだよ。メシマズは何やってもダメか?

前食った鰻のゼリー寄せは酷かったな……。もう二度と食いたくない……。あれ鰻に対する冒涜だわ。蒲焼けよ。

 

「………伍長、一応教え……ムリだな」

「なんでですか!!ひどいです!!やってみなくちゃ分かりませんよ!!」

「正気か!?」

「少尉ほど急ぎ過ぎもしなければ、コレに絶望もしちゃいません!!教えて下さい!!」

 

まぁ、やってみなくちゃ分からない。それが大科学実験だよな。

 

「………分かった………頑張れよ?」

「はい!!」

 

"バズーカ"を抱きかかえる伍長に覆いかぶさるようにし、手を動かす。二人羽織のような姿勢だ。

 

「まず先端を地面に付けて押し込む。そのあと90°捻ってロック……」

「え、えと……あ、え?はい…」

 

なんか元気なくなったな?なんでだ?

 

「よし、やってみろ!」

「は、はい!!」

 

ややはにかんだ様子の伍長が作業を始める。なんで?伍長が好きなのは軍曹じゃねーのかな?

 

ばよよーん! という間抜けな音と共に伍長が宙を舞った。

おやっさんが爆笑し、遠くで見ていたミルスティーン中尉が口元を押さえ肩を震わせながらそっぽを向いている。

笑っちゃ、マズい、かなぁ…コレ。スゲーシュールなんだけど………。

 

「……やっぱりか。大丈夫かー伍長?」

「…うぅ、押し込めません……」

「……背が足りないんだよ。それに筋力も体重も。168cm以下だって危険だって言われんのに……」

「うははははっ!!やっぱりか!!」

「……うぅ、少尉ぃ〜…」

 

泣きつく伍長を抱きとめつつおやっさんに向き直る。コレをヤりたいが為につくっただろ。

 

「……まだ良かったよ。背ぇ足りん奴は顔面直撃コースが大半だったからな…」

「……うぅ、早く大きくなりたいです……」

 

 

 

 

 

 

もうムリだろ。

 

 

 

 

 

 

『笑える内に、笑おう』

 

 

 

地下から、戦場へ………………




パイアットはあっという間に消えました。まぁ当たり前だね。

因みに"バズーカ"も商品名に近いですね。米軍のM1バズーカから?だと。でもこれはほぼコレとして浸透しているので。ドライアイスみたいなもんです。

オタクの中尉はともかくおやっさんはなぜ知っていたのか?

それは永遠の謎です。

"スローイングナイフ"の元ネタは、アレです。

人型の特性から自分が考えた答えです。

取り敢えずバズは先込めでパイアットじゃない方に。


次回 第三十六章 中尉は戦場へ行った

「価値はあるものなんて事は決してありません。創り出し、見出すもの、と私は定義しています」

お楽しみに!!

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