機動戦士ガンダム U.C. HARD GRAPH 名も無き新米士官の軌跡   作:きゅっぱち

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中尉の訓練教官編、完結!!

新シリーズ、始動!!

そして、物語は、音を立てて動き始める。

伝説の"一角獣"は伝説ですが、"獅子"は、伝説ではありません………。


第三十二章 À mon seul désir『私の、たった一つの望み』

過去に、二度、大戦があった。

 

各国が総力を持って、削りあった大戦があった。

 

技術力を結集し、国民を、国土を巻き込んで。

 

この戦争、後の世の人は何と呼ぶのだろうか?

 

それとも、アインシュタインの言う通り、全滅なのか。

 

白亜の巨人は、答えてはくれない。

 

 

 

U.C. 0079 7.14

 

 

 

「中尉、ここにおられたのですね」

 

その声に振り向いた中尉は、怪訝な顔をして振り向いた。

 

「……何か用ですか?使用中のランプは点灯しているはずだったのですが……」

 

現在中尉は"ジャブロー"の射撃訓練所で伍長、軍曹を交えた3人で射撃訓練中だった。

 

中尉はマテバの回転式弾倉を開放、薬莢を排出しクイックリローダーを使わずリロードしている最中だった。

その奥では軍曹がライフルを抱きかかえ伏せ撃ち(プローン)の姿勢で射撃を行っている。800m先の動くターゲットの真ん中にしか当たっていない。しかもピンヘッドばかりだ。伍長も少しでもいいから見習って欲しい。

 

ったく、リボルバーへのリロードは、銃に命を吹き込みその息吹きを聞く革命(レボリューション)だと言うのに……。

 

なぜ呼び止められたんだ?今日は訓練も、何も無い。もちろん悪い事もしてないぞ?……あ?伍長またなんかやらかしたか?

 

「あっ!いつぞやの美人秘書さん!!お久しぶりです!!」

 

そこへ来客に気づいた伍長がデザートイーグル片手にやって来た。

伍長はハンドガンを撃つ時は利き手である左手の手首を右手で抑えるドイツ撃ちをする。伍長の手は細く脆いため、手首はテーピングでグルグル巻きである。ちなみに自分では巻けない。湿布も1人では貼れない時点でお察しだが。

 

デザートイーグルは小柄な伍長の小さな手から大きくはみ出しており、目の前のターゲットもほぼ無傷という有様だったが。デザートイーグルは口径こそ.50と言う、量産品では世界最大クラスではあるが、巨大な銃身、重めの重量にハンドガンには珍しいガス圧作動方式などから反動はそこらのマグナム弾を使うリボルバーよりはマシだと言うのに……。

因みにその隣にはカスタムショットガンも置いてある。なぜか正式採用品が一つもないカオスな場だった。

 

「……コーウェン准将の秘書さんですか!お久しぶりです」

「お久しぶりです中尉。それに伍長も」

「……誰だ……?」

「始めまして。貴方の事は聞いておりますよ。何も最強の戦車乗りだとか」

「……買い被り過ぎだ……」

 

そうでもない気がしないでもないが……まぁ、どうでもいい。

 

「…ところで、ご用件はなんでしょう?わざわざここまで来たのですから……」

「はい。中尉、伍長、それに軍曹。3人に出頭命令が出ています。ヒトマルサンマルにジョン・コーウェン准将の執務室へ来てください」

「はい」

「はーい!」

「……了解…」

「以上です。では失礼します」

 

それだけ告げて帰って行った美人秘書さんを見送り、伍長が口を開く。

 

「なんでしょうね?がんばったからご褒美ですかね?」

「頑張ったって……何を?」

「え、え〜っと……訓練?」

「……それは、義務だ…」

「え!?なら……う〜ん……」

「……無いならなぜ言ったんだよ………ま、取り敢えずお片づけしますか」

「はーい!さぁて……きゃっ!」

 

薬莢を踏んで足を滑らした伍長を慌てて抱きとめる。自分で出したヤツで何やってんだよ。

 

「ご、ごめんなさい!!」

「いいから、落ち着こうな」

「!? ひゃっ、あわわわ……」

「話聞いてる!?」

「……片付け、終わったぞ……」

「…………すまん軍曹……」

「………ごめんなさい……」

 

軍曹が既に終えていた。タッチパネルでターゲットボードの処理までしていた。ごめんなさいとしか言いようが無かった。

 

「……整備は、時間が無いな……」

「なるたけ早く行くか、最近宇宙港エリア制限とかチェックとか厳しいから、入るの時間かかるし…」

「少尉ー、この耳当てどこにやるんでしたっけ?」

「奥のハンガーな。おい、行くぞー伍長!」

「わわっ!待って下さい!!」

 

ジョン・コーウェン准将からの呼び出し、か……。

なんだろう、MSの事か?"フラック隊"の"ザクII"F型に何かあったとかか?

 

「なんでしょーかねー?ほんとーに?……ご褒美ならいいなぁ……」

「何をそんなに……何か欲しいのか?」

「……聞いた話なら、MS関連、か……?」

「"フラック隊"の事とかか?それも考えたんだが、それだとしたら何だ?最近宇宙港エリアが騒がしい事と関係ありそうだよなぁ……」

「その噂聞いてますよ!!なんでもヘンテコな戦艦作ってるって言う話らしいですねぇ…」

「……戦艦……」

 

軍曹運転のエレカがハイウェイをひた走る。"定期便"が天井を揺らすも、もう気にも止めない。パラパラと降る欠片が、ここ"ジャブロー"でジオンの存在を示す唯一の存在だった。

 

「止まれーっ!!」

 

ピーッという笛の音に軍曹がブレーキを踏み込む。検問だ。

 

「何者だ?IDカードを出し、所属を言え」

「……分かった…」

 

軍曹が対応している間、伍長が話しかけてくる。

 

「……毎回毎回めんどくさいですよねぇ……何とかならないもんですかねぇ……」

「……そう言うなよ。でも、前は確かに無かったよなぁ…」

「よし、いいぞー!」

「……どうも……」

 

エレカが滑り出し、目的地へ進んでいく。

 

「…そういや軍曹、RTX-44はどうだ?」

「……戦車としては……落第点……MSなら、まあまあ…」

「やっぱしかぁ……伍長は?"ザニー"は?」

「もっと操作を簡単にして欲しいですね」

「……前も聞いたよ…ソレ。それ以外に何か無いのか?」

「カッコよくして欲しいですね!」

「……うん、伍長はバカじゃないな。聞いた俺がバカだった」

 

そうこうしている間に既に着いていた。エレカを降り、執務室へ。前にはまた美人さんが立っていた。

 

「中尉以下3名、コーウェン准将の命で出頭しました」

「はい、お待ちしていました。中尉はどうぞ中へ。准将が中でお待ちです。2人はここでお待ちください」

「えっ」

「えっ」

「……了解…」

 

なら何のために呼んだねん。辞めてよまた心細いよ。

 

中へ入る。中には准将の他にもう一人男が立っていた。壮年の厳ついおっちゃんだ。誰?俺の知り合いにはこんなおっちゃんいないよ?つーか顔こえーよwツァリアーノ中佐を思い出すわ。

 

「お久しぶりです准将……そちらの方は?」

「そうだな中尉。また会えて嬉しいよ……自己紹介したまえ、B・B」

 

准将がいつもの笑いを浮かべながら言う。准将の言葉にやや眉をひそめながら、男が挨拶をする。

 

「……俺は地球連邦軍地上軍ヨーロッパ方面軍ヨーロッパ軍特殊作戦コマンド部隊"フラック隊"隊長、バックス・バック少佐だ」

「始めまして。少佐。私はここでMS訓練教官をしている…」

「あぁ、その事だがね中尉」

 

その時准将が呼び止める。なんだろう?

 

「…はい?なんでしょう?」

「……このバック少佐が新しい訓練教官となる。引き継ぎの手配などは既に済ませてあるから安心して欲しい」

「はっ!………はぁ!?」

 

とんでもない事をさらっと言ったぞこのおっさん!!

つーか俺どうすんだよこれから!!無職か!?無職なのか!?

 

「……という事だ、中尉。今までご苦労だった」

「………は、はい…」

「では下がりたまえ少佐、いや、新教官」

「はっ!失礼します……」

 

おっちゃんが敬礼して部屋を出る。ん?なんか……違和感?が……。

 

「……気づいたかね中尉。少佐は優秀な軍人だったのだが……膝に矢を受けてしまってな……」

「えぇっ!?」

「……冗談だよ。しかし、傷痍軍人という事には変わりない」

「そうだったのですか……ところで、要件はおしまいでしょうか?それなら私は元の警備の仕事に……」

「おっと、待ちたまえ中尉。話はまだ済んではいないぞ……そう急ぐな…」

「は、はぁ……」

 

なんだよ。こちらとて色々混乱してるのに。それに、"フラック隊"か……"セモベンテ隊"の中佐は元気かな?

 

「どうかね?歩きながら喋らんかね?こうデスクワークが多くては身体が鈍ってしょうがないのだよ……」

「はぁ……お付き合いしますが……」

「やぁ、伍長に軍曹。久しいな。これから散歩だ。付き合ってくれ」

「……了解…」

「はーい!あっ、用ってこの散歩ですか!どこに行くんです?」

「"いいところ"だよ。さぁ、行くぞ中尉。ついて来い」

「はっ!」

 

4人で歩きだす。その時前から誰かが走って来た。

 

ヒーリィ中尉にブレビッグさんだ。その後ろには少佐の歩み去る後ろ姿が覗いている。

 

「中尉!!聞いたぞ!!教官を辞めるって!!」

「中尉!何でよ!途中で投げ出す気!?」

「……あ、あの、お二人さん、落ち着いてくだ…」

「落ち着いていられるか!何でだ!教えてくれ中尉!!」

「そうだよ!私達なにも聞いてないよ!!」

「……いや、コーウェン准将の前なので……」

「「!!」」

「……………」

 

2人が驚いたように身を強張らせ、敬礼する。

それをにやにやと見つめる准将。特にブレビッグさんの胸を。セクハラです准将。それに伍長!悲しげに自分の胸をペタペタ触るな!!フツーだ!!

 

「「こ、これは失礼しました!!」」

「ん、かまわん。話があるのだろう?これが今生の別れとなるかもしれん。言っておきなさい」

 

今またさらっととんでもない事を……今生って!!!?

何?俺死ぬの?

 

「中尉……」

「……ヒーリィ中尉。中尉はあらゆる面で優秀で、それでもって優しい人です。きっと、第一期生として首席も狙えるでしょう……俺より指揮官に向いています。

だから、自分を強く持って、変幻自在に形を変える、水の様に柔軟な思考を持つ事です。

………絶対に生き残って、共に終戦を迎えましょう!!」

「……分かりました…中尉…いや、教官!!今まで、ありがとうございました!!ご健闘を…!!」

「おしまいなんかじゃ、ないさ……全部終わったら、またひとつ始まるんだよ…」

「……あぁっ!!」

「また、会おう。がんばって下さい」

 

中尉と力強く握手をする。その力強さに安心をする。

中尉なら、やれる。絶対にやってくれる。

 

「ブレビッグさん。今までたくさんお世話になりました。ありがとうございました。

……それと、中尉を、支えてあげてください。中尉は、優し過ぎるから……」

「あぁ!!分かったよ!任せな!!中尉も、お元気で……絶対!!生きて帰るんだよ!!」

「はい!では!お二人ともまた!!」

「軍曹!伍長!!中尉を頼んだよ!!」

「また会おう軍曹!!それに伍長も!!絶対に!!」

「はい!!お元気で!!」

「…あぁ…任せろ……」

 

2人が離れて行く。見守っていた准将が口を開いた。

 

「……いい、友を持ったな……」

「はい!この2人と同じ、大切な仲間で、自慢の教え子ですから……」

「……ふむ、そうか……では行くとするか……」

 

そのまま建物の外へ出る。

……………まさか、本当に散歩だとか言うなよ?

だったら泣くよ?

 

「……そう言えば、"セモベンテ隊"について、何か聞いていませんか?お世話になったので、知っていたら……」

「あっ、それ私も気になります!!あれからきっともっとなんかやってそうですよね!!」

 

取り敢えず気になっていた事を聞く。MS関連なら一番知っているはずと踏んだからだ。

 

前を歩く准将は、振り返らずただ一言、言った。

 

「………全滅したよ…」

「「!?」」

「…そ、んな……」

「……それは、本当ですか……?」

「……………」

「……確かな情報だよ。敵の新型兵器と交戦、なんとか、相討ちに持ち込んだそうだ」

「……そう、ですか……」

「……しょう、い……」

 

ショックだった。あの中佐が………。

しかし、当たり前(・・・・)と言ったら当たり前(・・・・)だ。

人は死ぬし、いまは戦争だ。

それが、当たり前になる状況。なってしまう状況。

それが、戦争なのだから。

 

「……伍長。今は泣く時じゃない……」

「………はい……」

「…………………」

 

そう、悲しいのは俺も、軍曹も変わらない。

だけど、中佐なら言うはずだ。

『泣く暇があるなら、敵を撃て』と。

『このバカげた戦いの、終結を勝ち取れ』と。

 

「………さて、ここだ……」

 

大きな両開きの扉の前に来ていた。その大きな扉の前には人が2人。

 

「おう!遅いぞジャック!!いつまで待たせる気だ?」

「そうだな。人を待たせるのは良くない…」

「すまんな。少しヤボ用があってな……」

 

その男は、慣れ知った顔をしていた。

 

「お、おやっさん!?」

「えっ!わっ!!ホントだ!!」

「……久しいな……」

「おう!久しぶりだな大将!!元気にしてたか!?」

「……い、今まで……どこに!?」

「あちこちだ。あ、ち、こ、ち」

「おーおー。泣ける感動の再会劇だ。だが、本題はこっちだ。でしょう?准将殿?」

「そうだな。3人とも、この中だ」

「えっと、この人は?」

 

もう1人の男は、痩身と呼べるくらい痩せた身体に、ボサボサの髪、それにメガネをかけた男だった。

 

「俺の名前はアルフ・カムラ。技術士官だ。階級は大尉。よろしくな?中尉。話は聞いてるよ」

「よろしくお願いします。大尉」

「よろしくね?」

「……よろしく…」

 

値踏みするようにジロジロ人を見る人だな。まぁ、そういう役職なんだろうけどさ?でも、人を何だと思ってんだろ?

 

「……ジャァぁックゥ……?全く久しぶりだとおもったらぁ?まぁた太ったかぁ?……まぁ相も変わらず元気そうで何よりだ」

「そういうお前も白髪増えてるぞ?……が、再会を祝し、今日は飲むか?」

「そうこなくっちゃ!!いい酒、あるぜ?」

 

そしてそこの2人は何やってんの!?何でそんな仲いいの!?

 

用事とやらは今だに分からないが、どうやらこの士官が知っているようだ。

 

「さぁて、役者もそろったな?これで全員か?准将殿?」

「そうだ。始めてくれ」

「だとよ?おやっさん?」

「よしきた! ナァウ、イッツ、ショォータァーイム……!!」

 

おやっさんの合図で大きな扉がゆっくり開いていく。中から白いガスがゆっくりと流れ出し、足元を染めて行く。

 

真っ暗な扉の中に、音と共に明かりが灯った。

 

「どうだ?俺が設計したんだ……素晴らしい出来だろ?」

「いぃーだろう?驚いただろう大将?!たぁだうろついてただけじゃなかったのさ!!」

「……ようやく、ここまで来たんだな……」

「……こ、これは……シュミの世界だねぇ……」

「………わぁーっ!!カッコいい!!」

「……モビル…スーツ……」

 

目の前でケージに収められ、ライトに照らされた白亜の巨体がその姿を白日の下に晒している。

 

白く、力強く逞しく手足に、紺色の胴体は大胆にも前面に大型のダクトと機関砲らしき物が設置されている。

頭部には、特徴的な鋭い双眼(デュアル・アイ)に、目を引く大型のV字アンテナ(マルチ・ブレード・アンテナ)がそそり立っていた。

 

「気に入ったか?こいつの名前は、"ガンダム"」

「……ガン……ダム………」

 

その名前の、なんて心強く、頼もしい事か……。

 

「形式番号、RX-79[G]。"試作先行量産陸戦特化型ガンダム"。……あんたの機体だよ。中尉」

「………これが……俺の……」

 

目の前の巨人の双眸が、鈍く光った、そんな気がした。

 

 

 

『最っ高のマシンだろ?そうは思わないか?』

 

 

 

眠れる獅子が、目を覚ます…………………




俺が!!

俺達が!!

ガンダムだ!!!


希望と可能性の象徴、ガンダム、始動!!


次回!!機動戦士ガンダム U.C. HARD GRAPH 名も無き新米士官の軌跡!!

『T・B・Sにようこそ!!』

絶望を斬り裂き、その手に勝利を掴むか!ガンダム!!

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