機動戦士ガンダム U.C. HARD GRAPH 名も無き新米士官の軌跡   作:きゅっぱち

40 / 84
まだ続きます訓練編。

というよりクロス編。

クロスが無いと読めないレベルにつまらん気がする。

連邦はよMS作れや!!


第三十一章 中尉の訓練教官奮闘記④ 事件編

君は、こんな不安を抱えた事は無いか?

 

君の目の前にある物のなかに、完全に理解している(・・・・・・・・・)物が一つもない事に。

 

周りを見回して見たら分かるはずだ。

 

"使える"だけで"理解"出来ない物しか無いはずだ。

 

それは、物だけではない。自分さえもだ。

 

そんな"得体の知れない物"に、

 

己が身を全て預け切り暮らしている事に、

 

不安を覚えた事が、君は本当に無いか?

 

 

 

U.C. 0079 7.8

 

 

 

中尉は"ザクII"のコクピットの中で荒い息を吐いていた。

 

柱の影に隠れ、息を整え、戦術を練る。

 

レーダーセンサーには前方11時方向から2機、4時方向から1機、後方7時方向から1機の敵機が迫っている事を告げている。機体のメインコンピュータが前方の2機をA1(アルファワン)、A2、右の1機をA3、後方の1機をA4と呼称、サブディスプレイに最優先ターゲットとしてアップする。

 

「ッ!!」

 

アラートが鳴り響くのに気づくないなや"ザクII"を操作し4時方向へ回避する。その攻撃はA2からだ。転がり膝立ちになった瞬間スラスターを吹かし、方向転換しつつ後ろへ跳ぶ。

 

強烈なGを物ともせずそのまま斬りかかりA4を倒すと、振り向きざまに引き寄せ、動きに釣られたA3に"ザクマシンガン"を叩き込む。

 

「……っふ!!」

 

時間にしておよそ15秒、斬りかかるA1を左手に構えた"ムラマサ"でいなし、"ザクマシンガン"を撃とうとした瞬間、"ザクII"の胸部に120mm低反動砲が直撃した。

 

『訓練終了ーっ!!』

 

けたたましいビープ音が鳴り、中尉は動きを止めた。"ザクII"は青いペンキでベトベトだ。すごい申し訳なくなってくる。

いい加減にレーザー式の撃墜判定装置が欲しいなぁと、"ジャブロー"の高い天井を見上げつつふと思った。

 

「今の作戦は見事でした。ヒーリィ中尉の案ですか?」

「はい。荒削りで、各パイロットの腕に依存していましたが……どうでした?」

「……やはり連携だな。伍長、お前が遅れてたぞ?」

「……うぅ、がんばったんですけど……」

「カジマ少尉も、まだ動きが直線的過ぎでしたね。MSは戦闘機とは違います、もう少し対MSとして煮詰め直したらもっとよくなると思いますよ」

「……了解した。参考になるな」

「最後の狙撃は指示か?」

「いや、違います。軍曹の独断です。助かりましたが……」

「……MS用の、ライフルが欲しい、な……」

「……よし、じゃあご苦労様でした。もう一度シュミレーションルームへ戻ってください。あ、軍曹は"ザニー"でランニングだ。今走ってるやつに着いてやってくれ。ヒーリィ中尉はこのままで」

「はーい!」

「了解した。教官殿の動き、参考にさせてもらう」

「……了解…」

 

"ザニー"を用いた演習を終え、ブリーフィングルームで反省会をする。今回は中尉一機相手に2個小隊での包囲戦の訓練だった。最終的に中尉は撃破されたが、ヒーリィ中尉率いる部隊その半数である3機が撃破されてしまった。1機は不意打ちで。もう2機は囲んだ時だった。

 

三者三様の反応でブリーフィングルームから出る軍曹達を見送った後、ヒーリィ中尉と向かい合い座る。後ろには臨時で指示を出していたオペレーター養成コースの女性オペレーターもいる。

 

「……これはまた派手にヤられてしまいましたね。やはり、1機目が撃破された時点で機動運用のパターンを変えるべきでしたね……」

「1機目の不意打ちからの立て直しは早くなっています。そこは大丈夫でしょう。ヒーリィ中尉は隊長をやってどうでした?」

「……散開し包囲した時の連携が……カジマ少尉がやや出過ぎていて、そのフォローに入ろうとした伍長が一撃で撃破されましたからね……」

「……伍長、ヤられる時は一瞬だからな……時折凄い粘り強いのに……」

「その時は最も近い、と言う理由で任せたのですが……ヒーリィ中尉に任せるべきでした。これはオペレーターである私のミスですね……」

 

3人で話しつつ問題点を挙げて行く。今回は総合成績トップのヒーリィ中尉を隊長に、シュミレーター成績トップのカジマ少尉、ベテランかつ狙撃兵としても優秀な軍曹をチームにするも、その他が撃破されてしまった。

 

「……やはり、実力が伴わないのとチームはムリですね。動きを見ても、撃破された3人が基本的に足を引っ張ってるな……伍長、もちっと頑張れなかったのか……」

「……伍長は私の指示に従い、しっかりフォローしていましたが……」

 

その時中尉に呼びかけがあった。どうも演習場でトラブルがあったらしい。

 

「……仕方ないですが、ここでタイムアップのようですね。2人は反省を続けて下さい。後でデータ、よろしく頼みます」

「はい。分かりました」

「…教官、ありがとうございました。……これは贔屓にはいりますかね?」

「…ほぼ友人としての繋がりに近いですから大丈夫ですよ。プライベートでも同じ事やってるじゃないですか」

「…そうでしたね。では、これで」

「はい。では、演習場へ向かいます」

 

走りつつ軍曹と話す。今使われているのは演習後の201号機と202号機、それに軍曹の予備機008号機だ。

 

「どうした!?」

《……緊急事態の、マシントラブルだ。202号機がランニング中、突然右脚部が大破、擱座した……》

「! 今から"ザクII"で向かう!念のためエンジンカットさせ、待機させてくれ!乗員に怪我は!!?」

《……通信する限り、無事だ……怪我も、無い………》

「………良かった……」

 

恐れていた事態が、遂に起きてしまった。走りながらもう一人へ通信する。

 

「ブレビッグさん!!緊急事態だ!!トレーラーを1台、第1演習場に回してくれ!!」

《!! 分かったよ!2分頂戴!!》

 

中尉は走ってハンガーに向かい、キャットウォークから"ザクII"に乗り込む。ヴェトロニクスを起動し、ハンガー整備員達へ指示を飛ばしつつ動き出す。

 

「中尉ー!」

 

ブレビッグさんがトレーラーから身を乗り出し呼んでいた。

 

「こっちです、なるべく急いで下さい!!」

「あいよ!中尉の頼みなら断れないね!!」

 

アニー・ブレビッグは軍人でなく、軍属の整備実習教官兼"ザニー"、それに中尉の"ザクII"の整備全般を任されている整備班班長(メカニックチーフ)の女性だ。

幾度となく意見を交わし、技術的な面での話はかなりしているため、お互いかなり信頼しあっている。整備員としての腕も一流だ。

特にそのMSに対する知識には特筆すべき点があり、ヒーリィ中尉と戦術を考える時にも同席してもらい、意見を貰うぐらいだった。

それもそのはず、おやっさんの愛弟子らしい。

らしい、というのはおやっさんが今だにどっか行ってるからだ。

なので現在中尉の"ザクII"の整備も一手に請け負ってもらっている。それもおやっさんからの頼みらしい。

 

「全く、このMSというものは堪らないね。退屈しないよ。でも複雑なのよね……」

「そこは同感ですね。戦場での応急処置は最低ラインも厳しいですし……」

「きっと、MS(コレ)は日本製だね。間違いなく。日本人は何でもかんでもこだわって、複雑にするんだから…」

「それは偏見ですが、まぁ……細部に神は宿ると言いますし……」

 

現場に到着する。右脚が膝から下が千切れ飛んだ"ザニー"を、2機の"ザニー"が囲んでいる。結構な損壊だ。

時折軍曹や伍長を教官代理としていたが、軍曹でよかった。伍長なら一緒にパニックを起こしてそうだし。

 

「軍曹!!大丈夫か!!」

《……問題無い。今から、動かす》

「よし、今から特別訓練開始だ!!訓練内容は擱座した味方の救出!!この場面は戦場で多いぞ!!では、とりかかるぞ!!」

《……了解…》

《は、はいっ!!》

 

もう1機の"ザニー"に『訓練』を強調し呼び掛ける。まぁ、実際に訓練でもやってるし、緊張をほぐすためだった。

 

「よし、まず仰向けに起こすぞ、慎重にな……」

《はい!》

《早パパッとく頼みますよ?丁寧にね?こちらとてひっくり返ってんすからぁ》

《……軽口が、叩けるならいいな……》

 

やはりベテラン、トラブルには慣れているようだ。このような軽口は現場ではそうとう助かる。やはり、MSパイロットとしてはヒヨッコでも、兵士としてはベテランだった。

 

「201号機が左腕を、008号機が右腕を、そう、そのまま……」

「…〜っ、あ〜、酷い目にあったぜ全く!」

「怪我はないか!?」

「大丈夫だぜ?こいつは足千切れてっけどな」

「念のため医務室へ!衛生兵!頼んだぞ!!」

《お任せあれ!!さあ、こちらへ!》

「心配性だな〜教官殿も……」

 

"ザニー"が抱え上げられ、仰向けにされる。コクピットから這い出したパイロットは無事な様というのは確かだった。

 

「008号機と201号機は202号機をトレーラーへ、俺は脚を運ぶ!ブレビッグさん!固定頼みます!」

「あいよ!!皆、仕事よ!!」

「「おう!!」」

 

軍曹が細かい指示を出しつつトレーラーに"ザニー"を安置するのを横目に、"ザニー"の右脚を拾う。グズグズの断面が、ただのマシントラブルでない事を告げていた。

細かい破片は整備員に任せ、トレーラーに置く。それを整備員達が手早くワイヤーで固定して行く。その様子はまるで「ガリバー旅行記」のガリバーを取り押さえる小人の国の住人のようだ。

 

「よーし、出すよー?」

「よろしくお願いします。軍曹達もお疲れさま。ハンガーに戻って下さい。残念ながら特別手当などは出せませんが……」

「いえ、いい経験になりましたから……」

「そう言って頂けると助かります」

 

ハンガーに戻りMSをケージに戻す。この動作ももうお手の物だ。

降りて一息ついた所で、軍曹がコーヒーを持ってきた。

いつもそうやって持って来てくれるのは嬉しいが、どうやって用意してるんだろ?いつも本格的で淹れたてなんだが……持ち歩いてるのか?ほぼ全員がハーブの調合セットを持ち歩いているラクーンシティの住人かよ。

 

「……中尉…」

「ありがとう。いつもすまないな。今日も巻き込んでしまった……」

 

2人で"ザクII"と"ザニー"を見上げる。

 

エイガー少尉が開発した最新鋭MS"ガンキャノン"の姿を想像する。現在生産を始め、既に4機生産されているらしい。

最終的には6機先行量産し、3機を移送する、と言っていた。

 

見る事は叶わなかったが、嬉しい事だった。お互い、連邦の勝利のために頑張りたい。それなら、この新鋭ポンコツ(・・・・・・)にも付き合ってやろうじゃないか。

 

「中尉ー!私も混ぜてよ!」

「……構いませんよ。軍曹、コーヒーまだある?」

「……肯定。問題ない…」

「おっ、さんきゅー。隣、座るよ」

 

3人でコーヒーを啜る。ブレビッグさんが口を開いた。視線は"ザニー"に注がれていた。

 

「……あの"ザニー"、突然関節がロックされたようになって、転んだってさ…」

「……"パルス"の方ですか?"フィールド"の方ですか?それともソフトですか?」

「"フィールド"と、ソフトさ……"フィールド"は試験型のヤツだから、何とか換えは効くけど…どうする?」

「……やはり、か……」

「…予備パーツは?」

「…足周りが半機分、って、ところかな?それでも、全機ガタき始めてるよ…」

「……202号機はバラして、007号機を202号機にして下さい。なるべく008号機も使わない方向で行きます」

「……あいよ。ざんねんだね」

「……仕方が、ないさ……中尉の、"ザクII"は?」

 

ブレビッグさんがコーヒーへ目を落とす。その横顔は寂しげだった。

 

それもそうだろう。メカニックとして、どう足掻いても整備し切れない機体を担当しているのだから。

 

「……持たせる……持たせて見せるよ。私に任せな!」

「はい!ヒーリィ中尉にもよろしく!」

「コーヒー、ありがとうね……じゃ…」

 

笑顔を見せ手を振り、そのまま歩いていく後ろ姿に手を振る。

 

「……軍曹、戦車隊とまた提携出来ないか打診してくれないか?RTX-44の訓練も兼ねてさ…」

「……掛け合ってみよう…」

 

目の前で"ザニー"の頭部バイザーセンサーに付着していたペイントが洗い流される。

 

その姿は、まるでその生まれの不幸を呪い、涙を流しているようだった。

 

 

 

U.C. 0079 7.11

 

 

 

「教官、最近シュミレーターばっかで、"ザニー"の実機訓練がだいぶ減りましたけど、何故です?」

 

遂に来たか……誤魔化し誤魔化しやってたんだがなぁ……。

 

何気ない一言だったのだろうが、それは中尉には罪を暴く断罪の一言に聞こえていた。

 

「……それについて話があります。全員、現在の作業をやめ、ハンガーに集合して来てください」

 

全員会話をやめ、こちらを見る。

 

「教官!それは"フラック隊"の事でありますか?」

 

今"ジャブロー"は、つい最近"ジャブロー"に帰還した特殊作戦コマンド部隊であり、試験"ザクII"運用部隊の話で持ちきりだった。

 

「……近いですが、遠いですね。"ザニー"の事です」

「「?」」

 

全員でハンガーに到着、"ザニー"の前に立つ。気分は工場見学だな、と考えやや気持ちが軽くなった。

 

「……"ザニー"に乗って、何か違和感とか、ありませんでした?」

「?」

「カッコ悪い!」

「……まぁ、正しい…」

「操縦が煩雑でしたね」

「だいぶ改善したんですけどね……近いです」

「見た目と性能に差がありますね」

「……当たりです………」

「「?」」

 

一息入れる。言って言いかは分からない。だが、言わなければ進めない。そうしないと、今このハンガーの片隅でバラバラにされシートが掛けられている"ザニー"に申し訳が立たない。

 

「……この、"ザニー"は、"ザクII"のデッドコピー以下のものなのです。ジオニック社から極秘のルートで流されたパーツに、戦場で回収された残骸、それらを連邦のパーツで繋ぎ合わされ作られた、キメラなんです」

「「…………………」」

 

全員が全員、目を見開き絶句していた。そうだろう。聞かされていた連邦の最新鋭機の正体が、ジャンクパーツの寄せ集め以下だと知らされたのだから。

 

「……稼働率も落ち、機体もそろそろ限界です。俺の"ザクII"からのパーツ取りも始まってます。気付いている人も多いと思いますが、1機は機能不全で大破しました」

「……機体の個体差の原因はそれだったのか……」

「………なんてもんに俺たちは身を預けてたんだよ……!」

「……謝って済む事とは思っていません。何とか、"ザクII"の手配がついたので、伝えておこうと思ったんです……この事は、箝口令をひき、他言無用でお願いします」

「「………………………」」

「………そして、今まで黙っていて、すみませんでした………許される事では無いと、自覚していますが………」

 

頭を下げる。それしか、出来なかった。

 

「…………なーにやってんすか教官?そんなの全然すよ?今まで生身で"ザク"ともやりあってきたんすよ?俺は」

「そーです頭上げてくださいよ!頭下げんのは俺らですよ?」

「そうですよ!コイツにはお世話になりました!お礼を言わなきゃバチが当たりますよ!!」

「教官!パーツ取りが逆ですよ!!何やってんすか!!」

「…………みなさん…」

「まだ行けますよ!例え爆発しても、俺たちに後悔はありません!!」

「おら!前お前が転んだせいだろこれ!」

「そーゆーあんたも教官に叩き伏せられてたじゃないか!!」

「……………ありがとう……」

「さ、訓練始めましょ?教官」

「そうすっよ!!今度こそ負けませんよ!!」

「俺たちもヤレるんだと、"フラック隊"に目に物を見せてやりましょう!!」

「……分かり、ました……じゃ、今日もいっちょ、訓練、始めますか!」

「「サー!イエッサー!!」」

 

ありがとう。笑顔で笑う訓練生達に、中尉はもう一度、深く頭を下げていた。

 

 

『…………!!』

 

 

白亜の巨人が、伝説の"白い悪魔"が、歩き出す……………




このクソつまらん訓練編は次、ようやく終わる予定です!!

やったね!!

中尉は知りませんが、U.C. 0079 7.7、遂に連邦軍にガンダム神話を生み出した伝説のMS、RX-78-2の雛型、RX-78-1プロトタイプガンダムロールアウト!!因みにまだルナ・チタニウムの下地丸出し、特徴的なV字のマルチブレードアンテナも付いておらず、腰の前ものっぺりしたジム形ですが。

しかし本格稼働は3ヶ月後!!しかもその時1号機半壊!!

連邦軍!!働いてくれぇ!!

次回 第三十二章 『私の、たった一つの望み』

「……うん、伍長はバカじゃないな。聞いた俺がバカだった」

お楽しみに!!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。