機動戦士ガンダム U.C. HARD GRAPH 名も無き新米士官の軌跡   作:きゅっぱち

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名前の通り、中尉がダラダラするだけです。

コレ、ガンダム?

ガンダムでギャグ調の日常マンガ書いたら売れると思う。

ガンダム+日常系の奇跡のコラボ的な?


第二十七章 ダラダラ日記

社会の歯車、という言葉がある。

 

いくらでも換えが効き、誰でも出来る、という事だ。

 

普段は侮蔑の言葉であろうこの言葉は、もう一つの側面を持つ。

 

その意味は、単純明快であり、真理だ。

 

歯車が無ければ、世界は回らないのだ。

 

その歯車が、どんなに小さかろうとも。

 

 

 

U.C. 0079 6.23

 

 

 

「………暇だ…」

 

思わず呟く。巡回の仕事も終わり、トレーニングも済んだ。基地施設も回ったし、"定期便"も見上げたりもしたが…。

 

「…そうですね……」

 

となりで伍長も呟く。手には読み込まれ擦り切れた"ガンクラブ"が握られている。

 

あれからかれこれ約一週間、本当に暇だった。まぁ、平和って事だよな。この、ロクでも無い、素晴らしき世界へ乾杯!全く。

 

今中尉は伍長の部屋にいる。伍長があまりにも暇すぎて呼んだのだ。将棋など教えてみたが、お気に召さなかったようである。

 

「……どうします?」

「……書類もない。本も雑誌も全部読んじまった。……のんびりお昼寝でもするか?」

「……お付き合いしますよー…」

 

いや、自室へ……と言う前に伍長がタオルケットを持って来る。仕方なく並んで寝る。何故か伍長はうれしそうだったが。

 

眠れず、天井を見つめる。4日前の軍曹との会話を思い出した。こんなに暇な理由も。

 

「……おやっさんも、どうしたんだろう……」

 

あの日から音沙汰無しだ。寝っ転がるうち、今訓練射爆場に居るだろう軍曹との会話が思い出された。

 

 

………………………………………………………………………………

 

 

U.C. 0079 6.19

 

 

それは突然だった。

 

「……気付いているか……?」

「……うん?」

 

休憩室で軍曹とコーヒーを飲んでいた少尉の反応は遅れた。伍長は部屋だった。

3日前伍長が"ジャブロー"内の酒保(PX)で買って来て、一緒に作った"ロクイチ"の模型を飽きずに見つめているのだろう。

何を欲張ったか3輌も買って来たはいいが作れず、軍曹も交え一緒に作ったのだ。

 

「えへへ、これが私の、これが軍曹の、これが少尉のだよ!」

「お、そのための3両か……何とか出来たな。久々だ………」

 

だから乗員の塗装に凝ってたのね。何故にそれが出来て作れなかったんだ?

 

階級こそ中尉となったが、伍長は相変わらず俺を少尉と呼んでいる。軍隊的には良くないのだろうが、俺は気にしていなかった。

 

「……ふむ…」

「……うぉっ!」

「わぁ〜!!」

 

そこそこ作ってきたため自信はあったんだが……。軍曹、知ってたけど、ホントに何でも出来るのな……。

 

「……よし、出来た事だし、トレーニングルームへ…」

「……付き合おう…」

「私はお留守番を…」

「お、ま、え、が!!一番必要なんだよ!!」

「あぁぁ〜」

 

………回想はそれぐらいに、コーヒーの感想を言いつつ軍曹に近づき、耳打ちする。

 

「…監視(コブ)の事か…?」

「……肯定だ…」

 

そうなのだ。ここ数日、距離をやや置きベッタリと。常に監視の目がついて回っている。何をするにでもだ。

それに、緩やかにかつ明確に行動を制限されたり、仕事に関わろうとすると阻止されたりする。

 

「……監視カメラも…しかし、部屋はない……」

「……成る程な…なるべく、固まって行動、基本は部屋に居よう…」

 

ハタから見たらただコーヒーの感想を言い合っているようにしか見えないだろう。しかし、水面下で2人の会議は続いていた。

 

「……引き離すためか……俺は戦車教導団を任命された……」

「…おやっさんも居ない。伍長は俺が付く……」

「……それがいい。伍長も喜ぶだろう、な……」

 

コンッ、と軍曹が一度机を叩き小さいハンドシグナルで監視を知らせた。

 

「……終わりにしよう。無事で……」

「…軍曹も、頼む」

 

ゴゴンッと天井がゆれ、窓にはパラパラと落ちてくる砂が映る。それを流し目で眺めつつ軍曹と別れた。

 

無事で居てくれよ。

 

そう祈る事しか出来ない自分を、改めて自分の無力さを呪った。

 

「しょーうい!」

 

そこに笑顔の伍長がやって来る。"定期便"など気にも留めていないようだった。

 

「おう、伍長か?何をしてたんだ?」

「ルンバの後を追いかけてました!」

 

…………………………。

 

「……今まで?ずっと?」

「はい!!」

 

大丈夫かな本当に。色んな意味で。

 

頭を抱える中尉に伍長が不思議そうな顔で呼びかける。

 

「……だいじょーぶですか?どーしたんです?」

「…いや………」

 

大丈夫じゃねーよ…精神点へのダメージが大きすぎて魔晶石がいくつあっても足りないわ……。何をエンジョイしてんだよこの。

 

「私の前世なんだが実はアメリカシロヒトリでだな…」

「あぁぁ……少尉が遂に大佐になっちゃった…」

 

分かりづら!!そーいや伍長ゲーマーだったな。今はどうでもいいが。

 

「……伍長、話がある。部屋に来てくれ…」

「えぇっ!!はい!分かりましたー!」

 

何でそんなビビったんだか分からんが、まぁいいらしい。伍長を伴い部屋へ向かう。後ろで監視AがBにぶつくさ文句を垂れている。まぁ、延々とルンバを追うアホの子の後ろを延々と尾けてたら、まぁそうなるだろう。情報部の皆様、お疲れ様です。

 

部屋に着き、伍長を座らせココアを出す。コーヒーもいいがコイツもいいもんだ。欲を言うならたまにはお汁粉が飲みたいが。

 

「…伍長、監視については知ってるか?」

「かんし?あ、あの血を止める?」

 

なぜにそっち!?鉗子じゃねぇよ!!

 

「……ええっ!?私たち見張られてるんですか!?」

「そうだ。だからこれからはなるべく2人で行動するぞ」

「分かりました!……なるほどー。だからいつも軍曹と一緒だったんですね!」

「……そうだが……なんだ?」

「2人は付き合ってんじゃないかって噂ですよー!私はそれはあり得ない事知ってるんで何も言いませんでしたけど…」

「………いや、弁解してくれよそこは……」

 

ドッと疲れて来た。二つの意味で。

 

まぁ、人の噂は75日。直ぐに止むやろ。どーでもよかね。

 

「……ま、よろしくな…」

「はい!明日からも頑張りましょー!」

 

前途多難だな。戦ってたほうが気が楽だわ……。

 

 

……………………………………………………………………………………………

 

「……ぃ、しょう…しょうい!少尉!!」

「……あ…うん?どうした?伍長…?」

 

気が付いたら寝ていたようだ。寝ぼけ眼をこすりつつ、伍長に返事をする。

 

「お電話だよ」

「……はぁ…俺に?」

 

伍長から電話を受け取る。自室のドアに張り紙しててよかった。

 

その張り紙に誰かがイタズラし、また新たな噂が立つ事を中尉はまだ知らない。

 

「……はい…」

「君かね?例の中尉とやらは……」

「……失礼ですが、お名前を…」

「あぁ、すまない。申し遅れたな。儂の名前はジョン・コーウェン。階級は准将だ」

 

その言葉を聞いて一瞬で覚醒し跳ね起きる。横で伍長がきゃっ、といいながら転げるが仕方がない。そのまま直立不動の体勢をとり、慌てて弁解する。

 

「も、申し訳ありません!!ただいま……」

「いや、それな聞いておるよ……そこで、今から時間を取れないか?無理にとは……」

「いいえ!直ぐに行かせてもらいます!!……いえ、すみませんが……やはり15分ほど時間をいただけませんか?」

 

電話の向こうで准将が爆笑する。起き上がってなになにと目を輝かせる伍長をあしらいつつ、笑いが収まるのを待つ。

 

「……ふふ、ふ……すまないな、やはり、聞いた通りの人物のようだ…」

「……は、はぁ…」

 

聞いた通り……?

 

「正装の必要は無いが、まぁ、よろしく頼むよ。あと、隣に伍長もいるようだが……」

「はい。どうしました?」

「伍長も連れて来てくれ。場所は……」

 

場所を指定され、電話が切られる。伍長にそれを伝え、2分後にロビーへ集合といいロビーへ向かう。いつものカッコのままだったので、部屋には寄らずトイレでパパッと寝癖を整え、服装を正す。

中尉の癖のある黒髪は一旦は収まったが、鏡から目を離すとまた跳ねていた。中尉はそれに気づかなかったが。

 

ロビーでエレカの手配をしていると、1分半で伍長も来た。2人でエレカに乗り込み、指定された建物へ向かう。

 

「なんでしょーかねー!ワクワクします!!」

「確かに気になるな……。何だろう?」

 

軍曹が追加した盗聴防止装置が働かせたはずなのに働かなかった。向こうから盗聴防止が来ていたのだ。

 

「…何か悪い事でもしたか〜?」

「えっ!そんな! 心当たりは無い、ような……」

 

アレ?何やってんのこの子。前、准将では無いが他の少将を見て『あの人ヅラっぽいですよねー』とか言ってたけど……マジか!?

 

エレカを停め、建物へ。その建物は宇宙港エリア(南区画)付近で一番大きなものだった。

美人の職員さんに誘導され、そのまま目的の部屋のドアの前に立つ美人秘書さんに声をかける。

 

「中尉に、伍長です。ジョン・コーウェン准将の命により出頭いたしました」

「しました」

「話は承っております。どうぞ中へ。准将がお待ちです」

 

2人してついて入る。ドアは見た目が木目調だが、軽合金で出来ているようだ。その滑るように開くドアに伍長は目を丸くしている。

 

「約束の時間より早く来たのに、待ってるんですね」

 

伍長がこそこそ話をするが、そういう話じゃないと思う。

 

「待っていたぞ中尉。それに伍長も。まぁ、かけたまえ」

「はい、失礼します」

「失礼します」

 

ジョン・コーウェン准将はやや太めで、髪は短く、丸い輪郭が柔らかい印象を与える黒人だった。やや緊張しつつも椅子に座る。部屋は会議室も兼ねているのか広めで、椅子もやたらとフカフカだった。

 

「……さて、今日君たちに来てもらったのは他でもない……君たちの今後についてだ…」

 

准将が語り出す。気が付いたら秘書さんは准将の隣で、もう1人別の秘書さんまで来ていた。2人とも美人さんである。

 

「……今の君たちの待遇について、どう思うかね?」

「……と、申しますと…?」

 

未来とか言われてビビったが、待遇?何の話だ?

それに伍長。ポカーンとするな、口閉じろ口。

 

「今の役職についてだ。正直に言って欲しい…」

「……不満、です。友軍は戦っているのに、ここで……」

「……そうか、やはり、な……」

 

准将が立ち上がり、歩み寄ってくる。その顔にはいたずらっぽい笑みが浮かんでいた。焦る、何かまた口滑らしたか?

 

「……MSは、どうかね?」

「……は、MS、ですか?」

「あっ、そういえば少尉言ってましたね、"ザクII"に乗りたい、って…」

 

伍長が援護のつもりかハンドグレネードをブチ込む。目の前に。伍長それフォローやない、追撃や。または後ろ弾。

 

「は、はい。伍長の言う通りです…」

「ははははっ。やはり、聞いた通りのようだ。

 

中尉、もう一度、"ザクII"では無いが、MSに乗りたくはないかね?」

 

准将が真っ直ぐこちらを見ていた。そこから目を逸らさず、真っ直ぐ目を見て言う。腹を括った。一度捨てたし。

 

「はい!連邦には、MSが必要です!!そのためなら…」

「……そのためなら…?」

 

やべ!考えて無かった!

 

「私も賛成です!!少尉!よく分かりませんが准将の言う通りにしましょう!その方がいい気がします!」

「……伍長はそうか!では、中尉…」

「……はい!」

 

よし分かった!と言って准将が座り、秘書さんに声を掛け紙を出させ、こちらへ差し出した。

 

受け取った紙には辞令が書いてある、『"ジャブロー"パイロットMS養成課程訓練教官を命ずる』。

 

驚いて顔を上げると笑顔の准将と目が合った。

 

「准将!これは……!」

「気に入って貰えたかね?」

「え?なになに?見せて!」

「…………私に務まるとは、思えません……しかし…」

「…しかし?」

「やらせて下さい!!連邦の!勝利のために!!」

 

その言葉や聞き准将が立ち上がり、握手をする。

 

「良くぞ言ってくれた!!……頼むぞ!蝋燭の火を灯してくれ」

「……はい!!精一杯やる所存です!後で、後悔出来るように!!」

 

流れる様に秘書さんが資料書類の入っていると思われるブリーフケースを渡し、敬礼をして部屋を出た。秘書さんは手をふっていたため2人で振り返す。

 

正直、舞い上がっている。

 

「少尉!!見て見て!私、パイロットになるんだよ!!」

 

ついでに伍長へ渡された紙には、同じく辞令が書かれている。MSパイロット養成課程への転属だ。

 

「あぁ!俺はその教官だ!!」

「少尉も!!やったぁ!!一緒に頑張りましょう!!」

 

2人で喋りながら戻り、別れて部屋へ向かう。

 

胸は希望と不安でいっぱいだが、悪くない感触だった。

 

頑張ろう、俺!!

 

自室のドアに手を掛け、その前に張り紙を………、うん?

 

 

 

 

「な、なんじゃこりゃぁぁぁぁぁぁぁああああ!!!??!!?」

 

 

 

張り紙には、『私用のため、伍長の部屋に居ます。連絡のある場合は伍長の元へ』と書いてあったはず!!

 

 

 

「『伍長と愛を語らうため』ってなんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああ!!!!!!!!」

 

"ジャブロー"の大空洞の彼方まで、中尉の声は響き渡った。

 

 

 

『中尉、儂が羨ましいと思ったら、何よりも生き残ることだ。最前線で指揮官として認められれば、昇進できる。昇進すれば、いいこともあるさ、儂のようにな』

 

 

 

新しい時代は、音を立ててやって来る……………




はい、というわけで、中尉、職を手に入れました(笑)。

連邦軍はMSという言葉をあまり使いたがりませんが、わかりやすさのためあえて使用しました。

このままどう転ぶかは、どうぞお待ち下さい。

次回 第二十八章 中尉の訓練教官奮闘記① 下見編

「いや、もう負けてるだろ」

お楽しみに!!

ご意見、ご感想お待ちしております。

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