機動戦士ガンダム U.C. HARD GRAPH 名も無き新米士官の軌跡 作:きゅっぱち
コレ、ガンダム?
ガンダムでギャグ調の日常マンガ書いたら売れると思う。
ガンダム+日常系の奇跡のコラボ的な?
社会の歯車、という言葉がある。
いくらでも換えが効き、誰でも出来る、という事だ。
普段は侮蔑の言葉であろうこの言葉は、もう一つの側面を持つ。
その意味は、単純明快であり、真理だ。
歯車が無ければ、世界は回らないのだ。
その歯車が、どんなに小さかろうとも。
U.C. 0079 6.23
「………暇だ…」
思わず呟く。巡回の仕事も終わり、トレーニングも済んだ。基地施設も回ったし、"定期便"も見上げたりもしたが…。
「…そうですね……」
となりで伍長も呟く。手には読み込まれ擦り切れた"ガンクラブ"が握られている。
あれからかれこれ約一週間、本当に暇だった。まぁ、平和って事だよな。この、ロクでも無い、素晴らしき世界へ乾杯!全く。
今中尉は伍長の部屋にいる。伍長があまりにも暇すぎて呼んだのだ。将棋など教えてみたが、お気に召さなかったようである。
「……どうします?」
「……書類もない。本も雑誌も全部読んじまった。……のんびりお昼寝でもするか?」
「……お付き合いしますよー…」
いや、自室へ……と言う前に伍長がタオルケットを持って来る。仕方なく並んで寝る。何故か伍長はうれしそうだったが。
眠れず、天井を見つめる。4日前の軍曹との会話を思い出した。こんなに暇な理由も。
「……おやっさんも、どうしたんだろう……」
あの日から音沙汰無しだ。寝っ転がるうち、今訓練射爆場に居るだろう軍曹との会話が思い出された。
………………………………………………………………………………
U.C. 0079 6.19
それは突然だった。
「……気付いているか……?」
「……うん?」
休憩室で軍曹とコーヒーを飲んでいた少尉の反応は遅れた。伍長は部屋だった。
3日前伍長が"ジャブロー"内の
何を欲張ったか3輌も買って来たはいいが作れず、軍曹も交え一緒に作ったのだ。
「えへへ、これが私の、これが軍曹の、これが少尉のだよ!」
「お、そのための3両か……何とか出来たな。久々だ………」
だから乗員の塗装に凝ってたのね。何故にそれが出来て作れなかったんだ?
階級こそ中尉となったが、伍長は相変わらず俺を少尉と呼んでいる。軍隊的には良くないのだろうが、俺は気にしていなかった。
「……ふむ…」
「……うぉっ!」
「わぁ〜!!」
そこそこ作ってきたため自信はあったんだが……。軍曹、知ってたけど、ホントに何でも出来るのな……。
「……よし、出来た事だし、トレーニングルームへ…」
「……付き合おう…」
「私はお留守番を…」
「お、ま、え、が!!一番必要なんだよ!!」
「あぁぁ〜」
………回想はそれぐらいに、コーヒーの感想を言いつつ軍曹に近づき、耳打ちする。
「…
「……肯定だ…」
そうなのだ。ここ数日、距離をやや置きベッタリと。常に監視の目がついて回っている。何をするにでもだ。
それに、緩やかにかつ明確に行動を制限されたり、仕事に関わろうとすると阻止されたりする。
「……監視カメラも…しかし、部屋はない……」
「……成る程な…なるべく、固まって行動、基本は部屋に居よう…」
ハタから見たらただコーヒーの感想を言い合っているようにしか見えないだろう。しかし、水面下で2人の会議は続いていた。
「……引き離すためか……俺は戦車教導団を任命された……」
「…おやっさんも居ない。伍長は俺が付く……」
「……それがいい。伍長も喜ぶだろう、な……」
コンッ、と軍曹が一度机を叩き小さいハンドシグナルで監視を知らせた。
「……終わりにしよう。無事で……」
「…軍曹も、頼む」
ゴゴンッと天井がゆれ、窓にはパラパラと落ちてくる砂が映る。それを流し目で眺めつつ軍曹と別れた。
無事で居てくれよ。
そう祈る事しか出来ない自分を、改めて自分の無力さを呪った。
「しょーうい!」
そこに笑顔の伍長がやって来る。"定期便"など気にも留めていないようだった。
「おう、伍長か?何をしてたんだ?」
「ルンバの後を追いかけてました!」
…………………………。
「……今まで?ずっと?」
「はい!!」
大丈夫かな本当に。色んな意味で。
頭を抱える中尉に伍長が不思議そうな顔で呼びかける。
「……だいじょーぶですか?どーしたんです?」
「…いや………」
大丈夫じゃねーよ…精神点へのダメージが大きすぎて魔晶石がいくつあっても足りないわ……。何をエンジョイしてんだよこの。
「私の前世なんだが実はアメリカシロヒトリでだな…」
「あぁぁ……少尉が遂に大佐になっちゃった…」
分かりづら!!そーいや伍長ゲーマーだったな。今はどうでもいいが。
「……伍長、話がある。部屋に来てくれ…」
「えぇっ!!はい!分かりましたー!」
何でそんなビビったんだか分からんが、まぁいいらしい。伍長を伴い部屋へ向かう。後ろで監視AがBにぶつくさ文句を垂れている。まぁ、延々とルンバを追うアホの子の後ろを延々と尾けてたら、まぁそうなるだろう。情報部の皆様、お疲れ様です。
部屋に着き、伍長を座らせココアを出す。コーヒーもいいがコイツもいいもんだ。欲を言うならたまにはお汁粉が飲みたいが。
「…伍長、監視については知ってるか?」
「かんし?あ、あの血を止める?」
なぜにそっち!?鉗子じゃねぇよ!!
「……ええっ!?私たち見張られてるんですか!?」
「そうだ。だからこれからはなるべく2人で行動するぞ」
「分かりました!……なるほどー。だからいつも軍曹と一緒だったんですね!」
「……そうだが……なんだ?」
「2人は付き合ってんじゃないかって噂ですよー!私はそれはあり得ない事知ってるんで何も言いませんでしたけど…」
「………いや、弁解してくれよそこは……」
ドッと疲れて来た。二つの意味で。
まぁ、人の噂は75日。直ぐに止むやろ。どーでもよかね。
「……ま、よろしくな…」
「はい!明日からも頑張りましょー!」
前途多難だな。戦ってたほうが気が楽だわ……。
……………………………………………………………………………………………
「……ぃ、しょう…しょうい!少尉!!」
「……あ…うん?どうした?伍長…?」
気が付いたら寝ていたようだ。寝ぼけ眼をこすりつつ、伍長に返事をする。
「お電話だよ」
「……はぁ…俺に?」
伍長から電話を受け取る。自室のドアに張り紙しててよかった。
その張り紙に誰かがイタズラし、また新たな噂が立つ事を中尉はまだ知らない。
「……はい…」
「君かね?例の中尉とやらは……」
「……失礼ですが、お名前を…」
「あぁ、すまない。申し遅れたな。儂の名前はジョン・コーウェン。階級は准将だ」
その言葉を聞いて一瞬で覚醒し跳ね起きる。横で伍長がきゃっ、といいながら転げるが仕方がない。そのまま直立不動の体勢をとり、慌てて弁解する。
「も、申し訳ありません!!ただいま……」
「いや、それな聞いておるよ……そこで、今から時間を取れないか?無理にとは……」
「いいえ!直ぐに行かせてもらいます!!……いえ、すみませんが……やはり15分ほど時間をいただけませんか?」
電話の向こうで准将が爆笑する。起き上がってなになにと目を輝かせる伍長をあしらいつつ、笑いが収まるのを待つ。
「……ふふ、ふ……すまないな、やはり、聞いた通りの人物のようだ…」
「……は、はぁ…」
聞いた通り……?
「正装の必要は無いが、まぁ、よろしく頼むよ。あと、隣に伍長もいるようだが……」
「はい。どうしました?」
「伍長も連れて来てくれ。場所は……」
場所を指定され、電話が切られる。伍長にそれを伝え、2分後にロビーへ集合といいロビーへ向かう。いつものカッコのままだったので、部屋には寄らずトイレでパパッと寝癖を整え、服装を正す。
中尉の癖のある黒髪は一旦は収まったが、鏡から目を離すとまた跳ねていた。中尉はそれに気づかなかったが。
ロビーでエレカの手配をしていると、1分半で伍長も来た。2人でエレカに乗り込み、指定された建物へ向かう。
「なんでしょーかねー!ワクワクします!!」
「確かに気になるな……。何だろう?」
軍曹が追加した盗聴防止装置が働かせたはずなのに働かなかった。向こうから盗聴防止が来ていたのだ。
「…何か悪い事でもしたか〜?」
「えっ!そんな! 心当たりは無い、ような……」
アレ?何やってんのこの子。前、准将では無いが他の少将を見て『あの人ヅラっぽいですよねー』とか言ってたけど……マジか!?
エレカを停め、建物へ。その建物は
美人の職員さんに誘導され、そのまま目的の部屋のドアの前に立つ美人秘書さんに声をかける。
「中尉に、伍長です。ジョン・コーウェン准将の命により出頭いたしました」
「しました」
「話は承っております。どうぞ中へ。准将がお待ちです」
2人してついて入る。ドアは見た目が木目調だが、軽合金で出来ているようだ。その滑るように開くドアに伍長は目を丸くしている。
「約束の時間より早く来たのに、待ってるんですね」
伍長がこそこそ話をするが、そういう話じゃないと思う。
「待っていたぞ中尉。それに伍長も。まぁ、かけたまえ」
「はい、失礼します」
「失礼します」
ジョン・コーウェン准将はやや太めで、髪は短く、丸い輪郭が柔らかい印象を与える黒人だった。やや緊張しつつも椅子に座る。部屋は会議室も兼ねているのか広めで、椅子もやたらとフカフカだった。
「……さて、今日君たちに来てもらったのは他でもない……君たちの今後についてだ…」
准将が語り出す。気が付いたら秘書さんは准将の隣で、もう1人別の秘書さんまで来ていた。2人とも美人さんである。
「……今の君たちの待遇について、どう思うかね?」
「……と、申しますと…?」
未来とか言われてビビったが、待遇?何の話だ?
それに伍長。ポカーンとするな、口閉じろ口。
「今の役職についてだ。正直に言って欲しい…」
「……不満、です。友軍は戦っているのに、ここで……」
「……そうか、やはり、な……」
准将が立ち上がり、歩み寄ってくる。その顔にはいたずらっぽい笑みが浮かんでいた。焦る、何かまた口滑らしたか?
「……MSは、どうかね?」
「……は、MS、ですか?」
「あっ、そういえば少尉言ってましたね、"ザクII"に乗りたい、って…」
伍長が援護のつもりかハンドグレネードをブチ込む。目の前に。伍長それフォローやない、追撃や。または後ろ弾。
「は、はい。伍長の言う通りです…」
「ははははっ。やはり、聞いた通りのようだ。
中尉、もう一度、"ザクII"では無いが、MSに乗りたくはないかね?」
准将が真っ直ぐこちらを見ていた。そこから目を逸らさず、真っ直ぐ目を見て言う。腹を括った。一度捨てたし。
「はい!連邦には、MSが必要です!!そのためなら…」
「……そのためなら…?」
やべ!考えて無かった!
「私も賛成です!!少尉!よく分かりませんが准将の言う通りにしましょう!その方がいい気がします!」
「……伍長はそうか!では、中尉…」
「……はい!」
よし分かった!と言って准将が座り、秘書さんに声を掛け紙を出させ、こちらへ差し出した。
受け取った紙には辞令が書いてある、『"ジャブロー"パイロットMS養成課程訓練教官を命ずる』。
驚いて顔を上げると笑顔の准将と目が合った。
「准将!これは……!」
「気に入って貰えたかね?」
「え?なになに?見せて!」
「…………私に務まるとは、思えません……しかし…」
「…しかし?」
「やらせて下さい!!連邦の!勝利のために!!」
その言葉や聞き准将が立ち上がり、握手をする。
「良くぞ言ってくれた!!……頼むぞ!蝋燭の火を灯してくれ」
「……はい!!精一杯やる所存です!後で、後悔出来るように!!」
流れる様に秘書さんが資料書類の入っていると思われるブリーフケースを渡し、敬礼をして部屋を出た。秘書さんは手をふっていたため2人で振り返す。
正直、舞い上がっている。
「少尉!!見て見て!私、パイロットになるんだよ!!」
ついでに伍長へ渡された紙には、同じく辞令が書かれている。MSパイロット養成課程への転属だ。
「あぁ!俺はその教官だ!!」
「少尉も!!やったぁ!!一緒に頑張りましょう!!」
2人で喋りながら戻り、別れて部屋へ向かう。
胸は希望と不安でいっぱいだが、悪くない感触だった。
頑張ろう、俺!!
自室のドアに手を掛け、その前に張り紙を………、うん?
「な、なんじゃこりゃぁぁぁぁぁぁぁああああ!!!??!!?」
張り紙には、『私用のため、伍長の部屋に居ます。連絡のある場合は伍長の元へ』と書いてあったはず!!
「『伍長と愛を語らうため』ってなんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああ!!!!!!!!」
"ジャブロー"の大空洞の彼方まで、中尉の声は響き渡った。
『中尉、儂が羨ましいと思ったら、何よりも生き残ることだ。最前線で指揮官として認められれば、昇進できる。昇進すれば、いいこともあるさ、儂のようにな』
新しい時代は、音を立ててやって来る……………
はい、というわけで、中尉、職を手に入れました(笑)。
連邦軍はMSという言葉をあまり使いたがりませんが、わかりやすさのためあえて使用しました。
このままどう転ぶかは、どうぞお待ち下さい。
次回 第二十八章 中尉の訓練教官奮闘記① 下見編
「いや、もう負けてるだろ」
お楽しみに!!
ご意見、ご感想お待ちしております。