機動戦士ガンダム U.C. HARD GRAPH 名も無き新米士官の軌跡   作:きゅっぱち

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ジャブロー編、スタート!!

連邦軍総司令部にて、少尉はどうなるのか。

どうぞ、ご覧下さい!


第二十六章 ジャブローにて……

軍隊は維持される事に意味がある。

 

常にそこにあり、抑止力として、有事の際の備えとして。

 

存在そのものに意味があるのだ。

 

そのため、常に消費し、維持しなければならない。

 

軍隊の維持が大変なのは、有事で無く、平時だ。

 

その点、軍隊は常に、"平和"と戦っているのだ。

 

 

 

U.C. 0079 6.14

 

 

 

ドアが叩かれ、声がかかる。

 

「少尉、お時間です」

「はい、分かりました。今向かいます」

 

この前とは違う人に呼び出され、外へ出る。時間は午後2時、天気予報によるとスコールが上がり晴れ渡っているらしい。地下なので関係無いが。

 

運命の時間がやって来た。軍人として、人としての人生が懸かった"運命の別れ目"(ニック・オブ・タイム)だ。

パチン、と両手で頬を張り、気合を入れる。

その少尉の姿は正装だ。何時もの様なややくたびれたサービスユニフォームと呼ばれる常勤服ではない。

 

「お待たせして申し訳ありません。では、行きましょうか」

 

エレカに乗り込む。どこにでもあるヤシマ重工製のだ。最期に乗れるのがコイツでよかった。何の因果かそれこそ5歳の頃から乗り回している、初めて乗って運転したものと同じタイプだった。

 

上層部からの出頭命令、その先に待つのは破滅しか見えない。つーか犯罪ばっかやってたからね。今俺サイコパスで犯罪係数計ったら振り切れてそうだもの。デコンポーザーでバラッバラにされるね多分。

 

「俺の人生は晴れときどき大荒れ……いいね…いい人生だよ、全く…」

 

少尉は覚悟を決める。家族に迷惑は掛けたくないが、幸い少尉は次男だ。まだマシだろう。戦死とかと家族には伝えて欲しいと思っていた。

正直力一杯やった。悔いは無かった。ただ、心残りとすれば………

 

「? どうかしました?」

「……いえ、ただ……」

 

最期に、この岩盤の上に広がっているであろう、どこまでも透き通る、その青い、蒼い空を飛びたかった。

 

 

 

「よく来たね、話は聞いているよ少尉、入りたまえ」

「はっ。失礼します」

 

大きな建物に着き、会議室に通される。中には料理屋の全料理を載せても余るだろうほどの円卓に、准将、少将、中将などの階級章をつけたおっさんが沢山いた。帰りたい。

 

今まで連れ添って来た人も出て行ってしまい、全員50は過ぎているだろう中に少尉がポツンと残される。

 

汗が止まらない。心臓は口からは出ないだろうが肋骨をへし折りそうなほど大騒ぎしている。口の中はカラカラに渇き、やや歯がカチカチと耳障りな音で鳴っている。

 

「そう緊張するな少尉。別にとって食おうなどとは思っておらんよ」

「……は、はいっ!…しかし、手の震えが止まりません…」

 

入室を呼び掛けたであろう目の前の中将が声をかける。

 

いっそのこと吹っ切れようかな。緊張するなとか意味の分からん事言ってきてるし。これで緊張しない奴は余程のバカか、それ程のバカだけだ。

 

「……挨拶はそこまでだ。少尉、聞きたい事がある…」

「は、はいっ!」

 

遂に終わりの始まりがぁぁっ!!グッバイ俺!!青汁と夜空の似合う男だったぜ!!

 

…………が、来た質問は考えていた物とは違った。

 

「あのMS、"ザク"、と言ったか…」

「こ、肯定です」

「どうだったかね?」

「………は、は?」

 

あり?どうだった、って……。

 

① もちろん、最高でした!!

→そうか、連邦の兵器は使えない、と……。→死。

② ダメダメでしたね。使えたもんじゃありませんよ。

→ならなぜ使ったんだ?それもなぜ連絡も無しに。→死。

③ ところでクールでウィットの聞いたジョークなどどうですか?

→即死。

④そんな事より、聞いてた以上にエアコン効いてないですね。

→死ぬ。現実は非情である。

 

どうしよう………。Death or Dieなんだけど。ものっそいロックンロールしてんだけど。

 

「し、質問の意図が図りかねますが……」

「君自身の正直な感想が欲しい」

 

あぁっ!?適当にその場を濁そうと思ったのに!!

…………どうせ死ぬならいいか……。

 

「…………驚くべき性能です。既存の兵器の性能を遥かに凌駕しています」

「ほう……」

 

中将が考え込む。なにやらブツブツうるさい。その隣の少将が問いかける。

 

「…ふむ、何故わざわざ"キャリフォルニア・ベース"からこの"ジャブロー"まで来たのかね?」

 

………………………なんとなーく安全そうだったから、という思いつきです、とか言えねぇ!!

 

「それは、ジオン軍物資集積所を襲撃、MS奪取に成功した為、一刻も早く本格的な解析を行うためです!」

「………あのトラックは?」

 

……………………………………。っべぇ。本日最大のピンチが立て続けに!!冬は毎日この冬最も冷え込むけどさ!!

 

「……スクラップを、修理しました…」

 

嘘は言ってない!!ただ!修理の際に色々(・・)やっただけです!!それはもう!!色々(・・)と!!

 

「近くで海戦が発生し、その前には敵軍に奪取された海軍基地が破壊された。これも少尉達で間違いないな?」

「はい。全て私の責任です」

「"メキシコ・シティ"や"パナマ・ベース"もか?」

「はい!」

「敵MSとの交戦は?」

「複数回あります」

 

全員からの質問に答えて行く。はぁ、遺書、書き直しときゃよかった。家族だけでなく、お世話になった伍長、軍曹、おやっさんにも何か残したい。………今残せんのカロリーメイトだけだけど。

 

「"キャリフォルニア・ベース"撤退時には何を?」

「攻撃機に乗り撃墜され、救出されました」

「なぜ旅団の指揮を?」

「私が最高階級でした」

「"ザク"は撃破したか?」

「はい。"61式戦車"との波状攻撃が有効だと……」

 

さっきから黒人の中将戦闘に関してしか聞いてないけどいいのか?周り見てよ!変な顔してるよ!!

 

「君のサイドアーム、正式採用品では無いようだが……」

「はい。ジオン軍の物を鹵獲しました」

「鹵獲兵器を多数利用していたようだな」

「はい。旅団を守るに、戦力不足と判断。敵物資集積所襲撃と鹵獲を繰り返しました」

 

はぁ、おやっさんがいたらまだ心強いのに。

 

………いや、上官侮辱罪で射殺されかねん…。

 

「物資補給は?」

「立ち寄った基地からです」

 

偽造書類とハッタリ、嘘でな!!

 

「……正規兵は3人のみと聞いたが……」

「肯定です。その他は整備員のみです」

 

コレ、マズいかもなぁ。

 

………いや、基本的に全てマズイんだけどね?

 

取り調べというか尋問というかは約2時間に及んだ。ふざけんなよ?こっちガッチガチになって立ちっぱなしだぞ?

 

途中から昔話とか始めやがる奴もいるし………。お茶を飲み飲み何やってんの!?

全く、参謀長だとかといい情報局長などといい、『長』と肩書きにつく奴は話が長くて仕方がない。そんなの校長とかで聞き飽きてんだよ。

根掘り葉掘り聞きやがって。つーか葉掘りって何?芋でも掘ってろよ。

 

「うむ。皆、他に無いな?」

 

やっとか。ここでまだある!とか手ェ挙げんなよ?早く帰らしてくれ。軍曹がコーヒー淹れて待ってくれてんだよ。伍長は『ピンクのイルカ!?何それ見てくる』っつって飛び出して行ったけど、ピラルクか何かに食われてねぇよな?

ちなみにピンクでもあんま可愛くはないと思うよ?

 

「長時間すまなかったな少尉。顔に出てるぞ?」

 

ここでミスったぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!?!???!!!

 

「も、申し訳ありません!!」

「冗談だよ」

 

ぶん殴るぞこの。こちらとてあんたらの冗談一つで首どころか存在が消し飛ぶんだぞ?笑ってんじゃねぇよ笑えねぇ冗談だよ。

やはりここは俺がクールでウィットに富んだ……。

 

「これからの事は後日連絡する。下がりたまえ」

「はっ!失礼します」

 

部屋を出る。曲がり角まで歩き、曲がった瞬間走り出す。

 

後日っていつだぁぁぁぁぁぁ!?

 

送り迎えを断りエレカへ飛び乗る。

 

胸中を様々な物が過ぎり落ち着かないため風にでも当たろうとフルスロットルで飛ばす。

 

 

………憲兵(MP)にスピードオーバーで捕まり説教された。

 

「……全く」

「……ごめんなさい」

 

そんな怒んなくていいじゃん。怒鳴ることはないじゃん。

 

「…さぁ、とっとと帰った帰った。フラミンゴも鳴いてるぞ?あんまり遅いとママンに鍋に放り込まれてグツグツ煮られるぜ?」

 

いや、説教長引かせたのアンタでしょ。悪いのはおれだけどさ。

 

「いやそんな人いませんよ!!ウチの母さんは優しい事で近所で有名だったんですよ!?」

「………そうか……いいママンを、持ったな……」

 

涙ぐまなくても。

 

…………つーかアンタの過去に何があったんだ!!

気になって夜しか眠れねーよ!!図らずとも老人ライクな健康生活送っちまうよ!!

 

「……そ、そうか……変わった母親だな……」

「んなこたぁねぇ!!100人に聞けば100人がそうだと答えるだろうよ!!」

 

同類100人に聞けばな。多分その次の1人は違うだろ。口が裂けても言えないが……。言ったら警棒でブン殴られそうな勢いだコイツ……。働けよ頼むから。

 

 

 

「………はぁ、ただいま……」

 

疲れた。いろんな意味で。特に最後のママトーク。なんだよアイツ。メアド渡されたよ。本当になんだよアイツ!?

 

「……少尉、ご苦労様……」

「…あぁ、ありがとう軍曹…」

 

部屋に戻ると軍曹がコーヒーを淹れて待っていてくれた。コーヒーを受け取り一口飲む。これは……

 

「………旨いな」

「……ここら辺の、特産品らしい……少尉が、好みそうだから、貰って来た……」

「………いつも、ありがとうな、軍曹……」

「……当然の事。少尉には、恩がある……それに、一番、信頼出来る……」

 

その過大評価はどっから来んだろ?いつも思うんだが。

 

「……あっ、少尉、お疲れさまー。どーでした?」

「……なんか、元気ないな伍長…」

 

やっぱ可愛く無かったのかイルカ。横に座り、軍曹からコーヒーを受け取っている。クリームにチョコレートまみれだ。俺も甘い物が好きでコーヒーにはミルクと砂糖は入れるが、それは………コーヒーに謝れよ。ココア飲めココア。

 

「イルカ、どうだったんだ?」

「カッコ良くなかったです」

 

何を期待したんだよイルカに。

 

「……そういやおやっさんは?」

 

話題を逸らす。気になるが今はどうでもいい。俺はどちらかと言うと実は臆病らしいピラニアを見てみたい。

 

「お出掛けだって。しばらく帰らないって言ってましたよ?」

「……処分決まって無いんだが…」

「……処分…」

 

軍曹が反応する。その時呼び出しのアナウンスが流れる。軍曹、伍長それにおやっさんもだ。いや、後日って早過ぎだろアホか。

 

「………決まったか」

「……行こう、か…」

「わぁ、私達もしかして有名人ですか!?」

 

指定された部屋へ向かいつつなんでやねん、と突っ込んでおく。どういう発想でその結論に至ったか教えて欲しい。

 

おやっさんどうするんやろ?まぁ、あの人なら大丈夫か、な?

 

「……例の3人だな、では、異動を命じる」

 

部屋は机とイスがあるだけの簡素な一室だった。そこに書類を持ったおっさんがいて確認を取った後話始めた。

異動、という言葉にホッとする。異動っつー事は、まぁ死刑や懲罰はなさそうだ。

 

「3名は"キャリフォルニア・ベース"所属から、"ジャブロー"所属となる。役職は警備だ」

「3名とも、でありますか?」

「そうだ」

「わっ!やったね2人とも!!また一緒だよ!!」

 

上官の前で騒ぐな!!つーかナニコレ?栄転とかいう奴?まぁ、殺されなくて良かった。

 

「……警備…?」

 

いや待て?軍曹の疑問も最もだ。なんでやねん。つーか友軍は戦っているんだから、"ザクII"を寄越せとは言わないから機体が欲しかった。

 

「そうだ。一日一回、基地内の割り当てられた地域を巡回してもらう。それだけだ」

 

MPの仕事だろそれ!!アレか!?島流しか!?こんな下っ端流してどうする!!

 

まぁ、安いもんか……。軍曹や伍長がコレをどう思っているか知らないが俺は………。

 

まっ、いいか。有給もらったよーなもんだ。いつまで続くかは知らんけど。

 

少尉はよく伍長をポジティブだ楽観的だどんな思考回路だと言うが、少尉の思考回路もそんなもんだった。

 

「聞いた少尉!!やったね!!」

 

あっそう。ならいいや。軍曹もふつーな顔してるし。最近軍曹のビミョーな表情の違いがわかるようになってきた。もっと笑えばいいのに。何のためのイケメンだよ。無表情でも十分イケメンだけど。

 

「その事だが……」

 

まだなんかあった!!しかも俺に!!

まぁ、どうでもいいな。減給されようが何されようが……。

 

「少尉はこれまでの功績から、一階級昇進して中尉となった。これが新しい階級章だ。以上で終わりだ。質問は?無いな?では解散!」

「ちょっ…」

 

担当官が早足で出て行く。質問させてよ!!働けこの!!

 

「うわぁっ!!いいなー少尉!じゃなくて中尉!!よかったですねしょ…中尉!!」

「……おめでとう…」

「あ、ありがとう……」

 

別にあんまり……。もとから出世欲無いし、どーでもいい。でも、責任増えるのはなぁ……。しょーじきいつもの3人が居ればそれで……。

 

「今日はパーティーしましょうよしょう……中尉!!」

「……あー、呼び辛いならどうでもイイぞ?」

 

こだわりないし。

 

「……これで、整備班長と、同じだな……」

「えっ?」

「そうなの?」

「?……整備班長は中尉だが……?」

 

…………………………………………………。

 

俺や軍曹、伍長がどんな思いを……なーにが『階級は少尉が一番上』だぁ!!……青春の光と影をもてあそびやがってあのタヌキ親父ぃ!!

 

「…………の…………」

「の?の、何です?」

「……悪かった。気の毒なわ事を…………」

「呪ってやるぅ〜っ!!」

 

…勝てないなぁ………。つーか、よく考えたら、役職的にそうか………。

 

ふふ、と笑いが漏れる。最近笑ってばっかだ。

そんな少尉を見つめる伍長も笑顔で、軍曹も喜んでいるようだった。

 

幸せって、事、か………な…?

 

 

 

『階級が全てだ。世界は、それで決まる。平等なんて幻想は、あればあるだけ邪魔なだけだ』

 

 

 

見上げても岩しかねぇよ………………




何とか首皮一枚繋がりました少尉もとい中尉。

でも閑職行きです。

最近、前書き後書き前後電波文ネタがつきかけです。でもフツーに本文だけだと、なんかさみしいんですよねぇ。

次回 第二十七章 ダラダラ日記

「私の前世なんだが実はアメリカシロヒトリでだな…」

お楽しみに!!

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