機動戦士ガンダム U.C. HARD GRAPH 名も無き新米士官の軌跡   作:きゅっぱち

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大西洋編、完結!!

ここで、長きに渡り旅を続けた少尉達が、一先ずの終着を迎えます。

では、どうぞ。


第二十五章 赤道の彼方へと

葬式とは、何であろうか。

 

人は死んだら終わりだ。そこから先に感傷はない。

 

しかし人は葬儀を行う。死んだ者へ、届かぬ祈りを捧げる。

 

葬式は、死んだ者へ向けられる物でない。

 

生者の、心を整理する自己満足に過ぎない。

 

死者は何も言わない。

 

何も気にしない。

 

生きている者たちだけが、死者を気にするのだ。

 

 

 

U.C. 0079 6.12

 

 

 

『死んでいった英霊へ………敬礼!!』

 

空砲が鳴り響く。誰も言葉を発しない。ただ、空砲だけが鳴り響き、静かな海を揺らすだけだ。

 

"アキズキ"、"ガダルカナル"、"アカギ"、"リーヴェニ"。

 

艦隊の大半が撃沈され、残った艦も手負いばかりだ。

機関部が破壊され、自力航行が出来なくなった"ラッパーホルン"も雷撃処分され、残ったのはたった4隻となってしまった。

 

比較的ダメージの少なかった"アンデス"、"ヴァジュラ"はともかく、左舷スクリューと方向梶を破壊され蛇行する"オンタリオ"、船体側部に大穴を開けられ、注排水装置に異常を来たし今だに傾いたままの"ガスコーニュ"。

"アンデス"も搭載艦載機の大半が落とされ、主砲も大破。陸戦ユニットも主力兵器である"ロクイチ"、"マゼラ・アタック"は撃破され、虎の子の兵器"ザクII"もその武装の殆どを使い切った上大破という目も当てられない状態だ。

 

船団は既に死に体だった。

 

『諸君。この戦いを忘れてはならない。目を背けてはならない。そして、我々はこの犠牲の上で、絶対に"ジャブロー"へ辿り着かなければならない。

諸君らの、一層の努力奮励に期待する。以上だ』

 

最後の空砲が撃ち放たれる。しょっぱいのは、潮風の所為だけでは無かった。

 

式が終わり、少尉は"アンデス"内のブリーフィングルームへ向かっていた。そこではおやっさんが今回の"ザクII"のレコーダー解析を行っているはずだった。あの後気絶していた少尉は軍曹に助け出され、起きたらまた伍長スタートだったのだ。

 

「おう!身体の具合はどうだ!大将!」

「検査では異常なしです。ぐっすり寝て快復しましたよ」

「……良かったよ。あの時、よく生きてたな」

「……その件でお話が。俺はよく覚えていないので、レコーダーを解析願いたいんです」

「ん?もうやったぞ?」

「! 結果は?」

 

おやっさんがニヤニヤ笑始める。なんだ?どういうんだ?

 

「何も無かった、それだけだ」

「まさか!」

 

なら、"アレ"は何だったんだ?走馬灯的なアレは?俺の特殊能力発動ッ!!とか無いの!?

 

「強いて言うなら、運が良かったな、とだけだ。解析結果とレコーダー、見てみるか?」

「はい!お願いします!」

 

おやっさんが手元の端末を弄り、スクリーンに映像が映る。画面の中で、"ザクII"視点から水に落ち、"ゴッグ"に脚を………アレ?何か遅くね?スロー再生?

 

「……何か、遅くないスか?」

「水中だからな」

 

素っ気ない返事が帰って来る。いや、そうだけど………こんなノンビリしてたの?何かほのぼのするレベルだよコレ?

 

そのまま"ゴッグ"の"クロー"が……これも遅い!!

 

「な、何でこんなに……」

「コレか、そりゃそうだろ。こんなウチワみてーなデカい手を水中で素早く振れる訳無いだろ?それにこの"クロー"は対艦攻撃用だ。相手の質量がデカイか、身体を固定しないと早く振ったり大ダメージを与えたり出来ねぇんだよ。この浅さでは水圧も関係無いし、一瞬の動きなら、"ザクII"の方が細い分早いぞ?」

 

んなアホな。でも、俺はあの時……!

 

画面が回転し、軽い振動と、コクピットを貫かれ沈む"ゴッグ"が大写しになる。映像はそこで終わっていた。

 

「……解析の結果は?」

「なんでそんな気になるんだ?結果は、まぁ、反応速度は確かに上がってたよ」

 

やはりか!!何か、こう!感じたんだよな!!まさかエースパイロットフラグか!?

 

「そうですか!!どれくらい!?」

「誤差程度。パーセンテージで言ったら6%位?」

 

思わずズッコケる。なんだそりゃ!?

 

「……さらに、このデータ。近い物を見つけた。剣道などでカウンター気味に一本を決めたデータとかだ。スポーツとかで似た様なデータがズラズラ出て来たぞ?まぁ、本能的に動いたんだろ。俗に言われる、火事場の馬鹿力とか、"ゾーン"と呼ばれるヤツに近いか?」

「……す、スポーツの延長すか……」

 

いや、確かにスポーツ中とか、事故る一瞬手前的な感じはしてたけど……マジか……なんか、無いの?アニメ的なヤツ………よーするに、よく言われる脳が一瞬だけ本気出すとか、そーゆー奴?

 

「因みにその反応速度もトップアスリートの半分以下だ」

「…………続けて下さい……」

 

さらにニヤニヤが大きくなって行く。

 

「……ほ、他に要因は?」

「水流だな。コレが一番デカいかもな。………いや、最大の要因はコレだな。高速航行する"アンデス"の隣だったろ?そのバルバス・バウの出す渦に巻き込まれてかなり機体が振り回される様に動いてんだ。特に脚一本分軽くなってたしな……」

 

結論。奇跡(偶然)はあったけど魔法は無かった。

 

「……そっすか……俺ってホントバカ……」

「うははははっ!!運が良かったな大将!!」

「……デスよねー……」

 

バンバン肩を叩いてくるおやっさんに、そう返すしかなかった。

 

やっぱ、アニメのヒーローみたいなのは無かったな………一般人だとは自覚してたけど………夢が無いなぁ…………。

 

「…………はぁ…………」

 

肩を落とし、溜息をつく。その溜息も、波を掻き分ける音に消えて行った。

 

 

 

U.C. 0079 6.15

 

 

 

「コンタクトありました!!"ジャブロー"からです!!」

 

おお〜っ!!とブリッジがどよめく。やっとだ。やっとなのだ。

 

「……読み上げろ」

「『迎えを寄越す。その指示に従われたし』、です!」

 

その数分後、空がキラッと光り、3機の戦闘機が近付いて来た。赤、白、青というド派手な配色の小型の戦闘機だ。

 

「やっとですね!!少尉!!」

「あぁ……長かった……」

 

"キャリフォルニア・ベース"から脱出して、3ヶ月か?

全てがすごい懐かしい。本当に、ここまで来た、来れたんだな。

 

「……少尉。改めて、礼を言いたい………我々を、良くぞ導いてくれた…………感謝する……」

「………軍曹…」

「なぁーにしみったれてんだ!!遂に到着だぜ!?ド派手に行こうや!!」

「おやっさんまで……みんな、ありがとう……」

「……提督。甲板に出て見てはどうだね?後は我々がやる。 ………その喜びは、旅団全員で味わうべきだ……」

「は、はい!ありがとうございます!!では、お言葉に甘えて……行こう!!」

「はい!!」

「…あぁ……」

「だな!!」

 

4人で艦橋を飛び出し、飛行甲板へ。

 

そこでは既に整備兵達が勢揃いしていた。誰もが誰も笑顔だ。

 

その笑顔が見れた。ただその事実が嬉しかった。

 

「野郎ども!!胴上げだ!!」

「「おう!!」」

 

たちまち担ぎ上げられ、放られる。

みんな、みんな、俺なんかを信じてここまでやって来てくれた。

放られる少尉の上を戦闘機が飛び過ぎ、その上にはまるで少尉達を祝福するかのように虹が架かり、鳥が飛び交っていた。

 

 

 

 

 

 

岸壁かと思っていた部分の一部がズレ、大きな洞穴が口を開け、そこへ"アンデス"を先頭に艦隊が入っていく。

 

まさかこんなところに……さっき、『"ジャブロー"って言ってますが……何にも見えませんねぇ…』とつまらなそうに言っていた伍長が目を輝かせている。現金すな。

 

艦隊を丸々招き入れても十分に空いている大型ドッグのハッチが閉まり、"アンデス"はその傷付いた巨大な船体をドッグへ停めた。

 

「……ありがとうございました中佐。中佐のお陰で、遂にこの"ジャブロー"に到達する事が出来ました」

「……いや。我々は当然の事をしたまでだ。それに、提督達が居なければ、この艦隊は全滅していただろう。こちらこそ礼をいわせてくれ…」

 

"アンデス"艦橋で少尉と中佐が握手をする。基本的に管轄が全く違う上、階級もかなりの差があるのだ。地球は広く、連邦軍は大きい。もう二度と会う事は無いだろう。

 

「……では、行こうか……」

「はい……」

 

2人を先頭にしタラップを降りて行く。並んで敬礼をする人数に圧倒されつつもその歩みは止めない。

 

「ようこそ。地球連邦軍総司令部、"ジャブロー"へ。私はこの"ジャブロー"軍港区画、通称西区画の全権を任されている……」

 

目の前の准将の階級を付けたおっさんが敬礼しつつ挨拶する。

 

「私は"パナマ・ベース"所属、航空母艦"アンデス"艦長の……」

「私は北米"キャリフォルニア・ベース"所属の……」

 

敬礼しつつ挨拶を交わすが、内心ガックガクだ。俺だけ階級も年齢も違い過ぎだろ!!何で平気な顔して並んでんの!?

 

「お話は伺っております。長旅ご苦労さまでした。どうぞこちらへ……」

 

その准将のおっさんの付き人みたいな人について行く。ここで中佐とはお別れだ。

本当に、本当にお世話になりました。

お互い、無事にこの戦争に勝てる事を祈りつつもう一度敬礼をする。真っ直ぐこちらを見つめ返す中佐の目は暖かった。

 

「どうぞお乗り下さい。施設へ案内します」

 

エレカに乗りハイウェイを走る。見上げて天井の高さに驚く。その天井のあちこちに大型の照明がついていて中はまるで昼間の様に明るい。本当に地下かよここ。

 

「ここです」

 

そこは地下に立つビル群の一画だった。ハイウェイが直接施設に繋がっている。

 

「お疲れでしょう。今夜はここでお泊まりください。明日、司令部へ報告に出向いて頂きますので………。何かある場合は内線をお使い下さい。では……」

 

付き人らしき人はエレカに乗って去って行った。内装は豪華で、明らかに俺たち向けでは無かった。

 

「す、凄いね……」

「……そうだな。荷物は届けて有るってよ。じゃ、ここで解散だな…………。

………………皆、今までついて来てくれて、本当にありがとう。我が旅団は遂に、最終目的地"ジャブロー"に到達する事が出来た……」

 

皆が真剣な目をこちらへ向ける。あぁ、これも最後になるのか……長かったな。被害も多かった。

でも、着いた。着いたんだ。

 

「……これは諸君らの努力の結果に他ならない。俺がした事など何もない。皆、今まで俺を支えて、信じてくれてありがとう。

…………現時点を持って、"サムライ旅団"を解散とし、諸君らの任を解く。以上だ………」

 

敬礼をし、敬礼される。

少尉は振り返らず、当てがわれた自室へ向かった。

 

少尉は、決して振り返らなかった。

 

 

 

 

 

「………ふぅ……」

 

自室のベッドに転がる。当てがわれた部屋は佐官用の豪華な1人部屋だ。しかし少尉の手荷物は皆無に等しいので、逆に寒々しく見えた。

 

「……明日、か………」

 

そうだ、これからだ。これからどうなるのか、検討もつかない。

 

「………敵前逃亡とか言われて銃殺刑!…とかねぇよな、流石に……」

 

いや、あり得るかも。ここまでやって来るにかなり危ない橋も渡って来た。偽造書類などの犯罪もだ。

 

「…………………」

 

考え込む。代表は俺だ。いざという時は俺が権力を盾に脅して無理矢理……という事にしよう。生贄は必要だが、少ないほどいい。

 

伍長も軍曹も、おやっさんも優秀だ。これから始まる戦争で引く手数多だろう。みんなにみんな将来がある。

 

俺にある物は、なんだ…………?

 

トントン、とドアがノックされる。証拠隠滅のためズドン、とか無いよな?俺たちは完全なイレギュラーで、ここは連邦の最高機密が集まるとこだ。何があっても驚かない。お偉いさんの中には、俺達がいる事で不利益を被る奴もいそうだし……。

 

「少尉ー?いいですかー?」

「……あぁ、良いぞ」

 

伍長か。手にした棒を置く。何の用だろうか?

 

「少尉!!お疲れ様!!」

「………いい酒を、持って来た……」

「乾杯と行こうか!!大将!!うははははっ!!」

「………みんな……」

 

そこにはいつもの面子が揃っていた。

 

笑顔ではしゃぐ伍長。

 

相変わらず無表情に近い軍曹。

 

酒瓶片手に豪快に笑うおやっさん。

 

「………ふっ、ふふふ、あーっはっはっはっはっ!!」

「そうだそうだ!!笑っとけ笑っとけ!!うははははっ!!」

「あははははっ!!」

「………ふっ……」

 

でも、それは明日だ。

 

過去は変わらないが、明日は分からない。

 

だから………

 

「「カンパーイ!!」」

 

今日位、笑って、喜んで、いいよな…………。

 

この4人で…………………。

 

 

 

『旅路の果てに、笑顔の輝きがあらん事を……』

 

 

 

終点は、出発点へと………………




以上、無責任提督少尉ー編終了です。

次回より、ジャブロー編開始です!いってみよぉーっ!!

いろいろやらかしまくった少尉達に下される判断とは!

少尉達の命運や如何に!!

少尉のアレはマジでこんなヤツです。興奮していて、後で振り返るとアレ?ってなるのにも近いです。
走馬灯など、人間は死を感じると脳が本気をだし、スローに感じるなど言いますが、仮にスローとなろうと、身体の速度は変わらないので、本能的な回避を行ったに近いです。
武術設定が活かせた、かな?

最大の要因はおやっさんの言う通りですけど(笑)。

次回 第二十六章 ジャブローにて……

「………そうか……いいママンを、持ったな……」

お楽しみに!!

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