機動戦士ガンダム U.C. HARD GRAPH 名も無き新米士官の軌跡   作:きゅっぱち

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中南米編、完結!!

長かった。ものっそい。

何かホワイトベースの航路みたいだな。北米に降りたのに地球一周した後ジャブロー的な。


第二十一章 パナマ・ベース防衛戦

海とは何であろうか?

 

生命の原点?

 

世界を繋ぐ通路?

 

外敵を阻む壁?

 

それとも、ただの水溜まり?

 

 

 

U.C. 0079 6.1

 

 

「……どうする……」

 

少尉の"ザクII"に残された武器は余りにも少なかった。銃口がメガ粒子砲により歪み、溶解した"ザクマシンガン"はもう撃てない。無理に撃つと最悪暴発するだろう。

 

てゆーか近接格闘武器しかねぇ!!メガ粒子砲持ちに近づけってか!?

 

「アルファ1より"ロクイチ"、及び基地守備隊、"リジーナ"攻撃隊へ。茶色のデブは任せろ。すまない、青い"ザク"は、任せたぞ……」

《……こちらブラボー1。了解》

《ブラボー2りょーかい!!軍曹と一緒にがんばるよ!》

《こちら守備隊。ちと厳しいが、やってやるぜ!!》

"リジーナ"攻撃隊(チャーリー)了解。任せましたよ!!》

 

メガ粒子砲とは、ミノフスキー物理学が人類に与えた最大の恩恵の一つだ。一定濃度に達したミノフスキー粒子が構成する特殊力場(Iフィールド)を圧縮することで、正負粒子が融合する『縮退現象』により生じる"メガ粒子"を加速、射出する粒子ビーム兵器の事だ。

エネルギー変換効率が極めて高く、尚且つ正確な制御が可能なため、旧来のレーザー兵器、核兵器に変わる兵器として時代を一新した。

 

弱点は、その"メガ粒子"形成には戦艦クラスの高出力ジェネレーターが必要な事であった。それに圧縮した"メガ粒子"をビームとして撃ち出す為にはそれ以外にも高精度な収束リング、加速器、ビームチャンバー(薬室)が必要な事もだ。

 

「……粒子……? それに、タイムラグ………… よし!!」

 

少尉の"ザクII"と"ビヤ樽"の直線距離は約60m。コレなら………。

 

"ビヤ樽"へ突撃する。"ロクイチ"に気を取られていた"ビヤ樽"がこちらへ首を、モノアイを巡らせる。走りながら左手で"ヒートホーク"を抜く。もちろんまだ格闘距離ではない。

ゆっくりとこちらへ向き直る"ビヤ樽"。刹那、コクピット内にロックオン警戒音が鳴り響く。まだ、まだだ!

走りつつ"ヒートホーク"を"ビヤ樽"へ投げつける。直撃は確認せず更に距離を詰める。あのトロさだ。この距離なら確実に当たる。

 

「スモーク散布!!」

 

少尉の"ザクII"に搭載された発煙弾発射機(スモークディスチャージャー)が起動、人工の煙を作り出す。中には細かい金属片が混ぜてある、チャフも兼ねた特別製だ。一気に視界、レーダー、各種センサーがホワイトアウトするが、それは敵も同じはずだ。

 

万能と思えるビーム兵器にも弱点はある。"メガ粒子"を用いたビーム砲から撃ち出されるビームは磁場を帯びたビームなので、地磁気や高出力の電気などの影響を受け直進しない事。それに、ビームの威力、射程は()()()()()()()()()()()()()()()()()事だ。

ビーム兵器はそのエネルギー変換効率の高さが仇となり、進む空間、この際は空気中の大量の水分、ガス、チリ、ビーム撹乱物質などでその威力は大きく減衰する。

少尉は知る由もないが、少尉が行ったのは後に連邦軍を勝利へと導いた"ビーム撹乱膜"の真似事だ。

もちろん即席であるため、その効力は本物の"ビーム撹乱膜"に遠く及ばない。しかし"ビヤ樽"のビーム兵器は未完成だ。そこそこ有効だろう。

 

それに、それが本来の目的でない。

 

「うおおぉぉぉ!!」

 

"ザクマシンガン"を腰へマウント、両手をフリーにしスラスターをフルスロットルで吹かす。"ヒートホーク"を捨てやや身軽になり、スラスターの噴射炎でスモークを掻き乱しながら"ザクII"が飛翔する。もちろん下はスモークで真っ白だ。しかし、少尉には輝く目印があった。

 

投げつけた"ヒートホーク"だ。

 

「喰らえぇぇぇええ!!」

 

空中で"ムラマサ"を抜刀、スモーク内でうごめき鈍く輝く"ヒートホーク"目掛け斬りつける。

 

激しい衝撃。振り下ろされた"ムラマサ"は"ビヤ樽"の脳天を唐竹割りに捉えていた。

 

「どうだ!……何!?」

 

スモークの中から渦を伴い繰り出された"ビヤ樽"の"クロー"が左肩のショルダースパイクを吹き飛ばす。カス当たりだからコレで済んだが、直撃を受ければ腕どころでは済まなかっただろう。それ程の威力だった。

 

「手応えはあったぞ!?耐えたのか!?………!」

 

大気が大きく乱され、スモークが晴れる。"ビヤ樽"を斬り裂いたハズの"ムラマサ"は根元から折れ、"ビヤ樽"へ突き刺さっていた。頭頂部から入った一撃は、その重装甲を貫き切れず、胸元でストップしていたのだ。先程の"クロー"による一撃はモノアイが破壊された為の闇雲な一撃だったらしい。

 

「……なんて奴だ!!」

 

重装甲にメガ粒子砲、それにパワー。その性能に舌を巻く。"ザクII"とは比較にならない。

 

「いい加減にぃ!くたばれよぉ!!」

 

闇雲に振り回される"クロー"を掻い潜り、"ビヤ樽"の最も装甲の薄そうな下腹部へバヨネットを突き刺し、接射する。暴発の危険もあったが、気にしていられない。それ程、この"ビヤ樽"は脅威だった。

 

装甲を突き破った銃口から発射された120mm弾が"ビヤ樽"の中をグチャグチャに掻き回す。

その巨体を震わせ、動きを止め崩れ落ちる"ビヤ樽"。

 

凄まじい相手だった。まだ手が震えている。よく生きてたな……。性能は、確実にあちらが上だった。

 

「…次だ。まだ"ザク"が…?……クソッ!」

 

深くまで差し込まれたバヨネットは、突っ込まれ歪んだまま撃った所為か抜けなかった。仕方なく放棄する事にし、残る"ザク"を倒すための武器を探すため、首を巡らせる。

 

しかし、"ザク"は"ロクイチ"、それに守備隊のミサイルカーに囲まれ右往左往していた。動きも鈍い。汎用兵器とはいえ宇宙や地上とは全く性質の異なる水中という環境に対応させるため、無理矢理水中仕様にしたシワ寄せかもしれない。

 

その"ザク"に狙い澄ました"リジーナ"弾頭の一撃が突き刺さり火を吹く。胸部上面装甲に穴を開け、そこから煙を吹きながらゆっくりと倒れ伏す"ザク"。もう1機は既に撤退したようだ。

 

「終わった、のか……?」

 

辺りを見渡す。軍港はひどい有様だった。あちこちが焼け焦げ、捻れ、溶けていた。幸い、軍艦にはそこまでダメージはなさそうだが…………。

 

《少尉ぃー!!無事ですか!?》

「……伍長か。こっちは大丈夫だ。そっちは?」

《攻撃隊に被害は"ロクイチ"だけだって》

「……分かった。全機、戦闘態勢を解除。警戒態勢へシフトせよ」

《《了解》》

 

煙が風に揺られながら登り、青い空へ吸い込まれて行く。陽は明るく辺りを照らし、戦闘の爪痕を浮かび上がらせる。

日が沈むのは、まだ先になりそうだった。

 

 

 

 

 

衛生兵(メディック)!!メディーック!!」

「こっちだ!!手を貸してくれ!誰か!!」

「痛い……痛いぃぃぃいい!!」

「消化活動遅いよ!!早くしろ!!手遅れになっても知らんぞー!!」

「クッソ!人手が足らん!!燃料庫、弾薬庫に引火させるな!!」

「手が足りない!!誰か来てくれ!!」

「おい、まだだ!耐えろ!もうすぐお前の番だからな!!死ぬな!!」

「ダメだ!!ヤツが!!ヤツがまだ奥に!」

「衛生兵!!おい!!衛生兵はどこだ!!」

「くっそ!!28番ハッチはダメだ!!」

「大丈夫か!? 火傷はどこだ! ……くそっ、燃えてる部分の肉を切り取るぞ! 痛いだろうが我慢しろ! おい、ナイフをよこせ! なけりゃ銃剣でもいいからはやく!」

 

酷い有様だった。海から来た敵は何故か散布された機雷に掛からず、奇襲を喰らったのだ。戦闘は終わった。しかし、すでに次の闘いが始まっている。

 

「軍曹、伍長!無事か!」

「はい!今回は"ロクイチ"も無傷でしたから……でも……」

「……被害は、大きくは無い。……まだ、少ない方だ……」

「大将!!ちょっと来てくれ!!」

「はい!……軍曹、軍曹は医師免許、取ってたよな?」

 

傭兵時代戦闘の合間を縫って独学でとったらしい。バケモンだわ。もはや戦う軍医である。いや、リア・セキュリティというヤツか?

 

「……肯定。手術までやれる……」

「伍長を伴い、治療に当たってくれ。俺はおやっさん、基地司令と話をして来る。頼んだぞ」

「……了解」

「はい!私も頑張ります!」

「早く来い!!年上を待たせるな!!」

「はい!ただいま……頼んだぞ」

 

おやっさんと基地司令部へ。ドタバタと走り回る兵士の合間を縫って行く。奇襲のため警報や対応、避難が遅れたため非戦闘員が多く巻き込まれたらしく、そこかしこで今だに怒号が響いている。

 

「じゃまするぜ?」

「失礼します。司令。お呼びでしょうか?」

「……あぁ。座りたまえ」

 

おやっさんと座る。基地司令の顔は土気色だ。顔を歪めながら口を開く。

 

「…………これは、どういう事だ?」

「……は?」

「これはどういう事だ、と聞いておるのだ!!」

 

ダンっ!と机を叩きつつ怒鳴られる。どういう事だ?意味が分からん。いや、まさか………。

 

「……疑ってんのか?俺達がスパイだと……」

「そうだ!!貴様らが来た時に狙った様に襲撃だ!!機雷にも掛からなかった!!貴様らが手引きしたんだろう!!」

「お、落ち着いてください!そのような事はありません!!それに決めつけるとしても早け………」

「うるさい!!このスパイども!!残念だったな!!あれしきの戦力ではこのパナマは墜ちんよ!!」

 

司令は明らかに興奮し正常ではなかった。今にも腰のサイドアームを抜きこちらへ向けて来かねない。

好き放題言いやがってこの野郎。こちらとて被害喰らっとんのじゃてめーだけ被害者ヅラしやがって。

 

「……だが敵の新型を撃墜したのは、紛れもなくここにいる少尉だ」

「………それがどうしたというのだ!?被害の内に潜り込ませる!!常套手段だ!!」

「新型を犠牲にしてまでする作戦か?それは?」

「! ぐっ………」

「……司令。落ち着いてください。我々のスパイ疑惑を晴らす事は出来ませんが、一つ、提案があります」

「少尉?」

「………………………何だ?」

 

深呼吸をする。落ち着け。興奮した人間は何をしでかすか分からん。刺激するな………。

 

「……今回の戦闘での敵軍戦力は少な過ぎました。司令の言う通りです」

「……………それが?」

「今回は威力偵察に過ぎないであろう、という事です。次に、本隊が本格的な侵攻を行うでしょう」

「………………」

「………………」

 

さて、勝負だ。如何に相手を納得させるか…欲を出させるか…………ここで失敗したら終わりだ。冷静に、冷静に……。

 

「今回の戦闘で軍港に大きなダメージを受けました。…………しかし、軍艦は無事です。そこで、明日。我々は予定通り出港します」

「………ここを見捨てて、か?」

 

んな顔すんなよ。そうしたくなっちまうだろ?ったく。ショックは分かるけどもっとマシな判断をな……はぁ……。

 

「違います。()()()()()()を叩きに行くんです《・》」

「何だと!?」

「…………何?!」

 

食いついたな……よし……。てゆーか、おやっさんもかよ!どーする気だったんだ?!

 

「基地の守備能力は現在低下しています。しかし軍艦も防衛戦は、特に新型の水陸両用MS相手では、全力を出せません。このままでは共倒れです。

…………ならば、我々が囮に近い形で出港、敵に攻勢を仕掛けます」

「…………」

「お互い、全力を尽くし、生き残るにはこれが最善の策です」

 

さぁ、どう出る?トチ狂ってジオンとお友達にでもなりに行くのか?

来いよ司令、プライドなんか捨てて、かかって来い!!

 

「…………………」

「…………………」

「…………………」

「………………………………」

「………………………………」

「………………………………」

「……………………………………………」

「……………………………………………………」

「……………………………………………………………」

 

無言が続く。頼むから呑んでくれ。ここが墜ちたら"ジャブロー"もヤベーんだよ。

 

「…………………………分かった」

 

ッシャオラッ!!

 

「先程は取り乱してすまなかった。確かに、そうだな……」

「司令……」

「……はぁ。まぁ、いいか……」

 

おやっさん!?やめて!!これ以上は俺の心臓が持たんて!!これ以上司令を刺激しないで!!中年のハートは磨りガラス製なんだよ!!父さんが言ってた!!

 

「…貴官の申し出に感謝する。お互い、全力を尽くそう」

「……はい!」

「…だな」

 

立ち上がり、敬礼する。その後一礼し司令室を後にする。

 

………………………はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああ。

 

どっと疲れが………。ドンパチやる方がまだ気が楽だわ。

 

「…一件落着だな!大将!!良くやった!!」

「………………もうさせないで下さい。お願いじす……」

「噛んでるぞ?なんだJISって?」

 

日本工業規格です。

 

「……解決はしてません。首を締めたくらいです。つーか、素人意見なんですけど……」

「いや、良い判断だ。やはり、俺の目は間違って無かったな!うはははははっ!!」

「……ふふっ!あはっ!あはははは!!あーっはっはっはっはっはっ!!」

 

夕暮れの基地に、男2人の笑いが反響する。

まだ明日への希望を捨てず、今日を生きる男達の、明るい笑い声は、ずっと響き続けていた。

 

 

 

『海。海はいい…………男の、海だ………』

 

 

舵は、既に決まっている………………




次回、少尉、大海原へ!!

時は大航海時代!!ありったけのゴッグの破片をかき集め、金属反応を探しに行きます(笑)。

次回 第二十二章 海の果てまで連れてって

「フィィィッッシュ!!イィィヤッホォォォーーー!!」

お楽しみに!!

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