機動戦士ガンダム U.C. HARD GRAPH 名も無き新米士官の軌跡 作:きゅっぱち
言うなれば成長か?文才の無い素人なのでなんとも。
世はセンターだ受験だと騒がしいですが、私としては皆さんの幸運を祈るのみです。
地球連邦政府は、屍山血河の上に立っている。
地球の統一。それがどのような事か、誰もが簡単に分かるはずだ。
人種、言葉、思想、宗教……それらを乗り越え、統一するには、武力に頼らざるを得ないという事を。
その紛争は、今もなお続いている。
世界は、争いをやめない。
そこに、人がいる限り。
U.C. 0079 5.19
「斥候が帰ってこないだと?」
「はい。伍長を隊長に、8km先の集落に行かせたんですが……」
「……………」
「……連絡を絶って何分だ?」
「30分くらいかと…」
「……間違い、ない。……ゲリラだ…」
「……!」
「くそッ、俺が軽率だったか…」
メキシコは麻薬関係のカルテル、マフィアなどが絶えない土地だった。それは宇宙世紀でも変わらず、統一時の紛争が激しかった地域の一つだった。
当時地球連邦政府はある程度の交渉を行った後、武力による制圧後の統一を選択し、その抗争は長きに渡った。統一後も紛争は絶えず、度々鎮圧部隊を送っていたはずだが……。それがジオン独立戦争を機にまた復活したらしい。
麻薬の力は偉大だ。その財源があるからこそ、ここまでやって来たのであろう。麻薬のための後ろ盾も多いはずだ。
武装していたとはいえ、軽率だった。
「仕方ないか、人質を取られちゃ…」
「はい。今からでも、早めに向かい交渉を呼びかけましょう」
「……少尉、それは…」
「それで引く相手ならな…」
「無理でしょうね…」
時間を無駄には出来ない。早めに行かなければどうなるかも分からない。人質にするため殺さないとは思うが……。
「おやっさんは1kmまで移動し待機して下さい。同時に"ラコタ"、"ヴィークル"で集落を包囲させて下さい。"例の布陣"で。合図で同時に突撃出来るように。俺は軍曹と"ロクイチ"で出ます」
「分かった。"ザクII"は使わないのか?」
「あいつじゃ味方を巻き込みかねません。それに、ゲリラのRPG攻撃にも強い訳ではありませんし。……しかし、用意はして置いて下さい」
「分かった。健闘を祈る」
「はい!よし、行くぞ軍曹、装備を整えヒトヨンマルマルまでにここに集合だ」
「……了解…」
トラック内のガンロッカールームで装備を整える。交渉決裂時のドンパチに備えボディアーマー、防弾ベストを重ねて纏い鉄帽をかぶる。CALT M72A1アサルトカービンを手に取り、マガジンも多めに持つ。グレネードもスタン、スモーク、破砕を各種二つずつという重装備だ。ついでに伍長のショットガンも手に取り、一緒に持っていく。
「よし、揃ったな。行くぞ」
「……了解…」
"ロクイチ"砲手席に座る。軍曹がドライバーだ。直ぐにエンジンが始動し、全長9mの陸の王者が武者震いをし、滑らかに動き出す。
上から顔を出し索敵する。既にM-60重機関銃のセーフティは解除済みだ。周りは森だ。何があるか、何が潜んでいるか分からない。気は抜けない。
その集落は森の奥まったところに静かに立たんずんでいた。その前まで進み、拡声器を持って呼びかける。
「こちらは地球連邦軍だ!先程ここ周辺で友軍が消息を絶った。この村の代表者と話がしたい!」
返事は無い。静まりかえっている。しかし、"ロクイチ"のセンサーは多数の人が潜んでいるのを感知している。歩兵が戦車を倒すのは簡単な事ではない。相手も出方を伺っているようだ。
「諸君らが武器を持って隠れているのは分かっている!諸君らがここら辺一帯を支配するグループだと言う事もだ!我々は無駄な戦闘を望まない!ただ友軍の消息、安否を確認したいだけだ!」
一人の男が目の前に走り出た。そして呼びかける。幸い癖があるも英語だった。軽装であるが、その手にはライフルが握られている。
「ボスが話をしたいそうだ!!今すぐ戦車を降りろ!」
「分かった。応じよう。しかし、戦車には近づくな」
軍曹と"ロクイチ"を降りる。本来なら危険すぎるが、今は周りを包囲している。それに相手も交渉相手を無下に殺すワケにもいかないはずだ。
"ロクイチ"に奴らが手を出さないワケがない。しかし降りたのは、交渉の場に着くためと、実は"ロクイチ"カーゴスペースに完全装備の伏兵が6人無理やり乗り込んでいるからだ。定員は4名なのでそうとうな無茶をしている。きっと中は中国雑技団もビックリな事になっているだろう。
「武器を置け」
「それは出来ない」
「置くんだ」
「なら君からだ」
「置けと言っている!」
「そう怒鳴るなよ、兵が見てる」
歩きながら中を観察する。壁は重機関銃で十分抜けそうだ。軽口を叩いているもの内心ガクガクだ。ゆっくり、ゆっくりと刺激を与えないよう歩く。軍曹の見た目は何も変わらない。ヘルメットにタバコを挟むぐらい余裕を出している。銘柄は"ラッキーストライク"だ。軍曹前あんま好きじゃないっつってたよねソレ。
「分かった、置こう。しかし、それは代表の前でだ」
「ならここだ。早く置け」
「はいはい」
そう言われて目の前の建物を見上げる。ふむ、なるほど、目の前の建物は確かに一番立派だった。まぁ、どうせボスの影武者だろうが。こちらとて人質さえ取り戻せればいいのだ。どうでもいい。
ゆっくりアサルトカービンを置く。軍曹もそれに習う。サイドアームは置かなくていいよね?何も言わんし。
トラップに注意しゆっくり入る。幸いトラップは無かった。中は広く、虎皮の敷物がしてある。あんま趣味は良くなさげだ。アサルトライフルで武装したマフィアが並ぶ奥、おっさんが座っていた。若い付き人つきだ。
周囲の武装マフィア達は威圧感を与えるため囲んでいるのだろうが、素人の構えだった。少数を多数で囲んだら同士討ちするに決まってんだろ。
「貴方がここの代表ですか?」
「いかにも」
おっさんが応える。なんやねんこのココット村の村長みてーな感じ。
「ここまで通していただき恐縮です。貴方がたは我々地球連邦軍兵士を拉致していると私たちは睨んでいます。そのためにここに来ました」
「…証拠は?」
「明確な物はありません。しかし、それ以外にありえません。我々はただその兵士達の無事を確認、回収したいだけです。貴方がたに危害は加えません」
「……若い割りにしっかりしているな。……ふむ、確かにそのような者達を我々は確保している」
「……では、交渉と移りましょう。我々の物資を提供します。それと人質を交換しましょう」
「……物資とは?」
「清潔な水と食料、それに銃器類、弾丸です」
「……あの戦車はダメか?」
「……アレは高度な整備施設が無ければ使えません。その上での判断です。それより、人質の無事を確認させて下さい」
「……連れて来い」
その声と同時に奥で人が動き、誰かを引きずって来る。
「……もっと居たはずです」
「…………」
引きずられてきたのは伍長ただ一人だった。目隠しに手錠と猿轡をはめらられている以外には何も問題はなさそうだ。暴力、拷問の跡は確認出来ない。早めに動いて良かった。元気よく動いてるし。俺の声を聞き分けたのかまた激しく動いている。きっとマフィアの皆さんもうるさいと思ったんやろな。
おっさんは質問に応えず続ける。話聞けやこの。
「……先ずは1人だけ、だ」
「全員の安全を確認したいです。そうでなければ意味がありません」
「…………」
何か言えよ。微かに軍曹と目配せする。軍曹はベルトを掴んだ。それは、"もう手遅れ"の合図だった。
「…………交渉決裂…」
軍曹が俺にしか聞こえないぐらいで呟く。分かっていた。希望はあるといえ、こうなる事は。まだ、伍長が無事だっただけ僥倖だったのだ。
「"ゴキブリゾロゾロ"!」
叫ぶと同時に腰のマテバを回し、腰だめのまま撃つ。引き金を引き続け、左手でハンマーを弾き連射する。ファ二ングショットと呼ばれる、リボルバーの早撃ちだ。大まかにしか狙いはつけられないが、この距離では十分だ。軍曹は背に手を回し偽装したショットガンを抜きフルオート射撃する。この間およそ0.4秒。
伍長を掴んでいた男も撃たれ、倒れる。よろけて伍長も体勢を崩す。スタングレネードのピンを抜きダッシュ。軍曹はスモークだ。周りでは最初の衝撃から立ち直り、銃を構え始めていた。
少尉、軍曹、伍長が倒れ込む。倒れ込む伍長を少尉が守るように覆い被さった。スタングレネードが炸裂し、約100万カンデラ以上という莫大な閃光と、180デシベルの爆音を撒き散らす。頭が真っ白になり、耳がガンガンする。何も考えられない。
その瞬間、それ以上の轟音を立て、彼らの上に
接近した部隊が、分隊支援火器や重機関銃を一定の高さで一斉射撃し、薙ぎ払ったのだ。
撃ち出された数千発にもなろう5.56mm、7.62mm、12.7mm、13.2mm、20mm弾が集落を建物ごとグズグズの木片に変える。これくらいの大口径弾になるとコンクリートブロックさえ粉砕するのだ。その威力の前では木の家など紙くず同然だ。その破壊の奔流に、木が、ましてや人が耐えられるはずもない。
壁が吹き飛び、木屑に変わって行く。人が欠片も残さず血霧となり消し飛んで行く。鉄の暴風は全てを破壊し尽くして行く。
音が止む。爆音と閃光で目がチカチカし頭がガンガンするが、行動を再開する。軍曹は既に立ち上がり、生き残りにトドメを刺してまわっている。知っていたとはいえ目の前で炸裂したスタンをもしっかり躱したらしい。
伍長は目の前の状況に対応出来ず放心している。手錠を撃って破壊し、目隠し、猿轡を取る。そしてそのまま頬をペチペチ叩きながら助け起こす。
「伍長、無事か?」
「…え、あ……少尉?………わたしは死んだの?」
「生きてるぞー帰ってこーい」
死んでたら何のために身体張ったんだよ。俺はスタンで自爆したんだぞ?
「……少尉、少尉!!しょういぃぃぃ〜〜〜!!」
「………ごめんな。本当に……許しては、くれないだろうが…」
泣くな、無事だろ。安心したよ。俺は。お前が死んだら、俺はどうすりゃいいんだ。
肩を震わせ泣きじゃくる伍長を抱き締める。細い、本当に細く小さな肩だった。そのまま肩越しにマテバで倒れながらも銃を向けて来たマフィアを撃ち倒す。しぶとい奴めが。感動の瞬間を邪魔すんじゃねえよ無粋な。
「……クリア…」
周囲を掃討し、敵を排除した軍曹がカバーに入り、そのまま周囲の警戒を続ける。そこに続々と仲間が集結してくる。
それでも俺は震える伍長を離さなかった。離せなかった。
コンボイが集落
「
「まだです!」
また、戦死者が増えた。その全員の名前と顔を覚えている。みんな、俺を信じ、死んでいった。俺が殺した。
ゆっくりため息をつく。様々な
少尉は泣き疲れ、寝てしまった伍長と一緒だ。寝ていても伍長が抱きつき離さないからだった。衛生兵曰く身体に異常は一切なく、あっても手錠の擦れた跡くらいらしい。あるとしたら精神の方であると言っていた。
「……少尉…」
「……軍曹か。どうした?」
「……食事を。コーヒーもある…」
「ありがとう」
並んでそのまま食事を始める。伍長は寝たままだ。時折身体を震わせ、腕に力を込める。顔はしかめられていた。
恐ろしかっただろう。絶望しただろう。志願兵であっても
伍長も志願兵だ。しかし、それでもまだ17歳の女の子には変わりなかった。
「……いい。今は。生き延びたんだ。今日は、ゆっくりおやすみ……」
ゆっくり頭を撫でる。さらさらの茶髪を指で梳く。寝息がだんだん落ち着いてきた。それでも手は止めない。風が吹き、その短い髪を揺らして行く。
「………軍曹」
「……なんだ…」
「…軍曹は、いなくならないでくれ……お願いだ」
「…………」
「…俺は弱い。何も守れない。……でも、俺は……
俺は……俺と、軍曹と、伍長の三人で、いつまでも笑って居たいんだ。無茶な願いだ。分かってる。………でも、本心なんだ……」
「………そう、か………」
ポンと肩に手が置かれる。見ると、軍曹がこちらを覗き込んでいた。静かな、しかし硬い意思のある瞳に吸い込まれそうだった。傭兵として世界を周り、あらゆる物を見つめてきた、大人の男の目だった。
「……少尉。俺は、少尉に……大きな、返しきれない借りがある。………少尉が望むなら…」
「…………」
「……俺は、俺の役目を果たす。……それだけだ…」
「……軍曹…」
「……ついて行く。どこまでも。……この身は、そのためにある……」
風が静かに流れる。上を向く。そうしないと、涙がこぼれそうだった。遥か彼方の
軍曹の言う、"借り"が何かは分からない。でも、嬉しかった。心強かった。
今は、ただ、この宇宙を見上げていたかった。
『出会いがあるなら、別れは必然。しかし、それは、今じゃない。……そうだろ?』
煙が、ゆらゆらと空へ向かっていく……………
後2、3回で中南米編終了だと思います。
ジオンの侵攻速度は鈍り、膠着状態が10月までは続きます。
つまらないかもしれませんが、何とかみなさんに楽しめるよう精進するのみです。
シェルショックはどちらかというと降り注ぐ砲弾などでなるものですが、ここでは戦闘関係のストレス症というイメージです。専門家でもなんでもないので間違ってたら修正します。
次回 第十九章 サンホセ近郊対空迎撃戦
「だったら、そこから飛び降りればスッキリするんじゃないか?」
お楽しみに!!
意見、感想お待ちしております。