機動戦士ガンダム U.C. HARD GRAPH 名も無き新米士官の軌跡 作:きゅっぱち
その分他に力を入れようと思います。出来るかどうかはともかく………。
まぁ、最後までどうぞお付き合い下さい。
"戦災"、と言う言葉がある。
天災、人災などと同じ被害を表す言葉だ。
戦争によって起こる、戦争が忌避される一番の理由だ。
戦争が始まって五ヶ月、その被害は留まる事を知らない。
それはこの地球だけでない。
第二の大地であったコロニーでさえもだ。
これを越えた先に、残るものは果たしてあるのだろうか。
U.C. 0079 5.17
《よーしそのままー、オーライ、オーライ……ストォーップ!!よし!!いい腕だな!》
「どうも、しかし、被害を出したのは……」
《いいってことよ!!アンタらが居なかったらもっと酷くなってたさ!今もこうして助けてくれてるしな》
「………はい。感謝いただき、光栄です」
"ザクII"のコクピットから街を見下ろす。戦闘から2日、破壊した敵兵器の残骸や破壊してしまった街の瓦礫をどかす事からはじめ、だいぶ街は活気を取り戻し始めていた。幸い民間人に被害はなく、街並みも完全倒壊などなく、損害は比較的軽微だった。
「…ふぅっ……まぁ、こいつの経験値も溜まるし、何も、ドンパチやって、壊すだけが軍隊じゃないからな…」
古来より軍隊は優秀な建築士であり、医者でもあり、開墾などの特殊技能を持つ集団であった。それは今も変わらない。
このような被害発生時、やはり最も頼りになるのは軍だ。迅速な展開、対応が出来るのは、戦場でもその技能が必要であるからであるが。
キラキラとした朝日を浴び、その中に"ザクII"が浮かび上がる。その右肩には、真新しいエンブレムが輝いている。それは、コクピットで操縦する少尉の左肩にも、ピカピカの
この二日、街の復興を手伝う途中に、新装備の開発と同時に施されたものだった。
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U.C. 0079 5.16
「少尉!!見て下さい!少尉のパーソナルマーク考えましたよ!!」
「パーソナルマーク?必要無いぞ?俺は。考えてくれたのは嬉しいが……」
瓦礫を運び終え、一息ついて汗を拭いていた少尉が伍長の声に振り向く。"ザクII"は先日のヘヴィーアタックで念のためオーバーホール中だった。おやっさんに凄いどやされた。久しぶりだわ、あの感覚……。幸いパーツには余裕があるが………。
そのため手作業で瓦礫を回収中だったのだが、その時に伍長が巻いた紙を片手に走ってきたのだ。おい、"ロクイチ"にドーザー付けて仕事してたんじゃないのか?軍曹を呼ぶな、土嚢抱えてるのが見えんのか?
それにエンブレム?何かロクでもなさそうなヤツじゃなかろうな?イヤだよ?恥ずかしい。"マングース"でも俺は部隊章だけだったし。
「何でですか!がんばって考えたのに!!戦闘機にだってノーズアートつけるじゃないですか!!」
「確かにそうだがなぁ…俺は付けなかったし…この有視界戦闘のMS戦で、目立ちたくは無いしな……」
「……少尉、士気の面からは……効果的だ……」
「確かに。だが、俺はそんな腕は……」
「取り敢えず見て下さい!!ほら!」
そのエンブレムは上部に半円とと斜辺部分に丸みを付けたホームベース状のオーソドックスな枠に、旭日旗をバックに刀を構えた真っ黒な鷹がはばたいているようなデザインだった。中々いい。揺らぎそうだ。ん?つーか、自分の"ロクイチ"につけりゃいいじゃん。それは言っちゃ負けなの?
「これは伍長が考えたのか?中々カッコイイじゃないか」
「はい!私が原案を出して、軍曹にアドバイスを貰って、おやっさんに図案化してもらいました!」
「……だからか、これは鷹じゃなくて八咫烏なんだな…」
鷹の様にデザインされているが、足が3本あった。確かに、俺のマテバもそういうマークがあるが……。
「この上の文字は?」
上部の半円に乗っかる様にくっ付いた枠に、細々と文字が書いてある。手ェこんでるな。
"The Trailblazer to The Frontier"……新天地への先駆者、ってところか?文法とかに問題無いのかな?コレ?
「それはおやっさんだって。MS運用や、この旅団を導く、先駆けって事らしいよ!少尉にピッタシですよ!」
「……少尉、ここは……」
「……うーん…」
皆で考えてくれたのか、嬉しいし、無下にしたくはない……ん?おやっさん?
「……軍曹、まさか……」
「……もう、整備班長は、図案をプリントアウト済み……」
やっぱりか……好きだもんなーそーいうの。頭を抱えたくなった。
「………やっぱりダメですか?」
そーゆー話じゃないんだよ……俺はおやっさんに"ザクマシンガン"の交換用ロングバレル、あまり使い勝手のよくない"ヒートホーク"に代わる格闘兵装、迷彩塗装しか頼んでないのに……それ最優先でやってそうだな……。
「……トリアーエズ、おやっさんのとこ行くか…すまんか…」
「エレカっすね?分かりました!回してきます!!」
「あぁ、ありがとう……」
エレカを借り"ザクII"の下へ向かう。おやっさんの怒鳴り声がここまで聞こえてくる。相変わらずの気合だ。
「………うわ……」
もう付いてた。右肩のシールドにデカデカと。スゲー目立つ。撃ってくれと言っている様なものだこりゃ。せっかくの迷彩全然イミねー。やっべぇ、頭痛とストレスが……ソウルジェムあったら一瞬で真っ黒に濁るレベルだコレ。
「………おやっさん……」
「おお!大将!どうだ!!気に入ったか?」
「こんなん迷彩もクソもないじゃないですか!!直ぐに外して下さい!」
「……だが、断る」
「えぇ!?」
「何のために考えたと思ってんだ?あ?それとも、その俺たちの努力を無に帰するのか?」
そーゆー言い方すんなよ!!意地の悪い顔しやがって!!
「う……でも…」
「……整備班長…」
「なんだ?」
よし、軍曹!バシッと言ってやれバシッと!!
「……流石に、目立ち過ぎだろう………せめて、肩の前面装甲のみ、ぐらいにすべき……」
「まぁ、流石にふざけ過ぎたか?」
妥協案だった……。
「えー、大きい方がカッコいいのに……」
「……………」
こりゃ、ダメだ。つーか、おやっさんがついた時点で、俺に既に勝ち目は無い。
「……分かりましたから……せめて、軍曹の案で……」
「ったく、しけてんなー。あー分かったよ!そうするよ。すりゃいいんだろ?このプロセスチキンが」
機嫌悪っ!!
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そんなこんな一悶着あった後、実装されたエンブレムだが、中々ウケがいい。まぁよかった。因みに伍長の原案を見せてもらったが、それはそれはヒドかった。今のデザインにブラッシュアップしたのは軍曹という事が判明。アレ?デジャヴ……?
《大将!!だいたい終わったら、新兵装を試す。こっちへ来てくれ!》
「今終わりました。そちらへ向かいます。それから、大将はやめて下さいと何度も………」
《…ん?文句でもあっか?》
「……………ありません」
"ザクII"を歩かせ、街を出て基地へ。そのまた外れの射爆場におやっさんはトレーラーと複数の整備兵と共に待っていた。
《じゃ、まずコイツからだ。約2500m地点に的を用意した》
「了解。さっそく試させて貰います」
それは"ザクマシンガン"のバレルを約1.75倍に延長したものだ。このような簡易改造は"ルウム"でも確認されているらしい。効果はありそうだった。
元々"ザクマシンガン"は宇宙で対艦攻撃を前提に開発されたものであり、弾丸をばら撒く武器であるため、命中率は高くは無い。それに、重力下での運用も考えてはあったが、地球という湿気や高温などの数多な環境には対応し切れず、それが更に命中率を落としていた。
今回はそれらを踏まえ、ただの銃身延長にとどまらず、各部のシーリング、構成パーツの素材変更、高精度化など地球に対応したモデルとなっている。
因みに延長した銃身は先日敵に両断されたもののリサイクルだ。環境に優しいね!
《……少尉……重力下では、長い銃身は垂れる。その上…陽の光で、膨張、変形する……注意しろ……》
「了解」
FCSにその情報を入力、再計算させた後、改めて手動で狙いをつける………射撃。
放たれた120mm弾は遥か遠くのターゲットをバラバラに吹き飛ばす。うん、いい感じ。
《……今ので、砲身が温まった……砲身の歪みは、無くなる…》
「了解」
またFCSを調整する。流石戦車屋。情報が的確だ。
射撃。今度はカス当たりだ。風に流されたらしい。
《……温められた砲身が、また変わった……》
「了解、上げるか…」
砲身は、一発目は重力でやや
その後もフルオート、3点バーストでの実験データを取る。弾丸も、
対空砲弾が
《よし。いいデータが取れた。これを元に更に改良していくからな》
「お願いします」
《お次はコイツらだ。大将は剣道、銃剣道有段者だったな?薙刀は用意出来なかったが、刀に近い形状にしてみたぞ?》
「早速試します、危ないので、更に距離を取って下さい。すっぽ抜けるかもしれません」
よし、次は格闘兵装だ。用意されたのは"ザクマシンガン"用
使い勝手も中々だ。元から武術の心得があるため、そのモーションを"ザクII"に覚えさせつつ振り、ターゲットを粉砕する。
《良さげだな》
「はい。斧より俺に向いている様です。しっくりきますね」
モーションマネージャーを細かく設定、変更しつつ武術の方通りMSを捌く。"ザクII"はそれをどんどん覚えて行く。俺のヤツ、覚えてるの格闘、回避、カバーアクションばっかだな。射撃はホント基本しか……。
"ヒートホーク"より軽い分振りやすく、切り返したりしやすく隙が少ない。しかし、その分威力、耐久性は落ちているようだ。"ヒートホーク"と真っ向から連続で打ち合ったら曲がるか折れるな……仮に切り結ぶ事になったら攻撃はなるべくいなすか……。
ついでに銃床による格闘も試す。前は試す前に叩っ斬られたからな……。"ヒートホーク"のリーチの短さに助けられたな。やっぱ槍と薙刀が欲しいな……ん?それ、取り回しとか収納とかどうしよ?
《よし。で?どうする?》
「刀型は取り回しから、ここらは森が多いのでまだ使わない予定ですね。マチェットと、バヨネットはナイフとしても使える様にしてくれるとありがたいです」
《分かった。必ず形にして見せよう。そんじゃ、お疲れさん。作業に戻ってくれ》
「了解。こちらこそ。……行こう、軍曹」
「……了解」
今日の夜にはこの街を出発する。その間に少しでも手伝う予定だ。ここの基地守備隊は壊滅した。今度攻められたらお終いだ。無血開城しか無いだろう。しかし、俺たちは止まるわけにはいかない。この情報を、人員を、"ジャブロー"に届けなければ。
まだ日の高い日中を、軍曹を掌に載せ歩く。その軍曹に影が落ちる。エンブレムと同時に付けられたブレードアンテナだ。2種類あり、小型のMC114H型でなく、やや大型であるが通信機能の高い方であるF-12BZ型スタビライザータイプを選んだ。やや根元に近い中間辺りに帯状に白くマーキングが施されている。
「いいもんかもな…………"専用機"か……」
『"象徴"なんだ。その証なんだ』
また、新たな一歩が刻まれる………………
このザクは、自分でMGを改造したものをベースにしています。マルチブレードアンテナは、リアルタイプと呼ばれるものです。自分のは後ケン・ビューターシュタット機のカラーが施されてますけど。
ザクマシンガンの改造は、伸縮式ストックでお気づきの方もいらっしゃるかもしれませんが、MMP-78(グレネードランチャーがついてるタイプ)を鹵獲、改造しています。まだグレネードはついていない初期生産型とグレネード付きの中期型の間の過渡期にあるものであると考えてください。鉄の悍馬で既に極東戦線にまで行き渡っている(9月10日時点)のを確認したため、キャリフォルニアベースでJ型生産に伴い試験的に先行生産された、という設定です。バレルガード、ジャケットはおやっさん独自改造です。G型とは無関係です。いたって普通な想定内の改良なので、ただ偶然同じような改修が施されただけです。MSはまだまだ発展段階であり、現場で試行錯誤が繰り返されているため、という設定が使いたかっただけですが。
武装は新しく入ったもの以外には、フットミサイル、シュツルムファウストなどはある設定です(セモベンテ隊が装備していたため)。使うかどうかはともかく。
因みにマゼラトップ砲はありません。あれこそ現地改修の元祖みたいなものですが、元はラル隊の専用装備に近いものである上、特に物資不足でもないので。必要がないんです。狙撃砲の代わりのロングバレル出ちゃったし。
宇宙に行くかどうかは分かりません。だいたい地上に居っぱなしが多いけど、どーしよ?まだジャブローにすら到達してねーし連邦MS作ってねーけど。
第十八章 縛られた戦いを
「……!」
お楽しみに!!