機動戦士ガンダム U.C. HARD GRAPH 名も無き新米士官の軌跡   作:きゅっぱち

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やや長めのバトルパートです。

バトルパートは書きづらい上に長さを調整し辛いため苦手です。

なんか、ゲリラ戦が板につき始めてる…………。


第十六章 メキシコシティ要撃戦

戦いは、場所を選ばない。

 

荒野で、砂漠で、市街地で、戦乱という嵐は吹き荒れる。

 

相手を選ばぬ殺戮の嵐からは、逃れる術はない。

 

それは戦線から離れた地であっても例外ではない。

 

人が意思を持ち、手に武器を取った時、

 

そこは、"戦場"(バトルフィールド)となる。

 

 

 

U.C. 0079 5.13

 

 

 

「……ふぅっ……」

 

久々の湯船から上がる。名残り惜しいが、仕方が無い。シャワーでも問題は無いが、やはり風呂はいいものだ。風呂は心を潤してくれる。 リリンの生み出した文化の極みだよ。 そらローマ人もタイムスリップするわ。

 

身体を拭き手早く服を着る。ガンホルスターを身に付け、室内を見回しチェックした後部屋を出て鍵をかける。目指すはおやっさんの部屋だ。

一九三○(ヒトキューサンマル)、部屋の前に着き、服装を確認した後、ノックをする。

 

「おやっさん、来ました。開けて下さい」

「時間通りだな、相変わらずだな。まぁ入れや」

「軍曹と伍長は?」

「伍長はまだだ。軍曹はそろそろ……来たぞ」

「……少尉、最新情報だ……」

「分かった。もうすぐで伍長が来る。まとめて置いてくれ」

「……了解…」

 

また街に出たらしい軍曹が来る。やや硝煙の匂いがする。

 

「巻き込まれた?」

「……肯定。だが、やり過ごした……発砲は、してない…ロスでは……日常茶飯事……」

「分かった。無事で何よりだ…………遅いぞ!伍長!!」

「すみません!! ………今私は、驚くほど落ち着いている……」

 

四人で集まり、収集した情報を出し合い統合する。軍曹とおやっさんの情報とは、ジオン軍は"キャリフォルニア・ベース"の軍事工場を利用、MSをどんどん増産しているとの事だ。そして、その中の一部がこの"メキシコシティ"周辺で確認されたらしい。その距離は数十km地点らしい。

 

「ここらは山岳地帯だ。やや手こずるだろうが、すぐここに到達するだろう」

「……ここの、守備隊は脆弱だ………足留めしか、出来ないだろう……」

「どうします?少尉……。ここじゃ"ロクイチ"も全力は出せないですよ?」

「…軍曹、MSはどれくらいの規模で、いつ頃到着だ?」

 

少尉は広げられた地図を指差しながら聞く。正直ここ一帯の地理に明るい訳で無い。軍曹だけが頼りだった。

 

「……MS3機、"マゼラ・アタック"5両………あとは"ヴィークル"らしい………大型のローター輸送機が、確認された……」

「近くで降ろしたということか……」

「基地は街の南端、来るのは北から。航空戦力は無し。あるのは"ロクイチ"8両………手厳しいな……」

「……基地守備隊に被害は出せない。街に避難勧告を出し、敵を誘い込み、街の中で包囲殲滅する」

「……相当な、被害が出る……」

「…街の中で戦うの!?」

「…そうだ、それしかないだろう……」

「壊さず戦え、か……?」

「キツく、ないですかそれは?」

 

伍長の驚きも最もだ。本来は避けたいが……。しかし、四の五と言っていられないのも確かだった。少尉は地図を睨みながら言葉を重ねる。

 

「それは敵も同じだ。ここの占領を目指しているのなら、無闇に破壊は出来ないはずだ。敵戦力のMS3機の差は大きい。分断し一対一に持ち込むしかない……」

「それが、最善……か…」

「……分かりました。死ぬわけには、いきませんからね」

「……軍曹も、それでいいか?」

「……いいも、悪いも無い。少尉の判断には……必ず従う」

「分かった。………すまん。よし、おやっさん!基地司令部へホットラインを!軍曹、伍長は基地守備隊と提携、避難誘導と"リジーナ"設置を頼む!!ポイントは追い追い伝える!!任せたぞ!!」

「おう!」

「……了解…」

「了解!!」

 

全員が立ち上がり、走り出す。状況は、既に始まっている。

市街地戦か、MSでは初めてだ。だが、やるしかない。今日の一日を思い出す。迎撃、戦闘にいいポイントは……。火器は下手に使えない。しかし瞬発的な大火力は欲しい……。あとは、背景に溶け込む様に偽装して、"ロクイチ"を配備しよう。"リジーナ"と"スーパージャベリン"とも……。

 

「司令!!敵のMS部隊を中核とした小規模部隊がここに向かっています」

《MS……ふむ、アレですね、まぁ、ウチの"TYPE-61 5+"でなんとかなりましょう。あなたの手を焼かせるまでも……》

「いえ、ここの守備隊に被害は出せません。我々が迎え撃ちます」

《いえいえ、そんなワケには……》

「お願いします。街の住人に避難指示を」

《…………ええ、分かりました…》

 

だんだん苛立ちを抑えきれない様な押し殺した声へ変わっていく。電話の置き方も雑だ。何かあった……俺らイレギュラーか。マズいな……。せめて、避難ぐらいしっかりやって欲しいが……。仕方ない。そら怒るよな。

 

でも、流石に戦闘には引き摺らんよな?

 

コンボイの"ザクII"へ向かって走る。色々と、用意をせにゃな………。

 

街は昼間歩いた北側の古い街並みを残した旧市街地と、基地司令部のある新市街地に大別される。その境目はかなり大きな広場となっている。旧市街地は道が細く、細かい道がそれこそ網目の様に走っている。幹線道路(メインストリート)以外はMSはおろか"ロクイチ"さえも走れない。打って変わって新市街地はかなり大きく取った都市設計だ。MSが3機ならんで歩いても余裕があるような道路で綺麗に区画分けしてある、高層ビルが主体の市街地だ。

 

作戦は決まった。後は………?

 

覆帯の音がする………?これは、"ロクイチ"の音だ!!

 

音の方向を見る。間違いない。"ロクイチ"が8両。これは基地守備隊の物だ!

 

「司令!!話が違います!!」

《いや、これでいいんだ。………念の為、念の為だが避難誘導はしている。MSなど、地上最強の兵器"TYPE-61 5+"の前では紙屑同然だよ。宇宙の腑抜け共はそれが分かっていないだけだ。本当は8両もいらないだろうがね》

「司令!!お願いします!!」

 

おい!!話聞けや!!このゆとりが!!

 

《なぁに、あなた達の手は煩わせさせませんよ。では御機嫌よう。明日、いい連絡をさせてもらいますよ》

 

通信が切れる。

 

あの、クソッタレ揉み手野郎が!!功を焦りやがって!!クソが!!ここは山岳地帯だ。"ロクイチ"はそこそこ戦えるだろうが、全力は出せない……。つーか俺罵倒用語のボキャブラリーすくねぇな。

 

増援の余裕はない。見捨てるのか?しかし、行っても無駄死にを増やすだけだ。戦力差は明確、勝つには用意周到なアンブッシュが確実だ。蛮勇に身を任せ打って出るワケには………。

 

何も………出来ない……。

 

ウチも参考にしている"ロクイチ"戦術運用の一つである戦法なら何とか………。

それは、"キャリフォルニア・ベース"戦の前で、"ロクイチ"を3両一組で運用、MSに対し大胆に接近し背後から叩いた戦法である。それを編み出したとある少尉の部隊は有名だが…………真似できるとも思えなかった。

 

エイガー、と言ったか……会ってみたかったが……。

 

「………すまない……」

 

少尉は、無力だった。"ザクII"の元へ辿り着き、整備兵へオーダーを出す。

 

「……おやっさん…」

《……あいつらか、行っちまったぞ?》

「仕方ない、です。俺たちは無駄死にするわけにもいきません………少しでも敵戦力を減らし、全滅してもらい囮に……!…します………」

《…………分かった…………》

「……頼みます……作戦……説明します……」

《ああ、彼らの、せめてもの、奮闘を祈ろう……話せ……》

「はい…」

 

 

 

U.C. 0079 5.14

 

 

 

基地守備隊の最終通信から既に数時間。街は、静まりかえっている。

 

斥候部隊(スカウトリーダー)よりアルファ1へ、敵機視認(エネミー・タリホー)。"ザクII"3機に、"マゼラ・アタック"3両、"ヴィークル"5台です》

「こちらアルファ1。了解、そのまま距離を保ちつつ追従せよ」

《了解。オーバー》

 

"ザクII"(アルファ1)のコクピットで通信を受ける。軍曹(ブラボー1)伍長(ブラボー2)の計2両の"ロクイチ"、"リジーナ"(チャーリー)"スーパージャベリン"(デルタ)攻撃隊は準備完了だ。敵の被害は"マゼラ・アタック"のみ。割に合わない。本当に。

 

少尉の乗り込む"ザクII"は新市街地の、広場と旧市街地メインストリートを見下ろせるビルの上で伏せている。上にグレータイプの赤外線遮断シートを被せ、核融合炉を遮蔽、現在ケーブルを繋ぎ外部電力のみで起動させている。ミノフスキー粒子を感知されては困る。仮にミノフスキー粒子を散布すれば確かにミノフスキー・エフェクトによりレーダーは効かなくなるが、そこに確実に核融合炉があり、敵が潜んでいる事をバラしてしまう。そのための処置だ。遮断シートは内側からも遮断するため、出しているのはスコープのみだ。これでバレないハズだ。

 

「おやっさん、"例のブツ"の準備は出来てます?」

《オーケーだ。いつでも来い!》

「分かりました。頼みます」

 

「ブラボー1、ブラボー2聞こえるか?そろそろだ。頼むぞ」

《……ブラボー1了解》

《はーい。ブラボー2りょーかい!!》

 

後は、お客さんをもてなすだけ………来た!!

少尉の正面、距離800、"ザクII"だ。

 

「……アルファ1、エンゲージ……!!」

 

攻撃を宣言。先頭を歩く"ザクII"へと慎重に照準を合わせる。

 

「いらっしゃいませー!!」

 

トリガーを引く。と同時にケーブルカット、核融合炉に火を入れ、ミノフスキー粒子をばら撒き始める。

 

「各員!!かかれ!!」

《《おう!!》》

 

今回の武器は280mm対艦ロケット推進榴弾砲、通称"ザクバズーカ"だ。無誘導かつ初速も早く無いため、遠距離射撃には向かず、対MSにはあまり使えないシロモノだが、火力があるのがこれしかなかった。

 

全滅したはずの敵からの予想外の攻撃に反応出来ず、先頭の"ザクII"が"ザクバズーカ"を受け爆散する。それを合図に、旧市街地の各地に潜んでいた"リジーナ"、"スーパージャベリン"攻撃隊が一斉射撃を放つ。攻撃と同時にスモークを焚き、武器は置いててんでバラバラに逃げ出す。"マゼラ・アタック"、"ヴィークル"が直撃弾を受け吹き飛び、対応した"ザクII"の1機も躱し切れず"ザクマシンガン"を破壊される。混乱しつつ2機がスラスターを吹かし別々の方向へ散開しつつ飛ぶ。

 

「おやっさん!!」

《おう!!"デコイ・ポッド"起動!!》

 

敵は混乱しているハズだ。殲滅したハズの敵によるアンブッシュ、急激に上がるミノフスキー粒子濃度でホワイトアウトするレーダーに、降って湧いた様に爆発的に増えた敵反応。"ザクII"2機は散開し身を隠した。そこそこの手練れらしい。

 

おやっさん開発の"デコイ・ポッド"とはその名の通り(デコイ)用の電子機器だ。"ザクII"の敵味方判別装置、識別信号解析機などを解析したおやっさんが開発した、対MS用のカカシだ。

今回のタイプは、"ザクII"には"ロクイチ"に識別される信号、赤外線パターンなどを出してそれになりきる物だ。所詮カカシであり、戦闘能力は無いが、正体がバレ無ければ、カカシは立派な戦士だ。

 

それが包囲するように一気に出現したら誰でも驚く。まさか上手く分断まで出来るとは、ツイてる。

 

「こちらアルファ1!行動開始する!目標はマシンガン持ちの"ザクII"!!」

《……こちらブラボー1了解。もう片方は引きつけておく》

《ブラボー2りょーかい!援護します!!》

「なるべく誤射は抑えてくれよ!!」

《こちらチャーリーリーダー、"ヴィークル"全車両排除完了。歩兵掃討戦へ移る》

《こちらデルタリーダー、デルタチームはチャーリーチームと合流、これよりチャーリーリーダーの指揮下へ入る。掃討開始!ムーブムーブ!!》

 

機体を起こしつつシートを脱ぎ捨て、"ザクマシンガン"を構える。街全体な散らばる様に配置した観測ポッド、偵察兵のリンクで敵の場所はこちらからはバレバレだ。ここは既にこちらの銀の庭だ。敵は、そこにうっかり踏み込んでしまった哀れな獲物に過ぎない。

 

ビルの裏に隠れ、敵を待つ。偵察兵の実況付きで状況は手に取る様に分かる。ここらの高層ビルは先程の様にMSがのってもビクともしない堅牢な作りで、赤外線も通さない。敵が特殊な偵察機材(・・・・・・・)を持たない限りは有視界戦闘のみを強いられているはずだ。現にそうであるようである。

 

ゆっくり索敵しつつ近づく敵がビルの曲がり角に差し掛かる瞬間………今だ!!

 

()ちろ!!」

 

飛び出し撃ちを接射に近い距離で行う。避けられるはずがない。敵の"ザクII"コクピットへ120mm弾をたらふく食らわせる。ハチの巣のようになった正面装甲を晒しカカシの様にそのまま倒れ伏す"ザクII"が戦闘不能になったのを確認、"ザクマシンガン"の弾倉(マガジン)を交換する。

 

《こちらブラボー2!!少尉!!もう1機がそっち行ったよ!!》

 

バレたか!機体を振り返らせようとした瞬間にビーッ!っとアラートが鳴り響く、敵の接近警報だ。方向は、上!!

 

「ッ!!」

 

慌てて機体を裁いた瞬間、上空からスラスターを利用し強襲を仕掛けて来た敵の"ザクII"の"ヒートホーク"が"ザクマシンガン"を両断する。

 

「クソッ!!」

 

こちらはまだ"ヒートホーク"を抜いていない!迎撃は間に合わない!なら………コレだ!!

 

「ッ!! らァッ!!」

 

スラスターをフルで吹かし、脚で踏み切りつつ左肩のショルダースパイクを向けヘヴィーアタックをブチかます。

身体がシートに押し付けられ、視野が暗く、狭くなる。急激な加速による弊害だ。

強烈な衝撃。身体が前に投げ出される。シートベルトが軋み、身体に食い込む。

瞬間的に掛かった爆発的な負荷で左肩関節部モーターが悲鳴を上げるが気にせず、"ヒートホーク"を抜き倒れ込んだ"ザクII"のコクピットへ振り下ろす。

熱せられた灼熱の刀身が"ザクII"の胸部正面装甲を焼き裂き、中のパイロットとシートを焼き焦がし一つにした。

 

ずるり、と"ヒートホーク"を引き抜く。まるで痙攣するかの様に震える"ザクII"。それから視線を外し周囲に敵影、反応は無い。

 

「……ミッション、コンプリート……」

 

思わず呟く。その少尉の"ザクII"の元に軍曹と伍長の"ロクイチ"が到着するのは、もう少し後の話だった。

 

 

 

『戦いの基本は格闘だ。武器や装備に頼ってはいけない』

 

 

 

 

日は、もう暮れかけていた……………




次回は今回の戦いの反省回になると思います。

ただドンパチヤるだけが軍隊じゃないんでね!(キリッ

……………本音はバトルは疲れるのであんまり書きたくない。文書下手さがよく出るし。時期的にもあんまドンパチヤるワケにもいかんのです…………

出て来た大型のローター機はファットアンクルです。

エイガーの作戦については小説版ジオニックフロントを。面白いので。ゲームも。特殊な偵察機材は同ゲームのサーマルセンサーやパッシブソナーなどの事です。あれはあの部隊に実験的に導入されたものらしいので。ポッドの元ネタもそのゲームです。

ヘヴィーアタックは機動戦士ガンダム戦記というゲームの技です。まぁ、バトオペのタックルです。カウンターは出来ませんでしたが(笑)。ガンダム戦記はPS2のヤツがボリューム少なめですが面白いのでオススメです。平行移動が楽しい、当時にしてはビーム兵器の残弾方式などで革新的なゲームなので。

次回 第十七章 ここを発つ前に……

「……だが、断る」

お楽しみに!!

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