機動戦士ガンダム U.C. HARD GRAPH 名も無き新米士官の軌跡   作:きゅっぱち

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アリゾナ砂漠編、終了です。

ラストがコレって…………。

仮に銃撃戦に巻き込まれたら、活躍してやろうなど思わず伏せっておいて下さい。死にます。


第十四章 砂嵐の先に

地球のエネルギーは、ほぼ全て太陽から来ていると言える。

 

太陽の光が、熱を届け、風を吹かせる。

 

植物を育て、生物を照らす。

 

それは、宇宙世紀になっても変わらない。

 

宇宙に浮かぶ人口の大地、島三号型コロニーでさえそうなのだ。

 

しかし、それを超えた、サイド3は、"進化"したと、言えるのだろうか。

 

 

 

 

U.C. 0079 5.1

 

 

 

「ハンガーの方にはドライバーは居ないのですか?」

「その隙さえ無いくらい攻め込まれてる。急ぐぞ」

「伍長、しっかりついて来いよ……」

「は、はいっ!」

 

俺を先頭に、伍長、おやっさんと続く。ハンガーまでは2ブロック、それに約30m強の遮蔽物も何も無い所を走る必要がある。簡単にはいかない。ガンロッカー周辺も銃撃戦が激しく、メインアームも無い。

 

「!」

「敵か」

 

足音からするに3人か?近いぞ...。

 

無言でうなずきハンドシグナルを出す。ドアを挟むようにし伍長と向かい合うようにして待ち構える。

 

「.........()()()()()じゃないですかこれ..........」

「シッ!!訓練通りやればいい。大丈夫だ...」

 

不安がる伍長にそれだけいい、目の前の敵に集中する。

 

「フッ!」

 

T字路曲がり角を利用し飛び蹴りをかます。顔を蹴り飛ばし、そのまま踏み付ける。突然蹴り倒された相方に目を丸くし硬直するもう1人の顔面に風穴を開ける。素直に胴体を撃たないのはボディアーマー対策だった。

伍長が逆方向へ飛び出し撃ちをし、前を走っていたジオン兵が背後から8号散弾をまともに浴び、ミンチになる。思わず目を逸らす伍長の前に立つ。

 

「あまり見るな伍長。俺の背だけ見てろ」

「はっ、はいっ!!」

「……どうなった?」

「バラバラに吹っ飛んじまってる。ミンチより酷ぇよ」

「しょうがないさ。精々墓穴の中でもがいて貰うとしよう」

「く、訓練通りって.....あんなの訓練にありましたっけ?」

「...ときおりとっぴょうしのないことや無茶やらかすよな」

「.........現場の判断は臨機応変、状況は刻々と変わっているんです.......」

 

 

どこもかしこも死体だらけだ。連邦軍の整備兵の死体も多い。早く被害を抑えなければ、この戦闘に勝っても行動継続困難になってしまう。

 

「まだこいつは息がある!」

「……いや、ダメだろうな…」

「きゃっ!」

「どうした!?……そいつは()()()()()()だ。噛み付いたりしないさ」

「伍長!」

「分かったよ!」

 

ロックが掛かり、開かなくなったドアを指差す。伍長が手元の"マスターキー"をいじり、ボックスマガジンを交換する。

 

「アバカム!!」

「物理だろ」

 

実包(ショットシェル)を散弾からスラッグ弾へ変更、絞り(チョーク)を変更し、そのドアノブに向けてぶっ放す。ロック部分が吹き飛ばされ、スライド式のドアが開く。後で修理しなきゃな、全く。

 

「……アロホモーラ派でした?わたしが出ます!ファーストレディです!!」

「大統領夫人!?ちなみにそれ実は罠対策の捨て駒って知ってたか?」

 

思ったより伍長が使いこなしてるな。向いてんのかも。本当は前衛(ポイントマン)である俺が持つべきだけど、伍長にポイントマンはさせたくないしな……仕方ない。

 

「えぇ!?スカートを覗くためじゃなかったんですか!?」

「少しは黙れ!!」

 

扉を開け突入する。目に飛び込んで来たのは味方の背中だ。通路を挟み向かい側のジオン兵と銃撃戦が展開されている。

 

「状況は?」

「向こうへ出れば、ハンガーと撃ち合っているジオン兵を挟撃出来ます!」

「よし!突破する!おやっさん!!グレネードを!」

「おう!投擲する(フラグアウト)!!」

「!ファイアインザホー!!」

 

おやっさんが温存していたグレネードを投げる。膠着した状況をコレで打開する。特に密閉空間のグレネードの威力は想像を絶する。正直こんな状況だとライフル何かよりよっぽど役に立つ。

 

「ッ!!」

 

が、敵も同じ事を考えていたようだ。視界の端にこちらに投げ込まれる何かを少尉の目は捉えていた。

 

想定外の事に呆気にとられ思考停止する伍長を無視しグレネードに飛びつき、伍長を押し倒しつつ空中でキャッチ、投げ返す。

ジオン製のグレネードは今時珍しい柄付きの手榴弾だ。これは投げやすい分、投げ返しやすいのだった。

 

轟音が2度鳴り響く。耳がおかしくなり、頭がガンガンするが、生きている証拠だろう。

 

「無事か?伍長?」

「え?あ?少尉?あの……?」

「大将!流石ぁ!」

「やるな!信じてましたぜ!!」

 

整備兵が崩れたジオン兵側へ突撃して行く。それを目で追いつつ伍長を助け起こす。埃を払いながら様子を見る。ぼんやりしているようだ。マズったな、頭でも打ったか?

 

衛生兵(メディック)!!伍長が頭を打ったらしい!手当頼む!!」

「はい!!」

「え?あの……えっと……私は!」

「無理するな、任せろ。メディック!後は任したぞ」

「はい!伍長!動かないで!」

「少尉!私は!!」

マスターキー(コイツ)借りるぞ?直ぐに必ず返す。だから……」

「しょっ……」

「動かないで!!」

 

衛生兵が不安気にこちらを伺う伍長を押さえ付ける。その頭を撫で、返事は聞かずマスターキーを持って走る。倒れ伏したジオン兵の亡骸を飛び越え、そのまま外へ走り出る。ここ一番の激戦区だ。特にここは周りをジオンの陣地に囲まれている。左右からの銃撃が激しい。

 

ショットガンのチョークをフルで絞り、ライフルドスラッグ弾を装填し反撃する。ショットガンの射程はゲームのような5m程度ではない。このモデルは施条(ライフリング)が刻まれていないが、それでも100mは飛ぶし、50mは有効打が与えられる。

 

《……少尉…》

「軍曹か!どうした!?」

《……少尉を目視した。援護する……》

「ありがたい!」

《……姿勢を低くし、ハンガーまで走れ……》

「……その言葉、信じるぞ」

 

恐怖で身体が震える。今から死にに行くようなものだ。距離にしておよそ30m。遮蔽物は無し。走る目標に当てるのは至難の技だが、コレだけばら撒いているのだ。当たる確率は低いはずがない。

 

目を瞑り、呼吸を整える。目蓋の裏に握り拳をこちらへ向け、真っ直ぐこちらをみる軍曹が浮かんだ。そうか……そうだよな………

 

軍曹、信じるぜ!!

 

目を開け遮蔽物を跳び越え一気に飛び出す。視界の端で敵味方が反応しているのが見える。反応した敵兵の頭が瞬時に吹き飛ばされるのも。まるで囮撃ちだ。

 

時間にしておよそ5秒無かったであろうこの時間は、少尉に取って無限に感じられた。

 

ハンガー側味方陣地へ頭から飛び込む。夢中で気付かなかったが右足、右腕に2箇所の擦過銃瘡があった。幸運な事に左腕に着弾した銃弾は貫通していた。痛みはあまり感じない。アドレナリンの影響かもしれない。手早く止血を開始する。

 

「少尉!!お怪我は!!」

「あまり構うな!最低限の止血でいい!それより撃て!!」

 

手早く包帯を巻き、MSへと走る。コレでMSへ乗れば相手の士気は挫けるだろう。前の反省を活かし、"ザクII"には対人攻撃用に構造的にやや余裕のあった胸部、脚部足の甲部に"ロクイチ"の13.2mm M-60 重機関銃を対人兵器として追加で搭載、予備パーツにあったSマインも増設している。

 

S-マインとは、Schrapnell-mine(榴散弾地雷)といいジオンの陸戦用MSが装備している対人跳躍地雷の一種だ。対人跳躍地雷とは張られたワイヤーに引っ掛かると地雷本体が空中へ跳躍、全方位へキルボールを撒き散らす地雷の事である。"ザクII"の機体各所に発射口が備え付けられており、そこから発射された弾頭からさらに大量の小型の金属球を広範囲に射出し、足元の敵歩兵を攻撃するという兵器である。その由来は、ナチス時代のドイツ陸軍が使用していた同名の対人跳躍地雷「Sマイン」である。

 

"ザクII"のJ型にはほぼ標準装備されているが、この機体には始めついていなかった。それを取り付けたのである。

 

おやっさんはこれを応用、旧世紀のアクティブ防護システム(APS)Active Protection System(アクティブ・プロテクション・システム)。つまり飛んでくるロケットランチャーなどを自動的に撃ち落とすシステムにも使用可能に改造、テストも済んでいる。

 

つまり、対人にも以前より遥かに対応出来るように改造されている。これはMSが一機しかないためだ。マルチロール化の為の対空性能も、"ザクマシンガン"用の三式対空散弾(Type-3)も開発中であるが用意されている。

 

"ザクII"からジオン訛りのある悪態をつく声がする。マテバを抜き、ゆっくりと接近する。どうやら忍び込んだジオン兵がロックを外そうと躍起になっているようだ。

 

寝かしてある"ザクII"へよじ登り、コクピット正面へ飛び出す。

 

「余計な動きをするな、ゆっくり両手を挙げ、機体から降りろ」

「!?」

「少しでも妙な動きをして見ろ、命の保障はしない」

「……………」

 

驚くジオン兵へ銃を向ける。体勢、状況、反撃を考慮し銃を突き付けたりはしない。撃ち殺さなかったのは、血や跳弾、弾痕でシートやディスプレイが傷んだり、コクピットから血を流す死体を引っ張り出す苦労を考えての事だ。

 

「……か、神の慈悲を……」

 

両手を上げゆっくりと出て来たジオン兵が震えながら呟く。かなり若い。同い年位かも知れない。

神ねぇ……俺は無神論者だ。それに、宇宙世紀は神を否定した普遍世紀じゃなかったのか?神はいなくても、人は生きて死ぬだけだ。

 

背を向けるジオン兵に油断無く銃を向けつつトラップ類の有無を確認、コクピットへ滑り込み、シートに座る。

 

「……神は留守だよ。休暇とってベガス行ってる」

 

その震える背にマテバの弾丸を叩き込む。.44マグナム弾を頭と背中に受け、血の尾を引きながらMSから転がり落ちて行く名も知らぬ若いジオン兵から目を離し、コクピットハッチを閉じる。もしかしたらタチカワかもな、なんて事を思いながら機体に火を入れる。サブジェネレーターに点火。核融合炉が唸り、ヴェトロ二クスが立ち上がりメインディスプレイに灯りが灯る。機体と自分が一体化するような奇妙な感覚と共に17.5mの巨人に命が吹き込まれる。

 

機体を立て、上空へ向け、"ザクマシンガン"をセミオートで1発放つ。

 

突如現れた"ザクII"に驚きを隠せないでいるジオン兵に外部スピーカーを使って呼び掛ける。

 

「残留ジオン兵へ告ぐ!我々も無駄な死を望まない!今すぐに武器を捨て投降する事を勧告する!南極条約に乗っ取り諸君らにはそれなりの対応を約束する!この機体には対人兵器が装備されている!反撃を受けた場合は、全力を持って排除行動へ移る!繰り返す!!……」

 

頼むから投降してくれ。別に俺はバラバラに吹き飛んだ人肉のミンチを作りたい訳でもない。精神衛生上よろしくもない。弾もタダじゃない。

 

続々と投降して行くジオン兵を"ザクII"から見下ろす。並ぶジオン兵に殴り掛かろうとした整備兵を軍曹が押し留めている。勝ったが、犠牲は大きい。

 

いつの間にか砂嵐は止んでいた。雲一つ無く晴れ渡る空に、沈みかけた斜陽が光を投げかけ砂漠を紅く染め上げていた。

 

 

 

U.C. 0079 5.6

 

 

 

再び行動を再開出来るようになったのは五日後だった。

銃撃でダメージを受けた外装、内装を修理し、負傷者は怪我を癒した。俺の身体の大部分の包帯と、左腕を吊るしていた軍曹から借り受けたスカーフも返す事が出来た。

 

特に内部での銃撃戦が激しかった生活空間のあるコンボイは"マゼラ・アタック"に吹き飛ばされた物を含め2台が修理不能と判断、解体された。4基の"リジーナ"も使用が不可能になり、巻き込まれた2台の"サウロペルタ"はその場で鹵獲された物からの部品取りで修理可能だったが、"ラコタ"は不可能であり解体された。捕虜は情報を持つと思われるもの以外は置き去りにする事になった。立派な条約違反だ。それ程余裕が無くなったとも言える。

 

重軽傷者52名、戦死者13名。

 

それがこの少ない戦果の犠牲者だった。

 

 

 

揺ぐ蜃気楼の向こうに、砂漠の終わりが見え始めていた。

 

 

『死者に対して出来る事は何もない。供養は、ただ生きている者の心の整理をする為の自己満足でしかない』

 

 

 

死神の列は、荒野をひた走る…………………




本来手榴弾は大変危険なもので、映画の様に投げられた後、抜かれたピンを戻しても爆発します。手榴弾の殺傷半径は10mくらいあります。もし目の前にピンの抜かれた手榴弾が見えたら姿勢を低くしつつ全力で逃げて下さい。間違っても近付いたり覆い被さったり投げ返そうなど考えてはいけません。

演出、というやつです。決して真似しないで下さい。

少尉主人公補正で比較的軽傷です。皆さん真似しないように。

誰かU.C. ハードグラフでガンダムエースかなんかでマンガ書いてくれ。キット化するかもしれん。個人的にマスターグレードでMSVやマイナーな奴をばんばか出して欲しい。売れないと思うけど俺は買う。

次回 第十五章 メキシコシティにて…

「はわ〜」

お楽しみに!!

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