機動戦士ガンダム U.C. HARD GRAPH 名も無き新米士官の軌跡   作:きゅっぱち

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今回は多少泥臭いです。

やや過激な暴力描写ありです。

苦手な方には申し訳ありません。

全年齢で読めるように努力しますので、どうぞお楽しみください。


第十三章 バトル・イン・サンダウナー

"危険 "は何処ででも潜んでいる。

 

目の前にある食事を喉に詰まらせただけでも、人はあっさりと死んでしまう。

 

それ程、人の命は脆く、儚い物なのだ。

 

包丁が刺さる、階段から落ちる、車に轢かれる。

 

当たり前の日常は、危険の連続なのだ。

 

その当たり前ですら、儚い幻想だと言うのに。

 

 

 

U.C. 0079 5.1

 

 

 

「……どうだ…?」

「ぐーるぐる。ぐーるぐる」

「伍長うるさいぞー」

 

コンソールを操作しながら軍曹がおやっさんに声を掛ける。

肩を落とし首を降るおやっさんはドッと椅子に倒れこみ、天井を見上げて顔をしかめる。悔しいのだろう。頭をかきつつサングラスを外し、目元を揉んでいる。

 

「……あー、ダ〜メだ。完全にホワイトアウトしてる」

 

窓に吹き付ける砂嵐に目を凝らすという、無謀カツ無駄な努力をしていた少尉もまったく同じ感想で、ため息をつきつつ振り返る。まったくイヤーな感じだ。

 

「そうですか、さっき何とかできた現在位置確認では、方向は合ってましたけど……」

「そうだ!今日もここで泊まろうよ!たまにはおやすみが必要ですよ!!」

 

少尉達が集まっていたためやって来たはいいが、やる事も出来る事も一切なく所在無さ気に椅子とクルクル回っていた伍長が声を上げる。それは接合部が摩耗するし傷むからやめろって前言っただろーが。

しかも基本毎日が日曜日だろ伍長は。とくに最近は。

 

「うーん、軍曹はどう思う?」

 

それだけ言ってまた回り始めた伍長を無視し、少尉は軍曹に意見をあおぐ。

 

「……迂闊に、動くべきでないな………」

「そうだな。旅はまだ長く、トラック群(コイツら)にあまり負担をかけるわけにもいかんしな…」

「よし。ここで今日はストップしよう」

 

もうすぐでアリゾナ砂漠を抜ける、そんな時に砂嵐にカチ当たってしまい立ち往生だ。視界は砂一色。レーダーも真っ白。本当に何も出来ない。もう二日目だ。

 

ここを抜ければジオン勢力圏内を脱する事が出来る。そうすれば襲撃の危険性はグッと下がり、連邦軍の基地へと辿り着ければ協力をあおいだり補給を受けたりも可能であろう。ここが正念場なのだ。

 

「今日は解散だ。後は自由にすごして構わない。では、解散」

「少尉!一緒に何かしません?料理とか!」

「すまん、今の内に事務仕事をこなしたい。無理だ」

「え〜……分かりました。だったら、料理作るから楽しみにしてて下さいね?」

「分かった。楽しみにしてるよ」

 

伍長が嬉しそうにスキップしていく。へぇ、知らなかった。

 

「軍曹はどうするんだ?」

「……少尉の補佐……その後は、銃整備……だな…」

「ありがとう。頼りにしてるよ」

「……あぁ……」

 

本当に頼りになるな。しみじみそう思う。おやっさんや整備兵含め全員いい腕だ。

 

コンボイの中を軍曹と自室へ向かう。

 

コンボイといっても、ただのトラックとはその大きさは段違いだ。

まずタイヤの直径だけで3m近くあり、車体の横幅は何と8mもある。日本じゃまず走れない。

しかし、タイヤの半径の大きさが乗り越えられる障害物の大きさの目安となる。それは今のように不整地を走るには優れた性能を発揮してくれる。

それもそのはず、このコンボイは移動可能な簡易整備施設なのだ。そのまま横、縦と連結し、前線付近に展開できる野戦整備施設となっている。連結しながらの移動も可能だ。普段は生活用10台、整備ハンガー用15台と分かれている。規模だけで言えば、そんじょそこらの基地なんかよりもっと凄い。おやっさんの趣味と横流し、魔改造の賜物だ。

こんな砂嵐の中でも外に出ず中を行き来出来るのはありがたい。整備ハンガートラックとは離れているため、MSや"ロクイチ"の所には行けないが。

 

「…じゃ、ぼちぼち始めっか」

「……了解。少尉、コーヒーを……」

「あ、ありがとう」

 

余裕ありなので一人部屋まであるのだ。いやー、すげーわ。

 

「やる事山積みだなぁ」

「……心配、いらない。時間は、ある………地球は、広い……」

「………?」

 

どういう事だ?時間?広さ?そりゃ広いけどさ……。

 

「……そろそろ、ジオンの進撃は、止まるだろう………まだまだ。ここからだ……」

「……そうか!」

 

戦線を押し広げ、占領地を拡大することのデメリットだ。占領のために軍を割く必要がある上、戦線の拡大とともに補給線が伸びきるんだ。例えジオンにMSがあっても、国力の差は如何ともし難いのだろう。その結果、補給、攻撃は滞り、膠着状態になる。………それだけ攻められているということだが………。

 

「……焦らないで、いい………今は、出来る事を…やろう……」

「そうだな。ありがとう。軍曹」

「礼には、及ばない。当然の、事……」

「……本当に、ありがとうな。軍曹……いつも頼りっぱなしで……」

「……そんな、事は…無い……シャツ、見つけておいた……犯人も、反省している、との事だ………」

「え?ありがとう……名は聞かないから、もうやるなとだけ伝えてくれ」

「……了解した……」

 

いや、だから、そーゆーとこだって。目を離したら解決してるんだもの………。しかも犯人まで……すげ…。

 

カリカリとペンが滑る音だけが部屋に響く。

 

仕事が終盤に差し掛かる。外を見ると、砂嵐はほとんど止んでいた。

 

 

……………最悪の置き土産を残して。

 

 

「!! エマージェンシー!!総員!!第一種戦闘配備!!敵は!目の前だ!!」

 

アラートが鳴り響き、人が慌ただしく走り出す。

 

近い。近すぎる。距離は直線距離で1km無い。目と鼻の先過ぎる。

 

走ってトラックの上部に登り、備え付けた"リジーナ"へ飛びつく。敵戦力は"マゼラ・アタック"が3両、"サウロペルタ"、"ヴィークル"、トラックなどだ。MSは確認出来ない。砂嵐に驚かされ本隊からはぐれた部隊のようだ。

 

「"リジーナ"は"マゼラ・アタック"を潰せ!!主砲を撃たれたらシャレにならん!!絶対に阻止しろ!!」

 

主砲の口径は175mm。それに副砲の機関砲も35mm。これ程脅威なのだ。

 

"リジーナ"の仰角を取り、トップアタックモードにする。

 

弱まったと言えど砂嵐でまだノイズがあるが、外すワケにはいかない。

 

「喰らえ!!」

 

"リジーナ"を発射、弾頭のカメラがその映像を写し、自分がミサイルになったようになる。

そのまま、"マゼラ・アタック"の元へ!

 

"リジーナ"の弾頭は、マゼラ・アタック"の風防ガラスを突き破り、"マゼラ・ベース"内へ突入、内部から爆破させる。

 

「うおっしゃ!!次弾装填急げ!!」

 

その時隣のトラックが轟音と共に吹き飛ばされる。クソッ!阻止し切れなかったか!!

 

悔やんでも仕方が無い。次弾装填完了、狙いを……"マゼラ・アタック"が吹き飛ぶ。味方がヤってくれた様だ。

 

「!!」

 

敵は、弾幕を恐れず突っ込んでくる!!"ワッパ"、それに、"キュイ"も!!取り付いて、白兵戦闘による銃撃戦に持ち込む気だ!!

 

"キュイ"揚兵戦車はジオン軍が開発した特殊な戦闘車両だ。前から見ると逆さまのT字に見える。形奇抜過ぎだろ。バイラル・ジンかよ。アレはIだけど。いや、Hか?宇宙に上下ねぇし。真ん中と端に無限軌道を備え、ガスタービンエンジン駆動により最大85km/hで走れる。真ん中天辺には30mm機関砲を備え、出っ張ったプラットフォームには正面にのみ防弾プレートが設置されている。そこに兵員を乗せ、接近し兵員を展開するのだ。パーソナルジェットの使用を前提とした一種のIFVであると言えよう。

 

「クソっ!!」

 

"リジーナ"が一機の"キュイ"の出っ張ったプラットフォームを吹き飛ばす。乗っていたジオン兵が転げ落ち、バランスを失った"キュイ"が砂埃を上げながらスピンし、ジオン兵を吹き飛ばしながら砂埃に消える。

 

しかし、既に"ワッパ"、パーソナルジェットを背負ったジオン兵が次々と飛んでくる。中には"ラングベル"対戦車ロケットランチャーを担いでいる奴もいる。

飛翔する"ワッパ"、兵士を撃ち落とすのは至難の技だ。

 

が、目の前で"ワッパ"が火を吹き、きりもみで落ちて行く。そのとなりを飛ぶジオン兵がヘッドショットされる。

 

《……少尉、取り付かれたのを頼む…》

「ああ!上は頼む!!」

 

軍曹の狙撃だ。正確無比過ぎる。ホントいい腕だな。

既に前方のトラック10台には取り付かれ、内外で銃撃戦が始まっ…………俺丸腰だぁ!!サイドアームもねぇ!!

 

取り敢えずガンロッカーへ、と思った矢先、2人の敵兵と鉢合わせる。

 

「ッ!」

 

前の敵兵が銃を構えるより先に、懐に飛び込み手で銃身を掴み、引いて逸らしつつ肘打ちでクロスカウンターアッパーを食らわせる。これにより射線上に敵と味方が重なる為撃てないはずだ。

顎を強かに打ち付けられよろけた敵兵の腕を掴み、体重移動を利用、投げ飛ばし後ろの敵兵を巻き込ませる。

倒れ込んだ2人の首をブーツの踵で踏み潰し、トドメをさす。

 

「……ふぅ……」

 

まさか宇宙世紀にもなってCQBをするハメになるとは……。

倒した敵兵の身体をまさぐる。アサルトライフルは投げ飛ばした拍子に押し潰されていた。流石に加速された2人分の体重には耐えきれなかったらしい。銃身、薬室周辺が歪んでいた。最悪暴発するかもしれない。弾丸だけ拝借する。

 

「……げぇ…」

 

サイドアームのハンドガンはナバン62式拳銃だった。トグル式スライド、9mmパラベラム弾を使用という開発者の趣味の塊のような銃だ。パラベラム弾使用可能なのは嬉しいが、正直使いたくない。短機関銃(SMG)だったらよかったのに。

もう1人をまさぐる。

 

「………おぉっ!!」

 

出てきたハンドガンは"マテバ"オートリボルバーだった。

マテバは宇宙世紀になってなお、特にスペースノイドに時折使われる銃だ。これも趣味な一品であるが。

 

マテバは銃身の跳ね上がりを抑えるために銃身上部がウェイトになっており、弾倉の一番下の弾を発射するという特殊なリボルバー構造を持ち、それが特徴的な外観を形作っている。また、用途によって自由に銃身を換装できるある程度のカスタム性もある。リボルバーでありながらオートマチック機構を備えているため「オートマチックリボルバー」とも呼ばれる珍しい銃だ。てゆーか探してもこれ以外にはほぼ無い。

このリボルバーでありながらのオートマチック機構とは、初弾をシングルアクションまたはダブルアクションで発射し、その反動で銃身からシリンダーまでがわずかに後退することで撃鉄を自動的に起こし、シリンダーを回転させるというもの。リボルバーの機構的な信頼性と、自動拳銃並みの引き金の軽さによる命中精度の両立を目指している。

しかしその分銃身が下部にあるため照準軸と射線軸が離れており、わずかに狙いがずれただけで着弾点が大きくずれてしまう事や、銃身の跳ね上がりを抑えるが、反動は大きくなってしまう事、構造が複雑であるため製造コストが高くなるなどの欠点を抱えてしまっているが………。

 

「欲しかったんだよねーコレ!!いやっふぅ!!」

 

思わぬ戦果に喜ぶ。これは死ねん。

マテバを腰に収め、身の丈程の鉄パイプを手に取る。よし。

 

「伍長は無事か?」

 

料理を作ると言ってたな………厨房か?

 

鉄パイプを手に走る。厨房は直ぐそこだ。戦闘に巻き込まれている可能性が高い!

その厨房にジオン兵が飛び込んで行く。マズい!!

 

「えっ?きゃぁぁぁぁぁぁああ!!」

 

何かが落ち、崩れる大きな音がする。

 

ジオン兵を追って飛びこm………バシャァッという何か液状の物をひっくり返す音がした。

 

「ねぼし!!」

 

という謎の悲鳴共にジオン兵が叫びながら転がってきた。

 

 

「うわわわっ!」

「おう!?」

「ぎゃぁぁぁぁぁああ!!」

 

頭から熱々のスープ?を浴び、のたうち回るジオン兵に伍長が叫びながら鍋、フライパン、ボウル、おたまを次々と投げつける。いや、おたまは効かんだろ。

 

転がるジオン兵の腹を踏んで止め、鳩尾に鉄パイプを叩き込む。

何やってんだ伍長………こいつは本当に軍属か?

 

「しょ!少尉ぃ〜!!怖かったぁ!!」

「そ、そうか……」

 

泣きながら抱き着くな!!おい!!あーあ、スープが、勿体無い。これはスタッフも美味しくいただけんな……ごめんなさい……。

 

「分かった、分かったから行くぞ」

「うぅ……」

「しっかりついて来いよ…」

「う……」

 

大丈夫かなぁ?コレ。………仕方ない、連れてハンガーへ移るか。MSか"ロクイチ"が動かせれば勝ちだ。

 

伍長を連れ、トラックを移る。トラックの装甲はかなり厚い。小口径弾ではとても貫けるものではない。それがあちらこちらでの銃撃戦を激化させている。

 

まだべそをかいている伍長にナバンを渡す。トグル式スライド使えなかったらどうしよ?それよか武器がハンドガンのみと鉄パイプってどこのバイオハザードだよ。

せめてバイオハザードならVP70MとかマウザーC96とかがよかったよ……。両者ともスんゲークセあるけど。

 

 

 

 

「フッ!!」

 

鉄パイプを薙刀の要領で振るい、ジオン兵の銃をはたき落とし、突きを叩き込む。

 

「ハッ!!」

 

そのまま薙ぎ払い、次の獲物の頭に振り下ろす。鉄兜を凹ませ、ジオン兵がノックダウンする。

 

「少尉凄い!!がんばって下さい!!」

 

伍長の手の中の拳銃は飾りか!?もう五人目だぞ!!薙刀は得意だが、どっちかっつーと銃剣をくれ!!

前の3人に見つかった。鉄パイプを投げつけ、伍長を掴み物陰に滑り込む。ガンガンとトラックを打ち付ける銃撃の音がうるさい。隣の伍長もうるさい。

 

ドドドドドンッ!!バシャッ!!

 

銃声に押されながらジオン兵が吹っ飛ばされ、崩れ落ちる。

 

「大将!!無事かぁ!!」

「おやっさん!!伍長もいる!!」

 

アサルトライフルを構えたおやっさんと合流する。似合い過ぎてて怖い。

 

「ハンガーへ行くぞ!!援護頼む!」

「分かってます!マテバでよければ」

「てめーのマテバなんぞ当てにしてねぇよ!!おら、このツァスタバにしろ!!」

「俺はマテバが好きなの!!だから俺はマテバを使う!」

「伍長!"マスターキー"をやる!使え!」

「え?カギ?わわっ!………これショットガンじゃないですか!!」

「"マスターキー"つったろ!!」

「どーゆー事です!?ローストターキー?」

「……後で教えるから今は行くぞ!!」

 

そのまま銃撃に身を踊らせて行く。ハンガーは、まだ遠い。

 

 

『我々の間には、チームプレーなどという都合のよい言い訳は存在せん。

有るとすればスタンドプレーから生じる、チームワークだけだ』

 

 

銃声だけが、まだ鳴り響いている…………

 




イメージは死闘!ホワイトベースです。白兵戦は大好きです。MSもそうです。レズンさんもそう言ってますし。

制圧が出来るのは歩兵だけ。度々言っていましたが、コレを書きたかったんです。かなり甘くなりしたが。つーかぶっちゃけムズイです書くの。

ガンアクションは好きなんですけどね………。

マテバは趣味です。漫画、ガンダムレガシーでジェイクが使ってたのもありますが。鉄の悍馬で連邦兵も使ってましたし。

タチコマ出してぇ!!無理だけど。因みにここで出てきた銃はガンダムオリジナルのものと攻殻機動隊とかで出てきたヤツばっかです。ホントはキャリコとかでも良かったかも。キャリコ好きなんですよあのバカさ具合が。

次回 第十四章 砂嵐の先に

「バラバラに吹っ飛んじまってる。ミンチより酷ぇよ」

お楽しみに!!

追伸 伍長の口調にやや修正を加えました。元の設定から敬語とタメ口が合わさった変な言葉だったのを、ややマイルドに修正しました。

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