機動戦士ガンダム U.C. HARD GRAPH 名も無き新米士官の軌跡   作:きゅっぱち

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キーとなる話です。後半爆発してるけど。

読み返してみると、文がノってる時とそうじゃない時で全然違うな。

最近地味メカが出ない。つーか出せない。やっぱ時代はMSか……寒い時代だと思わんかね?


第十一章 蜃気楼との邂逅

戦場と伝説は古来より切っては切れないものだ。

 

一つは未確認情報から。

 

一つはただのホラ話から。

 

一つは武勇伝から。

 

一つは戦場の狂気から。

 

一つは英雄譚から。

 

そして、もう一つは、隠蔽され、消し去られた事実から。

 

"幽霊"(ゴースト)は、夜歩くのだ。

 

 

 

──U.C. 0079 4.24──

 

 

 

 戦争には予想外の事が起こるものだ。

 かのクラウゼヴィッツも、戦争の重大な要素の1つとして 『摩擦』、すなわち戦場で起こる不確定要素を挙げている。

 それは、この金属の歯車を軋ませる物なのか?

 

 陽炎が揺らめく砂漠の地平線に、黒い影が身を乗り出し怪しげな光を放つ。赤みを帯びたピンクの光は、細かいチリが巻き上がり、濃く立ち込める砂煙の中でもよく目立つ。この兵器の持つ最大の特徴だろう1つ目は鈍く光り、独特の作動音がコクピット内にも聞こえてくる。

 蜃気楼でも、幻でも無いそれは猛然と廃熱を行う。その凄まじい熱量は、砂漠の熱を振り払うかの様に周囲の景色を歪ませる。それはまるで、陽炎を纏うかの様に。

 

《少尉!!》

 

 インカム越しに伍長が声を上げる。同時に伍長の乗り込む"ロクイチ"がモーター音と共に盛大に排気を行った。それはまるで、少尉に準備完了であると訴えかけているかの様だった。

 "ザクII"のコクピットの中、少尉は動き出した状況に尻込みしていた。この采配に、自分の命、それに隊の大半の命がかかっている。そんな時、耳に飛び込んできた急かすような声に、葛藤を続けていた少尉は反射的に怒鳴り返した。

 

「時期尚早だ!少しは落ち着け!!」

 

 伍長は砂漠の熱に当てられた様に、雰囲気に呑まれかけていた。そんな伍長をいなめようと意図した少尉だったが、その少尉もそんなに余裕があるわけでもなかった。額に伝う汗は止まる事を知らず、早鐘の様に脈打つ心臓は今にも口から飛び出しそうだった。この緊張から逃れるため、無防備に飛び出せたらどんなに楽か。

 しかし、少尉にそれは出来ない。自分以外の、多くの命を抱えている身なのだ。その責任がのしかかり、少尉のフットワークを鈍らせていた。

 少尉が最も恐れるのは、仲間を失う事だ。少尉は目の前で爆散する僚機の事を思い出していた。見下ろした戦場も。あの一瞬の爆発で、数えられない程の命が、数として処理されていくのだ。慎重にもなる。

 しかし、キャッチ22をいくら考えたところで、答えなんか出るわけがないのだ。

 大切な事を見誤ってはいけない。

 

《時期尚早と口にするものは、100年後でもそう言うさって誰か言ってましたよ!!》

 

 伍長の言葉にドキリとし、少尉は我に帰る。つーかそれ前俺が言ってたわ。

 少尉は一度額の汗を拭い、ぎゅっと目を瞑った。焦ってはいないはずだ。でも、それは思い込みかもしれない。冷静な判断に必要な物とはなんだ?

 

 少尉は機体を操作し、"ザクII"のモノアイを伍長の"ロクイチ"に向けた。そう、今必要なのは、向き合う事だ。

 少尉の操作を受けた"ザクII"が、金属が擦れ合う駆動音を奏でながらその巨体を蠢かせる。"ザクII"は器用に腰を捻り、姿勢を低く保ちながら、機体ごと隣でハルダウンを行う"ロクイチ"に向けた。メインスクリーン越しに、少尉はキューポラから上半身を乗り出す伍長を見下ろした。

 

 前方を指差す伍長は、真っ直ぐこちらを見ていた。その眼は、砂漠の熱を跳ね飛ばし、少尉にまで何かを届けていた。

 大きく手を振りつつ、うなづく伍長が、少尉に落ち着きをもたらした。人と向かい合う事が、こんなにも安心感をもたらすとは…その事に内心感謝しつつ、少尉は頰をかきつつ、言葉を選びながら口を開いた。

 

「いい言葉だ。時と場合によりけりだが」

 

 少尉の余裕の表れかの様に、微かな含み笑いが通信機から漏れる。そんな少尉と伍長の言葉を、最後に軍曹が締めくくった。

 

《…それは、全てに於いて……だな……》

 

……全くだ。

 

「よし…………──警戒と偵察こそが、万事における最善の初手だと思うんだが…」

 

 機体を稜線に任せ、可能な限り身を隠しつつ索敵を行う。眼前の物資集積所では、また爆発が起きた。噴き上がる黒煙は風に揺られ、のらりくらりと形を変えながら天へと登り青に吸い込まれて行く。

 音響センサーがサイレンの音を捉えている。こちらに注意を向けている者は皆無と思えた。センサーと目視で走査するが、周辺にも敵影と見られる物は確認出来ない。これなら側面を突かれず、正面に集中し攻撃出来そうだ。

 

《その段階はもう過ぎましたよ!!》

《…少尉、着いて行くぞ。地獄の、果てまでも……》

 

 "ザクII"が身動ぎをする。機体表面をさらさらと砂が流れ落ち、装甲の隙間へと消え軋む。ゆっくりとした動作の一挙一動に激しい機械音を奏で、砂漠を揺らすそれは、紛れもなく"死神"だった。

 

「突撃を敢行する。全機、続け!」

《…こちらブラボー…了解した……》

《はい!》

 

 そしてまたしても目をぎょろつかせた死神は、決断的に身を乗り出し、砂を蹴立て走り出した。

 

「軍曹!!偵察時の敵物資集積所の規模と護衛は!?」

《……かなりの…規模。MSは、確認…された限り…5機……》

「5機か…まともに太刀打ち出来る数じゃないな…」

 

 もうもうと砂煙を巻き上げ砂漠を疾走する"ザクII"に、少し遅れて"ロクイチ"が続く。陣形はアローフォーメーション。MSの突破能力を前面に押し出した攻撃陣形だ。そのため必然的に先頭へと攻撃が集中するが、それを左右後方から援護し散らして行く形となる。この場合の判断としてはかなり正解に近いものだったと言えるだろう。

 少尉の睨みつけるメインスクリーンが映し出す眼前では、砂砂漠は殆ど終わり、地盤がかなりしっかりし始めた。それと同時に、進むに連れ巻き上がる砂埃も小規模な物となって行く。安定した硬い岩盤に歩行モードを変更し、その事で自然と"ザクII"の速度も上がっていく。鋼鉄の脚に踏み締められる焼けた大地は、轟音と共に激しく砕け散り、そこに足跡が刻まれて行く。ひび割れた大地にくっきりと残る足跡と履帯の轍は、今まさに歴史を刻んでいた。

 少しずつ低くなって行く稜線に、大きく開けた視界が広がる。その見惚れるようなパノラマの中、黒々とした煙が空を汚す様に登って行くのが視認出来る。時折、その根元では何かが閃く様にキラキラと瞬き、火花を散らす閃光も見え始めた。なだらかな丘陵を崩し、引き離された"ロクイチ"を待つ為立ち止まった"ザクII"はモノアイを光らせる。

──黒煙の発生源は、既に近い。

 

《少尉!急ごう!!》

 

 雑音混じりのインカムからは伍長の急かす声が飛び込んでくる。それに耳を傾けていた少尉は、遂に意を決する。

……そう、だな。じっとしてても時は過ぎて行く。時には、時期を待つだけじゃなく、自分も動かにゃな。自分は犬では無いが、箸にも棒にもかからないなら歩くしか無い。それがどのような結果であれだ。

 

 汗を拭い、操縦桿を強く握り直した。ここからが正念場だ。全身を強張らせる様に力を入れ、機体を再チェックする。目の前のモニターは、センサーの捉えた爆発をピックアップし表示していた。MSやその他兵器は確認出来てないが、確実に存在しているだろう。それらを捉えられないもどかしさに、少尉は唾を飲み込んだ。

 "ザクII"の搭載する通信機は、宇宙機器であった事の名残か、内部や操縦者の状況やコンディションをいち早く察知するためテレビ通信も可能な仕様となっている。しかし、これはまだ"ロクイチ"側との同期が済んでおらず未使用だ。そもそも少尉は音声のみで十分と思っている節もあり、使われる事は無いかもしれないが。

 少尉はインカムを摘み、位置を調整する。補助機器である咽喉マイクに手をやると、判っていると言わんばかりに怒鳴り返した。

 

「あぁ!!だがスラスターを利用した強襲はしない!"ロクイチ"全車アローフォーメーション!カバー頼む!」

《……了解》

《まっかせて!!》

 

 後方の"ロクイチ"が砂煙を上げるのから目を離し、少尉は"ザクII"をしゃがませる。稜線に隠れるようにして頭だけ出した"ザクII"に、まるで空を支える太い柱の様に、青い空へと立ち上っていく煙が、ドンパチがすでに始まっている事を伝えていた。

 風下であるため、搭載された化学センサーが、風に乗り、流れて来た煙に様々な化学物質を捉える。その中には、軍用の推進剤や炸薬などの燃焼効果残留物が確認されていた。

 空へと溶け消え行く煙が、空にその黒さを隠し切れず濁らせて行く。熱砂に煙る揺らめきは、見る者すべてに畏怖を与える。幾重にも重なり上がる煙は、まるで揺らめく死神の外套の様だ。空は汚され、大地はただ震えるのみ。人の愚かな行いを、止める者は誰もいない。そう、本人でさえも。

 

 いよいよ戦線が近づいて来た。地平線を跨いで、この距離でも観測出来る強烈な爆発光に続き、大気を震わす爆発音が響き渡る。激しい交戦は止む気配を見せない。砲撃音もだ。それを回り込む様にして、少尉は機体を走らせた。もう機体を隠せる程の稜線はコレで最後だ。これを乗り越えたら、否応にも戦闘に巻き込まれて行く事になる。少尉は喉元までせり上がった悲鳴を噛み殺し、胃を苛む吐気を堪える。早鐘の様に打つ心臓をそのままに、妙に冷えた頭で考えを纏めていく。

 機体を揺さぶるそのあらゆる暴力的な音を、"ザクII"の音響センサーが捉え、波長から種類と推定位置を推測する。少尉も走りながらであるがその音に耳を澄ませる。

 センサーが捉え、解析した聞く限り、120mm、175mm、155mmの断続的な発射音が、煩い位にに鳴り響いていた。重なる様な音から、砲門の数も1つでは無さそうだ。かなりの数が、休むところを知らず火を噴いている。

 

──155mm……つまり"ロクイチ"か!?いや……ありえん。聞き間違いだろう。

 少尉は突如湧き上がった可能性を自分で否定する。ここは敵戦線(エネミーライン)のど真ん中だ。地球連邦軍は存在しない。音が砂漠で変質したか、センサーの故障と思える。それが妥当な判断だ。ここに"ロクイチ"が来る事自体がまずあり得ないのだ。

 

「軍曹。野盗の可能性は?」

《無い……とは、言い難いが……恐らく違うだろう》

「だろうな。しかし……」

 

 少尉の判断は最もと言える。ここは連邦軍機甲大隊の戦闘区域ではない。大打撃を受けた機甲大隊は撤退を繰り返し、再編もままならない状況と聞く。その音が聞こえるはずが無いのだ。

 仮にはぐれた部隊だとしても、その場所がおかしい。辺境とは言え、ここはジオン勢力圏内の奥地だ。二連装滑腔砲を持つとは言え、それを差し引いても発射音から割り出される車輌数は一個小隊(4輌)以下。ミノフスキー粒子濃度如何によってはレーダーは有効な兵器と成り得る。ステルス性の無い"ロクイチ"にとって余程の幸運でも生き残る事は厳しい。

 

 鹵獲のケースも考えられないだろう。訓練ではないだろうし、ハイテク兵器である"ロクイチ"は、1日2日で乗り回せるほど単純な兵器では無い。

 それに、いくら本体が丈夫とはいえ、精密機器である事には変わり無く、定期点検や整備は欠かせない。特に"ロクイチ"は完全電気駆動であり、専用の整備機器が多数必要だ。ジオン軍がそのまま運用するのはまず不可能だろう。それが野盗などであるなら尚更だ。

 

──この戦場、イレギュラーが多過ぎる。

 

 しかし、ジオン軍が何と交戦しているかはまだ不明だが、これは好機でもある。こちらは少ない戦力であるが、その立ち位置から敵物資集積所を正体不明部隊(アンノウン)と挟撃が出来る。これは大きいアドバンテージになるはずだ。

 確実に敵であるジオンを叩ける上、アンノウンに後ろを取られる事も無く、そのまま交戦に入る事が出来るからだ。

 

《不思議ですね?とっくに撃たれてるはずなのに…》

「やつら、迷ってんのさ」

 

 伍長の呟きに、少尉はハッタリをかます様に口を開く。ややヒクついた口は、それでも声を出してくれた。

 

「勝負は、まよったら負ける。俺たちは迷わない。迷わず最善を目指す」

 

 既に走り出した事態に翻弄され、混迷を極める戦場。そこへ少尉を乗せ、"ロクイチ"を伴い疾走する"ザクII"が、遂に目視で敵を捉えた。

 "ザクII"だ。こちらにを背を向けている。緑がかかった装甲は砂にまみれ、やや見え辛いが間違い無い。大地を踏みしめ、脇に抱えた大砲を撃つ兵器は今"ザクII"以外存在しない。

 

《ブラボー、エンゲージ……》

《え?こ、この距離から……ええぃ!やって見せますよ!!》

 

 軍曹が静かに口を開き、砲撃を開始する。伍長も慌ててそれに倣い、左右やや後方の"ロクイチ"が射撃を開始する。"ロクイチ"の足回りのサスペンションは優秀で、全速力で走っていても止まっていても変わらず大口径二連装砲の衝撃を受け止め、かなり正確な射撃が出来る。しかしそれは、二足歩行で走る"ザクII"には出来ない。走りながらの射撃など、ゲームの様にはいかないのだ。

 それでもMSの歩行、走行は普通の人間のものと違い、腰を動かさない様にする揺れの少ない走りであるため、重力下におけるパイロットの負担を減らし、移動しながらの射撃の命中率もそこまで酷いものでは無いが……。

 

 しかし、かと言っても、少尉の"ザクII"は事更に戦闘の経験値が足りないので尚更だ。特に射撃の機会をあまり設けられなかったので、今の未調整なままのFCSでは弾丸は明後日の方向へばら撒かれてしまうだろう。

 ミノフスキー粒子濃度が高い今、そのFCSも殆ど機能しないのでは尚更だ。下手にアンノウンに撃ち込んで報復されたらたまらない。手動や半自動でも可能ではあるが、現実的ではまったく無い。そんな事が出来るのは一握りの天才だけだ。

 

──耳を突く様なビープ音。少尉の顔に緊張が走り、身体が強張る。しかし、それに意を返す事の無いコクピットに、ロックオン警報のアラート音が鳴り響く。それはまさに、少尉への最後通告だった。

 振り向いた敵守備隊の"ザクII"がFCSを起動したのだろう。こちらをロックオンし"ザクマシンガン"を構えた事による、照準用レーダー波の照射を機体が感知したためであった。

 

 "ザクII"の機体の各部にはあらゆるセンサーが設置されている。言わば全身が眼であり耳であるのだ。

 敵がこちらを捕捉しロックオンすると、確実な命中を期待するためにあらゆる波長のレーダー波などを照射、その反射を受け取りデータ解析を行う。つまり、少尉の"ザクII"は照射されたあらゆる電磁波、赤外線、紫外線、レーザー、レーダー波を感知し、狙われている事を警告したのだ。

 これを嫌い、目視による直接照準のみを行う事も可能ではあるが、戦闘中に手動で射撃するのは至難の技だ。射撃モードは自動、半自動、手動とあるが、手動は自機を停めた後の狙撃でない限り不可能に近い。

 そのため戦闘機動中はもっぱらFCSに頼る事になる。しかしFCSは正確な射撃のため、あらゆる情報を必要とする。その情報を得るためにはレーザーなどを照射しなければならない。しかしそれは敵に感知されてしまう。ジレンマだ。

 

 つまり、FCSを起動しロックオンする事は、敵に銃を向け『撃つぞ!!』と叫んでいるような物なのだ。

 

 また、これらの機器はミノフスキー粒子によるミノフスキー・エフェクトを最も大きく受けてしまう機器でもある。相対速度を合わせた対艦戦闘、航宙機を相手取った格闘戦等、両者に大きな運動性能の差、全長の差が無い限り自動は厳しい。

 特に、それが従来の機動兵器の運用思想、運動能力から乖離した、特殊兵器MSの動きを捉える事となれば言うまでも無い。高機動運動をするMSを捕捉する事自体が至難の技なのだ。

 本格的なMSによる対MS戦闘が始まった時、少尉は一番大きな問題となるのがこのFCS関連では無いかと睨んでいた。それが的中した形となり、最悪の形で実証されたのだ。

 

「! ふっ!」

 

 音とメインスクリーンの映像に反応した少尉は、反射的にフットバーを蹴っ飛ばし機体を転がせる。操作を受けた"ザクII"は地面を蹴り、機体を大きく投げ出す様にして回避運動を行った。遮蔽物が無いのなら足を止めるな。ほら、追撃が来る。動け動け、進め進め。脳裏に声が響く。いつの記憶か、コレは…。

……虎の子の兵器である"ザクII"を壊す訳にはいかないため、回避パターンだけは多く練習しといてよかった。少尉はけたたましい電子音と、激しく揺れ、回転するコクピットの中で歯を食いしばり考えた。

 ぎこちなくも、自然な受け身を取る"ザクII"に、転がった事による大きな損傷は見られない。

 少尉がこだわり、追求し続けた回避モーションは実戦において確かに実を結んでいたのだ。……立ち上がる砂煙とフレーム、アクチュエーター、装甲への負担、機体各所に詰まるゴミや砂でおやっさんに痩せるぐらいドヤされたが。

 

 口径120mmという、戦車の主砲にも匹敵する"ザクマシンガン"の吐き出した轟音と閃光が大気を揺さぶり、少尉の"ザクII"が元居た地点を射線が通り過ぎる。放たれた弾丸は猛然と空を切り、遥か彼方の稜線に砂煙を上げ着弾する。

 弾丸はその運動エネルギーを全て吐き出し、そのエネルギーは設計者の想定とは別の形で消費された。

 少尉は唇を引き結び、目を油断無く光らせる。しかし、追撃が来る事は無く、その射撃に正確さは無かった。

──戸惑っているのか?そうだろう。IFF上では味方なのだ。ならば、それを利用しない手は無い。

 

「くっ……!」

《こちらブラボー、援護する……》

《わたしも忘れてもらっちゃあ困りますよ!!》

 

 明らかに動揺し、明確な攻撃行動が取れない"ザクII"に向け、"ロクイチ"が射撃し揺さぶりをかける。

 次々と撃ち込まれる砲弾に、機体を大破させる様な有効弾は無い物の、"ザクII"は大きく態勢を崩した。頭部のモノアイが忙しなく動き回り、その動揺が手に取るように伝わってくる。性能で劣れども、頭数の違いは大きい。それが連携を取っていたら尚更だ。

 少尉の"ザクII"を囮とし、降り注ぐ"ロクイチ"の砲弾は、確実に"ザクII"を追い込んで行く。特に軍曹車輌の攻撃は的確だ。機体各所の動力パイプを千切られた"ザクII"は、ぎこちない動作でしか動けなくなっていた。

 

「喰らえ!!」

 

 そこを姿勢を直した少尉の"ザクII"が、膝立ての姿勢で射撃する。フルオートの衝撃に機体が揺さぶられるが、銃口は敵に向け続ける。少尉は暴れる"ザクマシンガン"を抑えつけ、そのマズルが飛び跳ねる様とするのを防ぐ事に集中した。

 スクリーンの中では、降って湧いた火線を、それでもなお咄嗟に右肩のシールドで受け止める敵の"ザクII"を映し出す。少尉はそれを見て舌を巻いた。やはり敵の方が一枚、いやそれ以上に上手だ。マズい。今の俺にシールドを外して撃つなどという高度な射撃は出来ない。真っ向から撃ち合ったら勝てる確率は限りなく低い。

 湧き水の様に噴き上がり、心を満たして行く焦りに飲み込まれかける中、シールドを抉った跳弾が、敵の"ザクマシンガン"を破壊した。しかし、その様な事にも気付かず、少尉は引き鉄を引き続ける。少尉の頭は、目の前の敵を如何に吹き飛ばすか、それだけに集中していた。

 

「…!」

 

 少尉が制圧射撃で敵を釘付けにした事で、軍曹が動いた。回りこむ気らしい。

 少尉は軍曹に、"ロクイチ"に脇腹を狙わせようと口を開く。その瞬間、目の前で"ザクII"がバックパックから火を噴いた。2度3度と続く衝撃に揺さぶられ、火花と煙を噴き機体を震わせる。

 

「──なっ!?」

 

 何が、と言いかけた少尉の目の前で、"ザクII"がとどめとばかりに背後からの射撃を受け崩れ落ちる。

 

 そこには倒れ込む"ザクII"を見下ろす、もう一機の"ザクII"が立っていた。

 

 噴き上がる煙を掻き分け接近したその"ザクII"は、倒れ込んだ"ザクII"に対し更にとどめの射撃を撃ち込む。

 その様子はまさにプロだった。

 新しく現れた"ザクII"は、無抵抗な敵に弾丸を容赦無く撃ち込み、動作を停止させた。機体の各所をスパークさせ、弱々しく蠢いていた"ザクII"は、それを皮切りにピクリとも動かなくなる。燻る炎と煙、そして思い出したかの様に光るスパーク以外、その残骸が激しく戦闘を行っていた"ザクII"だと言う名残を留める物は無かった。

 

 トドメを確実に刺す。その光景は冷酷な様に見えるが、自分が生き残るには確実で最善の策だ。寝首をかかれ、不意を突かれて数多の優秀な戦士が死んでいった。戦術とは強敵を避ける事である。それは個人に対しても言える事だ。

 旧世紀の大戦でも、死んだふりをする敵を見定めるため死体に銃剣を刺して回ったと言うしな……。

 

「…………」

 

 倒れた"ザクII"を挟み、そのままもう一機の"ザクII"と睨み合う。膝立てから立ち上がった少尉の"ザクII"の左右に、まるで控えるかの様に軍曹と伍長の"ロクイチ"が停車する。威嚇するかの如く仰角を取った主砲は、実際寸分違わず標的を捉えている。

 まるで荒野のガンマンの様だ。少尉は他人事の様に思った。微かに震える手をただ抑え、少尉は頬に汗を一雫垂らした。顎を伝う汗はポタリと音を立て、小さなシミとして膝小僧の生地に消えた。

 

 一陣の風が吹き、煙が晴れて行く。差し込んだ陽の光を浴び、強い逆光の中、目の前に立つ"ザクII"の頭部にはブレードのようなアンテナらしき物が付いており、それが長く影を引いていた。

──俺のにはついていないものだ。新型か?何が狙いなんだ?つーかそのツノカッケーな。俺のにも付けたいわ。

 

 影で殆ど見えない"ツノツキ"の、モノアイだけが強い光を放つ。それはまるで品定めをする死神の様だ。熱気で揺らぐ陽炎が、そのシルエットをまるで嗤っているかの様にグニャリと歪ませた。

 この鋼鉄の巨人は、決して無口では無い。しかし、そんな物、必要ないのだ。そんな物が無くとも、雄弁に物語るのだ。目の前の"ツノツキ"は、今確実に『笑って』いた。

 

──『死神を、3度欺く事は叶わない』そんな言葉が脳裏にフラッシュバックする。

 

「……………」

《しょっ!!少尉!!アレ!!》

《増援……》

 

 その"ツノツキ"周辺に、更に複数の"ザクII"が轟音と共に集結し始めた。"ザクマシンガン"を小脇に抱えた機体、棍棒の様な物を手にした機体、脚の傍に箱の様な物を取り付けた機体と様々だ。

 あたりは砕け散り、焼けつき、ひん曲がった残骸がゴロゴロと散らばり、時折火を噴いては煙を燻らせている。その中を、軽快な足捌きで接近して来るその姿は、只者では無い事を暗示している様だった。

 少尉は絶望しながらも、注意深く敵を観察し、活路を見出そうと必死だった。敵は、"ツノツキ"の腕を見る限りかなりのベテランだ。そして、どんどん集結してくる"ザクII"の総数は、"ツノツキ"含め合計6機になった。この状況下で、ベテランの"ザクII"部隊に敵う術はない。

 仮に一矢報い様とも、銃口を上げる前に蜂の巣にされ、そこらに散らばる残骸の仲間入りとなるだろう。肉片となって。

 

《──しょ、少尉、どう…どうします?》

 

 伍長から震え声での通信が入る。カタカタと鳴る歯の音が耳障りだ。主砲を向けているとは言え、どうすれば分からないのだろう。しかし、少尉もそれは同じだった。

 襲撃を受け交戦を始めたジオン軍に、"ザクII"を倒す"ザクII"。鮮やかな手口、手練れであろう組織行動に、野盗の可能性は潰えた。

──それにしても、判断材料があまりにも少な過ぎる。

 

「……奴らの狙いが分からん。ジオンの集積所を襲撃しているが、ジオンだとしても、俺達を攻撃しない理由がない。"ザクII"に"ロクイチ"。俺なら迷わず攻撃する」

 

 太陽はもう真上を通り過ぎていた。地面に伸びた影が、また形を変えて行く。時は止まる事を知らない。焦る少尉を置いて進んで行く。

 

《……少尉。戦力的にも、不利だ………マシンガンを置き、レーザー通信での呼びかけを提案する……》

「………それしかないな……それしか……」

 

 "ツノツキ"はパイロットの腕だけなく指揮官としても優秀なようだ。殺すとしても、"ザクII"と情報を得る積もりらしい。そのための脅しとしての部隊集結だろう。

 "ザクII"部隊に動きは無い。しかし、通信量が増えている。向こうも対応に窮しているのかも知れない。やるなら今だろう。

 

《で、でも……いや、だいじょぶですね……?》

「……わからん。が、今はこれしかない……」

 

 少尉はなるべく声が震えない様気をつけながら、強張った腕で機体を操縦する。指示を受けた"ザクII"がゆっくり動き、相手を刺激しないように"ザクマシンガン"を置く。機体からすぐ傍の、屈めば掴み取れる位置だ。

 その時相手の背後に砂煙と共に驚くべき物が出て来た。

 

──"ロクイチ"だ。

 

 何故"ロクイチ"が?謎は深まるばかりだ。

 

…だが…あの世に持ってけるものなんて、自分から自分への評価だけだ。決断の時は来た!!

 

「そこの"ザクII"へ!聞こえるか!今からMSを降りる。撃ちたいのなら撃て!」

《ちょっと!!少尉!?》

《……正気か……?》

 

 オープン回線に加え、外部スピーカーで発せられた少尉の言葉に、軍曹と伍長がそれぞれ反応する。しかし、少尉の考えはほぼ決まっていた。

 

 日が傾き初め、まだ煙燻る中へ紅い光を投げかけ始める。惜日は、夕日に終わる。長く影を伸ばし始めるその残光の中、少尉はコクピット解放レバーを引いた。

 圧縮空気が押し出される音と共に、"ザクII"のコクピットハッチが解放される。吹き込む砂混じりの風と強い西陽に目を細めつつ、少尉は"ザクII"のシートから身を乗り出す。砂埃が舞い、少尉の口をジャリつかせた。

 

「それしかない。もし死んだら直様撤退しろ。旅団は任した」

《少尉!!ダメです!!そんなの!!》

 

 インカムから漏れる涙声の伍長を無視し、膝をつく"ザクII"から降りる。

 プラットフォーム代わりの、差し出された掌から飛び降りる時に気づいた。やっべ!俺連邦軍の野戦服じゃん!こりゃ死んだわ………あまりにもちぐはぐ過ぎる!

 

 希望が脆く砕け散り、足元の砂に吸い込まれて行くのを感じた。

 どっと嫌な汗が噴き出し、背筋に悪寒が走る。頬を伝った汗は風に攫われ、蒸発して行くが、軍服の中はそうはいかない。今の少尉には、その嫌な感覚を味わいながら、身体を強張らせる事以外に出来る事は何も無かった。

 ゴクリと唾を飲み込むが、上手くいかずむせかける。極度の緊張に胃はキリキリと痛み、痙攣し、吐きそうだ。足も震えている。酸素が足りない。喘ぎそうになるふらつく体を必死に支え、少尉は両手を掲げ、前を睨みつけた。

 経験こそ浅いが、少尉は攻撃機の元パイロットだ。ここぞという時身体を張るだけの度胸はあった。それこそ、火網とも呼べる対空砲火を潜り抜け、目標に攻撃を加える度胸が。

 

 "ザクII"を降り、両手を挙げた少尉に、正面の"ザクII"がスピーカーで話しかけてきた。一瞬のノイズの後、ビリビリと身体全体を揺さぶる様な音の前、少尉は更に身体を強張らせるが、心は不自然にも落ち着いていた。

──正直うるさい。ボリューム考えてよ!!頭痛いわ!!

 

 そしてその内容も、今の少尉には理解の出来ない不可解なものだった。

 

『貴官の勇気ある行動に感謝する!!貴官と話がしたい!もう一度MSに乗り込み、そこの"TYPE-61 5+"と共について来て欲しい!!』

 

……もう一度MSに乗せる……?……それに……更新したばかりの、"ロクイチ"最新の名称を知っている?

……………何者なんだ?

 

 頭の中に大量の疑問符が飛び交い、ぶつかり合う。頭の中で、その嵐の中に放り込まれた少尉は飛び交う疑問符に打ちのめされオロオロと歩き回り、つまづき転んで思考停止する。

 暫くぽかんと立ち尽くした少尉は、緊張が切れ座り込む。砂の焼ける感覚が懐かしくも感じられ、胡座のまま揺蕩う黒煙をぼんやりと眺めていた。

 

《…少尉……整備班長へ……連絡を……》

「お、あ…うむっ、緊急通信(PAN)で連絡する!」

 

 そんな少尉を、軍曹の冷静な声が現実へと引き戻した。冷水を浴びた様に正気を取り戻した少尉は、ややテンパり、力みつつ反応する。

 震える手でガチャガチャと通信機を弄るが、雑音を吐き出すのみだ。大きく深呼吸し、立ち上がった少尉は膝をつく"ザクII"を見上げて、ゆっくり歩き出した。

 

 未だに状況が全く掴めないが、なんとか"ザクII"へ乗り込みつつ、もう一度大きく深呼吸をする。良く冷えたコクピット内の空気は、少尉の煮上がりかけた頭を冷やして行く。少尉は体の中に流れる血が入れ替わった様な、奇妙な感覚に身震いした。

 考えを巡らせながら"ザクII"を立ち上がらせた少尉は、そのまま稜線へと登り、"ラコタ"を中継にレーザー通信によりおやっさんへ連絡をとる。ミノフスキー粒子濃度は戦闘の影響でそこそこあり、既に長距離無線は不可能だったのだ。

 

《んん!?どうした大将!?緊急通信とはまた……取り敢えず話を聞こう!》

 

 珍しく慌てた様な声で、ワンコールで出て来たおやっさんに、少尉は素直に口を開いた。未だに罠の可能性も無きにしも非ずであるが、通信は入れておいた方がいいだろう。

 口の中がカラカラに乾いていて、上手く舌が回らない。口に手を当て、少し咳き込んだ少尉は、ゆっくりと喋り始めた。

 

「おやっさん……アンノウンとコンタクト、会談を設ける事になりました」

《…………お前は何をやってるんだ?》

 

…………ごもっともです………。

 

「………すみません。それしか無かったんです……ぶっ、物資回収後、"ラコタ"、"ヴィークル"を回収しつつこちらへ来てください……」

 

 絞り出すかの様などもりながらの報告と、おやっさんの心の底から呆れた様な声に、恐縮しつつ少尉は肩を落とす。本当は自分だってよく分からず、説明して欲しい位なのだ。情けない声だって出よう。これ位は許してほしい。

 耳を澄ます少尉に、優しく語りかける様におやっさんは言葉を紡ぐ。それは少尉にとって染み込むかの様だった。

 

《……判った。お前さんを信じるよ。大将。ま、カラ元気も元気、なんて言葉もあるもんさ。気を強く持って、準備を怠らねぇこった。そうすりゃ、風向きも変わるってもんさ》

「……え、あ………」

 

 通信は一方的に打ち切られ、少尉は顎から汗を垂らしながら沈黙する。

 先程までの落ち着きは何処へやら、突如噴き出してきた不安に目は泳ぎ、顔色は青くなって行く。よく考えたら、本隊を呼び寄せたのは不味かったのでは?いや、しかし、でも……ダメだ。考えがまとまらない。少尉の頭は既にパンク寸前だった。

 そのあまりの声の震え具合に耐えかねたのか、軍曹が通信を繋ぐ。

 

《……どう、だ……?》

 

 咽喉マイクを押さえた軍曹は、キューポラから半身を乗り出し、こちらを窺っていた。そして、傍受の可能性を考えてか、小さくハンドシグナルを出していた。

 その意図を汲み取り、少尉は軍曹の冷静さに、漸くちょっとした落ち着きを取り戻し始めていた。

 

《ああああああああああ》

「……ん、あ、あぁ………おやっさんとは後で合流する。だから…今は、流れに任せる」

 

 それだけ言い切ると、少尉は"ザクII"の腕を振り、深呼吸をし少尉は画面を眺める。

 辺りは斜陽が砂漠を染め上げ、稜線に沿い影と光のコントラストを描き出す。少尉は緋色と深紫が、ジリジリと形を変えて行くそれを見る事で、また少しずつ心が落ち着いて来るのを感じていた。

 

《……了解。俺は……少尉に、従う……》

《あわ、あわわわわわばばばぼ》

「伍長……」

 

………そうか、俺は隊長だ。しっかりしなければ……。隊長が部下の不安を煽ってどうするというのだ。

 自分で自分の頬を張り、気がつくとカラカラに乾いていた喉にチューブゼリーを流し込んだ。味こそまだよく判らなかったが、喉に流れ込み、胃に溜まったそれは確実に生きる活力を少尉に与えていた。

 

 それでも、不安は消えて居ない。"ツノツキ"のパイロットがどうであれ、少尉達の命は今完全に握られているのだ。

 心いっぱいを占める不安を胸に、少尉はゆっくりと"ザクII"を歩かせる。伍長にいたっては大パニックだ。あわあわ言ってるし。それに対して軍曹の落ち着き具合がヤバい。潜り抜けて来た鉄火場の場数が違い過ぎる。まぁこりゃターミネーターって呼ばれるわ。

 

 結果として、墜とした物資集積所に踏み込む。焼け跡の火は既に消火されているが、未だにあちらこちらで煙が燻り、焼け焦げた死体が無造作に転がっている。鉄屑が散らばり、それを"ザクII"と"ロクイチ"が踏みつけ均す音だけが響いていた。

 その中を無言で進み、整列する"ツノツキ"の"ザクII"の前で停止する。無言の圧力の中、"ザクII"を膝立ちさせ、関節をロックし機体から降りる。

 

 その脇にはオドオドした伍長、何も変わらない軍曹が並び立つ。ドライバーはまだ"ロクイチ"に乗っけたままだ。いざという時の為である。

 

 眼前の"ツノツキ"も膝をつき、コクピットを開放する。

 プシュッという圧縮空気が漏れる音と共に、"ザクII"のモノアイの光が落ちる。燃える様なオレンジ色の光の中、姿を表したパイロットが手慣れた動作で降り立った。その姿に、少尉の目は見開かれた。見間違いかと思ったのだ。しかし、それは決して見間違いでは無かった。

 

──連邦軍の軍服だ。………しかも佐官。中佐って!!

 

 しかし、現実は少尉に情け容赦無く降り注いで行く。呆気に取られつつも敬礼をする少尉。そんな少尉の眼前で、男はヘルメットを外した。

 返礼を行う目の前の男は眼帯をしていて、顔は眩しいくらいの光の中でも分かるほど傷痕だらけだった。やや年齢を重ねた風貌、顰められた目元、歪んだ様に見える口。顔を跨ぐ傷痕、その中でも特に大きい、頬を横切る様な縫い跡が、少尉脳裏に焼きついた。

 

「俺は地球連邦軍地上軍北米方面軍北米軍特殊作戦コマンド部隊"セモベンテ隊"隊長であり、"ザクII"321号機(コイツ)のオペレーター。フェデリコ・ツァリアーノ中佐だ」

 

 中佐が流れる様に所属を述べる。特殊作戦コマンドは聞いた事がある。"キャリフォルニア・ベース"に居た頃噂になっていた特殊部隊だ。

 少尉は漏れだしそうになる声をなんとか抑え、静かに口を開いた。

 

「……申し遅れました。非礼、お詫びします。私は()、地球連邦軍地球総軍北米方面軍北米軍航空軍戦術航空団第1大隊第3中隊第5小隊所属のタクミ・シノハラ少尉であります」

「ほぉ、"フライング・タイガース"か」

 

 やや声が震えたが、なんとか噛まずに言えた。少尉の言葉に、中佐は片眉を上げ口元を引きつらせさせる。そのまま顎をしゃくり、中佐は先を促した。

 ホッとしたのも束の間、軍曹が口を開き、少尉に続いた。淀みなく応える軍曹こそ、紛れも無い軍人の姿だった。

 

「……同じく、元地球連邦軍地球総軍北米方面軍北米軍機甲軍強襲機甲団第3大隊第1中隊第3小隊所属……ロイ・ファーロング軍曹……」

「おっ、おお同じく!レオナ・ヴィッカース伍長です!!」

「うむ。ご苦労」

 

 3人で挨拶をする。顔こえーよwこの人。海賊船の船長みてーだよ!

 あまりジロジロ見るのは失礼だとは分かっているものの、その顔から視線が外せない。しかし、ボロボロで歪んでいるものの、その目は強い意志の光を静かに讃えている様だった。

 正に、青白い鬼火の宿る髑髏の様だ。

──復讐鬼。そんな言葉が頭を掠めた。

 

 

 

 

「"キャリフォルニア・ベース"撤退部隊?」

 

 中佐の疑問に、少尉は姿勢を正し口火を切った。口を開き、息を吐くと白く煙る。羽織っているフライトジャケットの裾を握り締め、手袋を外した事をやや後悔した。

 耳を傾ける中佐は、意外そうな顔で片眉を釣り上げる。どうやら癖らしい。

 

「肯定であります。"キャリフォルニア・ベース"陥落後、脱出した整備中隊に同行、南米"ジャブロー"方面へ撤退中であります」

 

 日が翳り、少し肌寒くなった中、焚き火を前に中佐と現状の確認を行っていた。第一印象とは違い、見た目に合わずかなり柔軟に物事を理解する人の様で、まさに現場叩き上げと言う印象だ。

 ふむ、と顎に手をやり、中佐は少尉を舐める様にして眺めた。中佐の背は少尉より高い。見下ろし、舐める様な視線を受けた少尉は身体を強張らせたが、それには意を介さず、ぼそりと呟き言葉を続けた。

 

「そうだったのか……撤退とは言いつつも、この進軍…転進とはよく言ったものだ。()るな、貴様ら。それで、あの"ザクII"はどうしたんだ?」

 

 一息つき、背中越しに親指で指した"ザクII"は、赤外線遮断シートをかけられて静止している。その指の動きを目で追い、少尉は焚き火に枝を投げ込む自分の腕から顔を上げた。

 焚き火は火花を散らし、煙を上げて夜空へも吸い込まれて行く。星々の輝きを濁すそれに、目を細めて見上げつつ口を開いた。

 

「……物資集積所を強襲、強奪しました」

 

 少尉は一度俯き、小さく呟いた。

 

「──いけなかったでしょうか?」

 

 そんな少尉を、片眉を吊り上げた中佐が笑い飛ばした。

 

「はっはは!使えるものは使う。それの何がいけない?物量で勝る敵と戦う時は、敵と同じ武器を使うに限る」

「ゲバラ…チェ・ゲバラですか。中佐殿の隊は?」

 

──どこか懐かしさがある。口を開きながら、ふと思った。辺りが闇に包まれ始め、焚き火の灯りがちらつく。少尉はふっと息を吐いた。

 

「はははっ。お前、(オツム)の出来の割には学があるな。同じだ。整備兵がいるだろ?パーツを直して、敵味方識別装置(IFF)を独自な物にする。連邦軍MS部隊はこうやって強くなる。それに、"セモベンテ隊"はMS運用データ採集試験部隊でもある」

「試験、部隊…ですか……」

 

 失礼します、と一礼を入れつつ火に枯れ木を焼べ、中佐の話を聞く。その話には驚きの連続だ。

 MS、それに、運用データ……やはり連邦軍もMSを……。

 

「そうでありましたか……こちらは"ザクII"の運用は素人です。出来ればご指導願いたいものです」

 

 やや強張った声で少尉は告げる。まだ相手の事も全然掴めていない。馬鹿丁寧な物腰もその1つだった。思わず短く息を吐く。

 その言葉に中佐はふふんと笑い、ずいと顔を近づけて来た。少尉はその視線に怯み、顔を強張らせる。頬を伝う一筋の汗に、脇の下を濡らす冷や汗が、風に冷やされ蒸発する。ふとした寒気はそれが原因だと言い聞かせ、少尉は中佐の言葉を待った。

 

「……お前、気に入ったぜ?歳は?」

 

 片眉を上げた中佐の手の中で、ぱきりと枯れ木が小気味好い音を立て真っ二つになる。それを乱暴に火に突っ込みつつ、中佐は顔を歪ませ、口を引きつらせつつ言った。

 最も少尉には、それが笑顔なのだと判断するのに少々の時間が必要であったが。

 

「はっ、今年で19になります」

「よし、ついて来い。そこの2人もだ。………少ししか出来んが、教えられるだけは教える予定だ」

 

 すっと立ち上がり、ズボンの尻を手で払いつつ中佐が言う。

 唇を軽く歪ませたその顔は、揺らめく火に照らされ一層凄みのあるものとなった。まさに幽鬼そのものの様な風貌だ。それは、隣の伍長にひっと息を飲ませるのに足る、凄惨な笑みだった。

 

「はっ、ありがとうございます。……後、提案が一つ……よろしいですか?」

「何だ?言ってみろ?」

 

 少尉が背中に周り、腕に抱き着く伍長の頭をポンポンと叩きつつ言う。その動きに合わせ、軍曹が少尉に手袋を渡す。驚きつつも受け取り、礼を告げる前に、先を歩く中佐はその2人に一瞥もくれず受け答えた。

 沈黙を貫く軍曹は、少尉の傍に控えるのみだ。ただ、極めて自然体に見えて、その身のこなしに全くの隙は無く、動きも滑らかだ。

 格闘を嗜む少尉には判る。軍曹は常にナイフとハンドガンを抜く用意をしていた。

 

「……二二○○(フタマルマルマル)時頃、我々のトラック群がここへ到着します。士官用車には、ユニットバス、レーション以外の食料もありますので、どうかお使い下さい」

「……ふふ、はははははっ。……益々気に入ったぜ。ジオンの野郎共を地球から追い出し、連邦(俺たち)の勝利のため……ありがたく使わせてもらう」

 

 中佐は振り向き、少尉の肩を叩き抱き寄せた。ヘッドロックされる形となった少尉は苦笑を浮かべ、なすがままにされるだけだ。

 そんな少尉の腕に、伍長が頬を膨らませ抱きつき、軍曹はそんな3人を見て微かに鼻を鳴らした。少し離れた位置では、"ロクイチ"のドライバーと他の"ザクII"のパイロット達が所在無さ気に立っていた。

 

「ついて来い。おい!ペンター!ジャクソン!何やってんだ!」

 

 その後、少尉は座学を交えつつ、基本的なOSの設定、モーションマネージャーの更新、機体の調整、MSの戦闘動作、戦闘機動、小隊運用、様々な事を詳細に学ぶ事が出来た。

──これは、我が旅団にとってもかなり大きな収穫となるだろう。特に対MS戦闘演習は、我々に一筋の光明をもたらした。敵を知り、己を知らば、と言うヤツだな。

 

 MSと言うものに可能性を見出し、目の前まで持ち上げた右手を握りしめつつ少尉は空を見上げた。

 

 その空を、一筋の箒星がキラリと輝き、煌めく尾を引きつつまだ光の残る西の空へと溶けて行った。

 

 

 

 

 

 

 時間は矢の様に、飛ぶ様に過ぎ去り夜になった。そろそろ時間だ。おやっさんはどういう顔をするだろうか?

 少尉は地平線に見え始めた砂煙に想いを馳せる。帰るべき場所はすぐそこまで来ていた。、

 

「大将!!来てやったぞ!例のアンノウンとやらは!?」

 

 砂煙を上げ疾走するトラックの窓から、身を乗り出したおやっさんが手を振りつつ怒鳴る。それに少尉も両手を振りながら怒鳴りかえした。

 

「おやっさん!地球連邦軍の中佐殿です!」

「ほぅ、これがそのトラック群か。中々の物だな」

 

 少尉の隣では中佐が腕を組みつつ、目の前で停車したトラックを見上げて言う。その目は品定めをする様に鋭く光り、まるで獲物を見つけた猛禽の様だった。

 直様整備兵達が飛び出し、野営の準備を始める。その一糸乱れぬ動きに唸る。テキパキと進む作業を背に、少尉は小さく頬をかいた。

 

 トラックから降り立ったおやっさんと無事合流し、おやっさんと中佐の2人が顔を合わす。

 体にまとわりつく砂を軽く払いながら、おやっさんが物怖じせず切り出した。

 

「お前か、その中佐殿って奴は」

「!………お話は伺っております。整備班長」

「!!」

 

 おやっさんの態度と、中佐の変貌具合に固まる少尉。口を半開きにした少尉に、おやっさんが怪訝な顔を向ける。

…………いや、そんな目で見られても………。

 

「ん、どったんだ大将?」

「い、いや……」

「んだよ。変な奴だな……」

 

 おやっさんなにもんだよ!!厳つくて顔中傷だらけの中佐が頭下げてんぞ!?

 

「光栄ですな。こうして"神の腕"と再び顔を合わせられるとは…」

「よせやい。話は聞いた。補給も任せろ。トラックも是非使ってくれ。使うのが俺だけじゃぁな。……今夜は一杯と言わず付き合って貰うぞ」

「恐縮です。ではなタクミ少尉」

「はっ」

 

 おやっさんと中佐が連れ立ってトラックへ入っていく。やっと肩から力が抜ける。はぁ、疲れた。

 

「少尉ぃ!!怖かったですぅ!!」

 

 隣でずっと固まっていた伍長が泣きついてくる。あの後の演習中も怒鳴られっぱなしだったしなぁ。ずっと半泣きの顔してたし。

 

「…よく生きてましたね……わたしたちって…」

 

 伍長が、思い出したかの様にボソリと呟く。

 

「それ生きてる人に言うか?」

「生きてるから言うんですよ?」

 

 少尉の呆れ混じりの返事に、伍長はギュッと目をつむりながら答えた。

 火が燃え、歓声が上がり始める中、少尉は溜息をついた。

 

「……お疲れ様。軍曹は?」

 

 大きく伸びをした少尉は、伍長にゆっくり向き直った。伍長は奥の焚き火を指差しつつ、明るい声で告げた。

 

「向こうで他の"ザクII"、"ロクイチ"に乗ってた人と飲んでますよ。私お酒ダメだし、皆してからかってくるからここにいます~」

「……まぁ珍しいしな、女性の戦車兵は…」

 

──それ以外にもあるだろうが。なんたって伍長だし。

……つーか整備兵含め全員酒盛りして、既に出来上がってんだよな。

 これを、戦場のど真ん中でやるっていう度胸がヤバい。とても真似出来ん。

 

 そして素面未成年の2人には辛い。

 

「少尉、どーします?」

 

 伍長が腕に抱き着きながら聞いてくる。

 どうって…?いや、設備も来たし、"ザクII"の調整でもしようと思ってたんだが……。

 

「もうシャワー浴びて寝たら?」

「いいいや、ほ…ほら、せっかくだしお酒とか飲んでみようかなーって思いまして……少尉もきょーみ無いんですか?」

 

……さっき酒ダメって言ってなかった?

 

「この際年齢なりなんなりは置いといて…ま、いいんじゃないのか?明日に響かない量だったら。俺は飲まんが」

「何でですか!それじゃあ意味がないですよ!」

 

 伍長は腕をぶんぶん振りつつ地団駄を踏む。なんで?飲むなとは言ってないじゃん。飲みたきゃ飲めばいいじゃん?

 

「……何を飲酒に求めてんだよおまいは」

「……少尉は分かってないです……」

 

 分かんねぇよ。分かりたくもねぇ。

 

「……はぁ、全く……」

 

 諦めて周りを見渡す。酒盛りは既に佳境に入っている。あちらこちらに焚かれた焚き火に、皆が好き勝手集まり酒を飲んでいる。正直距離を置きたいんだが……酒は人を変えるからなぁ……。

 

「少尉!飲まねぇのか!?」

「飲みませんって」

 

 整備兵の一人が酒瓶を振り上げつつ呼ぶ。ほらコレだよ。未成年にお酒をためらいもなく勧めるなや。全くもう。

 

「なら伍長はどうだ!ホレ」

「伍長、勧められてるぞ?」

「そーゆー事じゃないんです!もう!」

「じゃあどういう事なんだよ……」

 

 探す声が聞こえるので、こっそり抜け出そうとする。

 

………が!

 

「タクミ!おら!こっち来い!!」

「そうだ!命令だタクミ!そこの泣き虫小娘もだ!」

 

 その声に、少尉のこめかみに一筋の汗が伝う。それが少尉の胸中を雄弁に物語っていた。

 

──やっべぇのに目ぇつけられちまった!!伍長!俺の背に隠れるな!!あの2人メッチャ酔ってる!!めっちゃ肩組んでる!!めっちゃ楽しそうでいいけど!!中佐!笑い過ぎで眼帯ズレてる!!あっヤバげ、奥で軍曹以外潰れてる!!毛布かけてあげてる軍曹マジイケメン!!じゃなくて!!

 

「は、はい!なんでございm…」

 

 2人の囲む焚き火に、肩をすぼめつつ座る少尉。既に雰囲気に呑まれつつある。そんな少尉に、まるで銃の様に酒瓶を突きつけた中佐が吼えた。

 

「飲め!!」

「えっ?いや、あの……」

「……飲めねぇのか?俺の酒が?」

 

……こえーから顔近づけないで!!伍長また涙目だよ!!と言うかアルコール臭が!!

 

「いっ!いえ!そんな事は決して……」

 

 慌てて首と両手を振りつつ後ずさる。しかし、そう長くないイスは、少尉の逃げ場など作ってはくれない。あっという間に端まで追い詰められた少尉は、ダラダラと滝の様な汗を流していた。

 ここは断ると後々マズい。だがこの雰囲気に持ってかれた時点でほぼこちらの負けだ……。あぁ、空はあんなに星が綺麗なのに……。

 

 目を逸らし、現実逃避を始めた少尉に、中佐は突然真顔になり、打って変わって冷えた声で喋りだした。

 

「……生き方を考えるのは重要だ。若いの。だが、それは休み方を知るのもまた同じだ」

「中佐?」

 

 少尉は呆気にとられ、その顔を覗き込む。

……生き方?どう言う事だろうか?俺は今生きて呼吸している。それ以外にあるのか?必死に生きてこそ、その生涯は光を放つ、とは、誰の言葉だったか。『あなたは、自分の人生を生きるために生まれてきた』と声をかけてくれたのは、誰だったか。

 

 目を瞬かせる少尉に、中佐は片眉を上げて怒鳴った。

 

「おらっ!『島国』出身だかなんたが知らねぇが飲めぃ!!」

「ええ?え、ええ……分かりました……なら、一杯なら……」

「レ~オ~ナ~!!出て来い!お前もだ!!」

「ひぃ~」

 

 コップを渡され、身体全身を強張らせる少尉の背中に、伍長が再度へばりつく。中佐、顔が近いです。そのアルコール臭だけでもうお腹いっぱいです。

 

「あの無口野郎は?あいついい腕してたな!スカウトしたいくらいだ!!」

「戦力の要なのでご容赦いただけます!?」

 

 中佐のコップに酒を注ぎ、どうぞどうぞと勧めつつしっかり否定する。ここはもう酔わせ切り、無効化を狙う!!明日明後日の未来など知った事か!!今が正念場じゃ!!

 

「ならタクミ!お前だ!お前はスジがいい!絶対いいオペレーターになれるぜ!?」

「うははははっ。さっすが中佐!お目が高いな!」

「お褒めに預かり光栄ですが……」

「少尉はダメれすー!」

 

 中佐と少尉の間に伍長が回り込む。既に顔は真っ赤で千鳥足だ。おい、急性アルコール中毒で死んだりすんなよ?

 

「何だ泣き虫?お前はいらない。だが今は飲め!」

「少尉はダメなのー!!」

「伍長?大丈夫なのか?」

「……うふふ………」

「こいつ一滴も飲んでないぞ」

「場酔いでこれなんです!?」

 

 空のコップを両手で持って絡んでくる伍長は、目がクルクルと回っていた。あ、コレダメなヤツや。脳の代わりに夢が詰まってら。

 

「……少尉、大丈夫か……?」

「軍曹!いいところに来た!」

「……分かった、飲もう…」

「ゑ"?」

 

……唯一頼りにしていた救いの手は、その手に酒瓶を持って来ていた。おやっさんは火に瓶を投げ入れ、手を叩き爆笑している。

 素っ頓狂な声を上げた少尉に軽く手を挙げ座り込んだ軍曹だが、確実にカバーポイントに入り、積極的に酒を飲み注いでいる。少尉としては助かるが、ただ飲みたいだけなのかそんなに飲んで大丈夫なのか不安だらけである。あ、手の中のコップをひったくられた。飲まなくて済んだ。

 

「…愉快な事を…理解できない、人間に……世の中の…深刻な、事柄が……理解出来る、はずが…無い……」

「え?」

 

 酒を注ぎ、酒を仰ぎながら軍曹が静かに口を開く。おやっさんと中佐は新しい瓶を開ける事に夢中で、伍長は肉汁を滴らせる腿肉に夢中だ。

 軍曹はゆっくり少尉に向き直った。その深い思慮が感じられる、深い海の、朝凪の水面の様な冷めた目は、炎を反射し金色に見えた。

 

「……彼も、判っている。人生、最大の…教訓は、愚かな者達で…さえ…時には、正しいと知る事だ……」

「………」

「…過去を…より遠くまで、振り返る事が出来れば……未来も、それだけ、遠くまで…見渡せるだろう」

「軍曹……」

「……それだけだ。今は……な。言葉足らずな、俺に…これ以上、恥を…かかせんでくれ。少尉……」

 

 焚き火が大きく燃え上がる。それが手にしたグラスに映るのを、少尉はボンヤリと見ていた。

 

「そうだ!飲め!うはははは!」

「あはははは!連邦の勝利を願って!!カンパーイ!!」

「カンパーい!!」

「……乾杯…」

「か、かんぱーい…」

 

 背中に重みが寄りかかり、思わず少尉はフラついた。

 

「少尉ものもーよーおいしーよー人生は楽しんでなんぼだよー?」

「……そうだな。人生は、楽しんでこそ意味が出て来る……って伍長適応するの早いよ!!もはや恐ろしいよ!!」

「おう小娘イケる口か?!飲め飲めはははははっ!」

「うははははっ!」

「こーらのむー!」

 

 中佐の言葉と、軍曹の目が、少尉の心に小さな波紋を作る。だが、それはすぐにかき消されて行く。

 

……………──夜が、夜が終わらん!!更けていくだけだ。助けてくれ!!マジで!!比較的マジで!!上司の悪酔いってシャレにならん!!帰りてぇ!俺の戦場はここじゃない!!

 抱きつくな伍長!よだれ!そして寝るな!!そこの酒飲み3馬鹿は飲み比べでイッキするな!死んだらどうする!!たーすーけーてー!!

 

 焚き火が燃え上がり、声が上がる。そんな酒池肉林の坩堝の底、コップの酒をチビチビ飲みながら心の中で叫ぶ。

 

 

──この(うみ)は、地獄だ………

 

 

『いい朝は、いい酒が知っている』

 

 

明るい夜は、更けて行く………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 




酔うとなんであんな人って変わるんだろね?見てる分はいいんだけど………絡むのはマジで勘弁して欲しいわ。未成年に酒勧めるなっての。

連邦軍って上はグダグダに腐って、下はひゃっはーしてるよね。ジオンもっつーかガンダムの軍隊だいたいそんな感じだけど。真っ赤な軍服でマスクと尖ったヘルメットしてる奴もいるし。

今回セモベンテ隊と会いました。これからも色々会うかもしれません。

正直めっちゃセモベンテ隊の隊長大好きです。もっと活躍して欲しかったっつーかもと戦車兵だっていうし誰かスピンオフしてくれ。

次回 第十二章 反撃の牙

「なぁに、却って耐性がつく」

お楽しみに!!

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